ヘヴィーオブジェクト 第37機動整備大隊、彼の地にて斯く戦えり   作:悪事

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エイプリルフール記念投稿。




 

 

 序章    開いた門の行く先は 

 

 人は何故、新天地というヤツを欲するのか。別に今の環境と違うところに行ったからといって自分自身が変わるわけでもない。いや、急激な環境の変化というものに適応できずに今までの自分自身が消えてしまうことを考えたら、ある意味では変わるのかも知れない。

 

 

 でも、わざわざ別の世界に行くなんて手間をかけてまで変わりたいなんて思うようになったら、人間終わりだと思うけどね。世界なんて変わるときはあっという間に変わるモノだ。大事なのは、不意に訪れる変革の時にどれだけアドリブ利かせて適応できるか。どれだけ自分を周囲に合わせて変えていけるか。

 

 オブジェクトなんて世界の戦争を一変させてしまう怪物みたいな巨大兵器が生まれる時代だ。技術の発展も著しく、数秒前の常識が容易く書き換えられていく。おかげで世界の情勢はひどいもの。そりゃ、新天地というモノが欲しくなるのも無理はない。

 

 

 ──ただ、実際にそんな新天地が都合良く振って湧いたら、急に適応するとか無理に決まってるよ。

 

 

 

 第37機動整備大隊所属、とある戦地派遣留学生の呟き。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第一章 門の向こうは新世界 アルヌス急造陣地防衛戦 

 

 ある日、何の前触れもなく、不意を突くように正統王国の本国、ノルマンディー方面パリに巨大な(ゲート)が出現。そこから表れた謎の軍勢は一般市民を大量に拉致、殺傷した上、パリの一角を不法に占拠。その占拠した場所から正統王国の国土を征服および領有を一方的に宣言。

 

 空を飛ぶワイバーン、常人を遙かにしのぐ巨躯を持ったオーク、逆に腰程度の背丈しかないゴブリン、それに加え槍や弓などという前時代的な(ファンタジー)武装をした兵士たち。そのふざけた仮装集団にしか見えない者らの総数は数万にも及んだという。

 

 当然のこと、この無法者たちをみすみす生かして帰すはずもなく、警察機構や貴族の私設警備隊が出動。敵軍をあっという間に壊滅状態に追い込み、謎の武装テロリストや謎の生命体を大量に捕獲。その後、感情を廃した上で行われた尋問により、謎の軍勢は帝国と呼ばれる異世界の賊だと判明。

 

 

 正統王国は拉致、殺傷された国民の無念を晴らすため、帝国を僭称する賊を撃滅することを他の三勢力に宣言。手つかずの資源、汚染されていない自然に、文明的に劣っている異世界の国家、こんな美味しいモノを奪い合いにならないはずもなく各勢力は正統王国と秘密裏に交渉の末、拉致された正統王国の国民を救出する間、各勢力は静観することを決定した。

 

 たびたび、門から異世界の賊が正統王国の国土に現れるも、その全てを殲滅。これには現在、対オブジェクトを想定した第二世代が多い中で、今も現役として稼働している総合マルチロール型第一世代のベイビーマグナムが活躍した。

 

 それに加え、ベイビーマグナム擁する第37機動整備大隊は、門の向こう側で帝国を討つための橋頭堡となる臨時陣地の製作を命じられる。その際、門の向こう側にまでは巨大すぎるオブジェクトを派遣することは出来ず、戦車や装甲車、パワードスーツに武装ヘリなどで敵を牽制しつつ陣地を作成する案が採用されかかった。

 

 “クリーンな戦争”の最盛期でありながら、前時代的な逆行をしてしまうことを危惧しながらも、この案が採用されかかったときに第37機動整備大隊に所属する戦地派遣留学生のクウェンサー・バーボタージュがある案を提出する。

 

 

「前に戦ったスラッダー=ハニーサックルの二番煎じですよ。要するに門の向こう側にはオブジェクトを丸々一機は持っていけない。それならオブジェクトの副砲や一部パーツを使って陣地製作する方がローコストで済みますって」

 

 

 その案は直ちに採用され、門の向こうにあるアルヌスという丘陵地はオブジェクトに搭載される武装が設置され、急造陣地が完成したのだった。アルヌス急造陣地に設置する武装はベイビーマグナムの予備パーツが使用された。ちなみに自分の機体の予備パーツを勝手に異世界に持ち出されたベイビーマグナムの操縦エリート、ミリンダ=ブランティーニがクウェンサー戦地派遣留学生に往復ビンタかましたのは完全に余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 異世界の軍勢の士気は最高潮に達し、それぞれが帝国の聖地であるアルヌスの丘を奪還せんと気炎万丈に吠えていた。ある者は敵軍を討ち果たしたら故郷で結婚をすると言い、ある者は異世界の蛮人など恐るるに足りんと、またある者は討ち取った敵兵の首の数で競争をしようという話に興じていた。

 

 

 聖地奪還のため統合された属国の軍勢、総数は十万を優に超える圧倒的な物量。それに加え、率いる将帥も歴戦の猛者揃い。それに加え、空中を翔ける竜騎兵が相手を蹂躙してやろうと息巻いている。それに混ざってローブを羽織った奇怪な魔術師たち。

 

 この軍勢は十数万にも及ぶ兵たちの圧倒的な物量差から、勝利を早くも確信していた。アルヌスの丘に陣取った連中も日夜、懸命に土を掘り返し、人が上れるとは思えないような塔を設置しているだけ。一向に打って出ないことから、諸王国の兵たちは敵軍を腰抜けと笑い相手がどのような命乞いをするのかなどと益体もない妄想を話し続けている。

 

 門の向こうに出陣したまま、一向に返ってこない味方は十中八九、殺されたか虜囚にでもなったのだろう。兵たちは味方の仇討ちや捕虜の奪還、聖地を取り返すこと、大きな目的の共有によって、未だかつてないほどの一体感を兵士一人一人が認識していた。

 

 この軍勢こそ帝国の属国を掻き集め、聖地奪還のために集った万夫不当の英雄たち。異世界の蛮族どもを追い払い、門の向こうの新たな土地を手に入れるための大いなる軍、連合諸王国軍(コドゥ・リノ・グワバン)

 

 

 彼らは幸福なことに最後の最期まで自分たちの優位と勝利を確信したまま、正統王国軍のアルヌス急造陣地、第37機動整備大隊のベースゾーンへと真っ向から対陣した。その一時間後、彼らは大軍の威容を見せびらかすように整然と隊列を組んで行進して近づいてくる。

 

 

 鉄で出来た茨を剣で切り、賊徒どもの文字が書かれた看板を踏みつけて彼らは征く。老兵と思われる男が初陣であろう若者の肩を抱いて笑っている。誰も彼も無邪気に自分たちの勝利に一片の疑念を持たぬまま進んでいる。

 

 

 敵陣地が目前に見えた付近で辺りに敷設されたスピーカーから、けたたましいサイレンが鳴り響く。その音は意味を知らぬであろう帝国兵たちへ警告と危険を否応なしに理解させるモノだった。急に響いたサイレンは鳴り始めと同じように脈絡なく鳴り止んだ。

 

 鳴り止んだサイレンの次に聞こえてきたのは、いささか以上にやる気の感じられない気の抜けた声がアルヌスへ空虚に響いた。

 

『あ~?正統王国軍のベースゾーンに侵入しようとしてるならず者の皆さーん。こっから先は正統王国軍の領地ってことになってまーす。ここがおたくらの大切な聖地ってのは理解してますけど、命が惜しけりゃ、急いで回れ右してくださーい』

 

 それを聞いた兵たちは、敵のあまりに情けない声音と聖地アルヌスを我がモノであると言わんばかりの不遜な物言いに怒号と嘲りの声をあげる。総員が盾を構え、戦列を構える姿は勇壮たるモノ。

 

 しかし、それを気にも止めぬようにまたもや気の抜けた会話が戦場に響いた。

 

『無駄じゃない?ヘイヴィア。帝国のみなさんったら、やる気満々で向かってくる気だし、説得とか聞く耳持ってないよ。これならヒヨコか、インコの方が話を聞いてくれるって。というか、さっきのセリフってまんま、門から出てきてソッコーで駆逐された連中の言ってることと変わんないんじゃない?なーんだか皮肉が効きすぎてるなぁ』

 

『仕方ねぇだろ、こういうポーズでもしとかねぇと国際世論がうっせぇんだとよ。あの爆乳がこういうカンペよこしながら、気遣いを忘れるなとか言ってきたんだ。せいぜい、下っ端の俺らはそれに頷いて命令通りにやっとこうぜ。そうすりゃ、オブジェクトがいない楽勝の戦場でグータラ決めこんで給料が出るんだ』

 

『やっつける敵への気遣いが必要になる戦場とか、ほんとに平和だなぁ。っていうか、ヘイヴィア?』

 

『どしたよ、クウェンサー。まさか、あのむさ苦しい隊列に混ざってヒャッハーかましたくなったとか言わねぇよな。それともまさか、あの連中を全滅させるのは気分悪いから、話し合いで解決しようなんて聖人君子にジョブチェンジでもしたか?』

 

『いやいや、ムッキムキの男臭い集団のためにそこまでの労力は発揮できないよ。……じゃなくて、その撤退勧告のマニュアル、もうちょいどうにかなんない?駆け出しのサラリーマンのマニュアルトークだって、もうちょい感情こもってるって』

 

『んだよ、演劇(オペラ)ばりに感情こめて放送しろってか。必要ねぇだろ、なんたってすぐにお別れする間柄だ。そんな労力を使うのさえもったいないね。せいぜい、ここでのんびりしながら適当に時代遅れのファンタジー野郎どもを蹴散らすだけでいいんだ。今回は休暇とでも思おうぜ、ぶっちゃけ今までのオブジェクト相手に必死で生きのびてたのがおかしいんだ』

 

『……ほーんと、平和な戦場だなぁ。というか、こんな呑気に敵兵を蹴散らしてると俺たち悪役みたいじゃね?』

 

『向こうからすれば俺たちは聖地とやらを不法に占拠してやがる立派な悪党さ。そんでこっちからすれば向こうは非戦闘員の一般市民を殺して、拉致った悪党どもだ。お互い、遠慮なしでブッ放せるから良心の呵責とかなくて助かるわ』

 

『うえ~、柄にもなく正義ってなんだろうとか考えちゃうよ』

 

『もういいだろ。ここまで言って撤退しねぇんだから、さっさと終わらそうぜ』

 

 アルヌスの丘に木霊していた声が途切れ、爆轟が聖地を揺らした。それは死角を作らぬようベースゾーンに敷設されたコイルガンによる一撃。オブジェクトという規格外の兵器にとっては牽制用の一門に過ぎないそれは、着弾した一発で敵軍の一角を消し飛ばし、その余波により敵軍の頭上に血肉の雨を降らせた。

 

 

 目も当てられぬ惨状、しかし諸王国軍は石と化したかのように停止したまま動かない。あまりに常軌を逸した現実に彼らの中の常識が反応していないのか。彼らが嘆く間もなく次の攻撃が着弾。

 

 これで先遣隊である軍は半数以上が消滅ないし肉の破片となったことになる。二度目の血の雨を浴びて、兵たちの統率は崩壊する。帝国の要請で来てみれば、戦いという戦いをすることなく、敵と命のやり取りを行なうこともなく、味方が半数も消えてしまったのだ。

 

 兵たちは口々に帝国への罵倒と呪詛の言葉を吐き、それぞれが反転し我先にと戦場を逃げ出そうとする。軍の敗北を定義するとして、半数以上の兵の損耗は間違いなく敗北に含まれる。半数以上の死傷者を出した時点で先遣隊の軍の敗北は確定した。しかし、彼らにも希望は残されている。

 

 諸王国軍の本隊、かのエルベ藩王国のデュラン陛下も参陣している本隊ならば。あの異常な異世界の軍勢だとしても。決して敗北することは……。

 

 そんな希望的観測を胸に抱いたまま、連合諸王国軍(コドゥ・リノ・グワバン)の先遣隊、騎竜兵、オーガ、ゴブリン、多くの兵卒は何も残すことなく三度目の砲撃で壊滅した。

 

 

 

 

 そんな敵兵たちの最期を感慨もなく見ていたのは二人の正統王国軍の兵士だった。多くの異世界の兵士たちの死に様を見て、正当王国からやってきた二人の胸に去来したのは……

 

 

「……今日の晩飯って、確かミートドリアだっけ?」

 

「おバカ!!このタイミングで思い出されて、“ワーイ、クソまずいレーション食わずに済むぜ!”とか呑気に言えるわけねぇだろぅが!!」

 

 火加減間違えたバーベキューみたく異世界の兵たちはこんがり炭の欠片になっている。コイルガンそのものの破壊力ではなく輻射熱という、ついでの余波で多くの兵士たちの命が散っていく。

 

 炭が残っているならマシなほうだ。大抵は砲撃により欠片さえ残らず絶大な破壊力で消し飛んでいた。

 

 もはや、一人二人と区別しようにも炭になって年齢はおろか性別も訳分からん有様だ。いくらモニター越しとはいえ、精神的なダメージも無視できないが、それでも食事の話題が出る辺り、彼らも凄惨な戦争という奴に慣れているらしい。

 

「異世界のファンタジー野朗共をいくら天国までブッ飛ばしても、次から次へ出てきやがる。まったく命の価値って奴はいつからここまで暴落したんだか?」

 

「そんなの今さらだろ、こっちだって生身でオブジェクトぶっ潰せなんて無茶振りされたりする身の上だし。命の値段なんてこっちが思うよりも安く済んでるもんさ。それより俺たちの役目ってただの時間稼ぎのはずじゃなかったっけ?なんか、俺たちだけで完勝しそうな勢いなんだけど」

 

「それ、フローレイティアさんの前では言うなよ。間違いなく俺たちだけで帝国をやっつけてこいなんて無茶言い出しそうだからな」

 

「そりゃ確かに困るね。……それにしても副砲だけであっさり壊滅するとか、文明格差がすっごいな。正当王国で一般人百数名を殺したばっかりに、ウン十万が消し炭か。同情する義理はないけど、同情しちゃいそうだな」

 

「全部、向こうが一般市民を相手にヒャッハーかましたのが原因だろ。ましてあっちは武装した正当な軍人どもだ、同情なんざいらねぇっつーの」

 

「時代遅れの弓と剣ぶらさげて、オブジェクトはおろか拳銃すら持ってない連中を武装した軍人って言うのは違和感があるなぁ」

 

「そんなのどうでもいいだろ、そろそろ交代の時間だ。適当にボタン押して焦がしたステーキ肉量産すんのを別の奴に任せて俺たちは一眠りしようぜ。夜中の担当じゃなくて良かったよ、夜中にコーヒー流し込んでねむてぇ目を擦りながら、モニターとにらめっこしなくて済む」

 

「そりゃ、そうか」

 

 服装次第で性別の認識が変わりそうな金髪の少年、クウェンサー=バーボタージュは手元の携帯端末をいじりながら立ち上がる。それを追うように茶色の短髪を真ん中で分けたもう一人の少年、ヘイヴィア=ウィンチェルが机の上の空き缶をゴミ箱に放り込み、部屋を出る。

 

 二人は揃って部屋を出ようとすると、思い出したかのように振り返る。そして、モニター越しながらも異世界の人間へ、端的に歓迎の言葉を告げた。

 

「「……ようこそ、異世界のクソッタレな戦場へ」」

 

 

 

 

 アルヌスの丘に作られたベースゾーン、普通ならばオブジェクトの整備場の付近に司令部が設置されるはずだが、門の大きさの問題からオブジェクトの搬入ができず、司令部の周辺にオブジェクトの武装パーツを設置した文字通りの急造陣地。

 

 

 少なくともこんな、場当たり的な陣地など第二世代はおろか第一世代の急襲を受けただけで壊滅するようなもの。それが異世界では割と効果的に働いているのを見ると、異世界との文明格差という奴をしみじみと感じる。

 

「どうしたんだよ、クウェンサー?朝から辛気臭い顔をしてよ、まさか此処の普通なご馳走に飽きて、食える消しゴムみてぇなレーションが恋しくなったか?」

 

「どうしたもこうしたもない。いや、そりゃ俺だって三食まともに食えるメニューが提供されているのは歓迎するけどさ。俺はオブジェクトの勉強するための戦地派遣留学だぞ。こんなオブジェクトどころか近代技術の存在しない場所に放り込まれるのがおかしいと思うんだ」

 

 確かに彼は戦地派遣留学生ということで各地の戦場に派遣された。それが気が付けばオブジェクトの無縁な環境に配置されたのだ。それをおかしいと愚痴るのは正しいことなのだろうが。

 

「そういや、あったな。そんな設定。ここんとこ、触れてねぇからマジで忘れてたわ」

 

「サラっと設定とか言うなよ!こっちはオブジェクトの勉強にきた学生なのに、なんでオブジェクトの勉強とかそれと関係のないことをやってんだ!おかしい、今の世の中は間違ってる!」

 

「今さらじゃね?」

 

「言いやがった!?みんな薄々感じてはいたけど口に出さないで置いたことをはっきりと、しかも十文字以下で!!」

 

 自分の若干、ガチな嘆きを数文字であっさり片付けられたクェンサーは頭を抱えて世の不条理に涙した。

 

「そんなこと、いや俺だってそうだろうが。武勲欲しさに来てみれば異世界の時代遅れのアホどもの相手だ。こんなもんで鼻高々になってたら、実家から放逐されちまう」

 

「あれ、今回の戦闘って勲章とか出ないの?」

 

「あぁ?出るわけねぇだろ、異世界の“軍”なんて言っても敵はオブジェクトどころか銃火器の存在すら確認できてない野蛮人どもだ。そんなのいくら蹴散らしても勲章なんてもらえやしねぇよ」

 

「うっわ、ほんとこの戦場にいる意味が分からなくなってきた。なんで俺たちみたいなのが、こんな訳分からない異世界に派遣されたんだか」

 

 そのような減らず口を聞きつけてか、二人の不良軍人の前に銀の髪をなびかせた女性将官が現れた。出るところははっきりと出た美貌の上官。きっちりした軍服を持ち前の母性の象徴で盛り上げた彼女はキセルを片手に普段どおりの姿のままだ。

 

 異世界に来たからといって、その姿と立ち居振る舞いは相変わらず驚くほど堂々たるモノだった。

 

「命の危険がなくて三食美味しい戦場でも愚痴るとは。クウェンサーにヘイヴィアも変わらない様で何より。……派遣の理由についてだったかしら?それは当然、そこの学生が急造陣地をオブジェクトの各部パーツで武装防衛しようなんてアイディアを出したからでしょ」

 

「ちくしょう!!やっぱりてめぇがそもそもの原因じゃねぇか!実は“学生なんて仮の姿、ほんとは全ての事件の黒幕でした、ワハハー”とか言い出すんじゃねぇだろうな!!」

 

「そんな美味しいポジションだったら、ヘイヴィアだけ現場に放り出して俺はクーラー効いた部屋で美女はべらして高笑い決め込んでるよ」

 

 バカコンビの話をスルーして、フローレイティアは律儀に彼らの疑問へ答えた。実際、それなりに暇を持て余しているための寛容さなのだろうが、経緯はどうあれ説明してくれるならありがたく拝聴しようと二人は居住まいを正した。

 

「まぁ、冗談はともかくとして、実際にこの異世界の橋頭堡となるアルヌスに我々が派遣されたのもお前ら二人の存在が大きい。オブジェクトを生身でどうにかできる存在なら異世界に放り込んでもまぁそれなりに上手くやるだろうって上の判断でしょう」

 

「アバウト!!っていうか、適当すぎる!えっ!?そんな雑な判断で俺たちはこんな世界の向こう側に送られたんですか!?」

 

「ファック!!こっちはただのレーダー分析官だぞ!生身で異世界侵攻とか給料以上の仕事なんざ、死んでもしないからな!!」

 

「門の向こうの世界の資源や土地の価値は計り知れない。今も各勢力がこぞってスパイを派遣しようと躍起になってるしな。上も持て余し気味なのよ、この異世界が世界の大半を敵に回してもメリットのあるものかって」

 

「資本企業は企業買収やら関税といった金銭面でちょっかいを、情報同盟は門の向こう側の情報を死んでも掻っ攫おうと裏に表に情報戦を仕掛けてきやがる、信心組織にいたっては古今東西のあらゆる神話で出てくる門の逸話や説話を根拠だとかに門は信心組織の信者のモノだとか言ってやがるんでしたっけ?」

 

「そうね、正統王国は実質、世界を敵に回している状況に立たされている。上の必死の交渉で拉致被害者の奪還までは手出ししないってことになってるけど、いつまで大人しくしてることやら」

 

 

「拉致被害者か…………クウェンサー。お前どう思うよ?」

 

「難しいんじゃないか。あいつら、人権とか倫理なんて言葉を知っているようには思えないし。被害にあった人には悪いと思うけど、生きている公算は……」

 

 言いよどんだクェンサーの意識を切り替えるためヘイヴィアはコーヒー缶を相棒の前において違う話題を切り出した。

 

「そういや、フローレイティアさん。ほんとにいいんですか?異世界の野朗どものキルスコア(殺傷人数)をカウントしなくて?」

 

「ええ、バカ正直に莫大なキルスコアを記録しておくと、何かの機会で他勢力に渡って人道上の配慮の欠如とかで騒がれかねないからね。それなら、最初から情報そのものが無い方がいいのよ。“ベースゾーンに無許可で近づく集団がいたけど、オブジェクトの副砲で追っ払いました、死傷者数はいちいち数えてません”って言い訳のためにね」

 

「ウン十万を超える武装した軍勢を一集団ね。ほーんと命の価値が安くなったなぁ。にしても情報を記録しないか、情報命の情報同盟が聞いたら発狂でもすんじゃねぇの?」

 

「とっくに情報同盟は大混乱だよ。何せ、門の向こうにまったく情報のない未知の世界が丸ごと現れたんだ。やつら、門の向こう側の情報に必死で対応中だ。拉致被害者の救助に参加したいとか言ってきているけど、上が突っぱねているからね」

 

「まぁ、他の勢力の対策なんざ、一兵士には関係ねぇか。せいぜい、年食って隠居でもしたら、孫辺りにでも話す武勇伝か自慢話のネタ集めと思って職務に勤しみますかね」

 

「あっ、言い忘れていたが異世界の情報は高度な軍事情報に含まれるから、他人はもちろん、身内だろうと此処の情報をポロリしたら黒軍服どもが軍事裁判への招待状片手にやってくるぞ。迂闊によその勢力のハニートラップとかに引っかかるなよ」

 

「ちくしょう!!酒場の自慢話にもできねぇのかよ!」

 

 ヘラヘラと笑いながらジョーク感覚で口にした言葉を真面目に返されて、ヘイヴィアはキレ気味に叫んだ。

 

「そういや、ベイビーマグナムって今はどうしてるんですか?」

 

「門が小さくて、今は門の手前で待機してるところよ。あと二、三週間もすれば装甲剥離とJPlevelM-HD動力炉の停止、再点火の許可が取れるから、あと他に二つほど許可を申請してベースゾーンに専用の施設を作ればお姫様も対帝国戦線に参加できるわね」

 

「そんだけやって、ようやく準備が整っただけでしょう。本格的に運用が出来るようになるまでいつまでかかるんだか」

 

「文句は門の小ささに言うんだな、おかげでオブジェクトをまるごと分解してからこっちに送って再度組み立てなんて七面倒な真似をすることになったんだから」

 

「50メートル超の巨大兵器だからしかたねぇってのは頭では理解できるんだけど」

 

「オブジェクトは莫大な国家予算と重要な国防を担う。上が異世界の開発にどれだけ強い関心を持っているかが分かった?今回、オブジェクトの分解輸送なんて無茶が許されたのも異世界の資源などの重要性、あとベイビーマグナムが第一世代だったことが要因だろうさ」

 

「異世界なんてわけ分からんところに送るなら無くなってもいいようにしようってか。クソッ、気分わりぃな」

 

「まぁ。上は表向き、異世界の連中にオブジェクトの技術を解析される恐れを考慮してとか言ってるが……」

 

「解析?冗談でしょう、銃だってまともに持ってないような連中が、いくら第一世代とはいえ、オブジェクトに使われている技術を理解できるわけが無いのに」

 

「それについては同意するが、上の判断に一現場指揮官がどうこう言えないのよ」

 

「あーあ、こりゃお姫様もカンカンじゃねぇの?」

 

「フッ、いや存外、お姫様は乗り気のようだ。選ばれた理由については不本意だろうが、おまえたちと同じ戦場に立てることは望むところだそうよ。ただ、対オブジェクト戦闘の勘と腕が落ちることを懸念してたけど」

 

 

「そっか、お姫様も。それで、具体的にどれくらいしたら、こっちに派遣されるんですか?」

 

「最速で一ヶ月、それも上の意思決定が限りなくスムーズに行けば」

 

「じゃあ、それまではベースゾーンで待機か。まぁ、適当に副砲をブッ放しとくだけの簡単なお仕事だな」

 

 そういってヘイヴィアは手元の端末の電源を点けて、最近のニュース記事を流し読む。

 

 大半は異世界に繋がる門の話題で溢れかえっており、うんざりそうに電源を落とす。それを横目にクウェンサーは新鮮なサラダをかっこんでコーヒーを流し込む。ようやく食事を優雅に終え、二人はベースゾーンの周囲警戒任務までの間、何をしようかと考えようとしたところで上官さまからの新たな命が下った。

 

 

「ところがそうも言っていられなくなった。お前ら、ちょっと異世界の探索に行って来い」

 

 

「「……はい?」」

 

 

 

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