Side:Izuku
「え、えええ……」
オールマイトの先生、グラントリノさんの事務所に着いてOFAを撃ってくるように言われ、開いてる部屋でコスチュームに着替えようとスーツケースを開けたところ、修繕されたコスチュームとその取扱説明書を見て困惑してしまう。
『緑谷様へ
修繕にあたり体育祭での緑谷様のパフォーマンスを観戦・分析しました。その結果、脅威的なパワーや衝撃に耐えられるようより強靭かつ軽量な材質に変更、動きやすくなるようデザインも見直して密着感を従来より高めました。これにより緑谷様の強く美しく鍛えられた肉体を存分にアピールできます! 絶対に似合いますので! 弊社一同、応援していきます!』
「素材を強くしてくれるのはありがたいけど……これちょっと薄すぎない? 麗日さんや蛙炊さん、芦戸さんみたいにピッチリしてるんだけど……」
サポート界は発目さんみたいな人ばかりなのかな……。応援してくれるのは嬉しいけど、圧をものすごく感じる……。
「おーい、いつまでかかるんだー!」
「す、すみません! すぐ行きます!」
なにはともあれ、母製スーツβ……βなのかな? もう素材的にはγとかδ辺りまで来ているのでは? ……ともかく、初陣だ!
「お待たせしました。よろしくお願いします」
「やっと来たか。年寄りをあまり待たせ……」
僕を見たグラントリノさんの動きが止まる。どうしたんだろ?
「ミッドナイトやMt.レディ達のようなプロはともかく、最近はヒーロー科の生徒もそんなパツパツスーツなのか? 若い娘が着るのはあんまり感心しな「僕だって、こんなにピチピチスーツは着たくなかったですよ! でも、修繕に出していたやつを今日初めて見たら勝手に素材やデザイン変更されちゃってて! しかも善意で応援されちゃってるから断るのも難しいんですよ!」
「お、おう……なんかすまん」
「あ、こ、こちらこそ急に大声出してすみません……」
流石に好き好んで着てるとは思われたくなかったから声を荒らげちゃったけど、やっぱりグラントリノさんから見ても目立つんだね……。どうしようかな? 職場体験終わったら再度デザイン変更依頼しようかな? でも、あの説明書の感じじゃ全然取り合ってくれなさそうだし……。
「あー、考え事してる途中悪いがそろそろ始めようか」
「あ、すみません! つい癖で!」
「まあいい。それじゃあ、撃ってこい」
「ほ、本当に良いんですか……? 正直まだ完全に使いこなせてないし、もっと開けた屋外の方じゃないと……もしうっかり100%で撃っちゃったりしたら……グラントリノさんの身体が……」
もしOFA100%が暴発したらこんなオンボロ事務所吹っ飛んじゃうよ!
「やれやれ……ウダウダとまァ……」
グラントリノさんがジェスチャーしながらそう言って……。
ダン! ダン!
「じれったいな」
「え?」
姿が見えなくなったと思ったら後ろから声が!?
ガッ!
「ぎゃっ!!?」
攻撃!? 殴られた? 蹴られた? いや、それ以前に……!
「撃つだけじゃないんですか!? 実戦形式!?」
いきなりの実戦! こういうところは確かにオールマイトの先生なのかも!
「さっきので俺の実力が見えなかったか?」
グシャ!
壁や床を跳ねて電子レンジを潰しながら着地する。頑丈な電子レンジをあんなにぐしゃぐしゃに!
「9人目の継承者がこんな湿った女とは……オールマイトはとことんド素人だァな」
「……っ!!」
オールマイトが悪く言われているけど、彼はオールマイトの先生だったから学生時代のオールマイトを知ってる。それに僕が不甲斐ないのは間違いない。頑張らなきゃいけないのに……!
ダン! ダン! ガッ! ガッ!
「ぶっ!!? った……!」
速すぎる! どんな個性……いや、違う! 隠れる隙もないこの状況なら悠長に正体を探るよりも動きを止めたい!
2回背後を取られた! なら……OFA5%!
ダン! ダン! ダン!
…今!
膝の力を抜きしゃがみながら身体を捻って背後を見ると、ビンゴだ!
「! 分析と予測か!」
その通りですグラントリノ! 捉えた!
「SMASH!」
「……だが」
バッ! スッ! ドオォォン!!
「な!?」
この至近距離で避けられた!? しかも腕を掴まれ!?
「固いな……そして、意識がチグハグだ。だからこうなる」
「くっ……!」
頭と左腕を抑えられて動けない……。ダメだった……。
「なんとか捕まえたと思ったのに……!」
「それだよ。騎馬戦や本戦での利用法……自分でも理解は出来てるハズなのに……オールマイトへの憧れや責任感が足枷になっとる」
「足……枷?」
足枷? どういう意味だろ?
「『早く力をつけなきゃ』、それは確かだが時間も敵もおまえが力をつけるまで待ってくれはしない」
そうだ! だから、必死で頑張って……!
「OFAを特別に考えすぎなんだな」
「……え?」
押さえていた身体を離してくれたので立ち上がりながら考えているとグラントリノさんがそう続けた。
「OFAを特別に考えすぎ……それってどういう意味ですか? それにどうすれば……」
「答えは自分で考えろ。俺ぁ飯買ってくる。ついでに掃除よろしく」
「ええ……!?」
質問したのに突き離されちゃった……。でも……自分で答えを見つけなきゃいけないのもわかる。でも……どうしたら?
「……とりあえず、掃除しようかな……」
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同時刻:保須市
「普段は依頼の電話待ちが多いんだけどね。最近はホラ……保須も慌ただしいからね」
飯田は保須市で職場体験先のヒーロー『マニュアル』と共にパトロールをしていた。周囲に目を配りながらマニュアルは最近の保須市の様子を説明する。
「市街パトロールは抑制になります」
「そゆこと。しかし、インゲニウムの弟さんがよくウチに来てくれたな」
「…………」
マニュアルの事務所はヒーローとしては中堅どころであり、ヒーロービルボードチャートJPの上位にランクインしていたインゲニウムの弟が職場体験に来たことをマニュアルは素直に喜んでいたが、ヘルメットの下の飯田の表情はひどく険しいものだった。
「(ヒーロー殺し……現代社会の包囲網でも捕らえられぬ神出鬼没ぶり。無駄なことかもしれない。それでも追わずにはいられない)」
周囲を見渡す姿は犯罪を未然に防ごうとするヒーローのそれであったが……。
「(僕はあいつが許せない)」
その瞳は復讐者のものだった……。
「正直、君の事は好きじゃない」
「は?」
コスチューム姿の勝己は職場体験先のヒーロー『ベストジーニスト』に開口一番そう言われた。
「
「指名入れたのあんただろが……」
イラつきながら勝己は言葉を返す。確かに勝己は特にベストジーニストのファンではなく彼が人気ヒーロー、それもヒーロービルボードチャートJPのトップ5に入るほどだから選んだのだが、指名が来た中から選んだのであってそこまで言われる謂れはない。
「そう! 最近は『良い子』な志望者ばっかりでねえ、久々にグッと来たよ。君のような凶暴な人間を『矯正』するのが私のヒーロー活動」
特に乱れていない髪を整えながらベストジーニストは勝己を見据える。
「君自身がヒーローを目指す上で優れた才能や頭脳を持っている事は先の体育祭で分かった。ただ、ヒーローとはそれだけで決まるのではない。
「……チッ!」
説教から始まる職場体験初日に勝己は面倒さを感じて特大の舌打ちをした。
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関東地方某所
「なるほどなァ、おまえたちが雄英襲撃犯……。その一団に俺も加われと」
敵連合のアジトであるBARにヒーロー殺し『ステイン』の姿があった。黒霧のワープゲートによって『活動』していた保須市から招かれたステインは普段同様の装備に身を包んでいたが、ステイン来訪を待っていた死柄木は特に気圧される事なくリラックスしてバーカウンターに腰掛けていた。
「ああ。頼むよ、悪党の大先輩」
「…………目的はなんだ」
初対面にも関わらず気安く話しかける死柄木。その口調はまるで学校の上級生、それこそ『先輩』にお願いするようなものだったが、そこにはステインを値踏みするような意図が含まれていた。それに気づいたステインも死柄木に対して自身を勧誘した理由・目的を問い正す。
「とりあえずはオールマイトをブッ殺したい。気に入らないものは全部壊したいな。こういう……糞餓鬼とかもさ……全部」
複数の写真、出久も写っているものを見せながら死柄木は答える。人や物を害する悪意に塗れた言葉だが、話す本人からはいっそ無邪気さすら感じられた。
「興味を持った俺が浅はかだった……。おまえは……ハァ……俺が最も嫌悪する人種だ」
「はあ?」
死柄木の答えにステインは眼光を鋭くする。それは普段の『活動』、ヒーロー襲撃時に見せるもの以上だった。予想外の言葉が返ってきて死柄木は疑問の声を上げるが、それを意に介さずステインは続ける。
「子どもの癇癪に付き合えと? ハ……ハァ……信念なき殺意に何の意義がある」
そう言いながら、ステインは両脇に携えたナイフを抜き取る。そこには明確な殺意があった。
「(破壊衝動のみの死柄木弔に更なる成長を促す為招いた男……しかし、これは……)先生……止めなくて良いのですか!?」
『これでいい!』
バーカウンターそばに設置されていた端末から『先生』の声が聞こえる。接続先からカメラで映像を見ているらしく、死柄木とステインの様子を確認しながら言葉を続ける。
『答えを教えるだけじゃ意味がない。至らぬ点を自身に考えさせる! 成長を促す! 『教育』とはそういうものだ』
『先生』の教育観が語られる中、死柄木とステインがぶつかろうとしていた。
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山梨:グラントリノ事務所
「オールマイトへの憧れが足カセ……使い方は理解している……OFAを特別に考えすぎ……か、どうすれば良いんだろう……」
事務所に残された出久は言い付けられた掃除をしようと潰された電子レンジの前に立っていたが、グラントリノに言われた事が気になり、片付けをしながらずっと考えていた。
「それらが固さに起因している……? そもそも固いってなんだ……? 逆に柔軟な動きってのは……柔軟な……」
手を動かしつつも思考を巡らせる出久。そこでふと思い出したのは幼馴染である勝己の姿。個性発現時は小規模の爆破しかできなかったがそこから研鑽を積み、今では攻撃のみならず目眩しや空中移動できるまでに使いこなしている。
「……! そうか……!」
急に何か閃いた出久は片付けていたゴミを放り投げてカバンに入れていたヒーロー分析ノートを取り出して思いつくままペンを走らせる。
「今まではOFAを奥の手……超必殺技のように考えてた。そうだよ……『個性』は体、身体機能の一部……! もっと……もっとフラットにOFAを考える! ……あんなに近くでかっちゃんを、最高のお手本を見てきたのに何で気付かなかったんだ! そうだ! そうか! うんうん、となると反復練習が……ブツブツブツブツブツブツ」
集中して自身に足りないものを列挙、その克服に必要な練習メニューを考えノートに書いていく。そんな出久を入り口からグラントリノは密かに見守っていた。
「(思考は柔軟、体育祭での動きでそこはわかっていた。)……なかなか良い奴見つけたんじゃないか? 俊典……オールマイトよ」
かつての教え子が見出したOFAの後継者、そのひたむきさにグラントリノは目を細めた。
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Side:Izuku
夜。
「ムニャムニャ!! Z!! Z!!」
「え〜っと、寝てるんだよね?」
寝言なのかな? 寝言だとしたらどんな夢見てるんだろ? ちょっと気になるかも……。でも、今はそれは置いといて……。結局初日は見ていただいただけでヒーロー活動は一切してない……。グラントリノ……、あれから少し調べてみたけどヒーロー登録名簿と事務所住所以外何も出てこなかった。1年間だけの雄英教師……いろいろ謎な方だ……。……よし、そろそろ行こうかな!
コスチュームに着替えて事務所の外に出て、グラントリノ事務所と隣のビルとの間のスペースに移動する。
「フラットに考える……、かっちゃんや他の皆は息をするように出来る事が僕にはまだ『使う』って意識がある……」
5%の力でも呼吸するように扱えれば、
「よし! 要は慣れだ。とりあえず瞬発と断続! まずはこのビルの間を飛び上がっていけるように頑張ろう! 5%でもできたら相当かっこいいぞ……!」
軽く体をほぐして……よし! 両足OFA5%!
「行くぞ〜! ハッ!」
「おはよう、そして! どうした!?」
朝起きて挨拶がてらにそう聞かれた! そりゃ朝からボロボロな格好見たら驚くよね……。
「おはようございます……。その、昨日ちょっと自主トレしてたら夢中になってしまい……」
「……ヒーロー目指すんなら仕方ないが、一応女なんだから怪我には気をつけな。特に頭のな」
「え、昨日グラントリノさん思いっきり攻撃してきましたよね?」
「あんなのはただのウォーミングアップで攻撃には入らないだろ〜が」
「そんなもんですか? ええっと、とりあえず昨日グラントリノさんに言われたことを咀嚼して実践してみたんですけど……先はめちゃくちゃ長いです……」
昨日の自主トレは散々だった。OFA5%ジャンプするのは良くても着地やビル壁にに当たる時に腕や足に力入れないといけないけど、集中しきれないとまた骨折する恐れがあった……。こんなことを繰り返すのは現実的じゃない。何か別のアイデアがないと……。
「初めてのチャレンジならそりゃそうだ。仕方あるまいて。ああいった発想はオールマイトからは出にくい。奴は初期から普通に扱えていた為、指導方針が違ったからな。奴は体だけは出来上がっていた」
「オールマイトの学生時代……!! その時の写真とかないですか!?」
オールマイトのデビュー前の……それこそ学生時代の写真や映像なんて今では見つけられない! オールマイトの先生だったグラントリノさんなら持ってないかな!
「あー、一応あるぞ。ゲロと血まみれ姿の写真だがな……」
「なんで!? え、それはちょっと……でも、若かりし頃のオールマイトの姿を見たい……! 僕はどうすれば……」
「いや、流石に本人の承諾無しには見せられんがの……」
「そんな!? 期待させておいて酷いです!」
「小娘、おまえ結構めんどくさい奴じゃの……。まあ、とりあえず体だけはできていたオールマイトはひたすら実戦訓練でゲロ吐かせたったわ」
なるほど、それであんな恐れてたのか……!! 流石のオールマイトもそりゃトラウマにもなるか……。
「生半可な扱いは出来なかった。
「……え? オールマイトの先代……お亡くなりになっていたんですか?」
「んあ……」
そんなこと、一言も……でも僕も聞いたことはなかったな……。考えてみれば、オールマイトの先生はグラントリノさんだったとして、オールマイトは誰からOFAを受け継いだんだろう?
ビーッ!
「宅配でーす。アマゾンさんからでーす」
「あ、僕受け取ってきます!」
ひとまず、荷物を受け取ってこようっと。
「これは……電子レンジ……!?」
「昨日
「ご自分で踏んでませんでした?」
ガチなのかオトボケなのか……! どっちなんだ!
「よし小娘、昨日買ってきた冷凍たい焼き食うぞ、用意だ!」
「朝食たい焼きですか!?」
「俺は甘いのが好きなんだ!」
「わ、わかりました……」
ジィィィ……
電子レンジの前で出来上がるのを待ちながらOFA制御について考える。呼吸をするようにOFAを扱う……冷静に考えれば、皆が15年培ってきた感覚に追いつかなきゃいけないって事だ。時間は待ってくれない。これじゃあ5%以上の力を引き出す為に身体を作る年月と変わらない。
チン!
冷凍鯛焼きが温め終わったので、中から取り出して盛り付けるとグラントリノさんがテンション高く歓声を上げる。
「うひょー、これよこれ! 時代はアツアツよ!」
「時間は限られてる……どうすれば……」
「浮かない顔してるな。今はとりあえずアツアツたい焼き食って……冷たい!!!」
「え!? ウソ!? ちゃんと解凍モードでチンしたんですけど……!」
確かに表面から湯気は出てるけど、触ってみると奥の方が固くてまだ解凍出来てないのがわかる、どうしてだろ……?
「バッカおまえ!! これ……でかい皿でそのまま突っ込んだな!? 無理に入れると中で回転しねえから一部しか熱くならんのだ!!! チンしたことないのか!!」
「あ、ウチの回転しないタイプだったんで……ごめんなさい……」
言われて本体と説明書を見比べると確かに注意事項で『大きなお皿のまま入れると中で回転しなくて全体が温まらないことがあります』って書いてある……。……ん? 一部しか温まらない……全体が温まらない……一部……全体……。
その瞬間、頭の中でパチっとスイッチが入ったように閃いた!
「あああ! わかった!! グっ、グラントリノさん!!」
「ん?」
「このたい焼きが僕っ……です!!」
「違うぞ! 大丈夫か!?」
「あ、いや違くて……っ! そのっ……わかったんです!」
素で心配されちゃった! でも……!
「今まで『使う』ってことに固執してた、必要なときに……必要な箇所に! スイッチを切りかえて……でも、それだと二手目三手目で反応に遅れが出てくる……! なら初めからスイッチを全て付けておけばよかったんだ!!」
そう言って、意識を集中させる。OFA5%! 普段は腕や脚だけだけど……!
「一部にしか伝わらなかった熱が……満遍なく伝わるイメージ……!!」
バリバリバリ!
「全身……常時
ぐっ! 力を維持するのでもきつい……! でも、グラントリノさんの目つきが変わった……おそらくこれが答え……!
「イメージがたい焼きて、えらい地味だがいいのかソレ」
「そこはオールマイトの……っお墨付きですっ……!」
「その状態で動けるか?」
そう言ってグラン・トリノさんは持っていた杖を放り投げる。口角を上げてニヤリと笑って少し楽しそう……。僕も……楽しいとは少し違うけど、この状態で動くとどうなるのか……試してみたい!
「わかっ……りません……!」
「試してみるか?」
「お願いします!」
職場体験2日目、ラウンド1スタートだ!
というわけで第28話でした! 出久のヒーローコスチュームは出久が女だったら絶対話題になると思うんですよ! もっと身体のラインを出していこうとか、その為には素材をもっと薄くしてしかし強度は維持してとかw 職場体験編は登場人物の場所が結構バラけているのでなかなか難しいですが、何とか頑張っていきます! 今後も応援よろしくお願い致します!