転生したらラプラス・ダークネスだった件 作:飽和水溶液_pixiv
ですが、今回はかなり新情報てんこ盛りにしてます。というより結構急展開?わからんですけど、初耳なこともあって何かと混乱するかもしれません。ですが今後順を追って説明されていきますので、「どういうことなんだろう?」と思いつつさらっと流していってくださいませ。また最近結構一話ごとのボリュームが多いですが、これはたまたまですのであまり期待しないでください。本当はもっといっぱい書いてじゃんじゃん投稿したいのに、時間が無さ過ぎて困り果ててます……。
【追記】
さて今回も深堀シリーズはお休みです。このところずっとお休み続きな気もしますが、伏線とかまだ登場していない展開の関係で書けることがあんまりないんですよね。逆に二章の後半になるにつれて書きたいことめっさ多くなりそうで怖い。
ただ、今話で少しだけ重要な『ヘッドギア式宇宙服』についてだけサクッとおさらいしておきましょう。
現在、主にholoXの潜入任務にあたる構成員たちを中心に使用されてる博衣こより氏考案の『ヘッドギア式宇宙服』。見た目は前張りの付いた黒地のヘルメットであり、横側にはholoXのマークがあしらわれている。またそれには二つの機能が搭載されており、どちらも任務の成功に大きく貢献するものとなっている。
一つは、その名からもわかる通りの『宇宙服』としての機能。首元にあるパネルを操作すると、そのヘルメットが宇宙服と全く同じ効果を発揮してくれるのだ。しかもこれの優秀な点は、完全なコードレスであるという事と携帯・管理が容易であるという事にある。代わりに活動時間がおよそ30分程であるという欠点はあるものの、宇宙船等との接続を必要としないそれは潜入任務で使用するにはあまりにも適していると言えた。またこの機能はより具体的に言えば『ヘッドギアの効果範囲内に膜の様なものを発生させる』ものであり、従って小さな子供や小動物程度ならばヘルメットを被った人が抱えていれば問題なく宇宙服を共有使用できるのである。ちなみに、未だセリフや存在感は無いが例の"烏"もこの効果によりラプラスと行動を共にできている。
そしてもう一つが、光学技術の最高峰とも呼べる『ステルス機能』。つまりは故意的に光の屈折を利用し、視覚的に対象を認識することが出来なくなるのだ。より有り体に言うのならば"透明人間"になれるのである。ただし連続使用できる時間は10分程であり、それ以降は光エネルギーの蓄えられるところで充電する必要がある。またこれは合間合間に行うことで実質的に時間を延長することができ、故障等しない限り半永久的に使用できるのである。もっとも、本当にその場からいなくなったり透過するわけでは無いので、外部から触れられたり匂い等で索敵に引っかかってしまう場合はあるので注意が必要。
ちなみに、これだけ便利機能を詰め込んだ代物であるためこの『ヘッドギア式宇宙服』は一つの生産に対するコストが非常に高い。本来holoX内で使用、もしくは構成員に支給される備品等は財務部門より配分される予算内でやり繰りされている。欠品の補填、故障等の修繕、そして新製品の開発……その中でもholoXで生み出される発明品はそのほとんどが博衣こより氏によるものだが、それらは基本的に需要の高いものから優先的に制作が行われる。ただしそれが高機能であったり、素材が貴重である程費用が掛かるのはもはや言うまでもないだろう。
よって、それら諸々の事情により緊急性を要したり総帥自らの要望でもない限り必要以上にコストの掛かる物は作成できないのだ。そんな限られた条件の中で、十分な設備と確かな実績でholoXを支えているのが【秘密結社holoXの研究部門】なのである。
(あれって、もしかして……”湊あくあ”さん?)
前方の階段付近の扉から姿を現したのは、ピンク色の髪をツインテールにしメイド服を着ている小柄な少女【湊あくあ】先輩であった。
湊あくあ。
それはあちらの世界でホロライブに所属していた二期生であり、ラプラスにとってはかなりの先輩にあたる人物であった。見た目は玉ねぎとよくいじられる特徴的で可愛らしいヘアスタイルに、華奢な体ながらにその魅力を余すところなく披露できるメイド服を愛用している。その為、普段の服装と活動内容から『アイドルゲーマーメイド』と自らを称していた。ただし、その実は家事全般を不得意としまた極度の人見知りであることから自他ともに認める『陰キャ』としても知られている。しかしその一見欠点と言えるところですら彼女の持つ魅力であり、頑張り屋で努力と結果にストイックであるというのがラプラスの正直な印象であった。
そんなあくあ先輩が今、目の前に存在している。そのことに、ラプラスは何とも言えない感動を抱いていた。
またよく見てみると、部屋から出てきた先輩は大きな欠伸をしており可愛らしいメイド服や髪が若干乱れてもいた。その様子から恐らく、彼女は部屋で仮眠を取っていたのだろうと推測を立てる。そして当然こちらに気が付くことも無く、そのまま眠たそうな目をこすりながら横の階段を上がっていった。
(……恐らく、この船の船員ですね。給仕係、でしょうか…?ラプラス様、如何なさいましょう)
歩幅が小さいのか、はたまた体力の無さが起因しているのかあくあ先輩はただ階段を上ることすら苦労している様子だった。そんな中、女隊員が囁き声でそう聞いてくる。恐らく彼女には、あの目の前の人物が宝鐘海賊団の一番船副船長湊あくあであるという事がわかっていないのだろう。まあ、それは当然か。むしろ一目見て彼女だとわかる今の吾輩の方が異常なのだ。
しかし、どうするかと聞かれたら吾輩の答えなどとうに決まっている。久しぶりに会えた感動を抜きにしても、あの人が宝鐘海賊団の幹部クラスに位置する人物となれば跡をつけない理由がないのだ。
(勿論、後を追うに決まってるだろ)
吾輩たちが現在使用しているヘッドギア式宇宙服に搭載されたステルス機能、それは一度の連続使用では約10分しかもたないのだ。先程一回目の充電の為空き部屋で少し時間を置いたし、もうしばらくは使用できるだろう。
ラプラスはそう判断し、護衛と共にあくあ先輩の後を静かに追うことにした。彼女が長い時間をかけてようやく上り終えた階段をササっと上がり、息を切らしながら歩く先輩に続く。あの人、本当に体力ないんだな……。
その後も、何度か小休憩を挟みながら船内の廊下を歩いていく。その合間合間で少しずつ充電も施しながら、何とか先輩の目的地までステルス機能を切らさずに温存することが出来た。そして、しばらく進んだところでふとあくあ先輩が足を止める。彼女の前にはひときわ大きな両開きの扉がそびえており、一度深呼吸をしてからドアをノックした。
ーーーーーコン、コン、コン。
静かな廊下に、一律なノック音が響き渡る。
数秒後、その部屋の主であろう人物から声がかかった。
「……誰なのです?」
室内から聞こえてきたその声は、まるで少女の囁きのような美しさを孕んでいた。しかし、その声を聞いたラプラスは自分の心臓がドキンと大きく跳ねたのを実感する。思えば、この声を聞くのはかなり久しぶりだな。
「あ、あの…”るしあちゃん”。あてぃし、だけど……入っても、いい?」
小さすぎて、まるで消え入りそうな声であくあ先輩はそう呟いた。きっと本人にとっては精一杯で、自信たっぷりに大声で言っているつもりなのだろうけど……中にいる人物に聞こえているのかは、甚だ疑問であった。
「……どうぞ。」
しかし、どうやらそれはラプラスの杞憂だったようだ。そして、部屋の主から許可を得たあくあ先輩が閉ざされている扉のノブに手をかけ、思いっきり押し開く。勿論、非力な彼女の力では普通にドアを開けていることと何ら変わりはない。
(ーーーん?この匂い……)
何の変哲もない船内の一室。しかし、その扉が開け放たれた瞬間少し離れていたラプラスたちですら感じる程の甘ったるい香りが廊下に漂い始めた。それは一見何かの花の匂いにも似ているが、そんなに気持ちのいいものでも無い。鼻腔の奥にベッタリと張り付くようで、得体の知れない不快感を含んでいる。恐らくこれが、飼育員たちの言っていた『甘ったるい香りのする部屋』というやつなのだろう。
ラプラスはその匂いに、一瞬顔をしかめた。だが、それを特に気にする様子も無くあくあ先輩が僅かに開かれた扉から室内へと入っていってしまった。当然、博士の作ってくれたこのステルス機能は”見えなくなる”というだけで本当に人を消してしまう訳ではない。よって、今中に人のいる部屋に侵入することは流石に憚られた。
(でも、中に居るだろう先輩たちの会話内容は気になる……)
そう思ったラプラスは、周囲の人影に注意しながらその両扉の前まで移動する。そして、中の音を探るようにドアに顔を近づけて耳を澄ました。すると、微かにではあるが二人の少女の話し声が聞こえてくる。
「仮眠は、もういいのです?」
「う、うん……スゥー……ベッド、貸してくれてありがとね…るしあちゃん」
中にいるあくあ先輩が再度、部屋の主と思われる人物に向かってそのように呼びかけていた。やはり、間違いない。あの声、話し方は間違いなく【潤羽るしあ】先輩だ。しかも、この部屋の場所がB棟の3階という後方上部に位置することからここがこの船の『船長室』なのだろう。つまり、吾輩たちが今潜入しているこの宇宙船は『宝鐘海賊艦隊の二番船』であると推測できる。
「別に、気にしなくていいですよ。……それよりも、急ぎで報告しなきゃいけないことがあるのです。あくあさんが寝てる間にかなりマズい状況になってまして……」
「まずい、状況……?」
「はいなのです。実はさっき、本部から連絡がありまして……国内で、”侵略者”【ホロベーダー】の幼体が出現したらしいのです」
……ん?今、何て言ったんだ?”ほろべーだー”???
全くもって聞き覚えのない単語に、ラプラスは内心首を傾げる。ホロベーダーとやらの幼体……つまり赤ちゃんが、どこかの国で見つかったってことか?何のことだか、さっぱりわからないぞ。
しかし、そんなラプラスの疑問は解消されないままに二人の会話は進んでいく。
「エッ…つ、遂に、”コメット星”でもあいつらが……?」
「……らしいのです。幸いにも『新生ペコランド』の住人に大きな被害は無かったみたいですが、”ぺこら”たちが大騒ぎしてたのです。今まで、こんなこと無かったのに……」
聞き覚えの有るものと無い単語とが入り乱れ、初めて知った事実の数々にラプラスの頭は限界を迎えようとしていた。だが、今仕入れた情報を何とか処理しようと小さな脳みそをフル回転させる。
まず、『コメット星』。それは先輩方の会話の文脈から、恐らく”彼女らの本部がある惑星”なのだろうと思われる。そして、そこには国が存在しその名は『新生ペコランド』というのだそうだ。また、その国にはるしあ先輩たちの仲間である”ぺこら”と呼ばれた者が居て……ダメだ。情報量が多すぎて、頭がパンクしそう……。
「……とにかく、そういう訳で数時間前とは色々状況が変わってるのです。”例の組織”のところに向かってるマリンたちとも少し連絡を取り直したのですが、一先ず今この船は全速力で本部を目指してます。向こうも当初の予定から大幅に変更して、【沙花叉クロヱ】を”holoXを陥れる交渉材料”に使うことにしたそうなのです」
っ!なんだと!?……新人を、交渉材料に……?
しかも、例の組織ってholoX(うち)のことか?!そこに、マリン先輩たちが向かってるって……一体、何がどうなってるんだ。
「あのholoXを…?……そ、そんなこと出来るの?」
「さあ?それは、マリンたちの腕次第なのです。……でも、もしそれが出来たとしたらるしあ達にとっても朗報なのです。だからその為にも、確実に沙花叉クロヱ及び捕虜12名の移送を完了させなきゃいけません。あくあさんは普段マリンのところの船員ですが、今回は力をお借りしますね」
「スゥーー……う、うん、出来る範囲でね……」
「ふふ、期待してますね……”狂犬さん”?」
るしあ先輩が最後にそう言ったのを皮切りに、二人は他愛もないこと交じりの雑談を始めてしまった。特筆すべき点としては、るしあ先輩があくあ先輩に”彼女たちの目的地”に到着するまでの『船内の見回り』と『捕虜の世話』を依頼していたくらいのものであった。よってヘッドギアの電池残量と、誰かに見つかってしまうリスクを考慮しラプラスたちはその場を静かに離れるのであった。
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「……ここなら、しばらく潜んでいても問題なさそうです」
「ああ、そうだな……」
潤羽るしあと湊あくあの会話を盗み聞きした後、ラプラスたちはB棟の2階にある船員室の一つで鳴りを潜めていた。どうやらここは客船などに設けられてる『客室』のようだ。しかも幸いなことにこの部屋はしばらく使われた形跡は無く、ここでならヘッドギアの充電も出来るし同時にゆっくりと情報を整理できるだろう。とにかく、さっきの話を聞いて未だに脳の処理が追い付かないのだ。
「ラプラス様、大丈夫でしょうか?何やらご気分が優れないようですが……」
衝撃的事実の連続で完全に参っていたラプラスに対し、護衛の彼女が心配して声をかけてくれた。そう言われ、ラプラスは座り込んでいるすぐ横に備え付けられていた”姿見”を覗き込んで自分の表情を確認する。すると、そこには真っ青な顔をしている悪魔の姿が映っていた。
「……よければ、少しそちらのベッドでお休みください。私が見張りをしておきますので」
「ああ……悪いな、頼む……」
部下からの申し出を、ラプラスは素直に受け入れる。室内の中央辺りに置かれている一人用のベッドに腰を下ろし直し、そして少しだけ横になることにした。
(護衛のこいつの前で情けないけど……これなら、多少リラックスしながら考え事が出来そうだ)
ラプラスはそう思い、そっと目を閉じてから思考の海へと意識を沈めていった。
先程の先輩方の会話で新しく知った真実の数々。
その中でも一番衝撃的だったのは、宝鐘マリンが我々holoXとの接触を図ろうとしていたらしいことだ。
今回の件を詳しく聞いた時から、吾輩はずっと疑問に思っていた。何故マリン先輩は、自分たちの組織に無断で潜入していた諜報員たちを”わざと半数も逃がしたのか”と。そこには何らかの思惑があると思っていたのだが、少なくとも『完全な敵意』があるという風には吾輩は感じていなかった。我々holoXを敵視している、もしくは無関心ならばそんな回りくどいことをわざわざする必要が無いからだ。希望的観測も含まれているかもしれないが、それらの不可解な行動の裏にはきっと『手を出されたから仕方なく捕まえたけど、別にholoXと争う気は無い』みたいな理由があるのではないかと吾輩は睨んでいた。でなければ、リスクを負ってまで隊員たちの半分を逃がす意味が無いからだ。
しかし、どうやらその予想は大外れだったらしい。いや正確には、少し前に”外さずを得なくなった”という方が正しい。それは先輩方の方でも、自分たちの予測していなかった”緊急事態”が発生してしまったからだ。
彼女たちが”本部”と呼んでいた、恐らく惑星の名だろうと思われる『コメット星』。そこに存在する『新生ペコランド』という王国には”ぺこら”と呼ばれる先輩方の仲間が居るらしい。いや、もはや”らしい”なんて白々しい言い方は辞めよう。居るんだ、その場所に……あの【兎田ぺこら】先輩が。るしあ先輩がぺこらと呼んでいたのなら、絶対にあの人だ。それに、王国の名前も新生ペコランドなんて確信犯にもほどがある。
そうなってくると、色々と吾輩の中で渦巻いていた疑問符たちも徐々に解けてくることになる。つまり宇宙海賊を名乗る【宝鐘海賊団】とは、王国『新生ペコランド』に帰属する実働部隊なのだ。また吾輩たちがこの潜入で拠点としている倉庫にあった大量の箱の中身から察するに、彼女たちの本来の目的は”海賊行為によって生計を立てる”ことでは無く『お国の為に物資や資源を他の惑星から回収する』ことにあると推測できる。その為に先輩方は、我々holoXを含めた色々な組織や星々から略奪行為を働いているのだ。
だが、そうなってくると問題なのは『何故そんなことをしなければならないのか?』という点である。本来ならば彼女たちにも生まれ育った故郷というものがあるはずであり、そこにもそれなりの資源があったはずだ。そうでなければ、惑星の中で生命が繁栄することなどできない。しかし、先輩方はそれでもこれらの海賊行為を行っている。それは、一体なぜなのか。
カギは、るしあ先輩の言っていた”侵略者【ホロベーダー】”だ。吾輩がこちらの世界でも、あちらの世界でも聞いた覚えのないその言葉。だが名前から察するに、とても穏便なものとは思えない。それに、国内でその者の幼体が発見されたというだけで先輩方が大騒ぎするような存在だ。そいつらこそが、恐らく先輩方がこんな悪事に手を染めなければならない原因なのではないかと吾輩は思う。
(……けど問題は、それが何なのかも吾輩にはわからないってことだな)
ラプラスは脳内で情報を整理しながら、客室のベッドで横になっていた。
結局、先程聞いた話だけではそれ以上のことを知ることは出来ない。いくら予想と予測を立てたところで、それだけで真実に辿り着くことは決してあり得ないのだ。であるならば、そろそろ自分たちの今後の動きについて考えねばとラプラスは思考を切り替える。
(”当初の予定から大幅に変更”……新人を、”holoXを陥れるための交渉材料にする”か……)
るしあ先輩の言っていた、現在のマリン先輩たちの動向。当初の予定とやらがどうなっていたのかは今の吾輩では知る由も無いが、少なくとも現在は我々holoXを完全な敵として認識している。果たして、吾輩たちを”陥れて”どうするつもりなのか……。
(でも……それは、吾輩たちと交渉するつもりがあるってことだよな)
わざわざ自分たちのところに足を運ぼうとしているという事は、必然的に我々と対話する気持ちがあるということになる。ということは、もしかしたら吾輩の望む”友好関係を築く”という道も実現不可能ではないかもしれない。先輩方が何に苦しみ、困っているのかさえ理解できれば……きっと、手と手を取り合う選択も出来るはずなのだ。
「……よかった……」
そう呟いたラプラスは、心の底から安堵が生まれていた。勿論問題に直面している先輩方には申し訳ないことなのだが、それにより我々holoXと宝鐘海賊団が和解・共存できる可能性が出てきたのだ。もしそれを実現できるとするならば、吾輩はいくらだってマリン先輩たちに力を貸そう。むしろ、進んで協力を名乗り出たいくらいだ。それで先輩たちが救われるというならば、吾輩はいくらでも差し出せる。
(その為には、まず本部に居る幹部にマリン先輩たちを迎え入れるように伝えて……いや、その前にるしあ先輩たちに事情を話してもいいか?)
今回吾輩たちの乗ってきた宇宙船には、holoX総本部の指令室と連絡の取れる通信機が積まれている。無線で船内にいる待機組のラプツナズに言って、この旨をルイに伝えて貰えば話も早くなるだろう。それに、先にこの船にいるるしあ先輩とあくあ先輩に話を付けてもいい。むしろそっちの方が、余計なトラブルも起こらなくて済むだろうな。
そう思ったラプラスは、先程までの緊張感が嘘のように解けていた。話せばきっとわかってもらえるだろうし、るしあ先輩と和解できればこの船に捕らえられている仲間も解放されるだろう。なら、早速さっきの船長室に戻らないとな。
(……でも、折角部下が見張りをしてくれてるし……ちょっとだけ、休んでもいいよな)
実はここに来るまでの間に、ラプラスは長い旅路と狭い機内で常に部下達に見られているという事に対する緊張も相まってかなりの疲労が身体に蓄積してしまっていた。しかし一番の心配事であった先輩方の状況についてもその一部が判明し、解決の糸口も見つかった。そのことに気の緩んでしまった総帥は、あろうことか敵地にあるベッドの上で微睡みを纏い始めてしまう。勿論ただ休むだけだし、少ししたら直ぐに先輩たちのところ向かうつもりだか、ら…………ちょっと……だ、け…………。
ーーーーースヤァ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「そ、それじゃあ……あてぃしは、捕虜のお世話に行ってくるね…」
「はい、お願いしますなのです」
彼女はそう言うと、そそくさと部屋を出て行ってしまった。あの人はどうにも、この宝鐘海賊団の一番船副船長を任せられる程の実力を持っているはずなのに何故かいつも自信なさげに振舞っている。マリンからもきちんと認められた人材なのだから、もう少し自分をしっかり主張してくれてもいいのに……。
そんなことを、再び孤独になってしまった潤羽るしあは一人船長室で考えていた。しかし、その寂しい気持ちは今回に限り直ぐに取り除かれることになる。
ーーーーースッ。
突如として、音も姿も無くこの室内に来訪者が現れる。凡人からすればそこには何もなく、”その者”の存在にすら気が付かない。……ただし、彼らの『長』である彼女だけは別である。
「あら、お疲れ様なのです」
誰にも知られず、見つからない。
否、一般人では見つけることも感知することも”出来ず”、そこに居るだろうという発想すら湧いてこない。しかし、確かに『彼ら』はそこに存在していた。
「……ん?そんなに慌てて、どうしたのです?」
「ーーー」
「えっ……それ、本当?!」
まさか……この期に及んで、何で”彼女たちがこの船に”……。
たった今告げられた真実に、るしあは動揺を隠せないでいた。当初にマリンたちから聞いていた話と違う。奴らとはマリンが話を付けてくれる事になっていたし、少なくともこちらの居場所を察知できないはずでは……。
「~~~~」
「えぇ、わかってる……」
今は、冷静さを欠いている場合ではない。
それに考えようによっては、これはこれで好都合かもしれない。こちらとしても今面倒事を起こされたら困るわけで、コソコソしてるところをみるに少なくともこちらとの争いを大事にするつもりは無いと思える。加えてこの子の言っている”『ラプラス様』というのが本物だとしたら”、尚更話が早い。
「今、その人たちがどこにいるかわかる?」
「ーーー……~~~~」
「そう……全部で”5人”、その内3人はB棟の船底倉庫ね。了解」
そんなところに、一体どうやって侵入したのやら……。けど残念、るしあには絶対”『かくれんぼ』では勝てない”のです。特にこの船の中でなら、ネズミ一匹見逃すことはない。
「ここは私の領域……直ぐに残りの二人、【ラプラス・ダークネス】の居場所を突き止めて。そしてるしあをそこに案内するのです」
「ー~ー」
私がそう言うと、彼は直ぐに他の仲間たちにその旨を伝えに行ってくれた。あの子達には障害物の有無なんて関係ないというのに、わざわざ扉から出ていくなんて律儀なこと。まあいいや、そんなことよりもこの事を早くマリンたちに伝えないと。
そう思ったるしあは、サッと後ろに設置されている自分用の机の方に振り返った。
ーーーしかしそこに、思わぬ客人が座っていたことに気が付く。
「”ここは私の領域!!”…………相変わらず、るしあちゃんはそういうのが好きなんだな。”我輩”にはその感性がよくわからないぞ」
わざとらしく、先程の私の言葉を誇張するように彼女はそう言った。それを大きなお世話だと思いつつ、るしあは招いてもいないのに突然現れたその人物にめんどくさそうに声をかける。
「はぁ……そっちこそ、いきなり現れないで欲しいのです。それにそこるしあの机、勝手に座らないで」
小馬鹿にされたことを全く気にしていないという風に振舞い、未だ私の机の上で足を組みながら座っている彼女を叱る。こいつも、いつもいつも一体何処から湧いてくるのやら。
「もーごめんって、そんなに怒らないでよるしあちゃん。同じ”魔界学校のよしみ”でしょ?」
そう言って彼女は、ピョンと身軽に机から飛び降りる。そして、部屋に備え付けられているソファーに腰かけた。
確かにこの者の言う通り、私と彼女は遠い昔『魔界』にある同じ学校に通っていた幼馴染である。まあその時から自分勝手な奴ではあったのだが、今でもそれは変わらない。普段は碌に連絡も寄越さないくせに、こういう時に限って何処からともなく現れる神出鬼没な子なのだ。もっとも、それは彼女の悲しき過去が関係しているわけなのだけども……。
「……でも、それこれとは話が別なのです」
そう文句を言いつつも、るしあはアポなしの訪問者に対し手慣れた様子で魔力を混ぜ込んだお茶を出す。こうしなければ、特殊な体質である彼女は飲み物を口にできないのだ。
「お、なんだかんだ言いつつお茶出してくれるんだな~。我輩、るしあちゃんのそう言うところ嫌いじゃないぞ!」
「だまれ」
口の減らない彼女を適当にいなしつつ、るしあも自分の船長席に座る。このように無駄口の尽きない子だが、私は決してこの目の前の人物を軽視しているという訳ではない。それに普段顔を見せないからこそ、今日こうしてこの場を訪れたことには何かしらの意味があるのだろう。
「……それで、今日は何の用事で来たのです?」
「さっき話してたのって、もしかして前にるしあちゃんの言ってた”下僕”達?我輩には全く姿が見えなかったんだけど!」
折角話を切り出しやすいようにその場の雰囲気を作り出したのに、私の気遣いはあっさりと無視されてしまった。……まあ、それももういつものことだ。この子の自由奔放さにはもう慣れてしまった。時折苛ついてしまう時もあるけど、大人であるるしあがこういう時も冷静に対処しないと……。
「下僕じゃない……るしあの”ファン達”なのです。さっきのはその中でも『霊体部類』の子だから、るしあや適性のある人にしか見えないのです」
「ほぇー、それも降霊術の力ってやつ?相変わらずるしあちゃんのネクロマンシーは凄いな」
この船には二種類の船員……るしあの可愛い【ふぁんでっと】たちが乗船している。一つはさっきの子の様な『霊体』に分類される者達。一般的には”おばけ”とか”幽霊”と呼ばれることが多いけれど、彼らに限っては私の持つ力によってこの世界に結び付けられている魂の欠片たちだ。勿論無理矢理現世に呼び止めているわけではなく、きちんと合意を取った上でるしあのお手伝いをしてくれている。もう一つの”死体さん”達は結構自分勝手なのだが、彼らは共通して『潤羽るしあの忠実なる下僕(ファン)である』ことには変わり無かった。
「そんなことよりも……いい加減、本題に入ったら?るしあも今はある組織のことで急いでいるのです」
いつまでたってもここに来た理由を話さない彼女に対し、るしあは流石に憤りを感じ始めていた。現在この船に侵入者が居るという話だし、あんまりこの子に付き合う時間は無いのだ。
ーーーーしかし、事を急いている私に対し彼女は信じられない言葉を口にした。
「ある組織って……もしかして、”るしあちゃん達の星に【ホロベーダ―】を送り込んだ”っていうあの秘密結社holoXのことか?」
一瞬、るしあは何を言われているのかわからなかった。
思わず目を見開いて、先程耳に届いたその言葉たちをゆっくりと嚥下していく。今尚私達の故郷を食い物にし、みんな苦しめ続けているあの''害虫''をるしあたちの惑星に放った張本人が……『あの組織』だというのか。
「それ……それって、本当なの?!”魔乃ちゃん”!!」
そんな叫び声が、静かな船内に深々と鳴り響いた。