魔法少女育叡計画 scientia est potentia   作:pseudok

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第3話 母なるヤバイ奴

◇ルーラ

 

 手下の動向を監視するのはリーダーの責務だ。特に無能な手下は組織を利するどころか、勝手な行動によって組織に害を与える。ゆえ自主的に行動させることで成長を促しながらも、適度に介入して律する必要がある。放任、干渉、その間のバランスを取るのは非常に難しい。

 だが、ルーラにはそれが出来る。なぜならルーラは優秀だからだ。特に単純で愚鈍なたまの行動を把握するなど造作もない。深く考えるまでもなく手に取るようにわかる。

 ルーラはたまに歩み寄り、テーブルの上の契約書を奪い取った。ルーラが動いたことで既に魔法は解除されているが、たまは亡霊でも見たかのような驚愕の目でルーラを見上げて固まっている。たまのことは無視して掲げた契約書を平手で叩いた。

「案の定、たまに不利な条件しか書いてないじゃない。これ以上搾り取ろうってどんだけ強欲よ。人の心とかないの? ああ、ロボだからあるわけないか」

「ルーラ!? どうして……?」

「あんたが馬鹿すぎるせいでしょ。ったく……これ以上私に手間かけさせないでくれる?」

 ルーラは怒気を込めた視線をマジカロイド44に向けた。極めて正当な怒りだ。いくら手下の失敗の尻拭いもリーダーの仕事の内とはいえ、かかる手間が度を超えている。

「随分と私の手下を可愛がってくれたみたいね。どう落とし前付けてくれるのかしら?」

 マジカロイド44はルーラの乱入からこっち、心底気障りそうな雰囲気を漂わせている。自業自得だろうに、腹立たしい。

「勘違いされているようデスが、ワタシとたまさんは正当なビジネスの話し合いをしていただけデス。結果交渉は決裂したのデス。この契約書にサインしないのであれば帰らせていただくデス」

「なぁにが正当なビジネスよ。この悪徳守銭奴ロボが。さっさと契約を解除しなさい」

「デスから、この契約は法的になんの瑕疵もないので、解除する理由がないのデス」

「拒否するというなら、私の魔法であんたを操って、無理矢理契約を解除させたっていいのよ。その場合は契約解除以上の罰を覚悟してもらうけど」

 ルーラが王笏を構えると、マジカロイド44は後退った。明らかな焦りが見て取れる。しかし、ルーラがそれ以上動かないのを見ると、気勢を取り戻した。

「それができるのであれば、アナタはすぐにでもやっているはずデス。しかしアナタは味方に魔法を使うのを見せた後、それを脅しのように使うという回りくどい使い方をしているデス。これはアナタの魔法が強力であっても万能ではないということの証左デス。例えば、簡単な命令しか下せない……とかデスかね」

 マジカロイド44の推測は当たらずとも遠からずといったところだ。ルーラの魔法『目の前の相手になんでも命令できるよ』は精神操作魔法ではなく、肉体操作魔法である。術者が知り得ない情報を含む命令は下すことができない。

 欲しいのは手持ちの現金ではなく振替口座の登録状況であり、決済アプリへのログインパスワードがわからなければ意味がない。

「小賢しい鉄屑が……!」

 ルーラは王笏を力任せに壁に叩きつけた。打点の壁に掛かっていた絵画が半分に割れ、女の下半身が額縁の破片とともに床に落ちる。次はお前だといわんばかりに王笏を片手持ちから両手持ちに替え、戦闘態勢をとった。たまに対しても立ち上がるよう小首で促す。

「おっと、デス」

 マジカロイド44が後方に跳ぶと同時に、背中のランドセル状のラックからなにかが飛び出した。ラックには到底収納できない巨大なアーム付きの砲門が四門。現代兵器には見られない金属光沢が眩しく、表面に幾何学模様が現れては消えたりしている。

「『対侵略性宇宙生物用自動迎撃システム』デス。もしワタシに暴力を振るえば、即座に反応してこのホテルどころか付近一帯の街は焼け野原になるデス。

「なんでもありかこいつ……」

 本気で街を壊滅させる気があるとは思えない。だがこの街の魔法少女は全員ルーキーだ。完璧に魔法を制御できているとも限らないだろう。共倒れは避けなくてはならない。

 ルーラが王笏を下ろすと、砲門のアームはパタパタと折り畳まれてラックの中へと戻っていった。

「このようなものを持ち出すのはワタシも本意ではないのデス。これは飽くまでも平和的な話し合いをするための補助道具に過ぎないのデス」

「どの口がいってんだか……まあいいわ。面倒だけどあんたの土俵で戦ってあげる」

 

 ルーラはテーブル近くのソファーに腰掛けると、両腕を広げ脚を組んだ。大事なのは度胸と風格だ。余裕を見せるほど相手の士気は削がれる。

 見る者を虜にする魔性の瞳、透明感のある白い肌、絹糸のような薄紫の髪、豪奢な宝石の光り輝くティアラ、目が眩むような純白のドレス、手触り滑らかな朱子織りのマント、威風堂々かつ泰然自若とした立ち居振る舞い、全ての要素が渾然一体となり、尊き支配者たるルーラのイメージを形成する。

 これをルーラは魔法と王笏に次ぐ武器と考えている。

「たま、あんたいくつ?」

「えっ」

「年齢」

「えっと、十三……」

「おやおや、まだお若かったのデスね。とてもしっかりされているので、てっきり成人されているかと」

 ルーラはマジカロイド44をきつく睨んだ。

「民法第五条、未成年者がその法定代理人の同意を得ずに行った法律行為は、未成年者自身又は法定代理人によって取り消すことができる」

 軽口を叩いていたマジカロイド44の頭部から表情が消え、無機質な機械の目でルーラを見つめている。たまはいつも以上にルーラの言葉が理解できないようで、パチパチと瞬きを繰り返している。

「契約破棄申請書も一応用意しておいてあげたわ。あとはここにたまのサイン書くだけでいいから」

 ルーラは整ったフォーマットの申請書をたまに渡し、空欄を指し示した。

「これだけの話でしょ。契約破棄。拒否するなら民事訴訟。債務不履行なら財産差し押さえ。今は強制執行力高まってるんだから、逃げられないわよ。ほら今すぐその決済アプリで登録解除して。さっさとしろクズ」

 

◇たま

 

 ルーラが座れば老朽したソファーもお姫様の玉座のように見えてくる。

 ルーラはとても賢い。ルーラの話は難しくて、なにをいっているのかわからないことが多い。でもそれはマジカロイド44についても同じだ。どちらの方が賢いかなんて、たまには判断できない。ただ、ルーラはたまがわからないといえば根気良く教えてくれる、その点がマジカロイド44と大きく異なる。そんな人は今まで祖母以外にいなかった。

 今の状況もそうだ。昨晩はたまを見放すようなことをいっていたけれど、助けに来てくれた。ルーラは頼もしい。きっとなんとかしてくれる。

 だが居丈高にふんぞり返るルーラに脅しと思しき文句を並べられ、それでもなおマジカロイド44が敗北を認める様子はなかった。

「これを見るデス」

 ルーラに向かって示された紙には、保護者欄という枠線が引かれ、その中に拙い筆跡で犬吠埼性の名が記されていた。

「たまさんも写しを持っているはずデス」

「うん……持ってるけど、名前しか書いてないし、別にルーラには見せなくてもいいかなって……」

 途端にルーラの顔が青ざめ、マジカロイド44の機械の目が三日月状に変形する。

「たま……あんた、やってくれたわね……」

「えっ? えっ?」

「……民法第二十一条、制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。つまり法定代理人の同意を偽装した場合は未成年者であっても契約の取り消しはできない……」

 わかりやすく言い換えたであろう文言でさえたまには呪文のように聞こえ、一切理解できない。

「それってどういう……?」

 ルーラはたまを放置して立ち上がり、マジカロイド44に食ってかかる。

「明らかに筆跡が同じだろ! 人の親がこんなきったない字を書くわけあるか! 全部わかった上でしょうが!」

「筆跡のことは鑑定士ではないので判断できないデスねぇ。蛙の子は蛙といいますし、似たもの親子だなぁと思った程度デス」

 マジカロイド44への駁撃が暖簾に腕押しと見ると、ルーラは再びたまに向き直った。

「あんた、いくら馬鹿でも絶対にやっちゃいけないってことぐらいわからない!? ああ、そうだった。あんたの馬鹿さ加減は私の想像を超えてるんだった。あーあ」

 ルーラに失望の眼差しを向けられ、たまはじわじわと自分のしたことの意味を理解し始めた。

「えっでも、マジカロイドさんが、魔法のアイテムを買うことを親に話したら魔法の国のルールに反しちゃうから、親のサインは自分で書いてはんこも勝手に使うといいっていったから……」

「いいがかりはやめるデス。それともワタシがそんなことをいった証拠でもあるのデスか?」

 たまは初めて契約した時の状況を思い出した。なぜこの時だけ耳打ちで囁かれたのか、その意味を深く考えていなかった。考えなくてはならなかった。

「いったよ! 絶対いったよ……!」

 マジカロイド44はどこ吹く風といった様子でたまの抗議を受け流している。

 たまは、悪事を働こうとする意志さえ持たなければ、悪人になんてなり得ないと、ずっと思っていた。無知が悪を生み出すなんて、思いもしなかった。

 たまの祖母はたまのことを「勉強ができなくても優しくて良い子であればそれだけで偉い」と褒めてくれていた。その誇りすら失ったら、たまにはなにも残らない。

「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……知らなくて……」

 たまの体は力を失って地に落ち、目からは涙が溢れ出す。

「見捨てないで……」

 

 勝利を確信したのかマジカロイド44は態度を変え、ルーラに対してすり寄った。

「いやぁアナタも大変デスねぇ。こんな無能な部下を持ってしまって」

「……そうね。こんな馬鹿を手下にしたこと自体間違いだったのかもね」

 ルーラはすっかり戦意も覇気も失っている。こんなルーラは見たことがない。怒られている時よりもよっぽど恐ろしい。

 たまはお金もルーラからの信用も失い、チームから弾き出されるのだろうか。

「ルーラぁ……うっうう……」

「馬鹿だし、穴を掘るしか能がないし、突き放しても鬱陶しく纏わりついてくるし、馬鹿だから漢字読めないし、資料作っても大量にふりがな振らされてさあ、馬鹿だから懇切丁寧に注釈入れたところで意味理解してないだろって思うし、それでも毎回律儀にふりがな振ってやってる私のほうがよっぽど馬鹿かかって。もう慣れたわふりがな振るの。無心で無限に振り続けられるわ」

 ルーラは俯きながらまるで独りごちるかのように言葉を吐き続ける。マジカロイド44は様子のおかしくなったルーラがなにをいっているのか理解できないようで、ぽかんとしている。

「本当にどうしようもない馬鹿よこいつは、阿呆だし、間抜けだし、愚図だし、ノロマだし、ほんっとうに……」

 ルーラは尻餅をついて倒れているたまの手を掴み、自分の許へ引き寄せた。

「……でもね、私の苦労なんてなにも知らないやつに、たまのことを馬鹿にされるのは、無性に腹が立つのよ!」

 

 ルーラは一枚の紙をテーブルの上に叩きつけた。

「できればこのカードは切りたくなかったんだけどね……。たま、読みなさい」

 たまはぼやけた視界の涙を拭ってから、紙の下部の文章に目を遣る。

「……えっと、これは戸、はこ? に記、えっと、……」

 ルーラはなにもいわず、自然な仕草で懐から鉛筆を取り出し、サラサラとふりがなを振った。まるで印刷されたフォントのように美しい。

 そういえば契約書にも同じ筆跡のふりがながいつの間にか振られていたおかげで、調べながらもどうにか読むことができたのだった。マジカロイド44から受け取った時はふりがながないせいで全く読めなかったはずだ。

「『これは戸籍(こせき)記載(きさい)されている事項(じこう)全部(ぜんぶ)証明(しょうmうぃ)した書面(しょめん)である』……?  どういうこと……?」

「『戸籍全部事項証明書』……いわゆる『戸籍謄本』よ。ここを見て」

 ルーラは「戸籍(こせき)記載(きさい)されている(もの)」と書かれた欄の右側を指し示した。

「えっと……私の名前があるけど、【母】がお母さんの名前じゃなく『きおう』? って人になってる?」

「そう。養子縁組をした。今現在たまの正式な法定後見人はこの私よ」

「……はぁ?」

「チームのリーダーである私が手下の生殺与奪の権を掌握するのは当然のこと。だから戸籍を奪ってやったわ」

 ルーラは薄笑いを浮かべながらたまの頭を強く掴み、グリグリと動かす。たまはルーラにされるがまま頭を振っている。

「な、な、なにをいってるデスか? あなたは」

「だから、この契約は無効ってこと。契約日よりも前に戸籍は変更されている。つまりこの本人のサインも保護者欄の名前も全くの他人で意味がない」

「そ、そんなことできるわけがないデス!」

「それを現にやったのよ。私の魔法で関係者を洗脳してね。たま自身も気付いてなかったようだけど」

「あ、ありえない……頭おかしい……」

「魔法少女なんて狂った存在、頭がおかしくないやつに務まるとでも思ってんの? こっちは人間としての生活なんてとっくに捨ててんのよ。あんたみたいに魔法使ってセコセコ小銭稼いで悦に浸ってるようなチンケなやつとは覚悟が違う」

 ルーラはテーブルを両手で強く叩き、大きく身を乗り出した。目を限界まで見開き、威圧するようにマジカロイド44の眼前に顔を近付ける。

「魔法少女嘗めんな」

 

◇◇◇

 

 マジカロイド44は震える指でスマートフォンを操作し、紐付けを解除した証拠の画面をルーラに向けた。

 ルーラがたま側のアプリも合わせて確認している間、マジカロイド44は手で胸をぐっと押さえては離し、時折その掌を見つめるという奇妙な行為を繰り返していた。それになんの意味があるのかたまは知る由もないし、鋼鉄の面皮の奥にある人間の少女の表情を窺い知ることもできない。だからといって、ルーラのいうように「ロボには人の心がない」とは思えない。それだけは違うのではないかと思う。

「問題ない。ちゃんと解除されてる」

 ルーラがスマートフォンをたまに突き返し、逆の手で追い払うようなジェスチャーをマジカロイド44に向けた。

「まって!」

 たまは立ち去ろうとするマジカロイド44を呼び止め、歩み寄った。怪訝な顔つきのマジカロイド44を横目に、たまは財布から取り出した千円札を彼女の胸の前に差し出した。

「これ、道具代……。百円が十個だから千円、で合ってるよね……?」

 マジカロイド44は手にした千円札を両手で広げ、たまを見、また千円札を見、と視線を行きつ戻りつさせていたが、最後には深く息を吐き、降参したかのように項垂れた。

「お買い上げ、ありがとうございましたデス……」

 マジカロイド44はそれだけ言い残し、逃げるようにその場を去っていった。

 

 額をパチンと指で弾かれ、横にルーラが立っていることに気付いた。

「馬鹿、あんなクズには一円だって渡す義理ないのに」

 ルーラは手を狐の形にしたままにして、たまがなにかいえばまた額を弾こうとしているように見えた。けれど本気でたまの行動を咎めているとは思えない。止めようと思えば止められたはずだ。

 そんなルーラを見ていると、取引を無事に終えられたという安堵感が一気に押し寄せ、両目から涙が溢れ出した。

「ルーラ……ルーラぁ……うううう」

 たまはルーラの服の裾にすがりついた。身体を捩って逃れようとするルーラの抵抗が意味をなさないほど強く強くすがりついた。

「勘違いするなうざい。手下が嘗められるということはチームが嘗められるということ。組織の面目を保つためには二度と手出しできないよう、徹底的にわからせてやる必要があった。ただそれだけ」

「でもありがとう……ルーラ……えっと……ルーラお母さん?」

「ちがあああああぁぁぁぁぁう!」

 

 ルーラは「戸籍謄本」を粉々になるほど細かく引き裂き、宙に放った。ルーラの体は紙吹雪に包まれ、窓から差す光は勝者を称えるようにルーラを照らす。その姿はさながら舞台女優だ。

「こんな紙切れ、偽物に決まってるでしょ。この『畿央(きおう)瑠璃子(るりこ)』なんて名前もデタラメだし。公文書偽造になるけどね。あいつだって脛に傷あるんだから公になることなんてないわ」

「え……? ええええええ?」

 たまは頭の整理が追いつかずしばし放心、その後首をひねり、反対方向に首をひねり、頭を抱え、天井を見つめて考え、それでもあまり理解は進まない。

「……あのマジカロイドさんを、騙したってこと……?」

「まあ、あのクソロボはあんたみたいな素直な馬鹿と違ってひねくれてるし、九十九.九パーセント信じてないでしょうよ」

「えっ……だったらどうして……?」

「〇.一パーセントでも可能性があれば十分よ。こっちはメリット度外視でどんな手を使っても取り返すって態度を見せたんだから、一時凌ぎしたところで二の矢三の矢が飛んでくることも容易に予想できる。そもそもあんたの貯金なんてせいぜい十数万か数十万ってとこでしょ。額面三百万といっても現実的に取れる額があまりにも少ないわ。あんたが就職して稼ぐようになった後まで考えるとしてもどんだけ回収に時間掛かるんだって話だし。起こり得るデメリットが極大なら可能性が極小でも期待値は簡単に損益分岐点超えるのよ」

「え、えーと……?」

「勝利条件は法的に正しくあることじゃないから、合理主義者に引き下がるための理由を与えてやったってこと。これ以上噛み砕いて説明するのは無理だから、あとは自分で考えなさい」

 考えろといわれても、もはや考える取っかかりすらよくわからない。ただ、たまを手玉に取っていたマジカロイド44を軽くあしらえるルーラはすごい、ということだけがわかった。

「あいつもこれに懲りて無茶な商売は今後しなくなるだろうし、良いお灸になったんじゃない?」

 

 それより「ルーラお母さん」という言葉が頭に残って、ホテルからの帰り道もずっとそのことでたまの頭はいっぱいになった。「スイムお姉ちゃん」「ユナお姉ちゃん」「ミナお姉ちゃん」も家族に加わり、五人で食卓を囲んだり、五人同じ布団で寝たり、姉妹で勉強を教え合ったり、成績が悪くてお母さんに怒られたり、庭に五つのひまわりの種を植えたり、五人で人気観光地のホルンフェルスを見に旅行に行ったり……想像の翼はどこまでも羽ばたいていく。

「気色悪い想像するな馬鹿」

 気付かない間に妄想の内容が口に出ていたのか、ルーラに杖で頭を小突かれた。見れば隣を歩くルーラの横顔も、ほんのり赤く染まっているように見えた。それが意外だったのでじっと見ていると、今度は頭を掴まれ、髪の毛をくしゃくしゃにされた。その手つきはさっきホテルの中で頭を掴まれた時よりずっと優しくて、なんだか悪くないな、と思った。

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