転生したらラプラス・ダークネスだった件   作:飽和水溶液_pixiv

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第41話です。また少し期間があいてしまい申し訳ありません。しかし、この辺りからは待ちに待ったラプ様とクロヱの濃厚な絡み……えぇ、本当に深すぎる絡みが多いですので気合入れて書いております。気が早いですが、既に42話も殆ど書き終えていますので一旦この空気感をお楽しみください。

さて、前回は最後にクロヱがとんでもない行動に出たところで話を終えました。というより、彼女は目覚めてからずっと様子がおかしいですね。一体、クロヱは内心何を考えているのでしょうか……細かなところにその片鱗が垣間見えますので、その辺りも想像しながら読み込んでくださいませ。


【追記】
今回の追記は、本編とは全く関係ないお話をします。(興味の無い方は、そのまま本編にお進みください)
それはズバリ……ホロライブの新ユニット、『ReGLOSS』の参戦についてです!いやーしばらくこの話題に触れられませんでしたが、ようやくJPの新メンバーが加入してくれましたね。 私自身もその話を聞いた時は、ワクワクしすぎて夜も眠れませんでした。(筆者は割と夜型)
しかし、皆様に報告しなければならないのですが……生憎、今のところこのシリーズでは彼女たちを出す予定はございません……。本当に申し訳ないとは思っているのですが、理由としましてはIDやEN組同様私の知識がにわか過ぎるからです。まだデビューしてから日も浅いですし、もっと彼女たちのことを知ってからSS等にも取り入れていかないと失礼かなと……もっとも、このシリーズが年単位で続いていればいつかは出すかもしれませんが。
ちなみに、ReGLOSSの中で一番気になっているのは番長です。新しいタイプの赤たんで、巫女さんや姫様と似たような物を感じてかなりいいですね。三人ですっごくストーリーの難しいゲームとかして、地頭のいい姫以外が頭『?』になってるところが見たいです。

そう言えばこのシリーズを投稿してからは特に触れていませんでしたが、筆者のホロライブ内最推しは大空スバルちゃんです。もう超ガチ恋です、アヒージョです。彼女の歌みたとか他と比べると希少ですけど、毎日聞いてます。大好き大好き。
まあホロライブ自体は箱推しなので、敢えて一人上げればというお話でした。また、もしよろしければ読者の皆様も感想コメントと共に自分の推しについて語ってってください。私のモチベが上がると共に、推しの魅力の布教になります。なると思いますよね?(圧)

それでは、長くなりましたが今後も新メンバーを加えた我らがホロライブの活動を見守っていきましょう!
(本編がかなりシリアスで苦しいので、ここでだけでも明るいお話をしてみました。)


↓作者:飽和水溶液のXアカウント。主に執筆状況や気に入ったホロ関連のリポストしてます。
飽和水溶液(@Suiyoueki_suba) https://twitter.com/Suiyoueki_suba


第41話 ギクシャク、ギクシャク

 

 

「……じゃ、チビ総帥のここまでの案内兼お守りご苦労さん。もう死んでいいよ」

 

 

そう言って銃を取り出した沙花叉クロヱは、あろうことか吾輩をここまで案内し今まで自分を介抱してくれた相手にその先を向けたのだった。突然過ぎる予想外な出来事に、ラプラスは一瞬思考が停止する。

 

 

「ヒッ……」

 

 

また、それは向けられたあくあ先輩自身も同じだったようだ。まさか自分が標的にされるなど考えもしていなかったようで、その手に持っていたほうきを両手で掴み怯えている様子だった。

 

 

「あ、あのっ!……か、勝手に手当てしたのは悪かったと思ってるっていうか……と、とりあえずあ、危ないから一旦それ下してよっっっ……」

 

 

「……私、言ったよね?そういうお節介みたいなのウザいからやめてって。なのにあんたときたら毎日毎日甲斐甲斐しく介抱なんかしてくれちゃってさ……総帥の前なんだから、恥かかせないでよ」

 

 

そう言ったクロヱは、先輩に対し本当に怒りを感じているようだった。戦士として、それは彼女なりの矜持だったのかもしれない。敵に捕まり、その上で情けを掛けられたことが心の底から腹立たしかったのだろう。

 

 

「ヒッ…ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいッ!!…………ラ、ラプラスちゃんっ、見てないで助けてっ!!」

 

 

未だ銃口を突き付けられ続けているあくあ先輩が、テンパりながらも必死に吾輩に助けを求めていた。

……しかし、その光景を見ていたラプラスは理解しがたい現状にただ茫然と立ちすくむことしか出来なかった。まさか敵対しているというのに立場を惜しんで介抱してくれた相手に、その恩を仇で返すようなことを新人がするとは思っていなかったから。……っていうか、何をボーっとしてるんだ吾輩はっ!?早く止めないとっ!!

 

 

「お、おいちょっと待てクロヱ!お前いきなり何してんだよっ!!」

 

 

引き金に指を掛け、今すぐにでもそれを引こうとしている新人をラプラスは慌てて止めようとする。彼女が間違っても発砲などしてしまわないように、クロヱとあくあ先輩の間に割って入っていった。

 

 

「クロヱ、お前何考えてるんだ!あくあさんはお前を介抱して、気に掛けてくれた恩人なんだろうが。その恩を仇で返すような奴に育てた覚えはないぞっ!」

 

 

「ら、ラプラスちゃん……」

 

 

あくあ先輩を背にして、クロヱの方を向きながら彼女を庇うように仁王立つ。そして、その小さな背中に縋るように先輩が引っ付いてきた。きっと、面倒を見ていた新人にいきなり殺意を向けられてびっくりしたのだろう。

 

 

「チッ……気安く触んなよ……」

 

 

その様子を、変わらず銃を向けながらに見ていたクロヱが何かを呟いたようだった。声量が小さすぎて何と言ったのかはわからなかったが、さっきよりも更に険しい顔つきになったところを見るに十中八九怒っているのだろう。てか、吾輩も怖いから一旦銃下げてくれないかなぁ……。

 

 

「な、なあ沙花叉、確かにお前の気持ちもわからなくはないぞ。敵に捕まった挙句、施しを受けるなんて嫌だったんだよな?……で、でも今は争ってる場合じゃないんだ!お前には手伝ってもらいたいこともあるし……いや、その前にお前”お腹空いてる”だろ!あくあさんに聞いたぞ、ここに来てからずっと何も食べてないって。だからお前を助けた後は、あくあさんの案内で食糧庫に連れてってもらえることになってるんだ!…………だ、だから一旦落ち着けって、な?」

 

 

どんな理由があったのかは知らないが、規則を無視し部下の救出作戦を強行した新人には新人なりの苦悩があったのだと思う。その上、自分のプライドが許さない扱いを受けたなら苛立って当然だ。……しかし、今はあくあ先輩が理由で争っている場合ではない。こいつが食事を取った後は、捕まっている他の部下やラプツナズの隊員達を救出しるしあ先輩の誤解を解かなくてはならないのだ。こんな所で、余計な時間と労力を使う訳にはいかない。

 

ラプラスはそう思い、何とかクロヱの怒りを鎮めようと説得を試みる。しかし、そうして話した言葉が更に彼女の怒りを燃え上がらせてしまったようだった。

 

 

 

 

「…………ラプラスが、それを言うの?……私がどんな思いで、痛いのも苦しいのもお腹が空いたのも我慢してたか……」

 

 

 

 

こんなに近くに居るのに、こちらには聞こえないほど小さな声でクロヱは何かを吐き捨てたようだった。怒りというか、一周回って悲しんでいるようにも見えるその表情で静かにこちらを彼女は見つめる。

 

……そして、その数秒の後何かを諦めたようにクロヱは上げていた腕を力なく振り下ろした。

 

 

「はぁ……もういいや、バカらしい」

 

 

「く、クロヱ……?」

 

 

「……あんたが気にしてないなら、もういいよ。…………それよりもキッズ、これから一体何をするって?」

 

 

取り出した銃を再度懐にしまい、クロヱはラプラスたちへと向き直る。しかし、ラプラスはどうしても彼女の先程からの行動や言動が気になってしまっていた。やはり、なんだか様子が変だ。久しぶりに再会したというのに開幕いきなり泣き出したりするし、変に見栄を張ってあくあ先輩をどんな状況であれ”敵”と見定めたがっているようにも見える。極めつけは、無理に口調を明るく見せながらも節々で恨み言の様なものを漏らす始末だ。

 

(やっぱり、なんか変だよな。コイツってこんなところあったか?……まあでも疲れてんだろうし、単純に腹が減ってカリカリしてるだけか?)

 

自分の知る彼女と、今目の前に居る”カノジョ”との差異にラプラスは困惑する。しかし、それもクロエの身体の不調が原因なのだろうと深く考えずに思考の奥底へとしまってしまった。

ーーその楽観さが、今後自分の首を締め続けるとも知らずに。

 

 

「あぁ……さっきも言ったんだが、お前には他の捕まってる部下たちを助けるのに協力してほしい。それと、もう一つやらなきゃいけないこともあるんだが……その前に、まずはお前に飯を食わせるぞ。詳しい話は、その間にでもゆっくり話す」

 

 

吾輩の望むこの船での最終的な目的は、いらぬ疑いを持たれているるしあ先輩を説得し宝鐘海賊団と協力関係になることだ。その為には、今助けたクロヱも含めこちらの戦力をるしあ先輩率いるふぁんでっと軍団に負けないくらいには集める必要がある。

だが、そのことをクロヱに伝えるには少し慎重にならなければならない。るしあ先輩ほどでは無いにしろ、クロヱもまた宝鐘海賊団のことは良く思っていないはず。そんな中で、これからは彼女たちと仲良くするつもりだなんて吾輩が言ったら少なからず反対されてしまいそうだ。しかし、吾輩としてもそれだけは譲るわけにはいかない。だからこそ、一度食事を取るなどして雰囲気や言い方には気を付けなければならない。単純にクロヱの体も心配だし、まずはこのまま予定通り食糧庫へと向かうことにしよう。

 

 

「……”協力”、か…………はぁーい、ご飯食べるのはさんせーい。沙花叉もうずっとお腹ぺこぺこなんだよ」

 

 

「だろうな。……という事だからあくあさん、次はお話通り食糧庫に案内してもらえますか?」

 

 

「う、うん…わかった……」

 

 

ようやく話がまとまり、やっと次の行動に移れるとラプラスは安堵する。そして、早速目的地へ向かおうと地下牢を後にしようとした。

 

 

「……」

 

 

しかし、そこでふと吾輩の背に隠れたままあくあ先輩が動きださないことに気が付く。また彼女の方を振り返って見ると、何故か吾輩の肩越しにクロヱのことをまじまじと見つめているようだった。

 

 

「……何、なんか文句あるの?……言っとくけど、さっきのことは謝らないから。沙花叉は最初からウザいって言ってたし、悪いことしたとも思ってない」

 

 

先輩に見られていた張本人、新人が本当に不愉快そうに彼女にそう言った。

はぁ、まったく……お前も大人げないな。助けてもらったんだし、さっきはいきなり銃を向けたりしたんだから素直に『ありがとう』と『ごめんなさい』を言えばいいものを。

 

 

「えっ…あ、いや……そのことは、どうでもいいていうか……あてぃしがやりたくて、勝手にやってたことだから……」

 

 

「はぁ?じゃあ、一体何なの」

 

 

「……スゥ‐……”傷、もう大丈夫かな”って思って……」

 

 

「ッ!?」

 

 

しかし、そんな悪態しかつかないクロヱに対しあくあ先輩は全く気にしていない様子であった。それどころか、起きたばかりのクロヱの体のことを心配していたのだ。数日前までうなされる程苦しめられていた、傷たちはもう大丈夫なのだろうかと。

またその話を二人の間で聞いていたラプラスは、またしてもホッコリとした気持ちにさせられていた。本当に、あくあ先輩は優しい人だな。さっきのことがあって、まだそんなことを言えるとは……もっとも、新人本人はたまったものでは無いのだろうが。

 

 

「……勘弁してよ、ホントにさ……」

 

 

そう言ったクロヱは、思った通り怒っていたようだった。というより、気持ちを整理できていないというべきか。どちらにしても、このギクシャクとした雰囲気はこっちも耐えられそうにない。

 

 

「え、えーっと……ま、まあ多分大丈夫だと思いますよあくあさん!こいつも見たところぴんぴんしてるみたいですし…………じゃ、じゃあ行きましょうか!」

 

 

最悪過ぎる空気感の中、ラプラスはそれだけ言って急いで牢の出口の扉をくぐった。また、それに続き二人も地下牢を抜け出して食糧庫へと向かう事になるのだが……その間、目的地に着くまでこの三人の間には気まずい空気が流れ続けていた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

宝鐘海賊艦隊二番船、その食糧庫はA棟の一階というこれまた信じられない程近くに設置されていた。というのも、此処にある食糧たちは自分たちが今後この船で食べる為のものでは無く、色んな星から海賊行為によって手に入れた『盗品』が殆どなのだとか。つまりは、これから自分たちの本部に持ち帰る用にこの船の中に唯一あるデカい冷凍室へと保存している物なのだ。

 

しかし、そこでラプラスは一つ疑問に思った事があった。それは自分たちが潜入経路として使った、B棟地下にある倉庫の存在だ。あそこには食べ物こそなかったが、確かに盗品らしき鉱物や武器などが陳列されていた。またあくあ先輩の話によると、どうやらこの船に乗っている”生きた船員”たちのほとんどはB棟の方で生活しているという事らしい。加えて、船長室や操舵室なんかの重要な部屋もB棟に存在している。そんな中で、宇宙の航海でもかなり重要と思われる生鮮食品が保存できる冷凍室が何故ここ一つにしかないのだろうか。

 

 

「盗品についても、一か所にまとめておいた方が色々と楽でしょうに……何でこんなややこしい作りしてるんですか?」

 

 

ここまで歩んできた道を地下牢、動力室前、そして一階へと続く階段を上り食糧庫を目指して三人は歩を進めていた。その間、幸いなことにゾンビ達とばったり遭遇するなんていうことも無かった。こっちとしては好都合なのだが、あれだけ追われていた奴らを見かけないというのも不気味な話だ。それにカラスが言う限りでは、霊体のふぁんでっとたちすらも見かけていないらしい。もしかして、何かトラブルでもあったのだろうか?

 

 

「あ…えっとね……この船が造られた時、元々は荷物を運んだりする用に使うつもりじゃなかったんだって……船長が言ってたような……」

 

 

余計な考え事をしていたラプラスを他所に、あくあ先輩が吾輩の疑問に答えてくれていた。

 

先輩の不鮮明な説明を要約すると、この宇宙船の製造及び今の宝鐘海賊団が結成された当時この船は”他の惑星に助けを求めに行く”という目的を持っていたらしい。最初は海賊団というのも名ばかりで、彼女たちの星で起こっている『とある問題』を解決に導くためのヒントを惑星外に求めに行っていたのだ。しかしいつの間にか自分たちの生活すらも厳しくなり、本当の海賊のような行為に手を染めたのだという。

 

 

「加えて言えば……少し前まで、この船にはもっと”普通の人達”がたくさん乗ってたんだって。……でもあてぃしが船長の船に乗ったくらいの時に、二番船の船長さんも船を降りたらしくって……今じゃ、あの怖い人達ばっかりになっちゃったんだって……」

 

 

その話は、るしあ先輩の研究室で読んだ日記にも少し書いてあった。確かマリン先輩の指示で元二番船の船長不知火フレア先輩が当時副船長であったるしあ先輩と役割交代をし、その後フレア先輩の方は船を降りたはずだ。またその時は、今よりも圧倒的に『生きている船員』が多く乗船していたのだろう。しかし今となってはB棟に比べA棟は地下と一階以外はほとんど手入れもされておらず、ゾンビ達が徘徊する以外にはほとんど使われていないらしい。

 

 

「なるほどです。それが、こんなまどろっこしい使われ方してる理由なんですね」

 

 

「う、うん……スゥ‐…今も、この船に乗ってるのはあてぃしとるしあちゃんだけだしね。…………あ、つ、着いたよ」

 

 

そうこう話している内に、ラプラスたちは目的地である食糧庫に辿り着いていた。

しかし、何故かそこには直接入らず隣接している旧食堂へと案内される。

 

 

「しょ、食糧庫は荷物がいっぱいでスペースが無いから…こ、ここで待ってて?直ぐに食べられそうな物探して、持ってくるから……」

 

 

「わかりました。……あ、一人で大変なら手伝いましょうか?」

 

 

「う、ううん……大丈夫。すぐそこだし、重いわけでもないと思うから……」

 

 

そう言ったあくあ先輩だったが、重くないと言い出した瞬間ラプラスの脳内には『心配』という文字が浮かんだ。確かにただ隣の部屋から食べ物を持ってくるだけではあるが、果たしてあの体力の無さすぎる先輩一人で大丈夫かと……。

 

しかし、そんなラプラスの心配を他所にあくあ先輩は持っていたほうきを置いてそそくさと隣の部屋へと消えて行ってしまった。

 

 

「「……。」」

 

 

取り残されたラプラスとクロヱは、いきなり二人っきりにされたことにより再度気まずい思いをしてしまう。しかし、先輩の前ならともかくコイツ自身とは元の世界でも仲良くできていたんだ。それにこの世界でもちゃんと総帥とインターン……いや”掃除屋”という関係のはず。だから、大丈夫……たぶん。

 

 

「あー……確かに、あくあさんの話してた通りこの辺りもあんまり使われてないみたいだな。あっちこっち散らかってもいるし、不衛生だな……なんて……」

 

 

「……」

 

 

ラプラスが必死に話題を探し、何とか場の空気を温めようと試みる。

やばい、今までクロヱと二人の時って何を話してたっけ……。

 

 

「え、えっと~……と、取り敢えず座るかっ?その辺に前は使われてたっぽい机とかイスがあるし、そっち行かないか?……」

 

 

「……うん……」

 

 

ようやく帰ってきた言葉は、そのたった一言だけであった。しかし、それでも何も反応してくれないよりはいくらかマシだ。そう思ったラプラスは、自分が言い出した通りに部屋の中に置かれていた長テーブルと数人掛けのイスに腰かける。この旧食堂も長いこと放置されているようで、あちこちに倒れたイスや割れたガラス瓶などが転がっていた。加えて、埃も積もっていて正直長居したいような場所ではない。

だが、まあ贅沢は言いていられないよな。イスの接触部分には持ってきた風呂敷の包みを広げれば二人ぐらいは座れるだろうし、ここで先輩を待つとしよう。

 

 

 

 

「「…………。」」

 

 

 

 

……いや、ホント!気まずいってっ!!何で沙花叉なんも話してくれないんだ?!コイツ普段は結構おしゃべりな方だっただろ!!

あくあ先輩が隣の食糧庫へと赴き、二人して軋む長イスに座って数分。その間の彼女たちは、とても仲の良かったあの総帥と掃除屋の姿には見えなかった。しかし、そんな文字通り冷え切った場の中……ふと、さっきまでずっと黙り込んでいた新人が口を開いた。

 

 

「……ねぇ、キッズ……」

 

 

「な、なんだっ?」

 

 

最低過ぎる空気を破り、クロヱの方から声をかけて来てくれた。ラプラスはそのことが嬉しすぎたあまり、若干声が上ずりながらに返答する。

 

 

「……」

 

 

「……く、クロヱ?」

 

 

先程、確かに沙花叉は吾輩の名を呼んでくれた。しかし、何故か吾輩が聞き返すと彼女は再度黙り込んでしまう。ラプラスはそれをと疑問に思い、クロヱの顔を覗き込みながら三度声をかけた。

 

 

「どうしたんだクロヱ、何か気になる事でもあったのか?」

 

 

「……ラプラス……あのさーー「お、お待たせ……!」」

 

 

何かを言い掛けていたクロヱは、酷く思いつめたような表情をしていた。だが話を始めようとしたところで、タイミングの悪いことにあくあ先輩が食糧庫から戻ってきてしまった。

 

 

「ご、ごめんね…結構種類が多くて、選ぶのに時間かかっちゃった…………って、あれ?…も、もしかして何か話してる途中だった……?」

 

 

そう言ったあくあ先輩の手には、大きな袋の口が掴まれておりそれを引きずるような形で運んできていた。しかしそんな先輩の方を吾輩と沙花叉が一斉に振り返ったことにより、二人の会話を邪魔してしまったのではないかと彼女は心配になる。

 

 

「……いえ、大丈夫ですよ。……あ、あくあさん食糧ありがとうございます!運ぶの手伝いますね」

 

 

本当は重要そうな話の途中ではあったが、こちらが食べ物を貰う手前邪魔したなどとは口が裂けても言えない。それよりも、一人で大丈夫とは言いつつも持ってきた袋を重そうにズルズルと運んでいる先輩を手伝う為駆け寄っていく。

 

 

「あっ、ありがと……フゥ……ふ、袋に入れてる時は、いけると思ったんだけどね……ハァ……」

 

 

「だ、大丈夫ですか……?」

 

 

あくあ先輩が出てきた食糧庫へと続く扉は、吾輩達が座っていた場所からそう遠くはない。しかしそんな数メートル物を引きずることですら、やはり彼女には酷だったようだ。

 

 

 

 

 

「さて……よし、こんなもんか」

 

 

あくあ先輩が持ってきてくれた食料を運ぶのを手伝い、その袋の中身を少し拭いた長テーブルの上へと並べた。種類は大体が保存食ではあったものの、地球で言うところの缶詰のようなものや干し肉等の食べ応えがあるかつ比較的食べやすいものが選出されていた。

 

 

「本当は、しばらくご飯食べてなかったから消化に良いものの方がいいんだけど……すぐに食べられるものだと、このスープ缶くらいしかなくて……」

 

 

そう言ったあくあ先輩が申し訳なさそうに取り出したのは、何の変哲もない少し高さのある円柱型の缶詰だった。またその蓋を開けてみると、中には真っ赤で酸味を感じる匂いのする野菜が浮かんでいた。恐らくは、吾輩が知る中で言うところのトマトスープみたいなものだな。クロヱはここに来てからの数日何も食べてないというし、まずはその辺りから胃に入れた方がいいだろう。

 

 

「さっ、クロヱ”食べていい”ぞ。吾輩も若干小腹が空いてたし、摘まむとするか」

 

 

自分より明らかに空腹であろうクロヱを他所に、ラプラスは置いてあったもう一つのトマト?スープ缶に手を付ける。どうやらこの缶は道具等無しで開けられるもののようで、あくあ先輩同様に開けてみると中から先程の酸味のある匂いを感じた。

 

 

「いただきまーす……ゴクッ…………うん、やっぱりトマトスープだな。吾輩コレ好きだぞ」

 

 

缶に入った真っ赤なスープをさらっと口に運ぶと、舌の上で野菜の甘酸っぱさと汁の旨味を感じた。正直火を通したばかりではない冷たく非常食用の食事ではあったが、これはこれで食べられる味であった。

 

 

「……”とまと”?……てか、ラプラスよくそんな得体の知れないものを直ぐに食べられるよね。普通は毒とか、単純に私達が食べられないものじゃないかって気にするくない?」

 

 

「ん?……それは、好き嫌いって意味か?毒とかは今自分で開けた缶なんだから大丈夫だろうし……匂い的にも食べられそうだったぞ?」

 

 

「……はぁ……もういいや、沙花叉も食べよ」

 

 

何かに酷く呆れた様子で、クロヱはため息を吐き出した。

しかし、本来であればこの状況において彼女の言うことは殆ど正しいと言わざるを得ない。何故なら、ここに置かれた食事たちは他の惑星から奪ってきた盗品であり、かつ異星人たちが本来口にするはずだった食べ物だからだ。そこには当然食文化の違いなどがあるだろうし、他の者には大丈夫な食べ物でも自分たちにとっては毒という事さえ有り得る。だが、ラプラスは今”別世界で知り合った先輩が渡してくれた食べ物”というだけで100%信用し疑うこと無く食べてしまった。そのことを、クロヱは気にしていたのだろう。

 

もっとも、今回ばかりはラプラスの行動も間違いでは無かった訳だが。その証拠に、総帥と同じようにまずはスープ缶から口にしたクロヱは……

 

 

 

 

「ーーーブフォッ…………まっっっっっずッ!?!?」

 

 

 

 

……口にしたクロヱは、盛大に噴き出していた。

あー……そう言えば、新人のやつはトマトが苦手だったんだっけか……。

 

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