もしも県内一の底辺不良高校に入学してしまった「普通の少年」が宮本武蔵の『五輪書』を読んだら 作:新免ムニムニ斎
——同時刻。
「——
そう言って、
「本当に馬鹿な連中だよな。状況と情報を精査しねーでいきなり
龍俊の言葉に、隣に立っていた
「……そ、そっすね」
身長は明らかに佐竹の方が上。ガタイだって上だ。しかし側から見れば、佐竹の方がだいぶ小さく見えるだろう。雰囲気で。
二人は今、夜の通りにいた。龍俊が電柱に寄りかかり、佐竹がその側に立っている感じだ。
龍俊は佐竹の姿を見て、苦笑する。
「協力感謝するよ、パイセン。よく似合ってんぜ? そのジャケット」
気まずそうに目を逸らす佐竹は今、黒いジャケットを着ていた。
「俺は日本語ペラペラだがよ、切羽詰まると中国語が出る時があってなぁ。素性がバレんよう、念には念を入れて日本人であるあんたの協力が必要だったんだよ。佐竹パイセン。……俺もあんたも、共に
一週間以上前に手酷い「制裁」を受けて以来、佐竹は龍俊に対しビクビク接しがちだった。そんな佐竹でも、今の問いには迷わず頷いて同意した。
「なぁよぉ、おかしな話だよなぁ? あんなチョロそうな奴が、天下のヌマ高で一目置かれちまってるなんてよ。嘆かわしいよなぁ? ワンパンでノックアウトできそうな雑魚キャラの分際でよ。ムカつくよなぁ? 強者の威を借るクソ雑魚ナメクジはよぉ。俺はムカつくね。あんたもあいつのせいで嫌な思いを随分してるもんなぁ? だから——
曲がり角の向こうで、何か物音がした気がした。そこからカラスがギャアギャアと喚きながら一匹飛び出してきた。
何だカラスかよ、と思って視線を外し、龍俊は語り出す。
「気分が良いから、もっかいおさらいでもしようかね。いやマジで気分が良いから。——滝村、だっけ? ぶっちゃけ『
自分の作ったプラモの出来の良さを気持ちよく語るように、龍俊は続ける。
「次にあんたの出番さ、佐竹パイセン。あんたにはそのジャケットを着て、『
愉快そうに声を上げる龍俊に、佐竹がおずおずと質問する。
「……その、大丈夫なんすか? 滝村っていうのをボコったのが、あんただって、バレやしないんすか?」
「あ?」
「ひっ、す、すんません……心配だったもんで」
恐縮して小さくなる佐竹。
それを見て、龍俊は上下関係をきっちり心得ていることを再確認した。それから質問に答える。
「心配いらんよ。顔は覆面で隠してたし、刺青も見せてねーし、暗闇でボコったからな。味方をやられて熱くなってるハクビシン共の脳内じゃ、滝村の件も敵さんがやったもんだと補完されてるだろうぜ。日本人なんざそんなもんだ。すぐバイアスや感情論に囚われて冷静な考察や判断ができなくなる。まさしく愚民だ」
そうせせら笑うように言いながら、龍俊は電柱に寄りかかる。街灯に照らされたその顔には、満足げな微笑が浮かんでいた。
「なんにせよ……これで邪魔者が一人減る。そして俺はまた一歩近づいたのさ。ヌマ高の『アタマ』に」
佐竹はそんな龍俊を、不思議そうに見ていた。
「王さん……あんた、『アタマ』になって、何をするつもりっすか?」
「何を?」
「ひぃ、す、すんません……いや、ただその、なんか、ヌマ高の『アタマ』になることに、普通の奴とは
「違うモノ、か……間違っちゃいねーなぁ。少なくともその他大勢のバカ共みたいな、低俗な功名心や名誉欲で『アタマ』を求めてねーってのは確かだ。俺は……もっと
「それは……何すか?」
「それは——」
龍俊が言おうとした瞬間、曲がり角の向こうから、地面に何かジャリッと擦れるような物音が聞こえた。
先ほども、そこから物音がした。しかし今はカラスが出てこない。
「……へぇ」
案の定、駆け去っていく何者かの後ろ姿が、闇の中に見えた。
その足の動きからは、必死さのようなものがにじみ出ている。
自分達から逃げていることは、明らかに思えた。
「おい、パイセン。追うぞ」
「え? 追う、って何を?」
「俺らの会話を盗み聞きしてた奴がいた。……念のため取っ捕まえて、口止めしておくんだよ。万が一あいつが『