舞風「はっ!? 雪風姉が波止場で一人で読書してるっ!?」
雪風「……なんでそんなに説明口調なんです?」
舞風「ていうか雪風姉って本なんて読むんだね……」
舞風「わっ、眼鏡してるっ! なんで??」
雪風「ちょっと遠視気味で……。というか本くらい読みますよ。舞風が来たときも、読んでたじゃないですか」
舞風「ちょっと見せてー!」
雪風「ううん……まあ、ご勝手に……」
雪風(あれから、どうにも舞風に懐かれてしまった感じがしますが……ううん)
雪風(困りました……舞風相手だと、雪風、調子が狂います)
雪風(あんまり懐かれても……近づかれると、危ないです。この前は冗談だったけれど……今度は、本当に雪風のせいで……)
舞風「うわー。視界がぼやけるー」
雪風「借りたいのって、眼鏡だったんですか……いや、人がかけてるものを勝手にとらないでくださいっ!」
舞風「あれ? 雪風姉、本閉じちゃうの?」
雪風「あなたが眼鏡を返してくれたら、私も読書を再開できるんですけどね……」
舞風「そっかあ……じゃ、返さない!」
雪風「あはは。海面の女神にキスさせてあげましょうかこの子は」
雪風(………。まあ、今はいっか)
雪風「それでら、どうしてここに? 雪風に用でもあったんですか?」
舞風「ううん、ないよ?」
雪風「ないんですか……」
舞風「ただ雪風姉が一人でいたから、話しかけただけ! ねえねえ、なんで気づいたら一人でいるの? なんかたまにふらっと離れてるしー!」
雪風「そりゃあ……」
雪風(……どう説明するべきでしょうか)
雪風「……雪風には、実は幸運の女神と一緒に悪ーい魔女も憑いてるんです。それが皆に被害を与えないように力を抑えてるんですよ」
舞風「雪風姉」
雪風「はい」
舞風「中二っぽい」
雪風「ですよねぇ」
舞風「でもでも、最近の雪風姉は、ちょっと皆と距離近い気がする!」
雪風(それは、貴女が勝手に近寄ってくるからですよ)
舞風「なんでなの?」
雪風(そしてそれをあなたに聞かれても、ですね……)
雪風「……考え方が変わったとは思いませんけど。ただ、なんというか……死神とか、それ以前にちょっと目が離せない妹がいるみたいで」
雪風「だから、ついつい、手を出しちゃうんですよねえ」
舞風「大変だね……?」
雪風「ほんとうにね……」
雪風「……実際、どうなのかなと思うのです」
雪風「雪風は幸運艦ですが……幸福であったかと問われると、即答はしにくいですから」
舞風「……雪風姉は、楽しくないの?」
雪風「楽しい、と思うんです。思っちゃうんですよね。……でも、それは何時か消えてしまう楽しさで、それを雪風は知っていたから」
雪風「雪風に関わると不幸な目にあう……なんて噂のお蔭で、勝手に周りが近寄りにくくなってるのは、助かりますけどね」
舞風「ふーん……」
雪風「わかります?」
舞風「……んー、わかんない。私は皆と会えて嬉しい。野分とも再会できた。野分は私を守ってくれる……だから、私は嬉しい」
舞風「きっと、他のみんなもそのくらいの気持ちなんじゃないかなー? 戦う理由とかもあるんだろうけど……私は皆と再会して、今も一緒にいられることが、一番うれしいよ」
雪風「なるほど。……そういう考えも、ありなんですね」
舞風「雪風姉もそう思ったりする?」
雪風「そうかもしれませんね」
雪風(ニッコリ笑って、いつもの嘘を吐きました)
舞風「どうしたの?」
雪風「なんでもないです……秋とはいえ、海は寒いですねえ……鎮守府の中に戻りましょうか?」
舞風「ううん。舞風は野分を待ってる。今、不知火姉と演習中なんだ!」
雪風「そうですか。……それじゃあ、ついでにあったかいコーヒーでも買って待っていてあげるとよいですよ。海の上は冷えますから」
舞風「そっかっ! ありがとう、雪風姉のおかげで助かったよっ!」
雪風「はい……ありがとうございます」
舞風「? お礼言ってるのは私なのに、なんで雪風姉もお礼なの?」
雪風「さあ、どうしてでしょう? ……雪風は戻りますから、風邪引かないように」
舞風「はーい。また明日っ!」
雪風「また明日」
――――――――――
雪風(でもね……? 今は少しだけ、考えることもあるんです)
雪風(雪風は『死神』で、近づく人の命を吸って……きっと雪風は誰も幸せにできない。きっとまた一人で生き残る)
雪風(……かもしれないけれど)
雪風「そんな雪風が、今幸せな人達に何かをするのは、おかしいですかね?」
雪風(幸運の女神は答えないけれど。雪風の考え方は、少しだけ変わったのかもしれない)
雪風(……こんな『死神』でも、誰かの幸せに役立てるなら……何かを成せる気がするから)
雪風「……ちょっと毒され過ぎましたかね。ま、そんな思いも生まれましたよってくらいの軽い気持ちです」
雪風「今は……雪風は何時もの雪風です。『幸運艦』の、あるいは『死神』の」
雪風「これは雪風を構成する要素であって、取り外すことはできないもの」
雪風「それでも……」
雪風「……出来るなら、皆に等しく『幸運艦』と呼ばれる存在で、ありたいものです」
雪風(……なんてね?)
雪風「……あ、結局眼鏡返してもらってな……あ、舞風が港からっ。ああ……もうっ……!」
雪風(とりあえず今は……不器用ながら彼女達のお姉ちゃんを、頑張ってみましょうか)
END.