転生したらラプラス・ダークネスだった件   作:飽和水溶液_pixiv

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第25話です。ここからどんどん面白くしていきますよ!
果たして、新たな物語とはどんなものなのでしょうか……私自身も楽しみです!

【追記】
さて、本日も深堀シリーズやっていきます。今回は前回登場した、秘書ちゃんなんかについて触れていきますよ!


この世界のholoXメンバーの五人には、基本的に専属の使用人が一人以上必ず就いています。ラプ様で言うところの、秘書兼世話係の男ですね。また彼の他には、専任の雑用係の女眷属なんかもいます。
そして、24話で登場した秘書もまた鷹嶺ルイの専属使用人にあたります。

通称:鷹嶺ルイ女大幹部の女秘書
彼女は【ルイ友】の一人であり、数年前よりルイ姉の秘書を務めています。その仕事ぶりは非常に優秀であり、この世界のルイ姉がポンをかまさない要因の9割以上を彼女が担っています。ルイ姉本人も彼女の能力を認めており、他の仲間には言えない個人的な悩みなんかを相談する間柄だったりします。また容姿については、ルイ姉より少し小さい背丈の白髪のショートヘア。服装は典型的なルイ友と同じく赤と黒のコートに、赤いレンズの三角型サングラスを掛けています。ちなみに、趣味は裁縫と甘いお菓子を食べることだそうです。


また、ラプ様とルイ姉以外のメンバーの使用人も登場するのですが……それについては、今後順次紹介していきます!


第25話 非情な現実は唐突に

 

秘密結社holoX科学研究所、通称【こよりーずラボラトリー】。

略して”こよラボ”と呼ばれる総本部内でも最も大きなこの施設は、アジトに隣接する巨大な研究機関であった。ここではholoXに関係するありとあらゆるものの研究と開発が日々行われている。本部を物理的に支えている『惑星型宇宙母艦』の設計は勿論のこと、科学兵器や武器、更には人工生物から食料品に至るまでここで作れないモノは無いという勢いであった。

 

そしてその機関の名前からもわかる通り、この研究所で最高顧問を務めているのが【博衣こより】その人である。彼女はその類まれなる才能から本来であれば研究部門の代表という立場だけのはずが、研究所内にあるほぼ全ての部門に精通していた。もし仮に博衣こよりが1000人いたとしたなら、それだけで運営を回せるほどだ。

しかし、現実はそういう訳にはいかない。ただでさえ、現在でも彼女は毎日寝不足になるほど多忙を極めている。よって、少しでもその負担を減らすために本人からの助言も参考にして、鷹嶺ルイが各部門に適した人材を配属させているのだ。こうすることによって、ようやくholoXの科学関係の部門は回っている。一人の秀才というのも、それはそれで苦労が発生するのらしい。

 

 

 

 

「ここが博士の言ってた研究室か……」

 

 

いつもの世話係の眷属と数名の護衛を連れて、ラプラスはこよラボを訪れていた。その理由は勿論、吾輩にとって最も重要な悩みについて相談するためである。

今のラプラス・ダークネスは、本来この世界の住人ではない。しかしちょっとした手違いから、別世界のラプラスがこの世界のラプラスの体に入り込んでしまっているのだ。そして、その原因が別世界の博衣こよりの作った発明品にあると思われる。その為、元の世界に帰る方法の模索と協力を博士にお願いしに来たのだ。ややこしいな。

 

まあそういう訳で、わざわざこっちの世界の博士の研究”室”に来たんだが……

 

 

「これは……流石に、デカすぎだろ。なんだこれ、巨大ロボでも作ろうとしてんのか」

 

 

その様子からは、あまりにも室という言葉が似合わなかった。明らかに、所や施設と言った方がまだしっくりくる。

吾輩が元いた世界にも、申し訳程度のアジトとこよラボが一応は存在していた。それは古ビルの一室を改造したものではあったが、それでも博士のお陰で多少の利便性と設備が搭載されていた。

しかし、こちらの世界はそんな物とは比べ物にならないほど充実した設備と立地のようである。資金と資源さえあれば、博士にはこれくらいのものは簡単に用意できるという事だ。彼女を伸び伸びと研究させてあげることこそが、もしかして世界征服に一番近づける方法なのではないだろうか……。

 

ラプラスが目の前にそびえる巨大な建造物を前に、そんなことを思っていた。すると、その間の独り言を聞いていた眷属が口を挟んでくる。

 

 

「巨大ロボ、ですか?……ふむ、ラプラス様がご所望とあればすぐに用意させますが」

 

 

「いや、別に欲しいって意味で言ったんじゃないぞ。ただそれくらい作れそうだなって思っただけだ」

 

 

まだパッと見ただけだが、まるでSF物で出てきそうなくらい大きな施設だ。だから、それくらい可能なのだろうと思った事が思わず口をついてしまっただけだった。

 

 

「そうでしたか……ですが、もし何か必要とあればすぐに仰って下さい。ここでは、ラプラス様に望まれて作れないモノなど何一つありませんから」

 

 

それは流石に言い過ぎだろう。

ていうか、お前別にここの人間じゃないじゃん。勝手にそんなこと言っていいのか?

 

そう思ったラプラスだったが、言葉にはしなかった。今吾輩が欲しいと思っているものは、”ラプラトナイト”と”元の世界に帰るための装置”だけだ。そして、それはどちらもこいつらにおいそれと欲しいと言えるものでは無い。よって、ここに来た目的でもある博士に相談するしかないのだ。

 

 

「まあ、何か思いついたら言うようにする。……それよりも、博士のところに案内してくれ」

 

 

「御意」

 

 

そう答えた眷属に連れられ、ラプラスはこよラボ内に入る。すると、正面玄関をくぐった先は意外にも清潔感を感じられるロビーのような作りになっていた。それはまるで、長大企業の受付みたいな様態だ。

 

 

「ラプラス様、ここで少々お待ちください。担当の者にこより様の所在を聞いてまいります」

 

 

その言葉に、ラプラスは「うん」と空返事をする。正直、本人の意識はそんなところには無かった。

足元を見れば、真っ白なタイルに照明が煌びやかに反射している。周りを見ても、多少の窓や観賞用の植物が置かれているもののここが悪の組織の研究施設とは到底思えない。さらに上を見上げれば、吹き抜けの階段となっている玄関口が広々と明るくなっていることがより強調されていた。

やっぱりなんだこれ。ここを作るのに、一体いくらかかってるんだ……。

 

もはやそこが、宇宙船内であるということを忘れさせられる。それくらいこの場所は、ある意味異様であり現代的絢爛さを孕んでいた。

 

 

 

ラプラスは改めて、この世界のholoXという存在に感心させられる。すると、丁度のところで博士の居場所を聞いたらしい眷属が戻ってきた。

 

 

「お待たせしました、ラプラス様。こより様は現在4Fの第三実験室に居るそうです、こちらにお越しください」

 

 

眷属にそう案内され、ラプラスはロビー横にあったエレベーターに乗り込む。そのまま4階へのボタンが押された昇降機が、要望通りのフロアへと上昇していく。

そしてしばらくの静寂に包まれた後、目的の場所でエレベーターは停止した。

 

 

「こちらです」

 

 

4階に降り立ったラプラスを、更に眷属が導いていく。

そのまま綺麗な廊下を歩いていき、最初の曲がり角を曲がったところで足を止めた。

 

 

「こちらが第三研究室です。…………おい、中にこより様はいらっしゃるか」

 

 

案内された部屋の前には、二人の警備?らしき者達が立っていた。恐らく、博士の護衛か何かだろうな。

そして、そのうちの一人に眷属は声をかける。

 

 

「え……あ、はいっ!いらっしゃいます!」

 

 

一瞬ラプラスの方を見たその警備員が、何故か驚いたような顔をしてそう答えた。

なんだ?吾輩がここに居るのが、そんなに珍しいのか?

 

 

「そうか、では扉を開けろ。ラプラス様はこより様への面会を望んでおられる」

 

 

「は、はい、かしこまりましたっ!」

 

 

そう答えた警備員は、セキュリティの掛かった扉横のパネルを少し操作した。そして、ポンという機会音とともに自動ドアが開く。……すると、室内からすぐに薬品特有の刺激臭が香ってきた。その匂いに、ラプラスは若干顔をしかめる。

 

 

「……あ、ラプちゃん来た?ごめん、ちょっと今手が離せないから少し待っててー!」

 

 

ラプラスが薬品による少しの息苦しさを感じていると、何やら忙しそうな様子の博士がそう答えた。

……何であいつ、両手に”草”なんて持ってるんだ?……ああそっか、吾輩がお願いしてた『米』の研究中ってことか。

 

実は先日のホロフレ同盟の会談の際に、フブキ先輩が友好の品としてお米と稲のサンプルをくれたのだ。相手に渡すものとしてはどうかとも思ったらしいが、吾輩がお米が大好きと言っていたからとのことだった。

そして、案の定大喜びだった吾輩はすぐさまそれを博士に渡して増産をお願いした。その際に、おにぎり屋の娘であるおかゆ先輩にお米の作り方についてレクチャーしてもらった内容も伝えてある。あとは博士に改良と改善を加えて貰えれば、そのうちholoXの食卓にも定期的にお米が並ぶことだろう。

 

 

「別にいいぞ、ゆっくりで。米の生産を頼んだのは吾輩だからな」

 

 

「そう言ってくれると助かるよー!……ちょっと助手くん、ラプちゃんを隣の部屋に案内しておいてくれる?」

 

 

「はい、わかりました」

 

 

そう答えたのは、博士と同じく白衣を纏った獣人の若い男だった。その表情からは、優しく真面目そうな様子と若干のやつれが見て取れた。恐らくは、彼もまた博士に付き合わされて毎日遅くまで仕事をしているのだろう。しかし、その疲れを態度などにはほとんど見せること無く、きちんとした対応をしてくれた。

 

 

「ラプラス様、こちらの部屋でお待ちください。今、お茶をお持ちしますので」

 

 

案内された別室に入り、机を挟んで両サイドに置かれたソファーの片方に座る。実験室の外に護衛の人達は置いてきたので、今この部屋には吾輩とその後ろに立っている眷属の二人だけであった。

 

助手くんに淹れてもらったお茶を、少し飲みつつ数分後。慌ただしくしていた博士が部屋に入ってきた。

 

 

「ラプちゃんお待たせー!ごめんね、バタバタしちゃってて」

 

 

そう言った博士の額には、若干の汗が滲んでいた。

もしかして、物凄く忙しいときに時間を取らせちゃったか……?

 

 

「気にしてないから大丈夫だぞ。……それよりも、なんか忙しそうだな。何かあったのか?」

 

 

「え?んーん、特に変わった事とかは無いよ。ここはいつもこんな感じ」

 

 

それは何というか……本当に、ご苦労様って感じだな。

やっぱり、博士には本気でちゃんと休んでほしい。昨日幹部にも休暇の件をお願いしたし、早く実行してほしいものだ。

 

ラプラスがそんなことを思っていると、先程と同じようにもう一人分のお茶を持った助手くんが入ってくる。そして、それを博士の前に置いたのを眺めつつこよりから話を切り出した。

 

 

「それで?折り入って話したいことってなぁに?」

 

 

「ああ、そのことなんだが……その前に」

 

 

そこまで言って、ラプラスは後ろに居た眷属に目配せをする。

すると、その意図を汲んだらしい博士も助手くんに指示を出してくれた。

 

 

「助手くん、ちょっと席を外してくれる?それと、人払いもお願いね」

 

 

「はい、こより様」

 

 

また、博士のその言葉に合わせ眷属の男も「私も外で待っております」と言って退出してくれた。どうやら、吾輩言いたいことが伝わっていたようだ。今から話す内容は、他の者たちに聞かれると正直まずい。ラプラス・ダークネスの秘密について話さなければいけないし、吾輩個人の悩みもある。だから、あまり公に言えることじゃないのだ。

 

 

「……ラプちゃん、これでいい?」

 

 

「ああ、ありがとな」

 

 

博士の配慮に対し、ラプラスは素直にお礼を言った。

これで、ようやく本題に入れる。

 

 

「博士、わざわざ時間を作ってくれてありがとな。……実は、今日は博士に相談したいことがあってきたんだ」

 

 

「相談?……僕に?」

 

 

そう切り出したラプラスの発言に、博士が少し驚いた顔で答える。

まあ、ここまで厳重なことをしていきなり相談事なんて言われたら驚くよな。

 

 

「ああ。まだルイにも言ってない……誰にも言えない、相談事だ」

 

 

「……何?」

 

 

ラプラスの真剣なその表情に、博士もまたただ事ではないと察する。このholoXで、総帥が最も信頼を置いているであろう鷹嶺ルイにすら言えない事とは、果して何なのだろうかと。

 

 

「……の前に、ちょっと確認したいこともある。……例の、”ラプラトナイト”についてはどうなってる?なにか進展はあったか?」

 

 

本題を切り出す前に、先程烏から聞いた件について博士にも確認をする。別に烏の言うことを信じていないというわけではないが、他の人にも言われた方がより実感が湧く。それに、現在の問題解決への進行度も気になるところだ。

 

 

「あぁ、そのことね…………残念だけど、まだ手掛かりは無いの。フレンズ王国の星でも探しはしたんだけど、見つからなかった……」

 

 

そう答えたこよりの顔は、酷く思いつめた表情だった。

やはり、烏の言っていた通り博士たちもこの代償の件については知っているようだ。そして、その解決の為に未だ例の鉱石を探してくれている。しかし、そこに大きな進展は無いようだった。

 

 

「ラプちゃん、ごめんね……僕も、必死に解決策を探してはいるんだけど……」

 

 

「いや、いいんだ。博士が頑張ってくれてることくらい、吾輩にもわかってる。……引き続き、ゆっくり探していけばいいだけだ」

 

 

ここでとやかく言おうと、無いものは無い。それについて、博士を責めるのは間違っている。だからその話は、一旦置いておこう。そもそも、ここに来た本来の目的はそれじゃないのだ。

 

 

「まあ、その件についてはわかった。……それよりも、本題の方を聞いてくれ。さっきの話とはあんまり関係ないんだが……」

 

 

そこまで言って、ラプラスは言い淀む。

この時の吾輩は、正直言って緊張していた。確か烏の話じゃ、こっちの世界の部下たちは全員ラプラス・ダークネスという人物に心酔していると言っていた。それについては、こっちで数日暮らした吾輩自身が誰より実感している。だからこそ、こうも思ってしまうのだ。

 

 

もし……もしも、仮に……博士に吾輩がこの世界の本当のラプラスではないと打ち明けて…………”受け入れて貰えなかったら?”

 

 

ふと、その考えがよぎってしまったラプラスは急に怖くなってしまった。今この瞬間だけは、帰れないかもしれないという思いよりも彼女たちに落胆されてしまうかもしれないという事の方が酷く恐ろしく感じてしまったのだ。

 

そう思ったラプラスからは、続きの言葉が紡がれなかった。そして、中々話を始めない総帥に対し博士はそのことを疑問に思う。

 

 

「ラプちゃん……どうしたの?」

 

 

言わなくちゃ。

そんなことはわかっていた。たとえ受け入れられなかったとしても、これは避けて通れない道だ。吾輩が元の世界に戻るためには、必ず博士の協力が必要不可欠なのである。

 

そのことを理解していたラプラスは、怖い気持ちを押し殺して口を開く。

 

 

 

「博士……実は、吾輩………」ーーーゴンゴンゴン。

 

 

 

しかし、意を決したラプラスの発言を遮るように扉をノックする音が鳴り響いた。話を中断し、博士と二人で部屋の入口の方を見つめる。

 

 

「……誰ですか、今話し中です」

 

 

敬愛する総帥からの相談を遮られ、少し怒った様子の博士が返事を返す。すると、息を切らした女の人が焦った様子でこう言った。

 

 

 

「ラプラス様!こより様!……ハァ、ハァ……大変ですっ!任務に出ていた方々が、負傷者を連れて帰還してきました!至急、医務室棟に来てください!!」

 

 

 

「なんだとっ!?」

 

 

よく聞くと、その声は吾輩専任の雑用係の眷属のものだった。

いやそんなことよりも、負傷者だと?!一体、何があったんだ。

 

 

「博士、話の続きは後だ。直ぐに医務室とやらに行くぞ!」

 

 

「えっ……でも、今はラプちゃんの大事な話が……」

 

 

「そんなことは後回しに決まってるだろ!それよりも、重傷者がいるなら博士の力が必要だ!」

 

 

天才科学者である博士は、驚くべきことに医学についても学がある。いやそれどころか、医術専任でも問題ないくらいの腕前だ。だからこそ、人の命がかかっているなら今すぐにでも博士には現場に赴いてもらわなければ困る。吾輩の悩み事など、別に後回しでいいのだ。

 

 

「わ、わかった!直ぐに向かお!」

 

 

そう答えてくれた博士を連れて、ラプラスたちはこよラボを後にしたのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

大病院を彷彿とさせるほどの、設備の充実したholoX本部の医務室棟。そこに任務から帰還した負傷者が運び込まれたと聞き、ラプラスとこよりは急ぎ早に足を運んだ。

すると、現場は正しく野戦病院の風体を成していた。鉄臭い血の匂いに、部下たちの苦しむようなうめき声。その様子を見て、ラプラスは驚愕する。

 

 

「そんな……一体、何が……」

 

 

その理解しがたい現状に、思わずそんな言葉がこぼれた。

 

 

「こより!よく来てくれたわ、手を貸して」

 

 

放心状態のラプラスを他所に、先に現場で対応していた幹部が博士にそう声をかける。

そして、それに応えるようにこよりが力強く頷いた。

 

 

「うん、任せて。……ラプちゃん、話は後で絶対聞くから……だから、今はルイ姉から事情を聞いてその対処をお願い」

 

 

「え……あ、ああ、わかった……頼んだぞ博士……」

 

 

そう言ったこよりは、既に裾を巻くって仕事をする体制だった。その様子に、ラプラスも正気に戻される。

そうだ、びっくりしてる場合じゃない。一体なぜこんなことが起きているのか、そもそもこいつらが何の任務にあたっていたのか、吾輩は詳しく知る必要がある。そして、今後のholoXの意向を下さなければならない。それこそが、ここの責任ある立場として吾輩が今しなければならないことだ。

 

 

「幹部、何があった」

 

 

「ええ、わかってる……ちゃんと説明するわね」

 

 

総帥からの問いにそう答えた幹部に連れられ、ラプラスたちは中枢指令室へと向かった。

 

 

 

そこで吾輩は、幹部から事の発端を詳しく聞かされる。

まず初めに、今日は新人……”沙花叉クロヱ”率いる潜入任務に出ていた暗殺部門からの定期連絡がある日であった。というのも、彼女たちは先日より我々holoXに害を及ぼしていた”とある組織”について調査をしていたのだ。しかし、約束の定時になっても一向に連絡が無かったらしい。幹部たちがそのことを疑問に思っていると、その当の本人たちがいきなり帰還してきたのだそうだ……たくさんの負傷者と、半壊した宇宙船を連れて。

 

大まかな事情を聞き、ラプラスは頭を抱えた。

先日博士から、その件については少しだけ聞いていたが……まさか、”あの人”もこの世界に存在していたとは……。

 

 

「……それで、負傷者の容体は?」

 

 

「取り敢えず、命に関わるような人達には既に処置が済んでるらしいわ。まだ安心はできないけど、皆助かるだろうって…………ただ、数が足らないの」

 

 

幹部からのその言葉を聞き、ラプラスは一瞬で”最悪”の事態を想像する。

任務に失敗した連中が、人数不足で帰還してきた……その言葉の真意を、勝手に捏造する。

 

 

「……今回の任務に赴いていた人員は全部で26名。その内、現場に赴いたのは5名程って聞いていたけど……」

 

 

「……何人が、帰ってきたんだ」

 

 

holoX全体で見れば、決して大人数という訳では無い。……しかし、人の命が関わっている状況にその数など関係ないのだ。彼らは今まで吾輩たちの仲間として生きていて、この瞬間の生死が判明していない。そのことが、何より重要であり大問題であった。

 

そのことを理解しているラプラスは、大変酷い顔をしていただろう。

そして、その表情を見た幹部が重い口を開いた。

 

 

 

「帰ってきたのは……”13人”だけ……」

 

 

 

きっかり半数、それが本部に帰還できた全員であった。

 

 

「……そうか……」

 

 

衝撃の真実を突き付けられ、ラプラスはただそう答えることしかできなかった。吾輩たちのために働いてくれた同志たちが、もしかしたら……。

 

 

 

ーーーーーしかし、本当の衝撃はここからだった。

 

 

 

 

「……それでね、その帰還してきた中にクロヱの世話係が居たの。彼の場合は一応軽症で、ここに来てもらってるんだけど……」

 

 

そう言った幹部が、ラプラスが座っている司令官席の後ろに視線を移した。吾輩もそれに合わせて振り返ると、そこには右手に包帯を巻いて首から吊るしている男が立っていた。

その者の特徴としては、クロヱのよくつけている白黒の仮面ととにかく鍛え抜かれたその肉体であった。そして短く切りそろえられた黒髪に、薄手の上から新人のものを連想させる黒いコートを纏っている。彼が幹部の言う、この世界でのクロヱ係なのだろう。

 

 

 

「申し訳ありません、ラプラス様ッ……!!自分が不甲斐ないばかりに、お嬢……いえ、クロヱ様を、”犠牲”に……」

 

 

 

 

……ラプラスは最初、その男の言っている意味が理解できなかった。

 

 

 

 

そんなこと、あるはずが無い。起こるわけがない。

 

 

 

 

そう思い込み、願ったラプラスだったが……

 

 

 

 

 

 

 

現実は、非情であった。

 

 

 

 

 

 

 

「幹部……さっき、帰ってきたのは13人って言ってたよな……その中に、アイツは……?」

 

 

 

「……これが、今回の作戦で帰還してきた人達の名簿」

 

 

 

ラプラスの問いに対し、そう答えた幹部であったが……その顔が、全てを物語っていた。

 

 

幹部から渡された名簿を受け取り、ラプラスは震えながらにその内容を確認する。あってくれ、あってくれと願いながら……。

 

 

 

 

 

 

 

ーーしかし、その紙面の中に沙花叉クロヱの名前は無かった。

 

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