転生したらラプラス・ダークネスだった件   作:飽和水溶液_pixiv

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今度こそ第31話です。本編の投稿は半月以上ぶりですが、前回のことを皆様覚えていますでしょうか?第30話ではラプラスたちがholoXのアジトを出発した頃の宝鐘マリンたちの様子と、宝鐘海賊団の船に到着したところまで話は進みました。そして、今回はタイトル通り早速潜入を始めていきます。果たして、どんな事件が起こる事やら……。
また今回は長めですが、そのほとんどがラプ様の独り言かラプツナズの隊員との会話になっております。個人的に、ラプ様の心情描写にはこだわりを持って書いていますので楽しんで頂けると嬉しいです。本来のラプ様はかなり子供っぽいですが、パラレル世界では立場上偉そうな言い回しや行動を心掛けて背伸びをしています。しかし内面は変わっていないので、そのギャップをお楽しみください。

【追記】
今回の深堀シリーズは本編が長いのでお休みです。次話も既に書き始めていますので、近いうちにお披露目できるかと思います。


第31話 いざ潜入!そして降格通知

 

宇宙空間を飛行する海賊船。その末端へと、一筋の道を形成する。とある天才科学者の作り出したそれは、もはや潜入任務には欠かせない代物となっていた。

 

 

「隊長!管の射出を確認。機体への取り付けを完了致しました!」

 

「わかった。引き続き、開通作業を継続せよ。ただし、相手はかなりの速度で移動中だ。切り外されないように十分に注意しろ」

 

「了解!」

 

 

吾輩を含めた突入班が装備の最終確認を行っている中、待機組のラプツナズが連携を取りながら宝鐘海賊団への侵入経路を確保してくれていた。吾輩には詳しいことはわからないが、話によると大きなホース状のものを機体に取り付けてそこから船内へと侵入できるのだそうだ。それは恐らく、簡易的な”連絡通路”的なものだと吾輩は認識している。しかし、飛行中の宇宙船に繋げるものなので当然柔軟性を持っている素材であり、かつ宇宙空間でも使用できる品だ。そんな物をどうやって作るのかなんて、吾輩には到底想像もできないのだが……ともかく、これのお陰で船内への侵入自体は行うことが出来る。ただ問題は、それが船体のどこに繋がっているかまではわからないことなんだが……。

 

 

「……まあそれに関しても、博士によって既に解決済みなんだけどな」

 

 

誰にも聞こえないような小さな声でそう呟き、ラプラスは博士の用意してくれたヘッドギア式の宇宙服を頭に被る。頭部のサイドには角用の穴が開いており、かつラプラスの頭にぴったりフィットする特注品だ。これには宇宙服としての役割は勿論、光学迷彩を施したステルス機能までが搭載されている。その機能を使用することにより、他者から視覚的に存在を認識されなくなるのだ。

 

 

 

 

「ラプラス様、ご準備中のところ申し訳ございません。少しよろしいでしょうか?」

 

 

ラプラスが自分の装備とその機能について再確認をしていると、ラプツナズの隊員の一人が話しかけてきた。しかもその手には、何やら荷物の入った''風呂敷包み''が握られている。

 

 

「ん?なんだそれ」

 

 

「はい、実はルイ様よりこの包みをクロヱ様にお渡ししてほしいと指示を受けております。中身はクロヱ様の”荷物”と伺っています」

 

 

「荷物ぅ?」

 

 

隊員の言葉を聞き、ラプラスは首を傾げる。新人の荷物って……見たところ、例のヘッドギアとかが入るような大きさではない。小物入れとまでは言わないが、あまり大きいものは入っていないだろう。もしかして、クロヱの大切な私物か何かだったりするのだろうか?

 

ラプラスは心の中で、そんな疑問符が浮かんだ。

しかし、そこまで深く考える必要も無いだろうと思いその風呂敷を受け取る。

 

(んっ?この感じ……あぁ、なるほどそういうことか)

 

ラプラスは受け取ったその包みの重さ、また中に入っているであろう物同士が擦れ合う”金属音”を聞き中身についての大方な予想が立っていた。確かに、これを新人に渡しておけば後々役に立つかもしれない。流石は幹部だな。

 

 

 

 

数分後、隊員の一人から取り付けた管が安定したとの報告を受けた。そして遂に、ラプラスたちは宝鐘海賊団の船の中へと侵入を試みる。まず最初に、潜入先である管の先の部屋が安全であるかを確認するために一人の隊員が突入した。またその様子を、宇宙船内にある減圧室で残りの潜入メンバーとともにラプラスは見守る。

 

 

『ラプラス様、こちら問題ありません。どうやらこの先は、何かの倉庫のようです』

 

 

先発していた者から無線でそのように報告を受ける。よし、潜入先の最初の部屋が倉庫とは好都合だ。そこなら直ぐに見つかることは無いだろうし、ゆっくりと方針を立てられるだろう。

 

 

「わかった。……じゃあお前ら、さっそく潜入を開始するぞ。順番について来い」

 

 

ラプラスはそう言うと、いの一番に連絡通路の入り口をくぐって船内へと下っていく。実は表情には出していなかったのだが、この時のラプラスは柄にもなく興奮していた。まるで、映画やゲームの世界での出来事のようで内心ワクワク感が止まらなかったのである。

 

(話に聞いただけじゃいまいち理解できなかったけど、要は宇宙船同士を繋ぐドーム型の滑り台みたいな感じなのか……これは、ちょっと楽しいぞっ)

 

実際には今自分が通っているすぐ外側は宇宙空間であり、本来であればかなりの危険の伴う潜入なのだ。しかし、その管に使われている素材は不透明で外が見えず、いまいちその実感に欠けるラプラスは純粋にアトラクションのような滑り台を楽しんでいた。

 

(念のためヘッドギアも使ってるけど、宇宙服展開前とやっぱり息苦しさとかも変わらないな。水中に潜る人とかを見てると結構苦しそうだけど、これなら安心だ)

 

ダイビングなどに使用されるシュノーケリングや酸素ボトルなどを用いた潜水では、正しい呼吸方法を知らないと多少息苦しく感じることがある。よって勿論そんな経験の無いラプラスにはあくまで予想の範疇ではあるものの、概ねその考えは的を得ていると言えた。

しかし、博衣こよりの開発したこのヘッドギア式宇宙服ではそんな煩わしさなどほとんどなく本当にヘルメットを被っている程度のものであった。それは結果として、長時間の任務にあたる隊員のストレスを減らすことにも不必要な事故を防止することにも繋がる。つまりこより氏は、そう言った細部への気遣いすらも可能とする科学者であった。

 

 

 

 

ヘルメットに付いている明かりのみを頼りに、ラプラスは長くうす暗い洞窟を下っていく。そして、暫く滑ったところで突然前方に既に開通されている穴が見えてきた。それが、恐らく”出口”だろうと判断したラプラスは構わずそれを潜り抜ける。

 

(おっと……着いたか?)

 

先程まで若干の圧迫空間に居たラプラスが、地面への着地と同時にパッと開けた場所へと身を移す。そのままゆっくりと辺りを見渡すと、先行していたラプツナズが言っていた通りそこは小さな物置のようだった。

 

 

「ここが、宝鐘海賊団の船内か……」

 

 

ざっと周囲を観察した後、ラプラスは徐に天井を見上げた。見たところ吾輩たちの使っていた移動用の宇宙船などとさして変わり無いようだが、外側から見えるところに照明が付いている点や倉庫の作りなどから若干の古臭さを感じる。少しくすんだ壁に、錆び付いたパイプ……そこがただの倉庫だからかもしれないが、恐らく吾輩たちより少し劣った程度の技術力だろうと勝手に推測する。まあフブキ先輩たちの星では宇宙船すらなかったのに対し、マリン先輩たちは自分たちの船で宇宙を航海しているあたり文明がかなり進んでいることには変わりないのだろうが。

 

 

「それにしても……暗いな。これじゃ、何も見えないぞ……」

 

 

潜入任務なので当然、バレる危険性が増すことは避けなければならないと頭では理解している。しかし、ようやく手元と数メートル先を照らせる程度のヘッドライトでは唯一の光源としてあまりにも心許なかった。

 

(でも、まずは少しでも情報を……)

 

暗闇の中、闇雲に歩き回ることは危険だと重々承知していた。だが、それでもまずはこの倉庫内が本当に安全かどうかを確かめなければならないとラプラスは判断する。先行してくれていたラプツナズの隊員はこの倉庫の入り口と思われる扉の前で待機してくれているのが先程見えたし、吾輩はこの室内を捜索しても大丈夫だろう。

そう思ったラプラスは、自分の足元を照らしながらゆっくりと狭い倉庫内の詮索を開始した。

 

(ラプツナズの隊員が全員降りてくるまで、少し時間がかかるかな…………ん?なんだこれ……箱?)

 

現在、先に突入した隊員の後を追い順次残りのメンバーが潜入用の管を下ってきている。そこでラプラスは、少しでもその待ち時間を有効利用しようと考えていた。そして、その途中でラプラスは室内の一角を埋め尽くすように積まれた箱たちに目が留まる。それらは大体同じような大きさであり、一つ一つに中に入っているものが書かれたラベルが張られているようだった。

 

 

「こんなにいっぱい……一体、何が入ってるんだ?」

 

 

なんとなく気になってしまったラプラスは、一番近くにあったものから順にラベルの内容を確認していく。

 

(鉄鉱石、銅鉱石、レアメタル……こっちは武器か?剣や槍に、銃もあるな。……もしかして、これって……)

 

それらは恐らく、宇宙海賊を名乗るマリン先輩たちが”略奪行為”により手に入れた『盗品』ではないかとラプラスは推測を立てる。つまりここは、そうした戦利品を保管するための倉庫なのだ。しかも、それらは外側から見ても中身がわかるように綺麗に整理されている。それからわかることは、ここにあるものは全て”今後使用する予定がある品”という事だ。売るにせよ、自分たちで使用するにせよ、素材である鉱石なんかも同封されている以上これらは何処かしら拠点のようなところに一度運ぶ必要がある。よってこの部屋は宝鐘海賊団の宇宙船がどこかに到着するまでの間、人の出入りが限りなく少なくなることが予想されるのだ。

 

 

「これは幸先がいいな。ここなら、吾輩たちの仮拠点にするにはもってこいだ」

 

 

どこかの機関へ潜入する際に、それを複数人で行う場合には現地にいざとなったら集合できる場所を用意しておくと何かと便利になる。船内の構造も全くわかってないことだし、ここを拠点にして囚われた仲間を捜索するのがいいかもしれないな。

 

ラプラスはそのように考え、一先ず室内の探索を終了させる。すると、丁度ラプツナズの隊員全員が船内への潜入を完了させているところであった。そして、その中の一人で彼ら部隊の副リーダーでもある男が小声で話しかけてくる。

 

 

「ラプラス様、お待たせ致しました。選抜メンバー全員の潜入が完了しましたので、この後の行動について命令を賜りたく存じます」

 

 

「わかった。じゃあ一人見張りを残して、他の連中はここに集合してくれ」

 

 

ラプラスの指示を受け、彼らは直ぐにそれらを実行してくれる。吾輩たちが今からやるべきことは、何においてもまず情報収集だ。捕まっているはずの仲間の居場所は勿論のこと、マリン先輩たちの目的についても吾輩たちは知らなけらばならない。

 

そう思ったラプラスは、指示通り集まってくれた隊員たちを見渡してから静かに口を開いた。

 

 

「……いいかお前ら、まずは捕まってる仲間たちの居場所を突き止めるんだ。またそれと同時に、宝鐘海賊団がどうして略奪行為を行っているのかについても調べるぞ。……その為に、ここに居るメンバーを三組に分ける。一つはこの倉庫を集合地点にするつもりだからここで待機、もう一つは手分けしてさっき言った事の調査、最後は吾輩の護衛兼補佐だ」

 

 

今回ラプラスについてきているラプツナズのメンバーは全部で四人いる。それらを待機1、調査2、護衛1の割合で組み分けする。各員が例のステルス機能の付いたヘッドギアを装備しているし、精鋭のこいつらなら問題なく任務を遂行できるだろう。一応吾輩も独自に動こうとは思うのだが、幹部を納得させるときの条件として『どんな状況であれ極力吾輩が単独行動をしない』というものがあるのだ。よって、やむを得ず一人だけでも護衛を認めなければならない。本当は、一人の時に船長の誰かと接触したかったんだけどな……。

 

 

「了解しました、そのように行動いたします。……ラプラス様はどうなさるおつもりですか?」

 

 

「吾輩は……今のところ、個別で行動するつもりだ。ちょっと気になる事があるからな。だからお前らはある程度時間が経ったらここに戻ってきて、集めた情報を共有しておいてくれ。吾輩も自分の用事を済ませたらここに戻ってくるから、その後に状況を見て仲間を救出する。……あ、それと吾輩が居ない間の指揮は副隊長に任せるぞ。一応無線もあるが、使用は最小限に控えるんだ」

 

 

囚われた部下たちの安否も勿論気にはなるが、この船に乗っているはずの先輩についても吾輩は気になってしまうのだ。ここが誰の管轄なのかはわからないが、少なくとも船長が不在で飛行しているなんてことはありえないだろう。ならば、まず目指すべきは船長室だな。

 

 

「わかりました……それでは、任務を開始いたします」

 

 

「ああ、頼んだぞ」

 

 

総帥からの命を受け、忠実なる部下たちが任務の遂行に努める。

またラプラス自身も、自分の”用事”を済ませようと倉庫を後にしたのだった。

 

 

********************

 

 

宝鐘海賊団に所属する艦隊の一隻、その船内は思っていたよりも閑散としていてほとんど人気が感じられなかった。また作りが古いからなのか、飛行中の影響で発生している微妙な振動で常に機体全体が揺れている。あまり手入れの行き届いていない廊下についても所々埃が積もっていたり、貼り付けられているだけの壁同士の繫ぎ目が歪んで軋み声を上げていた。

 

(巷で有名な宇宙海賊って聞いてたから、てっきり豪華な船にでも乗ってるんだと思ったんだが……なんだか、薄気味悪いところだな)

 

そんなことを思いながら、ラプラスとその護衛が不気味な雰囲気漂う船内を歩いていた。勿論、ヘッドギアに搭載されているステルス機能を使用しているし、さらに足音を立てないように細心の注意も払っている。

ーーしかし、そんな中でラプラスたちはとある大きな異常性を感じていた。

 

 

 

「……っていうか、何でだーれもいないんだよ」

 

 

 

決して大きくはなかったが、少なくとも近くに人が居れば確実に聞こえる程度の声量でラプラスはそう言った。

 

実は吾輩たちが調査を始めて十数分、その間今の今まで誰一人としてすれ違った者が居なかったのである。船全体で見れば確かに人のいる気配はあるのだが、施設の規模から考えるに明らかに生命体と呼べるものの反応が少なく感じられた。またそれに加えて、吾輩たちが潜入を開始したときに比べて極端にこの宇宙船が”加速している”という事態も起こっていた。

 

(段々揺れが激しくなってるな……もしかして、何か緊急事態でも起こってるんじゃないか?)

 

ラプラスがこの船を目指して飛行していた時、当初の予定より大幅に遅れて目的地へと到着していた。その理由として、隊長の発言から『宇宙船がどこかを目指して速度を増した』という事がわかっている。それらのことからラプラスは、もしかしたらこの船では今”予想外の事態”に陥っているのではないかと予想する。

 

(もしくは、その行先で何か事件が起きたとか……)

 

どちらにしたって、今のラプラスたちにとってもそれは問題事項となっていた。何故ならそれは、吾輩たちの『捕虜救出作戦』にも支障をきたしてしまうからである。

現在、この海賊船の近くを捕捉されない程度の距離を保ちながら吾輩たちの乗ってきた宇宙船が追従飛行を行っている。そして、その間にも両者の船は燃料を消費し続けているのだ。それこそが吾輩たちにとっての大問題であり、目的地に着いたら終わりのこの船と違って我々は帰りの分の燃料を残しておかなければならないのである。元々短時間かつ迅速に救出を終えるために、速度重視の宇宙船を吾輩は選んでしまった。つまり、あの宇宙船には”長時間の飛行を想定した燃料タンク”を積んでいないのだ。よって、このまま時間が経てば最悪の場合吾輩たちは敵地で置き去りにされるという事になってしまう。それだけは、何としても避けなければならない。

 

(ぐずぐずしてたら、あっという間にタイムアップだな。急がないとっ)

 

そう思ったラプラスは、手当たり次第に目についたそれらしい扉を開け放っていく。当然周囲やその先の室内を警戒しつつではあるのだが、そのほとんどが何の変哲もない客室や食堂、広間、休憩室だったりするのだ。そして、そこには勿論人の影など無く多少散らかっているだけである。無作為に脱ぎ捨てられた衣服であったり、食べかけのスナック袋。割れたお皿に、口の空いたワインボトル。まるで少し前まで誰かがそこに居て、突然姿を消してしまったような有様にラプラスは何とも言えない恐怖心を自覚する。普段ホラーゲームなどには耐性があるものの、こうした”実際の心霊スポット”ともとれる不気味な場所には流石に怖気づかざるを得なかった。

 

(この、あからさまに人が居ない感じ……もしかして、この船はるしあさん管轄の二番船だったりするのか?)

 

クロヱ係の男の報告書と、幹部が作ってくれた資料から宝鐘海賊艦隊の二番船は''極端に船員が少ない''という事がわかっている。また、今は副船長が不在で潤羽るしあのみがその船を管理しているのだそうだ。そして、この誰ともすれ違わず異様に静かな船内……それらを総合して考えると、ここがその二番船である可能性は十分高いだろう。

 

(ということは、ひょっとしてるしあさんに会えるのかな……なんだか、久しぶりな気分だ)

 

周知の事実として、現在潤羽るしあ先輩はホロライブに所属している身ではない。よって、最近では久しく会えていなかったのだ。勿論活動をしていた時には大変お世話になったし、出来ることならまた一緒にゲームなどで遊びたいと思っている。もっとも、この世界の彼女とは初対面なわけだが。

 

……ともかく、その正否を確かめる為にもこの船の船長室を見つけ出さなければならない。現状、この船のマップで分かっていることは今吾輩たちが”B棟の2階”にいるということだ。吾輩たちが最初潜入し拠点としている倉庫はB棟の船底にあり、そこから階段を上がってくる際に壁に書いてあった館内マップでそれらを確認している。またこの下の1階から隣にあるA棟に行ける連絡通路がつながっており、もしかしたら船長室はそちらにあるのかもしれない。

しかし、それもまた自分の予測の範囲を超えないとラプラスは頭を抱える。そして、一人で悩んでいても仕方がないとダメもとで半歩後ろを歩く隊員に尋ねてみることにした。

 

 

「なあ、お前はこの船の中で船長室を置くとすれば何処だと思う?」

 

 

一人では結論を出せないだろうと、ラプラスはそのように小声で部下に問う。すると、吾輩の護衛を任されていて腕に自信があるという”彼女”が静かに答えた。

 

 

「船長室、ですか?……船という事でしたら、一般的には操舵室の近くにあると思われます。またこの船は比較的大きいですし、恐らく船体の後方上部に設置されているのではないかと……まあ、あくまで”船”での話ですが」

 

 

彼女はラプツナズの隊員の一人であり、淡々とした物言いをする性格なようだ。容姿については茶髪の髪をポニーテールで結わいており、落ち着いた物腰と使い込まれた鞘の得物からは自分の腕に絶対の自信が感じられる。この者が、いざとなれば吾輩を守る剣となってくれるのだ。大変心強いことだな。

 

 

「なるほど、後方の上部……なら、もう一つ上に上がってみるか」

 

 

B棟というくらいなのだから、当然船首から見て後ろ側に位置する場所だと予想できる。ならこいつの意見を採用するとすれば、この更に上の階に船長室がある可能性が高いか。

そう思ったラプラスは、ここより上層へと上がるための階段を探すために再度歩を進めた。すると、進路を変更した総帥の行動を見て護衛の女が口を開く。

 

 

「ラプラス様、船長室を目指されるのですか?」

 

 

「ん?ああ、そのつもりだ。取り敢えずはこの船の船長の顔を拝みに行こうと思ってな」

 

 

「……必要以上の危険を冒す行為は、ルイ様より慎むよう言われていませんでしたか?」

 

 

うぐっ、痛いところをついてくる……。確かに吾輩は幹部と、自らが現場に訪れる条件としてそのようなことを提示されていた。そして、吾輩はそれを承諾したことによりこの場に居ることが許されている。よって吾輩がこの船の船長室に自分から進んで訪れることは、『必要以上の危険を冒さない』という条件に抵触してしまうことになる。

しかし他のものは良しとしても、この船の”船長との接触”についてだけは目を瞑ってもらうしかない。何故なら、吾輩自身がこの場を訪れた理由の大半がそれに当たるからだ。仲間の救出が重要なことは重々承知だが、それを他のやつに任せなかったのもそこに原因がある。従って、これからの行動は絶対に必要なことなのだ。

 

 

「ああ、確かにそう言われたな。……でも、これは”吾輩の計画”に必要なことなんだ。だから絶対に船長の顔を拝みに行くし、お前にも付き合ってもらうぞ」

 

 

「そうですか……そういうことでしたら、ギリギリまではお供します。ですが私はあくまでラプラス様の身の安全を守ることが任務ですので、いざとなったら止めさせていただきますからね」

 

 

……何だかこの隊員、ちょっと幹部に似てる気がするぞ。主に吾輩の行動を遠回しに制限してくるあたりが。

恐らく、こいつが今の吾輩のお守り兼見張り役を任されているのだろう。吾輩の独断行動を許さず、問題事を起こさないようにするための防波堤なのだ。吾輩を守ってくれるのは非常にありがたいのだが、なんだかやりづらいなぁ……。

 

 

「……なんかお前、幹部みたいだな」

 

 

「幹部……ルイ様のことでしょうか?いえ、私のような雑兵ではあの御方には全ての分野で到底及びません」

 

 

ほう、”あの御方”と来たか。その言い方からは明らかな尊敬と、尊重の意思が垣間見える。このholoXに所属してる連中や、ラプツナズの隊員たちは全員ラプラス・ダークネスだけを崇拝しているもんだと思っていた。しかし、この者の発言から察するに幹部たちもまた崇められる対象なようだ。……あ、もしかしてこいつ部隊に入る前は【ルイ友】だったりしたのだろうか。

 

 

「幹部のことをそんなに持ち上げるなんて、お前ひょっとして元はルイ友だったのか?」

 

 

「持ち上げるだなんて……我々holoXerは等しく、ラプラス様に絶対の忠誠を誓っております。そして、その主君がお選びになられた四天王の方々もまた私達からすれば敬い従う対象なのです。……それに、私自身はラプツナズに配属される以前は【かざま隊】として戦闘斥候部門に所属していました。なので、強いてラプラス様の次に尊敬している方を上げるとしたら”風真いろは元帥殿”です」

 

 

か、風真いろは元帥……?

ラプラスは女隊員のその言い回しに、圧倒的な違和感を覚えていた。確かにこの世界のholoXについて勉強したときに、戦闘斥候部門は一種の軍隊のようになっていると聞いている。将軍である侍の下、規律を重んじる昔の軍隊構造を組織しているのだ。そこには階級があり、上官と下官による上下関係も激しい。つまり、以前にその軍隊に所属していた者なら侍のことをそう呼ぶのが普通……なのか?

 

 

「侍のことを尊敬してるのか……確かに、あいつは武の達人だからな。戦闘に自信のあるお前からすれば気になるもんか」

 

 

「……気になるなんて、そんな生易しい言葉で片付けられるものではありません。ラプラス様を''神''と例えるならば、いろは元帥殿は正しく『天使』です。あの容姿と若さにしてholoX最強の武人と称され、たった一人で敵陣に赴き全てを薙ぎ払うそのお姿には、女である私ですら惚れ込む程です。……私はあの方の下で働けたことを、生涯誇りに思うことでしょう」

 

 

潜入任務中であるということも忘れ、彼女は昔を懐かしむようにそう語っていた。そのぞっこんぶりからは、彼女こそ正しく『風真いろはのファン』であると言うに相応しいとラプラスは思う。きっと、程度に差はあれどファンネームを持つ者達はみな憧れの対象を前にすればこうなってしまうのだろう。吾輩も、”あの先輩”の眷属である以上その気持ちはわからないでもないしな。

 

 

「そうなのか……あ、なら吾輩が幹部に頼んで戦闘斥候部門に戻してもらうように掛け合ってやろうか?お前も出来るだけいろはの近くで働きたいだろ?」

 

 

それは、ラプラスにとって単なる優しさからくる言葉であった。どうせ似たような業務で働くならば、出来るだけ推しの近くで働きたいという事は誰しも思うことだろう。見たところこいつは生粋のかざま隊みたいだし、本人が望むなら部門の移動もやむなしというものだ。

……しかし、その本質は受け取り手によって全く違うものになってしまうという事をラプラスは気が付かない。

 

 

 

「えっ…………わ、私、何か失礼なことしましたでしょうかっ?!」

 

 

 

「……ん?」

 

 

ラプラスの優しさによって発せられたその言葉は、見方を変えれば『上官からの降格命令』となってしまうのである。

 

 

本来holoXに所属しており、腕に自信があるものであれば大抵の者達は望まずとも戦闘斥候部門に所属することが出来る。それが起因して、構成員の人数だけで見れば戦闘斥候部門が一番規模が大きいのだ。しかし、今彼女の所属している【ラプツナズ】とは総帥であるラプラス・ダークネスの一番近くで仕事のできる言わば超エリート高官、精鋭の中の精鋭達なのである。それはholoXerならば誰もが求める称号であり、四天王以外の者達が目指せる最上級職として位置づけられている。この組織内でこれ以上の昇格は無く、最も光栄な役職なのだ。

よって、当然誰でも入れる部隊ではないし下級兵士ならばその存在すら知らないほどである。つまり現在ラプツナズに所属している者達は今のラプラスの知らないところで血の滲むような努力を繰り返し、その中でも類まれなる才能と一握りの強運を用いてこの場にいる。それだけ彼女たちは優秀であり、まさしく''選ばれた存在''なのだ。

 

そして、そんなやっとの思いでこの地位に上り詰めた彼女が、主君にいきなり『戦闘斥候部門に戻してやろうか?』などと言われた時には、真意がどうあれ『何か主様の機嫌を損ねるような失態を犯してしまったのだろうか』と思い込んでしまうのである。もしかしたら、ラプラスの前で先程”風真いろはの下で働けたことが光栄だった”などとのたまわってしまったせいで気分を害してしまったのではないかと……。

 

 

 

……しかし、当然ラプラスはそんなことなど微塵も考えてなどいない。本当に純粋な想いで、彼女の為を思って言っているのだ。

そんなすれ違いが、意見の相違を生み出してしまう。

 

 

「わっ、私、任務には毎回全力で取り組んでいます!それに、剣術の腕ならば戦闘斥候部門に居た時にもかなり名の知れた方でしたっ。ルイ様にもその点を評価され、この部隊に所属させていただけています。……で、ですから、私をまだここに居させてください!必ず、ラプラス様の役に立ってみせますからっ!!」

 

 

潜入中であるというにも関わらず、彼女は必死に声を荒げてそう言っていた。そんなに全力で拒否するなんて、もしかして戦闘斥候部門とはそんなに業務がきついところなのだろうか……?

 

 

「お、おう、わかったぞ……ただ、今は潜入中なんだから静かにな?」

 

 

「はっ……も、申し訳ありません……」

 

 

自分が取り乱していたことを反省し、彼女は先程までの落ち着いた雰囲気を取り戻そうとしていた。まあ本人がこういってるし、移動の件は一旦保留だな。この続きは、もしこいつがまた似たような申し出をしてきたときにでも考えるとしよう。

それよりも、随分と雑談に花を咲かせてしまった。今は潜入の真っ最中なのだし、取り急ぎ船長室があると思われる上の階を目指そう。

 

 

ラプラスはそう思い、船内の廊下の角を曲がる。するとその突き当りに、上下へと伸びる階段を発見した。

 

(お、あそこから上に行けそうだな)

 

階段を見つけたラプラスが、早速急ぎ早に歩を進めようとする。

だがしかし、それを寸でのところで護衛の彼女に止められてしまった。

 

 

(ラプラス様!お待ちください!)

 

 

小声でそう言われ、ラプラスはその場で足を止める。すると、次の瞬間階段わきの部屋の扉が開き中から人が出てこようとしているのが見えた。それを確認したラプラスたちは、直ぐに壁際に寄って発見のリスクを下げようと努める。

 

 

(間一髪だったぞ、ありがとな)

 

 

(いえ……それよりも、息を潜めてください。訓練された者なら気配だけで発見される可能性があります)

 

 

忠告してくれたことにお礼を言いつつ、ラプラスは護衛に言われた通りに呼吸を浅くする。出来るだけ静かに、そこには何もないという事を主張する。するとその扉を開けた人物が静かに部屋から体を出し、同時にその姿が段々と露わになった。

 

 

ーーーしかし、ラプラスはその人物に見覚えがあったために、折角潜めた鳴りを自ら晒しそうになってしまう。

 

 

 

 

 

(あれって……もしかして、”湊あくあ”さん……?)

 

 

 

 

 

眠そうに欠伸をしていたそのメイド服の少女は、まごうこと無きあの【湊あくあ】先輩であった。

 

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