艦これMAX   作:ラッドローチ2

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エタっていて、その、なんだ。すまない。
転勤に伴うドタバタがあったり、地底で決意を固めたり、7日間ゾンビラッシュから生き延びたりしていました。


42 揺れる魂

 

 

 

 雪風が磯風・怪へ放った一本の魚雷。

 

 それは、吸い込まれるように……まるで何かに導かれるように磯風・怪へと迫り、着弾。

 

 その直撃が齎す衝撃と痛み、装甲を貫き肌を焼く熱さの中。

 

 磯風・怪は、徐々に薄れていく感覚の中。

 

 

 

 

 不意に、暗く沈んでいく意識の中で懐かしい誰かの声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

「……あれ? ここは……?」

 

 

 先程まで、大海原でかつての親友を相手に大立ち回りをしていたはずなのに。

 

 見覚えのある、無駄に華美な食堂の入り口に磯風は立っていた。

 

 沈められる直前の、『磯風』としての格好で。

 

 

「……おかしいな、確かに私は……」

 

 

 ブツブツと考え込みながらも、誰かいることを期待し磯風は恐る恐る食堂の中へ足を踏み入れる。

 

 扉をくぐった景色、そこは細部があやふやな箇所こそあれど……忘れたい記憶と、忘れてはいけない記憶の両方を積み上げてきた食堂に間違いはなく。

 

 磯風はその中に見知った顔を数名見つけ、その目を見開き。のんびりと談笑していた艦娘の方もまた入ってきた磯風の存在に気付く。

 

 

「……え……?」

 

「おー、磯風じゃん! 凄い大暴れだったねー」

 

「げに、やり過ぎじゃとも想うけどのぉ」

 

 

 椅子に座ったまま振り返り、ぶんぶんと手を振りながら声をかけてくる谷風に。

 

 肩を竦め、困ったように笑みを浮かべる浦風。

 

 二人とも……酷使された末に、磯風と雪風の目の前で沈んだ姉妹であった。

 

 

「無茶ばっかりした末に、あんなのとつるむなんて……」

 

「まぁまぁ弥生もそう言わずにさ」

 

 

 谷風と浦風の向かいに座っていた弥生は、固い表情のまま嘆息し。

 

 そんな弥生を隣に座った蒼龍はなだめつつ、彼女の頬を突きながら「怒ってる?」「怒ってません」などとやり取りを続けていて。

 

 

「……ああそうか、皆がいるって事は。私は沈んだのだな」

 

「ちょっとー、それどう言う意味?」

 

「うちらが沈んだのは事実じゃけんのぉ」

 

 

 クツクツ、と愉快そうに喉を震わせて笑う磯風の様子に谷風と浦風はやいのやいのと声をかけ……。

 

 

「磯風さんは、まだ沈んでませんよ?」

 

 

 弥生が放った言葉に、磯風はその表情を強張らせる。

 

 

「まぁ、このままだったら沈んじゃうってのも本当だけどね」

 

 

 腕を組み、その豊満な胸部装甲を持ち上げた蒼龍は弥生の言葉に付け加え……谷風と浦風の二人もまた、蒼龍の言葉に首を縦に振って肯定を示す。

 

 

「磯風、うちらはな……ずっと見てたんや、磯風を」

 

「無茶ばっかりするからねー、雪風もだけどさ!」

 

 

 穏やかに、悲しそうに微笑みながら浦風はそっと立ち上がり、呆然と立ち尽くす磯風をそっと抱きしめ。

 

 谷風もまた、言葉では冗談めかして茶化しつつもその顔はどこか悲しげで。

 

 

「見てて、くれたのか? 私も、雪風も……孤独じゃなかったのか?」

 

「はい、ずーっと見てましたよ。見てるだけで何も出来ませんでしたけど」

 

「歯痒かったよねぇ、あの提督の執務室で怪奇現象起こすくらいしか出来なかったしさ」

 

 

 溢れ出てきそうになる涙をこらえながら、言葉を震わせて問いかける磯風。

 

 彼女の言葉に…弥生は何も出来なかったことを悔やむように、ため息を吐きながら答えを返し、蒼龍ははにかみながら無力だった事を悔やむ。

 

 

「は、ははは……なんだ、それ。アレが苛立っていたのは蒼龍の仕業だったのか」

 

「そうだよ? アレは面白かったなぁ。あの踏ん反り返った提督が泡食って逃げ惑ってたし」

 

 

 知らないところでやらかしていた恩人の言葉に、耐え切れずこぼれ始めた涙を流しながら、磯風は笑い。

 

 蒼龍は、照れたように笑いながらその時の光景を面白おかしく語る。

 

 

「な、どうする? 磯風……うちらと一緒に、逝くか?」

 

 

 穏やかな空気が流れる中、磯風を抱きしめていた浦風がぽつりと磯風へ問いかける。

 

 人に、環境に、全てに絶望していた磯風にとってそれはとても甘美な誘いであった。

 

 

「……私、は……」

 

 

 

 

 

 

 磯風がかつての仲間と言葉を交わしている間も、大海原では砲撃音が響き続ける大乱戦が続いており。

 

 自ら放った魚雷を直撃させた磯風を、雪風は必死に庇いながら回避行動を続けていた。

 

 雪風は……磯風を轟沈させることで呪縛から解き放ち、心を軋ませながら眠らせようと思っていた、が。

 

 大破し、どこか穏やかな顔をしながら沈もうとする磯風を目の当たりにした瞬間……雪風の手と体は無意識の内に動き、その腕を掴み磯風の体を抱き寄せていた。

 

 

「おかしいですよね、磯風さん。雪風は……貴方を確かに沈めようとしていたのに」

 

 

 新たに得た仲間達の援護を受けながら、後退を続ける雪風。

 

 指揮官であった磯風の沈黙により、敵の圧力は確かに弱まっており……艦娘を一人庇いながらでも、比較的余裕を持って下がることが出来ていた。

 

 

「おい、大丈夫か雪風!」

 

「は、はい! ……っ……危ない!!」

 

 

 雪風の背筋を走る言いようのない悪寒が駆け抜け、強く磯風を抱きしめながら横へ飛び退くその時までは。

 

 

「カリョストロ、フラァーーーーッシュ!!」

 

 

 男の叫びと同時に、飛び退いた雪風が先程まで居た位置を駆け抜けていく眩い光の束。

 

 ソレは、雪風達の背後に迫っていた深海棲艦や機怪群を容赦なく巻き込み消し飛ばし。

 

 

「ギャーーー!?」

 

 

 雪風と合流しようとしていた、アクセルと彼が乗っていた真紅の戦車をも飲み込んだ。

 

 その光景に雪風は目を見開き……とりあえずアクセルが乗っていた戦車が、黒煙を吐きながらも原型を留めていたことに安堵のため息を漏らし。

 

 背後から近づいてくる異音に、雪風は背を向けて逃げるのは危険と判断し。覚悟を決めて振り返る。

 

 

「ふむ、まとめて消し飛ばしてやろうと思ったが……さすがは幸運艦、といったところかな?」

 

 

 雪風が振り返った先、その場所に居たのは……。

 

 大型水上戦車の後部に仁王立ちしている、筋骨隆々な全身タイツに派手なマントを着用した男であった。

 

 

「…………あなたが、磯風さんの司令官、ですね?」

 

「その言葉には肯定を返しておこう、不自然な沈黙が気になるところだがな」

 

 

 奇妙な男の姿に一瞬眉根を潜めるも、明確な敵としてその男をにらみ付ける雪風。

 

 そんな少女の言葉に、全身タイツの男……カリョストロは喉を鳴らしながら哄笑を浮かべる。

 

 

「なんかでじゃぶを感じるのじゃが……アクセル、生きておるかー?」

 

「何とかな……イテテ……あの野郎、今度はあのケツにドスねじ込むだけじゃ勘弁しねぇぞ……!」

 

「これ妾の勝手な予想なのじゃが、直撃食らったのソレが原因で恨み買ってたからじゃと妾思うのじゃが」

 

 

 緊迫した雪風達をよそに、カラフルな頭を縮れさせたアクセルが毒づきながら急いで愛車の修理を始め。

 

 初春は男の呟きにため息を吐きながら雪風へ近付き。

 

 

「加勢は必要かのう?」

 

「大丈夫です……磯風さんを、お願いします」

 

 

 カリョストロから目を離すことなく、大事そうに抱えていた磯風を雪風は壊れ物を手渡すかのように初春へ託し。

 

 損傷状況が中破であるにも関わらず、その小さな体に闘志を滾らせる。

 

 

「……全く、見た目以上に強情じゃのぅ。 そこなかりょすとろ、だったかの? 武装を渡すくらいは待ってくれるじゃろうな?」

 

「好きにしろ、駆逐艦ごときが何をしようと私には勝てぬからな」

 

 

 鷹揚に頷いてみせるカリョストロの言葉に、初春は若干怒りを感じつつも。

 

 何も言うことなく、雪風に最近のお気に入りである四連装16mm対空機銃と携行式のスモールパッケージを手渡す。

 

 

「ありがとうございます、初春さん」

 

「う、うむ。気にする必要はないのじゃ……壊さずに返してくれればなお言うことないのう」

 

 

 初春からの武装貸し出しに、雪風は場の状況に似つかわしくない満面な笑みを浮かべてお礼を告げ、初春はといえば……。

 

 キラキラと輝くような満面の笑みを浮かべている雪風に、若干たじろいでいた。

 

 

「(コレは、かなり怒髪天を突いておるのぅ……)」

 

 

 磯風に肩を貸しつつ、予備の武装を受け取るべく夕張の補給バスへ向けて進路を向ける初春は……悪逆非道だと言われている、全身タイツの変態男に若干の哀れみを向けるのであった。

 

 




後半、シリアスが息切れしたってはっきりわかる有様である。

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