「オマエ、ワイルド・タイガーだろォ。違うかいィ? 違わねぇよなあぁ。ちょっと前までバーナビーとコンビ組んでたあのワイルド・タイガーだろぉ! ナァーーッ!」
ヒィーファッヒャッハッハハァー! と奇妙な笑い声を上げて笑い出す。すぐさまコイツはまともではない事を感じ取った。
「だったら何だ!」
「何だってぇ? 何だと思うぅ? わっかんねぇかなぁー? わっかんねぇだろーなあ! 教えてほしいぃ? 教えてほしいかってキィーてんだよお! ヒャッヒャッヒャアーーヒィイー!」
目の前の男が心底面白そうに腹を抱えて大笑いする。その笑い声を聞く度に不快感が体中を走り回る。
何なんだ、この狂った男は。
「悪いが、お前みたいな奴にかまってる場合じゃないんだ。馬鹿笑いするなら他所でやってくれ」
これ以上は構っていられない。
そう思ったのは事実だが、それ以上にこの場所に一秒たりとも居たくなかった。目の前の男のかもし出す異様な空気に、一歩も動けなくなってしまいそうだったからだ。それぐらい、この男は異常だった。今までの人生で、これ程狂った人間は見た事がなかった。
男に背を向け、現場まで一直線に落ちようと足に力を込めた。
「犯人を知りたくないか?」
急に底冷えするような声が聞こえた。
「目の前の大火事を起こした犯人だ。教えてやろうか?」
振り返ると、男はさっきまでの狂気じみた笑みを貼り付けた顔ではなくなっていた。いや未だに狂気じみた顔はしている。だが今までと違い、それはふざけた顔ではなく、例えるならそう。
犯罪者(ヒトゴロシ)の顔だった。
「――まさか、お前か」
「ああ、そうさ。さあどうするワイルド・タイガー? オレを捕まえるか?」
「……お前は何がしたい?」
「何がしたい、か? それはな」
「復讐だよ」
最後に見えたのは、男が此方に手を振りかざす姿だった。
「ん?」
妙な感覚がして、ふと背後を見る。そこに写るのは火に蹂躙される部屋の中だ。今の状況において、これは異常じゃない。自分は火事の現場に居るのだ。中に居るであろう逃げ遅れた人を助ける為に。また、この火事を起こした犯罪者を探し出す為に。
ソレは自分がヒーローだからだ。
そしてその中で、自分は今妙な考えを起こしている。思いついた考えは絶対にありえない。そう思い、その想像を自身の中からかき消そうとしても、まるでペンキで上塗りされた様にそれは消えなかった。
何故自分はこんな想像をしているのだろうか。
「――虎徹さん?」
自分のヒーローが、消えてしまう想像なんて。