転生したらラプラス・ダークネスだった件 作:飽和水溶液_pixiv
【追記】
深堀シリーズ、始めます。今回は前回に引き続き、専属使用人について書いていきます。25話でも二人ほど使用人が登場しましたね。一応このシリーズのみのモブキャラなので、興味の無い方はスキップで本編にお進みください。
通称:博衣こよりの【助手くん】代表、その名は"助手くん"
彼は【助手くん】の一人であり、名前の通り科学者であるこより氏の助手を務めています。見た目は茶髪の短い髪に、頭部には丸い耳の付いた熊の獣人です。そして服装は、茶色いワイシャツの上から他の者たち同様に白衣を纏っています。また彼は非常に温厚な性格であり、上司であるこより氏の指示にも素直に従ってくれます。しかし逆に、断れないその優しさからほぼ毎日博士に付き合って遅くまで業務に付き合っています。その為、最近の悩みは若干やつれてきて痩せてしまったことだそうです。
通称:暗殺部門代表沙花叉クロヱの補佐官、またの名を"クロヱ係"
彼は【飼育員】の一人であり、普段だらしないことが多いクロヱの世話係をしています。また彼はその上司の性格上、暗殺部門代表としての業務を代わりにほぼ全て請け負っています。よって、鍛え抜かれたその見た目からは想像できないほどに、事務作業や書類仕事に向いています。見た目は黒い短髪に、沙花叉クロヱ愛用の仮面をつけています。そしてその下には、なんとタンクトップの上から黒と赤の新人に似たコートを羽織るという陳腐な格好をしています。本人曰く、その筋肉を見せつける前衛的ファッションは『お嬢のリスペクト』だそうです。
任務から帰還した者達の名簿の中に、沙花叉クロヱの名前は無かった。
「なんで……クロヱが、まさか……」
事実確認もしないままに、ラプラスは負の感情に取り込まれる。
沙花叉クロヱ。
それはholoXの初期メンバーの一人であり、その頃には掃除屋でインターン生という肩書を持つ少女だった。こちらの世界の新人が同じだという保証は無いが、元の世界の彼女はある意味でムードメーカーの一面を持つ憎めないやつだった。その物怖じしない性格と、ハッキリとものを言うところは吾輩自身も何だかんだ気に入っていたんだと思う。
また、この世界での新人は出世を果たし現在は暗殺部門の代表を務めている。そして、今回は例の組織への潜入任務に出ていたのだ。新人はその肩書からもわかる通り、『掃除屋』としてのスキルを持っている。一定の重火器は勿論のこと、刃物や鈍器など武器に関する技術力はholoX内一であった。また、普段怠けているとは思えないその身体能力からは、侍と共にholoXの前衛を担うポテンシャルを持ってもいた。
そんなアイツが、まさか……。
最悪を想定した、嫌な想像がラプラスの脳内を巡った。
……しかし、それを否定するようにクロヱ係の男が口を開く。
「いえ、それが……現場の状況が変わっていなければ、恐らくクロヱ様や他の者達も命だけは無事かと……」
彼はそう言いながら、一冊の紙の束を手渡してきた。その表紙には、『宝鐘海賊団への潜入任務』と記載されている。
「これは……」
「はい、私が帰還途中の船の中で書いたものです。目を通してもらえればと思いまして……」
ラプラスはそれを承諾し、その報告書を受け取る。
中を開いてみると、A4サイズの紙が十枚ほど重なっておりそこそこのボリュームがあった。しかし、その前半には今回の作戦の概要等が載っているだけで、重要なのは後半の『宝鐘海賊団の組員情報』と『任務の途中経過』の欄であった。
【宝鐘海賊団の乗組員】
宝鐘海賊団とは、一~三番船からなる艦隊組織である。また、各船には船長及び副船長が同乗しておりこの者達がこの組織の幹部クラスであると思われる。
一番船。船長は赤い髪に右目に黒い眼帯をしているこの艦隊の提督、【宝鐘マリン】。また副船長はピンク色の髪に、メイド服?を着た内気な少女【湊あくあ】。
二番船。今回潜入先に選んだ船であり、船長は緑色の髪にぬいぐるみを抱いた小柄の少女【潤羽るしあ】。また、現在二番船には副船長が不在らしい。
三番船。船長は青い髪に金色の斧を携えた貴人、【星街すいせい】。また副船長は自称エリートを名乗る薄桃色髪の少女、【さくらみこ】。
彼女たちは船長管轄のもと船を独自に動かし、基本的には番船ごとに単独行動をしている。その為、一角への潜入は比較的容易だと考えられる。ただ勿論のこと、各船にはその他にも乗組員がおりそれらにも注意が必要である。特に、二番船の組員である【ふぁんでっど】と呼ばれる者たちについてはーーー
……そこまで読んで、ラプラスは一度顔を上げる。
そして、大きなため息をついてから頭を掻きむしった。
(幹部から聞いていたが……まさか、”マリンさん以外にも”先輩方が居たとは……)
確かに、フブキ先輩たちがこの世界にも居ると知った時から、もしかしたら他にも誰か……と、予想していなかったわけではない。それに、博士からこの話を少しだけ聞いた時も似たようなことを考えた。だが、どうやら間違っていないみたいだな。
ーーーーーこの世界にも、ホロライブの先輩たちが存在している。
宝鐘マリン、湊あくあ、潤羽るしあ、星街すいせい、さくらみこ……彼女たちもまた、全員がラプラスの元いた世界の『ホロライブ』に所属していたメンバーであった。現在はるしあ先輩のみ在籍してないが、それでもお世話になった先輩の一人である事にはかわりなかった。
それに加えて白上フブキ・大神ミオ・百鬼あやめ・猫又おかゆ・戌神ころね、ついでに黒上フブキ。更にholoXのメンバーも加われば、少なくとも16人ものホロメンもしくはその関係者がこっちの世界にも存在する事になる。ともすれば、他の先輩方も……という事は、もはや疑う余地など無いだろう。
居るんだ、この世界にも。
吾輩があの世界で、この上なく大切に思った者達が。
ならば、やはり吾輩はこの世界での悪の組織としての振る舞い方をより深く考えなければならない。フブキ先輩たちがそうであったように、今回もまたマリン先輩たちとは対立関係にある。しかし、吾輩はそんなことは望んでいない。マリン先輩たちともまた、状況を改善しお互いを助け合えるような関係になっていきたい。
……それこそが、向こうの世界で吾輩を受け入れてくれた先輩方への恩返しだと思うから。
そう考えていたラプラスは、上を見上げたままに目を閉じていた。
すると、そのまま動かなくなってしまったことを不思議に思った幹部に声をかけられる。
「ラプ?どうしたの?……何か、気になる事でもあった?」
「えっ?……あーまあ、そんなところだ」
突然話しかけられ、ラプラスは気の抜けた返事をしてしまった。
いけないいけない、今はholoXの緊急事態なのだ。ちゃんと気を引き締めておかなければ。……そういえば、クロヱ係の男がクロヱ達の命は一応無事みたいな話をしてたな。それがどういう意味だったのかを、続きを読んで確かめないと。
そうしてラプラスは、報告書の続きを捲って内容を確認する。すると、目的であった【任務の経過】の欄を発見した。そこには目の前の男が書いたと思われる日記がそのまま記載されており、要約すると内容は以下のようだった。
『
✕✕/〇〇 本日より、クロヱ様と共に『宝鐘海賊団』への潜入任務となる。ルイ様より直々に下された任ということで、これがいかに重要なことかが伺えた。いつになくお嬢も張り切っておられるようだし、私も出来るだけ主人の助けとなるよう尽力したい。
✕✕/〇〇
✕✕/〇〇 一回目の定期報告を終え、ここまでに分かったことを本部に報告した。またクロヱ様より、実際に敵の船に潜入するのは事前準備が完了してからとの指示があった。やはり、今回のお嬢は一味違うようだ。そういえば、出発前に総帥から何か言伝を貰っていたようだが……もしかして、それが関係しているのだろうか?
✕✕/〇〇
✕✕/〇〇
✕✕/〇〇 ようやく諸々の準備が整い、いよいよ明日に潜入を開始することになった。今回は現在副船長が不在だという情報を得た二番船に潜入する事になる。既に三回目の定期報告も終了したし、次の連絡の際には良い結果を報告できることを願う。
✕✕/〇〇
✕✕/〇〇
✕✕/〇〇
✕✕/〇〇 なんてことだ……まさか、潜入任務にあたっていた班の内の一つが”潤羽るしあ”によって捕らえられてしまうとは……。しかも、お嬢が独断で救出作戦を決行すると言い出された。私は一度本部に指示を仰ごうと進言したのだが、敵に発見されるリスクと部下の安全を考え早急に行動に移すべきだと仰られる。
何故、普段はあれだけ任務に不真面目なお嬢が、今回はここまで作戦の成功にこだわっているのか……しかし、上官に命令されたのであればそれに従わない訳にはいかない。どうか、クロヱ様だけでも無事で事が済めばいいのだが……。
✕✕/〇〇
✕✕/〇〇
✕✕/〇〇
✕✕/〇〇
✕✕/〇〇
✕✕/〇〇 潜入任務、及び救出作戦は失敗に終わってしまった。その原因は、我々の圧倒的下調べ不足とその戦力差だった。まさか、二番船及び三番船の船長たちがあれほどの強さだったとは……。
恐らく、この日記はそのまま報告書に記載されると思われるのでここに事件の結末を残しておく。
今回の潜入任務に参加した総勢26名は、作戦地域で敵勢力に囚われた仲間を助け出すために救出作戦を決行した。その結果、『全体の半数を”わざと”見逃される形』で生かされることとなった。そのことに一体どんな目的があったのかはわからないが、その場を仕切っていた”宝鐘マリン提督”により我々は逃がされたのだ。
ただその際に、乗ってきた宇宙船の一部を破壊されてしまった。幸いなことに、機体を動かすエンジンルーム等は無事なようで何とか本部までは帰還できると思われる。だが、誠に遺憾なことに……我らが隊長【沙花叉クロヱ】様及び他12名が敵組織に未だ囚われたままだ。私はお嬢に生かされた身として、このことを必ずラプラス様に伝える義務がある。……どうか、クロヱ様がご無事でありますように。 』
その報告書は、最後にそう締めくくられていた。
ラプラスは文章を読み終わり、ハァとため息をつきながら座席の背にもたれ掛った。
「……なるほど、そういうことだったのか」
さっきこいつの言っていた、現状に変化が無ければ命だけは無事だというのはこういうことだったのか。確かに、この報告書の通り宝鐘マリンが『わざと』こいつらを逃がしたのならば、捕えているクロヱ達をわざわざ殺したりはしないだろう。そこにどんな目的があるのかは知らないが、少なくとも生かしている方が彼女たちにメリットがあるはずなのだ。
「そういうことって……どういうことなの、ラプ?」
「ああ……お前も、これ読んどけ」
勝手に納得しているラプラスに、横で見ていた幹部は疑問を抱く。そんな彼女に対し、ラプラスは口で説明するのがめんどくさいと手元の報告書を渡した。
ルイがそれを読んでいる間に、吾輩も考えをまとめなければ。
今回の事件の要点は、主に三つ。
まず一つ目は、そもそも何故マリン先輩が我々holoXの資源を狙っていたのか。それはholoXに対する直接的攻撃なのか、それとも資源を欲した結果たまたまholoXが標的になったのか……。これについては、現状や報告書からではどうにも断定できない。よって、これは本人たちに直接聞くしかないようだ。
次に、どうしてクロヱ達を生かしているのかという点だ。本来であれば、勝手に嗅ぎまわっていた敵組織の人間など始末してしまうに値する。またそうでなくとも、捕虜にしたり人身売買なんてことは海賊の世界なら無い話じゃないと思う。だから少なくとも、敵と認めたはずの相手をわざと逃がすなんて奇行はしないはずなのだ。だが、何故か組織の長である宝鐘マリンはそれを行った。一体なぜなのか。
しかし、吾輩的にはそこにこそ彼女たちの”本来の目的”が絡んでいるんじゃないかと睨んでいる。何かそうしなければいけない、そうしたほうが自分たちに利がある理由があるはずだ。
そして最後に、新人が今回の任務に前のめりだったことと独断で作戦を決行した理由。確かに、任務中の部隊の全指揮権は現場に限っては沙花叉クロヱが持っていた。先の通り、現場に直接赴くことが少ない吾輩に代わり現場では四天王の誰か、またはその場の隊長クラスが指揮権を有している。
だが、それはあくまで緊急を有する事態に対し即座に対応が必要な場合に限られるのだ。そして、そうではない場合に現場だけで対応できない事態に陥った時には、より上位の責任者に指示を仰ぐことこそが取られるべき最善手なのである。だから今回のように任務に失敗した班が敵に捕らわれた場合では、本部に居る吾輩または幹部にまず連絡することが適切な対応であった。
しかし、新人のヤツはそうしなかったらしい。しかも、部下からの進言があったのにもかかわらず独断で作戦を続行した。確かに、下手に本部と連絡すれば通信を傍受される危険があるのはわかる。だが、それでもまずは報告をするべきだったのだ。だからその結果、救出作戦すらも失敗しこんな事態になってしまっている。
しかし、吾輩はその件について別に怒りたいという訳ではない。クロヱは日記の通り、多少……というか結構不真面目で、自分勝手なところがあるのは否定しない。けど、少なくとも馬鹿なヤツではなかった。むしろ非常事態にはかなり頭が回り、冷静に物事に対処できる方だったはずだ。そうでなければ、”掃除屋”など務まらない。そんなアイツが、何故無理を通して救出を試みたのか……そこには恐らく、彼女が任務に出かける前に吾輩が言ったという『言伝』が関係していると思われる。それによって、新人は柄にもなく今回の任務に張り切っていたのだ。
だが、それは勿論今の吾輩が言ったことでは無い。今のラプラスがこの世界に来る前に、こちらの世界のラプラスが新人に言ったことなのだ。だから、今の吾輩にはその内容を知りようもない。これもまた、本人に聞くしかないようだ。
ラプラスは長考の末、自分の意見をまとめる。
兎にも角にも、まず吾輩たちが最優先すべきは部下たちの救出だろう。だが、その方法は相手方を出来る限り刺激しない方法でなければいけない。何故なら、今回もまた吾輩は先輩方と仲良くしたいと考えているからだ。その為には……やはり、吾輩自身がマリン先輩のところに赴くしかないだろうな。
ラプラスはそう思い、自分なりの結論を出していた。
すると、丁度報告書を読み終わったらしい幹部が口を開く。
「なるほどね……まったく、あの子ったら。そんな勝手なことをして……」
その言葉には、怒りよりも心配という気持ちの方が強く籠っていたと思う。長年一緒に居ると何となくわかるのだが、幹部はこういう時怒りつつもその心情は心配や不安に支配されているのだ。本当に、吾輩たちのもう一人の母親といったところだな。
「も、申し訳ありません、ルイ様……我々も、クロヱ様を説得しようとはしたのですが……」
しかし、傍から見ればただ部下を怒っている上司に見えただろう。その証拠に、該当者であるクロヱ係が謝罪と共に頭を下げた。まあ、確かに悪いことではあったんだが……こいつは別に、上官の命令をただ聞いただけだ。それをとやかく責めるのは、ちょっと理不尽だよな。
「まあ、アイツが何を思ってそんなことをしたのかは本人にしかわからないだろ。だからその辺については、新人たちを助け出してからだな」
「クロヱが何故そんなことを、ね……そういえばラプ。この報告書にあった、任務前にクロヱに伝えたことって何だったの?」
「………………内緒だ。」
いや、それはむしろ吾輩が知りたいんだが?!……とは言えないので、内緒と言って誤魔化しておく。全てが丸く収まったら、その後でこっそりクロヱに聞いておこう。
「まあ、取り敢えず……話は分かった。世話係のお前はもう休んでいいぞ、ご苦労だったな」
さりげなく話を逸らしつつ、ここまでの任務と情報を持ち帰ってくれた飼育員に労いの言葉をかける。生きて帰ってきてくれて、その上で最低限の戦果を残してくれたならそれで十分だ。それに幹部は軽症と言っていたけど、その容体からは明らかに腕を骨折しているように見える。ここまでの帰路で疲れてもいるだろうし、今日はもう休んでもらおう。
ここからは、部下の失敗を拭う吾輩たちの仕事だ。
「わかりました。…………あの、ラプラス様……」
総帥からの親切心に対し、彼はそれを素直に承諾する。
しかし、まだ何か言いたいことがあるようだ。
「ん?なんだ?」
「クロヱ様は……お嬢は、決してラプラス様のご期待を裏切りたかったわけではありません。ただ、この任務が重要なことだと理解していて、失敗は許されないと気負ってしまっただけなのです……どうか、我ら飼育員の主人をよろしくお願いします」
そう言って、彼は不自由な腕を抱えながら膝をつき頭を垂れた。そこには、暗殺部門に所属する者達なりの強い絆があることを示していた。
なんだ、クロヱのやつ……こいつらと、案外上手くやってるんじゃないか。
ラプラスは、そのことに思わずホッコリとした気持ちになった。
しかし、その間にルールに厳しい幹部が口を挟んでしまう。
「……だからと言って、それが規則を破って良いことにはならないわ。問題が発生したら、必ず先に報告しなさいっていつも言ってるわよね?…………事態が解決したら、クロヱにはきっちり罰を受けてもらうから。勿論、あなた達にもね」
一見すると、失態を犯した部下に対する叱咤である。
だが、吾輩にはどうも遠回しに『怒るのはクロヱを助けてから』と言っているように聞こえた。幹部もまた、吾輩に似て素直じゃない。お前も、考えていることは一緒だろうに。
「まあまあ幹部、そう言うなよ。……わかったから、後は吾輩たちに任せとけ。だからお前らは、ちゃんと休んで怪我を治せよ」
「……御意。」
そう言って、クロヱの世話係の男は静かに部屋を出て行った。
そして、中枢司令室に残された吾輩と幹部は早速今後の動きについて話し合いを始める。
「……それでラプ、これからどうする?」
「ああ、そのことについてなんだが……ちょっと、相談を聞いてくれ」
これからのholoXの行動については、吾輩の中である程度決めている。しかし、それを実行するための方法が生憎自分一人では思いつきそうにないのだ。そこで、ここは幹部の知恵を借りた方がいいと判断する。
「何?」
「まず最優先事項として、吾輩はクロヱ達を救出するべきだと思う。ただ……宝鐘マリンたちが、何故吾輩たちの資源を欲していたのかがどうにも気になるんだ」
「彼女たちの目的?確かに、それも気になりはするけど……それは、クロヱたちを助けることに何か関係あるの?」
そう言った幹部は、何やら不思議そうな顔をしていた。それは恐らく、吾輩が『どうやって部下を助けるか』ではなく『何故相手がこんなことをしたのか』に注目したことを疑問に思ったんだろう。確かに、現状吾輩も言っている通り捕まった新人たちを助けることが何よりも優先するべきというのは明白だ。
しかし、宝鐘マリン及び他の船長・副船長たちの人柄を知る吾輩は、それよりも何故こんなことをしたのかという方が気になってしまう。なぜならその内容によっては、吾輩たちが協力するという形で問題が解決できるかもしれないからだ。本来被害を被っているこちらが申し出ることじゃないが、先輩たちと和解ができるというならば吾輩は喜んで力を貸す。
ただ、それを幹部に素直に説明するわけにはいかないので、それっぽく言っておくことにする。
「いや、どうにも引っかかるんだ。……確かに、海賊を名乗る以上略奪行為を私益の為にするのはわかる。けどそんな奴らが、わざわざ捕まえた敵組織の連中の半数を逃がす……なんて、回りくどいことをすると思うか?そこには恐らく、資源を狙った”本来の目的”が関係してるんじゃないかと吾輩は思ってる」
「まあ、それはそうかもしれないけど……じゃあ、ラプはどうするべきだと思うの?」
幹部にそう問われ、ラプラスは言葉を選ぶ。
これからどうするべきか、それについては一応の答えが出ている。ただ、それを幹部には素直に言いずらい。こちらの誠意を示すという意味でも、また相手の目的を探るためという意味でもまずはマリン先輩たちに接触しなければ始まらない。しかし、吾輩自ら敵陣に赴くという手段はフレンズ王国の件で既に失態を晒している。にもかかわらず、もしまた同じことをして失敗でもしたら……いよいよ、総帥としての信頼と立場が疑われることになりかねない。
だが、やはりそれ以外に手は思いつかない。マリン先輩たちと話をするにしても、他のやつに任せたら事態をややこしくする可能性があるしな。だからやはり、ここは総帥の我儘として押し通すしかないだろう。
「……まずは、相手の居場所を突き止めるところからだな。幹部、宝鐘海賊団の艦隊が今どこにいるかわかるか?」
「それについては、クロヱの発信機のお陰で特定できてるわ。ラプが”こよりに作らせた”っていう、あの『ドッグタグ』が役に立ったわね」
ラプラスがこよりに作らせた”ドッグタグ”とは、所謂個人識別用の銀色のプレートのことである。
それは今の吾輩がこの世界に来る前の話、holoXではかなり初期から外部の任務に赴く者達が一定数いた。しかしある時、予期せぬ事態で装備を持たずに遭難してしまうという事故が起こってしまったのだ。そこで当時の吾輩は、今後同じような事が起こらぬようにと博士に頼んで特殊なプレートを制作して貰ったらしい。それは一見ただのドッグタグのようなのだが、その一部分を口に含むことで特別な信号を発するチップが埋め込まれている。そしてそれ以降、本部を離れる構成員は全員必ず一つそのタグを所持することが義務付けられている。ちなみに、吾輩がフレンズ王国に赴いた際にも実は幹部からそれを渡されていた。しかし、この世界の吾輩はそのタグの性質を知らなかったが為に使用出来なかったのである。
ただ、こういった事態にはやはり有効な代物だったようだ。その証拠に、幹部の言っていた通り新人のヤツは自分のドッグタグを起動させ信号を発している。そしてその電波をレーダーで拾えば、少なくともクロヱの捕まっている場所はわかるという訳だな。昔の吾輩、マジでナイス。
「よし。そういうことなら、新人たちの救出隊を派遣すること自体は出来そうだな。問題は、誰に行かせる何だが……」
そこまで言って、ラプラスは隣に立つ幹部の様子を伺った。やはり、自分からは言いずらいな……。
「か、幹部は……適任者は、誰だと思う?」
「んー……クロヱを含む暗殺部門で敵わなかった相手なら、戦闘斥候部門に任せるのが本当は一番いいわよね。ただ、部下たちはともかくいろはが任務中でいないから…………でも、やっぱりあの子が帰ってくるまで待つのが最善だと思うわ」
確かに、幹部の言うことは一部正しい。本来holoX内でもかなり強い方である新人が勝てなかった相手となれば、より強い組織内最強の侍に任せるのが妥当なところだ。しかし、話によるとあいつは今別の惑星に調査任務に出ているとのこと。となれば、侍が帰ってくるまでの間新人たちがずっと敵地に監禁されるという事になってしまう。それは例え相手が先輩方だったとしても、まだ敵認定されているうちはやっぱり危険だろう。
「いや、それは流石に悠長だと思うが……ちなみに、侍が最速で本部に帰ってくるとしたらどれくらいかかるんだ?」
「……少なくとも、三日以上はかかるでしょうね。任務が早めに終わって帰ろうとしていたら、もう少し早いかもしれないけど……」
やはりかかり過ぎだ。吾輩の望みを抜きにしても、それではクロヱ達の体力が持たないだろう。吾輩や黒様の時はあくまで例外であり、本来の捕虜というものは決していい環境で拘束される訳ではない。新人たちがどんな状況かもわからないし、事態はもっと急を要すると思う。
「それじゃあ最悪、間に合わないなんてことも考えられるな……やっぱり、今いるメンバーで救出隊を作るしかない」
「そうかもしれないけど……他に、適任なんて……」
「居るだろ、ここに」
そう言ったラプラスの言葉に、幹部は驚いたような顔をした。そして、その真意をすぐに察した彼女は同時に悲痛そうな表情を浮かべる。
……しかし、今はこれが最善なのだ。holoXにとっても、吾輩にとっても。
「……吾輩が行く。総帥自ら、可愛い部下たちを助けに行ってやろうじゃないか」
建前を建設し、本質を隠した本音を吾輩は吐露した。
この作品にモブキャラが登場することに関して、どのように思いますか?(1番近いものに投票してください)
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特に思うことは無い
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物語が面白くなるなら出してもいい
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特定の名前などが無ければ出してもいい
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できるだけ出さないで欲しい
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絶対に出さないで欲しい