――――――――――
雪風「そんな台詞を思い出しました」
それはとある夜のこと。
雪風「確か、映画の台詞だったと思うんですよ」
眠れない、月の見えない空の下。
初風「ふうん。それで?」
雪風「別に。ふと、思い出しただけで」
海を眺めながら、思ったことを呟きます。
雪風「ただ、なんて映画か、思い出せなくて」
瞳、閉じて。
題名を思い出そうとするけれど。
瞼に浮かぶはワンカット。海を見つめる二人の男性。
片方、倒れて、もたれかかって――
その光景ばかり覚えている。
幸せな死に方だなと、思ったのだ。
雪風「……なんて映画でしたっけ」
初風「知らないわよ。そんなの」
雪風「ええ……でも、初風も見ていませんでしたっけ」
初風「記憶にないけど。見てないんじゃない? だって、覚えてないし」
雪風「とかいって。初風って結構忘れっぽいじゃないですか……」
初風「んなしめっぽいことを覚えたいと思わないだけよ」
雪風「うーん。……なんてタイトルだったでしょう。全然思い出せません」
初風「だったら……」
初風「聞いてみれば? 心当たりの、ありそうな人に」
――――――――――
陽炎「天国で、海の話? あーうーん……」
雪風「映画なんですよ。覚えがありませんか?」
陽炎「……あー。うーん……いやー……うーん……ごめん、見た事ないと思う」
雪風「ですかぁ……」
陽炎「多分そんな1フレーズ、聞いたら絶対覚えてると思うんだ」
陽炎「でも思い出せないってことは、多分見てないんだと思う」
雪風「……むむ、陽炎姉さんでも記憶にないと」
陽炎「ごめんね。不知火や黒潮にも聞いてみたら?」
雪風「聞いたんですけれど、二人とも特に記憶にないと」
陽炎「ふーん? ……じゃあお手上げ。多分、あたしたちは見てない」
雪風「わかりました。ありがとうございます」
…………
雪風「……別に、気にするものでもないと思うのですけれど」
雪風「どうして、でしょうね」
雪風「……ああ! 思い出せませんっ! 喉まで出かかってる気がするのに!」
雪風「こういうの、一番もやもやするんです……」
雪風「……はあ。次、聞いてみましょうか……」
――――――――――
天津風「…………知らないわね」
時津風「うん。知らないよ?」
雪風「そうですか。二人も知らないなら……望み薄ですね」
天津風「初風は? 聞いてみた?」
雪風「一応。けれど、初風はそもそも興味がないみたいで」
天津風「ま、別にあたし達だけじゃないし。他の子にも聞いてみたら?」
時津風「そうそう。それにさー。あたし、退屈な映画って寝ちゃうんだよねー。
特にそういう台詞が出る映画はさー。見ても絶対覚えてない」
時津風「そもそも映画の台詞とか覚える? 覚えないよ。あたしアイルビーバックくらいしか記憶にないもん」
天津風「……それは、どうなの」
雪風「あはは。……ん。ありがとうございます。妹達に当たってみますよ」
天津風「そんなに気になるの?」
雪風「気になるというか……思い出せそうで思い出せないのって、いやじゃないですか?」
天津風「ま、そうだけど……。でも意外かも」
雪風「はい?」
天津風「雪風は、そういうのないと思ってた。忘れるってこと、基本的に出来ないでしょ、あんた」
雪風「……買い被りですよ。雪風だって、忘れてきたものはいっぱいありますし」
時津風「あたしなんて、昨日の夕飯だって忘れてるよ?」
天津風「それは覚えておきなさいよ……」
雪風「……とにかく、ありがとうございます」
…………
雪風「……さて。まずは……」