嫌いなもの…… 作:ウヤムヤ
『ここは……』
気が付くと、辺り一面暗闇が支配する世界だった。
上を見ても下を見ても真っ暗で場所がわからない。太陽どころか、月も星もない為に光に頼ることすら出来ない。人工光など以ての外だ。
夢から覚めると言われていたが、もしや嘘だったのだろうか?
しかし『殺人貴』が自分に対して嘘を着く必要がない。彼は最初から最後までずっと味方でいてくれたのだから。信じない道理はない。
ならばこれは一体……?
不安と困惑に苛まれていると、突如上空から光が降ってきた。
その光は意思を持つように、こちらに目掛けて飛来し、自分の前にまで来ると光量が大きくなった。
そして広がる光は形を持ち、一つの存在へと姿を変える。
「お待ちしていました、カルデアのマスター」
『エコちゃん!?』
驚くのも無理からんこと、その正体はエコだった。
『ど、どういうこと……?』
あまりに突飛な事態に狼狽するも、
「ここは特殊な空間ですので、私が道先案内人になります」
そんな自分の事情など知らないとばかりに、言うや否や少女は歩き出した。
相変わらず、思考が読めない子だが、今語ったのは嘘ではないのだろう。
ならば、下手に勘繰って動けなくなるより素直について行こう。そう決心すると、自らの足を前に進ませた。
『無事だったんだね』
「…………?」
深海のような暗闇の中を移動している最中。気になっていたからか、ついエコに声を掛けてしまった。
『途中でいなくなったって聞いたから』
「……ああ」
最初は何について言われているのか分からなかったエコだが、合点がいったらしく、納得するように声をあげる。
「私とて空気は読みます。水を差すつもりはありません」
だから席を外したとの事。
『別に気にしないのに』
だが、こちらとしてはそんなことに気を遣わなくてもと思うのだが……。
「そちらのことではありません」
『え……?』
どうやら何か思い違いをしているらしい。
「いえ、こっちは貴方には関係のない話でした。忘れてください」
しかし、訂正が面倒なのか、わざわざ語る必要性を感じなかったのか、以降エコはその話題に触れることはなかった。
『それで、どうしてこんな事を……?』
ならば、と何故こんなことをしているのかという疑問をぶつけた。
こちらとしては大変助かるが、一体どんな事情があってこんなことをしているのか。
純粋に気になった。
「今回の一件で貴方周りで一番迷惑を掛けてしまった人達がいました。ですので、その非礼として『貴方を無事に帰す』という契約をしました。……こちらからの一方的なものですが」
それは恐らく彼女がした『後押し』に関係しているのだろう。
自らの思惑を成就させる為に無理を通したので、そのケジメとして一方的とはいえ契約をしたと言ったところか。相手が誰かは不明だが。
「ですが、契約は契約。私はただそれを履行しているだけに過ぎませんので、気を使わなくて結構です」
相変わらず淡々と語っているが、どうやら彼女なりに責任を感じているからこその行動なのだろう。
「真面目だなぁ」と内心思いながら歩くこと数分。
「ここですね」
そうして立ち止まった場所は、他と変わらない暗闇のただ中だった。
どう違うのか、疑問を感じ首を傾げた、その時だ。
突如地平線の彼方から光が差し込んでくる。まるでそれは朝陽のようであり、眩しくも綺麗だと感じた。
そして、
――先輩!
その光を浴びると不思議と声が聞こえた気がした。
よく聞き馴染んだ自分を慕うその声の主は――
『マシュ……?』
そうだ。自分のファーストサーヴァントにして頼れる後輩の声だ。間違いない。
よく耳をすませば彼女の以外の声も聴こえる。ダ・ヴィンチちゃん、スタッフの皆にサーヴァント達。
なにより、
――……マスター。
不安で消えてしまいそうな微かな声を拾うことが出来た。
それは、今一番逢って安心させたいと思う箱入り娘のもの。
呼び掛ける声は弱々しくて、何かあったとすぐにわかる。彼女のことだから、もしかしたら自分が原因の一端であることに気付いたのかもしれない。
ならば、やはりすぐにでも逢って安心させないと……。
そう逸り、数歩歩いて光の中へと入り掛けたところで……振り返った。
「……ゴールはそこです。早く入らないのですか?」
自分の役割は終えたと言わんばかりに、ただ眺めていたエコが怪訝な目を向ける。
『……うん、まあ、そうなんだけど……最後にお別れを言いたくて』
「え――」
意外だと思ったのか、エコはまるで鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
『今まで助けてくれてありがとう、エコちゃん。元気でね』
そうして、一方的に告げると、やっぱり彼女(アース)への心配が先にくるらしく彼は急いで光の中へと消えていってしまった。
「……まったく。私が元凶のようなものだと伝えたはずですが……人間というのはやはり難儀な生き物ですね」
呆然と、その背中を見送りながら呟いた言葉には、呆れの色こそあったが、何処か慈しみも含まれていたようだった。
「さようなら、カルデアのマスター。私達が出会うことは二度とないでしょう。この奇跡のようなあり得ざる夢は、それだけ稀少で貴重な機会だったのですから」
幾つもの偶然と必然が重なりあった結果の現象は、ある意味奇跡と呼べるだろう。
しかし、奇跡である以上そう何度も起きたり起こしたりは出来ないのだ。
それに、もし奇跡が使える機会があるのなら、こんなことではなく、もっと大切な時に残しておくべきだ。
彼の行く末はそれだけに厳しく、険しいのだから……。
「――どうか、貴方の旅の終着に安らぎがありますよう」
祈るように、目を閉じて、既にいなくなった彼に贈る。
彼女に出来る精一杯のエールは、誰の耳にも届かず虚空に消える。
しかし、そこに込められた想いはきっと届くだろう。
今すぐではなくとも、いつか見る何処かの夢で、きっと――。
そうして、彼女は現れた時と同じように光へと姿を変じ、暗闇の彼方へと飛び去って行ったのだった……。
◇◆◇◆
夜風が頬に当たり、心地良く感じる。
はて? 果たして今は何月だっただろうか?
夢の中とはいえ、季節はあるだろうに、過ごしやすい気候の為かどうにもはっきりとは分からない。
とはいえ、あとは寝ていれば勝手にこの身は砕け散る未来なのは知っている。
だから、余計な思考に囚われず、あの日見た『彼女』を思い返そうと――
『――志貴』
した瞬間、やけにリアルな声が聞こえた。
既に身体はガタがきている。耳はやられていてもおかしくない。
居もしない者の幻聴を聞くとは、迎えはそこまできているようだ。
『ねぇ、志貴ってば』
しつこく二回目の声が聴こえた。
(……まずいな、最期くらい静かに往きたいんだけどな)
美しい容姿を思い返すのとは違い、彼女の声は綺麗ではあるが、個人的にやかましいイメージしかない。
最期の瞬間くらいは綺麗な思い出と共に往きたいと思っていたのに、こうも騒がしいと色々と台無しだ。
(よし、ここはもう少し眠るような感じで……)
『綺麗な最期』というものを彩ろうと努力する羽目になるとは、流石に思わなかった。
それでもここまできたら意地だ。
満足のいく消え方をしようと――
「志貴! 志貴ったら! もう、起きなさい!」
「痛――ッ!?」
する間際に、更に強くなった幻聴と共に何かに頭を叩かれた。
想像の倍以上の激痛に意識は覚醒し、痛みを抑える為頭を抱える。
痛みを抑えながら「一体誰だ? こんなことするのは!」とガバッと顔をあげると、
「あ、ようやく起きたな。この寝坊助」
そこには、つい先程まで見ていた、願っていた金髪紅眼の幻がいた。
「……アル、クェイド……?」
月光に照らされた金髪の吸血鬼はいつか見た姿と全く同じだった。
「……なんで? ……幻覚か?」
あまりに記憶と一致し過ぎている為に、ついぞ幻でも見ているのだろうかと、違う意味頭を抱えてしまう。
「何言ってるのよ? 夢でも幻でも……あ、ここ夢の世界だったわね」
一人で言ったことに一人でつっこんでる。その上に「うっかりしてたわ」と何がおかしいのか笑っている。
うん、このバカさ加減は間違いない。偽物でも幻でもなく本物だ。
「なんで、おまえが……?」
そう判断すると、次に抱く疑問は何故いるのか、だ。
いや、いてもおかしくはない。何せ夢の核にして外部からの干渉を阻んでいた『夢のアース』がいなくなったのだ。だから、夢に入り込むこと自体は可能ではある。
既に一度行なってはいたから問題なくできるはずだが……しかし、事件は既に解決したはず。ならば何の為にまた此処へ来たのだろうか?
こちらとしては会えただけでも嬉しいが、向こうも同じとは限らない。
何か目的でもあったのだろうか……。
「なんでって、お礼を言いにきたのよ」
そう訝しむと、アルクェイドは隠すことなく話してくれた。
「お礼?」
「うん。だって志貴、カルデアくんのこと守ってくれたでしょ? だから、そのお礼」
「ありがとね」と快活に笑う姿に呆れてしまう。
それはアルクェイドが託した頼みのことだった。彼の助力になってほしいという、この世界に置ける志貴の役割を定義したものだ。
「……そんなことか」
「そんなことって……わたし、これでも押し付けた責任とか一応感じてるんですけど」
元々はアルクェイド自身でどうにかしようとしたが、流石にアウェイな空間や様々な制限、おまけに何か自分と似た様な力による妨害の影響で長居することは出来ず、結果ヒントと助っ人を作るくらいしかできなかった。
そしてその助っ人の役割を押し付けたのが此処にいる志貴だ。自分の都合で生み出してしまったことに、多少なりとも罪悪感があるのかもしれない。
だからこそ、その誠意として現れたというところか。
「なら普段から自重してくれよ」
志貴としてはそこまでできるのなら、普段の状態からやってほしいと思わなくない。というより、がっつりと声に出てしまった。
「……そこはほら、シエルや妹とかが邪魔してくるから」
「仲良くしてくれればそれで済む話しだろ」
「はぁ!? 妹はともかく、シエルとなんて絶対無理! ありえないんですけど!」
「どうしてそこまで先輩嫌うかなぁ……」
「むぅ……志貴っていっつもシエルの肩持つわよね……」
「別にそんなつもりはないんだけどな……っと」
つい話が逸れてしまった。
どうにもアルクェイドと話すと脇道にそれてしまう。それ事態は嫌いではないのだが、今はちゃんとした本題がある。そちらに話を戻そう。
「……それはともかく、お礼だったか? いいよ、別に。確かにおまえに頼まれた内容だったけど途中からは完全に私情で助けてたからな」
件の頼まれ事に関することは、後半からは完全に自らの気持ちを優先して動いていた。
アルクェイドに頼まれていた働き以上の内容は完全に自分の領分として受け止めていたし、それをするに相応しい相手であることも納得していた。
だから、別にお礼を言われる筋合いなどない。
「そうなんだ。まあ誰かさんと違って良い子だもんね、カルデアくん」
その態度を見て何故か上機嫌に皮肉を口にする。
「アイツが良い奴なのは同意するけど、一々俺を引き合いに出すなよな」
「あんな底抜けの善人と比較するなよ」とばかりうんざり気味に呟くが、その声色はとても穏やかだ。
なんだかんだで、またこの吸血鬼と会って話しが出来るのが嬉しい自分がいる。それが分かっているからこそだろう。
「――っ!?」
「っ! 志貴、大丈夫?」
とはいえ、そんな至福の時間は長くは続かないらしい。
「……悪い、もう限界みたいだ」
偽りの肉体はひび割れ、亀裂は全身に伸びている。
それが散々見てきた『死の線』に似ているのは皮肉以外の何物でもないと苦笑すら浮かべてしまう。
「……そう」
そうして、悟るようにアルクェイドは一瞬俯いた。
自らが作り出してしまったが故に、その最期も理解しているのだ。
――だから、その最期くらいは、と……。
顔を上げると、アルクェイドは志貴の隣座った。
「……?」
そして、その行動に困惑している彼の頭を掴むと、そのまま自らの膝の上に乗せた。
「お、おまえ、なにを……!?」
それが俗にいう『膝枕』であったことはすぐわかった。わかったからこそ羞恥心で顔が赤くなる。
「いいからいいから。頑張ったご褒美はちゃんとあげないと☆」
しかし、当のしている側であるアルクェイドは気にした様子はなくどこ吹く風。寧ろ上機嫌に微笑んでいる。
「っ!?」
「あ、ダメよ志貴。さっき自分で言ったじゃない、もう限界だって」
なんとか逃れようとするものの頭はガッチリと固定され、身体は暴れる程の元気はない。寧ろ動かそうとすると激痛が奔って痛い。
「もう、大人しくして」
まるで言う事を聞かない子供を叱るかのような言葉遣いを受けてか、少し自分を客観視できた。
ここでジタバタと暴れたところで死期を早めるだけ。
ならば素直に諦めて、この体勢を受けるしかない。…………別に本心から嫌というわけでもないし。
そうして大人しくなった志貴の頭をアルクェイドは優しく撫でる。労るように、愛するものに触れるように。
志貴も志貴で、満足そうな笑みを浮かべているアルクェイドを責める気にはならないようで、甘んじて現状を受け入れている。
まるで世界に二人しかいなくなったかのような静けさが心地よい。
いや、実際この
リソースを使い切った以上、余分なモブや背景はとうに消えている。
そして主人公である友人(藤丸)と、ヒロインである『夢のアース』も消え、ゲストのエコもいなくなった。
であれば、残っているのはここにいるエキストラだけだ。
(まさか、世界の終わりを好きな奴と迎える……なんて、映画みたいなことになるなんてな……)
役柄としては知らずにフェードアウトしてもいい端役だと思っていたのに……棚からぼたもちもいいところだ。
しかし、悪い気はしない。現状もだが、此処に至る経緯を含めて『この志貴』にとってはかけがえのない思い出となったのだから……。
「ありがとう、志貴」
そうして心穏やかでいるとアルクェイドの口からまた感謝の言葉が漏れた。
「……だからいいって」
この身体の稼働時間がもう間近であることを悟った為だろうが、やはりそれでも感謝される為に行なったわけではないからか、優しい口調でそれを拒否する。
そうするであろうと分かっていたのか、「まったくもう……」とアルクェイドも微笑んだ。
「あなたもね」
そして、今度は疲れ切った黒猫に手を伸ばした。
こちらも労るように頭を撫でる。
「このわたしとは直接的に関係はないのに、それでも働いてくれて。……あの子達を守ってくれて、ありがとう」
ただの因子でしかなく、自我なんてものはないはずなのにも拘わらず、この『いつ崩壊してもおかしくなかった夢』を絶えず支えていたのは彼女だった。
『夢のアース』は核ではあったが、世界を支える土台でも柱でもない。それが最後まで形を成していたのは夢魔である彼女の力あってこそだ。
「……そっちの世界のわたしは、良い使い魔に巡り会えたようね」
慈愛と僅かばかりの羨望の籠もった視線を受けた黒猫は『にゃあ』と一回鳴いた。元気が感じられない程に弱々しいが、それでも何処か誇っているようにも聴こえる。
それが我がことのように嬉しくなり、もう一度頭を撫でた。
月はいつしか頭上にきており、膝枕によって上を向いている志貴は、アルクェイドの顔を眺めつつ、それを見上げる。
「……なあ、アルクェイド」
「うん? なに?」
そうして思い出したようにアルクェイドに語りかけた。
「『此処にいるおまえ』に言うのは門違いだと思うけど、それでも言わせてくれないか」
それは別の世界の因子だから得た情報故か、夢の世界で生まれた、色んな『志貴』の可能性を内包していたからかは分からない。
ただ、その
理由はどうあれ『彼女』に伝えなくてはと感じたら、口が動いていた。
――いつか、絶対迎えに行くから。
「――っ!?」
そうして告げられた内容に、アルクェイドは驚愕する。
だって、それは……『それ』を口にするということは……つまり――
「…………あぁ、そっか……そんな『可能性』もあるんだ……」
哀しそうで、でも何処か嬉しそうな……綯い交ぜの表情を浮かべる。
因子がどの世界からきたのかは分からない。しかし、きっとその世界では『彼』はそういう選択を取ったのだろう。
そして、因子を通して志貴に影響を与えてしまったのかもしれない……同じ遠野志貴として。
「……酷いなぁ……志貴は……」
身勝手にその『彼』の境遇に同情したのか、感化されたのか、それとも……もう崩壊寸前だから意識や記憶が混同してしまったのか。
どちらにせよ、違う世界の自分に言うのはダメだろう。
――だって……。
「そんなこと言われたら、わたし……期待、しちゃうよ……」
そんな素敵な可能性があるなんて知ったら、期待しない方が無理だろう。
『彼』がしてくれるのなら、もしかしたら自分の世界の志貴も……そんな淡い想いが生まれてしまう。
「悪いな……でも、もしまた何処かで会えたら言いたかったんだ……夢でも幻でもいい。おまえに会えたら言いたかった」
もう、そこにいるのがどちらかは分からない。
ただ記憶は強く引っ張られているようだ。
「ここにいるのは、あなたの知るわたしじゃないわ……」
だから、まず前提としてこれだけは伝えなくてはいけない。
此処にいるのはあなたの愛したわたしではない、と。
もちろん、先の発言を信じるならそれは承知の上でなのだろう。それほどまでに想いは強いのかもしれない。
「でもね、それでも……嬉しい」
故にこそ、
「このわたしでこうなのだもの! きっとあなたの知るわたしはもっと嬉しいに決まってるわ!」
理解できてしまう。
同じ人を愛したもの同士、きっとその世界のアルクェイドも言われたら間違いなく嬉しいのだろう、と。
「だから、そのわたしに代わって言うわね――」
だから、代役ではあるが伝えよう。
心からの想いを。
「うん! 待ってる……! あなたが起こしに来てくれるの、わたし……ずっと待ってるから!」
違う世界のといえ、自分に感情移入するなんて妙な話しだ。
それでも、それができると断言するくらいには……涙が出る程嬉しくて、叫びたい程に焦がれてしまった。
「…………あぁ、必ず、起こしてやるよ……ばか女」
そうして、その想いは確かに伝わったのだろう。
『彼』は満足そうに笑うと、亀裂は全身にまで至ると硝子のように砕け散り、光となって消滅した。
「……待ってるよ、志貴。……わたし、ずっと、待ってるから……」
『彼』が……志貴がいなくなった後も、まるでまだそこにいるかのように抱きしめる。
その口から出た言葉は、別の世界の彼女を代弁してのものだったのか……それとも――。
泣き崩れた真祖の姫に寄り添う別世界の従者もまた、その姿を光に変えていく。
もう彼女も限界だ。それでも泣いている別世界の主を慰めるように鳴いた。
自らの肉体が消える寸前まで、この夢の世界が消えてなくなるその瞬間まで。
黒猫は姫の傍で鳴き続ける。
――『にゃあにゃあ』と猫は鳴く。二人の再会を願うように。『そんな奇跡が起きますように』と祈るように。