ヒーロー仮免許取得試験当日
「降りろ、到着だ」
バスが停車し、相澤がA組生徒へ下車するよう指示を出す。試験会場は国立多古場競技場。出久がオールマイトとともに雄英入学試験前に特訓をしていた場所の近くであり、また入寮まで勝己や麗日とも同じ場所で特訓を行っていた。
「緊張してきたァ」
「多古場でやるんだ」
「緑谷知ってんの?」
「うん、もうちょっと行ったところに海浜公園があるんだけど、そこで雄英入試前や入寮までトレーニングしてたから」
「私も一緒にやったよー!」
「試験って何やるんだろう……。ハー、仮免取れっかなァ?」
「峰田、取れるかじゃない。取って来い」
「おっ!? もっ、モロチンだぜ!!」
「この試験に合格し仮免許を取得出来ればお前ら
試験を前に緊張する生徒を相澤が叱咤する。普段の生活は常に寝不足気味でやる気が見られない相澤だが、生徒が重要なイベントを迎える場合は勇気づける言葉を投げかけてくれる。A組生徒も相澤の想いを汲み一様に頷く。
「っしゃあ! なってやろうぜヒヨッ子によォ!!」
「いつもの一発決めて行こーぜ!」
「せーのっ! Plus ……」
「「「Ultra!!」」」/「Ultra!!!!!」
「!?」
A組が円陣を組みいつもの掛け声『Plus Ultra』をしたところで聞いたことのない大声がした。驚いた皆が声のした方を見ると大柄の坊主頭で違う高校の制服を着た男子学生の姿があった。
「だ、誰!?」
「!(こいつ……)」
「(この方は……)」
「勝手に他所様の円陣に加わるのは良くないよ、イナサ」
「ああ、しまった! どうも! 大変! 失礼致しました!!!」
大柄の男子学生は先輩と思しき人物の言葉に一つ一つの動作が大きいお辞儀で謝罪をした。勢い余って頭が地面にぶつかるがそれで痛がる素振りも昏倒する様子もなかった。
「なんだこのテンションだけで乗り切る感じの人は!?」
「飯田と切島を足して二乗したような……!」
「(この男……)」
突然のハイテンションにA組の生徒も困惑しているが、相澤と一部の者はその学生の正体に気付いていた。
「待ってあの制服……!」
「あ! マジでか!」
「アレじゃん!! 西の!!! 有名な!!」
周囲がざわつき始めるが、それは男子学生がうるさいとか奇行が目に付いたといったものではなく、彼らの身に着ける制服によるものだった。
「東の雄英、西の士傑。数あるヒーロー科の中でも雄英に匹敵するほどの難関校、士傑高校!」
勝己の言葉にA組生徒にも緊張が走る。彼らが在籍する雄英高校と双璧を成すほどの実力を持つ学校、士傑高校の学生が目の前にいる。両校の生徒が目線を交わす中で件の男子学生が上体を起こした。
「一度言ってみたかったっス!! プルスウルトラ!! 自分雄英高校大好きっス!!! 雄英の皆さんと競えるなんて光栄の極みっス!! よろしくお願いします!!!」
「あ、血」
「行くぞ」
頭から血を流しながらも動じることなく雄英への想いと意気込みを語る男子学生は先輩に呼びかけられてそのまま会場へ入っていった。
「夜嵐イナサ」
「先生知ってる人ですか?」
「すごい前のめりだな。よく聞きゃ言ってることは普通に気の良い感じだ」
「ありゃあ……強いぞ(いやなのと同じ会場になったな)」
相澤の言葉に轟と八百万を除いたA組生徒が訝しんだ。いくらプロヒーローで雄英教師である相澤であろうと他校の生徒の事を把握することは難しいはずであるが相澤がすでに先ほどの生徒……夜嵐を知っているのは疑問に感じられた。
「夜嵐、昨年度……つまりお前らの年の推薦入試、トップの成績で合格したにも拘わらず何故か入学を辞退した男だ」
「え!? じゃあ……1年!? ていうか推薦トップの成績って……実力は轟君以上!?」
その言葉に多くのA組生徒が驚きの表情を見せた。雄英の推薦入学者はA組B組各2人ずつの合計4人。A組は轟と八百万、B組は取蔭と骨抜だが、その中でもトップは轟であった。そんな轟より上の成績を残しながら入学を辞退したという夜嵐に皆が疑問が尽きなかった。
「雄英大好きとか言ってたわりに入学を蹴るってよくわかんねえな」
「ね~、変なの。ヤオモモ知ってた?」
「ええ、入学してから姿が見えなかったので何か事情があったのかと思ってましたが……」
「変だが
相澤の言葉にA組が気を引き締めてそろそろ会場に向かおうとしたところ……。
「イレイザー!? イレイザーじゃないか!!」
「!」
女性の声が相澤に掛けられた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
Side:Izuku
「変だが
相澤が先生がここまで言うんだ。行動はいろいろアレだけど実力は間違いなく本物なんだろう。今日の試験では注意しなきゃ! そろそろ会場に入って準備を……。
「イレイザー!? イレイザーじゃないか!! テレビや体育祭で姿は見てたけど、こうして直で会うのは久しぶりだな!」
「!」
突然相澤先生を呼ぶ女性の声が聞こえた。声がした方を見ると20代半ばから30代くらいの女性が手を振ってこちらに近づいてきた。あの人って確か……。
「結婚しようぜ!」
「しない」
「わぁ!!」
え!? いきなりの逆プロポーズ!? 凄いけどそれをノータイムで拒否する相澤先生も凄い!! ついでに芦戸さんの食いつきも凄い!!
「しないのかよ!! ウケる!」
「相変わらず絡み辛いな、ジョーク」
「やっぱり! スマイルヒーロー『Ms.ジョーク』! 『個性』は『爆笑』! 近くの人を強制的に笑わせて思考・行動共に鈍らせるんだ! 彼女の
考えてみれば、今日は仮免試験で他校の生徒も来ているからそこで教師をしているプロヒーローも来ているんだよね。Ms.ジョークってどこで教師やってるんだろ?
「私と結婚したら笑いの絶えない幸せな家庭が築けるんだぞ」
「その家庭幸せじゃないだろ」
「ブハ!!」
なんだろう……。これ本気なのか冗談なのかわからないな……。相澤先生の反応見ると毎回同じやり取りをしているような雰囲気がある……。
「仲が良いんですね」
「昔事務所が近くでな! 助け助けられを繰り返すうちに相思相愛の中へと「なってない」
蛙吹さんの言葉にジョークが冗談交じりに返すけど最後に相澤先生が被せるように否定する。こういうのは確か『夫婦漫才』って言うんだよね。
「いいねそのツッコミ! いじりがいがあるんだよなイレイザーは」
「何だお前の
「そうそう、おいで皆! 雄英だよ!」
ジョークが少し離れたところにいた自分の学校の生徒に声を掛ける。ジョークの呼びかけに応じて生徒達がこちらへとやって来た。
「おお! 本物じゃないか!」
「すごいよすごいよ! TVで見た人ばっかり!」
「1年で仮免? へぇーずいぶんハイペースなんだね。まァ色々あったからねえ、今年はウチも1年いるし。それにしてもさすがやることが違うよ」
「傑物学園高校2年2組! 私の受け持ち、それに……今回は特別に1人追加でいるけどよろしくな」
おお! 赤嶺さんが通ってる傑物学園か! やっぱり2年ともなるとみんな体が出来上がってきていてなんというか、雰囲気が違う。この人達とも合格を争うのか……。それにしても……『特別に1人追加』ってどういうことだろ?
「特別に1人?」
「ああ! 今年の1年で結構いい子がいてさ! せっかくだし挑戦させてみようって私が提案したんだ! 赤嶺いる~?」
え? 赤嶺ってもしかして……!?
「は~い! ジョーク先生呼びましたか?」
「ちょっとこっちおいで! この子がウチの今期待の1年、赤嶺雫さんよ!」
「赤嶺さん!?」
「え!? 緑谷さん!? もしかして雄英高校!?」
「あれ? 知ってる子がいるの?」
「はい! 同じ中学校の同級生です!」
まさか! 赤嶺さんがいるなんて! 傑物学園にいるのは知ってたけど、仮免試験を受けに来てるなんて!
「緑谷さん久しぶり! 直接会うのは卒業以来ね!」
「ボイスチャットとかで話してたけどやっぱり顔見合わせると懐かしく感じるね!」
「デクちゃん、こちらの人は?」
「ああ、麗日さん。こちらは僕の同じ中学校出身で赤嶺雫さん。3年の時同じクラスで委員長をやってたんだ」
「同じ中学校、ってことは爆豪君とも同じなんやね」
「はじめまして、赤嶺雫です。緑谷さんと爆豪君と同じ中学校出身です。よろしくね」
赤嶺さんが挨拶したけど、皆の反応が薄い。ジョークと傑物学園と赤嶺さんの登場で脳の処理が追いついていないみたい。
「緑谷さんがいるなら……久しぶり爆豪君」
「久しぶりだな委員長……」
「もう委員長じゃないけどね。2人とも大変だったでしょ? 無事とは知ってたけど顔が見れてやっぱり安心したわ」
敵連合から逃れた後、心配してた赤嶺さん達には連絡を入れてたけど家庭訪問や特訓、入寮があってボイスチャットで話す機会がなかなかなかったから突然で驚いたけど会えてうれしいよ!
「赤嶺さん、君が話してた同級生って彼女達のことだったんだね」
「真堂さん。はい、緑谷さんと爆豪君と去年クラスが一緒で仲良く……してたんです」
「何か間があったね……。まあ、いいか。初めまして、俺は真堂! 今年の雄英はトラブル続きで大変だったね。君の事は体育祭や林間合宿の件でテレビや赤嶺さんからいろいろ話は聞いているよ!」
「そ、そうですか……」
いきなり男の人に両手で握られちゃった!? しかもこの人イケメンだからなんだかドキドキする!?
「雄英体育祭で見たけど君は凄いパワーの持ち主だね! その力は人々を救うのに必ず役立つよ!」
「あ、ありがとうございます……」
「君達もあんなに厳しいことがあったのにこうしてヒーローを志し続けているんだね! すばらしいよ!!」
握った僕の手をぶんぶん振りながら他の皆にも声を掛ける。な、なんか恥ずかしい……。
「不屈の心こそがこれからのヒーローが持つべき素養だと思う!」
「どストレートに爽やかイケメンだ……」
ようやく手を離してくれた……。なんか晒し者にされてたみたい……。
「バカよせやめろ爆豪!」
「試験前に問題起こすな!」
「何もしねえよ」
そんな言葉がハッと気づいて後ろを見ると……鬼の形相ではないものの不機嫌そうな顔を隠さないかっちゃんがこっちにやって来た! ヤバい! かっちゃんめっちゃ怒ってる!?
「君も敵連合から緑谷さんと脱出した爆豪君だね。あんな凶悪な敵に囲まれてる中で仲間を庇いながら脱出する、僕ら2年生・3年生はおろかプロヒーローでもなかなかできることではないよ」
真堂さんもかっちゃんに気付いて、かっちゃんをほめながら正面に立つけど……笑顔のはずなのに目が笑ってないんだよね……。
「君は特別に強い心を持っている。今日は君達の胸を借りるつもりで頑張らせてもらうよ」
そう言ってかっちゃんに向かって右手を差し出す。かっちゃん! 爆破しちゃだめだよ! 試験受けられなくなっちゃうよ!
かっちゃんが差し出された右手を一瞥する。僕だけじゃなく他の皆もかっちゃんが暴れないかハラハラしてるのがわかる。数秒してからかっちゃんがゆっくりと真堂先輩の右手を握った。
「こちらこそ、胸を貸してもらいますよ真堂
かっちゃんが笑顔……ただし満面ではなくニヤリとした……で真堂さんに答える。行動は友好的だけど顔が全然違うよ!
「こちらこそよろしく……ん?」
「それと……若輩者から1つ助言させてもらうけどよ……」
あれ? 真堂さんの表情が……ってかっちゃん!? もしかして真堂さんの右手握りつぶそうとしてない!?
「人の彼女の手を気安く握ってんじゃねよ……!」
「か、彼女!? かっちゃん何言ってんの!?」
「彼女!? 緑谷さん爆豪君と付き合ってるの!?」
しまった~!? 赤嶺さんに話すの忘れてた! でも今それどころじゃない!
「これは、悪いことしちゃったね……。お詫びと言ってはなんだけど、俺の『個性』を教えてあげようか?」
「へえ~、そいつは面白え。ぜひとも教えてもらいたいなあ」
「それじゃあ、ご要望にお応えして……」
かっちゃんと真堂さんが不穏な言葉を交わした瞬間……。
BBBB……BOMB!!
小規模な爆破が起きて2人の右手が離れた。かっちゃんまさかやっちゃったの!?
「かっちゃん! 個性使っちゃだめだよ!」
「うるせえ、使われたから返しただけだ!」
「え?」
「おい真堂! 1年相手にみっともないぞ」
「大丈夫ですよジョーク先生。軽い手合わせみたいなもんですから」
何があったんだ? かっちゃんの表情とジョークや真堂さんの言葉だと先に真堂さんが仕掛けたみたいだけど……どんな個性なんだ?
「イレイザーすまない。ウチの真堂が大人げなくて」
「こっちこそ、ウチの爆豪が生意気ですまん。爆豪、一応ここは試験会場内だから見逃すが次やったら停学だからな」
「……わかった」
「真堂」
「わかりました、爆豪君。ここは引き分けだ、続きは試験でだ」
「ああ、楽しみにしとけよ!」
「威勢がいい子は大歓迎だよ……いだ!?」
再びエスカレートしそうな煽り合いを真堂さんの隣にいた金髪で後ろ髪を二つに縛った女の人が真堂さんの後頭部を引っ叩いた。不意打ちだけど大丈夫なの!?
「さっきのはヨーくんが悪い!」
「畳! いきなりなにを……」
「いきなり女の子の手を握るなんてイケメンだからって調子乗り過ぎ! っていうか彼女がいるのに女の子にちょっかいかけるんじゃない!」
「え!? え!? その真堂さんと……」
「中瓶畳だよ。ごめんね、ヨーくん外面いいけど腹黒でさ……」
「そ、そうですか?」
腹黒といいつつ真堂さんと付き合ってるんだ……。なんだかんだ言って好きなんだろうなあ真堂さんのことが……。
「そういう緑谷さんも爆豪君と付き合ってるのね」
「あ、赤嶺さん!? ごめん、言おうと思ってたんだけど入寮の準備とかいろいろあって忘れちゃってて」
赤嶺さんに伝え忘れていたことを指摘されてて慌てて謝罪する。その様子に赤嶺さんがコロコロ笑いながら首を横に振る。
「私はいいけど七海と萌は知ったら怒るわよ? 『なんで黙ってたの~!?』って」
「そ、それはまずいね! 今度チャットしよう! 時間決めたら連絡するね!」
「ええ! 楽しみにしとくわ♪ ……爆豪君」
なんとかチャットすることを約束して青木さんと浅黄さんにも報告できることに胸を撫で下ろしていると赤嶺さんがかっちゃんに呼びかけた。
「なんだよ……」
「緑谷さんと和解できたのね、良かったわ。それと敵連合から緑谷さんを救けてくれてありがとう……」
「別に礼なんて……。それに救けられたのは俺の方だ。……赤嶺」
「何?」
「だいぶ時間はかかったが、思っていることはお互いに伝えられたわ。あの時アドバイスしてくれてありがとよ」
「……どういたしまして」
「今度礼に何か奢ってやるよ」
「あら? それは楽しみだわ♪ 七海と萌も一緒でいい?」
「ああ。だが、今日の試験では手加減しねえからな! 遭った時は覚悟しろよ!」
「ええ、爆豪君もそのつもりで。緑谷さんも試験では友達であることは一旦忘れて本気でやろう! いいわね?」
「うん、僕も負けないよ!」
赤嶺さんが右手を差し出すので僕も右手を出して握手した。友達同士だけど今日はライバル! 負けないよ赤嶺さん!
「お前らいい加減遊びは終わりだ。コスチュームに着替えてから説明会だぞ、時間を無駄にするな」
「皆行くわよー!
「「はい!!」」
「それじゃあ、また後でね!」
「うん! お互い頑張ろうね!」
相澤先生とジョークの言葉を合図に僕らは学校ごとに分かれて説明会会場に向かった。赤嶺さんに会えて気持ちが高まってきた! 今日の仮免試験、A組の皆と全員合格目指して頑張るぞ~!!
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「お前らいい加減遊びは終わりだ。コスチュームに着替えてから説明会だぞ、時間を無駄にするな」
「皆行くわよー!
「「はい!!」」
仮免試験前に和気あいあいと交流を深める生徒達に相澤とジョークは声を掛ける。他校との交流は生徒達にプラスに働くと両者ともに考えているが、今日は仮免試験。目の前の相手と合格を奪い合うので現時点での交流はこれ以上は不要との判断だった。
「なんか外部と接すると改めて思うけど」
「やっぱ結構有名人なんだ雄英生って」
「…………?」
説明会会場へ歩いていく耳郎と上鳴の会話を聞いてジョークが疑念を抱く。仮免試験における慣習とも定石とも言える
「ひょっとして……伝えてないの? イレイザー」
「……」
ジョークの問いかけに応じず、相澤はA組生徒の後を追って会場に向かった。
というわけで第57話でした♪ 前日に投稿した幕間より短いのはどういうことでしょうw 今回のハイライトは『デクちゃんに馴れ馴れしくすてくる新堂に突っかかるかっちゃん』ですw お楽しみいただけたでしょうか? 作者的にはだ満足ですw それと久しぶりに赤嶺さん登場です♪ 愛着のあるオリキャラですが、傑物学園に進学させた時点でこの展開をイメージしていました。試験本番でもどのように話が進むのか、作者も楽しみですw
新年は新年はスタートダッシュで2話連続投稿しましたが、これからは今まで通りマイペースで投稿していくので応援よろしくお願い致します♪