Side:Izuku
「ぬあああああああああああ!!!」
朝6時、市営多古場海浜公園。
僕は今、不法投棄された粗大ごみを引きずろうと頑張っています。
「ヘイヘイヘイヘイ、何て座り心地の良い冷蔵庫だよ!」
オールマイトが乗った冷蔵庫の粗大ごみを……。
そりゃあオールマイトの
……思っていた特訓とイメージが全然違う!?
「ピクリとでも動けばちょっとは楽だったんだけどな――――!!」
「そりゃだって……、オールマイト270kgあるんでしょ……」
「いーや、痩せちゃって255kg」
いや、その差はもはやただの誤差でしょ……。
「ていうか僕、なんで海浜公園でごみ引っ張っているんですか……?」
タイヤや整地ローラーとかの重しを引くのはスポ根漫画とかで見たことあるけどなんでわざわざ粗大ごみを?
「それはアレさ! 君器じゃないもの」
「え!!? 仰ってることが前と真逆!!!」
え!? どういうことなのこれ!? まさか僕騙されたの!?
しかもなんか写真撮られてるし……。
「身体だよ、身体」
「……身体?」
「『
「四肢が!!?」
ちょっと待って!? そんなこと聞いてない!? あれ、ということは……。
「じゃあ……、つまり身体を作り上げる為に……、ごみ掃除……?」
「YES! だがそれだけじゃない! 昨日ネットで調べたらこの海浜公園、一部の沿岸は何年もこの様のようだね」
「ええ……、何か海流的なアレで漂着物が多くて、そこにつけ込んで不法投棄もまかり通ってて……、地元の人間は寄りつかないです」
僕もテレビのニュースでこうなった経緯を見たことがある。なんだか、こういう話を見聞きするとやるせない気持ちになる。
「最近の
オールマイトはそう言っておもむろに冷蔵庫に手を置き、徐々に力を込めると、少しずつ冷蔵庫が変形していく。……やっぱり凄い。こんな個性を僕が受け継ぐことが本当にできるのかな?
「この区間一帯の水平線を甦らせる!! それが君のヒーローへの第一歩だ!!」
「第一歩……! これを……掃除……!? 全部……!?」
この一帯って……、沿岸で何百mあるんだ!? これを全部って、僕1人でできるの……?
「緑谷少女は雄英志望だろ?」
「はい!? はい!! 雄英はオールマイトの出身校ですから……。行くなら……、絶っっ対雄英だって思って……ます!」
「初めて会ったときにも思ったけど、君って行動派オタクだね!! ……前にも言ったが、『無個性』でも成り立つような仕事じゃない。哀しいかな、現実はそんなものだ」
そう言って、踞る僕に背を向けた。
……そうだ、無個性でヒーローをやるのは難しい。オールマイトやナイトアイさんは僕にヒーローの素質を見出してくれているけど、あくまでそれは精神面だ。災害救助や犯罪捜査、そして
「ましてや雄英はヒーロー科最難関! つまり……」
「入試当日まで残り10ヶ月で……
10ヶ月。長いようだけど、オールマイトの超パワーに耐えるだけの身体を作るとなると簡単じゃない。一体どうすれば……。
「そこでこいつ!! 私考案!! 『目指せ合格アメリカンドリームプラン』!!! 『
そう言って、何十枚ものA4用紙を取り出して見せた。その中には1日の起床時間から種類別のトレーニング、実際のごみ掃除や食事内容など多岐にわたる項目が事細かに記されていた。
「寝る時間まで……」
「ぶっちゃけね、超ハードこれ。ついてこれるかな!?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜そりゃ、もう……!! 他の人より何倍も頑張らないと僕はダメなんです……! やってやりますよ!!」
オールマイトが僕の為に作ってくれたトレーニングプラン。絶対にやり遂げてみせる!!
―――――――――――――――――――――――――――――――――
出久の地獄のトレーニング10ヶ月が幕を開けた!朝は早朝4時に起床し、準備運動から筋力トレーニング、有酸素運動を行う。平日は放課後にごみ掃除作業を夕方まで行い、帰宅して入浴後に引子に協力して作ってもらったオールマイト考案の肉体強化の食事を摂る。その後に雄英の筆記試験のための勉強を行い、疲労回復を促すために夜は11時までには就寝する。休日は学校の部分に別のトレーニングとごみ掃除、休息を適宜入れていく。
若さによる体力回復の早さ、部位別の分割トレーニングで考慮していてもほとんど運動経験のない女子中学生には過酷を極めていた。そして、その
「あの、緑谷さん大丈夫? なんか、授業中もうわ言みたいなことを呟いていたけど」
「雄英の試験ってまだまだ先でしょ? ちょっと根を詰めるには早すぎるんじゃない?」
「焦るのはわかるけど、今からそんなだと息切れ起こしちゃうよ?」
先日の1件で仲良くなった雫、七海、萌が出久に心配げに声をかける。ここ最近は登校時点ですでに疲労困憊に見え、授業中でも授業以外の試験勉強をしている様子で周りから見ればノイローゼになっているのではと思われるほどであった。
「ううん、大丈夫だよ。今の時期に模試でA判定なんて、それこそ前に本人が言ってたようにかっちゃんだけだし、僕なんてまだギリギリB判定入るか入らないかだから、今頑張らないといけないんだ」
「……そう、ならいいんだけど無理はしない方がいいわよ。身体壊したら元も子もないからね」
「それにしても、爆豪君ってあれだけ態度悪いのに成績は良いんだよね」
「成績優秀で運動も出来て個性も強くておまけにあの見た目、普通だったらめちゃくちゃモテてもおかしくないんだけどなあ……」
「「「やっぱり、あの性格だよね~」」」
「(やっぱりそこに行き着くんだね……)」
「実際問題どうなの? 爆豪君って彼女とかいたことあるの?」
「お、萌ならともかく雫にしては食いつくじゃん? 気になるの、爆豪君のこと」
「そんなことあるわけ無いでしょ? ただ、スクールカースト上位の爆豪君が付き合うとしたらどんな人かはちょっと気になるんじゃない?」
「言えてる! で、その辺りは緑谷さんは知ってるの?」
「え、ええと……、僕はそういった話全然詳しくなくて……。ただ、彼女がいたとかって話は今まで聞いたことないかな、うん……」
急なガールズトークにヒーローオタクの出久がついて行けるのは難しく、当たり障りのない返答をするのがやっとだった。しかし、日々続ける特訓と試験勉強、それに付随するストレスや精神的負担をこうして何気ない会話で解消できるのは、今の出久にとっては有り難かった。
「(…………ちっ! こっちまで聞こえるんだよ! クソナードのくせに! クソが!!)」
女子4人のガールズトークが勝己をイライラさせていた。自分がそういった話題に挙がることはこれまでにもあったが、別にモテようがモテまいが勝己自身は気にしないし興味もなかったが、
勝己がまき散らすイライラオーラに、一郎、次雄、三也の3人は自分達にとばっちりが来ないように祈りながら、早く次の授業が始まるのを願った。
「……緑谷さん。なんか、変な薬とか使ってないよね?」
「変な薬? どういう意味?」
「だって腕とか脚、というか全体的に筋肉が付いてきているし」
「ええと、体力付けようと思ってちょっと前から筋トレやってて。でも、自分じゃあまりわからないかな……」
特訓を始めて2か月ほど経った頃。ネガティブなものに比べればゆっくりとだが、
最初に気付いたのは雫達だった。体育の授業で着替えていると出久の身体に筋肉が付き、以前より格段に引き締まっているのがわかった。出久達の会話を耳にした普段はあまり話さない他の女子も興味津々に聞いてきた。
「うっわ、すご! 緑谷さんってそんなに身体鍛えてたの!?」
「腹筋うっすら割れてるし、実は脱ぐと凄い系だったの?」
「緑谷さん! 私達にも教えてくれない!? ダイエットの秘訣を!!」
「え、ええと……、その……」
鼻息荒く出久の身体の秘密を聞いてくるクラスメイト。日頃から体型・体重を気にしている女子にとって、まさかクラスで1番の地味女子がこれほどまでに鍛え上げられた身体を持っているとは夢にも思わなかった。
「(さすがにオールマイトのメニューは教えられないかな)ええと、動画サイトで筋トレ動画を見ながらトレーニングして、食事にも気を遣ったらこんな感じになったかな。皆も続けたらなれると思うよ」
「ありがとう緑谷さん! 皆、頑張って夏までに痩せよう!」
『お――――――――――!!!』
「(なんか凄いことになっちゃった……)」
この夏、出久のクラスメイト達は過去最高の身体を手に入れることができ、出久は大変感謝されることとなった。
「……なんか、最近緑谷いいよな」
「わかる。なんか、妙に体つきが変わったというか、出るとこ出てて引き締まっているというか」
「女子連中に聞いたんだけど、身体めちゃくちゃバキバキらしいぜ?」
「マジか? あんな童顔であの体つきはヤバいな」
「…………………………」
「ええと……」
「おい勝己、目がこええよ」
「あ゛!? なんか言ったか!?」
「いやなんでも」
出久の見た目については女子のみならず男子の間でも話題になっており、そのことがまた勝己をイライラさせる要因となっていた。
「(デクの奴、どういうつもりだ? ヒーローオタクのクソナードの癖に身体鍛えやがって……)」
出久が『ヒーロー科を受ける』という可能性をすっかり頭から排除してしまっている勝己にはその答えは出なかった。
「緑谷君、特訓は順調かな?」
「ええ、なんとか」
ある日、出久はサー・ナイトアイに連絡を取っていた。日々の特訓とごみ掃除、試験勉強で忙しいため、ナイトアイ事務所へ行く時間がなかなか作れないでいた。それでも、オールマイトとの特訓の話や近況報告をしたくてこうしてときどき電話をしていた。
「彼は身体を鍛えることのプロだ。心配しなくても大丈夫だよ」
「はい……」
「……どうかしたのかね?」
「いえ、なんでもないです。ただ……」
「ただ?」
「まだやることはたくさんあるのに、自分の身体がそれについていくのがやっとで、それがもどかしくて……」
「……気持ちはよくわかるよ。だが、焦ってはいけないよ。……そうだ、少し待ってくれ」
「? ナイトアイさん?」
「あ、出久ちゃん? 元気してる?」
「バブルガールさん!?」
電話に出たのはバブルガールだった。焦る出久の気を紛らわせようとサー・ナイトアイが配慮してくれたのだ。
「今忙しいんだって? 私達もなかなか忙しくて結構大変でさ~。出久ちゃんも大変だろうけど、試験頑張ってね! 合格したら事務所でお祝いしよ、もちろんサーの奢りで♪」
「……はい、頑張ります!」
「うん! 次はセンチピーダーと言いたいけど、彼今出張中なの。彼も『頑張って』って言ってたよ。話すのはまた今度ね。じゃあ、ミリオ君に変わるね」
「はいはい、出久ちゃーん! 元気してたかな?」
「はい、ミリオさんもお元気そうで」
「元気元気! 元気過ぎてこの間他事務所・警察合同の任務で犯罪組織の本拠地に一斉捜査で突入したんだけど、1人で全員ノシちゃったよ。その後サーにやり過ぎって怒られちゃったけどね、タハハ!」
「それは……、凄いですね……」
「在校生の俺が受験生の出久ちゃんにあれこれ言うと微妙にマズいから詳しいアドバイスできないけど、今までやってきたことを発揮できればきっと大丈夫! 雄英で会えるの、楽しみにしてるよ!」
「ミリオさん……、センチピーダーさん……」
以前から緩みっぱなしの涙腺から涙が流れるのを出久は止められなかった。再び、電話口からサー・ナイトアイの声が聞こえた。
「緑谷君、焦らずに頑張るんだよ」
「……はい」
涙声で返事を返して2人は通話を切った。
「緑谷君、思い詰めていないといいが……」
事務所の全員で出久を励ましたが、それでもサー・ナイトアイの不安は尽きなかった。
セグウェイに乗るオールマイト(トゥルーフォーム)の後を粗大ごみを持ちながら出久は走る。が、足元がフラつきそのまま転んでしまった。なかなか起き上がれない出久にオールマイトが発破をかける。
「ヘイヘイどうした!? あと3ヶ月だぞー!! 全っ然間に合わないぞ!?」
「…………」
「やめるか!? 今日はゆっくり休んじゃうか!?」
「…………」
「(オーバーワークか!?)」
オールマイトとの特訓が始まって半年が過ぎた。日々の学校生活は比較的穏やかだったが、特訓とごみ掃除は順調とは言い難かった。女子中学生としては鍛えられた身体となってきたが、OFAを受け継ぐにはまだ足りない。応援してくれる人の想いに報いるにはまだまだ足りない。そう考えた出久はオールマイト考案したメニューに自己判断で追加してトレーニングを行っており、明らかなオーバーワークとなっていた。
「『目指せ合格ドリームプラン』は入試に間に合うよう君の体力を鑑みて調整したハズなんだが…………君、プラン守ってないだろ」
「……!」
「やり過ぎは逆効果だぞ!! 合格したくないのか!?」
「……!!!」
「したいですよ……」
息も絶え絶えながら、出久は自分の想いをしっかりと口にする。
「合格はもう、僕だけの想いじゃない! でも入るだけじゃダメなんです……!! 他の人より何倍も頑張らないとダメなんです!! きっと追いつけない……!!」
「緑谷少女……」
「僕はあなたみたいになりたいんだ……!」
這いつくばっていても顔を上げ、オールマイトを見て出久は言った。
「あなたみたいな最高のヒーローに……!!」
「(見据えていたのは遥か先!! ってか!!)この…………っ!!! 行動派オタクめ!!」
オールマイトはマッスルフォームに変身し、出久のジャージの襟首を掴んで持ち上げた。
「そういうの、嫌いじゃないよ!!?」
「……オールマイト?」
「しかし、それなら尚更焦っちゃダメだろ!? 気持ちは受け取った! オジサン……、ちょっとプラン調整する!」
「オールマイトはおじさんじゃないです……」
「……君って厄介オタクでもあるよね……」
「すみません……」
その後、出久はオールマイトにより各種調整を行ったドリームプラン改を忠実にこなしていった。
そして、3ヶ月後の2月26日。
入試当日、朝6時。
特訓は完了した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
Side:Izuku
「うわあああああああ!!!」
やった! やり抜いた!!なんとか試験当日だけど、課題をクリア、いやそれ以上にできた!柄にもなく、叫んじゃうくらい嬉しい!
本当だったら指定の区間だけで良かったんだろうけど、ここまで来たら全部やろうとそのまま続けちゃった。
……今何時だろう?一旦戻って準備しないと……。
そう思った瞬間足元がフラついて倒れそうになったけど、すんでのところ誰かに支えられた。
「おつかれ! ギリッギリだけど見事に仕上げたね、完成以上に!!」
「オールマイト……!! 僕、出来ましたよ……!」
オールマイトに抱えられてガラクタの上から降りる。本当にギリギリだけど、オールマイトの期待に、皆の応援に応えられて良かった……。
「全く驚かされたよ! このエンターテイナーめ! 十代って素晴らしい!! ほら見ろよ!!」
そう言って、僕にスマホを差し出した。そこに映っていたのは……、僕?これは、確か特訓を始めた10ヶ月前の写真……?なんだか、今よりも……、ちっちゃい?
「10ヶ月前の君さ。よく頑張ったよ、本っっ当に!!!」
10ヶ月前……、1年に満たない期間なのに凄く長かった気がする。
「ようやく入口の蜃気楼がうっすら見えてきた程度だが! 確かに器は成した!!」
オールマイトが手放しで僕を褒めてくれる。でも……。
「なんか……ズルだな、僕は……。」
涙が、嬉し涙がどんどん溢れてきて頬を流れる。
「オールマイトにここまでして貰えて、恵まれすぎてる……」
オールマイトだけじゃない。お母さんやナイトアイさんや事務所の皆、赤嶺さんや青木さん、浅黄さん、皆に支えられてここまで出来た。本当に恵まれすぎてる……。
「全く、その泣き虫は治さないとな! さァ授与式だ、緑谷出久!」
「は、はい……!」
オールマイトにそう言われて、涙を拭って背筋を伸ばす。そうだ、これからオールマイトの個性、OFAを受け継ぐんだ。まだまだこれからなんだ!
「これは受け売りだが、最初から運良く授かったものと、認められ譲渡されたものではその本質が違う!」
オールマイトの言葉に身が引き締まる思いがする。そうか、オールマイトもその前の人達もこうして受け継いで来たのか、OFAを……。
「肝に銘じておきな! これは君自身が勝ち取った力だ!!」
そう、僕はあのオールマイトやサー・ナイトアイに認められたんだ!この力でオールマイトみたいな最高のヒーローに……。
……でも、なんで髪の毛を抜き取ったんだろう?
「食え」
「……へぁ!?」
え、オールマイトなんて言ったの?僕に食べろと?オールマイトの髪の毛を?
「別にDNAを取り込められるなら何でも良いんだけどさ! さァ時間ないって!」
……思ってたのと違いすぎる……!
こうしてOFAを受け継いだ実感のないまま、僕は入試に向かうため一旦家へと帰った。
ご精読ありがとうございます。だんだんムキムキになっていくクラスメイト。原作出久君だとそこまで話題にならなさそうですけど、こっちの出久ちゃんだったら男女共にざわつくと思うんですよ。そして、そのことにますますイラつく爆豪少年。毎回言ってますが、今後どうなるんでしょうねw流れはゆる〜く決めているんですが、詳細は書きながら詰めていくので当初と全然違う感じになることもしばしばあります。これからも頑張りますのでよろしくお願い致します。