艦これMAX   作:ラッドローチ2

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ようやっと更新ー。
後半一気に書き上げたから、少し誤字脱字がある。かもしれない…見返しはしたのですが、あったらごめんなさい。




41 Snow Wind

 

 

 

 雪風と磯風・怪の戦い。

 

 ソレは、合図する事もなく同時に発せられ……互いに放った砲弾が衝突した轟音が開始の狼煙となった。

 

 

「せめて一撃で楽にしようと急所を狙ったのだがな、さすがに読んでいたか!」

 

「そのくらい、雪風には御見通しです!!」

 

 

 右腕と一体化した異形の艤装から砲煙をたなびかせながら、磯風はその顔に愉快そうな笑みを浮かべ、脚部に装着している深海棲艦用の魚雷を雪風へ向けて放つ。

 

 

「見え見えです!」

 

「ああそうだろうな、だがコレならどうだぁ!」

 

 

 海上を滑りながら高速移動する雪風の、進行方向に寸分の狂いすらなく発射された雪風一人を屠るには十分すぎる程の魚雷、しかしソレすらも……雪風は幸運にもつい先ほど仲間に仕留められ水底へ沈もうとしている機怪群の残骸を踏み台にして空中へ飛び跳ねて回避する、が。

 

 本来ならばあり得ないその回避行動すらも、既知の真柄である故に読んでいた磯風は空を舞う雪風へその右腕を向け轟音と共に砲弾を放つ。

 

 が、しかし。

 

 

「そんな照準が甘い攻撃、当たってあげられません!」

 

 

 迫りくる何発もの砲弾を、雪風はその小柄な体躯を空中で捻り、手に持った連撃12cm単装砲で撃ち落し……ソレでも回避しきれなかった砲弾を、双眼鏡型のCユニットで受け止め装備の大破と引き換えにその身を傷付ける事なく海面へ着水する。

 

 そして、今行われた刹那の攻防によって海面へ着水した雪風に磯風・怪の腕部一体型艤装の照準が追従しきれていない一瞬の隙、その隙を狙い雪風は磯風・怪へ砲身を向け砲撃を放つ。

 

 必殺とも言えるタイミングで放たれた雪風の砲撃、その放たれた砲弾は磯風・怪の艤装へ少なくないダメージを確かに与える事に成功した。

 

 息つく間もない、一秒たりとも気が抜けない神経をすり減らすような攻防。

 

 そんな空間で、右腕から黒煙を上げる磯風・怪は……心から、愉しそうな笑みを浮かべた。

 

 

「ああ、愉しい。楽しいなぁ、雪風ぇ」

 

「磯風……さん?」

 

 

 かつて互いに励まし合い、戦ってきた日々の中で一度も見た事がない磯風・怪の狂気が混じった笑みと言葉に、雪風は怪訝な顔を向ける。

 

 そんな雪風に対して磯風・怪は武装を向けようとせず、むしろ……。

 

 加勢しようと、雪風へ攻撃を加えようとした『仲間』へ警告すらする事なく砲撃し、木端微塵に撃ち砕く。

 

 

「邪魔をしないでくれるかな? 折角旧交を深めているというのに」

 

「い、磯風さん。何をしているのですか!?」

 

 

 一撃で残骸へと変貌した、仲間だった存在へゴミを見るかのような視線を向けながらつまらなさそうに吐き捨てる磯風・怪。

 

 そんな、かつての仲間の変貌に耐えきれなかった雪風はその目を震わせながら、磯風・怪を問い質す。

 

 

「何をだって? 別に大したことじゃないさ、そんな事よりも……さぁ続きを楽しもう雪風」

 

 

 雪風からの言葉に、磯風・怪は先ほど仲間だった残骸へ向けていた表情とは打って変わって、どこか穏やかな笑みを浮かべて綺麗な左手をひらひらと振る。

 

 あんまりにもあんまりな、かつての仲間の変貌に雪風の顔は更に歪み……少女の心はその痛みに耐えられず、痛みを言葉に変えて叫ぶ。

 

 

「磯風さんは! 磯風さんはなんでそうなっちゃったんですか?!」

 

「そんな事言われてもな……逆に聞くが、なんで雪風は未だに人間なんかの味方をしているんだ?」

 

 

 泣き叫ぶような雪風の叫びに、磯風・怪は小首を傾げ左手で頬を掻きながら。心からの疑問をかつての仲間へぶつける。

 

 

「なんで、って……だって。雪風達は艦娘だから!」

 

「だから、疲れても戦って、お腹が空いても戦って……そして死ぬまで戦い続けなきゃいけないと言うのかい?」

 

 

 雪風には理解ってしまった、磯風・怪の心からの言葉に雪風は言葉を詰まらせながらも自らの矜持、そして自分の存在意義を叫ぶ。

 

 が、少女の叫びは磯風・怪に届く事なく……。

 

 磯風・怪は、その顔に隠しきれない憎悪を浮かべ、雪風と相対する。

 

 

「そんな事、そんな事ないです! 皆そんな人ばかりじゃありません!!」

 

「……ならば、何故」

 

 

 磯風・怪の悲痛とも言える叫び、その叫びに負けない声量で雪風が。

 

 一時は自身も諦観の中で緩やかに死を待ってた雪風だからこそ、そんな人間ばかりではないと心からの想いを乗せて叫ぶ。

 

 そんな、かつての仲間の言葉に磯風・怪が最初に浮かべた表情は呆気にとられたかのような呆けた顔で、その次に浮かべた顔は……。

 

 自身と同じだと信じていた仲間に裏切られたという感情に塗潰された、憤怒であった。

 

 

「それならば、なんで……私達の姉妹のみならず面倒を見てくれた蒼龍も……弥生も、皆使い潰されなきゃいけなかったんだぁ!」

 

 

 泣き叫ぶかのような咆哮と共に砲撃を放つその姿は、飄々としつつも艦娘としての誇りを胸に戦ってきた磯風という艦娘ではなく。

 

 酷使され、裏切られ、顧みられる事もなく深き海へ沈められた自分と……沈んでいった仲間達へ与えられてきた理不尽な運命に、ただ慟哭する一人の少女でしかなかった。

 

 

「磯風、さん……」

 

 

 激情のままに砲撃を行う磯風・怪の姿に、痛ましそうな表情を浮かべる雪風。

 

 

「磯風さん……あなたは、雪風なんです。救われなかった……もう一人の私なんです」

 

 

 何故、どうして私たちが、と声にならない慟哭と共に砲火をぶちまけ続ける磯風・怪へ静かに語りかける雪風。

 

 いまや無差別と化した磯風・怪の砲撃は、荒れ狂う暴力と化して周辺の機怪群や深海棲艦を根こそぎ薙ぎ倒そうとしていて。

 

 だがしかし、先ほどまでの針の穴を通すがごとき精密さの欠片もない今の弾幕は、雪風にとっては脅威にはなりえない状態となっていた。

 

 

「……アクセルさん、一つお願いしても……いいですか?」

 

「……なんだ?」

 

 

 図らずも、磯風・怪が敵味方関係なしとなった事でアクセル達へかけられていた圧力が緩んだ事で、会話する余裕が生まれ。

 

 ここぞとばかりに、あちこちから煙を噴いているレッドウルフの修理にとりかかっていたアクセルへ、雪風は静かながら力強い声で話し始める。

 

 

「今から、雪風は……磯風さんを救う為に吶喊します」

 

「……そうかい。後ろは任せておけ、俺達はてめぇを置き去りにして死んだりしねぇからよ」

 

 

 決意が込められた雪風の言葉にアクセルは……最初は止めようとしていたが、後ろ髪をボリボリと掻きながら雪風を見送る決断をする。

 

 

「行ってこい、そしててめぇの『昨日』を取り戻して来い。雪風」

 

「……はい!」

 

 

 アクセルの言葉短い激励を背に、雪風は全速力で今も慟哭している磯風へ駆け出す。

 

 

「よっし、お前ら! 全力で雪風のために道を開けろ!」

 

「了解です!」

 

 

 アクセルの号令と共に、今の雪風の仲間である少女達は勇ましい応答の咆哮を上げ。各々の武装で雪風の進路上に位置する敵、雪風を狙おうとする敵、そして。

 

 邪魔になった磯風を沈めようとする敵を、次々と沈めていき……刹那の間かもしれないが、それでも雪風と磯風が一対一でぶつかりあう状況を作り出した。

 

 

「ゆぅぅきぃぃかぁぁぜぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 憤怒、憎悪、絶望、そして羨望で目をギラつかせた磯風が先の雪風の砲撃によって煙を吐き出している右腕を雪風へ向け、躊躇する事無く脚部の魚雷も含め全艤装による火力を雪風ただ一人に全て叩き込む。

 

 その砲弾の嵐とも言える攻撃を前に、雪風は……速度を落とす事なく真正面から突っ込んでいった。

 

 自殺行為以外の何物でもないその行為に、見守っていた夕張と扶桑は思わず短い悲鳴をあげる、が。

 

 ソレらの砲弾を、雪風は進路をほとんど変えることなく。

 

 『自ら』に当たる砲弾のみを見極める事で、身を捻り。時に手に持った連撃12cm単装砲で迎撃し、そしてそれでも当たりそうな砲弾は、『幸運』にもギリギリで雪風からそれていく事で、少女は損傷と言う損傷を受ける事無く砲撃の嵐を切り抜けた。

 

 

「……幸運艦雪風、か。最初は眉唾だと思ってたもんだがな」

 

 

 何かの超常的存在に愛されているとしか思えない光景に、思わずアクセルも呟き。気を取り直して自らの目の前の敵の処理と、雪風のための露払いを再開する。

 

 その間にも雪風の突進は止まる事無く続き、とうとう雪風は磯風に肉薄する事に成功した。

 

 

「コレ、でえぇ!」

 

 

 通常の砲戦よりも、更に短いもはや拳が届くほどの距離。必殺とも言える間合いで雪風は艤装を構え、大口径のバルカン砲である緋牡丹バルカンと一緒に、弾薬すべてを撃ち尽くさんばかりの勢いで磯風へ攻撃をしかける。

 

 その砲撃は磯風の右腕の異形の艤装に次々と穴を穿っていくが、磯風がソレを良しとするわけがなく。

 

 その右腕を振りかぶり、ハンマーを叩き付けるかのように横殴りで雪風を思い切り殴り付けた。

 

 

「ぁ、っぐぅ…」

 

 

 自ら間合いに踏み込んだことで、逆に逃げられなかった雪風はその一撃で軽々と吹き飛ばされ……それでも、海面へ叩き付けらるまでの瞬間に意識を取り戻し、身を翻して海面を滑りながら何とか着水に成功した。

 

 しかし、代償は決して少なくはなかった。

 

 

「……艤装、が……!」

 

 

 咄嗟に盾替わりにした連撃12cm単装砲は原型を留めないレベルで潰れてひしゃげ……。

 

 雪風の胴体と、磯風が叩き付けてきた右腕の間に挟まれた緋牡丹バルカンに至っては、炸裂した瞬間にはじけ飛んだのか、ほとんど木端微塵と言える有様であった。

 

 しかし、不幸中の幸いか……雪風の体に大きな怪我はなく、一般的な損傷状況で言うならば中破程度の損傷で収まっていた。

 

 艤装は全て破壊され、もはや攻撃手段は無いに等しい状況。

 

 そんな状況であっても、雪風の貌に絶望は存在しなかった。

 

 何故ならば……今まで、仲間を失う事が怖くて出来る限り仲間に被害が出ないよう立ち回っていた、言ってみれば『縛り』が今は殆どなく。

 

 そんな状態であっても、決して沈まないと安心して断言できる仲間たちが、雪風の背中を守ってくれているのだから。

 

 

「懐かしいですね……そう言えば、あの頃は遠征先で艤装が壊れる事なんて、しょっちゅうでしたよね。磯風さん」

 

 

 世間話をするかのような、のんびりとした口調で磯風へ語りかける雪風。

 

 そして、少女は……『幸運』にも、不発のまま海面を漂っていた魚雷をその手で広う。

 

 

「磯風さん、帰りましょう。皆の所に」

 

 

 慈しむような目を雪風は磯風へ向けると、剥きだしの魚雷を手に持ったまま磯風へ二度目の肉薄を決行する。

 

 当然、磯風は先ほどと同じように右腕を振るって雪風を殴り飛ばそうとするが……一度見たその動作を、雪風は見切って身を屈めて回避し。

 

 黒煙を吐き出し続ける艤装、その異形の部位めがけて手に持った魚雷を全力で投げ付けた。

 




58の時以上に、思った以上に筆が乗った結果雪風無双になった不具合。
なお、磯風さんが言っていた蒼龍と弥生については。史実における関係性を微妙に吸い上げてみた結果です。

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