転生したらラプラス・ダークネスだった件   作:飽和水溶液_pixiv

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このシリーズが楽しくなっちゃって、連日書いてます。
どれくらいの長さになるとか全く決めてませんが、もうしばらくお付き合いください。

追記
Holoxの表記が公式では『holoX』であることに最近気が付いたので、できる限り修正しておきました。もしまだ残っていたらすみません。


第04話 天才科学者と腹ペコ狐

 

黒上フブキ。

それは吾輩が元いた世界で、ホロライブに所属していた白上フブキ先輩の同居人の名前だ。容姿はフブキ先輩にそっくりなものの、性格や好みなどは全く違う人だった。吾輩もちゃんと話したことは一度くらいしかなかったが、その存在はちゃんと認知していた。

 

よく考えればおかしな話でもなかったが、吾輩や幹部のようにこの世界にもholoXが存在するなら……他の彼女”たち”が存在していても何も不思議はない。これもまた運命なのかもしれないな。

 

しかし……出会い方が違うだけで、こうも関係が変わってしまうものなのか。あの時の黒様は親しげというわけではなかったにしても、少なくともこちらをこんなに睨んででくるような人ではなかった。何なら少し親切にしてもらったくらいだ。それなのに……

 

 

「ねえラプ、”くろかみふぶき”って……これの名前?それに、他の二人も……」

 

 

「ああ、それはそいつの名前だ。……それと、白上フブキはそいつの言ってた王様の名前で、大神ミオはその配下の獣人部隊の隊長の名前だな」

 

 

「……なんで、お前がそんなこと知ってるんだよ」

 

 

さっきまで暴れて、怒鳴り散らしていた黒様が、フブキ先輩の名前を出した途端に大人しくなった。ようやくこちらの話を聞いてくれる気になったようだ。

 

 

「吾輩は天才だからな、何でも知ってるんだよ。……それよりも、会いたいんだろ?その二人に。直ぐに開放はしてやれないが、その二人のところに吾輩を連れて行くって言うなら、お前を含めたその三人に関しては命を保証してやる」

 

 

などと、言っている自分が気持ち悪くなるようなセリフを言い放った。

あくまで、こちらはフブキ先輩たちの星を侵略した側だ。そして、それがholoXの手中に堕ちている時点で勝者は我々だ。であるならば、それ相応の態度でいなければならない。

 

黒様は吾輩の言葉を聞き、少し悩んでいる様子だった。果たして、目の前の悪魔の言う事を素直に信じるべきか……。

そして少しの沈黙の後、黒様が再度こちらを睨みながら口を開いた。

 

 

「……お前の言ってること、本当だろうな」

 

 

「ああ本当だ。吾輩の名に誓って、白上フブキ・大神ミオ・黒上フブキ……この三人に関しては、手出ししないと約束する。勿論、そっちにも吾輩の要求を吞んでもらうけどな」

 

 

「要求だと……内容は?」

 

 

「黒s……お前に関しては、吾輩を白上フブキの下に案内して話を通してもらえればそれでいい。残りのことはそいつに頼むから、お前は知らなくていいことだ」

 

 

あ、危ない……うっかり黒様って呼びそうになった……。でも、ギリギリごまかせたよな…?

 

 

 

 

 

 

「…………………………わかった、お前をあいつのところまで案内する。」

 

 

黒様が長考の後、本当に渋々といった感じでこちらの提案を承諾してきた。

ひとまずこちらの目的は話したし、これで理由もなく暴れだすこともないだろう。

 

 

「いい決断をしたな。……そういうわけだから幹部、他の奴らにも伝えとけ。こいつはたった今より吾輩の捕虜兼庇護対象になる。丁重に扱うようにってな。……それと、こいつの手足のケガもちゃんと治してやってくれ」

 

 

「……総帥がそう言うなら、わかったわ。あなたの判断に従う」

 

 

……てっきり、何か言われると思っていたんだがな。

さっきから吾輩は、幹部の意見を我儘でも言うかの如く拒否し続けている。そろそろ愛想でも尽かされたのだろうか……。

 

 

 

しかし、そんな心配をしているラプラスを他所に、総帥から命令を受けた幹部はテキパキとそれをこなし始めた。外に待機させていた眷属たちを呼び、黒様の拘束を外させる。そして、そのまま医務室へ運ぶように指示を出した。

その間、黒様が暴れだすことは無かった。

 

 

 

 

眷属たちが黒様を連れて行った後、部屋の中には吾輩と幹部の二人きりになってしまった。

ラプラスの決断に何も言わなかった幹部に対し、後ろめたさから気まずい雰囲気になってしまう。その空気に耐えかねて、吾輩の方から口を開く。

 

 

「あの、幹部……」

 

 

「ん?どうしたのラプ」

 

 

吾輩の問いかけに対し、幹部は思っていたよりも明るい声で返事をした。そのことに少しだけホッとしつつ、言葉を続ける。

 

 

「幹部は……吾輩の決めたことに、何も言わないのか……?」

 

 

珍しく不安そうに聞く吾輩を見て、幹部は呆れたような顔をした。

 

 

「え?何よ今更……ラプが自分勝手なのって、今に始まった事じゃないでしょ。それに……別に、私はあなたの意見を否定したいわけじゃないのよ?ただ、holoXの”大幹部”としての立場上あなたの身を案じてるだけ……ラプラスは今まで通り、自分のしたいようにすればいいわ。ちゃんと着いて行けるように私も頑張るから」

 

 

そう言いながら、ルイが吾輩に微笑んでくれた。

どうやら愛想を尽かしたなどというのは、吾輩の杞憂だったようだ。彼女はあくまで、立場上の仕事をしているだけであって決してラプラスの意見を無下にしたいわけではない。むしろ、進んでラプラスを尊重したいのだ。そんなちょっとやそっとの我儘で切れるほど、やわな関係ではない。いついかなる時でも総帥の望みを叶えられるように……そのためにこのholoXという組織を成長させ、大幹部という役職に就いたのだから。

 

幹部のその言葉を聞いて、ラプラスも思わず笑みがこぼれる。

 

 

「……ありがとな、幹部」

 

 

「どういたしまして、総帥」

 

 

今この瞬間だけ、吾輩の良く知る世界のよく知る幹部の姿が、目の前に現れたような……そんな感覚に陥った。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

黒様の件がひと段落し、吾輩と幹部は食堂で昼食をとっているところだった。

今朝に比べ頭も気持ちも多少なりともスッキリしていたラプラスは、朝食を残していたこともあって食欲を感じていた。

 

しかも、お昼は吾輩の好物なメニューとなっておりフォークとナイフが止まらなかった。どうやら先程の眷属の男が、今朝の吾輩の食事の様子を見て気を利かせてくれたらしい。早速、良い働きぶりを発揮してくれたみたいだな。

 

 

「……ところでラプ、さっきの捕虜の件なんだけど……よく王様の名前とか知ってたわね」

 

 

ハンバーグに舌づつみを打っていると、幹部が突然そんなことを言ってきた。

その内容にドキッと動揺しつつ、ラプラスは答える。

 

 

「ま、まあな。吾輩天才だから……」

 

 

「私が見落としたのかもってさっき報告書を読み返したんだけど……王や部隊長の特徴については書いてあっても、名前までは載ってなかったのよねぇ…………もしかして、いろはから聞いてたの?」

 

 

「えっ!?……あーうん……まあ、そんなところだ……」

 

 

「そう……なら、後でいろはを叱らないとね。相手の名前がわかってるのに、それを報告書に書かないなんて不備にもほどがあるわ」

 

 

いろはすまん。

未だ会ったことの無いこちらの世界の用心棒に対し、ラプラスは心の中で両手を合わせる。幹部の説教は長いと有名だが、恐らくこちらでもそれは変わりないんだろう。南無。

 

 

そういえば、まだこの世界のいろはに会ってなかったな…………あっ!忘れてた!!吾輩たち、こよりを探してるんだった!

 

 

「そ、そういえば幹部。今、博士がどこにいるかわからないか?」

 

 

吾輩が元の世界に帰るためには、博士の協力が必要不可欠だ。装置を作るにも時間がかかるだろうし、早めに相談して仲間に引き込んでおきたい。

 

 

「あら、こよりに用でもあるの?それなら丁度、例の黒上フブキの惑星に任務で出かけてるわよ。地質とか資源についての調査でね……急ぎの用事なら、その白上フブキに会いに行くときについでに会ってきたら?」

 

 

なんという偶然。

明日にでも向かう事になったフブキ先輩たちの惑星に、既に博士も行っているようだ。吾輩の件に関しては、その時にでも相談すればいいか。

 

 

「ああ、そうするよ……その言い方だと、幹部は一緒に来ないのか?」

 

 

「え?そりゃあまあ、ラプが絶対来いって言うなら行くけど……まだ他にも仕事が残ってるからね……」

 

 

「……そうか」

 

 

こっちの世界の幹部は、元の世界の鷹嶺ルイとは別人だ。そんなことはわかっているが……それでも、ルイが好きなことに変わりはない。また少し会えないとなると、寂しい気持ちにもなってしまう。

 

あからさまにシュンとした吾輩を見兼ねて、幹部が呆れつつも慰めてくれる。

 

 

「はぁ……そんな顔しないでよ、もう。ちゃんとこよりにもラプを迎えに行くように言っておくし、帰ってきたらまた会えるんだから元気出してよ」

 

 

「うん……わかった」

 

 

幹部と離れるのは寂しいが、こよりに会えるならまあいいか。あいつにはしなければならない話もあるし、それに……こっちの世界の博士が、どんな感じなのかも興味がある。

 

ラプラスはそんなことを思いながら、引き続き昼食を楽しんだ。

 

 

 

********************

 

 

 

翌日。

吾輩と黒上フブキ、その他必要な人員を乗せた宇宙船が秘密結社holoXの総本部を出発する事になった。見送りの際には幹部を含めた眷属の面々が大集合しており、吾輩を称えていた。その人数と規模感は、ちょっとしたお祭り騒ぎだ。ほんの数日出かけるだけだというのに……。

 

 

「こ、ここってこんなに人が居たのか……」

 

 

「当たり前でしょ、ここはholoXの総本山よ?……それじゃあ、いってらっしゃいラプ。総帥の留守中は私がしっかりholoXを管理しておくから。……それと、向こうについたらこよりにもよろしく伝えてね。連絡してあるから、迎えに来てくれると思うわ」

 

 

幹部がそう言いながら、吾輩の頭を撫でてくれた。

どうやら、既に事の成り行きを博士に連絡してくれているようだ。それなら向こうに着いてからバタバタすることも無いだろう。本当に優秀な幹部だな。留守中じゃなくたって、いつもholoXを管理してるのはルイなのに……。

 

 

「ああ、ありがとな。……行ってくる」

 

 

いつもの感謝と、別れを惜しむのが少し恥ずかしくなり吾輩はそれだけ言って宇宙船に乗り込む。

宇宙船と言っても吾輩がイメージしていたロケットなどではなく、どちらかと言えば戦艦の様なものだった。それに、これに乗っていれば宇宙服もいらないし、船内は重力装置が働いてるので地上と変わりなく過ごしていられる。しかも、時空移動機能も付いているので宇宙の旅はそこまで長いものでもない。これらの発明のほとんどが博士によるものだ。やっぱり、あいつ優秀過ぎないか……?

 

改めてholoXの頭脳に対し尊敬の念を抱きながら、ラプラス一行はアジトを後にしたのだった。

 

 

 

 

 

アジトを出発して数分後、吾輩は指令室と思われる部屋でくつろいでいた。

寝食を行うための自室も用意されていたのだが、正直ここにいる方が面白そうなのでそうしている。指令室には宇宙船を操作するためのコントロールパネル、外の状況を把握するための巨大なスクリーン、その他船の管理を行うためのパソコン類等々。そして、それらを操縦するための職員たちが画面に向かって座っていた。

 

吾輩はというと、ただの部外者なら隅っこにでも寄せておけばよいのだが、生憎ここのトップという事でそういう訳にもいかず……結果、この船の司令官と思われる眷属が立っている場所の後ろ辺りのスペースを拝借して、ソファーやお菓子を広げている始末だ。

いや、まあ邪魔して悪いとは思っているんだが……吾輩が「暇だからコックピットに居たい」と言ったら、例の眷属の男にここへ案内されてしまったのだ。

 

 

「……おい眷属、やっぱりここ邪魔じゃないのか?吾輩別にもっと端っこの方とかでも……」

 

 

「何をおっしゃいますか、ラプラス様。我々を含め、この船もまたラプラス様の所有物なのです。であれば、所有者が一体どこで何をしていようと勝手ではありませんか」

 

 

「いや、まあそうかもしれないけどさ……」

 

 

例えそうだとしても、それの操縦を命じているのは吾輩だ。ならば、それを邪魔する行為はやっぱり避けた方がよいのでは……。

 

 

「それにですね、ラプラス様……我々は、ラプラス様に仕えることを至上の喜びと感じているのです。こうしてラプラス様に見られながらの……もとい、監視されながらの方が仕事が捗るというものです。……そうだろ、皆の者っ!!」

 

 

 

「「「 !!! YES MY DARK !!! 」」」

 

 

 

な、何なんだこの一体感…………ちょっとキモイな。

さっき吾輩に見られながらとか言ってたし、もしかしてこいつらそっちの気とかがあるんだろうか……。

 

 

「ですのでラプラス様、そんな心配は御無用でございます。……それよりも、前方のモニターをご覧ください。間もなく母艦の重力場から完全に離反致します」

 

 

吾輩が眷属たちに対しての認識をマイナス方向に改めていると、事の発端である眷属の男が指をさしながら言った。ラプラスは眷属たちへの評価を一旦保留にし、示された方向を見る。すると、丁度holoXのアジトがあると思われる球形の宇宙船が見えなくなるところだった。

 

 

 

 

 

これは昨日の夕食の時に幹部から聞いた話なのだが、現在の秘密結社holoXのアジトは博衣こよりが考案した『惑星型宇宙母艦』の中に建設されているらしい。それは、一言でいえば人工の小型惑星なのだそうだ。

その船の中にはアジトはもちろんのこと、居住区や娯楽エリアなどの生活に必要なもの、さらには農業エリア・農場エリア・自然エリアなどの人工とは思えない施設までが設置されているらしい。それに加え巨大な軍事力も有しており、兵器やそれに関する設備も充実している。超絶天才科学者である博衣こより本人をもってして『私の科学力の集大成』と言わしめるその数々を総称して、【秘密結社holoXの総本部】と言うようだ。

 

 

更に、この母艦は常に移動しており敵性軍から本部が見つかるのを防ぐ働きもしている。ここまで聞けば、秘密結社holoXの力がどれだけのものか……というか、博衣こよりの頭脳がどれほどのものかが窺える。

マジであいつ一人いれば世界征服できるだろ……。

 

 

 

 

 

さっきまで、この宇宙船のシステムですら凄いと褒めていた吾輩なのに……なんか、博士にかかればこれくらいのこと簡単にできるみたいに感じてきたな。もはや凄すぎて理解できないので、これ以上考えるのは辞めた方がいいな。取り敢えず、博士に会ったらめっちゃくちゃに褒めることにしよう。

 

そんなことを思いながら、ラプラスは目の前のコーラの入ったコップのストローを啜った。

すると、さっきからずっと吾輩の隣で黙って座っていた”捕虜”が、タイミングを見計らっていたかのように口を開いた。

 

 

「…………で、なんで私をここに連れて来てんだよ。ラプラス・ダークネス……」

 

 

彼女……捕虜兼庇護対象の”黒上フブキ”が、吾輩を睨みながら言った。

 

 

「ん?そりゃあ吾輩が暇だったからだ。別に深い意味は無いぞ」

 

 

フブキ先輩に会いに行くので、当然船に同乗させていたんだが……吾輩の要望で、眷属にここまで連れてこさせていたのだ。今の彼女には暴れる理由もないし、目の届かぬ所に置いておくよりは幾分かマシだろう。普通に雑談もしたいしな。

 

 

「はぁ?おかしいだろ普通。私は捕虜だぞ?それを、こんなところに連れ込んで野放しになんて……」

 

 

「野放しじゃないだろ。ほら、ちゃんと手錠つけてるし」

 

 

交渉済みで、暴れる可能性は限りなく低かったとしても、黒様は一応捕虜という扱いだ。よって、形式上だけでも捕えていることにするために手錠だけ嵌めさせている。とは言っても繋目が極端に長いものなので、ほとんど拘束能力は無いと言っていい。まあ手枷の部分には発信機も付いてるし、ここに連れて来ても大丈夫だろうという吾輩の意見だ。眷属にも許可を取っている。

しかし、当の本人は現状に不満を持っているようだった。

 

 

「こんなの、無いようなもんだろっ!私が今ここで暴れ回ったりしたら、どうするつもりなんだ!?」

 

 

「今のお前にそんなことをする理由は無い。檻で話したことは何だったんだと思ってるんだ」

 

 

理解できない扱いに対し文句を言う黒様だったが、ラプラスにサラッと流されてしまう。

この現状で、今更暴れだすほど黒様はバカではない。自分のプライドと、大切な親友を天秤にかけて後者を選べるほど冷静ならなおのことだ。

 

 

「…………お前ら、やっぱりおかしいだろ……」

 

 

「……そうかもな」

 

 

その言葉に、どんな意味が含まれていたのかは吾輩にはわからない。しかし、この世界のholoXが侵略された側から見て狂っているということは、ラプラスも同意するところだった。

 

お互いが黙ってしまい、気まずい空気が流れる。

まあ、そりゃあ捕虜と敵陣のトップが二人でテーブルを囲んだところで、話が弾むわけがないか。仕方がないのでラプラスの方から切り出そうと思い、適当な話題を走らせた。

 

 

「……そういえばお前、お腹空いてないか?」

 

 

「…………は?」

 

 

ラプラスの唐突過ぎる発言に、黒様は困惑の声を漏らす。

 

 

「いや、そういえば昨日まで意識が無かったって言ってたし、うちに来てからまともな物食べてないんじゃないかと思ってな」

 

 

「…………お前、それ正気で言ってるのか?」

 

 

怒りを通り越して、もはや呆れたという様子で黒様が言った。

本来捕虜とは、言い方を強めれば敵国の奴隷と変わらない。そんな者達にまともな食事や環境が与えられるはずもない。

しかし、今の黒様は捕虜でもあるが、それと同時に庇護対象でもある。黒様が吾輩との約束を守り続ける限り、こちらも約束を守らなければならない。従って、食事を与えるのを怠った程度のことで黒様の健康に悪影響があっては困るのだ。そうじゃなくても、誰だってお腹がすいたらカリカリするし、満腹になれば心が穏やかになるというものだ。

 

 

「おい眷属、こいつの為に食べ物を持ってこい。ついでに吾輩もお腹空いたから、同じものを二人分な」

 

 

「はい、かしこまりました。直ぐにお持ちします」

 

 

「お、おいっ、勝手に話を進めるんじゃ……」

 

 

黒様の静止を無視し、吾輩は二人分の食事を運ぶように指示を出す。正直あんまりお腹は空いていなかったのだが、捕虜という事で質素な食事を持ってこられても困る。吾輩と同じものを持ってくるように言えば、ちゃんとそれなりの物を持ってきてくれるだろうしな。

 

数十分後。予想通り、それなりに豪華な食事が二人分運ばれてきた。

ラプラスは運んで来た眷属にお礼を言いつつ、皿の上に乗った料理に雑多に手を付け始める。本来ならもう少しマナーを守った食事を心掛けるべきなのだが、ここは食堂ではないし、ラプラスを叱る幹部もいない。それに、吾輩から手を付けなければ黒様も食べずらかろう。そう思いながら、香ばしい匂いのする肉料理を頬張った。

 

 

「ムグムグ……どうした。お前、食べないのか?」

 

 

ラプラスがフォークを進めつつ、未だ食事に手を付けない様子の黒様に向かって言った。

彼女の目の前にも吾輩と同じものが用意されているのだから、それが自分のものだと理解しているだろうに。もしかして、食べれないモノでもあったのか?

そんなお門違いな考えをしているラプラスを他所に、黒様がぼそぼそと話し始めた。

 

 

「……誰が……敵に出された食事を、おいそれと食べるんだよ」

 

 

「なんだよ、味の心配か?ちゃんと美味しいから安心しろよ」

 

 

「そういう意味じゃねぇだろっ!敵に出された食いもんなんて……何が入ってるか、わかったもんじゃない。私は食べないからなっ!!」

 

 

場を和ませるためのちょっとした冗談のつもりだったのに、逆に黒様を怒らせる結果となってしまったようだ。

まあ、黒様の言い分はわからなくもない。吾輩も同じ立場だったら食べるのを躊躇していたかもしれない。しかし、現状こちらが黒様に危害を加える必要性はないし、そもそもそれでは約束が違う事になる。よって、これは本当に単なる吾輩の優しさというわけだ。

 

 

「そんなに言うなら、吾輩が今食べてるものと交換してもいい。それなら文句ないか?……なあ、わかるだろ。もし吾輩がお前をどうこうしようと思ってるなら、こんな回りくどいことすると思うか?それに、お前が吾輩との約束を守っている限り、吾輩もお前には何もしない、絶対にだ。…………だから、まずは食べてくれよ。話はそれからだろ?」

 

 

吾輩はそう言いながら、お皿の上に乗っていたパンを一つ取り黒様の目の前まで突き出す。未だに渋っている様子の黒様に、ラプラスは無理矢理口の中に突っ込む勢いだ。

 

そのまましばらく、ラプラスが黒様を見つめていると……………ようやく、向こうが折れてくれた。

 

 

「はぁ……わかった、わかったよ。食べればいいんだろ……」

 

 

黒様はそう言いながら、ラプラスから受け取ったパンにそのままかぶりついた。焼きたてで柔らかく、いい匂いのするロールパンはそのまま食べても十分な甘さを感じられる一品だ。

咀嚼してから飲み込むまで黒様は何も言わなかったが、味には問題なかったらしく残りのパンもモソモソと食べ切ってしまった。

 

一口食べてしまえば、もういくら食べても変わらないと思ったのだろうか。そのまま黒様は、他の食事にも手を付け始めた。サラダ、スープ、もう一つのパンにメインディッシュ。

やっぱりお腹が空いていたんだろう。結局、残してしまった吾輩の分までスッキリ食べ切ってしまった。

 

 

「ふぅ……」

 

 

黒様が目の前にあった食事を全て胃の中に入れ、最後に水を飲んで一息つく。満足してもらえたようで良かった。

 

 

「なんだお前、やっぱりお腹空いてたんじゃないか。美味かったか?」

 

 

「…………まあ。」

 

 

不服そうな声で言ったが、吾輩には満更でもなさそうに見えた。

ともかく、これでさっきよりは気分が落ち着いただろうか。当たり前のことなのかもしれないが、初めて会った時からずっとピリピリしてたからな。

 

そう思いながら、ラプラスは目の前にあったお菓子を一つ摘まんで口に運んだ。

 

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