嫌いなもの……   作:ウヤムヤ

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三話

「さてと」

 カレーを食べ終え、腹は満たされた。

 改まって挨拶もした。

 そうなれば次にすべきことは決まっている。

「藤丸、オマエがアルクェイドを探しているのは知っているけど、実は探している内容までは知らないんだ。教えて貰ってもいいか?」

『え、そうなの?』

 待ち構えていたようだったし、てっきり全部お見通しなのかと思っていたのだが……。

「俺はあくまで“アルクェイドの代わり”としてオマエに会うように設定されたからな。俺に会うってことはアルクェイドに会いに来たってことだ。だから、現時点ではそこしか分からない」

『……?』

「ともかく、アルクェイドに会いに来ようとした理由を教えてくれ」

 本来ならアルクェイドへ聞こうと思っていた内容。

 話す相手は変わったが、聞いてくれるのならこっちとしては有り難い。

『うん、実は――』

 そうして語るのは昨日から感じている違和感。

 拭おうとする度、気にしないようにしようとしても纏わりつくそれは果たしてなんなのか。

 気の所為、自分が過敏になっているだけならそれでもいい。

 しかし実際に返ってきた反応は予想に反したものだった。

「なるほど……ギリギリを攻めたアイツのヒントは思ったよりも効果を発揮したみたいだな」

『え?』

「いや、なんでも。こっちの話さ」

 ぼそっと呟いた後に「それより」と向き直る。

「オマエの感じた違和感は正しいよ、藤丸」

『そうなの?』

「ああ、だから自分をもっと信じた方がいい。オマエの抱いている違和感は正しく、オマエが感じている疑惑は本物だ」

『それってつまり……』

オマエが疑いの目を向けているものは真実ではない。遠回しだが『殺人貴』はそう言っている。

 そして、それらの中で最も強いのは……一人しかいない。

『――ッ!?』

 そこで一旦頭を振るう。その結論に行くにはまだ早計だ。

 情報があまりに足りない。決めるのは情報を集めてからだ。

『『殺人貴』はどこまで知ってるの?』

「範囲によるけど、恐らくオマエの聞きたいことになら答えれるよ。そうじゃなきゃ、自分のことを『助言役』なんて言わないさ」

『じゃあさ、教えてくれないかな?』

「いいよ、何から聞きたい?」

『え?』

「ん?」

 いざ真相を解明しようとした瞬間、何故か両者不思議そうに顔を見合わせる。

 何やら双方の間に致命的な勘違いが起きているようだ。

「まさかと思うけど……一から十まで俺が教えるとでも思ってたのか?」

 それにいち早く気付いたのは、言うまでもなく『殺人貴』である。彼は呆れたように目を細めて言った。

『え、違うの? じゃあ、知ってるって言ってたのは嘘……?』

 てっきりそうなのかと思っていたので目が丸くなる。

 話の流れ的に、教えてくれるのだと思っていたのだが……。

 そんな自分に対し、『殺人貴』はため息を一度吐いた後答えた。

「嘘じゃない。だが俺が出来るのは『助言』であり、オマエが気付いたクエスチョンに対してヒントを出すだけだ。悪いが『解説』とか『解明』は俺には出来ない。その二つは明確な反逆行為だからな。それに抵触しないギリギリのラインは『助言』だけだったんだ。なんで、まず先に藤丸が疑問を抱いて俺に訊いてくれなきゃいけない」

『……そうなんだ』

「さっきだってそうだったろ。俺はあくまで『答え』に行き着けるよう助言をしただけ。それを受けて答えを導いたのはオマエのはずだ」

『あ……』

 答えは一旦保留にしてはいるが……言われて納得は出来る。

 確かに、『殺人貴』からの助言は大きかったものの、彼がしてのはあくまでそこに至るまでの補強程度。自分にただ「オマエは正しい」と言っただけなのだ。

『……遠回り過ぎない?』

「言うなよ……俺だって面倒だと思うけど、直接的過ぎるのはアウトなんだ。抵触しない部分なら大丈夫だけど、オマエが挑むのはがっつり抵触するやつばかりだからなぁ」

 率直に抱いた感想を述べると、彼は頭を掻いて愚痴る。

 どうやら、そういうルールというか制約が課されているようだ。その辺りについてもこちらから訊きにいった上で答えに至らなければいけないのだろう。

 それはなんと面倒なことか。

 しかし――。

『訊けば、大丈夫なんだよね?』

「ああ、ちゃんと助言する。そこは保証するよ」

 手順さえ分かれば、情報は与えてくれるというのは確かなのだ。

『うん、わかった。じゃあ、まずは――』

 そうして、自分が知るべきだと思った情報を得る為に『殺人貴』との問答が始まった。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

『まあこんなものかな。他に何か知りたいことが出来たら今日みたいに街を散策するといい。そっちが望むなら俺は現れる。そういう役割だからね。またな、友人』

 

 そうして一通りの情報を手にした後、『殺人貴』と別れ、帰路に着いた。

 『殺人貴』の助言を介して得られたものは膨大で、未だに脳内処理が追いつかない。

 しかし、一つだけ確かに見て見ぬふりをしてはいけない情報があった。

『そうか……ここは夢の世界なのか』

 幾つかの助言を受け、情報を精査し、たどり着いた答えの一つがこれだ。

 どうやら現実の自分は寝たきりで、この夢の世界に囚われているらしい。

 何故そうなったのか……彼が言うには――

『まあ自覚のないお姫さまの願いを、消えかけの従者が叶えようとした結果暴走した感じ……かな。オマエは何かに護られていたみたいだけど、そいつ自身が持っていた無害なものが急にバグになるとは思わなかったから対処出来なかったようだし。……そもそもこの『夢』もそんなに長くは保たないはずなんだよな……。

あー……とりあえず、わかりやすく一言で言うなら『運が悪かった』ってことだよ』

 とのことだがやはりわからない。

『爆発するはずがない爆弾が、幾つかの条件が合わさって爆発したようなもの』とも例えていたっけ?

 結局のところ『運が悪かった』に収束する辺り、自分はつくづく運がないのだろう。

 しかしそれを嘆いたところで何かが変わる訳でもない。

 まずは此処から出られるよう、考えなければいけない。

 そこに至る為の答えを『殺人貴』は知っているようだし、『アルクェイドが既にヒントを出している』とのことだったが……。

 

 ――きらい……の……を……ない……の私……ね。

 

『っ……!?』

 それを思い返そうとして、一瞬フラッシュバックが起きる。

 何処だったか忘れたが、アースに何かを質問して、その時に彼女が寂しそうな顔で言っていたのだ。

 あれは何だったか……。

 薄れていきそうなそれを必死に脳内のフォルダに入れた。

 絶対に忘れないように、無理矢理に何度でも、擦り切れるカセットテープのように再生させる。

 

――きらい……の……を……ない……の私……ね。

 

 しかし、何度試みても全容を思い出すことが出来ない。

 恐らくは貴重な現実でのアースのやり取りなはず。それを思い返せないのは寂しい。

 現実にもアースはいる。それだけでなく、多くの仲間がいるのだ。

 いつまでも彼等を心配させるわけにはいかない。

 どうにかしてこの『夢』を抜け出そう。

 決意を新たにするのだった。

 ……しかし、それはそれとして。

『ただいま』

 英気を養う為にも家に帰ってきたのだった。

「にゃあ」

 そうして、今はいない両親の代わりに黒猫が出迎えてくれた。

 

 ――『にゃあにゃあ』と猫は鳴く。語りかけるように、話しかけてるように。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「………………」

「………………」

「………………」

 同じ顔が三つ、突き合わせている。

 それぞれ違う表情をしている為に若干の差別はできているが、それでも三つ子か思われても仕方がない。

 実際のところはそんなものよりも更にややこしく、全員が同一の個体である。強いて違いをあげるならそれぞれが過去・現在・未来に分かれているようなもので、辿った道筋も違うのだとか。

 そんな彼女達が一同に会すということは現実には不可能なので、そこは言わば内面……精神世界の様な場所だ。

 そうして彼女達が顔を合わせること事態は珍しいことではない。

 しかし――。

「ええい! 鬱陶しい! なんだ貴様ら! 揃いも揃って辛気臭い!」

 長い沈黙に耐えかねたのか、荘厳な態度の彼女……彼女の中でも『原型』とされる者が声を荒らげた。

「ちょ! いきなりなによ! 原型のわたし」

 三人の中で唯一髪の短い彼女――アルクェイドはいきなりのことに驚き声をあげる。

「…………なんですか、いきなり」

 対して、『原型』と同じ容姿の彼女――アースは沈んだ声で反応した。

 そんな彼女達の態度が余計気に障ったのか、『原型』は向かって言葉を放つ。

「貴様ら、大方あの人間のことを心配しているようだが、本を正せば『アレ』は貴様らのせいであろう」

 彼女達が共通して気にしているものといえば、やはり寝たきりのマスターの件だ。

「はぁ!? 確かにわたしはあの因子と縁あるけど、あくまで別の世界のわたしよ! この世界のわたしとは関係ないんですけど!」

 それを気にしていたのは事実としても、責任を負わされる気はさらさらない。抗議と言わんばかりにアルクェイドは反論する。

「……ええ、そうですね。ここにいるアルクェイドを責めるのは筋違いというもの。寧ろ、よく手を尽くしてくれています」

 そしてアルクェイドが問題解決に手を貸してくれたことを知っているアースも、彼女を擁護する。

「いや、私は貴様にも言ったのだぞ、古き姫」

「……え?」

 しかし思わぬ反撃を喰らい、言葉が詰まる。

「よもや、自覚がないのか?」

「それは、どういう……」

 困惑するアースを前に、『原型』の表情はどんどん呆れていった。

「………………言葉も出ないとはこのようなことをいうのか」

「……まあ、過去のわたしはそこら辺まだ鈍いからね……」

「…………?」

 『原型』どころかアルクェイドですら目が泳いでいる始末。

 どういうことなのだろうか? 本当に分からない、アースは首を傾げる他ない。

「確かに、発端となった因子は新しき姫由来のものではあるが、それが活動を始めた原因は貴様だぞ、古き姫」

 見かねか、呆れ気味に『原型』は真実を告げる。

「え……? ……何故、そんな……。それでは、私がマスターを眠らせたようなものでは……?」

 だが、それは酷く残酷な内容のものであり、隠しきれない程の同様がアースを襲う。

「だからそう言っているであろう。……とはいえ、その様子ではやはり自覚はなしか」

「ッ………………」

 疑問は即座に確信へと変えられた。

 その事実を受け止め切れず、つい目を逸してしまった。

「ちょっと、過去のわたしをイジメないでくれる?」

 そこでアルクェイドが『待った』の声をかける。

「私は事実を言ったまでだが?」

 諌められるようなことをしたはずなのに、当の本人は全く悪いと思っていない。

 むしろ「事実を言って何が悪い?」と純粋に疑問に思っている。

「直接的過ぎるっての! もっと相手のこと考えなさいよ! 原型のわたしは!」

 それに対してアルクェイドは相手の気持ちをもっと汲めと言う。

 「わたしに言われるって相当よ」と自分を引き合いに出す程なので、正にその通りなのだろう。

 ……いや、相手もある意味『自分』ではあるのだが……それでも目に余る気がする。

「それは無理な話というもの。民も臣下もいなかったのだ、そのような状況でそんなことを一々気にすると思うか?」

 しかし『原型』の彼女はどこ吹く風で、今更変われると思うか? と言わんばかりの態度。

「ホント横暴なんだから……このわたしは……。だったらちょっとあっち行っててくれない」

「ふむ、仕方がない」

 完全に匙を投げたアルクェイドがシッシッと手を追い払うジェスチャーをする。

 『原型』もそれに目くじらを立てるより、この場の雰囲気から逃れれるチャンスと見たのか、即座にその姿を消した。

 ……アースをここまで落ち込ませたのは自分の発言のせいだというのに、中々に強かな精神を持っている。

「………………。よし、いなくなったわね」

 そうして問題児が本当にいなくなったのを確認すると、少しだけ胸を撫で下ろす。

「……アルクェイド……あの、原型の私が言っていたことは……」

 とはいえ、問題が解決したわけではない。

 やはりというか『原型』から言われた言葉をアースは気にしている。

(あっちゃー……やっぱダメージ受けてるか。でも、仕方ないか、カルデアくんが眠った原因が自分だったなんて知ったら、こうもなるわよね。……ホント、原型のわたし、もっと慎重に動いてほしいんですけど)

 悲しそう顔をしているアースを見て、アルクェイドは此処にいない元凶に対して心の中で愚痴った。

 それを終えると、アースに向き直り、

「……結論から言うと、原型のわたしが言ったのは間違っていないわ。あの因子が影響を受けたのはわたしではなくあなたよ、過去のわたし」

 今度ははっきりと自分の口で真実を伝えた。

「………………何故?」

 アルクェイドにも言われたことで、その真実を一応受け入れることは出来た。

 しかし、だからといって自分が原因と言われても心当たりはなかった。

「それはわからないわ。でも、あなたはカルデアくんと交流を重ねていく内に変わっていった。だから無意識にそう願う『何か』があったんじゃないかしら。それは、本当に小さくてあなた自身知らぬ間に抱いたものだったのかも……」

「………………」

 アルクェイドと『原型』が言う通り、やはりそのような自覚はない。

 しかし、だからといって自らが原因である事実は変わらない。

 思っても見なかった真実を目の当たりに、アースの顔はどんどん曇っていく。

「大丈夫! きっと目を覚ますわ! 元々あの夢はそう長くは保たないものだし、それに……すっごい頼りになる助っ人置いてきたから! だから心配しないで、今は待ちましょう」

 そんな彼女を元気付けようと、アルクェイドは明るく笑い掛ける。

「…………はい。そうですね。今はそれしかできませんよね……」

「うんうん、分かればよろしい!」

 そうして、つられたように微笑を浮かべるアースに、アルクェイドは慰めるように優しく頭を撫でた。

 

(……私の所為、ですか…………ごめんなさい、マスター)

 

 しかし、心の内は後悔と懺悔の色に染まっていた。

 それを払拭できるであろう人物は、未だ夢に囚われている。

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