転生したらラプラス・ダークネスだった件   作:飽和水溶液_pixiv

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第11話です。前回からフレンズ国の過去編?みたいなのをお送りしていますが、思ったより短めに終わりそうですね。いろいろストーリー考えているのですが、それを文字にして説明しようとすると難しい……。

それとここだけの話なのですが、本当は今回の話のタイトルは最初別のものにしようと考えていました。というのも、物語がフブキング視点で回想になっているので、【回想記『白上フブキ』】にしようと思っていました。しかし何故か6話でもそうだったのですが、回想回はあんまり人気ないみたいなんですよ……個人的には6話と11話の対比みたいになるからいいと思ってたんですけどね。まあ、このシリーズの名前的にも皆ラプちゃんを見に来ていると思うので仕方ない部分はあります。次回辺りからは、またラプちゃんの活躍を見れるといいですね。


【追記】
さて、今回は白上フブキ・大神ミオ・黒上フブキ・百鬼あやめ・猫又おかゆ・百鬼あやめの6人の友好関係についてです。回想にも出てくるメンバーなので、ここで触れておきます。

まずストーリー上でも語られているように、白上フブキ・大神ミオ・黒上フブキの三人はいつも一緒にいることが多く仲がいいです。特にフブキとミオ、フブキと黒ちゃんの組み合わせが相性いいみたいですね。まあミオちゃんと黒ちゃんは、元々フブキング目当てで集まっているので当たり前です。
ちなみに、ミオちゃんのお城での役職は『獣人部隊の隊長』ですが、黒ちゃんは『居候』となっています。しかし有事の際は戦力にもなるし、フブキの心のよりどころでもあるので邪魔者扱いはされていません。

次におかころですが、この二人は言わずもがなラブラブです。
またフブキに気に入られたこともあり、上三人との交流もあります。特にゲマズ同士は仲良し。

最後にあやめちゃんですが、フブキ・ミオちゃんとはかなり仲がいいです。その他の三人とは、お城に遊びに行った際に多少話すくらいみたいですね。お互い認知はしていますが、現実世界よりかは交流が少ないです。


最後に六人の実力関係を載せておきます。
これはあくまで一対一で戦った場合どちらが強いかという事なので、状況により左右されることもあります。

猫又おかゆ<<戌神ころね<<<白上フブキ=大神ミオ<黒上フブキ<<百鬼あやめ

という感じです。
おかゆが最弱であり、あやめちゃんがだいぶ強いですね。また白上フブキ以降の全員が霊力を扱えます。個人的に、こういう力関係の図好きなんですよね。


第11話 想いのすれ違い

 

 

「今朝あやめから連絡があって、お母さんが殺されたんだってっ!!!」

 

 

その言葉を聞いた時、私は意味を理解するのに数秒かかった。

ミオの言う”あやめ”とは、隣国の王女様であり私達の友達でもある【百鬼あやめ】のことだ。その彼女の母親が、殺された……?

 

 

「なっ、何でそんなことにっ!?いったい誰がっ!?」

 

 

未だに少し寝ぼけていた脳が、一瞬に覚醒する。まだ詳しい話を聞いていないが、ミオからこれから紡がれるだろう言葉に冷や汗が止まらない。

 

 

「ちゃ、ちゃんと落ち着いて聞いてねっ。あやめから送られてきたこの手紙によると-----」

 

 

そう言いながら、彼女は震えながら手紙の内容を語りだした。

 

 

昨日、ここより遥か東にある国がとある集団組織に攻撃された。

彼らは自らを【秘密結社holoX】と名乗っており、空の彼方にある”宇宙”と言うところからやって来た侵略者なのだそうだ。また彼らは『今この時より、この星の征服を始める』と宣言し、各国への降伏宣言を要求してきた。

 

そして、その事態をいち早く知った【鬼の国】の王が彼らholoXを攻撃してしまったらしいのだ。その結果、百鬼王はholoXの怒りを買い次の攻撃対象となってしまった。当然王も抵抗したのらしいのだが……holoXからの刺客と思わしきたった一人の”侍”に城を攻め落とされてしまったのだと……。

 

 

 

「……で、その時に、その侍にあやめちゃんのお母さんが……?」

 

 

「うん……手紙には、そう書いてある。…………あやめの字、滲んじゃってるよ…」

 

 

そこまで言って、ミオが泣き崩れてしまった。

ミオはあやめのことを、友達というよりは姉妹や親子のように思っていたはずだ。そんなあやめが、泣くほど辛い思いをしていたのにその場に居られなかった自分を責めているようだった。

 

 

 

ちなみにこれは、その後にあやめの本人から聞いた話なのだが、あやめちゃんの母親は自分の娘を庇って殺されてしまったそうだ。しかも、本人の目の前で……。

その刺客と呼ばれる侍は、特に武力に優れていると言われていた鬼族をたった一人で相手取っていたらしい。その強さは圧倒的で、百鬼王ですら全く歯が立たなかったという事だ。だからこそ、あやめ自身も戦ったのだが実力差は歴然で……その結果、母親に庇われるという結末に至ってしまったらしい。

 

 

 

 

「……それで、百鬼王はその件について何て言ってるの?」

 

 

未だに泣いているミオに、私は一国の王として問う。

確かに、友達の親が亡くなってしまったなんて聞いただけで悲しい気持ちになる。それでも、現状を考えればそれだけに囚われているわけにはいかないのだ。隣国にまで被害が出ているのなら、近いうちに我が国にもそのholoXとやらが攻めてくるかもしれない。それに、他の主要国にもこれらの事実を共有しなければならないからだ。

 

 

「……まだ確定した事じゃないけど……百鬼王は、holoXに完全降伏するつもりみたい……」

 

 

その話を聞いて、私は驚いた。

あのプライドが高く、鬼族は誇り高いと豪語していたあの人があっさり負けを認めて降伏する気なんて……。

 

いや、でも確かに彼の気持ちもわかる。あやめちゃんの両親はとても仲が良かったはずだ。あやめちゃんは父親のことを厳格な人だと言っていたけれど、同時に母を愛していたとも言っていた。そんな最愛な人が殺され、さらに自分の信じてきた武力で敵わないとわかったら……折れてしまうのも仕方のないことなのかもしれないか。

 

 

「…………だからって、一番最初に白旗をあげるとか……」

 

 

正直なところ、私は百鬼王を尊敬していた。建国の件でお世話になったというのもあるが、自分の力と立場に誇りを持っている人だったから。私は一国の王として、あの人からは学ぶことが多かったのだ。

……だからこそ、少しだけ失望もしてしまった。

 

 

「……って、今はそんなことはどうでもいい。とにかく今は事実確認と、情報の共有を…………獣人部隊隊長大神ミオ、今すぐ鬼の国と最初に攻撃された国に調査隊を送って現場の状況を確認させてください。それと、大臣や宰相にも連絡をっ!」

 

 

「っ!……はい、フブキ王。直ちに」

 

 

未だ泣いていたミオに、私はそう命令を下した。

私が王として掲げる公約は、常に被害を最小限に抑えることである。守れる命は、罪人だろうと敵だろうと関係なくできる限り拾いたい。その為には、素早く状況を理解しそして正しく対応する必要があるのだ。

 

 

 

 

……しかし、その時の私は知らなかった。

【秘密結社holoX】というものが、いったいどれほどの力を持っていたのか……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「……そこから私は、事態の悲惨さを思い知りました。東の国があった場所は跡形も無く消し飛ばされており、鬼の国の王城も原形がとどまらない程に破壊しつくされていたことを」

 

 

フブキ王がそこまでを説明し、おかゆ先輩の入れてくれたお茶を一口飲んだ。

 

時刻は現在に戻り、王城の離れでフブキ王の話をラプラスは聞いていた。

その話の内容は、我々holoXによって侵略行為を働かれたフブキ先輩たちの奮闘記であった。吾輩はその話を、まるで自分のやってしまったことのような心持ちで聞いていた。実際には吾輩がこの世界に来る前の話なのだが、それでも彼女たちにしてみれば今目の前にいる悪魔こそが諸悪の根源であるはずだ。それを、他人事のように聞くことなどあってはならない。

 

 

「…………」

 

 

ラプラスはその話を聞いて、返す言葉が見つからなかった。もはや謝ることすらできずに、顔を伏せて黙っていることしかできなかった。

 

 

「その後、私とミオは各国の王たちと協力してあなた方に挑みました。……結果は、あなた様も知っての通りです。既に私の知る限りの国々は、あなた方に降伏宣言を出しています」

 

 

「………………そうだな」

 

 

どの口が言っているんだ、と思った。

他の誰でもない、holoXの総帥である『ラプラス・ダークネス』がその命を下したのに。吾輩のせいで、あやめ先輩の母親を死なせてしまったというのに……。

 

 

「そして、それは我が国も例外ではありませんでした。流石にこの大陸で最も大きな国と言われるフレンズ王国でも、他に頼る場所が無ければ戦いを続けることはできません。それにその時の私は、黒が”例の侍”に挑んだっきり帰ってきていないと聞いて…………最悪を、想像してしまいました。彼女は私にとってとても大切な友達だったから……もう、全てを諦めてしまいたいと、そう思っていました」

 

 

そう言ったフブキ先輩が、またお茶を一口飲んだ。その話を隣で立って聞いている黒様もどこか遠くを見つめていた。

 

その二人の様子を見て、やはりラプラスはかける言葉を見つけられないでいた。今吾輩が何かを言ったところで、彼女達の傷を抉る結果にしかならないと知っていたから。

 

 

「…………でも、そうできない理由があったのです。私が折れることを許してくれない理由が」

 

 

「理由……?」

 

 

ようやく口を開いて出た言葉がそれだった。

 

 

「はい。……先程もお話したとおり、各地の主要国が降伏を宣言してしまいました。しかし、中にはそれを良しとしない考えを持つ人々もいたのです。更にはそれだけでなく、戦火に巻き込まれたくないと考え疎開を求める方々も出てきました」

 

 

そこまで聞いて、ラプラスはハッとした。

戦争を行ったり、降伏を決めたりするのはその国の王や兵士達だ。でもそこに住む一般市民たちが、その決定を必ずしも納得できるとは限らない。また、女子供を避難させたいと考える者達も出てくるだろう。

そして、そんな彼らが最終的に行き着く場所は……。

 

 

「我が国は、どんな人や種族でも分け隔てなく暮らしていける国作りを目指してきました。そして、本来ならば他種族が別の国に受け入れられることは少ないのです。そんな彼らが祖国に居られなくなり、逃げ場を求めて最終的に辿り着いたのは…………ここ、フレンズ王国でした」

 

 

「……それこそが、お前がずっと吾輩たちの要求を保留していた理由か」

 

 

「はい、そうです。……自らの命の為に、また大切な者を守るために必死に辿り着いた彼らを、私は拒否することなどできませんでした。子供たちが泣いているの聞いて、誰が出て行けなどと言えますか……」

 

 

そこまで話して、フブキ王は口を紡いだ。しかし、その表情が全てを物語っていた。

彼女はずっと苦しんでいたのだ。大親友を失ってしまったかもしれないという悲しみと、王として負けを認めなければならないという葛藤。にも関わらずそれらを良しとしない民衆の気持ちに応えるために、敵わないとわかっている戦いに身を投じ続けなければならない現状に。

それらすべての重圧が、彼女の小さな背中にのしかかっていたのだ。

 

まるで今の自分のようだと、そんな場違いな感想が生まれた。

思ってもいなかった地位に立てられ、そして誰にも理解してもらえない苦悩を与えられる。それでも、先輩たちに捕まるまで吾輩は割と自由にしてきた。でも、フブキ王は常に死と隣り合わせであり、何倍も苦しかったはずだ。

そして、そこまで彼女を追いこんだのは何を隠そう……この吾輩なのだ。

 

 

フブキ先輩が言葉を止めてしまったために、しばしの間静寂が流れた。

しかし、ラプラスからはどうしても次の話題へ進めることができなかった。誰も何も言わない空気に耐えられなくなり、さらに顔を伏せてしまう。きっと、傍から見たら怒られて泣きそうになっている子供に見えたことだろう。

 

そんな吾輩を知ってか知らずか、黒様が頭をガシガシ掻きながら口を開いた。

 

 

「あー……まあ、なんだ……取り敢えずそう言うわけで、私達はお前らを恨んでるんだよ。ラプラスたちにどんな理由があったのかは知らないが、どんな理由であれ私たちはお前らを許せない。…………でも、今だけは一旦その話は置いておこうぜ。顔を上げろよ、ラプラス。本題はここからなんだ」

 

 

黒様にそう言われ、ラプラスはゆっくりと顔を上げた。

そうだ、事態を受け止めている場合ではない。吾輩がここに呼ばれた理由を、まだ聞いていないのだから。

 

 

「……そうなのです。ラプラス様をここに呼んだ本当の理由はここからです。話は先日、あなた方がこの王城を訪ねてきた前日まで遡ります-----」

 

 

********************

 

 

 

「……フブキ、避難民たちの食料の件なんだけど……流石にもう、備蓄で乗り切るのも無理みたい……」

 

 

「そう……」

 

 

ミオにそう言われ、私は行き場の無い不満をため息で吐き出した。

私達に協力してくれていた最後の国が降伏宣言をして早数日、避難民や他国からの移民は増える一方だ。いくらうちが大国だと言っても、土地や備蓄には限界がある。端からわかっていたことだ、世界中の人々を受け入れ続けながら戦争を続けることなど不可能だと。どんな結果となろうとも、もはや負けを認める以外に道は残されていないとわかっていた。

 

 

「フブキちゃん……本当に、もうやれることは何もないのかな……」

 

 

私の仕事を手伝いに来てくれていたあやめちゃんがそう言ってくる。

彼女は早々に負けを認めた父親に嫌気がさして、私とミオの所に泣きついてきたのだ。私ならば、この現状を何とかしてくれるかもしれないという淡い期待を抱いて。

 

しかし、結果はこの様だ。holoXに一矢報いるどころか、国内の問題を片付けるのに手一杯。今ですら使える兵士や役人を総動員しているが、一向に事態は改善されていない。そんな状況に、あやめちゃんは納得していないようだった。

 

 

「……ごめんね、あやめちゃん……頑張ったけど、私じゃもうどうすることもできないよ……」

 

 

「そっか…………あ、ごめん!!別にフブキちゃんを責めてるわけじゃないんだ余っ!ただ……自分の弱さが許せなくて……」

 

 

「うん……大丈夫、わかってるから……」

 

 

今の彼女の、精一杯の気遣いなのだろう。

本当なら、彼女は今すぐにでもholoXと戦いたいはずなのだ。自分の母親を殺され、鬼族としての誇りを汚された。にも関わらず生き延びてしまい、こうして指をくわえていることしかできない現状に苦しんでいるのだ。

 

 

「あやめ……ウチからも、ごめんって言わないとね……どうしてもあやめの力になってあげたくて、いろいろ手を尽くしてるんだけど……」

 

 

「ミオちゃん……」

 

 

そのままあやめが、何もできない自分を悔やんで涙を流し始めた。

そんな彼女を、ミオは母のような優しさで抱きしめる。

 

 

「…………せめて、向こうのお偉いさんにお願いして、出来るだけ多くの命を助けてもらうようにお願いしないと……」

 

 

もはや、私にできることはそれくらいのものだった。例え、私の命を犠牲にしてでもその後に残される人々だけでも救わなくては。

そんな自分の無力さを感じ、座っている椅子の背もたれを押し倒して天を仰ぐ。

 

 

「…………やっぱり、私はあなたが居ないと何も出来ないよ……黒ちゃん」

 

 

私は未だ帰ってこない親友の名前を呟いた。ミオ曰く、彼女はあやめちゃんの母親を殺した例の【風真いろは】と名乗る侍に単身で勝負を挑んだのだそうだ。そして戦いの最中であったためにその結末を見届けることはできなかったが、ミオがその場に戻った時にはもう誰もいなかったのだそうだ。

 

死んでいるはずがない、そう自分に言い聞かせていた。

彼女は、私より賢くてちょっぴりめんどくさがり屋だ。きっとどこかで昼寝でもしているに違いない。

 

 

「………………会いたいよ……」

 

 

その言葉と同時に、目から零れそうになった涙を即座に拭った。

最後まで抗うと決めたあの日から、全てが終わるまでは泣かないと決めていたから。

 

 

 

 

……そんな時だった。彼女からの手紙が届いたのは。

 

 

 

 

私は椅子の上で項垂れており、ミオは泣いているあやめちゃんを慰めていた。

すると突然、書斎の戸を叩く音が聞こえた。私は思考を切り替え、訪ねてきた人物に対し「どうぞ」と返事をする。そして私の返事が聞こえた途端、扉が勢いよく開かれて二人の獣人が入ってきた。

 

 

「ふ、フブキちゃんフブキちゃんっ!大変だでなっ!!」

 

 

そう言ったのは、訪ねてきた一人であり私の友達でもある【戌神ころね】だった。酷く慌てた様子だが、何があったのだろうか。

 

 

「ちょ、ちょっところね落ち着いて……”おかゆ”、何があったの?」

 

 

あまりに興奮している頃ねを他所に、比較的落ち着いている様子のもう一人の獣人【猫又おかゆ】に私は尋ねた。すると、彼女が徐に一通の封筒を取り出した。

 

 

「うん、それがね……これさっき、holoXのけんぞく?とかいう人が城の前まで持ってきたんだぁ。フブキ王に渡してほしいって」

 

 

そう言われ、私はドキッとした。

私達は今、holoXに対し降伏宣言を保留にしてもらっている状態なのだ。本来侵略されている側がその是非を決める権利はない。しかし我が国が大国であり規模も大きいという事で「ただ滅ぼすのはもったいない」、という理解しがたい理由で見逃されているのだ。でもそれには具体的な日数などは提示されておらず、何時攻撃されてもおかしくなかった。

そして、その時がついに来てしまったのかと思ったのだ。

 

そう思った私は、実に思い詰めていた顔をしていたと思う。

しかし、それを見たおかゆがニコッと笑い「大丈夫だよフブキちゃん」と声をかけてくれた。

 

 

「大丈夫って……おかゆ、この現状の何が大丈夫なの……?」

 

 

「あ、うんそうだよね。今のフブキちゃんにとっては、何も大丈夫なことはないよね……でも、少なくともこの手紙はフブキちゃんたちにとって朗報のはずだよ?」

 

 

「……おかゆ、それってどういう事なの?」

 

 

ようやく泣き止んだあやめの背をさすりながら、ミオが聞いた。

そして、そう問われたおかゆは持っていた手紙の差出人欄を私達に見せながら言った。

 

 

 

「だって、この手紙を書いたのは……【黒上フブキ】って書いてあるからさ」

 

 

 

その言葉を聞いて、私は目を見開いた。

そこに書いてあった名前と筆跡が、間違いなく今行方不明となっている黒ちゃんのものだったから。

 

 

「お、おかゆっ!ちょっとそれ見せてっ!!」

 

 

「勿論いいよぉ~、これフブキちゃん宛だし」

 

 

いち早くその内容を確認したかった私は、おかゆの差し出してくれた封筒を掴み取った。そのまま封を切り、中の手紙を取り出す。そしてそれを開くと、中に書いてあった字も全て黒ちゃんのものだった。

 

 

 

その内容は、要約するとこう書いてあった。

黒ちゃんは今、先日の戦いの時に風真いろはに連れられてholoXに捕まっていると。しかしそこでholoXの総帥である『ラプラス・ダークネス』に会い交渉を持ちかけられたらしい。その内容は私とミオ、黒ちゃんの三人の命を保証する代わりに私と話がしたいとのことだった。そして、そのために明日この城へ来るというのだ。

 

その他の細かいことは、黒ちゃんが口下手なせいでよくわからなかった。それでも筆跡はハッキリしており、黒ちゃんが生きていることが知れた私はそれだけで嬉しくなってしまう。

 

 

 

手紙の内容を見て、久しぶりに少しだけ笑えた気がした。感極まって、泣き出しそうになってしまう。

そして、その私の姿を見たミオとあやめが近寄ってきた。

 

 

「ふ、フブキ!ウチにも見せてっ!」

 

 

「よ、余も見たいっ!!」

 

 

二人にそう言われ、私は黒ちゃんからの手紙を渡しす。

すると、それを受け取った彼女たちも私のように食い気味で手紙を読んでいた。

 

 

「皆から、黒ちゃんの件について聞いてたけど……生きてたんだね、よがったね~フブキちゃん!」

 

 

「うん、本当に……よかった……」

 

 

思わず気持ちがあふれ出そうになる。

しかし、フブキはその気持ちを無理やり心の奥に押し込めた。まだ終わったわけではない。確かに黒ちゃんが生きていて嬉しいけど、同時にとても重要なことも書いてあった。

 

 

「”ラプラス・ダークネス”……holoXの総帥が、明日ここに来るって……」

 

 

それに、どんな目的があるのかはわからない。でも、少なくとも黒ちゃんはそれを良しとしている。であるならば、私はそれに従って彼女らを向かい入れる準備をするべきだ。

 

 

「そういう事みたいだから……ミオ、holoXの総帥たちを迎える準備をして」

 

 

私はそう言って、手紙を読み終わった頃であろうミオに振り返った。

 

しかし、何故かミオは黙っており静かにこちらを見上げた。私はどうしたのだろうと疑問に思い首を傾げた。すると、ようやく手紙を読み終えたあやめちゃんがハッキリと呟いた。

 

 

「フブキちゃん…………準備って、何の準備をするの?」

 

 

そういったあやめちゃんの目には、鋭い光が宿っているように思えた。

しかし、私はその質問の意図がわからず素直に答えてしまった。

 

 

「何のって……holoXの総帥が来るんだよ?なら、それ相応のおもてなしをしなきゃ。どんなことを要求されるかわからないけど……せめて、皆を助けてもらえるようにお願いしないと」

 

 

 

……思えば、この時の私はあやめの気持ちを考えてあげられていなかったのだ。

彼らに奪われ、壊され、貶されたその少女は、私が思っていた以上に敵を恨んでいた。

 

 

 

「それって、あいつらを受け入れるってこと?…………もしそうなら、余は断固反対だ余」

 

 

「えっ……?」

 

 

あやめちゃんのその言葉に、私は驚いた。

その目が、とても冗談を言っているように見えなかったから。

 

 

「黒ちゃんの手紙にも書いてあるじゃん『明日holoXの総帥であるラプラス・ダークネスがフブキの城に行くらしいので準備をよろしく頼む』って。これって、明日敵のボスが来るから倒すチャンスだって事だ余ね?」

 

 

「えっ!?ちょ、違うよっ!黒ちゃんはそんなことするように書いてない!!……そんなことしたって、城や街が戦場になるだけだよ」

 

 

あやめちゃんの提案を、私は直ぐに否定した。

しかしその言葉が、更に彼女に火をつけてしまったのだ。

 

 

 

「城や街が戦場?…………何言ってるんだ余。他の国じゃ、もうとっくに国内全域で戦争が起きてる。……フブキちゃんだけじゃん、何時までも避難民を受け入れてるだけで戦おうとしないのなんて」

 

 

 

今思えば、私がもっと大人になるべきだった。

でも、その時の私もぎりぎりだったのだ。毎日聞こえてくる、不満を漏らす民の声。街の陰で泣いている、行き場を失った子供たち……私はこんなにも頑張っているのに、どうして蔑まれなければいけないのかと。

その鬱憤を、”あやめ”にぶつけてしまった。

 

 

 

「……何その言い方。私、何か間違ったこと言ってる?もう答えは出てるじゃん、私たちじゃholoXに勝てないって……それならせめて、皆が助かるためにお願いしようとして何がおかしいのっ!!」

 

 

 

売り言葉に買い言葉だった。

初めて、あやめを憎たらしいと思ってしまった。いつまでも子供みたいに泣くことしかできない彼女を、鬱陶しく思ってしまったのだ。

 

私はあやめにそう怒鳴るように言って、ミオに向き直った。

 

 

「大神ミオ、国王命令です。至急手の空いている人を集め、明日holoXを向かい入れる準備をしてください」

 

 

しかし、その時の私は勘違いをしていた。ミオは何処までいっても、私の味方であると。

でも違った。彼女は自分の大切な人達が、笑って暮らせる場所を作りたかっただけなのだ。だからこそ、それ以外のことを多少諦めてでも”みんな”が幸せになる道を望んでいた。

 

 

「フブキ……私も、あいつらを受け入れるなんて反対」

 

 

「ミオ……」

 

 

「……だって、考えてもみてよ。もしその総帥とかいう人を、例えば人質に取れたとしたら?……そうしたら、もう私達に関わらないっていう不可侵条約を結ばせられるかもしれない。それだけで、この国は平和になるかもしれないんだよ?」

 

 

そんなことを言うミオの表情は、何かを覚悟したようなものだった。

確かに、もしミオの言う事の全てがうまくいけば、もうこれ以上悲しむ人を生まなくて済むかもしれない。

 

 

…………それでも、私はそれを許容できなかった。例えそうなったとしても、その間に出てしまう被害を考えているからだ。相手の中で一番偉い人を人質に取るなんて、下手をすればholoXとの大戦争へと発展してしまうかもしれない。それだけは、絶対に避けなければならないのだ。だからこそ、これ以上争いになるような選択肢は取れない。

 

 

「……それでも私は、その間に出る敵味方問わずの被害を許容できません。……もう一度だけ言います、命令に従ってください。」

 

 

再度、私はミオに強くそう言い掛けた。

……それでも、私の声は届かなかったのだと彼女の顔を見て理解した。ミオはもう、自分の願いの為に私ではなくあやめに協力すると決めていたから。

 

 

 

その場に味方のいなくなった私は、ただ立ち尽くしていることしかできなかった。

 

 

「フブキちゃん……悪いけど、暫くの間大人しくしてて余」

 

 

そう言ったあやめは、二体の式神と刀に手をかけていた。

彼女は鬼族の中でもさらに高位の家系であり、一端の獣人である私では力で敵わない。

 

 

「………………全部終わったら、ちゃんとごめんなさいするから……」

 

 

 

 

-----こうして私は、友達であるあやめとミオによって捕らえられたのだった。

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