Side:Katsuki
朝登校していると、どこからかマスコミがやってきて昨日の取材がしたいと言ってきた。こっちは人質にされてただでさえムカついたのに、デクが身の程知らずにも俺を助けようとしたことに腸が煮えくり返っていたから思いっきり無視してやった。
全然コメントが取れなくて残念がるマスコミのアホ面に多少溜飲が下がったと思っていたら、アホのクソデクが校門前で別のマスコミに捕まっていて律儀にもインタビューに答えようとしていた。俺達のことを話すのをギリギリで防げたのは我ながらファインプレーだったと思う。だが、デクの腕を掴んだまま教室まで歩いてしまったのは焦っていたとはいえ失敗だった。クラスがあからさまに俺達を気にしており、それがまた癪に障った。
今日はとりあえずやり過ごそう。そう考えていたのにまたしてもクソデクによりその思惑は崩れ去った。
「かっちゃん。話があるんだけど、ちょっといいかな?」
こいつはこんな状況でよく声をかけられるなとむしろ感心してしまった。
「ああっ!! てめぇと話すことなんてねえわ、クソデク」
「……昨日のことで話したいことが、僕にはあるんだ」
断られた上でそれでも話がしたいというデク。行動が読まれていたようでさらにイライラが募る。
「………………ちっ!」
舌打ちをして席を立つ。話す気が変わらないならせめて人が少ない場所の方がマシだ。そう考えて、デクが付いてくるのを待たずに屋上へ向かった。
「昨日、かっちゃんにノートを爆破されたとき、ついカッとなっちゃって、その、顔を叩いちゃってごめん」
「…………」
「それから、ヴィランに捕まったかっちゃんを助けようとして、危ないのに勝手に飛び出しちゃって、結局僕も捕まっちゃって迷惑かけてごめん」
「…………」
屋上で昨日俺を叩いたこと、助けようと飛び出したことを謝罪した。後者はまだしも、前者に関しては客観的に見ても俺の方に非があることは一応自覚できていた。それなのに謝る、あいつのお人好し振りにまたムカついた。
「あと、爆破したノートをわざわざ拾って、僕のカバンに入れてく「知らねえな」
その後に続くであろう言葉を遮る。爆破した本人に感謝しようとするなんて、やっぱりこいつはどうかしてる。
ノートを拾ったのは、……そう……ただの気紛れだ。
あいつのノートにどんなことが書かれているのか、中身をまともに見たことはなかった。今までほとんど反撃したことのないあいつが、ノートを爆破された怒りにまかせて俺を叩いた。それほどまでにあいつが大事にしているものの内容がほんの少し気になっただけだった。
中身を見て驚くと同時に妙に納得した。やっぱりこいつは生粋のオタク、クソナードだと。ヒーロービルボードチャートJPの上位や中堅はともかく、下位ランクやそこにすら載らない地方のマイナーヒーローまで分析している奴なんて世の中にこいつしかいないだろう。そのノートの中に自分の個性について書かれていたのは少々、いやかなりキモくて、
「てめぇのクソくだらねえノートなんて知らねえ。用件はそれだけか?」
「え、ええと……」
自分が傲慢で粗暴で面倒くせえってことは自覚している。それでも、それだからこそ、この感謝は受け入れられない。受け入れてはいけない。
デクが黙ったので、これで話を終わらそうと出口へ向かって歩き出す。
「僕!! 雄英目指すから!!」
「……!」
振り返ると、こちらを見るデクと目が合う。
「かっちゃんはイヤだと思うけど! これだけは譲れないから!! 」
「……」
ガキの頃から変わらない、今にも泣き出しそうなのに自分を曲げない、強い意志の宿る緑がかった大きな瞳。
ああ、そうだ。これだ。大人しく、分相応に生きるなんてこいつには無理だ。できそうにないのに身の程知らずにも、いや、身の程を知っているにも関わらず困難に立ち向かっていく。ムカつくが、これがこいつの本質だ。
俺は、こいつのそんなところが………………。
「……せいぜい無駄な努力重ねてろ」
そう言い放って出口に向かおうとしたら、6対の瞳と目が合う。いつもツルんでる3人、一郎、次雄、三也とあまり記憶にない女子3人だった。
「……! てめぇら……!」
「お、落ち着け勝己!? これには訳が!」
「す、すまん勝己! でも、クラスの連中もお前らが気になっててよ」
「委員長にも頼まれて、一緒に様子見に来たんだよ」
「……委員長?」
確か、昨日のHRで女子がクラス委員長になったのは覚えているが、実際に誰がなったかは興味がなかった。女子3人を見比べていても思い出せなかったが、幸いにも委員長本人が口を開いた。
「爆豪君とは初めて同じクラスになったわね。覚えてくれてるかどうかわからないけど、一応クラス委員長になった赤嶺雫よ」
なるほど。これまで違うクラスだったなら記憶が薄いのも当然か。1人でそう納得して件の委員長に返事を返した。
「……で、その委員長様がわざわざこんなところに何の用だ?」
「何って、2人の様子見よ? 昨日あんなことに巻き込まれたあなた達が2人きりで屋上に行くなんて、何が起こるかわかったもんじゃないでしょ?」
「雫言い方!」
「委員長、頼むから煽るな!」
……この委員長様は脳が湧いてるのか?
俺とデクの間でそんなことは起こらねえ。
……起こるはずねえんだよ……。
「俺はこいつに呼び出された側だ。文句ならこいつに言え。もう用は済んだから俺は行くぜ」
6人の間を通って屋上から校舎内に入っていく。こいつらに余計なことを聞かれるのも面倒くせえが、純粋に次の授業まであまり時間がない。筆記試験も実技試験も突破できるとは思うが、やはり内申が下がることはなるべく避けるべきだ。そう無理矢理考えて、一旦屋上でのことを思考の片隅に追いやった。
もうすぐ日が沈む、逢魔ヶ時。薄暗い中を家に向かいながら、今日あったことを思い出した。
デクが雄英、普通科を目指す。
今にして思えば、ノートを爆破した時にもなんとなくこうなることは予想できた。あいつにこれ以上何を言っても無駄だろう。
……なら、俺の実力を見せつけて! 雄英ヒーロー科でも非の打ち所のない圧倒的な力を示して! 普通科に進むであろうデクにいやでもわからせてやるしかない!
……俺とあいつとの差を。
そうと決まれば、今後しばらくはあいつに関わり合う暇はない! 今よりも鍛えて、筆記も実技もぶっちぎりで合格する!
……見てろよクソデク。
え〜、結構難産でした。あまり描写しすぎても今後の進行に影響あるし、描写しなさすぎてもただの感じの悪い輩になってしまうのでバランスが難しかったです。一応彼の中にある複雑な感情を匂わせることはできたかなと思います。それはそれとして、一人称で地の文を書く方が三人称よりやりやすいかなと個人的に思いました。上手く場面転換とかで使い分けていきたいです。これからいよいよ本編ですが、さてどうなるか、お楽しみに!