「…………しりとりとかする……?」
「「…………」」
「(くっ! どうすればいいんだこの空気! 各自の課題克服のための期末テストとはいえ、この組み合わせは相当難しいのでは……)」
出久と勝己、オールマイトの3人は指定された試験会場に向かうバスに乗っていた。乗客の少ないバスの静寂に耐えきれず場を和まそうとしたオールマイトだったが、その試みは儚くも潰えた。
『組の采配についてですが……緑谷と爆豪はオールマイトさん頼みます。他の組と違ってこの2人は能力や成績で組んでいません。……偏に仲の悪さ!! 緑谷のことがお気に入りなんでしょう? 上手く誘導しといて下さいね』
「(相澤君……よく見てるよ君……! ただ……この2人は仲の悪さと単純に言えないものもあるんだよなあ……。そこを上手くできればいいんだが……)」
オールマイトがあれこれ思い悩む中、出久と勝己は試験会場に到着するまで一言も発することはなかった。
「さて、ここが我々の戦うステージだ」
「ここが……」
「……」
着いた試験会場は運動場ε、高層ビルの立ち並ぶ都市の一角といったコンセプトに見えた。
「あの……戦いって、まさかオールマイトを倒すとかじゃないですよね……? どうあがいてもムリだし……!」
「消極的なせっかちさんめ! ちゃんと今から説明する」
焦る出久を諭しながら、オールマイトは試験の進め方を説明し始める。
「制限時間は30分! 君達の目的は『このハンドカフスを
「戦闘訓練と似てますね。逃げてもいいんですか?」
「あ!? お前
「だって! 相手はオールマイトなんだよ! まともに当たって敵うなんて……!」
「あー、お2人さん。説明は最後まで聞いてくれないかな? それから作戦を考えてほしい」
「は、はい! すみません……」
「……ちっ!」
「(うーん、早くも方針が噛み合っていないなあ……)まず、緑谷少女の質問だが、逃げてもオッケーだ。なにしろ戦闘訓練とは訳が違う。今回は極めて実戦に近い状況での試験、私達を
「……」
オールマイトの言葉を聞いて出久は保須での出来事、ステインと対峙したことを思い出した。
『応戦するより逃げた方がいいって!!』
ステインの個性で動けないネイティヴは轟にそう助言していた。ステインの動きが早くて隙がなかったため応戦せざるを得なかったが、戦闘時の判断としてネイティヴの判断は理にかなっているものだったことは出久にも理解できていた。
「つまり……戦って勝つか、逃げて勝つか……」
「そう! 君らの判断力が試される!」
「「……」」
「けど『こんなルールじゃ逃げの一択じゃね!?』って思っちゃいますよね。そこで私達サポート科にこんなの作ってもらいました!! 『超圧縮おーもーり!!!』」
未来からやってきた青い猫型ロボットの口調をまねてオールマイトは腕輪状の重りを掲げて見せた。
「体重の約半分の重量を装着する! ハンデってやつさ。古典だが動き辛いし体力は削られる! あ、ヤバ! 思ったより重……」
「(そりゃ体重半分って言ったらオールマイトだと100㎏超えちゃうから重いだろうなあ……)」
「ちなみにデザインはコンペで発目少女のが採用されたぞ」
「発目さんの! 凄いなあ……」
「サポート科は期末テスト以外にもそういった発表が本人の成績の反映される部分があるからね。ちなみに経営科はプレゼンが期末テストに組み込まれているらしいが、私も詳細はわからない」
「そうなんですね。内容は弱小ヒーロー事務所の立直しシミュレーションや新人ヒーローのデビュー時の売り込み戦略とかいろいろ聞いたことありますけど……」
「黙れクソデク、話が進まねえだろが!」
「ご、ごめんかっちゃん」
「それにしても……戦闘を視野に入れさせる為のハンデか。ナメてんな」
「HAHA! そいつはどうかな! それじゃあ、指定の位置に付いてくれ。合図が鳴ったら試験開始だ。
そう伝えたオールマイトが所定の位置に移動したのを見て、出久達もスタート地点へ移動した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
Side:Izuku
『皆、位置に付いたね。それじゃあ、今から雄英高校1年期末テストを始めるよ。レディイイーーー……ゴォ!!!』
リカバリガールの意外に声量のある合図で期末テスト演習試験がスタートした。試験内容は制限時間内に『ゲートを抜ける』か『敵役の先生を打倒・確保する』かなんだけど、僕らの相手はオールマイト。まともにやってはとてもじゃないけど勝ち目はない。なんとか試験をクリアする作戦を考えないといけないんだけど……。
「ちょっと、かっちゃん話を聞いてよ! なんの作戦も無しに挑むのは無謀だよ!」
「ああ!! んなもん正面からブッ倒した方が良いに決まってんだろが!!」
「せっ、戦闘は何があっても避けるべきだって!!」
「終盤まで翻弄して、疲弊したところを俺がブッ潰す!」
うぅ……。最近はマシになってたのに今は取り付くしまもない。オールマイトの力はかっちゃんだって分かってるはずなのに……。
「相手はオールマイトだよ。いくらハンデがあってもかっちゃんがオールマイトに勝つなんて……っうわ!?」
話してる途中でいきなり胸倉をつかまれる。驚いてかっちゃんの顔を見ると……目を吊り上げて青筋を立てて僕を睨み付けていた。
「黙れ! ちょっと調子良いからって喋んな! ムカつくんだよ……」
「し、試験に合格する為に僕は言ってるんだよ。聞いてってかっちゃん……!」
「だァからてめェの力なんざ合格に必要ねェっつってんだ!!」
「怒鳴らないでよ!! 少しは話を聞いてくれたっていいでしょ!!」
「……うるせえ!! やる気がねえならてめェは適当に逃げ回って……」
ドォオオオオン!!!!!
「「!?」」
突然の衝撃音と爆風が周囲に広がる。これは間違いなく……オールマイトのSMASH!!! でも、こんな威力……そうか、普段は街中だから威力を抑えていたけど今は……敵役だから……。
「さて、
ゾクッ!
その瞬間、身体中に緊張が走る。傍にいるかっちゃんも同じように感じたみたいだ。
「街への被害などクソくらえだ。試験だなんだと考えてると痛い目みるぞ」
普段のオールマイト、なんだったら声のトーンも。それなのに……。
「私は
なんだこの威圧感は!!!
「正面戦闘はマズい!! 逃げよう!!」
「俺に指図すんな!」
「かっちゃん!」
僕の提案を無視して向かってくるオールマイトに対峙するかっちゃん。オールマイトと真正面からぶつかるなんて無謀だ!
「
「むっ!」
体育祭でも使った閃光弾! 目くらましして何を……。
「オールマイト! 言われねえでも
正面から突っ込んだ!? そんな無茶を!? オールマイトに顔を掴まれちゃったよ! 助けなきゃ! でも……かっちゃんが僕の助けを良しとするか……。
「そのつもりだよ!」
BBBBB……!!!
「あ痛タタタタタ(フツー顔掴まれたら反射的に引き剝がそうとするもんだろ!)」
マジかかっちゃん! 掴まれながらも爆破連打するなんて! ……今だったら一撃加えられるかも! ……よし、行け!
「私をマジで倒す気……
グイ……ダンッ!
「そんな
「カッ……ハッ!」
しまった! かっちゃんが倒されちゃった! でももう止まれない……!
「さて、向かってくるとは少し予想外だよ緑谷少女!」
こうなったら、体育祭のロボみたいに動きを誘導して一撃喰らわせるしかない!
「来い緑谷少女!」
「行きますよオールマイト!」
OFA全身5%、フルカウル! 右ストレートを意識させて……今!
地面に向かって……SMASH!
ドゴォ!! ドォオオオン!!
「むっ!?」
接近戦直前での目くらまし! プラスジャンプで背後に回った! SMASHの音でジャンプした音は誤魔化してるからオールマイトはまだ気づいていない。これで……!
ブンッ! スカッ!
「な!?」
避けられた!? あんなに翻弄したのに!?
「よく考えたけど詰めが甘い……な!」
ドグッ!
「グアッ!?」
腹部に衝撃、オールマイトの拳を喰らって僕は10数メートル吹っ飛ばされた。衝撃で受け身が取れずそのまま地面に激突する。
「ガハッ! う、うげぇ……」
オールマイトにしたら軽い一撃なんだろうけど、体育祭で轟君に喰らった前蹴り以上のダメージを受けて僕は嘔吐した。っ! 受け身も取れなかったから、全身もしびれて息もできない!
「煙幕からのジャンプは発想は悪くなかったが、少し跳び過ぎたね。ほんのちょっとだが、私にとっては十分な時間だったよ」
くそ! 高く跳び過ぎて着地までに間が空いてしまったのか!
「その辺りは実戦経験を積めばもっと無駄なく出来ると思う。が、今はそれが命取りだった……っと!」
ドォオオン!!
僕に話しかけてたオールマイトが背後からの爆破を避ける。かっちゃんの不意打ちを避けるなんて……!
「さすがにその爆破はさっきより痛いからね、とっさに避けちゃったよ!」
「クソデクじゃなくて俺と戦えやオールマイト!」
「もとより試験は2人対1人だよ爆豪少年! だが……」
ブンッ! スカッ! ドフッ!
「グハァ!? オエェ……」
「単身で私と渡り合うのは緑谷少女の危惧するように少々無謀だな」
かっちゃんの攻撃が避けられて、そのカウンターでボディーブローを喰らって吹っ飛ばされる。僕と同じで嘔吐して……クソ! やっぱり正面戦闘は無茶だったんだ!
『ホラ見ろ! 見たか今の! オールマイトってやっぱカッケーよな! 4対1! 絶対負ける! って思うよな!? でも見ろ! ホラここ! こー避けてパンチ! と見せかけて……ホラ!! 勝っちゃった! ……どんだけピンチでも、最後は絶対勝つんだよなあ!!』
不意に小さい頃、かっちゃんとテレビでオールマイトの活躍を見ていたことを思い出す。画面に映るオールマイトの動きを自分もマネしながら熱く語る姿……。あの頃から君も、僕や他の皆と同じようにオールマイトに憧れていたんだよね。
「わかるよ……緑谷少女の急成長だろ? でもさ、レベル1の力とレベル50の力……成長速度が同じなハズがないだろう?」
オールマイトがかっちゃんに語りかけてるのが聞こえる。期末テストで戦闘の真っ只中なのに、教室で授業をおこなっているように諭している。
「もったいないんだ君は! わかるか!? わかってるんだろ! 君だってまだいくらでも成長出来るんだ! でも、それは力じゃない……」
あのオールマイトにここまで言ってもらえて……やっぱりかっちゃんは凄い……!
『絶対勝つんだよなあ!!』
嫌な奴で……今でも少し苦手だ。でも……そうだ。どんなことがあろうと君は絶対……勝者であろうとするんだ! 僕が……オールマイトと同じように憧れた君はいつだって……。
「黙れよオールマイト!」
かっちゃんがフラフラだけど既に立ち上がってる。僕はまだ身体を起こすのがやっとなのに……。
「あいつの力ぁ借りるくらいなら……負けた方がまだ……マシだ」
「…………そっか。後悔はしないようにな」
「っそが……!!」
ダッ! ドガッ!
「ガッ!?」
「なっ!?」
蹲ってた体勢からフルカウルで一気に詰めて一撃を食らわせる、かっちゃんに!
「負けた方がマシだなんて……君が言わないでよ!」
殴りつけた勢いでそのままかっちゃんを脇に抱えて、その場から逃げ出す。流石のオールマイトも僕がかっちゃんを殴りつけるのは想定外だったらしく、反応が遅れたのでなんとか距離を取ることができた。
「てめっ! 放せっ!」
「いいから!!」
抱えているかっちゃんから抗議の声が上がる。ムカつく相手、しかも格下に抱えられてるのは心底ムカつくんだろうけど、今回のことに関しては僕もムカついているので言わせてもらう。
「かっちゃんが……誰よりも勝ちにこだわるかっちゃんが、負けた方がマシだなんて……そんなこと言わないでよ!!!」
「……てめえに関係ねえだろーが!」
「あるよ! かっちゃんは僕の憧れなんだ! オールマイトに並ぶくらい! そんな君が君自身のプライドを、勝利への拘りを捨てるなんて許せない!!」
後ろ目にオールマイトが追ってきていないか確認しながら移動を続ける。ハンデを背負っているとはいえ、オールマイトの力は僕達より遥かに上だ。逃げるにせよ、戦うにせよ、作戦を立てないと試験を突破できない。
「……てめえごときに俺の何がわかるんだよ!」
「わかるさ! ずっと……君をそばで見続けてきたんだから!」
「……」
「そんなことより……かっちゃんに作戦を考えてほしいんだ。僕にはオールマイトに勝つ算段も逃げ切れる算段も、とても思い付かないんだ」
「あ!?」
「諦める前に僕を
「……てめえのんなとこがムカつくんだよ、クソがっ!!」
悪態をつきながら、かっちゃんは期末テストを攻略するために頭を働かせてくれているようだった。なんとか突破するんだ、2人の力を合わせて!
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「(あそこで緑谷少女が来るとは……油断した! 姿をくらませたということは……出口ゲートへ向かっているかな? それにしても重いなしかし!)」
出久の思った通り、オールマイトにも出久が勝己を殴りつけるのは予想外であった。直接戦闘では圧倒的なオールマイトだが、高層ビル街で目をくらませながら移動されると流石に捕まえるのが難しいため2人の後を追っていく。
「どこぉ見てんだあ!!?」
「! 背後だったか……!?」
振り向いたオールマイトは困惑した。声を上げながら向かってくる勝己の表情は怒りと悔しさに歪んでおり、何かに耐えているようだった。
BOM!
「むっ!」
「(ムカつくんだよ! 誰がてめェを!! てめェなんかと!!) デク!!! 撃て!!」
オールマイトと接触する直前で方向転換と目眩しを兼ねた爆破を行い、合図を出す。その瞬間、オールマイトの背後から……勝己の籠手を右手に装着した出久が現れた。
『二度は言わねえぞクソデク。重り背負ってるとは思えねえあのバカみてえなスピード相手じゃどう逃げ隠れても戦闘は避けらんねえ。』
『でも……戦いにならないよ、あのオールマイト相手に……』
『てめェ黙ってろ、ブッ飛ばすぞ! 半端な威力じゃビクともしねえのはさっきの連打でわかった……。じゃあ、ゼロ距離で最大威力だ。それがダメージを与えつつ距離を取る唯一の手段だ……』
「なる程」
裏をかかれたオールマイトだったが、その表情は満足げであった。
ピンッ!
「ごめんなさいオールマイト!!」
ドォオオオオオオオン!!!
勝己の個性『爆破』を起こすニトログリセリンに類似した汗を溜めた籠手、それを用いた最大火力による攻撃は凄まじい威力でオールマイトを吹き飛ばした。
「っだ!!! 肩が……! かっちゃんこんなの使ってるのか!!」
「何してんだ! 走れやアホが!」
「あっ、うん!」
「……クソがっ……!」
作戦通りオールマイトと距離を取ることができた2人は出口ゲートへと向かっていった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
Side:Almight
「ってて……やられたな。『逃げ』と『戦闘』の折衷案……即席にしちゃあいいじゃないか。街への被害も私が既に破壊した軌道上に重ねたことで軽減している。初の戦闘訓練時に指摘したっけな」
そうさ。2人とも本来ならクレバーな少年少女……。なのに互いのこととなると途端に破綻してしまう。
羨望・嫌悪・追走……。
畏怖・自尊心・拒否……。
そして、それ以外の何か……。
話を聞く限り……お互い様々な思いが積もり重なったまま、どう接していけばいいかわからなくなってるんだろう。すぐに解消できるものでもあるまいが……きっとこの『協力』がいつか将来、必ず『大いなる一歩』となるハズだ。そのためには……。
「さてと……先生頑張っちゃうぞ!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――
Side:Katsuki
「もうすぐだよ! もう! すぐそこ! 脱出ゲート! なんか無駄に可愛いけど、1人でもアレくぐればクリアだ!」
デクが言うように、無駄に装飾されたゲートが見える。付け焼刃だったが、なんとか作戦が上手くいってゲートが見える位置まで来れた。それにしても……建物や道路の舗装がこんなとこもぶっとんでやがる。ほぼゲート前から俺らのいた中央まであの爆風を届かせたのか……、ッザケやがって……!
「オールマイト、追ってくる様子ないね……。まさか気絶しちゃったんじゃ……」
「てめェ散々倒せるワケねえっつっといて何言っとんだアホが! アレでくたばるハズねえだろクソ!」
「う、うん。そうだよね……オールマイトがアレで倒されるなんてあり得ないよね……」
こいつはさっき自分で無理だと言っておいて……何バカなこと言ってやがる! まあ、ただ単にオールマイトの怪我の心配してるんだろうが、それこそ無用な心配だろう。悔しいが、あれでオールマイトがどうにかなるわけがない。最初の攻撃よりかはダメージを与えられただろうが、それでも連打で与えたダメージ1で特大火力で10いったかどうかだ。こいつの言ったことに同意するのは癪だが、今は力の差が歴然としている。追いつかれたら……。
「次追いつかれたら、今度は
「そ、そんな! 僕だってかっちゃんの手助けになるようにオールマイトを牽制するよ!」
「それが邪魔になるつってんだろ!」
「せっかく曲がりなりにも協力してるんだからそんな風に言わないでよ!」
「うんうん、白熱したやり取りしてるね。それでそれで!?」
「「!?」」
もう追いついた!? 接近に気付かなかった! すぐにもう一度吹っ飛ばして……!
バッ! ガッ!
なっ! 最速で籠手を向けたのに、砕かれた!? なんてスピードだ……!
「速すぎる……! かっちゃん!」
デクがオールマイトに向かって左拳を振るうが全くかすりもせずに掴まれる。バカが! 俺に注意が向いてる隙にてめェは全力で突っ走れば、オールマイトも迷ったかもしれねえだろが!
「ちっ! この……!」
バッ! スカッ! ダンッ!
「ぐあっ!?」
左手で薙ぎ払おうとしたらあっさりジャンプで躱されて、足で地面に押し付けられる。なんなんだこの速度は!?
「素晴らしいぞ少年少女たち! 不本意ながら協力し、私に立ち向かう……。ただ! 2人共! それは今試験の前提だからねって話だぞ」
『報告だよ。条件達成最初のチームは、轟・八百万チーム!』
「「……!」」
「驚いた……。相澤君がやられたとは! ウカウカしてらんないな……よし、埋めるか!」
「!?」
埋められたらクリアなんて絶対不可能だ! なんとか、這い出して……!
グッ!
「うっ!」
クソ! 耐久力もパワーもスピードも! 圧倒的に! シンプル! シンプルな強さ!
対峙して改めてわかる。そうだよ、この男は
「っそ……!」
「……なんて顔だよ少女。それに女の子がそんな汚い言葉は感心しないな」
「何を……きゃっ!」
掴まれていたデクが地面に投げられる。ちっとは抵抗しやがれ! 何女みてえな声出してやがる! ……こいつは元々女だった! クソが!
「『最大火力で私を引き離しつつ脱出ゲートをくぐる』、これが君達の答えだったようだがその『最大火力』も消えた。終わりだ!!」
そう言って、デクも一緒に踏みつけられる。オールマイトの体重は200kg以上、しかもハンデも重りもあるから300kg以上の重さが俺とデクにのしかかっていることになる。立ってる状況ならともかく、倒れてる今は絶対に持ち上がらねえ! こうなったら……!
「うるせえ……!」
「!?」
BOOOOOM!!!
「ぬう!?」
「……ってえ……」
籠手無しの最大火力、流石の俺も何度もできねえ……。だが、なりふりかまっていられねえ!
吹っ飛ばしたオールマイトの体勢が整わねえうちにまだ倒れたままのデクを引き起こして立たせる。
「立て! 今からてめェをブッとばす」
「ちょっとかっちゃん!? 何物騒なこと言ってんの!?」
「スッキリしねえが、今の実力差じゃ
「ちょっ!? 待っ!? 本気で!?」
「っ……行けえ!!!」
BOOOOM!!!
「痛っ~~~!(まじかかっちゃん! でもオールマイトが浮いた! 着地までの1秒か2秒! 今なら……!!!)」
これで届くはず! 後は俺がオールマイトを足止めすれば……。
「New Hampshire……SMASH!!!」
ボンッ!!! ドガッ!
「ガハッ!?」
「いやいや、あまいぞヒーロー共!
「チッ!」
あんな、SMASHで加速するなんて、なんてデタラメなやり方だ! やっぱり一筋縄じゃいかねえ! …やるっきゃねえ!!
BOM!
「籠手は『最大火力』を
BOOOOM!!!
「行けデク!!」
「うわ!!(体育祭で見せた特大火力……!! 二度も籠手無しで……)」
「早よしろ! ニワカ仕込みのてめェよか俺のがまだ立ち回れんだ。ちったあ役に立てクソデク!!」
BOOOM!!!
クソ!! 最大火力2発を超えるとさすがにキツい! だが、ここで抑えられねえなら今日やったこと、いままでやったことになんの意味もねえ!
「ぐぅうっ!(さっきので腰が……! でも、行くんだ! こんくらいの距離ならフルカウルの跳躍一回半で…! 走れ! そうだ、よりゴールに近い僕をオールマイトは無視出来ない! かっちゃんならそこを……!)」
「どけクソデク!!」
「!?」
ヒュオッ! ガッ! ドォン!
「ガハッ!?」
「寝てな爆豪少年! そういう身を滅ぼすやり方は……悪いが
ガッ!
「った!?」
「……うるせえ。早よ行けやクソデク……!」
クソが……! 頭を押さえ付けられて動かせねえし、手はボロボロでもう特大火力撃てねえ……。もうオールマイトを止める方法は噛みつくことだけだ……!
「折れて折れて、 たい奴頼って……自分捻じ曲げて選んだ勝ち方で、それすら敵わねえなんて……嫌だ!!!」
「爆豪少年……!」
俺がアイツを……デクを……!
―――――――――――――――――――――――――――――――――
Side:Izuku
「折れて折れて、 たい奴頼って……自分捻じ曲げて選んだ勝ち方で、それすら敵わねえなんて……嫌だ!!!」
かっちゃん……!!! あんなに負けず嫌いで、僕を嫌ってるかっちゃんがここまで僕を使って、頼ってるくれてる……!
そんなかっちゃんを見捨てて行くなんて、僕にはできない!!
「っと、行かせんぞ緑谷少女!!」
バッ!
「どいて下さい、オールマイト! SMASH!!」
「!?」
ドガッ!!!
「ガハッ! ゲホ…」
「かっちゃん!?」
倒れていたかっちゃんを抱き上げてすぐ反転してゴールへと急ぐ。かっちゃんの様子を見ると気絶してる。こんなにボロボロになるまで……ごめんよ、かっちゃん!
「ゲホッ……ガハッ……。思いっ切り殴ったね……。まったく! あと一歩駆けていればクリア出来てたかもしれんのに!!(そうだよ、初めからそうだったよ……。君は『救けてしまう』。そして、その時そこに壁など一つもないんだ。君は……そういう人間だった!!)」
『ゴール! 爆豪・緑谷チーム、クリア!!』
「ありがとうございます、リカバリガール……」
「あんた本当加減を知らないね! もう少し強く打ってたら取返しのつかん事になってたよ! 特に緑谷の腰、コレギリギリだったよ! それにお腹も殴るんじゃないよ! その辺の有象無象ならともかくあんたの力じゃ子供産めなくなっちゃうかもしれないだろ!」
確かに腰もキツかったけど、お腹も痛かったです。でも、子供産む産まないの話は、その、まだ先だと思うので今はスルーしたいです……。
「爆豪の方はしばらく目覚めないだろう。とりあえずベッド2人共校舎内のベッドに寝かしておきな。治癒後は消耗激しいからね。轟達もそっちで休んでもらってる」
そっか……。轟君や八百万さんはもうクリアしてたんだった。どんな内容だったのかな……。確か後で確認できるんだっけ? 他の皆はどうなってるかな……。
「あの……リカバリーガール、僕……ここで見てちゃダメですか?」
「フラフラだろう。しっかり寝とかんと……」
「あ、いや……! でも……」
「あんた、、自分で分かってないと思うけど
「は、はい……わかりました」
「他の生徒のものは後で確認できるから、ほらアンタとっとと連れていっておやり」
「わ、わかりましたリカバリーガール……。それじゃ、行こうか緑谷少女」
「は、はい。お願いします……」
こうして僕はかっちゃんを抱いたオールマイトと一緒に校舎にある医務室へ向かった。
「とにかく、期末テストお疲れ様。成績は後日出るが、君らはちゃんとゴールしてるから問題ないと思うよ」
「はい、ありがとうございます。……あの、今回テストと言っても意図的に各々の課題をぶつけてるんですよね?」
「ああ、そのとおりだよ」
「なんとなくわかる組もあるんですが……中には『何が課題なんだろう』って組も……。その、ちなみに僕達の組は……『仲の悪さ』ですよね?」
「……ああ。君のいう通り、『仲の悪さ』が課題だった。君は爆豪少年を苦手としているし、爆豪少年は君を毛嫌いし敵視しているとも思える」
「そ、そうですね」
やっぱり周りから見てもそう思えるよね……。
「まあ、それだけじゃない部分もあるがね。しかし、今回の試験でぎこちないながらも意見をぶつけ合い、協力することができた。これをきっかけに少しずついい方向に変わっていってくれると私は信じているよ」
「そう……なってくれるんでしょうか……」
「まあ、なるようになるだろうさ……。とにかく今は休みなさい」
「わかりました……」
それから先は言葉を交わすことなく、医務室にたどり着いた。
「それじゃあ、休んでおくように。試験がすべて終わって色々処置が済んだらリカバリーガールが起こしに来るから」
「はい、わかりました」
かっちゃんをベッドに寝かせてからオールマイトはそう言い残して医務室を後にした。僕も疲れがドッと来たのでそのまま、かっちゃんの隣のベッドに入って体を横たえるとあっという間に眠ってしまった。
眠りから覚めて意識が覚醒してくると、何かに包み込まれているのに気が付いた。布団にしては固くて重いしそのせいで身動きが取れない。でも、不思議と苦しくないのはなんだか落ち着く匂いがするからだろうか。なんだろう、昔から嗅いだことのある甘い匂い。寝ぼけ眼をこすろうとするがやはり動けないのでなんとか目を開けるとそこには……目を閉じて規則的に呼吸する幼馴染のかっちゃんの顔。
ちょっと!? どういうこと!? なんで僕かっちゃんと同じベッドにいて抱きしめられちゃってるの!?
そこまで考えて思い出す。トイレに行くために自分が一度目を覚ましたことに……。その時に間違えてかっちゃんの眠る隣のベッドに入っちゃったんだ! 僕のバカ! こんな漫画でもベタな展開ってあるかよ!
とにかく、この状況を抜け出さないと非常にマズい! 文字通り爆弾と寝ているようなものだ! なんとかかっちゃんが起きる前に抜け出さないと大惨事になっちゃう! そしたら、他の皆にも見られて何を言われるかわかったもんじゃない! というか、相澤先生からどんな指導をうけるか!
「ヤオモモ、いるー?」
「まあ、耳郎さん。試験お疲れ様でした。お身体は大丈夫ですか?」
「うん、ちょっと鼓膜痛めたけどリカバリーガールに治癒してもらったから大丈夫。ヤオモモは?」
「私は脂質使用の影響による疲労ですから、そこまで大事ではないですわ」
耳郎さんと八百万さん!? っていうか八百万さん起きてたの!? 全然気づかなかった! ってこの状況マズい! ばれたら弁解の余地なくかっちゃんがボコボコにされちゃう!
「よかった、轟は?」
「轟さんは他の皆さんの試験を見ると仰ってました。あの向上心、見習うべきですわ!」
「そ、そうだね。あ、そういや緑谷と爆豪は? あいつらも医務室に運ばれたって聞いたんだけど」
「緑谷さんも爆豪さんも演習時の疲労と治癒の消耗で休まれてますわ」
「そっか、あの2人の相手オールマイトだもんね。むしろあの2人の仲の悪さでよくクリアできたよね。そっちの方がビックリだわ」
僕だってクリアできたことにビックリだよ! それより、早く医務室から出て行ってくれないかな!? このままだとかっちゃんも起きちゃうからヤバいよ!
「たしかにあの2人は仲が悪く見えますが、その逆に誰よりもお互いを分かってると見えるときもあります。なんというか、とても不思議な関係ですよね」
「ホントそうだよね。あ、ヤオモモもう体調大丈夫なんだよね? ウチ相澤先生にヤオモモ呼ぶように言われてて」
「まあ、そうだったんですの。ありがとうございます。もう体調は問題ないので行きましょう」
「緑谷と爆豪はどうする? 一応声かけとこうか?」
耳郎さん!? その心遣いは嬉しいけど今はただの有難迷惑だよ!
「うーん、そのまま休ませておきましょう。お2人とも相当お疲れのようでしたし、今日の予定はもう期末テストだけであとはなにもないので大丈夫でしょう」
「それもそうだね。それじゃあ行こうか」
そう言って耳郎さんと八百万さんは医務室を出て行った。た、助かった。後はかっちゃんの拘束から逃れるだけ……。
……5分後、なんとかかっちゃんから解放された。かっちゃんって小さい頃から抱き枕派だったよね、確か。だから僕を無意識に抱きしめていたんだろうけど、今思い出しても顔が赤くなっちゃうよ!
それにしてもあんなに力入れて抜け出してもかっちゃん起きなかったな。相当疲れてたんだろうな……。
試験開始直後から話し合えてたら、もう少し楽に……とは言わないけど上手く作戦とか練れたのかな……。オールマイトは今後いい方向に変わっていくって言ってたけど、本当にそうなるのかな。
普段の険の取れた幼馴染の顔を見て僕は遠くはないけど予想のつかない未来に思いを馳せる。
その後、試験会場での処置を終えたリカバリガールが僕達を起こしに来て、雄英高校1年の期末テストは全日程を終了した。結果はこれからだけど、1学期のカリキュラムを一応終えたことは感慨深い。林間合宿はどんなことをするのかな。ワクワクしながら、今日の頑張りを皆と分かち合うために僕は教室へと向かった。
というわけで第35話でした! 無事試験をクリアできたようで作者も一安心ですw 試験後のアレコレはバレるとガチで相澤先生は退学や除籍にしかねないのでバレない方向で進みましたw そっちはそっちで面白そうでしたが、収拾が付かなくなりそうなのでやめましたw 今後は林間合宿編、その前準備かもしくは幕間にするか悩んでますが、このままのペースで進められたらと思いますので、今後も応援よろしくお願い致します!