「これで取りあえず必要な物は揃ったかな?」
「それでいいんじゃないかい? もし足りなければまた買いに来ればいいさ。ね、フェイト」
「うん、そうだねアルフ」
それは、忘れもしない。衝撃的な出会い。
4月12日、夜の遠見市。
夜の買出しに出てた私達は、帰り道にソレを見た。
それがどんな出会いになるかなんて知らずに。
「しっかし、あのオニババも急な話をするもんだね。いきなりこんな魔法もない辺境の世界に行けなんて」
「しょうがないよ。急な出来事だったんだろうし」
「そうは言ったってねぇ――フェイト、あれなんだい?」
「あれ? ……なんだろう、アレ」
それは公園の砂場に居た。逆さまに。突き刺さっていたのだ。彼は。まるで冗談の様に。
勿論私達は不審に思った。来たばっかりの世界だとはいえ、その状況は確実におかしいと分かったから。
「コレ、人……だよねぇ?」
「うん、多分」
「……どうする?」
「……どうしようか?」
見過ごすには、あまりに衝撃的過ぎた光景。思わず私達はその砂場に近づいて、それから少し悩んでしまった。
見過ごす事が出来なかったけど、同時に、どうすればいいのかが分からなかったから。
「――ぬ、抜いてみる?」
「……う、うん。抜いてみようか?」
取りあえず抜いてみる事にしようとした時、ようやくその人が動いた。
「ぅぉ!?」
私達の物語は、きっとここから始まった。
●●●
「いやぁ~助かった。ありがとうな、助けてもらって」
「いや、それはいいけどさ。なんだってこんなところに埋まってたんだい? しかも頭からなんて器用な状態で」
「あーそれな。それは俺にもさっぱり分かんないだわ」
居心地の悪さに頬を掻く。実際、自分にも何がなんだかよく分かってなかった。
ついさっきまでは、鉛筆が転がっても笑う女子高生みたいに上手くいえない気持ち悪さをアンプリファーで増幅した天然笑い袋と相対していた筈なのに、気付けば頭が地球に還元されていた。前後の繋がりが無さすぎて左右に居る少女達にも不覚に陥りそうになる。
「あ、ちょっと待って。頭の後ろにまだ……はい、砂落ちたよ」
「ありがとうお嬢ちゃん。ところでここはどこだ?」
「ここかい? ここは『地球』の日本、遠見市って場所さ」
「ニホン? トオミシ? 聞かない土地の名前だな」
不思議と語感だけはしっくりくるんだけどな。
ともあれ、一体どうなってるんだ。ここはシュテルンビルドじゃないって事は、あの男は物体移動のNEXT能力者なのだろうか? 夢を見せるNEXT能力者の線もあるが、今目の前の少女達に見覚えが無い。いや、少女だけじゃなく、この見渡す風景もまったく記憶の引き出しに入ってなかった。夢を見ていると考えるには、些か状況が合わない。
となると、自分はどれ程飛ばされたのか。シュテルンビルドに近ければいいが、とは思うものの、街の雰囲気からをみるに希望は薄そうだ。しかしまぁ、少なくともあの男のノーセンキューな押し売り笑いは暫く聞く事はなさそうで、それだけは凄くほっとしてしまった。願うなら街に戻った時には奴が捕まってますように。
まぁ俺が居なくともバニーや他の奴等も居るから、きっと大丈夫さ。今は街に戻る事を考えるか。
「それにしても、その格好はなんだい?」
「これか? これはヒーロースーツだ。街では【ワイルドタイガー・ワンミニッツ】って名前でヒーローをやってるんだよ」
「ヒーローねぇ」
「なんだよ、そのあからさまに信じていない目は」
「ファーストコンタクトが砂場に頭を埋めてる状況だったからねぇ」
帰った暁には奴に色々言いたい事がありそうだ。飛ばすなら飛ばすできっちり仕事しろ。
と、そんな目の前の女性に冷ややかな目を向けられている時でも胃は仕事をくれと訴えてくる。我が体ながら仕事熱心な事で。あー炒飯が喰いたい。
「失礼」
「お腹空いてるの?」
「酒は入れてきたんだが、飯を入れるのを忘れてきちまった。ここら辺にどこか食べられる場所はないか?」
「有るには有るけど、あんたお金有るのかい?」
「……あー、戻ったらズボンのポケットに妻から貰った大切な財布がだな」
「ないんだね」
「俺の馬鹿野郎ッ…!」
次からは少しぐらいはインナーのポケットに突っ込んでおこう。次からはってのがミソだな。今はどうしようもないって所が涙を誘う。
どうすんだよ。割と切実にやばいぞ。
「えっとあの、うちに来ますか?」
「え?」
「フェイト!?」
「困ってるみたいだし、いいでしょ? アルフ」
「いいわけないって! そりゃフェイトが優しいのは分かるけどさ、流石にうちに連れ込むまでしなくてもいいじゃないさ!」
「そうだぜお嬢ちゃん。申し出はありがたいが流石にそこまでは」
「でも、お金ないんですよね?」
「うっ」
ど真ん中に真実だった。この子可愛い見た目の割りに真ん中をぐいぐい投げるストレート投手らしい。
実際、この子の申し出は素直にありがたい。本当はその提案に乗っかりたい所だが、流石にそこまでさせるのも躊躇われた。
「大丈夫だよアルフ。だって昔リニスが読んでくれた本の中では、頭が埋まってる人は優しい人だったから」
「………」
なぜか断る方が気まずい雰囲気になってしまった。
目の前の女性が吐いたため息に、「苦労してるんだな」とちょっとだけ思った。