魔法少女育叡計画 scientia est potentia 作:pseudok
護は電車に揺られながら窓の外をぼんやりと眺めていた。庚江につまらない話を聞かされた影響で生じた眠気が尾を引いている。
ラッシュアワーから遠い時間の鈍行車内に人は少ない。向かいの列には既に眠り落ちた壮年の男性が一人、同列離れた位置にはコートを着込んだ女性、その他のシートに座っているのも一人か二人。あとは遠くの壁際にベビーカーを押した女性が立っている程度だ。
目的駅まではまだかなり時間がある。このまま春の微睡みに身を任せても寝過ごしはしないだろうか。いくら昼間とはいえ、女一人で無防備を晒すのは流石に不用心か。それも自意識過剰か。それとも──
護は鞄の中にそれなりの金額を預かっていることを思い出した。眠るわけにはいかない。
罰ゲームは、なんのことはないおつかいである。発端は庚江が祖父に臨時の小遣い──一般人からすれば大遣いといいたくなる額のもの──を「二人で使うように」と渡されたことにある。庚江はまず護に欲しいものがあるかどうかを尋ねたが、特にないと答えると、ボードゲームの遊び幅を広げるためにチェスクロックが欲しいといいだした。庚江はフィジカルスポーツだけでなくひと通りのマインドスポーツにも精通しているが、もっぱらPCで誰とも知れない相手とプレイしているため、対面で用いる道具は充実していないらしい。更に、せっかくだからどちらが買いに行くかをボードゲームの対局で決めるのがいいと提案された。そして護は勝負に熱くなっている間に「総合成績で決める」という取り決めのことも忘れ、見事に敗北する。
しかし、よくよく考えてみると、チェスクロックなどというものは近所の店に売っているものではないし、必然遠出になる。明らかにネット通販で取り寄せた方が手っ取り早いと、スマートフォンを取り出そうとすると、庚江に「自分の足で買いに行かなければ罰にならない」と諭され、その上「その金は泡銭だから全額使い切るように」と厳命された。
要は護に金を与えたかったのだろう。庚江の祖父にしても庚江自身にしても、金持ちというものはなにかと理由をつけて人に施しを与えることを好む。それがどれだけ精神的快楽を得られる行為なのかは知らないが、施される側の気持ちなど考えたことがないのではないだろうか。心を無にすれば単純に得をしたと喜ぶことはできる。しかし、返せないほどの恩を与えられれば、一生相手に負い目を感じ続けなければならない。恩着せがましいとはこのことだ。
いや、あの二人なら他人を支配するため、全て承知の上でやっていてもおかしくはない。
空恐ろしくなってそれ以上先を考えるのはやめにした。
眠気を覚ますためにスマートフォンを開くと、画面右下にある見慣れない五角形のアイコンが目に入った。チュートリアルがわかりやすいからと、庚江にインストールさせられたアプリだ。対人戦がメインではあるが、CPUと練習対局する機能なども備わっている。
なんとなくアイコンをタップし、手合は十枚落ち、CPUランクは初級を選ぶ。
初級のCPUは初心者の護から見ても弱い、というより意味のわからない自殺のような手ばかりを指し、全くやる気が感じられない。歩の前に歩を進めても取り返されないので、そのまま制圧できてしまった。流石に勝っても嬉しくないし、練習になるとも思えない。
一段ずつ登るのが面倒になり、次は中級を飛ばして上級を選ぶ。
途端に苦しくなった。玉と歩のコンビネーションで護の歩は奪われ、薄いようで絶妙に硬い守りを攻めあぐねているうち、生まれた自陣の隙に歩を打ち込まれ、それを足掛かりにどんどん上位の駒と交換され、あっという間に駒の数が逆転した。こうなるともうどうしようもない。
一瞬で気持ちが萎える。庚江との再戦はあれだけ拒否したのに、なぜまた同じ過ちを繰り返しているのか。
現実に帰ってスマートフォンから目を離すと、真近くに人の気配を感じた。すぐさま右を振り向くと、さっきまで遠くに座っていたコートの女性が護の方へとすり寄り、護のスマートフォンの画面を覗き込んでいる。
「うわっ」
護が小さく驚きの声を上げると、女性も同じような驚きを返し、慌てふためきながらも掌を合わせてペコペコと頭を下げ始めた。
「申し訳ありません……。若い娘さんが将棋をされているのが珍しくて、つい……」
女性はフードを目深に被っていたため遠目にはわかりづらかったが、ずいぶん奇矯な風貌をしていた。無造作に前髪を流したカーキ色の短髪(ヘアカラー?)に丸々とした真紅の瞳(カラーコンタクト?)。真黒いコートも見たことがない素材で縫製されている。それだけであれば単なる奇人になるところ、抜群の器量が全ての要素を美へと統合している。
一瞬魔法少女という単語が護の頭に浮かんだが、電車より遥かに速く走れる魔法少女が変身して電車に乗る理由が思い当たらず、すぐに掻き消えた。少女数万人あたり一人という存在に、プライベートでそうそう出会う機会などないだろう。ビジュアル系バンドメンバーとか、個性派俳優とか、プロコスプレイヤーとか、そんなところだろうか。
護はコミュニケーションが得意な方ではないため、普段なら適当に愛想笑いで流して終わる場面だ。しかし、年上、平身低頭の態度、美人、抜けているところがある、など様々な条件に珍しく話しかけやすさを感じ、放ってはおけなくなった。自身の心情が庚江に群がる女生徒と重なり、この世の理不尽を感じないわけではなかったが、それは一旦捨て置く。
「いえいえ。その……将棋、打たれるんですか?」
話しかけられたことで女性は穏やかな表情を取り戻し、おっとりとした弁舌で語り出した。
「それが、昔はよく指していたのですが、いつの間にやら一緒に指してくれる友人が一人もいなくなりまして、今はめっきり……」
一言目から失言していたことに気付いた。「将棋は打つのではなく指すものだよ」と庚江に再三注意されていたので、知識としては知っていた。しかしそのたびに「テレビで見るプロの棋士は歩を一歩前へ進めるだけでもわざわざ盤面に力強く打ち付けているのだから、打つといわないのはおかしい」と反発し、あえて「打つ」と表現する癖がついてしまっていた。
ただ、女性がそれを気にしている様子はない。どうやら世の将棋ファンは庚江のように細かい表現にいちいち目くじら立てる、心の狭い人間ばかりではないらしい。
「対戦相手を求めて、人口の多いカードゲームの方に移行しました。将棋にも興味は残っているのですが、今は棋戦の結果を新聞でチェックしている程度です」
「あ、それなら、最近はアプリのおかげで指す人が増えているらしいですし、インストールされてみては?」
護が先のアプリを表示したスマートフォンを翳すと、女性はなぜか顔をさっと背けた。
「すみません……。お恥ずかしながら、機械の類が苦手で……。その、いんすとおるとやらも、よくわかりません」
「え? でも簡単ですよ。ストアから探してタップするだけで……。スマホは持ってますよね?」
「持ってはいますが、かけ方がわからないので、受話専用です」
「えぇ……」
ちょっと変わっているどころではないかもしれない。トースターのつまみは回せるのに、電子レンジの温めボタンは決して押そうとしない祖母を思い出した。あまりにも失礼なので口には出せない。
何と声をかけていいか考えあぐねていると、女性の方が口を開いた。
「私のことより……十枚落ち、指されていましたよね。最近始められたんですか?」
「はい、ルールは前から何となく知っていたんですが、ちゃんと指したのは今日が初めてだと思います」
「今日ですか……! だとすると、かなり筋が良いですね」
あのボロボロの対局を見て本気でそう思ったのだろうか? 護にはあまりにもお世辞が過ぎるとしか思えなかった。
「あの……本心ですからね?」
護から怪訝な眼差しを送られていることに気付いたのか、後付けの釘を刺されてしまう。
「あっ、失礼しました。本心の読めない輩と付き合いが長いものですから、疑り深くなってしまって……。でも、そいつにもこれだけハンデを付けた上でボコボコにされましたし、向いていないんだと思っていました」
「きっとそのご友人もお強いのでしょう。普通は覚えたてだと駒の動きがままならなかったり、駒をタダで捨てたり、といったミスが頻発します。ですが、あなたの……差し支えなければお名前を伺っても?」
「魚山です。そちらは……?」
「私の名前は……ええと、マオとでも呼んでください」
明らかに今考えたという空気を感じたが、やはり有名人がお忍びで移動中だとか、そういったバックストーリーがあるのだろうか。深くは立ち入るまい。
「魚山さんの指し回しには、そういった大きなミスがあまり見られませんでした。向いてないと断じるのはもったいないと思います」
「そうなんでしょうか……」
いまだに完全には信じられていないが、具体的な評を添えられるとそんな気もしてくる。比較対象がおかしいせいで過剰に卑下してしまっていただけなのか。
「ええ、少し練習すれば、その方にも勝てるようになりますよ」
「私が、勝てる……?」
護は予想外の言葉に驚きが隠せず、思わず鸚鵡返ししてしまう。
「そんなに信じられませんか。目安としては、アマ六級あれば相手が現役の竜王名人でも勝てると思います」
将棋の級位や称号のことは護にはよくわからなかったが、六級というと資格試験などでもあまり聞かない数字だし、名人は人類最強の棋士を指すのだろう。
つまりその程度で庚江にも勝てる。庚江は運要素がない勝負に勝つからこそ喜びが大きいといっていた。逆にいうと運要素のない勝負に負けた時の悔しさもその分大きくなるのではないか。ハンデ有りとはいえ、負けると微塵も思っていない庚江を平伏させる場面を想像すると、感じ入るものがある。
「魚山さん、目的の駅までは何分ありますか?」
「えっ? 二、三十分はあると思いますが……」
「それだけあれば十分です。僭越に過ぎる申し出かもしれませんが、この時間で可能な限りのことをお教えして差し上げましょうか?」
「それは、是非!」
「よかった。実は教えたがりの悪癖がありまして、魚山さんの対局を見ていると、心が疼いてしょうがなかったんです」
まるで女神のような人だと護は思い、幸運な出会いに感謝した。普段は悪魔のような女とばかり接しているせいか、心が洗われるようだ。
「まず断っておきますが、教えられるのは強くなる方法というよりは勝つ方法です。時間も限られているので、取っかかり以外は魚山さんの努力次第という面も大きいです。いいですか?」
「はい」
護はスマートフォンをマオに見えるように持ちながら、再び十枚落ち・上級の対局を選んだ。
「上手の初手は角成を防ぐため、ほぼ4二玉一択です。対して魚山さんは飛車先の歩を突いていましたね。悪くないですが、先に角道を開ける方がより味が良いです」
「ええと……カクミチとは……?」
「7七の歩を一歩進めるということです」
「それ、確か右上から数えるんでしたよね? 一、二、三……」
「申し訳ありません……。専門用語はできるだけ控えます。角を馬にしたいので角の右上の歩を進めるということです」
「すみません、合わせていただいて」
「いえいえ。相手は真ん中の歩を進めれば角がど真ん中に出るのは防げますが、進めた歩の隣には必ず行けます」
「これで相手がどんな手を指そうと角成が確定します」
「なるほど」
「次に飛車を竜にします。飛車の上の歩を進めて飛車を下から四段目に移動させましょう」
先程からマオは画面上の駒を指差し、護は指示された通りに画面をタップして駒を動かしている。だんだんとその非効率さが気になり始めた。
「あの……」
「なんでしょう?」
「スマホ、タップしてもいいですよ? 口頭指示よりその方が速いですし」
「いえ、壊してしまっては悪いので、絶対に触りません」
「触っただけで壊れたりしませんよ」
「いえ、絶対に壊れます」
マオは両手を身体の後ろで組み、ピクリとも動かそうとしない。筋金入りだ。
「……すみませんでした」
「では、続けます」
「この位置に出れば、相手の玉の位置次第ですが、どこかしらに必ず侵入できます」
「おお……」
「序盤はこのぐらいですね。これ以上は相手の動き次第で変わってくるので、臨機応変に対応する必要があります」
「臨機応変、ですか……」
どんなスキルにおいても上級者なら無意識にできて初心者には方法の見当もつかないということがままある。一度自転車に乗れるようになれば二度と乗れないフリはできなくなるように、上級者がその壁を認識することは困難だ。将棋における壁はここにあるのではないか。
「不安になるのも仕方ありません。指針だけはお教えするので、頑張ってください」
「はい……」
護の心情を察したのかマオからフォローが入るが、それで不安が消えるわけでもない。
「基本的には、竜と馬で邪魔な歩を取りながら玉に迫っていきます。一番下の段の駒には触らない方がいいでしょう」
「こんなにたくさんあるのに、いいんですか?」
「ええ。思考負担軽減になりますし、実はこの形はそれなりに守りが堅いんです。上手は歩と玉しか使えないので、下手を切り崩すとしたら前に進めない角と桂馬を狙うしかありません。しかし角は既に馬になっていて、桂馬の頭は初形だと銀に守られているので……」
「ああ、確かに」
「もちろん、取られそうになった時は対応してください。あとは、詰ませさえすれば勝ちです。イメージが湧きやすいように、実際にやってみましょう」
「はい」
「馬と竜を作った場面から、竜を下に、馬を最上段に」
「直接玉に当てるのではなく、防衛ラインを拡大するイメージです。歩を取られましたが、有効な打ち場所がないので問題ありません。竜を右に二つ、馬を右下に二つ移動」
「一歩ずつゆっくりでかまわないので、馬と竜の連携も利用しつつ迫ります。馬を右、竜を右上へ」
「ここまでくればほぼ詰みです。竜を二つ上、馬を右上へ」
「これは一手詰め……こちらが一手指せば、相手玉が身動きできなくなる状態ですね。わかりますか?」
「ええと……。歩の上に行くと下に逃げられて、歩の下だと取られて……? あ、普通に歩を取れば勝ちになるんですね」
護が最後の一手を指すと、CPUが投了し、勝利演出が表示された。
「おめでとうございます」
マオから周囲の迷惑にならない程度の控えめな喝采が送られ、護はなんとなくこそばゆさを感じる。
「いや、ほとんど指してないので……。見てるだけなら簡単そうでしたが、自力でやれといわれると真似できる気がしませんよ」
「そうですね。実は今の手順には説明していない要素がたくさん入っていたので、実戦ではうまくいかないと思います。ですが、寄せのイメージは伝わったでしょう?」
「はぁ……」
「寄せに関してはちょうどいい格言があるので、これを覚えればなんとかなります。まず『王手は追う手』『玉は包むように寄せよ』逆の視点から同じことをいっています。玉の周囲を囲って可動範囲を狭めていく戦略です。『玉は下段に落とせ』 『中段玉は寄せにくし』『入玉に負けなし』は三つセットです。下段はこちら側から見て上側、入玉はこちらから見て下側に玉が来ることなので、敵玉を下から上に向かって運ぶと勝ちやすいということですね。特に入玉は上手の戦略として有効なので必ず防ぎたいものです」
マオのゆったりとした説明は非常に聞き心地が良かったが、流石にここまで情報量が多いと理解が追いつかない。
「待ってください。えっと、王手は……」
「魚山さん、なにかメモできるものはありますか?」
「あっはい」
護はバッグから手帳とペンを取り出し、マオに手渡した。手帳には横罫線が引かれているにもかかわらず、マオは縦書きでサラサラと五つの格言の文言を書き記した。達筆ではあるが上下の文字が繋がりがちな癖のある筆跡で、やはり祖母の書いていた文字をどこか彷彿とさせる。
マオは手帳を護に返却すると、居住まいを正した。
「最後に、いちばん大事なことをお教えします」
「はい……!」
「将棋は、相手の立場に立って考えるゲームです。自分相手自分の三手一組の読みができればそれだけで初段はあるなどといいますが、十枚落ちなら自分相手の二手先が読めれば絶対に負けません。考え続けてください」
「相手の立場……ですか」
庚江の顔を思い浮かべた。庚江の立場に立つ。庚江の心中を想像する。護がこの世で最も苦手とする行いだ。庚江は護に想像しうる最悪のドス黒い悪の更にその先へと軽々と達する。その上で、単なる悪というだけでは説明の付かない不可解な要素も庚江の中には混じっている。どうやってそんな化け物の立場に立てというのか。
「対局中あまりにも対局相手のことを考えるものだから、『将棋は恋愛と同じだ』といってのける棋士もいるぐらいです」
「なっ……」
思い浮かべた庚江の顔の周りにハートマークが大量に浮かび、すぐさま掻き消した。
「おや、今日対局したというその御方、意中の殿方だったりしましたか?」
「ち、ちがいます! だいいち、同性ですし……」
いや、今の時代だとこれは否定の理由にはならないのだったか。先程まで微笑を浮かべていたマオは神妙な面持ちで護を見ている。
「すみません、あまりプライベートに立ち入るべきではありませんでしたね」
確実になにか勘違いをされているが、誤解を解きたいという気持ちよりもこんな話を続けたくないという気持ちの方が大きく、黙ることしかできなかった。
「以上です。お疲れ様でした」
「はああああぁ……」
護はシートの背もたれに深く沈み込んだ。ちょうど目的駅の一つ前の駅に到着するというアナウンスが流れ、乗客が数人増えていることに気付いた。ほんの短い時間ながら集中していたことにより、頭は熱を帯びている。
「すみません、駆け足になってしまって」
「いえ、本当にありがとうございました。まだ感覚は掴めていませんが、なんだか希望が見えた気がします」
「それはなによりです。ご友人に勝利されることをお祈りしています」
マオは両手を合わせて柔らかな微笑を浮かべている。その天衣無縫の優しさに護は引け目を感じてしまう。
「そうだ、こんなによくしていただいたんですから、今度なにかお礼をしないと……。連絡先を教えていただけませんか?」
「いやいや、そのようなつもりは一切なかったので。本当にただただ私の醜い欲求をぶつけさせてもらっただけで、こちらがお礼しなければいけないぐらいです」
「でも、こちらの気が収まらないので……。あ、機械のトラブルなら相談に乗れるかもしれませんよ」
「機械にお詳しいんですか?」
「いや、全然詳しくはないんですが、なぜかできるというか……説明が難しいんですが」
庚江からは「魔法少女に関する話をよそでするな」と口喧しくいわれていた。護自身、庚江にいわれなくとも話すべきではないことぐらい理解している。それでも役に立てることが他に思い浮かばず、どうにか誤魔化しながら魔法を使う方法はないかと考えてしまう。
「まあ、機械は使わないようにしているので、お手間は取らせませんよ」
「使いましょうよ……」
際限のない遠慮合戦に、護はもはや高揚感さえ覚えている。どんな話をしても不快感を感じない。不思議な女性だと思う。
「ではこうしましょう。もしご友人に勝利されたら、真っ先に私に勝利の報告をしてください。それを一番のお礼として受け取ります」
「そんなことでいいんですか?」
「そんなこととはなんですか。重要でしょう」
冗談かなにかだと思ったが、大真面目な表情からしてマオは真実それを報酬と考えているようだ。ならば応えなくてはならない。
「わかりました。ええと、通話アプリとかはやってらっしゃらないんでしたね。電話番号を……」
「さっきの手帳を貸していただけますか?」
「えっ?」
「今は持ち合わせていないので、番号を書きます」
「携帯電話を携帯していない……?」
「今後は必ず持ち歩くようにしますし、番号もちゃんと記憶しているので、ご安心ください」
「……」
あまり安心はできなかった。