僕のヒーローアカデミア~諦めから始まる物語~   作:キョンP

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第2話② 緑谷出久:オリジン(後編)

(う~ん、なんだろう? ペチペチ音が? 誰かがほっぺた叩いてる?)

「……ヘイ! ヘイ! 少女、大丈夫か? 少女!」

「う~ん、あれ? ……ここは?」

「あ、気が付いた! 良かったーーーーー!!」

「……オ、オールマイトーーーーー!?」

 

 気絶していた出久が意識を取り戻すと、目の前には出久が憧れてやまないNo.1ヒーロー、オールマイトがいた。

 

「え、これは夢!? もしかして僕もう死んじゃってる!? ……ほっぺた抓ると痛い、だから夢じゃない!?」

「ヘイヘイ、落ち着きなさいよ少女! でも、元気そうで何よりだ!! いやあ、すまなかったね!!ヴィラン退治に巻き込んでしまった。いつもはこんなミスしないのだが、オフだったのと慣れない土地でウカれちゃったかな!? 」

 

 目の前で確かにテンション高めに話すオールマイトを見て、出久は感動していた。憧れのヒーローが目の前で自分に話しかけてくれている。そのせいで()()()()()()()()、身体が震えて声が出ない。

 

「しかし、君のおかげさ。ありがとう!! 無事詰められた!!!」

 

 そう言ってヘドロヴィランを詰めたペットボトルを出久に見せるように掲げた。それを目にした瞬間、出久の身体の震えが大きくなった。

 

(僕、アレに襲われていたの? もし、オールマイトが来てくれていなかったら……)

 

 そこで出久は気付いた。

『自分は緊張で身体が震えていたのではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()』と。

 

「それじゃあ私はこいつを警察に届けるので!! 少々時間が押していてね。」

「あ、あの、まっ、まっ、て……」

 

 恐怖による震えで声が上手く出ない。そうしている間にオールマイトはヴィランを詰めたペットボトルをズボンのポケットに入れ、今にも飛ぼうとしていた。

 

「液晶越しにまた会おう!! それでは今後とも……」

「お、る、まい、……まっ」

「応援よろしくねーーー!!!」

 

 オールマイトはそう言い残し、空へ飛び出した。

 

 ……その瞬間。

 

「待ってオールマイト!!!」

 

 出久は恐怖に震える身体で持てる力を振り絞ってオールマイトに抱きついた。

 

「ってコラコラ!? 放しなさい!! 熱狂が過ぎるぞ!?」

 

 その予想外の行動に流石のNo.1ヒーローも慌てた。出久に手を離すよう伝える。

 ……が。

 

「今……離すと……僕死んじゃいます!!」

「確かに!!」

 

 当然、今手を離せば出久は落下死してしまう。オールマイトは普段のメディア越しでは見せない焦りの表情を浮かべていた。

 

「ぼ、僕、ヴィランに襲われて、怖くて、」

「……オーケーオーケー、わかった。目と口を閉じてなさい。舌を噛んじゃうよ。……ゴホッ」

(んー、Shit!!)

 

 出久が落ちないように身体を支えながら、オールマイトは着地できる場所を探した。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

Side:Katsuki

 

「クソが!!」

 

 デクの奴、生意気に反抗してきやがって。打たれた頬は目立つような痕はついてないが、打たれた衝撃で口の中が切れて血がまだ止まらねえ。

 

「クソが!!」

 

 口内に溜まった血と共に罵声を吐き捨てるが、イライラは収まらない。道路に落ちていたペットボトルを蹴飛ばす。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が出てきてさらに不快感が増した。

 

「カツキよお、血が止まらないなら保健室で診てもらった方が良かったんじゃねえか?」

「なんて説明するんだ?『無個性のクソナードにビンタされました』って言うのか?」

 

 後ろから取り巻きの1人、一郎がふざけたことを抜かしてる。こいつらに見られたことも屈辱なのに、他の奴にも知られるなんてもってのほかだ!

 

「何も正直に言う必要ないだろ? 保健の柏木先生ならそんなに詮索しねえだろうし」

「てめぇは柏木と話してぇだけだろ、わざわざバレるリスク増やすわけねえ」

 

 次雄が欲望丸出しのアイデアを言ったが却下に決まっている。いくら保健医の口が固いと言ってもどこでバレるかわかったもんじゃねえ。たぶん一郎も途中で別れた三也も同じようなふざけたことを考えていただろう。

 

「でもよお、さすがに今日のはやり過ぎじゃね? あんな反応の緑谷初めて見て、俺少しビビったわ」

「幼馴染なんだろ? もう少し優しくしてやってもいいんじゃねえの? 一応、女子だし」

「あいつがこの程度で諦めるはずがねえ」

 

 何も知らない2人が好き勝手に言うが、俺は即座に否定する。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のは俺が一番良くわかっている。俺の言ったことがよくわからず2人は呆けた顔をしているが、それに構わず言葉を続けた。

 

「誰かのアドバイスなんかであいつの本質が変わるわけがねえ。どこの誰か知らねえし何を言ったか知らねえが、今はただ大人しくしてるだけだ。」

 

『死んだらそれで終わり』だし、生まれ変わりなんて別に信じちゃいねえが、『あのバカ』はそれこそ、死んでも直らねえ!

 

「だから、俺はあいつを抑え続けなきゃならねえんだ」

 最後は2人に聞こえないように呟いた。これは他の奴らはもちろん、あいつ本人にも言うつもりも知られるつもりもない。 

  

「そんなことより、てめぇら制服で堂々とタバコ吸ってんじゃねえ!! バレたら俺の内申にも火の粉かかるだろうが!!」

「あ、ああ、わりぃ、……!?」

「お、おい、カツキ!?」

 

 後ろに振り返り、自分の内申に響かないように文句をつけるが、2人は驚きと恐怖の表情をしながら俺の後ろを指差している。その方向へ視線を向けると……。

 

「良い『個性』の、隠れミノ……」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の、ヘドロみたいなヴィランが俺たちに狙いを定めていた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 ドン!!

 

 衝撃音とともにオールマイトはビルの屋上に着地した。

 

「……怖かった、です……」

 抱えられていた出久は屋上に下ろされるとへたり込んだ。ヴィランに襲われた恐怖と普通なら経験しない生身での飛行による恐怖、そして憧れのオールマイトと触れ合えた感動と様々な感情がないまぜになって出久は未だに震えが止まらず、自身の肩を抱いていた。

 

「全く! 最近の子は無茶をするね!」

 

 強く言いつつも、オールマイトは震える出久の背中を撫でながら優しく語りかけた。

 

「だが、襲われた君のケアを失念していた。プロとして初歩的なミスだ、すまない」

 

 そう言って出久に頭を下げた。出久は頭を振って、オールマイトに謝罪した。

 

「僕の方こそ、引き留めてしまってごめんなさい……。でも、ヴィランに襲われて、凄く怖くて、身体が動かなくて……」

 

 オールマイトに介抱されて安心したのか、出久の瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちる。出久が落ち着くよう背中を撫でながら続けていたオールマイトだが、不意に動きが止まった。出久にもそれがわかったようで、オールマイトへと視線を向けた。

 

「オールマイト、どうかし、……!? オールマイト!? 大丈夫ですか!?」

「いや、大したことじゃあないさ……(ああいかん、ホーリーシットだ、どちくしょう……)」

「そんな、顔色が悪いですよ!? 僕を助けたときに怪我したんですか!? とりあえず、横になってください!!」

「いや、大丈夫、だ(この子は、自分がまだ恐怖で震えているのに、自分より強い私が苦しんでいるのを助けようとしている……、ああ、もう、時間が……)」

 

 シュウウウウウ……

 

 冷や汗を流すオールマイトを気遣い、横になるよう促していた出久だったが、突然彼の身体から煙が出始めたことに驚いた。

 

「わっ!? なんですかこの煙!? オールマイト、大丈夫ですか!?」

 

 はじめは勢いよく煙が出て周囲が見えなかったが、それが収まるとだんだん視界が晴れてきた。

 

「オールマイト、大丈夫ですか? オールマイト、ってあなた誰ですか!?」

 

 煙が晴れるとオールマイトが居た場所には身長こそオールマイトと同程度だが、肩幅、腕の太さ、身体の厚みが全く異なる頬がこけて痩せ細った男性が同じ体勢で佇んでいた。

 

「私はオールマイトさ」

「ええーーー!? ど、ど、どういうことですか!?」

「プールでよく腹筋に力を入れ続けている人がいるだろう? アレだ」

「ウソだーーー!!!」

 

 突然のカミングアウトに出久は混乱した。筋骨隆々でどんなに困難な状況でも不敵に笑い、数多くのヴィランを退治してきた平和の象徴、オールマイトの正体がまさかこんな長身痩躯の、幽鬼的な男性とは夢にも思わなかった。だが、目の前で起きた事と彼の発する声がオールマイトのもの同一であること、この2点で出久は彼の言うことが事実であると認めざるを得なかった。

 

「ふう、仕方ない。少女、くれぐれもネットに書き込まないでくれよ?」

 

 そう言って、オールマイトはシャツを捲った。

 

「ひっ!?」

「5年前……、ヴィランの襲撃で負った傷だ」

 

 それは見るに堪えない、酷いものだった。オールマイトの左の脇腹には何かで突き刺されたような傷痕があり、それを中心に周囲の皮膚も酷く爛れたようになっていた。そのあまりの生々しさに出久は吐き気を感じ、思わず口を手で覆った。

 

「呼吸器半壊、胃袋全摘出。度重なる手術と後遺症で憔悴してしまってね。私のヒーローとしての活動限界は今や1日約3時間程なのさ」

「……っ、5年前、というと『毒々チェーンソー事件』ですか?」

「詳しいね、でもあんなチンピラにやられはしないさ!」

 

 グッと拳を握りニヤリと笑う、出久はその仕草に姿が違っても彼が正真正銘のオールマイトなのだと実感した。

 

「これは世間には公表されていない。公表しないでくれと私が頼んだ」

 

 これは出久にも理解できた。平和の象徴であるオールマイトに大怪我による後遺症があり、1日数時間しか活動できないと知られたら、社会がどれほど混乱するだろう。

 

「人々を笑顔で救い出す『平和の象徴』は決して悪に屈してはならないんだ」

 

 決して語気は強くない。だが、静かに発せられるオールマイトの言葉には長年『平和の象徴』として、No.1ヒーローとして活躍し続けてきた矜持と覚悟が込められていた。

 

 そして、このオールマイトの言葉で、出久はオールマイトとサー・ナイトアイのコンビ解消の理由をなんとなく悟った。以前それとなく聞いたとき、サー・ナイトアイは無表情で『方向性、見解の相違』と曖昧にしか答えなかった。オールマイトの持つ平和に対する信念、あるいは執念がサー・ナイトアイの想いや考え方とは相容れなかったのだろう。

 

「……何故、君が泣くんだい? まだヴィランへの恐怖が、震えが止まらないのかな?」

「……よくわかりません……」

 

 出久はまた涙を流していた。先程の涙とは違う理由だが、それが何なのか彼女にも上手く説明出来なかった。

 

「オールマイトがこんなに傷ついても苦しんでも平和を第一に考えていて。……僕は『無個性』で、つい最近ヒーローを諦めたんですけど、それでもまだ心のどこかでその夢が残っていて。でも、オールマイトの言葉を聞いて、結局今まで僕はヒーローの上辺だけしか見ていなかったのかと情けなく思って。……すみません、上手く言葉にできません」

 

 涙を流しながら紡ぎ出す出久の言葉にオールマイトは驚きの表情を浮かべるが、すぐに優しく微笑み彼女の頭を撫でた。

 

「ふふふ、君は泣き虫で、優しくて、芯の強い子だな。君のように皆がヒーローを想って応援してくれるから、私や他のヒーローは限界を超えて頑張れるんだよ。ありがとう」

「いえ、僕の方こそ。いろいろすみません」

 

 泣き笑いの表情を浮かべながら、出久はオールマイトに答えた。ようやく和らいだ出久にオールマイトもホッとして、階下へ降りるよう促した。

 

「さあ、そろそろ降りようか? あそこの階段から下へ降りられるみたいだね。思ったより長居してしまった」

 

 ようやく震えも収まったので出久も促されて立ち上がり、2人は階段へと向かった。

 

 

「ときに、少女。身体は大丈夫かね?」

「ええ、もう身体の震えはないですし、怪我もしていないので大丈夫です」

「そうか、それは良かった。怪我していたら、警察や病院への報告、手続きが盛りだくさんだからね。アレ、結構大変なんだよ」

「ああ、知ってます。ヴィランによる怪我なのか救助活動による怪我なのかで様式や添付資料が変わってくるんですよね」

「おお、そのとおり。よく知っているね、ヒーローに知り合いでもいるのかな?」

「あ、ええと、そうです。知り合いでヒーロー事務所で働いている人がいて……」

 

 サー・ナイトアイの事務所でヒーロー活動を見学していたおかげでいろいろ知ることができたが、出久とサー・ナイトアイが知人であり、オールマイトを想う同士であることは今言うことではないと判断した。

 

「一応、気になるならかかりつけの病院に行くといい。私はこれからこいつを警察に……」

 

 そう言ってオールマイトはズボンのポケットに手をやるが何の感触もなく空振りする。ズボンを見ると入れたはずのヴィラン詰めペットボトルがなく、オールマイトは顔を歪める。出久もその様子でペットボトルが無くなったことに気付く。

 

 『どこかに落としたかも』

 

 2人がちょうど同じ結論に辿り着いた瞬間、爆発音が聞こえた。階段の窓から外を見ると数100m離れた所で黒い煙と炎が上がっているのが見える。

 

「まさか……」

 

 そう言うやいなや、オールマイトは全速力で階段を降りる。出久も後に続いていき、外へ出ると周囲は騒然としていた。爆発音のする方から逃げる人と何が起こっているか確認に向かう人で2つの流れが出来ていた。

 

「危ないから、君も避難しなさい!」

 

 オールマイトは出久にそう告げると、自身は爆発音のする方へ走っていく。

 出久はオールマイトの言葉に一瞬従おうとするが、『この騒ぎが先程のヴィランなら自分にも責任があるかもしれない』と思う理性と()()()()()の2つ理由でオールマイトと同じ方向へ駆け出していった。

 

 

「おおォオオオオ!!!」

 騒ぎの中心では件のヘドロヴィランが学生服の少年に取り付いており、少年……勝己がそれを振り払おうと必死の抵抗を試みていた。

 

(クソ!! こんなドブ男に呑まれてたまるか!!!)

(えれぇ力!! こりゃ大当たりだぜ! この『個性』と力ならば奴に報復出来る!)

 

 抵抗する勝己と乗っ取ろうとするヴィランとの間で身体の主導権争いが起きており、それによって爆破の個性も暴発して2人の周囲には誰も近づけず、ヒーローも避難誘導をするので手一杯となっていた。

 

「ダメだ! これ解決出来んのは今この場にいねえぞ!」

「誰か有利な『個性(やつ)』が来るのを待つしかねえ!!」

 

(クソ、時間ばかりに気を取られた!彼女のケアが遅れたことといい、こんなミスを続けてしまうとは!)

 

 現場近くに辿り着いたオールマイトだったが、勝己が人質となっていることに加えて、1日の活動限界を迎えてしまっていたので、ヴィランと対峙できずにいた。

 

(情けない……情けない!!!)

 

 疼く傷痕を押さえて、すぐさま飛び出していけない自分の情けなさに歯噛みした。

 

 

(やっぱりアイツだ!)

 

 出久は警察やヒーローが抑える野次馬の間からヘドロヴィランの姿を確認した。ヴィランは乗っ取ろうとする人物の個性でヒーロー達を牽制しながら、着実に乗っ取りを進めていた。

 

(あの人!? あんなに苦しそうなのに、まだ耐えてる!! なんで誰も助けにいかないの!?)

 

 出久の疑問に周囲の会話がその答えを知らせる。

 

「なんでヒーローたちは助けないの?」

「ヴィランが掴めないから、有利なヒーローが来るまで待つらしい」

(そんな!? その間にあの人が死んじゃうかもしれないのに!!)

 

 そんな状況に手をこまねいているヒーロー、何よりその原因となってしまった自分に怒りを感じ、必死の抵抗を続ける人物に目を向ける。

 

(オールマイトは!? 誰か!? あの人を助けてあげて!!)

 

 出久がそう祈っていると、ヴィランの身体がズレて覆われていた人物の顔が見えた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(かっちゃん!!?)

 

 そして、彼と瞳が合った刹那。

 

 出久は野次馬の中から全力で駆け出していった。

 

 

「馬鹿ヤロー!! 止まれ!! 止まれーーー!!!」

(な!? 少女、何故!?)

「…………」

 

 大柄のヒーローの声を振り切り、ヴィランへと向かっていく。ヴィランと勝己も自分達に近づいてくる出久の姿を視認した。

 

「あのガキ!」

(デク!? なんで!!?)

 

(どうしよう!? 勝手に飛び出しちゃった!?)

 

 頭で考える前に身体が動いていた。出久は自分の行動に戸惑いながら、勝己を助けるために思考を巡らす。

 

(ナイトアイさんとミリオさんが言ってた! 多くの人は何かするときはそこに視線を向けるって!)

 

 2人の言葉を思い出し、ヴィランへ向かっていきながらその視線の先を探る。不定型だが、目にしっかりと形があるのは自身が襲われたときに把握している。

 

(怖いけど、身体は動く!落ち着いて、あいつの狙いを……)

 

「さっきのガキが! また、捕まりに来たのか!?」

(また!? こいつこの前にもデクを!?)

 

 ヴィランまで10m。そのときヴィランが動いた。出久に向けて左腕を伸ばす。通常なら届かない間合いだが、不定型ゆえのリーチの長さで出久を捕らえようとする。

 

 ヴィランの視線を追っていた出久はそれをギリギリで躱して懐に入り込み、同時に背負っていたカバンをヴィランの目にぶつけた。

 

「ヤア!!」

「グア!?」

 

 できた一瞬の隙にヴィランの身体を突き抜けて、勝己の身体を掴み出そうとする。

 

「かっちゃん!!」

「バカヤロー!! なんで来やがった!? 死にてえのか!?」

 

 出久に引っ張られて身体が少しヴィランから離れるが、ヴィランもそうはさせまいと2人を引きずり込もうとする。

 

「足が勝手に!!なんでって……わからないけど!!!」

 

 勝己が再びヴィランに引きずり込まれそうになり、自身も捕われそうになるが、抵抗しながら出久は勝己の目を見て答えた。

「君が、かっちゃんが助けを求める顔をしてた、あっ!?」

「……!? このバカ!! 早く、逃げ!」

 

 とうとう出久も捕らえられた。人質が2人になることで事態はさらに困難なものとなる。

 

 誰もがそう思った、その瞬間。

 

 ガシッ!

 

「か弱い少女が身体を張っているのに、己が実践しないなんて!!!」

 

 彼が来た!!

 

「プロはいつだって命懸け!!!!!!」

 

「DETROIT……SMASH!!!」

 

 

 

「このバカヤロー!! 無個性で力もねえくせに出しゃばるんじゃねえ!!」

 

 勝己は出久の肩を掴み、怒りの形相で叫んだ。 

 オールマイトが地面に打ちつけた拳の風圧でヴィランは散り散りに飛び散った。中心付近にいた2人は衝撃で気を失っていたが、ほぼ同時に目を覚ました。目が覚めるや否や、勝己は出久を激しく叱責した。

 

「君、落ち着いて。後はオレたちの仕事だ。」

 あまりの激しさに出久を叱ろうとしていた大柄のヒーロー『デステゴロ』が勝己を諫めることになった。

 

「彼の言うことは正しい。君が危険を冒す必要は全くなかったんだ!」

 

 そう言われて、出久は力無く頷いた。この事態より前に襲われたことやオールマイトとのことも話そうかと考えたが、より説明が面倒になると思い黙っておいた。

 

「……君が彼を助けたいと思ったことも決して間違いではない。だが、危険を冒すのはオレたちヒーローの仕事だ。今後は身の丈に合った行動をしてくれ」

 

 彼以外にも入れ替わり立ち代わりヒーローが説教をして、ようやく終わったところで出久は勝己を探した。が、すでに帰ったのか、その姿はどこにもなかった。出久が項垂れていると、女性の警察官が声をかけてきた。

 

「はい、これ。あなたのカバンでしょ?彼が中身を拾ってくれてたわよ」

「かっちゃんが!?」

「……男の子でもプライドがあるからね~、いくらヴィランに襲われたって言っても、カノジョには情けない姿は見せたくなかったのね。先に帰ったわよ」

「………………へ?」

「あとでちゃんと仲直りするのよ♪」

 

 女性警察官はパチンとウィンクを決めその場を後にするが、出久は彼女の言った意味が理解できず、しばらく立ち尽くしていた。

 

 

 出久は帰り道をトボトボと歩いていた。午前中で学校は終わっていたが、いろいろなことがあり過ぎて出久は疲労困憊だった。

(ヴィランに襲われたり、憧れのオールマイトに助けられたり、オールマイトに抱き抱えられて空を飛んだり、かっちゃんを助けに飛び出したり、再びオールマイトに助けられたり、かっちゃんに怒られたり、ヒーローに怒られたり、女性警察官にかっちゃんと彼氏彼女だと勘違いされたり)

 

「あの人なんで勘違いしたんだろう……。アレかな、僕たちが男女の学生だったから単純にそう思っちゃったのかな? 考えてみたら、警察官って出会いがなさそうだもんね。それで僕らを見て、懐かしく思っちゃったのかな~」

 

 女性警察官に対してなかなか失礼なことを考えながら歩いていると、今日だけでかなり聞き慣れた声が突如として聞こえてきた。

 

「私が来た!!」

「オールマイト!? なんでここに!? さっきまで取材陣に囲まれていたのに」

「あのくらい、抜けるのはワケないさ。私はオールマイ、ゲボォッ!!!」

「わーーー!?」

 

 大量に吐血するも小さく『問題ない』と言って、オールマイトは話を続けた。

 

「少女よ、礼と……提案をしに来たんだ」

「へ?」

「君がいなければ、君の身の上を聞かなければ私のヒーローとしての矜持が失われるところだった!! ありがとう!!」

「そんな……、僕なんて何もできませんでした。オールマイトの仕事の邪魔して、現場でも『無個性』のくせに勝手に飛び出して混乱させちゃって」

 

 出久は今日の出来事を思い返した。出久がオールマイトに抱きつかなければ、その後にヘドロヴィランが暴れることはなかったはずである。そして、現場でも勝手に飛び出さなければ余計な混乱は起きなかったはずだった。

 

「そうさ!!」

 

 オールマイトが強く言い放つ。

 

「あの場の誰でもない、小心者で『無個性』の君だったから!!! 私は動かされた!!」

 

 オールマイトの言葉に、出久の身体が、心が揺さぶられる。

 

「トップヒーローは学生時から逸話を残している……。彼らの多くが話をこう結ぶ!! 『考えるより先に体が動いていた』と!!」

 

 諦めたはずの夢をまだ追うことができるのか!?

 

「君も、そうだったんだろう!?」

「……はい……」

 

『ヒーロー』になる夢を!!

 

「君はヒーローになれる!!!」

 

 憧れのNo.1ヒーローに言われて、出久は声を上げて泣いた。

 

 

 

「少しは落ち着いたかな?」

「はい、なんとか……」

 

 オールマイトは出久が泣き止むまで待っていた。そして、落ち着きを取り戻した彼女に驚きの提案をする。

 

「君なら私の『力』、受け継ぐに値する!!」

「……へ?」

「なんて顔をしているんだ!? 『提案』だよ!! 本番はここからさ、いいかい少女……」

 

 オールマイトは、出久を指差し言い放った。

 

「私の『力』を君が受け取ってみないかという話さ!!!」

「力を? オールマイト、一体何を言ってるんですか?」

「まだ要領を得ないかな? 私の『個性』の話だよ少女」

「個性の?」

 

 未だに話が見えず、聞き返す出久。それに対してオールマイトは説明を始めようとした。

 

 

 ……が。

 

 

「その話、私も交ぜてもらえないかな?」

 

 1人の男にそれは遮られた。

 

 

「な、君は、サー・ナイトアイ!? 何故ここに!?」

「ナイトアイさん!? なんでこんなところに!?」

 

 2人はほぼ同時に疑問を口にし、顔を見合わせた。

 

「少女、君は彼を知っているのか?」

「あ、ええと、その……」

 

 出久は答えに窮した。ビルから降りるときには自分とサー・ナイトアイの繋がりを話す時ではないと思って口には出さなかった。まさか、こんなに早くサー・ナイトアイと会う状況が来るとは思わなかった。

 

「彼女は私の友人、『同士』だよオールマイト」

「ナイトアイさん!?」

 

 どう答えようか迷っている出久に本人が助け舟を出した。その答えを聞いても、オールマイトの疑問は尽きなかった。

 

「友人、同士とは? それにどうしてここがわかったんだ?」

「……少し場所を変えようか。貴方自身の話もあるだろう。緑谷君、時間は大丈夫かな?」

「ええと、はい。大丈夫です」

「よし、では行こう。安全に話ができる私の行きつけに案内する」

 

 

 出久の長い1日は、まだ終わりそうにない。

 




 え~、長いですね。たぶん、予想の1.5倍くらいの文量ですwそして、原作と異なるオールマイトとサー・ナイトアイのだいぶ早い邂逅です。今後、どう話が転がっていくんですかね?(他人事w)ところで、ウチの出久ちゃんはだいぶ泣き虫ですね。本当はこんなにぽろぽろ泣かせるつもりはなかったんですが、どうしてでしょうねw

 今の自分の執筆スピードだと週一投稿が限界そうで、おそらくかなりの長丁場になりますが、末永くお付き合いいただけたらと思います。
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