雪風がお姉ちゃんぶる話。   作:遠野静

5 / 5
chapter:後日談/雪風

舞風「はっ!? 雪風姉が波止場で一人で読書してるっ!?」

 

雪風「……なんでそんなに説明口調なんです?」

 

舞風「ていうか雪風姉って本なんて読むんだね……」

 

舞風「わっ、眼鏡してるっ! なんで??」

 

雪風「ちょっと遠視気味で……。というか本くらい読みますよ。舞風が来たときも、読んでたじゃないですか」

 

舞風「ちょっと見せてー!」

 

雪風「ううん……まあ、ご勝手に……」

 

雪風(あれから、どうにも舞風に懐かれてしまった感じがしますが……ううん)

 

雪風(困りました……舞風相手だと、雪風、調子が狂います)

 

雪風(あんまり懐かれても……近づかれると、危ないです。この前は冗談だったけれど……今度は、本当に雪風のせいで……)

 

舞風「うわー。視界がぼやけるー」

 

雪風「借りたいのって、眼鏡だったんですか……いや、人がかけてるものを勝手にとらないでくださいっ!」

 

舞風「あれ? 雪風姉、本閉じちゃうの?」

 

雪風「あなたが眼鏡を返してくれたら、私も読書を再開できるんですけどね……」

 

舞風「そっかあ……じゃ、返さない!」

 

雪風「あはは。海面の女神にキスさせてあげましょうかこの子は」

 

雪風(………。まあ、今はいっか)

 

雪風「それでら、どうしてここに? 雪風に用でもあったんですか?」

 

舞風「ううん、ないよ?」

 

雪風「ないんですか……」

 

舞風「ただ雪風姉が一人でいたから、話しかけただけ! ねえねえ、なんで気づいたら一人でいるの? なんかたまにふらっと離れてるしー!」

 

雪風「そりゃあ……」

 

雪風(……どう説明するべきでしょうか)

 

 

雪風「……雪風には、実は幸運の女神と一緒に悪ーい魔女も憑いてるんです。それが皆に被害を与えないように力を抑えてるんですよ」

 

舞風「雪風姉」

 

雪風「はい」

 

舞風「中二っぽい」

 

雪風「ですよねぇ」

 

舞風「でもでも、最近の雪風姉は、ちょっと皆と距離近い気がする!」

 

雪風(それは、貴女が勝手に近寄ってくるからですよ)

 

舞風「なんでなの?」

 

雪風(そしてそれをあなたに聞かれても、ですね……)

 

雪風「……考え方が変わったとは思いませんけど。ただ、なんというか……死神とか、それ以前にちょっと目が離せない妹がいるみたいで」

 

雪風「だから、ついつい、手を出しちゃうんですよねえ」

 

舞風「大変だね……?」

 

雪風「ほんとうにね……」

 

雪風「……実際、どうなのかなと思うのです」

 

雪風「雪風は幸運艦ですが……幸福であったかと問われると、即答はしにくいですから」

 

舞風「……雪風姉は、楽しくないの?」

 

雪風「楽しい、と思うんです。思っちゃうんですよね。……でも、それは何時か消えてしまう楽しさで、それを雪風は知っていたから」

 

雪風「雪風に関わると不幸な目にあう……なんて噂のお蔭で、勝手に周りが近寄りにくくなってるのは、助かりますけどね」

 

舞風「ふーん……」

 

雪風「わかります?」

 

舞風「……んー、わかんない。私は皆と会えて嬉しい。野分とも再会できた。野分は私を守ってくれる……だから、私は嬉しい」

 

舞風「きっと、他のみんなもそのくらいの気持ちなんじゃないかなー? 戦う理由とかもあるんだろうけど……私は皆と再会して、今も一緒にいられることが、一番うれしいよ」

 

雪風「なるほど。……そういう考えも、ありなんですね」

 

舞風「雪風姉もそう思ったりする?」

 

雪風「そうかもしれませんね」

 

雪風(ニッコリ笑って、いつもの嘘を吐きました)

 

舞風「どうしたの?」

 

雪風「なんでもないです……秋とはいえ、海は寒いですねえ……鎮守府の中に戻りましょうか?」

 

舞風「ううん。舞風は野分を待ってる。今、不知火姉と演習中なんだ!」

 

雪風「そうですか。……それじゃあ、ついでにあったかいコーヒーでも買って待っていてあげるとよいですよ。海の上は冷えますから」

 

舞風「そっかっ! ありがとう、雪風姉のおかげで助かったよっ!」

 

雪風「はい……ありがとうございます」

 

舞風「? お礼言ってるのは私なのに、なんで雪風姉もお礼なの?」

 

雪風「さあ、どうしてでしょう? ……雪風は戻りますから、風邪引かないように」

 

舞風「はーい。また明日っ!」

 

雪風「また明日」

 

――――――――――

 

 

雪風(でもね……? 今は少しだけ、考えることもあるんです)

 

雪風(雪風は『死神』で、近づく人の命を吸って……きっと雪風は誰も幸せにできない。きっとまた一人で生き残る)

 

雪風(……かもしれないけれど)

 

雪風「そんな雪風が、今幸せな人達に何かをするのは、おかしいですかね?」

 

雪風(幸運の女神は答えないけれど。雪風の考え方は、少しだけ変わったのかもしれない)

 

 

雪風(……こんな『死神』でも、誰かの幸せに役立てるなら……何かを成せる気がするから)

 

雪風「……ちょっと毒され過ぎましたかね。ま、そんな思いも生まれましたよってくらいの軽い気持ちです」

 

雪風「今は……雪風は何時もの雪風です。『幸運艦』の、あるいは『死神』の」

 

雪風「これは雪風を構成する要素であって、取り外すことはできないもの」

 

雪風「それでも……」

 

 

雪風「……出来るなら、皆に等しく『幸運艦』と呼ばれる存在で、ありたいものです」

 

 

雪風(……なんてね?)

 

 

雪風「……あ、結局眼鏡返してもらってな……あ、舞風が港からっ。ああ……もうっ……!」

 

雪風(とりあえず今は……不器用ながら彼女達のお姉ちゃんを、頑張ってみましょうか)

 

END.

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。