僕のヒーローアカデミア~諦めから始まる物語~   作:キョンP

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お待たせ致しました、第52話です! 今回もなかなかぶっ飛んでます!
それでは、どうぞ!


第52話 前を見据えて

「私の中の残り火は消えた、『平和の象徴』は死にました」

 

 AFO・敵連合との……後に『神野事件』と呼ばれる死闘が終わった翌日、オールマイトは病室でそう語った。室内にいたグラントリノ・塚内・サー・ナイトアイは黙ってその言葉を聞いていた。

 

「しかし、まだやらねばやらぬ事があります」

「死柄木弔、志村の孫……か」

「奴の発言だろ? 根拠が薄くはないか?」

「オールマイトもグラントリノも先代の家族とは交流がなかったのですか?」

「ああ……。志村は夫を殺されていてな」

 

 ナイトアイの問いにグラントリノが沈痛な面持ちで答える。

 

「我が子をヒーロー世界から遠ざけるべく里子に出している。俺や俊典には『私にもしもの事があってもあの子には関わらないでほしい』と……」

「故人との約束が逆に……やるせないな」

「お師匠がせめて平穏にと決別した血縁……! 私は死柄木を見つけなければ……見つけて彼を……」

「だめだ」

 

 グラントリノがオールマイトの言葉を遮る。

 

「見つけてどうするんだ? オールマイト」

「ナイトアイ……」

「お前はもう奴を(ヴィラン)として見れない、必ず迷う。素性がどうあれ奴は犯罪者だ」

 

 グラントリノの言葉にオールマイトの表情が歪む。グラントリノの言う通り、死柄木が自身の師匠、志村菜奈の孫と知って今までのように……USJで対峙した時のように攻撃できるのか、自身でも断言することができなかった。

 

「死柄木の捜索は、これから俺と塚内で行っていく。お前は雄英に残ってすべき事を全うしろ。平和の象徴ではいられなくなったとしても、オールマイトはまだ生きてるんだ」

「私も協力しよう。彼女……彼女達が奴らと立ち向かえるように……」

「……わかりました。先生、塚内君、ナイトアイ……ありがとう」

 

 グラントリノの言葉に塚内、ナイトアイも頷く。OFAの残り火は消えたが、恩師と友人の言葉を胸にオールマイトは出久や勝己達ヒーロー科の生徒を鍛え導くという決意を新たにした。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

Side:Izuku

 

「う、う~ん」

 

 眩しさに顔を顰めながら目を開けると、視界にはもう見慣れたもの……一昨日からいる雄英の病室の天井が見えた。ゆっくりと身体を起こすとやっぱりこれもすっかり見慣れたお手伝いロボが僕に声を掛ける。

 

「起キタカ」

「うん、おはようロボくん。……ロボさんがいいのかな?」

「リカバリーガールヲ呼ンデクルカラ待ッテロ」

 

 あ、スルーされた。さすがに3日も一緒にいるから少しは打ち解けたと思ったんだけど……ロボだからその辺りの感情とかはないのかな? 不愛想に部屋の外に出ていくロボを見ながら僕はそんなどうでもいいことを考えていた。

 

 部屋で一人になってふと昨夜のことを思い出す。オールマイト、もうOFAの残り火を使い切っちゃったんだ……。かっちゃんは僕だけのせいじゃないって言ってくれたけど……。やっぱり、僕がもっと頑張らないといけないんだ……。僕がOFAの継承者なんだから……!

 

 ……そういえば、昨日はかっちゃんに抱きしめられながら泣き疲れて寝ちゃったみたいだから今思うと少し恥ずかしいな……。かっちゃんはどうしたのかな? あの時間から帰ると結構夜遅くなっちゃうと思うんだけど……。

 

「おはよう緑谷」

「おはよう緑谷さん」

「おはようございます」

「今日で最後の治癒を施すから、午後には家に帰れるよ」

「身体は大丈夫かしら?」

「はい、大丈夫です」

「それはよかったわ。昨日は爆豪君に支えられて寝ちゃってたから少し心配だったんだけど」

「え”!? 見てたんですか!?」

「ええ、ちょうど緑谷さんが眠ったところぐらいかしらね。あの後、爆豪君は指導室で相澤君や山田君……プレゼント・マイクに根掘り葉掘り聞かれたみたいだけど」

 

 ミッドナイト先生の言葉に頭を抱えてしまった。あんなところ見られたらどう言い訳してもそういうことしているようにしか見えないよ! 最悪かっちゃんが除籍になっちゃう!

 

「一応、誤解と言うか何事もなかったから安心して」

「そ、その……かっちゃんは?」

「爆豪君は朝一で家に帰ったわ。お母さんに何も言わずに雄英に戻ったみたいだから、こっぴどく叱られたみたいね。一旦戻ってまた来るみたいよ」

「ああ、光己さん……かっちゃんのお母さん一応門限にはうるさいので事前に連絡ないとすごく怒るみたいなんですよ。かっちゃんも小さい頃から逆らえないみたいで……」

「へえ~。爆豪君あんなに見た目はヤンキーなのに母親には弱いのね」

「(……ヤンキーってもう死語じゃないかな?)そ、そうですね……」

「……さて、それじゃあ少し真面目な話をしようかね」

「は、はい!」

 

 リカバリガールが咳ばらいを一つするとミッドナイト先生は頷いて病室を出た。リカバリーガールが僕を見据えて話を続ける。

 

「一昨日からあんたの腕を診察・治癒を行ってるが、ぶっちゃけ今回はこれまでのものと比にならん程重い」

「比にならん……というのは……?」

「私ゃあんたの怪我を何度も治癒してきたが、ほとんどはOFAの100%を使ったことによる反動だった。……あんた、今回は100%を超えて使ったね?」

「……はい」

 

 洸汰君を守るためにマスキュラーと対峙したとき、100%のOFAを耐えるマスキュラーを倒すために1,000,000%って数字に無理やり上げて攻撃した……。

 

「OFAの反動による怪我はいわば身体の内側から爆竹が爆発するようなもの。そもそも人の身体は普段80%程度のパワーしか出せないようにリミッターが掛かっているが危機的状況に陥った時、リミッターを外して100%の力を出せる……いわば『火事場の馬鹿力』だね。当然リミッターが外れて動いてるから、その後に身体になにがしかの怪我やら悪影響が残るわけだ。普通はリミッターが外れることなんてそうそうないし短時間で終わるが、あんたは違う」

 

 そこで言葉を切ってリカバリガールが僕を真っすぐ見つめる。そう、僕は他の人と少し違う……。

 

「あんたはOFAを持っていて意識的に100%を……リミッターを外せる。今回は100%を超えるパワーを長時間に渡って使用した」

「……」

「骨・筋肉がボロボロなのもマズいが……何より靱帯が酷く劣化している。あと……どうだろうね。二度三度か……同じような怪我が続けば腕の使えない生活になると思いなさい」

「……」

 

 同じような怪我が続けば……腕が使えなくなる……。無理をしている自覚はあった。だけど、面と向かって言われると現実を突きつけられる。こんなんで……僕はヒーローに……オールマイトの後継者になれるのか……?

 

「元に戻すにはリハビリあるのみ。痛くてもガンガン使っていくように。それじゃあ、朝食食べて少し経ってから最後の治癒を施すよ」

「はい……」

 

 リカバリーガールの言葉に力なく返事をして僕は食事の為に部屋を出て食堂へと向かった。

 

 

 

「デクちゃ~ん!!! 来たよ~!!!」

「お茶子ちゃん、ちょっと声が大きいわ」

「緑谷元気~?」

「あ~、よかった~! 起きてた~!」

「やっと起きてる姿が見れたわ」

「緑谷さん、お身体の調子はいかがですか?」

 

 治癒を施してもらった後、部屋で何もすることがなくスマホも壊れて失くしてしまったのでテレビを見たり借りたタブレットを使って時間を潰していたら部屋の中に麗日さん達が入って来た。

 

「麗日さん!? 蛙吹さんに芦戸さん、葉隠さん、耳郎さんに八百万さんも! 皆どうして……」

「どうしても何も、デクちゃんのお見舞いに決まっとるやん!」

「緑谷がここに来てから毎日来てたんだよ!」

「私達も昨日退院してから来てるよ~!」

「ウチらも意識なかなか戻らなくて人のこと言えないけど、心配したんだからね」

「本当に、本当に心配したのですよ!」

 

 皆が僕の傍に来て僕が治療で起きてなかった時にも来てくれてたことを話してくれた。ここ数日のことなのに長い間会えなかったみたいに感じて不意に目頭が熱くなって涙が溢れてきた。

 

「ちょっ!? デクちゃん大丈夫!? まだ身体が痛むの!?」

「リカバリガール呼んでくる!」

「私も行く!」

「ちょっと!? 2人とも落ち着いて! 大丈夫だから!」

 

 慌てて部屋から飛び出そうとする芦戸さんと葉隠さんを呼び止める。

 

「ちょ、ちょっと皆に会えてその、嬉しかったから……。ここ数日いろいろあって凄く長い時間会えてないような感じがして……わっ!?」

「デクちゃ~ん! 私らも嬉しいよ~!」

「私らもなかなか会えなくて寂しかったよ~!」

「出久ちゃんよかったよ~!」

 

 麗日さん・芦戸さん・葉隠さんがが泣き笑いながら僕に抱きついてくる。3人の力が強くて少し苦しいけど……暖かくてそれが心地よかった。

 

「ケロケロ、本当によかったわ出久ちゃん」

「蛙す、つ、梅雨ちゃん……」

「梅雨ちゃんと……ケロ!?」

「えへへ、まだちょっと恥ずかしいけど……」

「ありがとう出久ちゃん、ケロ♪」

「ふふふ♪ 緑谷さん、モテモテですわね♪」

「ヤオモモ、モテモテって言葉知ってたんだね……ん?」

「あの~、耳郎さん」

 

 不意に男の子の声、上鳴君の声が聞こえたのでそちらの方へ視線を向けると、ドアの傍で上鳴君が顔を見せていた。

 

「なによ上鳴」

「いやなによじゃなくて、俺達も入っていいかな?」

「今ウチら女子メンバーが感動を分かち合ってるんだから、もう少し後にしてくれる?」

「ちょっと酷くね!?」

「まあそう言わずにさ」

「え~っと上鳴君と切島君も来てくれたんだね」

「俺達だけじゃないぜ!」

 

 そう言って、上鳴君と切島君が部屋にドアを開けて入ってくると他のクラスの皆も続いて入ってきた。

 

「え、えっ!? クラス全員来てくれたの!?」

「ああ、今日あたり退院って聞いてさ。皆緑谷に会いたがってたんだぜ?」

「瀬呂君……」

 

 クラス全員、正確にはかっちゃんを除いた18人が集まってくれた。僕の無茶でこんな状況になってるのに皆心配してくれて……。

 

「もう! 緑谷泣かないでよ~! 皆心配しちゃうじゃん!」

「うん、でも……嬉しくて……申し訳なくて……」

「ほらほら、出久ちゃん泣き止んで。本題はこれからだから」

「本題?」

 

 目元を拭いながら葉隠さんの言葉に疑問を口にすると、麗日さんや他の皆が改まった表情で僕を見ていた。

 

「え、え~っと……」

「デクちゃん、気を付け!」

「は、はい!」

 

 いきなり麗日さんに言われてベッドの上で『気を付け』の姿勢を取ると……横にいた麗日さんに両方のほっぺたを抓られる。

 

「う、麗日さん(うららひゃひゃん)? い、痛い(いひゃい)……」

「デクちゃん、私らデクちゃんが無事で安心したけど少し怒ってもいるんだからね」

「え?」

「爆豪君を救けるため、救けたいからってあんなボロボロなのに飛び出していくなんて……。そりゃあ、デクちゃん身体が動いちゃうから仕方ないかもしれないけど……もう少し自分の身体の事も考えてほしい!」

麗日さん(うららひゃひゃん)……」

「で! 皆少なからず同じ想いを持ってたのでこれから皆でデクちゃんのほっぺを抓っていきます! 心配させたんだから拒否権はないからね! では、次!」

 

 麗日さん、というか皆の意図を理解して頷いた。皆が心配したという気持ちはわかるし、僕自身も無理をした自覚はある。これはある意味、必要な儀式だ。

 

 麗日さんに続いて芦戸さんが僕の頬を抓ってくる。

 

「緑谷! 今後は無茶しちゃダメだよ! 無茶しなきゃならない時でも気を付けなきゃダメだよ! アンダスタン!?」

(ひゃ)はい(ひゃい)……」

「は~い! 次は私ね!」

 

 葉隠さんが見慣れた透明な姿で僕の傍にやって来た。透明な手で僕のほっぺたを抓る様子は周りから見るとシュールだろうなあ……。

 

「出久ちゃん! 無茶しないように! でないとフル装備で出久ちゃん尾行しちゃうからね!」

痛い痛い(いひゃいいひゃい)……。フル装備って、葉隠さんのそれは全裸だからやめた方がいいよ!?」

「ケロ、次は私ね。出久ちゃん、ヒーローを目指す私達はこれからも無茶しちゃうかもしれないけど、それでも自分の命を投げ出すようなことはしないでちょうだいね……」

 

 蛙吹さんの少し大きめで少しヒンヤリする指が僕のほっぺたを抓る。静かに話しているけど、蛙吹さんの『命を投げ出さないで』という言葉が僕の胸を締め付ける。

 

「蛙吹さん……。うん、できるだけ頑張るね」

「梅雨ちゃんと呼んで」

「うん、梅雨ちゃん」

「ケロ♪」

「じゃあ、次はウチが。正直、ウチもガス喰らって心配かけちゃったからあんまり人の事言えないからこれで」

 

 そう言って耳郎さんが両耳のジャックを伸ばして僕のほっぺたをツンツンと突いた。……なるほど、ジャック部分は金属みたいな硬さと冷たさがあるな。人体由来でこんな硬度を出せるのかな? でも、骨ならだいぶ硬いしそれに血中の鉄分とか含まれるからそれが変化した形なのかも……。

 

「緑谷、あんたこんな時でも相変わらずなんだね……」

「僕また口に出してた!?」

「ふふふ♪ でもらしいよ。これからはピンチの時もその分析力で乗り越えちゃえばいいじゃん♪」

「……うん。ありがとう、耳郎さん」

「次は私ですわね」

 

 A組女子のトリは八百万さんだ。女子メンバーでは一番身長の高い八百万さんが僕の傍に立つが、だいぶ大きく感じる。

 

「私、緑谷さんの自己犠牲の精神と行動力は尊敬しておりますが、今回の事は度を過ぎてるので少々憤っております。ですので、頬を抓るのは創造した万力を使用しようと思ったのですが……」

「万力で抓られたら僕のほっぺた千切れちゃうよ!?」

「ですので、皆さんと同じように致しますわ」

 

 そう言って八百万さんはよく手入れされた滑々な指で僕の両ほっぺたを抓った。

 

「私も人の事を言えませんが、無茶はくれぐれも控えるようお願いしますわ……」

「……うん。努力するよ……」

 

 僕の言葉に八百万さんはにこりと微笑んで僕のほっぺたから指を離した。八百万さんには努力するとは言ったけど……そのときになったら僕はどうするだろうか……? 

 

 おそらく、これまでどおり動いちゃうだろう……。その時に自分だけでなく誰も傷つけないよう、強くならなくちゃ!

 

「はい! というワケで女子メンバーは終了! 続いて男子、名簿順で青山から……カモン!」

「ウィ☆」

 

 芦戸さんの掛け声に青山君がフランス語で答える僕の傍に来て、僕のほっぺたを抓りながら普段と違った神妙な面持ちで話し始めた。あ、青山君の指、八百万さんと同じくらい滑々してる。なにかいい匂いもするし、結構高いハンドクリーム使ってるのかな?

 

「緑谷さんは凄いね。僕はあの時怖くて何もできなかったよ……」

「青山君……」

「そんなことないよ! 青山君は気を失ってたB組の生徒や耳郎ちゃんや葉隠さんを運んでくれたよ!」

「ありがとう麗日さん。でも、僕が動けなかったことは事実だ。だから、自分の危険を厭わずに動いた緑谷さんは本当に凄いよ」

「そんなこと……」

「でも、麗日さん達の気持ちはよくわかるよ。皆、君の事が好きだから心配してるんだよ。もちろん、僕達もね。だから、そのことを忘れないでね☆」

「へ? あああ青山君!? すすす好きって、どどどういう意味で!?」

「もちろん友人としてさ☆」

「そそそそうだよね! 友人としてだよね!」

「ん~? 緑谷どうしたの? 顔が赤いよ~♪」

「ななななんでもないよ芦戸さん! それより! 次いこ次!」

「ちぇ~。面白くなりそうと思ったのに……。はいそれじゃあ次、飯田!」

 

 言葉通り残念そうな芦戸さんの呼びかけで飯田君が僕の隣に立つ。そして、僕の右頬をつまみながら静かに話し始めた。

 

「緑谷君、俺は怒っている。それは君自身が大怪我を負ってるにも関わらず無理を重ねたからだ」

「飯田君……」

「しかし……そんな君だから、俺は君を尊敬してるんだ……。俺からは無茶するなとは言えない……。でも、少しは自分の身体も気にかけてほしい……。俺から言えるのはそれだけだ」

「……飯田君、ありがとう」

 

 飯田君が力強く頷いて次の尾白君がやって来た。

 

「正直、俺は今回なにもできてないから緑谷にどうこう言えないと思うけど」

「そんなこと……」

「でも、思っていることは皆と一緒だから。……無理しすぎないようにね」

「うん……」

 

 鍛えられた硬さのある指でほっぺたを抓ってから後ろに下がっていく。

 

「んじゃあ、次は俺だな」

「上鳴君」

「まあ、俺や切島達は補習講義でほとんど蚊帳の外だったんだけど、マンダレイのテレパスや麗日達の話でお前がヤバい状況だったってのはわかったよ」

「……」

「俺、個性は結構強いけど身体能力はめちゃくちゃ高いわけじゃねえけど、緑谷がすげえってことはわかるぜ。なんか上手く言えねえけど、無理しても無茶はしないでくれよ。なんか変かな?」

「ううん、大丈夫だよ。ありがとう、上鳴君」

「ああ、っと忘れてた」

 

 そう言って僕のほっぺたを抓る。と同時にピリッと衝撃が走った。

 

「ひゃあ!?」

「一応俺らしいオリジナリティー入れといたぜ、ギャア!?」

「あんた余計なことしてんじゃないわよ!!」

「あ、あははは……」

 

 どうやら抓ると同時に電気を流したらしい。少しビックリしたけどそれ以上に耳郎さんが上鳴君をイヤホンジャックで黙らせたことにビックリしちゃった。

 

「それじゃあ、俺だな。上鳴も言ったみたいに俺達補習だったから全然役に立たなかったぜ。あんな時こそ、俺の個性が役立つはずなのによ……。緑谷、お前は『漢』だぜ」

「切島君……」

 

 確かに切島君の個性は防御では屈指の強さだ。切島君がいるだけで状況が優位になることは多いと思う。

 

「だから、今後もこんなことがないように俺は勉強も頑張るよ。だから、緑谷も無茶しないよう頑張ろうぜ!」

「……うん。頑張ろうね、切島君!」

 

 尾白君と同じように硬く筋肉質な指で僕の頬を抓ってから拳を前に突き出した。僕もそれに応えて拳を突き合わせてから切島君は後ろに下がった。

 

「その、僕は個性的にも直接戦闘苦手で、今回全然手助けできなかったけど、緑谷さんを助けられなくて悔しかったよ」

「口田君……」

「僕性格も引っ込み思案だけど、ヒーローになりたいって気持ちは本当だから、その……頑張ろうね!」

「うん、一緒に頑張ろう、口田君」

 

 ゴツゴツした指だけど大人しい性格にあった弱めの力で僕を抓ってそのまま後ろに下がっていった。

 

「同じく役に立てなかったけどよ、同じ場にいたとして俺が緑谷みてえに動けたかはわからねえ。だから、緑谷はすげえよ」

「砂藤君……」

「俺もパワー系で直接戦闘がメインだからよ、無茶しなきゃいけない場面が出てくると思うんだよ。だから、一緒に頑張ろうぜ緑谷!」

「うん! 頑張ろうね、砂藤!」

 

 よく鍛えられた、でもよく手入れされているゴツゴツした指でほっぺたを抓った後、切島君としたのと同じように拳同士を突き合わせて砂藤君は障子君と入れ替わるように下がった。

 

「さて、俺は腕を複製できるから最大6つの手で抓られるわけだが……」

「そんなにやられたら僕のほっぺたが千切れちゃうよ!」

「冗談だ」

「障子君も冗談言うんやね!」

「麗日、私も気になったけど今はそこじゃない」

「俺や轟は目の前でお前がいなくなるのを見た。その時の無力感は今でも忘れることは出来ない」

「障子君……」

「あれを再び味わうことのないように頑張ろう、俺もお前も」

「……わかったよ、障子君」

 

 佐藤君と同じくらい大きな手で僕のほっぺたを抓って後ろにいた瀬呂くんと入れ替わる。

 

「はい、最後の補習組の瀬呂君ですよ~っと。正直俺も直接戦闘苦手だけど、あの場所だったら地形を利用していろいろできたと思うわ」

「瀬呂君」

「でも、その場にいられないんじゃ意味がないな。俺も勉強頑張るわ。一緒に頑張ろうな、緑谷」

「うん、頑張ろうね瀬呂君」

「あとあんま無茶すんなよ、かっちゃんが怒っちゃうから大変だぜ?」

「た、確かに……」

「そういや爆豪君は? まだ来てないんやね」

「緑谷知ってる?」

「え~っと……わからないかな、うん」

 

 『一旦帰って後でまた来る』って言おうとしたけど、それだと昨日ここに泊まったことが知られてしまって色々面倒だと思ってなんとか誤魔化した。

 

「次は俺だな」

「常闇君」

黒影(ダークシャドウ)のことも含めていろいろ迷惑をかけてしまった。すまない」

「常闇君! 頭を上げてよ! 僕だって無理して、皆に心配かけちゃってるんだから……」

「……そうだな。俺も自分に足りないところを直視していかねばならない……。やることが多いぞ、俺もお前も」

「……うん。頑張ろうね、常闇君」

「フミカゲモミドリヤモガンバレヨ」

「勝手に出てくるな黒影」

 

 常闇君と黒影に左右両方のほっぺたを抓られて、今度は轟君が僕の傍に来た。

 

「障子も言ってたが……目の前でお前がいなくなった時、すげえ悔しかった」

「轟君……」

「俺や障子があの時爆豪君が閉じ込められたボールを取れてれば……お前が攫われることもなかったのにな」

「……ごめんね轟君。夢中で身体が動いちゃったけど、心配かけちゃったね」

「これから鍛えればいいだけだ。俺もお前も……もちろん爆豪もここいる皆でな」

「…………うん」

 

 轟君が両側のほっぺたを抓る。少し個性を使ってるみたいで右手がヒンヤリ涼しくて、左手がポカポカして暖かい。こうやって少しずつコントロールできるようになってるんだね……。

 

「んで、トリが俺って訳か」

「あ、峰田変なことしたら溶解度MAXで溶かすからね」

「私は大気圏外まで浮かせちゃうからね」

「ウチも最大出力でドックンするから」

「お前ら俺を何だと思ってんだ!?」

「日頃の行いね峰田ちゃん」

「クソが!」

「あははは……ちょっとかっちゃんが混ざってるよ峰田君」

「まあいいわ。緑谷、俺もまるっきり役に立てなかったわ。正直俺も直接戦闘は苦手だ。だけどな、USJの時お前言ってくれたよな? 俺の個性は強いって」

「……うん、峰田君の個性は強いよ。敵の拘束にも使えるし災害現場でに足場構築とか崩れた部分の補強とかにも使える汎用性の高い個性だよ」

「あんがとよ緑谷。でも、やっぱりそれだけじゃダメだと思うんだ。敵を倒すだけがヒーローじゃないけど、ある程度戦えないとヒーローは務まらないと思うんだ!」

「峰田君……」

「あんなおっかない敵とやるのは怖えけどよ、ビビッてばっかりじゃいられねえしな! やったろうぜ緑谷!」

「……うん! 頑張ろうね峰田君!」

「それじゃあ、ほっぺたを「峰田君、手の向かう場所違うよね?」

「すんません……」

「あははは……」

 

 麗日さんの『凄みのある笑顔』に気圧されて峰田君は僕のほっぺたに手を伸ばして抓った。

 

「はい終了!」

「ちょっ!? 短すぎんだろ! もう少し触らせろよ!」

「うっさい下がれ!!!」

「ギャアアアア!?」

「その言い方がもういやらしいよ峰田君!」

「あははは……」

「なんかこれが俺ららしいな」

「確かに!」

 

 ここ数日続いたであろう空気が変わって部屋の雰囲気が一気に明るくなり、皆もそう感じたみたいで表情が柔らかくなった。ドックンを喰らった峰田君も笑ってる。たぶん耳郎さんも幾分か手加減していたんだろうな。少し前の教室での雰囲気が戻ったようで僕も気持ちが少し軽くなった。

 

 

「こんにちは~。緑谷さんいる~?」

 

 そう呼びかける声がしてドアの方を見るとそこには私服姿のマンダレイが立っていた。

 

「マンダレイ! どうしてここに?」

「緑谷さんのお見舞いに来たのよ、この子も一緒にね。ほら洸汰」

 

 そう言って後ろに声を掛けるとおずおずとした様子で洸汰君が部屋の中に入って来た。

 

「洸汰君! お見舞いに来てくれたんだね!」

「!」

「どうしたの?」

「ほら、洸汰。恥ずかしがってないでちゃんと言いなさい」

「ちょっ!? 今いうから黙っててよ!」

「はいはい♪」

 

 マンダレイにせっつかれて洸汰君が後ろ手で僕の傍までやって来る。なんだろう?

 

「そ、その、初めて会った時にいきなり殴りかかってごめんなさい。それから、僕を助けてくれて……ありがとう、ございました。これ、お礼とお見舞いです……」

 

 そう言ってお見舞い用の花束と果物の入った小さなかごを僕に差し出した。

 

「これ、洸汰君が!? ありがとう、洸汰君!」

「う、うん。どういたしまして……」

「やったねデクちゃん! ファン第一号だよ!」

「ふぁ、ファンだなんてそんな大げさだよ麗日さん……」

「そんなことないです!」

 

 僕が麗日さんの言葉をやんわり否定すると洸汰君が大きな声でさらにそれを否定した。

 

「洸汰君?」

「その、緑谷……姉ちゃんは、僕を救けてくれた……ヒーローです……」

「洸汰君……」

 

 驚いた。洸汰君を救けるときは無我夢中でお礼を言われるとかそんなことは全く考えていなくて、さっき言われたお礼でも十分嬉しかったのに……僕を、無個性だった僕をヒーローだと言ってくれるなんて……。

 

「洸汰君……ありがとう。僕をヒーローと呼んでくれて……」

「ああ~デクちゃん!? 泣いちゃダメだよ~! 洸汰君が心配しちゃうじゃん」

「え? え!? 僕なんかしちゃった!? ごめんなさい!」

「ああ洸汰君大丈夫! これは嬉し涙だから!」

「洸汰君なかなかやるね~、女の子を嬉し泣きさせるなんて♪」

「上鳴や峰田よりできた子だね」

「なんでそこで俺達の名前が出てくるんだよ!」

「俺達がこんなガキんちょより下だって言うのかよ!」

「覗きやってる時点で人としても下だろうが!!」

「「ギャアアア!?」」

 

 麗日さんから渡されたハンカチで目を拭ってる間に上鳴君と峰田君が耳郎さんからドックン攻撃を喰らってる。峰田君はともかく上鳴君はとばっちりじゃないかな? そんな感じで部屋中に笑い声が広がっていると……。

 

「お~爆豪! やっと来たか!」

「遅かったな、てっきりもう来てたかと思ったぜ」

 

 切島君と瀬呂君の声でドア付近に目を向けるとかっちゃんの姿があった。一旦帰って着替えたらしく昨日服装が違ってる。昨日泣き疲れて眠るまで抱きしめられてたからちょっと顔見るのが恥ずかしい……。

 

 声を掛けられたかっちゃんだったけど、部屋にはすぐ入らず視線を色々なところに向けている。なんか珍しいかも。僕の方に視線を向けるとしばらくこちらを見ていた。なにかあったのかな?

 

 そして、無言で部屋に入ってくるとつかつかと僕の元へまっすぐやって来た。

 

「ちょっと爆豪君。遅れてやって来たのに挨拶もないん? ってちょっと!?」

「かっちゃんどうかしたの?」

 

 かっちゃんが麗日さんを軽く押しのけてベッド脇の椅子に座る。本当に何かあったのかな? うん? 何か距離が近いような……。ベッドに手をついて僕の傍に来て僕の左腕を身体で押さえて……って!? ちょっと!?

 

「ちょっとかっちゃん!? なに、んん!!?」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

Side:Katsuki

 

 朝一でババアから帰ってくるように言われて一旦家に戻ったらもう昼前だ。確かに連絡いれなかった俺は悪いが、ぶん殴るのはあり得ねえだろ。今をいつの時代だと思ってやがる。しかも、デクの様子が心配だから戻ったって言ったら『それを早く言え!』ってさらに二発殴られた。理不尽すぎるだろ!

 

 とまあ不平不満を脳内でぶつくさ言ってたらあっという間に雄英に着いて、昨日のデクの様子を思い出す。オールマイトが……OFAの残り火を出し尽くした様子を見て取り乱していた。なんとか落ち着いたが、これから先どうしていくか……。あの時は俺達が次を目指すなんて考えたが、当然そんな簡単なもんじゃない。今だってまだ仮免すら持ってないただの学生だ。

 

 だが! それでもやるしかねえ! オールマイトの意志を継げるのは俺達だ! そう信じて進むしかねえ!

 

 さしあたっていつデクにOFAを返すか……。OFAの中……って言うのかわからねえが、あの空間で現実世界でキスするって言ったからその時に返すとして、問題はいつか? この後病室でって言うのも急でよくないだろうしかといって帰り道とかじゃさすがにムードがねえし……う~ん、どうするか?

 

 考えながら校舎に入っていくとミッドナイトに呼び止められた。

 

「あら、爆豪君。思ったより早かったわね。」

「どもっす。あのデクは?」

「ええ、治癒は終わってるから、もう帰れると思うわ。あいにく相澤君は手が離せないみたい。あ、それから今A組皆も来てて緑谷さんのところにいるわ」

「あいつらも? わかりました」

 

 ミッドナイトに頭を下げてデクのいる部屋に向かう。あいつらが先に居て俺が最後ってのはなんかムカつくな……。

 

 早足で部屋に向かうと中から笑い声が聞こえてくる。疑問にドアを開けると上鳴(アホ面)峰田(クソブドウ)耳郎(みみ)に攻撃を喰らって悶絶していて、それを皆で笑っていたらしい。

 

「お~爆豪! やっと来たか!」

「遅かったな、てっきりもう来てたかと思ったぜ」

 

 切島と瀬呂が俺に気付いて声を掛ける。部屋の中を見るとマジで全員いるみたいで広くもない部屋によく入ったなと妙なところで関心した。デクを探すとベッドの上にいた。治癒を受けて怪我は治ったろうが、反動の疲労でまだ休んでいたのだろう。昨日の今日で落ち込んでるのかと思ったが、意外に表情が明るい。そのことにホッとするが同時にイライラがふつふつと湧いてきた。ふと視線を横に見ると、デクが助けたらしいガキ……洸汰がいて見舞いの花と果物を持っている。それを見てまた少しイライラが増した。

 

 ああ、なるほど。これは嫉妬だな。今まではこのイライラの正体がわからなかったが、デクへの想いを自覚した今ならわかる。さて、正体が分かったところでこのイライラが収まるはずもなく、どうすればいいかと高速で考えてたらあるアイデアが浮かんだ。

 

 これまでだったら絶対に思い浮かばない、一石二鳥のアイデアを……。

 

 

「ちょっと爆豪君。遅れてやって来たのに挨拶もないん? ってちょっと!?」

「かっちゃんどうかしたの?」

 

 無言でデクの傍に移動して隣にいた麗日を少しどかすこれからやることを知ったら激怒するだろうが、そんなこと俺の知ったことではない。

 

 キョトンとするデクの表情を見て口角が上がりそうになるが、それだとこの『悪だくみ』がばれちまうかもしれねえ。ギリギリまで抑えてデクに近づき、左腕を身体で押さえて右手で頭を固定して……。

 

「ちょっとかっちゃん!? なに、んん!!?」

 

 デクにキスしてやった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「「「な、なっ!?」」」

 

 その部屋にいた出久と勝己以外のA組生徒、マンダレイ、洸汰が全員目を見張った。ベッドにいる出久を勝己が押さえてキスしたのである。そのいきなりの行動にその場の者は衝撃に何も言えずただただ見つめることしかできなかった。

 

「ん、んんん!? んふ、んんん……んうう……」

 

 無理矢理口を塞がれた出久の苦悶の声が部屋に響く。初めは苦しそうな声だったが、だんだんと艶を帯び始めていき1分ほどの時間……部屋にいたものには無限とも思える時間だったが……が経ったところでようやく勝己が顔を上げた。

 

「借りはちゃんと返したぜ、出久。また、後で来るわ」

 

 満足そうな顔をして出久を横たえさせて椅子から立ち上がるとそのまま部屋の外へと出て行った。部屋にいた全員が勝己の様子を目で追っていた中で麗日がいち早く気を取り直して出久の様子を確認すると……。

 

「デクちゃんその顔はあかん!?」

「そんな顔しちゃダメだよ緑谷~!?」

「みみみみ皆!? 出久ちゃんを見ないであげて~!!!」

「あんたらこっち見んな!! 見たら最大出力でドックン喰らわすからね!!!」

「緑谷さん……なんてふしだらなお顔を……!!」

「ケロケロ……でもとっても幸せそう……」

 

 出久の顔が見られないようにガードしながら麗日達は早口でまくし立てた。

 

「わ、わりい!?」

「俺ら何も見てねえからな!」

「あっち向いてるわ!」

「今の子って大胆ね。って洸汰!? あなた顔真っ赤よ!」

「そ、その、ってうわ!?」

「ちょっと!? 鼻血出てるわ! 誰かティッシュ取ってきて!」

「俺はリカバリガール呼んでくる!」

「飯田俺も行くよ!」

「それより誰か爆豪捕まえてこい! 尋問したるわ!!」

「わ、わかった! 行こうぜ切島!」

「おう!」

「爆豪待て~!」

「爆豪てめえ!! 緑谷に何してんじゃー!! 俺達なんか耳郎からドックン喰らったのに~!」

 

 飯田と尾白がリカバリガールを呼びに行き、上鳴・切島・瀬呂・峰田が勝己を連れ戻しに走っていった。

 

 

「緑谷と爆豪、付き合い始めたのか。良かった……ガッ!?」

「と、轟!?」

「あんた何バカなこと言ってんの!?」

「いくらイケメンで天然だからってこの状況でよくそんなことが言えるな!」

「今のは轟さんが悪いですわ……」

 

 場違いなことを言った轟は耳郎の攻撃を喰らい昏倒し、倒れる寸前で砂藤が抱きかかえ地面に激突するのは免れた。八百万のいうようにズレた発言は誰もさすがにフォローできなかった。

 

 夏休みの一日は昨日の悲壮感がなかったかのように騒々しく流れて行った。

 

 




というわけで第52話でした! 今作で書きたかった場面その2です! かっちゃん、嫉妬と独占欲で暴走してますw そして、デクちゃんはそんなかっちゃんにキスされて『見せられないよ』な顔を浮かべていましたw 一体どんな表情だったんですかねw ってな感じでだいぶ長くなってしまったので今回はエピローグその1とします。次で神野事件編は本当に終わると思います。その後の展開もある程度構想しているのでお楽しみに♪ 今後もマイペースで続けていくので応援よろしくお願い致します♪
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