転生したらラプラス・ダークネスだった件   作:飽和水溶液_pixiv

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第39話です。今回は最近の中では早めに投稿できましたね。
今話は殆ど沙花叉クロヱ視点です。ようやく彼女のことを書けますね、とっても嬉しいです。実はこのシリーズの第一章を終えた段階では、もっとクロヱさんを登場させる予定でした。20話のあとがきでも、『スポッターは沙花叉』って言ってましたしね。ただ、色々考えている内に結構後半の方での本格登場になってしまいました。ただ、ここからは色々と活躍させる予定ですので、飼育員の皆さんは楽しみにしておいてください。

それと、前回の最後の方にねじ込む形で『沙花叉クロヱの壊れている部分』を見せることが出来ました。かなりのキャラ崩壊はあったものの、楽しみにしてくれていた方もいたのではないでしょうか?この世界のラプラス以外のholoXメンバーは、現実世界の彼女たちと明らかに違う一面をそれぞれが持っています。性格や生きてきた環境、ラプラスに対する想いから"違った壊れ方"をしていますので、その差異もお楽しみください。


【追記】
さて、今回の深堀は沙花叉クロヱの司る感情についてのお話です。(鷹嶺ルイと博衣こよりについては15話の追記にあります)
上記にもある通り、この世界のholoXのメンバーはあちらの世界と比べて"少しだけ違う"部分を持っています。それは主に、この世界のラプ様に対する『想い』に強く表れていると言えます。


【掃除屋沙花叉クロヱ】は、ラプラスのことをこの世で最も"望んでいる"。


彼女の場合恥ずかしがり屋なので、それがかなり分かりづらいところがあります。しかし、誰にも言えない気持ちだからこそ本当に大切な想いだったりしています。


第39話 カノジョもまた壊れている

 

 

 

 

 

 

ーーーーーへぇ……君の世界の”カノジョ”は、そんなコなのかい?

 

 

 

 

 

 

尊敬する人物が居て、優しくしてくれる先輩が居て、心を許せる仲間達がいる。それに、いくらか平和なこともあって怠けた生活をしているようだ。もっとも、それはこちらの世界でも変わり無いかもしれないけど。

 

 

 

ーーどうやら、そっちの世界のあのコは随分と環境に恵まれているみたいだね。周りにたくさんの人達がいて、自分の意見も意思も、夢も自由に語ることが出来る。いや、許されている。きっとこの世界のあのコが知ったら、酷くがっかりするんじゃないだろうかな。

 

 

……いや、それは君が気が付いていないだけだよ。あのコは……君が思っているより、ずっと深い闇を抱えてる。環境も、生活も、人も、親も、そして生まれた経緯についても君が知るカノジョとは大違いだ。あのコが前に居たところでは自分の意見を言うことも、意思を表すことも許されなかった。ただ静かに、忠実に、人を殺す為”だけ”の『兵器』……それがカノジョだ。

 

 

あぁ、そうだとも。そんなカノジョを地獄から救ったのが、この私だ。心の底から救いを求めていたあのコに手を差し伸べて、優しくして、褒めて、そして与えたのはこの私だ。

だからあのコは、〖ラプラス・ダークネス〗という存在を心の底から望んでいる。全てを与えてくれた自分の『ご主人様』を、求めて、渇望して、切望して、熱望している。普段口にはしなくとも、そのことは君が一番感じているんじゃないかな?

 

 

確かに、そうかもしれないけど……別に、いいじゃないか。君にはカノジョの力が必要で、カノジョには君という存在が必要なんだ。利害が一致しているとは思わないかい?お互いが、お互いの欲しい部分だけを利用し合う関係……私は素晴らしいと思うけど?

カノジョの本質は、”使われること”にある。善悪は抜きにしても、カノジョが生まれながらに『人に使われる為に作られた存在』ということは事実だ。自分の主人の命令一つで、人を殺す兵器。まさに、『道具』と呼ぶにふさわしい……おっと、言葉が過ぎたようだね。君の気持ちを配慮できずに申し訳ない。

 

 

……ただ、これだけは忘れない方がいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー〖ラプラス・ダークネス〗という存在を本気で望んでいるからこそ、彼女はきっと偽物の”君”という存在を決して許すことは無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

暗殺部門、調査報告書。作戦地域は……えーっと、どこだったっけ?まあいいや。

 

天気は概ね快晴、気温は肌を露出してると少し寒いぐらい。つまりいい感じの気候と言える。

 

 

現在沙花叉たちはルイ姉からの指示でとある組織を調査するため、”実際に被害にあったらしい惑星の拠点”に直接赴いているところである。なんでも、飼育員さん達の話によるとこの資源を採取する用の惑星で『盗難事件』があったらしい。しかも、その犯人こそが今回沙花叉たちが調査して来いと言われている【宝鐘海賊団】とかいう者達なのだとか。宇宙海賊か何だか知らないが、そいつらのせいで沙花叉のぐーたら生活を邪魔されたというなら……とても、許すわけにはいかない相手であった。

 

 

「お嬢!拠点内に駐留していた者達からの聞き取り調査が完了致しましたッ……ってお嬢、またお菓子食べてるんですか?!そんなんだと、夕食が食べられなくなるっていつも言ってますよね!!」

 

 

作戦室にソファとお菓子を広げ、なんとなく任務の概要が記された書類を読んでいるふりをしていると……突然、部屋の扉を破り大柄な男が大きな声を発しながら室内に入ってきた。彼は沙花叉のお目付け役兼世話係兼暗殺部門の代表補佐をしている男だ。その筋骨隆々でいかにも肉体系という見た目とは裏腹に、繊細で書類仕事や面倒事も嫌がらずに引き受けてくれる大変都合のいい相手。……ただ、口うるさく夜更かしするなとか、お風呂に入れとか言ってくるところもある。そんなの沙花叉の勝手なんだから、ほっておいて欲しいんだけどなぁ……。

 

 

「……うるさいなぁ、ほっといてよ」

 

 

「いえ、放っておけません!私はラプラス様とルイ様から、お嬢の面倒を見るように仰せつかっているのです。ほら、ここもこんなに散らかして……」

 

 

彼はそう言うと、沙花叉が先程食べ終えたスナック菓子などの残骸を片付け始めた。図体のデカい男のくせに、ちまちまと個装の袋や切れ端等も拾い上げ掃除を始める。自分の代わりに片付けをしてくれるのは非常にありがたいのだが、その際にいちいち小言を言ってくるのが気に食わない。それに、出来れば私が居なくなってから掃除をして欲しい。

 

などと、沙花叉クロヱは自分を甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる部下を相手に内心文句を垂れる。しかしそこで、彼が掃除をする為に机の上に置いた書類の束が目に入った。そういえばさっき、飼育員さんが”聞き取り調査が完了した”とか言ってたっけ……。

 

 

「飼育員さん、これちょっと借りるよー」

 

 

なんとなく、それが目についたクロヱは書類を手に取りソファに再度寝そべる。そして、ほうきを取り出した世話係の男を尻目に紙面上へと視線を落とした。すると、そこには今回の調査対象である”彼女ら”の情報が少なからず記されていた。

 

 

「宝鐘海賊団が盗んでいった物、被害量……艦隊組織、船長と副船長…………ほぇー。ただ盗みに入られただけにしては、結構情報集まってんじゃん」

 

 

事前情報では、彼女らの存在が認められたのは採掘用の惑星で盗難事件が発生したことが確認されてからだ。それから数ヵ所で被害があったものの、そのほとんどが似たような被害状況かつ手口だったらしい。それらの結果を総合し、犯人像として宝鐘海賊団が上がったわけだが……こうしてみると、犯行方法は随分とずさんなようだった。

 

 

「はい。職員が滞在していた基地では勿論、無人の拠点にもカメラや赤外線等でのデータが残っていたそうです。盗まれたものについても、わかる限りリストアップしてもらいました」

 

 

掃除の片手間に、飼育員さんが沙花叉の言葉に口を挟んできた。どうやら、この書類には他の惑星での調査結果も含まれているようだった。

……しかし、そのいくつか組み分けされて記されている情報の中で、クロヱは一つの項目に目が留まる。

 

 

「……”盗まれたもの”、か」

 

 

それは、上記でも触れた『宝鐘海賊団によって基地から盗まれたもの』に関することであった。クロヱはその欄の内容に目を通して、とある”違和感”が湧いたことを自覚する。何故、彼女らはこんなものを盗む必要があったのか……。

 

 

「お嬢、その欄で何か気になる事でもあったのですか?…………各拠点で盗まれたものは主に鉄鉱石や銅鉱石などのベースメタルに始まり、チタンやクロムなどのレアメタル。他には本部から支給された武器や兵器、食糧などです」

 

 

「……鉱石と一括りに言っても、扱いやすい金属ばっかり……武器も、剣とか銃とかの単純なもの……おまけに、食料品は生鮮食品よりも保存食とかの長持ちするものを優先的に…………”変”だね」

 

 

一見、前哨基地や採掘拠点から盗まれたものとしては何の変哲もないように感じられる盗品たち。しかし、その盗んだ相手が宇宙版の『海賊』であり、また盗んだ拠点の状況から考えても僅かながらにおかしな点があるように感じられる。……もしかして、これが今回沙花叉達がわざわざ派遣された理由なのだろうか。

 

 

「お嬢。変とは……一体、何のことですか?」

 

 

「んー?そりゃ、”盗まれたものが”でしょ。飼育員さんは、この資料を見てなんにも思わなかったわけー?」

 

 

クロヱが手元の資料に違和感を感じていると、その理由を理解していないらしい補佐官の男が疑問を投げかけてきた。それを、クロヱは近くにあったお菓子の入っているカゴから棒付きの飴を取り出しながらに対応する。そして飴玉の包み紙を剥がし、露わになった甘味を口に含んで転がした。

 

 

「よふ、見てみなほ……んっ……盗まれた物の、”比率”をさ。海賊を名乗ってる人たちが盗んだ物にしては、『鉱石』と『食糧品』の量が圧倒的に多いと思わない?」

 

 

お行儀の良くないことに、棒付きの飴を口に咥えながらクロヱは彼に説明する。飼育員さんの作ってくれたこの書類には拠点で盗まれた物の種類と同時に、その具体量までもが記されていた。そして、それらを比べることにより沙花叉が感じていた違和感がより確信を得たものとなる。

 

 

「確かに、その様ですが……それのどこが『変』なのでしょうか?見たところ、おかしな点はどこも……」

 

 

沙花叉にヒントを貰いつつもいまいち話の核心を得られていないらしい飼育員さんが、私が床に落とした飴玉のごみを拾い上げながらそう言った。そんなに、睨まないでよ……。

 

 

「えー。飼育員さん、こんなこともわからないのー?w……あむっ……どう見てもおかひいでしょ。そもそもの話、どうして海賊が”明らかに価値のある”宝石や金塊なんかの『金目の物』よりも優先的に価値の低い鉱石や食糧を盗んでいくのさ」

 

 

「!!……た、確かに……」

 

 

海賊として、略奪行為を行う際に真っ先に狙わなければいけないもの。それは宝石や金、所謂金銭的価値のある『財宝』と呼ばれる類のものだ。それは時に希少価値の高いものも然り、そういったものを優先的に奪ってこその【海賊】というものだろう。

しかし、何故かこの宝鐘海賊団という連中はそういった傾向が無いようだった。多少レアメタル等の価値のあるものが盗られてはいるものの、それよりも圧倒的に鉄や銅といったありふれた鉱石の方が比率が高い。加えて、宇宙を航海するだけならそんなに量の必要ない保存食を重点的に狙っている点にも疑問が湧いた。

 

 

「ほれにさ、武器を盗むのは百歩譲ってわかるとして……加工前の鉄鉱石をわざわざ盗む意味がわからない。海賊でしょ?商人じゃないんだから、その場で使えないモノは必要ないはずじゃん」

 

 

「なるほど、盲点でした……確かにそう考えると、少しおかしな気がしてきますね」

 

 

「でひょー?…………つまり、これはただの海賊による略奪行為じゃないってこと。手を付ける前の素材を狙ってる時点で、それを加工できる拠点の様なものがあることも想像できる……面倒な任務になってきたなぁ」

 

 

舞台が海上ではなく、宇宙空間という違いはある。それでも海賊を名乗っているにも関わらず、奴らは『海の賊』としての定義を満たせていない。いや、むしろ異質とまで言える。恐らく宝鐘海賊団という集団の実態は、ただの艦隊組織の海賊などではない。もっと他の、別の目的があって活動しているとしか思えないのだ。

 

 

「奴らの拠点……これは、長期的かつ慎重に調査を進めた方がよさそうですね。この任務に我々が派遣されたワケが分かってきました」

 

 

「……あのチビ総帥は当然として、きっとルイ姉もそのあたりを事前に理解した上で沙花叉たちを指名しただろうしね。…………『重要な任務だから、真面目に取り組んでもらわないと困る』か……あのキッズ、このことわかってて言ったな」

 

 

一週間ほど前、沙花叉たちが本部を出る際に我らがラプラス・ダークネス総帥より激励の言葉を賜っていた。普段は滅多にそんなことはしないくせに、おかしいとは思っていたが……恐らく、あのキッズは今回の件に何か裏があることを既に察していたのだろう。しかも、それを知った上で私達には何も言わずに任務へと送り出した。

全く、憎たらしいものだ。面倒事だとわかっていて、それを黙って沙花叉たちに押し付けるとは……。

 

 

「はぁ~、納得いかないなぁ……。なんで沙花叉が、そんな下っ端みたいなことしなくちゃいけないのさ……」

 

 

そう言ったクロヱは、先程まで舐めていた飴玉を噛み砕きながらに文句を垂れる。雑務、面倒事、大変な仕事……そういったものが、自分は大嫌いなのだ。それが仮に総帥からの命令であったとしても、どうしても納得いかない。

 

 

ーーーしかし、そんな嘆きを漏らす暗殺部門の代表を見て、補佐官の男が彼女の”本音と建て前”を見透かしたように口を開いた。

 

 

 

「……お嬢、それ本心じゃないですよね?本当はラプラス様に頼りにされて、嬉しいくせに」

 

 

 

「は、はぁ!?そんな訳ないでしょっ!!!」

 

 

もはや、その反応は『その通りだ』と肯定しているようなものだった。

 

彼女のことを普段からお世話し、その位に就いてからはずっと一番近くで見ていた『クロヱ係』の男。そんな彼には、クロヱの些細な隠し事などあってないようなものであった。その者は理解している。このめんどくさがり屋でぐーたらな”お嬢様”が、唯一『ラプラス様からの命令だけには素直に従う』ということを。表向きには任務を嫌々こなしているという態度を示し、部下や本人の前以外では総帥を『チビ』だ『キッズ』だなどと呼んではいるが……その陰で、本当は『私のご主人様』と呼び慕っていることを。

 

 

 

この方は、その昔とある組織によって”人工的につくられた存在”であると聞いている。お嬢が暗殺者としての技術を持っている理由も、その体組織の半分が【オルキヌス・オルカ】と酷似しているワケもそこにあるらしい。また、その生存本能の一つに『自分の主人に尽くそうとする』というものが含まれているのだそうだ。

お嬢は、自ら進んで自分の身の上話をするような方ではない。だからこれは、私がクロヱ様の補佐官となる際にルイ様から聞いたお話だ。お嬢には元々別の組織に所属していた経歴があり、そこでは別の主人を持っていたという。しかし、その環境はかなり悲惨なもので……とても、少女らしい扱いはされなかったのだとか。そんなお嬢を、数年前にラプラス様が救い出す形で引き抜きなさった。それからというもの、お嬢は真の意味では決して誰にも心を開いていないご様子……。

 

ーーーただ一人、本能と意志の両面から『真のご主人様』と定めているラプラス様を除いて。

 

 

「……そうですか、それは失礼いたしました。私の勘違いのようです」

 

 

「そ、そうでしょ!……気持ち悪いこと言わないでよ飼育員さん」

 

 

だから、こうして一見部下と親しく話しているように見えても……その実、彼女はずっと警戒している。どこで何をしている時でも、その懐の下には武器を忍ばせていて現実に怯えている。その身に刻まれた古の辛い記憶、それがまた自分に訪れるのではないかと。

既に、補佐官の男がクロエ係に就任してから三年以上の月日が流れている。しかし、そんな彼にすらもはや本当の意味で彼女が心を許すことはない。

 

 

沙花叉クロヱの、この心の傷を癒すことが出来るのは……ラプラスと、それを取り囲む”彼女達”くらいなものなのだ。

 

 

 

 

 

「……とにかく!こんな面倒な任務はとっとと終わらせたいからさ……飼育員さん、今後はこの宝鐘海賊団の居場所か、もしくはアジト的な場所を見つけることに集中するよ。そして見つけ次第、とっとと沈めてお家に帰るんだから!」

 

 

「……いえ、仮に見つけたとしても勝手に沈めちゃダメです……」

 

 

こうして、沙花叉クロヱ率いる暗殺部門は数日の調査を経てから『宝鐘海賊団の現在地』を特定することに成功する。そして、今回の潜入先とした【宝鐘海賊艦隊二番船】にて”あの事件”が起きたのであった……。

 

 

********************

 

 

 

「はぁ!?!?潜入中の三班と連絡が取れないィ!?」

 

 

 

突然上がったその報告に、沙花叉クロヱは声を荒げた。

現在、我々暗殺部門は宝鐘海賊団への潜入任務に就いており、既に四回目の定期報告を済ませたところである。そして、前回の報告を終えたところからは実際に敵地への潜入も開始していた。どうやら沙花叉たちが現在身を隠している小隕石の近くの惑星に、ターゲットである宝鐘海賊団の艦隊が滞在しているらしい。そして、今回支給されている大型の宇宙船を仮本部として、そこを中心に情報収集を行っていたのだが……そんな中で、先程潜入先に行ったっきり消息不明となった班があると報告を受けたのだった。

 

 

「……はぁ……何やってんのホント、この期に及んで敵に捕まるとかさ……」

 

 

仮本部である宇宙船の中。作戦室として利用している部屋の司令官席で、報告に来た飼育員さん達を前にクロヱは項垂れていた。holoXの中でもこと潜入・暗殺に長けているこの部門に所属する者が、あろうことかあんな小物海賊を相手に発見されるような下手を打つとは……。

まあ、彼らに無茶な命令を下してるのは誰でもないこの私なんだけど。

 

 

「うーん、やっぱり……少数精鋭とか言って、たった三人に敵地に行かせるのは無謀だったかなぁ……」

 

 

この任務の中でも最も重要、かつ最も危険と言える敵地への潜入。その任にあろうことか、沙花叉は連れてきた暗殺部門のメンバー25名の中から僅か五人を指名し派遣していた。しかも、五人と言ってもその内の一人は連絡係、そしてもう一人は移動及び回収を行う小型船の操縦士。よって実際に宝鐘海賊団の船内に侵入したのは、たった三名であった。

 

 

「お嬢……一応彼らとは連絡がつかないというだけで、まだ”捕まった”と決まったわけでは……」

 

 

「……敵陣に行って、帰ってこなくて連絡もない。そんなのもう死んだか、捕まったかのどっちかに決まってるでしょ」

 

 

「それは……そうかもしれませんが……」

 

 

まあ実際のところ、沙花叉も無策無意味に彼らを派遣したわけではない。実は先程小物海賊だと言った宝鐘海賊団というものは、思っていたよりも実力を持っている集団らしかったのだ。特に、副船長以上の幹部メンバーの戦闘能力がかなり高いという。加えて、多くの船員も連れているため大人数で動く事は任務の性質上どちらにしても憚られたのだ。

 

 

「あーぁ、これって私の責任になるよね?沙花叉、鷹嶺ルイに怒られるとか嫌なんだけど~」

 

 

責任取るのが上司の仕事。今回の任務にあたっている暗殺部門を率いているのは沙花叉であり、この集団の指揮官兼責任者は今は私なのだ。ならば、とんだ失態を犯してしまった部下の尻を拭うのも私の仕事……なんて、てんで納得がいかない。別に沙花叉が捕まったわけじゃないし、そもそもしたくも無い任務に無理矢理抜擢されているのだ。ならせめて、多少の責任転嫁くらい許してほしい。

 

(ここに来る前にずっと感じてた”嫌な予感”って、もしかしてこれのことだったのかなぁ……)

 

それはクロヱが今回の任務に赴く前のこと。彼女は本部に居た時から、これから起こるであろう『何か』に僅かな危機感を抱いていたのだ。その正体についてはハッキリしていなかったが、クロヱの生物的本能がそれを示していた。これからの大きな変革、変動……とにかく、彼女の感じていたその違和感のせいでクロヱはこの任務に乗り気ではなかったのである。

 

 

「お嬢……我々は、これからどうしますか?」

 

 

クロヱが脳内で現実逃避をしていると、補佐官の男がおずおずと声をかける。しかし、こちらの仲間が死んだにしろ捕まったにしろ、奴らに私たちの存在が露見してしまったのは確かだ。加えて、私達は潜入任務という性質上少数部隊であり、宝鐘海賊団を真っ正面から相手取るのも難しい。勝手なことをして余計に怒られても面倒だし、ここは大人しく本部に連絡を取って指示を仰ぐのが適切だろう。

 

 

「……そんなの、決まってるでしょ。こっちの頭数が減っちゃったのは事実なんだし、一先ず鷹嶺ルイに連絡。まあどーせ怒られるのは確定だろうし、なら報告は早い方がいいでしょ。……はぁ。こんな事になって、あのチビ総帥に何を言われるかわかったもんじゃn……」

 

 

 

 

ーーーそこまで言って、沙花叉クロヱの脳内で”あの言葉”が思い起こされる。

 

 

 

 

『もし、今回の任務を無事成功した暁には……私から、クロヱにご褒美をあげよう』

 

 

 

 

それは、任務に後ろ向きだった沙花叉にあの人が残してくれた言葉。

あのチビ総帥……いや、私の『ご主人様』が、私の為に、私を想って、私を奮い立たせようと、私に”与えてくれた”贈り物だ。それは総帥からの何気ない一言で、本人はきっと何とはなしに放ったものだったのだろう。だが、それでもその主様からのご褒美という言葉は……文字通り、抗うことのできない甘い甘い甘言として私の心に浸透した。

 

 

「……そうだった。……この任務は、アイツにとってもすごく重要で……」

 

 

そして、これを無事成功させなければ”ご褒美は貰えない”。ならば……この任務は、たとえ命に代えたとしても必ず成功させなければならないものなんだ。

 

 

そう理解したクロヱは、居ても立っても居られなくなった。この現状を絶対に本部に知られてはいけないし、そして何よりここから任務を無事遂行する道筋を辿らなければならない。私達だけで捕まっている”はず”の部下を助け、何事も無かったように情報収集とその他の仕事を完遂しなければ。

 

 

「……お嬢?どうかしましたか?なんだか、顔色が優れないようですが……」

 

 

話の途中でいきなり黙ってしまったクロヱの様子を不思議に思い、補佐官の男が心配の声をかける。さっきまでただ気怠そうに話していたのに、突然目付きも変わったようで何かあったのかと。

しかし、自分の心の内を他に潜めている彼女は、このご主人様との秘密の約束事を奥底へとひた隠す。そして何事も無かったように、部下達に指示を出した。

 

 

「ううん、何でもない。…………それよりも予定変更。飼育員さん、今すぐ動かせる人員を全員集めて。それと……”戦闘準備”も。これから行方不明になった隊員たちが捕まっていると”仮定して”、全員で救出作戦を行うから。皆にもそう伝えて」

 

 

「えっ?!いきなり、救出って……お嬢、確かに彼らの生死はわからないと言ったのは私ですが……勝手に、そんなことをしてもよいのでしょうか?まだ相手の脅威も測れていませんし……ここは、規則通り一度本部と連絡をとった方がいいのでは……」

 

 

「……ダメ。本部の指示を待ってて、もしその間にこっちの情報が洩れて居場所を特定されたらどうするの?それに潜入してた構成員たちが捕虜になってるなら、その安全も時間が経つほど危なくなるでしょ」

 

 

本心じゃないわけでは無い。一番の本音とは違うが、部下達の安否が気になっているのもまた事実。それに宝鐘海賊団に私達の現在地がバレないように潜んではいるものの、捕虜が尋問等で口を割られないとも限らない。どっちにしたって、悠長にしてる時間は無いだろう。

 

そう判断したクロヱは、部下達を無理やりにでも説得し行動に移させようとする。しかし、そんな彼女の突然の命令にその場に居た飼育員たちも困惑したような反応を示していた。

 

 

「お、お嬢っ!確かに、それはそうかもしれませんけど……せ、せめて、”ラプラス様”にはお伝えしておきませんか?!この任務が重要なことは私共も重々承知ですが……主上がどのような結果を望まれているかも、我々にはわからないではないですか!」

 

 

「アイツには……アイツだけには、絶対に言っちゃダメ。…………聞こえなかったの?今すぐ宇宙船を動かす準備をして。これは決定事項だから。……それとも、指揮官である沙花叉の言うこと聞けないの?」

 

 

「ッ!!…………かしこまりました、クロヱ様。直ぐに用意いたします……」

 

 

彼の進言も虚しく、クロヱはそれを無視して部下たちの救出作戦を強行すると宣言する。

そして、この時の沙花叉クロヱの独断行動により彼女らは宝鐘海賊団に敗れることになったのだった。

 

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