転生したらラプラス・ダークネスだった件 作:飽和水溶液_pixiv
【追記】
今回は久しぶりに深堀シリーズやります。本日の題材はずばり、『沙花叉クロヱの暗殺道具について』です。前回の話でラプ様が勝手にクロヱさんの銃を使ってしまったらしいですが、他にも新人愛用の武器等があるのでご紹介します。
沙花叉クロヱは秘密結社holoXの暗殺部門に所属しており、組織の掃除屋として日々任務をこなしています。そんな中で、任務遂行に欠かせないのが彼女が愛用している"暗殺道具たち"です。それは普通の自動拳銃や大きな刃の付いたサバイバルナイフ、更には食用のフォークやナイフなんかも使用されます。特に、後半二つの物やワイヤーなどの『音を出さずに人を殺せる得物』をクロヱさんは重宝しているらしいです。
しかし、それはあくまで『好み』であり、こと刃物・鈍器・火器を含めた全ての"武器の扱い"に関して組織で彼女に敵う者はいません。時にはスナイパーライフルや小型ミサイル等も高水準で扱えます。敵を一掃できるという意味でも、沙花叉クロヱは掃除屋なのかもしれませんね。
「なんだよ、ここ……」
薄暗い室内をヘッドライトで照らすと、そこには異様な光景が広がっていた。部屋の中で規則正しく円形の水槽の様な装置が立ち並び、その中は緑や黄色に変色した謎の液体で満たされている。中央には冷たく平坦な手術台が置かれており、その上にはメスや針の刺さった”人型の何か”が転がっていた。またその周りや壁付近には人ひとりが入り込めそうなくらいの大きな箱が散乱していて、一部の”蓋が開いている”ものからは枝のような形をした肉の塊が覗いていた。
「…………まるで、何かの研究室みたいだな……」
ラプラスがそう思った理由は、その水槽から伸びるケーブルが何らかの装置とパネルに繋がっていたのと、何より甘い匂いに紛れて部屋中からするアルコールなどの薬品の匂いであった。holoXの本部にあった『こよラボ』で嗅いだものと似ている気もするが、こちらの方がずっと刺激が強い。
ーーーだが、この部屋が本当に”異様”で、常軌を逸している要因は他にあった。
「あっちも、こっちも、コレの中身もか?…………なんでこんなに、”死体が保管されてる”んだ…?」
黄ばんだ液体の満ちる水槽の中、赤黒い血の滴る手術台の上、大きく蓋の付いた箱……『棺桶』の中、その全てに種族性別問わずの『死体』が存在していた。どうやら、先程棺桶の中から覗いていた枝のような肉塊は人の”腕”だったようだ。手術台の上に寝転んでいた奴も、恐らく術中なのかお腹と頭が切り開かれたままになっている。また水槽のモノは液体に漬かっているせいか、身体の所々が水膨れを起こしていて特に腐敗が酷い。
「気色悪いな……いい趣味してるぜ、この部屋の主は」
「あの、変な臭いの原因はこれか……」
ラプラスはそう言いながら、目の前に広がる光景に思わず固唾を呑んだ。
一説によると、ある特定の条件下にある死体から発せられる死臭からは甘い香りがすると言われている。本来腐った肉からは吐き気を催す様な腐敗臭がするもので、そう感じたと語る者の証言に確たる証拠はない。腐敗防止剤の匂いなのか、はたまた死体に集まる微生物や虫たちによって発せられるものなのかも定かではない。しかし、少なくとも今のラプラスにはそれが不愉快なほど甘ったるく、気分の悪くなるほどベッタリと纏わりつくような香りに感じられた。
「いくら切羽詰まってたとしても、流石にここに隠れ続けるのはごめんだぞ……」
そう思ったラプラスは、座り込んでしまっていた床から立ち上がった。状況から考えて、この部屋は恐らく【死体保管庫兼潤羽るしあの研究室】といったところだろう。ネクロマンサーであるるしあ先輩が、本業をこなすための作業室なのだ。
また先程この部屋に逃げ込んだ時に、何故か自分の後を追いかけていたゾンビたちの追手が少なくなったような気がしていた。その時はラッキー程度に考えていたが、多分奴らはこの部屋には近づけないのだろう。るしあ先輩の指示なのか、ゾンビたちはここに立ち入り出来ないのかもしれない。
「折角いい隠れ場所だと思ったんだけどな。勿体ないけど、こんな部屋からはとっととおさらばして……ん?あれなんだ?」
不気味な部屋を後にする為、ラプラスは入って来た扉の方を振り返ろうとした。しかしそこで、ふと部屋の奥の方でぼんやりと明かりが灯っていることに気が付く。それがなんとなく気になり、正体を探るべく少しだけ足を運んでみる。すると、そこには背もたれ付きの椅子と上に大量の本や資料が置かれた机が設置されていた。
「これ、もしかして全部るしあさんのか?よくわからん本がこんなに……」
ラプラスがその机の前に立つと、正面の壁には人の解体図や魔法陣の図などが張り付けられている。またその机の両脇には本棚があり、中には魔術・降霊術・呪術、はたまた医学や科学に関する資料等がびっしりと収められていた。
しかしこれらについて学も無く、何だったら興味も無いラプラスにはこれらの価値も有用性も知ることは出来ない。よって、何か自分でもわかるような情報でもないかとそれらのずらっと並べられた書物をサッと流し見る。すると、ある程度見渡したところで机の真ん中で開きっぱなしになっていた一冊のノートに目が留まった。
「これは……るしあさんの字、なのか?『降霊術に関する有用性』、『魂の転写』、『死者蘇生について』……凄いな、全部のページに文字がびっしりだ」
ノートの内容が気になったラプラスは、それを手に取ってパラパラとページをめくって読んでみる。すると、どうやらそれらはるしあ先輩自らが書いた勉強内容や降霊術等の実験結果をまとめたものであった。しかも、その一つ一つがこれでもかというほど突き詰めたところまで記されていてるしあ先輩の勤勉さが窺える。インクで紙がよれよれになっていたり、重要なところなのか何度も読み返された形跡まであった。
「ハッ。この部屋の主は、随分といい趣味してると思ったが……どうやら、本人は至極真面目にそこらの死体と向き合ってたみたいだな」
「そうみたいだな。まるで、何か目的があったんじゃないかってぐらい……ッ!」
ノートを読んでいるラプラスを見て、烏も気になったのか机の上に降りてきて同じようにその中身に目を通し始めた。しかし、そこでラプラスはその文章の中に”とある人物の名前”を発見し小さな驚愕を得ることになる。
「”不知火、フレア”………!!それにこっちには、【ふぁんでっと】についても書いてあるっ」
ラプラスが手を止めたページには、自分の良く知る先輩の名前が書かれていた。しかもそれだけではなく、隣の面にまたがって聞き覚えのあるふぁんでっとについての詳細事項も書かれていた。そう言えば、さっきA棟とB棟を繋ぐ連絡通路でも彼女はゾンビたちのことをそう呼んでいたっけ。
ふぁんでっと。
それはラプラスが元いた世界で、ホロライブに所属していた潤羽るしあのリスナーたちの総称であった。ホロライブメンバーの配信を見て、その人のファンを名乗る者達にはそれぞれの呼び名がある。吾輩で言えばそれが【ぷらすめいと】にあたり、るしあ先輩にもまたそう呼ばれるファン達が存在していた。
『不知火フレア』に、『ふぁんでっと』。それらは今のラプラスが元いた世界でも馴染みのある名前や単語であった。またそれらの記載を発見したラプラスは、そのノートに対する興味が尽きなくなる。どうやらこの辺のページには幾つかの実験結果をまとめつつ、るしあ先輩の簡単な”日記”になっているようだった。
「人の日記を勝手に盗み見るのは気が進まないが……これは、流石に読み込んでみないとダメな奴だよな」
そう思ったラプラスは、心の中でるしあ先輩に謝りつつ背もたれ付きの椅子に腰かける。そして、卓上に置いてあったアルコールランプを近くに引き寄せてから数十ページにも及ぶその内容を読み始めた。尚、以下はその内容の要点をまとめたものだ。
『
…………先日もまた、惑星【ふぁんたじあ】に遠征に向かった調査隊がホロベーダーの攻撃を受け全滅した。これで、犠牲になった人々は何万…いや、何億人に及ぶのだろう。もはや、あの星は奴等の住処と化していて人が安全に住めるような星ではなくなってしまった。私にとっても第二の故郷と呼べる場所ではあるが、今や緑の溢れていたあの星の姿は見る影もない不毛の大地となっている。衛星【コメット】に人々が移住してから約六十年。新生ペコランドもかなりの発展をしてきているが、未だ侵略者どもに付けられた傷跡は残ったままだ。………………絶えず続けた調査と研究の中で、ホロベーダーの生態について分かったことがある。それは、長年謎であった奴等の繁殖方法だ。どうやら一部のモノ達は殺したり、喰らったりした人々の『魂』を利用し誕生しているらしい。これは魂を視ることが出来る私と、一緒に調査に出ていた【不知火フレア】船長……いや、元船長との見解によるものであった。…………今日、マリンから宝鐘海賊団二番船の船長をして欲しいと頼まれた。二番船の船長は元々フレアで、るしあは副船長だというのに。第一、私はホロベーダーの犠牲になった人達の『死者復活』の研究があるっての。そんな暇は無いのです。…………私がここ数十年をかけて進めていた研究にようやく進展があった。失われてしまった命を取り戻すためと足掻いた日々に、ようやく成果があったのだ。魔界学校での学びの日々がこんなところで役に立つとは思わなかったが、やはり死者の復活と降霊術は『魂』という懸け橋によって結びつけることが出来る。ヒントは、魂を喰らい生まれるホロベーダー……【ファントム】にあった。全く皮肉なことだが、私の望む『朽ちた、あるいは滅んだ肉体からその魂を転写し間接的に人を蘇生する方法』と『喰らった魂を転化し新しい生命として誕生させる繁殖』には多くの共通点があったのだ。これは、この間渋々引き受けた宝鐘海賊艦隊二番船の船長代理をしながらも研究を続ける必要がありそうだ。
…………うまくいかない。何もかも、うまくいかない。最初から分かっていたことだ。一度肉体から切り離されてしまった魂を、意識的に再度別の器に移すことなんて本来は不可能だ。しかも、その中から特定の者だけを選別して降ろしてくるなんて天才ネクロマンサーのるしあをもってしても無理なのです。そんなことが出来たら、もはやそれは神の所業だ。
”マリンの例では上手くいった”のに、どうして……あっ。もしかして、それが原因とか……?
…………。
…………。
ーーー本当に、うまくいくとは思わなかった。まさかとは思ったが、よもや”こんなこと”で魂を現世に繋ぎ止めることが出来るとは…。しかし、未だこの『死者復活』の方法は完全であるとは言えない。あくまで魂に宿る意識と肉体とが繋がり、血が通って思考と感情が生まれる状態こそを『生きている』と定義するべきだ。その点から考えれば、今回誕生した被検体は肉体はともかく思考と感情が足りていない。だが、これが大きな一歩であることには変わりない。私は彼らを【ふぁんでっと】と名付け、経過を見守ろうと思う。
『【ふぁんでっと】について』
実験の結果、約百体程のふぁんでっとの生成に成功した。その中で、幾つか分かったことがあるのでここにまとめておこうと思う。まず初めに、彼らは大きく分けて二種類の者達に分類することが出来る。一つは肉体を持ち、ある程度”自立”することのできる『死体さん』達。そしてもう一つは自ら思考をし、人間と同じように感情を持ち合わせた『幽霊さん』達だ。
まず前者については、一番初めに魂の一部を転写することに成功した者だ。黄泉の世界より降霊術によって召喚した魂を、試しに既に死んだ者の体に入れてみたら上手く適合した例である。性能としては肉の体を持っているため自立することが可能で、最低限の意思疎通を可能とする。また普段は脳が無意識に制御している力のリミッターが働いていないためか常人よりも腕力に優れ、仮に手足が千切れるような怪我をしたとしても痛がる素振りは無い。それは恐らく、人の体はあくまでただの『器』でありそこに脳を通しての痛覚等が通っていないからであると思われる。
しかし欠点もあり、一つは知能が低すぎること。そしてもう一つは肉体が日を重ねるごとに腐敗していくということだ。先程簡単な意思疎通は可能と記したが、それはあくまで”はい””いいえ”を答えられる程度である。総合的知能指数でみるならば、言葉を理解する分家畜動物より多少利口なくらいか。また肉体の腐敗も深刻であり、何とか腐敗防止剤を使って食い止めてはいるもののそのうち肉片がその身体から腐り落ちていくだろう。
次に後者について。幽霊さんは前回の反省を踏まえ、”知能レベル”と”人らしい感情”を保つことに着目しながら実験を行い成功した者だ。こちらに関しては既に失われた魂を降霊術によって降ろすのではなく、現世に漂っていたり”つい先ほど滅んだ肉体”から出てきた魂を使って作り出している。結果から見れば彼らは自ら思考し、私との会話にも一喜一憂の反応を示した。人との会話が成り立つという事はそれだけの知能があり、またそれらに対してリアクションがあるという事は感情があるという事になる。これは、非常に良い傾向だった。
しかし、こちらにも致命的な欠点があった。それは自立するための『肉体』が無いこと。どういう理屈なのかいまだ解明できていないが、何故か現世にある魂と他の器を直接繫ぎ合わせることはどうやら不可能なようなのだ。何度か試してみたがどうやっても器の四肢が爆散するか、あるいは魂が発狂し消滅してしまう。またこの幽霊さんたちは魂を視ることが出来る、あるいは霊感の強い者にしか”視認することが出来ない”。壁や床なども問題なく貫通できるところから、完全な『霊体』であるという事がわかるのだ。ーーーー』
そこまで読んだラプラスは、そっとノートを閉じて天を仰いだ。フレア先輩やふぁんでっとについて少しでも情報を得ようと思い読み始めたわけだが、それらの内容は想像以上に重要で今のラプラスにとってはとても無視できないものが含まれていた。
「……そうだったのか。だから、この船には副船長が……いや、”船長が不在”だったんだな」
宝鐘海賊団の二番船、その船を管理する船長は本当は【不知火フレア】先輩だったのだ。そして、本来は副船長であったはずのるしあ先輩が何らかの理由で現在は”船長代理”をしているらしい。それこそが、宝鐘海賊艦隊の中で不自然に二番船のみ副船長が不在であった理由。
「宝鐘マリン、潤羽るしあ、そして兎田ぺこらに不知火フレア……見事に、ホロライブの三期生が勢ぞろいだな。そうなってくると、今フレアさんがこの船に乗ってないのはもしかして”ノエルさん”が関係してるのか……?」
事前情報とこの船に潜入してから新しく得た人物の情報を照らし合わせていくと、今回の件に関係する者達の全貌が見えてくる。それに、ずっと謎だった侵略者【ホロベーダー】ついてもだ。
吾輩はるしあ先輩とあくあ先輩の会話を聞いて、彼らこそが先輩方が悪事に手を染めなければならない原因であると睨んでいた。そして、この日記を見る限りその予想は正しかったという事になる。先輩方の故郷、惑星【ふぁんたじあ】を襲ったというホロベーダー。彼らの侵略により故郷を追われることになった彼女たちは、衛星【コメット】に移住した。それから既に80年以上の月日が流れていて、今尚その脅威は排除できていない。
「……そして、そのコメット星とやらで生活するのに必要な資源調達の為の宝鐘海賊団か……皮肉な話だな」
侵略者に奪われたから、自分たちも他から奪って生きる。何とも皮肉な話だ。
しかし、吾輩はそれを責める資格も権利も無い。それに、同情の余地しかないとも思う。先輩たちも、決してそんなことをしたくてしてるわけじゃないだろうし……そもそもの話、全てはそのホロベーダーとやらが悪いのだ。
ラプラスは、未だ見ぬ侵略者たちに思わず歯軋りするほどの怒りを覚えた。自分にとって、かけがえのなく大切な人達を苦しめるその害蟲を。
「ーーそれにしても、ホロベーダーとは……また、えらく懐かしい名前が出てきたな」
……しかし、そこでふと机の上に居座っていた烏が嘴を開いてそんなことを言い出した。
「はっ……な、懐かしい、だと!?おい烏、お前ホロベーダーについて知ってるのか?!」
烏の発した言葉に、ラプラスは驚愕する。それは今の自分が知らず、この世界の住人である烏が知っているその侵略者について嫌な予感がしたからだ。るしあ先輩が言っていた、ホロベーダーはholoXが……吾輩、ラプラス・ダークネスが仕向けたものではないのかと。そういう疑いがかけられている中で、烏のその”懐かしい”発言。それが、最悪の事実を告げるのではないかと。
「ーーーー」
そして、案の定烏がラプラスの質問に対し明らかに”しまった”という表情をしていた。思わず、口が滑ってしまったというかの如く。
しかし、少しの静寂のあと烏が落ち着きを取り戻した態度で話しを始めた。
「……ホロベーダーとは、その昔『魔王』と呼ばれたある大悪魔が作り出した存在だ。奴らは生けるものを喰らい、無限に増殖する悪魔の兵器……ある地域では、奴らのことを”侵略者”と呼んでいる。しかし当時のその魔王も、今はーー」
「いや、いやいや、ちょっと待て。待てって……吾輩が聞きたいのは、そんなことじゃない……」
烏が語りだしたホロベーダーという存在について、ラプラスはその生態等には興味が無かった。今、ラプラスが聞きたいことはたった一つ……そのホロベーダーの襲撃と、秘密結社holoXに”関係があるのか”という事だ。
「……烏、正直に答えてくれ。その、ホロベーダーと……吾輩たちholoXは……何か、関係があるのか?」
自分が知らなかったというだけで、もしかしたら万が一にも先輩たちを苦しめているのが自分たちのせいではないかとラプラスは心配していた。大悪魔が作り出した害蟲、その単語を聞くだけで嫌でもラプラスの悪魔の所業であるという予感がしてしまうのだ。
ーーだが、今回ばかりはその予想がハズレであったことを烏が示してくれた。
「ーーー断言する。今回のその惑星が襲われた件と、お前らholoXの悪行は無関係だ。第一、holoXが星の征服を始めたのは10年前ぐらいの話で、この日記の話は80年も前のことなんだろ?」
その言葉を聞いて、ラプラスは自分が抱いていた不安が一瞬にして消え去る感覚を覚えた。強張った体から力が抜け、冷や汗をかきつつもその場でおもいっきり脱力する。
「な、なんだよもぉ~……。紛らわしいな、滅茶苦茶不安になっただろ…」
「んん?なんだよ、あるじ様が気になってたのはそこかよ。……話の続きは、聞かなくていいのか?」
「んーいや、その件に吾輩たちが関係ないなら今はいいや。…………それよりも、そろそろこれからどうするかについて考えないとな」
想像していた最悪の事態は自分の勘違いだったと知り、ラプラスはホッとする。そしてさっきの烏の話も若干気にはなるが、その件にholoXが関係ないという事なら優先順位は低いと考え話の続きは後回しにすることにした。第一、日記の内容が衝撃過ぎて忘れていたが、吾輩たちは今ゾンビ達から逃げ隠れしている真っ最中なのだ。
「……そう言えば前半部分ばっかり気になって疎かになってたけど、後ろの方のも大事なことが書いてあったよな」
先程読んだるしあ先輩の日記には、侵略により失われた人々を蘇らせる為の『死者復活』の実験に関する記載もあった。それらは部分的に成功しているようで、流石はネクロマンサーであるるしあ先輩だなと素直に感心する。またその副産物として、この船の徘徊しているゾンビを生み出したという話だった。
「ああ、今のあるじ様にとってもそこそこ重要なもんがな。……ふぁんでっと、あのゾンビや幽霊どもがまさかあのまな板娘の作り出した兵隊たちだったとはな。どうりで、この船にはそこら中に魂が浮遊してると思ったぜ」
「おい、そのまな板娘ってまさかるしあさんのことじゃないだろうな。それ、本人の前では絶対に言うなよ?……って、おい烏。お前もしかしてこの”『霊体』のふぁんでっと”ってやつが見えてるのか??」
「ん?見えてたぜ。今この部屋にはいないようだが……最初にあるじ様たちが潜入した倉庫の中にも、何体か居たぞ」
「はぁ!?お前それ最初に言えよっ!!……でも、なるほどそういうことだったのか。だから吾輩たちの動向が、ずっと先輩たちに筒抜けだったわけか」
日記によれば、るしあ先輩の作ったふぁんでっとには二つの種類が存在する。そしてそのうちの一つに、壁や床等をすり抜けることのできる霊体の者達がいるそうだ。しかし彼らはるしあ先輩か、霊感の強い者にしか視認することが出来ないという事らしい。
だが今となっては、その存在を疑うことも無い。先輩のネクロマンサーとしての力は勿論、どこへ逃げても見つかり端から吾輩たちの潜入に気が付いていた点から考えると、十中八九自分たちはその幽霊さんとやらに監視され続けていたのだ。それこそが、暗殺部門とラプツナズがその存在を発見された真実の全貌だろう。
「わかってみれば、中々に初見殺しな海賊船だな。そりゃ透明になってても見つけてくる船長に、逆に視認できない幽霊が徘徊して監視してるような場所じゃ潜入任務なんて無理だよな」
「そういうことらしい。……だが、それは今の俺らも変わらないぞ?どうすんだよ、あるじ様」
烏にそう問われ、ラプラスは考える。自分たちが見つかってしまうからくりが分かったところで、それをどうにかする手立てがあるわけではない。未だに吾輩たちは一人と一匹だけで、八方塞がりなのだ。
……しかし、今のラプラスにはもはや迷いが無かった。るしあ先輩に怒りをぶつけられ、多少なりとも自分たちの在り方を見直した。だがそれがただの勘違いで、かつ先輩方が何を抱えているのかを知ったのだ。ならば、後は場を整えてからるしあ先輩たちをきちんと説得すればいいだけ。
フブキ先輩との交渉で学んだ、その手段で全てが片付くはずだ。
「そのために必要なものは……『戦力』と『状況』か……」
そう呟いたラプラスは、徐に座っていた椅子から立ち上がる。そして、目の前に置かれたるしあ先輩のノートを懐にしまってから相棒に向かってこう言った。
「烏、行くぞ。……まずは、捕まってる新人のやつを助けにな!」
holoXを代表する掃除屋、沙花叉クロヱを救出するとラプラスはそこに宣言した。