雪風「初風って可愛いですね?」
初風「はぁ?」
雪風「……いや、なんとなく考えていることが、はい」
雪風「そういう素直じゃない初風、割と好きです、雪風」
初風「……頭、大丈夫?」
雪風「どうでしょう……まあ、いいじゃないですか。だって」
それはとある夜のこと。
雪風「海の綺麗な夜ですから」
眠れない、月の見えない空の下。
初風「海……ねえ……」
雪風「はい。……こんなに綺麗な夜ですよ。
――言葉なんて、いりませんよ」
海を眺めながら、思ったことを呟きます。
瞼に浮かぶはラストカット。海を見つめる二人の男性。
雪風「あの映画も……うん。確か、最後は黙って海を見て」
片方、倒れて。もたれかかって。
雪風「そうして――死んでいったんです」
その最後を、覚えている。
雪風「エンドロールが綺麗だったんです。……あの二人は、きっと天国の門を叩けたんだなって。だから」
幸せな死に方だなと、思ったのだ。
雪風「雪風と二人で、天国の門を叩きましょう」
初風「……決めた。最後には絶対、素直に何か言ってやる。沈む間際に黙ってるとか冗談じゃないわ。どうして、そんな時にまで、黙ってないといけないのよ」
雪風「ありゃ」
初風「腹立つ。だから嫌いなのよ。ほんとそうやってなんかもうなんでもかんでもわかったような顔して。悟ったみたいな……」
初風「あー、もー……いい!?」
雪風「はい」
初風「私は絶対、あんたの添え物にはならないからっ! あんたと二人で死ぬとか冗談じゃないから! ……っていうか、絶対あんた生き残るでしょ、私だけ沈むでしょうが!」
初風「そしたら待ちぼうけじゃない! バカなの!? 私のエンディング、そんなのでいいわけあるか!」
雪風「そうですねえ」
初風「だから……ああ、もう……なんか、頭がぐちゃぐちゃ……」
初風「なんの、話をしてたっけ」
雪風「……海を眺めながら、話をしたかったんですけれど。なんか雪風、フラれちゃいました」
雪風「……もう寝た方がいいと思いますよ。明日、遠征でしょう」
初風「…………そうだけど。あんたは?」
雪風「雪風は……うん。一人で海を眺めてから帰ります」
雪風「というわけで……はい」
「また明日、です」
――――――――――
雪風「……ああ。そういえば。また、台詞を思い出しました」
――死ぬ前に。
――夢を一つずつ叶えようぜ。
――オレはママにキャデラックを。
――プレスリーがママに送ったやつ。
――お前の夢は?
雪風「……同じようなものですよ」
それでいいと思うんです。
今の雪風は、多分、きっと――
お終いに海を眺めながら、一人残された、彼のように。
エンドロールの終わりまで、ここに座るのが、雪風の役目なのでしょう。
雪風「最後まで笑顔を見せて。最後までヘラヘラ笑って……」
雪風「――1人になった時に、はじめて雪風は泣くんです」
END.