雪風がお姉ちゃんぶる話。   作:遠野静

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舞風「明日からは~、私旗艦の遠征任務~~っ!楽しく、気楽にストップアンドゴー!」

 その日、舞風はご機嫌だった。
 部屋の中で躍り狂うほどにご機嫌だった。

 それもそうだろう。
 なぜなら彼女にとって明日からの遠征は、初の実戦なのだから。

 これまでずっと演習ばかりしてきた舞風にとって、初めての任務。
 それに、なによりも。
 明日からの遠征任務の艦隊には……野分も共に来ると言うのだから。

舞風「野分と一緒の初任務~! んふふ……えへへ~♪」

 笑いながら、部屋の中をターンする舞風。
 早く明日がこないかと、無邪気に彼女は思っている。
 しかし、それが……。

野分「舞風、元気だね……」

舞風「うん、だって!」

(中略)

舞風「…………っ! 野分のバカっ! もう知らないっ!」

野分「舞風っ!? え、まってください。話を聞いて……舞風~っ!?」

 泣きながら部屋を飛び出していく舞風を、野分は追えなかった。
 というか、そもそもどうしてこんなことになったのか、野分自体わからなかったからだ。
 この間、たった数分。
 この僅かな間に、いったいどんな急転直下が訪れたのか。
 その痴話喧嘩の一部始終と顛末を、ご覧いただこう。



chapter:野分の相談

陽炎「それで? 舞風に逃げられたから、あたし達の部屋に来たと……」

 

野分「……お恥ずかしながら」

 

不知火「お茶を入れてきます……」

 

野分「あ……お気遣いなく……」

 

黒潮「ええよええよ。客人だし妹だし、くつろいどき?」

 

野分「はあ……」

 

 

黒潮「とはいえ、こーんな怖いお姉さん二人に囲まれたらそう姿勢も崩せんか」

 

陽炎「誰のことかしら。ねえ不知火?」

 

不知火「陽炎と黒潮ではないでしょうか」

 

黒潮「おう言われとるで姉御。ヤキ入れるべきかね?」

 

陽炎「どういうキャラよ……野分もそんなにかしこまらなくていいから。取って食ったりもしないしね?」

 

野分「はい……」

 

不知火「お茶です」

 

野分「あ、ありがとうございます……あ、美味しい」

 

陽炎「意外だった? 不知火、お茶は淹れられるのよね」

 

不知火「陽炎の分はありませんよ……」

 

黒潮「ま、その辺にしておこうや。今は野分の話を聞こうて」

 

陽炎「野分の話……って言ってもなぁ。じゃあ……とりあえず細かい話を聞かせてくれる?」

 

野分「はい……これは先ほどのことでした」

 

~~~

 

野分「でも、あんまり部屋の中で踊ると……ほら、転ぶから……」

 

舞風「だって明日からあたし旗艦の遠征任務だからねっ!

 野分も一緒でしょ?」

 

野分「……そうね、そうなんだけど、そのことで……」

 

舞風「えへへ。野分と一緒かあ。うれしいなっ!

 何日くらいになるかな? おやつは何百円までかな?」

 

野分「ま、舞風……遠足じゃないんだから……」

 

舞風「だって、私ずっと演習で錬度上げてたもん。

 ちゃんと出撃するのって、今回が初めてだからっ!」

 

野分「……そうだった?」

 

舞風「そうだよっ! 野分はもう結構出撃してるよね?」

 

野分「それほどでは。舞風と似たような時期に着任しているから、数回だけだよ。それに姉さんや他の先輩とも一緒だったし」

 

舞風「違うよ。私は野分が一緒に来てくれるのが嬉しいんだ。

 野分なら……きっと、私のことを守ってくれるよね? 野分は私の王子様だもん!」

 

野分「舞風……」

 

舞風「だから、ちゃんと私を守ってね?」

 

野分「舞風……うん、そうだね」

 

野分「……うん、そうだ。私、舞風の僚艦から外してもらうように、提督に進言してくる」

 

舞風「――――へ?」

 

野分「……きっとその方が良いわね。私にも時間が出来るし……舞風にとっても、きっと……」

 

舞風「ちょっ、何言ってるのさ……! 野分!?」

 

野分「落ち着いて、舞風。今の艦隊編成だと、舞風は落ち着いていられないでしょ? それもあるか……」

 

舞風「そうじゃないよっ! 野分は……野分は私と一緒な艦隊になるのイヤなの!?」

 

野分「? 今はそういう話をしているわけではなくて……」

 

舞風「そういう話じゃんっ! じゃあ、舞風が艦隊にいなかったらどうなの!?」

 

野分「それなら……少し不安だけど……これまでの先輩たちと一緒なら……」

 

舞風「…………っ! 野分のバカっ! もう知らないっ!」

 

野分「舞風っ!? え、まってください。話を聞いて……舞風~っ!?」

 

~~~

 

陽炎「ああ……そりゃ誤解されるわ……」

 

野分「…………?」

 

陽炎「えっと、確認なんだけどさ。野分、舞風が嫌いだから、艦隊から外してもらおうとか思ったわけ?」

 

野分「そんなわけはありませんっ! ……あっ、いえ、その……だから」

 

陽炎「……なんて元気の良い即答……」

 

黒潮「あはは……っ。珍しい顔しとるなぁ。なら、どうしてかな?」

 

野分「……元々私は、舞風より遅く着任しています」

 

陽炎「そうだけど、そんなに長く間があったわけではないわよ?」

 

野分「はい……私と舞風の錬度には、殆ど開きがありません。演習で得た錬度差と、実戦に数回出たかどうかというだけ」

 

野分「けれど、今回の任務は、遠征とはいえ発砲許可も下りている、実戦の伴う任務です」

 

野分「今の私の実力では、舞風を守りきれるかどうか……だから、私は」

 

不知火「…………」

 

陽炎「なるほど。僚艦を外してもらおうとねえ……それを今の会話で説明したのかぁ……」

 

黒潮「……そら、言葉足りんわな」

 

野分「…………?」

 

陽炎「あんたさ。これまで仲良かった相手に一緒に頑張ろう!って言ったら、いきなり『グループから外してもらいたいのですが』なんて言われたら……」

 

陽炎「『え、もしかして嫌われた!?』って思うでしょ? 普通」

 

野分「…………っ!」

 

陽炎「この微妙な口下手さ、誰に似たのかしらね?」

 

不知火「誰でしょうね……お茶、おかわりは要りますか?」

 

野分「い、いえ、大丈夫、です……けれど私は、なんてことを……」

 

黒潮「おお、頭抱えとる……ホンマにわかってなかったんやなぁ……」

 

陽炎「大体さ、それで野分の穴は誰が埋めるのよ?」

 

野分「……姉さんたちの誰かに、変わってもらおうかと」

 

陽炎「それは別に……任務的にも変更は……出来るかな。

 いいけどさ。それより先に、舞風に説明するべきじゃない?」

 

野分「……今の事をですか?」

 

陽炎「……どしたの?」

 

野分「出来れば、私からは黙っておきたい、というか……姉さんの方から、上手く説明してもらいたいのですが……」

 

陽炎「……あ~」

 

不知火「…………」

 

黒潮「ああ……そういうことなんやね」

 

野分「やはり、今は話しにくいですし……それに、話をして舞風が納得するとも思えなくて……」

 

陽炎「だから、あたしたちの話なら、舞風も了承するだろうって?」

 

野分「…………はい」

 

不知火「…………」

 

陽炎「どうしたの、不知火? お茶ならまだ……」

 

 

不知火「野分。あなたは――――こわがりね」

 

 

野分「!?」

 

陽炎「あーあ……」

 

黒潮「言うてもうたね……」

 

野分「どういう、ことでしょうか……」

 

不知火「言葉通り。だってその任務、僚艦が誰であっても、舞風がいなければ受けていたでしょう?」

 

野分「…………っ」

 

不知火「あなたは他ならぬ自分の手で、舞風を守りたい。舞風の前では格好付けた貴女でいたい。でも、今はそれが出来る自信がないから、舞風から逃げている」

 

不知火「単に、こわがりなだけ。その後始末を姉に期待するのはまあ……いいのだけれど」

 

野分「…………」

 

不知火「あなたは単に、自分が舞風を守る自身がない。そして、怖がっていることを舞風に知られたくない。だから声の聞こえない場所に逃げようとしている」

 

不知火「――だから、こわがりだと言ったの」

 

野分「………………」

 

不知火「……お茶が冷めてしまったわね。入れなおしてくるわ」

 

黒潮「うわ……言うだけ言うて……」

 

陽炎「えっと……まあでも、だいたい言いたいこと言われちゃったから……そうねえ」

 

野分「……私は臆病者なんでしょうか」

 

陽炎「……あんたがってよりも、舞風に対して限定だけどね。結局さ、自分じゃ舞風を守る自身がないってだけでしょう?」

 

陽炎「でもね……結局私達って、ほら、艦娘だからさ。沈む時って沈むのよ。そりゃもうあっさりと。余韻もなにも嘘みたいに」

 

野分「…………」

 

陽炎「戦場だし、仕方ないわ。大切な人が目の前で波にのまれていくなんて、よくある話だし……でもさ、野分」

 

陽炎「――もし、自分の大切な人が目の前で沈みかけていて……あなたは、見えないところで待っているだけでいいの? 手を伸ばせるところにいたくはないの?」

 

陽炎「……本当はね、その時に野分がどうしたいか。それだけの話だと思うよ?」

 

野分「……舞風に、私がどうしたいか」

 

陽炎「……まあなんていうの。仲良しだった艦娘が何時の間にか沈んでるってのも、結構よく聞く話だからね。……悔いの残る選択肢は取らないようにね」

 

陽炎「あの時、手を伸ばしていたなら――なんて、考えたくないでしょう?」

 

陽炎「それでも、野分がどうしてもダメだっていうなら……まあ、誰かが変わってあげるわ。ほら、不知火とかね」

 

野分「不知火姉さん、ですか?」

 

不知火「不知火なら構いません。これでもワルツくらいなら踊れます」

 

陽炎「だってさ、どうする?」

 

野分「……いえ、わかりました……舞風に、私の気持ちを伝えてきます」

 

――――――――――

 

黒潮「なんか大変な役所、ご苦労さん」

 

不知火「別に。不知火は思ったことを言っただけですから」

 

陽炎「ふうん。ところでワルツくらいならって」

 

不知火「嘘ですが、なにか?」

 

黒潮「あ、やっぱりそうなんやね」

 

陽炎「……にしても、なんかあの説教、不知火にしては熱かったというか……なんか実感籠ってる感じがあったけど……」

 

不知火「……せい」

 

陽炎「ぐあっ!? ……なんで、脇腹突くのよ……もう……」

 

不知火「なんでもありません……ただ、不知火も後悔はしたくないと、思っているだけです」

 

黒潮「まあまあ……さて、一人はこれで腹は決まったとして……」

 

陽炎「残りね。……いじけて逃げちゃったお姫様は、一体どうしているのかしらね」

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