もしも県内一の底辺不良高校に入学してしまった「普通の少年」が宮本武蔵の『五輪書』を読んだら 作:新免ムニムニ斎
もはや、勝敗は決していた。
陣形の瓦解によって、『
立っているのは自分と、他の男メンバーが率先して守ってくれた四人の女メンバーだけ。
そして周囲には、まだ二十人前後ほど数を残した二チーム連合が立っていた。
——敗北。
神奈川の少数精鋭で通っていた『
敵チームの群れの中から、二人の人影が歩み出てきた。
『
『
二人のリーダーは、優越感の混じったニヤけ顔だ。
井原は歩きながら、倒れていた『
「貴様ぁっ!!」
振り抜いた鉄パイプは、しかし井原が持っていた鉄パイプによって防がれた。
「——かはっ!?」
さらに、丸太のような井原の脚による回し蹴りが、久里子の二の腕を強烈にとらえた。
細身の体が派手に横へ飛ぶ。転がって、それから動かなくなった。
「雌が」
井原は吐き捨て、菅野とともに再び歩き出す。
そして、桔梗を含む、女四人の前で止まった。
「よぉ、雌ハクビシン。初めて負けた感想はどうだい?」
桔梗は答えない。何を答えたところで、何も変わらない。
だから考える。この負け戦をどう乗り切ろうかと。
思考停止は絶対しない。だから必死で思考する。メンバー達がどうすれば助かるのかを。
だが、この絶望的状況を切り抜けるための魔法じみた策は、いくら考えても捻り出せない。
「お前さぁ……ここでごめんなさいすれば万事解決、全て丸く収まります、所詮はガキ同士の小競り合い……って感じに思ってたりする?」
菅野がそう言って、ちろりと女メンバーへ視線を滑らせる。……正確には、その肢体に。
「甘いんだよ。俺らの世界はな、ナメられたら
「……何を、しようっていうのよ。菅野」
桔梗の押し殺したような発言に、井原が「ひゅぅ!」と愉快そうな声を出してから答えた。
「女ども。残ったお前らの身をもって償えって話さ。
ふぉぉぅ!! と周囲の下っ端連中が興奮で色めき立った。
対し、女メンバーらはヘルメットの下の顔を真っ青にした。
「——
桔梗は憤怒の形相で吐き捨てた。
菅野が鼻で笑う。
「なんとでも言えや。全部お前らが悪いんだ。こんな弱いくせに、蜂の巣をつつくような真似をしたお前らが」
「ふざけないで……ウチらに狂犬はいないわ! 先んじてあんたらに手を出すような狂犬は!」
「そんなこと今さら言われて、信じると思ってんのか? 実際、俺らにはお前らと同じジャケット着た奴から襲われてる奴がいんだよ」
「それはっ……!」
焦りを覚えた桔梗は、まだ仮説の段階を出ていない推論を、苦し紛れに言った。
「……滝村が、メンバーの滝村が、通り魔にやられたみたいなの。あいつ、半殺しにされた後、パンツ以外の服全部剥ぎ取られたらしいわ。その中には『
「じゃあ今すぐその「通り魔」を連れてこいやぁ!!」
井原の凄まじい怒号に、桔梗は息を呑んだ。
……それは、無理だ。確かにその「通り魔」が非常に怪しい。だけど、その「通り魔」の居場所どころか、その素性すらもわかっていないのだ。
そもそも、向こうは「加害者」というフィルターを通して『
「万策尽きましたって感じか? …………よし、いいぞ!! お前ら、
井原の呼びかけを聞き、周囲の団員が雄叫びを上げて近づいてきた。
他の女メンバーは、これから自分の身に起こる未来を鮮明に予想し、すっかり震えて小さくなっていた。悲鳴も満足に上げられない状態だ。
「な、何をするっ!! やめろ、離せ!! 穢らわしいっ!! 男がぁっ!!」
久里子の声だった。仰向けのまま両腕を一人ずつに押さえ込まれ、地面に組み敷かれた状態だった。
……久里子は男嫌いだ。それは、かつて自分を酷い目にあわせようとした「男」という生き物に対する強い恐怖の裏返しでもあるのだ。
彼女が、あの下衆どもから好き勝手にされたらどうなるか……想像もしたくない。
そんな絶望的状況になっても、桔梗は思考を止めなかった。
もう、全員助かってハッピーエンド、なんていう贅沢な打開策は望まないし、望めない。
なら、ならせめて——自分が戦わせてしまった、愛すべき
「待ちなっ!!」
桔梗のその雷鳴のごとき一喝に、全員が動きを止める。
それは、桔梗の声が哀願に満ちたものではなく、強い意志の力がこもったものであったからだろう。
強い生理的嫌悪感を押し殺し、桔梗は毅然と言い放った。
「その子達には手を出さないで。代わりに——
息を呑む声がいくつも重複する。
震える。怖くて全身が震える。けれど、引き下がらない。
「ウチのこと、好きにしていいから」
強調するような桔梗の言葉に、二人のリーダーが血走った目をして生唾を飲み込んだ。