「かっちゃん。話があるんだけど、ちょっといいかな?」
出久が決して大きくはない声で勝己に話しかけた瞬間、教室の空気が固まった。昨日の事件、『オールマイトによるヘドロヴィラン制圧・捕獲』はテレビやネットのニュースで放送されており、当然出久の住む街や通う折寺中学校にも広く知れ渡ることとなったのだが、オールマイトの活躍だけではなく、野次馬の誰かが撮影していたであろう出久と勝己の映像も公共の電波に乗ることとなってしまった。出久が勝己の元へ走る映像、ヴィランを躱しながらカバンをぶつけて怯ませる映像、ヴィランの中から勝己を引きずり出そうとする映像、出久の肩を掴み険しい表情で叱責する勝己の映像。出久と勝己、良くも悪くも校内で有名である2人の映像は様々な憶測を呼ぶこととなった。朝から校門前で待ち構えていた報道陣に取り囲まれていた出久を勝己が乱暴ながら腕を引いて校内に入ってきたこともそのことに拍車をかけていた。
「ああっ!! てめぇと話すことなんてねえわ、クソデク」
「……昨日のことで話したいことが、僕にはあるんだ」
「………………ちっ!」
承諾代わりに特大の舌打ちをすると乱暴に席を立って、足早に教室を出る。出久が勝己の後に付いて教室を出ると、教室は今までが嘘だったかのように騒然とした。
「おい! あいつらどうなってんだよ!?」
「あのニュース映像観た!? 緑谷さんってあんなに動けたんだね!」
「そこも凄いけど、あのヴィランに向かっていったところヤバくない!? 俺だったらその場から動けねえよ!」
「走ってく表情も鬼気迫る感じだったよね! 幼馴染って言うけど、どう見てもそれだけじゃないでしょ!?」
「爆豪が緑谷を怒ってた顔、アレいつもと全然違ったよな!? 絶対緑谷を心配してただろ!?」
「仲めちゃくちゃ悪いはずなのに、未だにアダ名で呼び合っているし、マジで意味わからなくない!?」
「ていうか、2人きりで行ったのいろいろヤバくないか!? なんか、『マチガイ』が起きそうな気が!?」
「ねえ、あなた達いつもツルんでるでしょ? ちょっと様子見てきてくれない?」
学級委員長の赤嶺雫がそう言うと、勝己とだいたい一緒にいる多田野一郎、並木次雄、平川三也に視線が集まる。3人が顔を見合わせるが、揃って首を横に振った。
「いやいや、俺達だけで行くのも怖いわ!」
「女子も何人か来てくれよ! 比率的に!」
「勝己も他の女子がいれば暴れねえと思うから、委員長頼むよ!」
「……わかったわ、じゃああなた達と……七海、萌。一緒に来てくれない?」
「いいよ、ちょっと面白そうだしね 」
「何わくわくしてるのよ……。確かに気にはなってたけど。」
「他のみんなは教室に居といてちょうだい。何かあったら誰かに連絡するから。そしたらすぐ先生を屋上に寄越してね」
こうして、男女6人の即席調査隊は編成され、2人の後を追った。
出久と勝己は屋上で無言で向かい合っていた。屋上へ向かう途中で他のクラスの生徒も興味本位で2人を見ていたが、勝己の一睨みで皆目を逸らしてそそくさとその場を離れた。
「おい、いつまで黙ってんだ? 俺はいつまでもてめぇに付き合う程暇じゃねえんだよ」
「うん、そうだね」
勝己に促されて、出久は話を切り出した。
「昨日、かっちゃんにノートを爆破されたとき、ついカッとなっちゃって、その、顔を叩いちゃってごめん」
「…………」
「それから、ヴィランに捕まったかっちゃんを助けようとして、危ないのに勝手に飛び出しちゃって、結局僕も捕まっちゃって迷惑かけてごめん」
「…………」
「あと、爆破したノートをわざわざ拾って、僕のカバンに入れてく「知らねえな」
出久は2回謝罪をした後、ノートを拾ってくれたことに感謝しようとしたが、勝己に急に遮られてしまう。
「てめぇのクソくだらねえノートなんて知らねえ。用件はそれだけか?」
「え、ええと……」
自分の思っていた通りに進まず出久は口ごもってしまう。勝己はもう話すことはないと言わんばかりに鼻を鳴らし、屋上からの出口へ向かった。
「僕!! 雄英目指すから!!」
「……!」
勝己が振り返り、出久と目が合う。
「かっちゃんはイヤだと思うけど! これだけは譲れないから!! 」
「……」
視線がぶつかり合い、沈黙が続く。
「……せいぜい無駄な努力重ねてろ」
勝己は出久から視線を外してからそう言い放ち、再び出口へ向き直す。すると、男女6人の顔が一串3個の団子よろしく縦に2つ、扉の両側に並んで2人の様子をうかがっていた。
「……! てめぇら……!」
「お、落ち着け勝己!? これには訳が!」
「す、すまん勝己! でも、クラスの連中もお前らが気になっててよ」
「委員長にも頼まれて、一緒に様子見に来たんだよ」
「……委員長?」
そう言って、雫を一瞥する。
「爆豪君とは初めて同じクラスになったわね。覚えてくれてるかどうかわからないけど、一応クラス委員長になった赤嶺雫よ」
「……で、その委員長様がわざわざこんなところに何の用だ?」
「何って、2人の様子見よ? 昨日あんなことに巻き込まれたあなた達が2人きりで屋上に行くなんて、何が起こるかわかったもんじゃないでしょ?」
「雫言い方!」
「委員長、頼むから煽るな!」
他の5人がはらはらする中、雫は臆せずに勝己と対峙した。しばらく視線を合わせていたが、勝己が鼻を鳴らしてぶっきらぼうに言った。
「俺はこいつに呼び出された側だ。文句ならこいつに言え。もう用は済んだから俺は行くぜ」
そう言って6人の間を通って屋上から校舎内に入っていった。男子3人は女子3人と出久を交互に見た。
「もう、大丈夫だよな?」
「俺達ももう行くわ」
「委員長達は緑谷をよろしく」
そう早口で伝えると急いで勝己の後を追った。
「……はあ〜〜〜〜〜、怖かった~~~~~!」
「雫! なんであんな言い方したのよ! 私達もめっちゃ怖かったんだけど!」
「いや、ビビッたらいけないと思って『私、あなたに対して一歩も引きません』って態度取ってみたんだけど、あまり効果なかったわね」
「というかなんであそこまで睨みつけられないといけないの? ヒーローよりヴィランの方が向いてるんじゃないの?」
勝己が居なくなってから緊張が解けたのか、女子3人は口々に感想を述べた。そんな彼女達を気遣うように出久は声をかけた。
「あの、大丈夫? かっちゃん、他の人に対してもあんな感じなんでだいたいの人はそれで萎縮しちゃうんで」
「ええ、大丈夫よ。それにしても……緑谷さん、あなた凄いわね。爆豪君のことを『かっちゃん』呼びできるなんて」
「あはは、一応幼馴染なんで。なんか、呼び方かなかなか変えられなくて」
「爆豪君と幼馴染って話には聞いたことあるけど、本当だったんだね」
「昔からあんな感じだったの? アレと何年も付き合ってるだけで緑谷さんがもう天使か仏に思えてくるわ」
「そ、そこまでのことかな? え〜っと、すみません。まだ顔と名前が一致してなくて……」
割と容赦ない勝己評に出久は苦笑しながら、3人に名前を尋ねた。
「ああ、そっか? 緑谷さんとも同じクラスになるの初めてだったわね。赤嶺雫よ」
「青木七海だよ、これからよろしくね」
「浅黄萌よ。もしかして、緑谷さんって爆豪君と3年間同じクラスだった?」
「う、うん。なんだったら幼稚園からずっと同じクラス……」
「「「緑谷さん、あなた本当に凄いわ」」」
「ええ!? そうかな?」
3人が見事にユニゾンした。
「え〜っと、それでどうして赤嶺さん達がここに?」
「昨日、緑谷さんと爆豪君が事件に巻き込まれて、いろんな映像が流れてたでしょ? で、今日もマスコミに囲まれてた緑谷さんを爆豪君が助けて、極めつけは屋上で2人きり話をするってなって。もしかしたら『あはんうふん』なことが起きたらまずいと思って、爆豪君といつもいる3人も連れて様子を見に来たってわけ」
「雫、言い方が古いしおっさんくさい」
「まあ、野次馬根性もあったけど、普段の話聞いてたから大丈夫なのかなって思って」
「『あはんうふん』って……でも3人とも心配してくれてありがとう。……でも……僕とかっちゃんがそんな風になることなんてないよ」
出久の言葉には彼女の感情の揺らぎが含まれていたが、雫達には感じ取れなかった。
「あ、僕達が話してた内容聞いちゃった?」
「そうね、緑谷さんが『雄英目指すから』ってところから聞いていたわ」
「爆豪君に啖呵切るの、カッコ良かったよ!」
「雄英ってヒーロー科は当然だけど、普通科も引けを取らないくらい難しいよね。緑谷さんならイケると思う」
「昨日、緑谷さんが普通科を受けるって言ってたこと、しっかり自分で考えて悩んだんだろうなってわかったわ。上手く言えないけど、私達もちゃんと考えなきゃいけないなって思ったの。だから、私達みんな、緑谷さんに感謝してるわ、ありがとう」
「さすがに今日みたいに爆豪君と面と向かうのはちょっと怖いから難しいかもしれないけど、一緒にしゃべるくらいならできるからさ」
「愚痴があれば付き合うよ」
「赤嶺さん……青木さん……浅黄さん……」
出久は胸に込み上げるものを感じた。周りの人は出久と勝己の関係を知ると腫れ物に触るような態度を取るものがほとんどだった。昨日の事件があったとはいえ、出久を気遣ってくれる存在に彼女は最近緩んで仕方ない涙腺がうずうずするのを必死でこらえた。
キーンコーンカーンコーン………………
話している内に予鈴がなった。思ったより時間がかかっていたことに気付き、頭の中で次の授業が何かを思い出して雫は慌てて他の3人に伝えた。
「ヤバ!? 次の授業は移動教室だから、一旦戻って準備しないと!」
4人で急ぎ校舎内に入っていく。慌ただしさの中で出久はこれまであまりなかった暖かさを感じた。
放課後、出久はスマホを見てニヤニヤしながら帰り道を歩いていた。あの後、出久は雫、七海、萌の3人と連絡先を交換した。幼少期から同年代の女子とあまり仲良く話せなかった出久にとって連絡先を交換するなどほとんどなかった。次から一緒に昼ごはんを食べようと誘われたときはそれまでこらえていた涙を流してしまい、3人を慌てさせてしまった。さすがにかわるがわる頭をよしよしされて『僕は子供じゃない!』と頬を脹らませるとそんなところもカァイイと言われてしまった。
そんなふうに今日あった出来事を思い出しているとスマホが震えた。見るとメールが届いており、送信相手はオールマイト。すぐに受信ボックスを開いて内容を確認する。
『やあ、緑谷少女。元気にしているかな? OFAの特訓についてだが、明後日から開始する。場所は市営多古場海浜公園、時刻は朝5時。動ける服装、運動服やジャージで来てくれ。』
先程までのふわふわした気持ちが引き締まる。
「ついに始まるんだ。オールマイトの
これからの日々への期待と不安と決意を胸に、出久は家へと急いだ。
第3話から特訓までのあれやこれやを書きました。原作ではそこまで詳しく描写はないですが、こっちの出久と勝己だったらいろいろ憶測や勘繰られたりしただろうなと思っていました。本編に入れると冗長になるかなと考え、前書きでも書いたように幕間という形をとりました。モブキャラとしてオリキャラを入れてみましたが、名前考えるって大変ですね。もしかしたら、本編にもちょろっと出るかもしれません。今後もいろいろ試しながらやっていきたいと思いますので、よろしくお願いします。何かアドバイスやご意見があれば感想やメールボックスにお願い致します。全てを採用はできませんが、アイデアの元として取り入れるかもしれないので、気が向いたらどうぞお願い致します。