「流石ですね。能力もなしにここまで飛べるなんて」
「まぁな。能力が1分しか持たなくなっちまったから、移動は大体コイツでこうやってるよ」
ワイヤーを片腕に収納して、向かいのビルに射出する。ワイヤーの先がコンクリートに吸着するのを確認してから、またワイヤーを片腕に収納していく。巻き取り音が片腕の射出機から聞こえ、体が宙に浮き、ワイヤーの吸着点に向かって進んでいく。下を見れば街灯に照らされた大通りが見え、車が走っている。しかし今向かってる現場へ進む車道の方は相変わらず渋滞を起こしてるままの様だ。心なしか先程より酷くなっている気もする。バイクを乗り捨てた青年の判断はやはり正しかった様だ。
「おっとっと。それより、お前の方はいいのか? 能力を今使っちまって」
「心配ありません。この感じなら現場までおよそ1分って所でしょう。現場に到着してもまだ4分ある。それだけあれば、たとえNEXT犯罪者がいたとしても捕まえるのは訳ありません」
「流石だな、だが油断はするなよ」
「分かってますよ。今の僕は、昔と一緒ではありません」
「そうだな。【キング・オブ・ヒーロー】さん」
「そうやって茶化すのはやめてください。それよりもう着きますよ」
ビルに着地する二人。そこは現場から一番近いビルの屋上で、現場を一望できる場所だった。
現場のビルは火の手が上がっており、割れたりしている窓ガラスから内部は相当火の回りが壮絶である事が見て取れる。人々も逃げ惑っているが、先に来ている二部のヒーローたちが一生懸命に避難誘導をしている為、混乱にまでは至っていない様だ。
「じゃあ僕は屋上から入って、他の皆と合流します」
「ああ、俺は下で避難誘導をする。気をつけろよ」
そちらこそ、と言い残して現場のビルへ飛び移る青年。しかし今までの様に天井に着地するのではなく、一番上の階の窓ガラスを突き破って侵入していた。
「おーおーダイナミックだ事。さて、俺も下の連中を手伝いにいくか」
ビルの縁へ立ち、ワイヤーで勢いを軽減しつつ飛び降りようとしたその時。
「いーやぁ、その必要はねぇーんじゃあねぇかなぁー」
声がした。唐突に。
声がした方を向く。そいつは直ぐ後ろにいた。その表情は此方を見据えてヘラヘラと人の神経を逆撫でするような下品な笑みを浮かべて、悠々と腕を組んで立っている。しかしまったく今まで気づかなかった。
冷や汗が背中を伝った感覚、同時に全身に力を込めて警戒を表す。
「オマエ、何者だ」
目の前の男は、ただ顔のニヤケを深くするだけだった。