雪風「……あの、舞風? 野分と喧嘩をしたというのは聞きました。聞きましたけど……なぜ雪風のところに来ました?」
舞風「…………………」
雪風「……せめて、うんとかすんとかくらい、答えてくださいよぉ……」
雪風(部屋で読書してる隣で体育座りで泣かれてると、すっごい気になっちゃうんですけど……読書に集中できませんので、できれば話だけでも聞かせてほしいなぁ……)
雪風「はあ……もう一度聞きますよ? どうして、この部屋に逃げ込んできたんですか?」
舞風「……だって雪風姉って、皆がいるときは笑ってるけど、よく見ると結構単独行動してるから……」
雪風「はあ……」
雪風(い、意外と見てますね、この子……)
舞風「……他の姉さんたちは、いつも誰かと一緒にいるけど……雪風姉はぼっちだから、この部屋なら落ち着けるかなって……」
雪風「な、なるほどぉ……」
雪風(……悪意はないんですよね? 無邪気に言ってるだけですよね……)
初風「あ、ちなみに同室だから私もいるわよ」
雪風(……野分が舞風を嫌うなんて考えられないですし……多分、誤解なんでしょうけど。問題は、どうやってこのお姫様を説得するかですね……)
雪風「はあ……あのですね? とにかく舞風も、もいっかい、野分と話をして見て……」
舞風「やだ!」
雪風「……きっと舞風が聞き間違えたか、話の途中で逃げたかですよ。野分はそんな子じゃないって、舞風だって知って……」
舞風「今の私の前で野分の名前を出さないで!」
雪風「…………あ、はい、すみません」
雪風(めんどい……というかどうすればいいんでしょう? ……だいたい、こういう役回りはもっと姉属性のある姉妹がすべきじゃないんですか?)
雪風(姉さんたちと違って、拗ねた妹の扱いなんて雪風わかりません……ぶっちゃけ、超ピンチです)
初風「私もいるけどね。聞いてる?」
雪風(そしてこんな話をしている間にも、舞風は勝手に落ち込んで……ああっ鼻を啜りだしたっ!?)
舞風「きっと、野分は私のことなんてどうでもいいんだ……」
雪風「だから、そんなことは……」
舞風「そうだもん……私、野分に捨てられたんだ!」
雪風「語弊を生む言い方はやめましょうっ! ね!」
舞風「だから私は一人でやっていけるよう、雪風姉のところに来たの!」
雪風「はあ……んえ?」
雪風(ちょっとまってください! いま論理の飛躍が! 飛躍が見えましたよ!?)
雪風「ええええと、その……それはつまり何がどうしてどうなってそんな結論になったんですか?」
初風「やだ、雪風が混乱してる。見てて楽しいわこれ」
舞風「私、一人でも大丈夫だもん……大丈夫な子になるの! だから雪風姉みたいな幸運艦になるために、雪風姉のところでお世話になる!」
雪風「……、それは」
初風「雪風が『それは多分逆効果……』って言いたいけれど、妹の純真な瞳を前にそんな夢も希望もないセリフ言えないって顔をしてるわ」
雪風(いやバカなんですか? 雪風の仇名を知ってますか? というかバカなんですか? 地味に雪風の古傷も一緒に抉ってますけど!?)
舞風「うう……ぐすっ」
雪風(泣きたいのはこっちなんですけどぉ!)
初風「はあ……言っとくけど、雪風の傍にいたからって雪風みたいに幸運艦になれるわけじゃないわよ」
舞風「そうなの?」
初風「そ……むしろ逆効果かもね? 舞風が雪風の『死神』に運を吸われて、呆気なく沈んじゃうかも?」
雪風(く……こっちからも古傷をえぐられましたが、ナイスです初風……! これならいくら舞風でも……)
舞風「……それならそれでいいかも」
雪風・初風「!?」
舞風「いいんだ。 野分は私のことなんてもうどうでもいいんだ……だったら、私このまま沈んでやる……雪風姉さんにーー『死神』に、運を吸われて沈むんだ……」
初風「あんたねっ……!」
雪風「初風、悪気はないんですから」
初風「だからって、言っていいことと悪いことが……!」
雪風「なにを怒ってるんです? 短絡的に『死んでやるー』なんて、子どもの喧嘩にはよくあるセリフですよ」
初風「あたしが言ってんのはそういうことじゃなくて……というか、あんたは……」
雪風「……わかりました。じゃあ一つ、舞風の悩みについて占いをしてあげましょう」
舞風「? 雪風姉、占い出来るの?」
雪風「できますよー。それはもう、百発百中の占いですよ。……これで、舞風と野分の今後を、占ってあげます」
雪風「ここにコインがあります。コイントスをして、もしもこれが表だったら、舞風の想いは勘違い。野分は舞風と離れたくないって思ってます」
雪風「けれど……このコインが裏だったら、もう舞風は野分と仲直りは出来ません」
雪風「いいえ。きっとその前に『死神』が、舞風の命を奪ってしまうでしょう」
舞風「え……?」
雪風「野分にもう二度と会えることはない。貴女の王子様にはもう会えない……いいえ、それよりも先に雪風が貴女を殺します」
雪風「ちなみに私は裏に賭けます。本気ですよ?」
舞風「え、賭け!? ちょ、待って……っ!」
雪風「この『雪風が裏に賭けた』という意味が、伝わったみたいでなによりです」
舞風「ま、待ってよっ!? 嘘だよね!?」
雪風「待ちませんし、嘘じゃありません。私は『死神』ーーいえ、今は『魔女』がいいですかね?」
雪風「お姫様を騙す悪ーい魔女です。見事騙された姫の命は、今や私の手の中に。……いいかげん付き合うのも面倒なので、さくっと決めてしまいましょっか」
雪風「さて、幸運の女神のキスは、雪風に微笑みますかねっと……」
舞風「やだ――やだやだやだっ! 野分に会えないなんてや、待っ――」
舞風「……………………?」
雪風「……あらら、残念。幸運の女神は雪風に微笑まなかったようです」
舞風「おも……て……?」
雪風「『死神』とか『魔女』だとか言ってたから拗ねちゃったんでしょうか。まあ、きっと王子様の想いの方が……雪風の幸運よりも強かったんでしょうね」
舞風「……………………」
雪風「なーんて……」
雪風(……くさすぎましたか?)
雪風「……こほん。舞風は、沈みませんよ」
雪風「これは私の運がどうだとか、賭けの結果がどうとか、関係はありません」
雪風「きっと貴女の王子様が、貴方を護ってくれますから」
雪風「それは私の幸運なんかよりよほど大切な……もっと尊いものですから」
雪風「……だから、もう一度、話をしてきたらどうですか? 二人ならまだ間に合います」
舞風「……………………ううっ」
雪風「……怖かったでしょう。離れたくないんでしょう?」
雪風「なら、こんなところにいる暇はないですよね」
舞風「……………………っ」
雪風「…………あんまり長居すると、今度こそ雪風の『死神』が、舞風の命を奪っちゃいますよ」
――――――――――
初風「やればできるじゃない」
雪風「……もういやです。疲れました……こんな役回り二度とごめんです……」
初風「あら、でも似合ってたわよ。悪~い魔女さん? ああいう演技も出来るのね?」
雪風「即興ですメチャクチャです。大体……二人の関係だとか、沈まないだとか……雪風が何を言うやら」
初風「でも、舞風は走り出したわよ? それは雪風のおかげなんだから、胸を張りなさい」
雪風「……………………」
初風「まあちょっと帰り際、あんたにビビってたけど」
雪風「うっさいです……」
初風「でも、あんたにしては珍しいわね。コイントスで結果を外すだなんて」
雪風「んぇ……ああ、そのことですか? このコイン、見てください」
初風「……なにこれ。両面とも表じゃない」
雪風「浦風から貰ったんです。ちょっと前はそれで鳴らしてたとか」
初風「なにやってんのあの子……」
雪風「雪風の女神さまは融通が利きませんからねぇ。このくらいのイカサマはしないと」
初風「にしても……ねえ。ちょっと陳腐すぎない?」
雪風「奇跡のタネなんて、そんなもんですよ……そうじゃないといけないって雪風は思います」
初風「ふうん……」
雪風「……あ、初風。コインを貸してくれますか? 普通のコインです」
初風「いいけど、何するの」
雪風「まあちょっと……イカサマとはいえ不穏な事に賭けちゃったので、上書きと……女神様のご機嫌取りをしようかと」
雪風「もしも表が出れば、舞風は野分と仲直りできる……もちろん雪風は、表に賭けますよっと……」