『さァいよいよラスト!! 雄英1年の頂点がここで決まる!! 決勝戦!! 轟!
ズア! キィィィイン! パキパキパキパキ……!
雄英体育祭、1年生ステージの決勝戦が始まった。開幕直後、轟が特大の氷結を放つ。その規模はスタジアム上部まで届くほどだった。
『いきなりかましたあ!! 爆豪との接戦を嫌がったか!! 早速優勝者決定か!?』
「なんてデカさ!? もう決まっちまっただろこれ!」
「(いや、瀬呂君戦ほどの規模じゃない!)一撃を狙いつつ……
ボゴン! ドウン!
「何だこの音?」
「試合場から聞こえてくるみたいだけど……」
BOOOM!!
轟音を響かせて氷塊が割れ、中から勝己が現れた。
「爆発で氷結を防いでモグラみてえに掘り進めたのか!」
「んなケッタイな!?」
観客の声が沸き起こる中、轟が再び右手を振りかざす。それを読んでいた勝己は爆破で一気に距離を積める。
「(強い『個性』故に、攻め方が大雑把だ!)」
距離を詰めた勝己は
ボウ!
「ぐっ!?」
掴もうとした瞬間、轟の左半身から炎が発生した。掴もうとしていた勝己は空中で瞬時に方向転換して炎を回避、一旦距離を置いた。
『轟、緑谷戦で使った炎を遂に決勝戦で解禁したーーー!!! これで一気に優勢に立つかーーー!? それにしてもやっぱりズリぃよなーーー!』
『……どうやら多少は吹っ切れたようだな……』
攻撃を回避した勝己は笑みを浮かべていた。この体育祭で出久との試合でしか炎を使わなかった轟が遂に両方の力を、本気を出したのだ。『完璧な優勝』を目指す勝己にとって、轟が全力を出したことは望み通りの展開だった。
「ようやく本気を出すってか! 面白え! てめえをぶっ倒して、俺が優勝する!!!」
「……今まで、全力出さずに悪かった。俺も、本気で勝ちに行く……!」
「おい、轟が初っ端から炎出したぞ!」
「これどうなるんだ!?」
「緑谷、八百万! お前らどう見る!?」
上鳴・瀬呂が声を上げ、それに続いて切島が出久・八百万に問いかける、今大会における2人の分析の精度は非常に高く、1ーAの中でも評価されていた。
「そうですわね……。まず轟さんに関して、右側の冷気と左側の熱、どちらも広範囲に攻撃できる強力な個性です。その2択を迫れるだけでも脅威です。それに緑谷さんとの試合の時にお話ししたように右側の冷気による行動制限が左側の熱で解消されるので、動きの部分でのデメリットもほぼなくなります。一方、爆豪さんの個性も強力ですが、轟さんほど遠距離までは攻撃できないので接近する必要があります。そこで左右の2択を迫られると考えると、おそらく……轟さんの優勢だと思います。しかし……」
「しかし? なんかあるのか?」
瀬呂は首を傾げた。ここまでの八百万の分析は皆が頷けるものであり、その通り轟が勝ってしまうのではと思ったがどうやらそう簡単ではないらしく、八百万の濁した先が気になった。
「轟君に比べたら確かにかっちゃんの個性は射程距離は短いけど、その分小回りが効く。機動力の高さと反応速度が合わされば接近するチャンスは十分にあると思う」
「確かに……あの動きの鋭さは脅威的だ。相性が悪いとはいえ、
準決勝で敗れた常闇が実感を持って勝己の強さを語る。黒影を相手に空中で動き回って圧倒できるなど1年生では他にいないのでは、と思わせるほどだった。
「つまり、轟の攻撃を掻い潜っていかに爆豪が近づけるか、ってことだな!」
「あんた本当にわかってる?」
能天気にいう上鳴に耳郎がツッコミを入れる。その様子に苦笑しながら1ーA生徒は試合の行方に目を向けた。
「行くぜオラあ!」
「……はっ!」
キィィィイン! パキパキパキ……!
猛然と突っ込んでくる勝己に轟が氷結を放つ。勝己は速度を緩めずジャンプでそれを避けるが、それを待っていた轟は左手の炎で勝己を迎撃する。しかし、さらにそれを読んでいた勝己は空中で素早く方向転換を行い炎を避け轟に接近する。
「ようやく近づけたぜ! オラあ!!」
「くっ!」
近づいた勝己を退けようと轟は右手を振るうが、勝己は身を捻りながら躱し左手で轟の腹部を強打する。が、同時に轟も左手で炎を出しながら伸ばし、勝己の左腕を捕まえようとする。
ボオオオオ! ガッ!
「なっ!?」
「ぐっ!! 流石に熱い!」
轟は目を見張った。炎を纏った自身の左手を勝己は右手で掴んでいたからだ。普通なら避けるはずの炎を恐れず、それどころか素手で掴んでくるとは轟も予想できなかった。
「俺の手の皮は厚いんだよ!! オラあ!!」
「!? ぐあ!?」
掴んでいた左手を振り払い、その動きに合わせて左足で蹴りを放つ。喰らった轟は衝撃で後方に飛ばされる。
『何つー試合だーーー!? どちらも一歩も引かねえ!! 意地と意地とのぶつかり合いだーーー! おめえらこれが見たかったんだろお!? もっと盛り上がれーーー!!!」
ワアアアアアア!!!
目まぐるしい攻防にプレゼント・マイクの実況にも熱が入り、それを受けて観客のボルテージもさらに上がる。おそらくは1年生ステージとしてはここ数年でトップクラスの盛り上がりだろう。
「今、爆豪が轟の左手掴んでたよな!」
「なんであいつ炎平気なんだよ!?」
上鳴と峰田が同時に声を上げる。普通なら避ける炎を逆に掴みにいったのだ。轟ならずとも驚くのは無理もなかった。
「かっちゃんの個性『爆破』は掌で発動させるから、その部分の皮膚が硬く厚くなってるんだ。普段の爆破の際に熱も発生して慣れてるから、轟君の炎にも多少耐えられるんだよ」
「なるほど、あいつその辺も見越していたのか!」
「とはいえ、高温の炎を纏った腕を掴むのは生半可な覚悟ではできない。奴の執念が上回ったということか」
出久の説明に砂藤・常闇が驚嘆の声を上げる。戦闘における勝己のセンス・嗅覚は並外れたものがあったが、体育祭という舞台でも遺憾なく発揮されていることに観戦する1ーA生徒全員が感心していた。
「それにしても、爆豪の動きやべえな!接近すると轟が防戦一方じゃん!」
「それは、たぶん轟君側の原因もあると思う……」
「轟側の? どういうことだ?」
出久の言葉に切島が質問する。
「轟君、これまで戦闘では炎を使ってこなかったんだ。個性自体は鍛えていたから威力は高いけど、精度の面で
「加えて申し上げますと……先ほど左側の冷気のデメリットが無くなったと申し上げましたが、それでもこれまでに左右を同時に使うことがなかったので、体温の急激な変化にまだ身体が慣れていないため動きに遅れが出ているのです」
「なるほど……強すぎる個性ってのも大変なんだな」
「あんた自身も放電しすぎてウェイウェイ言ってるでしょうが!」
「そ、そうだったな……」
「となると……ここから先は爆豪の独壇場ってわけか……」
「……いや、そうでもないんだよ」
「え? デクちゃんどういうこと?」
「たぶん……」
出久がそう言って試合場を指差すと、先ほどまで鋭い動きで轟の攻撃を掻い潜っていた勝己がなかなか懐に入れなくなっていた。心なしか移動の際の爆破も小さくなってきていた。
「緑谷どういうこと? 爆豪さっきまでキレッキレだったじゃん!」
「さっきも個性の限度・限界について話したと思うけど、当然かっちゃんにも限界あるんだ」
「そうなのか!? あいつの個性は動けば動くほど強力になるんじゃないのか!?」
「確かにかっちゃんの個性は掌から出る汗がニトログリセリンみたいな物質で、それを爆破させてるんだけど……爆破の衝撃に掌が耐えられなくなってくるんだ」
「それが、爆豪の限度……」
「今日は午前の障害物競走・騎馬戦、午後のトーナメントをコスチュームなしで個性を使ってる。途中休憩はあるけどそれでもここまで酷使することってなかったから、そろそろ限界だと思う」
「お互い満身創痍ってとこか……。そうなると決着も近いかもな」
「かっちゃん……! 轟君……!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――
Side:Katsuki
……クソが! こんだけ長い時間個性を使ってきたら流石に手が痛え……。これ以上は流石に保たねえ……!
轟の野郎も、左側を使い慣れてないんだろう……威力は高えが精度が悪い。それに……動きも鈍い。おそらく体温変化に身体が追いついてない……こいつもそれがわかってるんだろう。
「轟、てめえもう限界だろう……」
「……爆豪こそ、最初より動き悪いぞ……」
チッ! バレてやがる……。流石に誤魔化せねえか。となれば……。
「だったらどうする? 一発逆転に賭けてみるか?」
「……」
表情は変えねえが意図は伝わったみたいだな……。
『さあ、両者共に肩で息する疲労困憊の状況だーーー!!! 果たして、いつ決着はつくのかーーー!!!』
お互い、次がラストだ!
行くぜ!!
ダッ!
俺が全力で駆け出すと、轟は両方の個性を発動させ右側には冷気、左側には熱気が漂って周囲の空気が白みを帯びてくる。デクん時の特大の火力か! 面白え! 全力でぶつけてみろ! 俺も特大をお見舞いしてやるぜ!!
ダンッ!! BBBBB……! ギュルルルル!!!
キィィィイン!! ブワッ!
右足で踏み切って跳躍し、両手で個性を発動させて錐揉み回転を始め、だんだん加速していく。轟も個性の出力を上げ、空気がさらに白くなっていく。
「2人とも負けるな! 頑張れ!!!!」
観客席からムカつくクソデクの声が聞こえてきた! ああ、そうだ! 俺は、俺達は勝つためにここにいるんだ!! 俺の前に!
「
「はあ!」
カッ!! ドオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!
―――――――――――――――――――――――――――――――――
Side:Shoto
……強えな、爆豪。
……そんなことに気づかなかったなんて……。
いや、試合中に考えることじゃねえな。左側を使い慣れてねえせいか、身体の動きが良くねえ。……もう後がねえな。
爆豪を見るとあいつも肩で息をしてる。
「轟、てめえもう限界だろう……」
「……爆豪こそ、最初より動き悪いぞ……」
見透かされちまってるな……。
……? 笑った? ……そうか、あいつも限界が近いんだな……。
「だったらどうする? 一発逆転に賭けてみるか?」
「……」
なるほど……次が最後の攻撃になるな。
爆豪に……皆に失礼にならないように、今俺が出せる全力でぶつかる!
『さあ、両者共に肩で息する疲労困憊の状況だーーー!!! 果たして、いつ決着はつくのかーーー!!!』
ダッ!
爆豪が駆け出してくる。俺はほとんど動けねえからありがたい……。これが最後の一撃だ。緑谷の時みたいに左右の温度差で……。
ダンッ!! BBBBB……! ギュルルルル!!!
爆豪がスピードそのままにジャンプして回転してきた。……すげえな。勝つためにいろんなこと考えて……技生み出して……。今の俺にはこれしかできねえが……!
キィィィイン!! ブワッ!
くっ! これは……抑えきれねえ! 下手したら爆豪が……!
「2人とも負けるな! 頑張れ!!!!」
緑谷……!! ……そうだよな! ここで引いちゃダメだよな!
ありがとう、緑谷! 爆豪!
「
「はあ!」
カッ!! ドオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!
―――――――――――――――――――――――――――――――――
『っかーーーーー!!? なんっっっっって威力だよ……! 爆豪、麗日戦で見せた特大火力に勢いと回転を加えまさに人間榴弾!! 迎え撃つ轟は緑谷線での超爆風を撃った!! 果たして……! ミッドナイトさーーーん!!』
出久と轟との試合以上の衝撃がスタジアム中に広がり、土埃が宙を舞う。放送席のプレゼント・マイクがミッドナイトに結果の確認を求める。試合場横のミッドナイトは土埃が収まるのを待って2人の状況を確認する。
「これは……両者場外! 2人とも気絶してる! 早く担架を……! ビデオ判定を行います!」
『おおっとーーー! まさかの両者場外! 2人の技が凄まじい威力だったことがわかるぜーーー! そして、勝者は常に1人! 先に場外に出ていた、つまり地面や壁に触れていた方が負け、そうでない方が優勝だーーー! 結果は
プレゼント・マイクの声に反応して会場のモニターに2人の衝突時の映像が、どこにこれほどのカメラがあったのかと思うほどさまざまな角度で映し出される。映像はスロー再生されながらCGによる補助線も加えられ2人の身体の向き・位置・吹き飛ぶ速度などが表示される。会場中が固唾を飲んで見守る中、ついに判定が下る。
「映像判定の結果、轟君が先にスタジアムの壁に触れていましたので轟君場外!! よって……爆豪君の勝ち!!」
『以上で全ての競技が終了!! 今年度雄英体育祭1年、優勝は……A組・爆豪勝己!!!!』
ワアアアアアアア!!!!! パチパチパチパチパチ……!
決勝を戦った2人がまだ目覚めない中、その健闘を讃える歓声と拍手は長く響き渡っていた……。
「それではこれより!! 表彰式に移ります!」
「なんというか……」
「上位勢の表情があんまり……」
「嬉しそうに見えないね……」
「勝敗が場外決着だからあまり納得してねえみたいなんだよ……暴れこそしてねえけどな」
ミッドナイトの合図で1位から3位までの生徒、3位は2名で合計4人が表彰台に案内される。普通は優勝者は喜びの表情を見せるはずなのだが、勝己は目を90度以上に吊り上げる
「3位には常闇君ともう1人、飯田君がいるんだけどちょっとお家の事情で早退になっちゃったのでご了承くださいな」
「飯田ちゃん、ハリきってたのに残念ね」
「……」
蛙炊の言葉に出久は言葉を返すことはできなかった。
『麗日君、緑谷君……突然だが、僕は早退させてもらう。兄が敵にやられた』
「(インゲニウム……飯田君のお兄さん。無事でいて……)」
ヒーロービルボードチャートでも上位常連、支持率も人気も高い模範的なヒーローであるインゲニウムはヒーローオタクである出久にとっても当然愛すべきヒーローの1人である。飯田は普段から兄を尊敬していることを公言して憚らなかった。そんな尊敬する兄が敵にやられたのだ、冷静ではいられないだろう。出久は直接会ったことはないが、インゲニウムの無事を祈らずにはいられなかった。
「では、メダル授与よ! 今年メダルを贈呈するのはこの人!」
出久の想いをよそに表彰式は進んでいく。ミッドナイトの声に反応して上空から彼がやってきた。
「私がメダルを持って来た!」「我らがヒーロー、オールマイトォ!!」
タイミング悪く、登場と紹介が被ってしまった。それでも気を取り直してメダル授与を執り行っていく。
「今年の1年はいいよなァ」
「オールマイトに見てもらえてんだよなー」
「常闇少年おめでとう! 強いな君は!」
「もったいないお言葉」
「ただ! 相性差を覆すには『個性』に頼りっきりじゃダメだ。もっと地力を鍛えれば取れる択が増すだろう」
「……御意」
賞賛とアドバイスを伝え、オールマイトは常闇を抱き締める。言われたアドバイスは常闇自身も感じていたことであり、常闇は一層の努力を誓った。
「轟少年、おめでとう。決勝戦は惜しかったね。それまでは左側をなかなか使わなかったけど、ワケがあったのかな」
「……自分自身で意地みたいな誓約を課していました。ただ、それじゃあ体育祭を戦う皆に、雄英に通う皆に失礼だと……緑谷に気付かされました。あなたがあいつを気にかけるのも、少し分かった気がします」
そう語る轟の表情には午前までの剣呑さはなかった。ただただ、自分の夢に真っ直ぐに進もうとする輝きがそこにはあった。
「俺もずっと……あなたのようなヒーローになりたかった。ただ……俺だけ吹っ切れてそれで終わりじゃ駄目だと思った。清算しなきゃならないモノがまだある」
「……顔が以前と全然違う。深くは聞くまいよ。今の君ならきっと清算できる」
常闇同様、ハグをしてオールマイトは轟を激励した。
「さて、爆豪少年!! 優勝おめでとう!! だが、浮かない顔をしているね。有言実行を果たしたというのに、何か気に触ることでもあるのかな?」
「……勝敗が判定勝ちってのが納得いってねえ……! だが、ルールで決まってるし決勝で全力が出したこいつに文句言うのは筋違い、俺にもっと圧倒できる力があればこんなことにはなってねえ……それがわかるからムカムカしてんだ……!」
完全決着とならなかったことに納得がいってないが、ルールにも轟にも文句を言うことができず、己の実力がまだまだ足りないという結論に達して1人悶々としていたのだ。
「なるほど……。確かに勝負は時の運、少し変われば確かに順位は変わっていたかもしれない。しかし、君はそのことを自覚しさらに自身を向上させようとすでに前を見ている。なかなかできることではない。メダル受け取っとけよ。今日のことを忘れないための記念碑として!」
「……いつかアンタを追い越してみせる、必ずな!」
「ああ、その日を楽しみにしてるよ!」
そう言ってオールマイトは先の2人同様勝己をハグしようとしてが、拒まれてしまい代わりに最中をポンと叩いた。
「さァ!! 今回は彼らだった!!」
オールマイトが会場全体に向けて声を上げる。
「しかし皆さん! この場の誰にも
そこまで一息で言い終えて、腕を高高く上げて天を指差す。
「てな感じで最後に一言!!」
オールマイトの言葉に会場全体が『あの言葉』を脳裏に浮かべて声に上げる準備をする。
「「「プルスu『おつかれさまでした!!!』ウル……えっ!?」」」
「そこはプルスウルトラでしょオールマイト!!」
「ああいや……疲れたろうなと思って……」
最後の最後で締まらなかったが、こうして雄英体育祭は幕を閉じた。
というわけで、雄英体育祭編終了です! 少し幕間っぽい話にしようと思いますが、ここまでお付き合いいただきありがとうございました! 今後は職場体験編が始まりますね! どんどん物語が進みますが、私の執筆時間は確保できるのでしょうかwこれからも応援よろしくお願い致します♪