魔法少女育叡計画 scientia est potentia   作:pseudok

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第2話 マジカルオールドメイドタイム

◇カフリア

 

 マジカルティータイム。コスプレ趣味の一般人が集う中、変身した魔法少女が大手を振って茶会を開く喫茶店で、三人はカードを手に睨み合っていた。葱の香の魔法少女葱乃(ねぎの)、アフロヘアーの魔法少女アウロ、そして喪服の魔法少女カフリア。

 「魔法少女二人組その他条件問わず早いもの勝ち」という大雑把な仕事の募集依頼をコクリちゃんが探し出し、自分ともう一人の枠だけを確保してくれていた。仕事内容は聞いていないが、誰でもいいということは楽な仕事であり、緊急性があるならば報酬は高くなる、つまり美味しい案件ということだ。

 誰がコクリちゃんと組むのか、なんらかのゲームで決めるのが公平だと葱乃、そして暇つぶし用に持っていたとアフロヘアーからトランプ束を取り出したのがアウロ、ならば遺恨なきようテクニックの介在余地が少ないババ抜きがいいとカフリア。

 しかしその提案の言葉とは裏腹にカフリアの思惑は別にあった。

 カフリアの魔法『誰が一番早く死ぬのかわかるよ』は、死の順番がわかるだけで、いつどのように死ぬかといった情報は得られず、ゆえに役に立つ場面がほぼ存在しない魔法である。親しい魔法少女含め、他者には自虐を交えてそのように説明している。

 しかしこの魔法の実態は説明とは少々異なる。「死」の解釈と魔法の発動対象にはある程度の可変性があり、その条件はカフリアの意思で随時自由に変更することが可能だ。たとえば「ゲーム上の敗北」なども「死」に含むことができる上、カフリアが魂を持った存在だと認識できる生物までなら発動対象の範囲を拡大できる。

 それでもなお活用できるシチュエーションは、死亡時間と死亡要因が狭い範囲に収まることをカフリアが知っている、という限られた状況のみであり、いまだ仕事で有効活用できた試しはない。だが、「ババ抜き」はこれ以上なく条件に適合している。

 この事実は葱乃とアウロにも明かしていない。情報の隠蔽は固有魔法の強さで他者の後塵を拝する魔法少女にとって生命線になり得る。

 具体的な戦略はこうだ。まず右を向いて葱乃だけを視界に入れる。次に左を向いてアウロだけを視界に入れる。最後に片目を瞑り、瞑った目と反対側の鼻の側面をさり気なくカードで押さえて──すなわち自分自身の体を視界の外へ追いやることで魔法の対象から外して──二人を見る。この三パターンの情報を統合すれば順位を確定させられる。あとは自分が一位の未来が見えるまで、自分のターンに選択するカードを変更すればいい。これで百パーセント確実なる勝利が約束される。

 実際にこのオールドメイドはカフリアの思い描いた青写真通りに進行した。カフリアの魔法を誤解している二人はカフリアの不自然な動きに疑いを向ける素振りを全く見せない。

 ゲーム終盤、各人の持ち札が二枚か一枚になる局面。葱乃は二枚の手札をよく切り混ぜた上ですん……と表情を失いカフリアの選択に備えている。小学生レベルの浅薄な戦略である。いくら切り混ぜようと向かって右のカードを選択すると決めている限りカフリアの勝利は揺るがない。カフリアの見ている未来に結果は収束する。

 いざ決着とばかり、カフリアが右に向かって手を伸ばすと、葱乃の瞳が微かに横に逸れた。まさかと思い、試しに左へ方向転換すると、葱乃の口角が少し上がった。

 純粋にポーカーフェイスが下手だ。答えを知っているからそう思うだけなのだろうか。知らなければブラフを疑っていたであろうから、それほど単純な話ではないとはいえ、これならイカサマなどせずとも勝てていたのではないか。

 左の方を見遣ると、この低レベルの攻防を、前のめりになりながら固唾を飲んで見守っているアウロの姿があった。手札はテーブルの上に投げ捨てられている。

 カフリアは溜息を吐いて手札をテーブルに伏せた。

「失礼、ちょっとお手洗いに……」

「この場面で!?」

「テレビ番組みたいな引っ張り方ね」

「カード置いてくんです? 覗き見ちゃうかもしれませんよ?」

「いや、見てもなんの意味もないでしょ」

 やんややんやと盛り上がる二人を尻目に、カフリアはそっと席を立った。

 

 カフリアは洗面台の前に立ち、鏡に映る自分自身──死を象徴する黒衣に身を包んだ暗い印象の少女──の姿をまじまじと見つめた。

 なにをやっているのだろうか。

 これは客観的に見て搾取と呼ばれる行為だ。

 「敵を騙すにはまず味方から」などという使い古されたフレーズを自分自身に対して嘯き、言い聞かせ、その実単に味方を騙し、略奪しているだけだ。その先に存在すべき騙したい敵がどこにもいない。

 一方、葱乃とアウロの二人は、このゲームをちょっとした余興程度にしか捉えていないように見える。二人は基本的に困窮しているし、報酬の減少に無関心なわけがない。おそらく得られなかった報酬を仲間が得るのであれば、それを損失とは考えていないのだろう。

 魔法少女とは一体なんなのだろうか。

 弱きを助け、強きを挫き、誰に対しても正直で、常に清廉潔白であろうとする。それが魔法少女か。

 そんなのは才能に恵まれた者のみに許された理想論だと切って捨てて、他者を利用し、蹴落とし、強かに生きるのが魔法少女か。

 カフリアはどちらの魔法少女であればいいのか。

 こんな時に人生の岐路に立たせないで欲しい。

 だが、その要求はきっとお門違いだ。上昇志向と能力不足との板挟みの中、中途半端な立ち位置でズルズルと仕事を続け、選択から逃げ続けた結果が今ここに皺を寄せている。

 今鏡の中の少女はどんな顔をしているのだろう。ひどい顔をしているという予想は立つが、黒いヴェール越しでは判然としない。わざわざ捲って確かめるのも気が滅入る。その現実逃避思考に自己嫌悪して、また深く溜め息を吐いた。

 顔を上げた時、背後に立つ少女の姿を鏡越しに認めた。足音も気配もなく、突如としてそこに現れたかのように感じられたため、少し面食らう。少女はボサボサの髪、セルフレームの眼鏡、露出度の高い水着、そして白衣という、このマジカルティータイム店内であってもなお目立つ風貌をしていた。目は落ち窪み、生気は薄いが、それを差し引けば容貌は整っており、コスプレイヤーよりは魔法少女のオーラを感じる。

 隣の洗面台は空いているというのに、少女はカフリアの斜め後ろに佇み、ニヤニヤとした笑みを浮かべている。その様子にカフリアは気まずさを感じ、振り返って軽く会釈をした。なにか用があるなら話しかけてくるだろう。実際少女は口を開き、

「はじめまして、カフリア。それじゃあ誘拐させてもらうね」

「え?」

 ──なぜ名前を? 誘拐? 

 疑問を整理する間もなく足元の地面は消失し、カフリアの体は暗闇へと吸い込まれていった。

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