転生したらラプラス・ダークネスだった件   作:飽和水溶液_pixiv

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第42話です。今回は早めに投稿できました。ここまでは出来るだけ続けてお見せしたかったので、更新できてよかったです。

いや~ホント、苦しい状況が続いてますね。ラプ様にとって感動の再会になるはずが、気まずくなってばかりです。……ですが、筆者としては実はこのじっとりとした空気感割と嫌いじゃありません。主人公ポジであるラプ様は比較的楽観的に物事を考えていますが、それと関わっている周りのホロメンたちは気が気ではありません。一体カノジョ達は何を想い、何を考えているのか……今後の展開が大変気になるところです。


【追記】
今回も深堀シリーズはお休みです。早めの更新&本編が長めなのでお許しください。
あ、最後に前話のラストシーンの解釈について触れておくのですが、どうやら話によるとクロヱがトマトを食べられる説があるみたいです。というのも、過去のXの投稿にて『トマトソースのパスタを作って食べていた』というのがあるらしいです。実際のところは私も某サイトでホロメンのプロフィールを確認しながら本編を書いているので定かではありませんが、取り敢えず確定情報が出ない限りこのまま修正なしで行きたいと思います。単純に、クロヱが吹き出すあのシーンが好きなので。


↓作者:飽和水溶液のXアカウント。主に執筆状況や気に入ったホロ関連のリポストしてます。
飽和水溶液(@Suiyoueki_suba) https://twitter.com/Suiyoueki_suba


第42話 ”いつものアイツなら”

 

 

「……で、ラプラス。どうしてあんたがここに居るわけ?」

 

 

宝鐘海賊艦隊の二番船。

そのA棟一階に位置する旧食堂にて、彼女たちは束の間の栄養補給に勤しんでいた。

 

 

「普段外出任務なんて滅多に行かないくせに。それに沙花叉たちの救出なら、普通いろはちゃんあたりが来るんじゃないの?」

 

 

数日間の空腹に耐えた後、久々の食事にありつけていたクロヱが疑問を投げかける。先程はトマトの様な野菜の入ったスープを盛大に噴き出していたが、それ以外の物はどうやら口に合ったようだった。

 

 

「ああ、本来はそうなんだが……実はいろはのやつ、今別の任務で本部に居ないだよ。で、あの優秀な暗殺部門が敵わなかった宝鐘海賊団相手に他の奴を向かわせるのも不安でな」

 

 

「……それで総帥自ら来たの?よくあのルイ姉が許したね。ラプツナズも連れてきたって言ってたけど、あの人たち少数精鋭でしょ?無謀すぎ」

 

 

そう言ったクロヱは、齧った干し肉をゆっくりと咀嚼し呑み込んでいた。

確かに、彼女の意見はもっともだ。正直言って、不意を突かれてしまったとはいえこと『潜入』に長けた彼女たちが敵わなかった宝鐘海賊団を相手に、極秘裏に船に侵入し捕まっている仲間を助け出すなんて無謀にも程がある。しかし対外的にも個人的にも、吾輩にはどうしてもこの件を他の部下に任せることなどできなかった。特に、敵性組織と捕らわれている部下の名前を聞いてしまったからには。

 

 

「まぁ確かに、吾輩が行くって言いだしたときは幹部にも博士にも随分と反対されたぞ。……でも、お前らが心配だったんだ。それに宝鐘海賊団とやらにも興味があったしな」

 

 

暗殺部門の連中が今回の任務で調査対象としている組織の名が【宝鐘海賊団】と知った時点で、吾輩にはこの件に関わらざるを得なくなった。フレンズ王国の一件でもわかる通り、この世界のラプラス・ダークネスの教えに従っているholoXでは敵対する全ての組織を滅ぼそうとしていまうところがあるからだ。加えて、彼女らに捕まってしまった者の中に【沙花叉クロヱ】の名を見つけたからには……もはや、吾輩が自ら赴き全てを丸く収めなければならないと思った。結果それが現状のように無謀な事だったとしても、決して譲れず諦めきれないことだったのだ。

 

 

「……へー、珍しいこともあるもんだね。ラプラスはこの海賊団の何に興味が湧いたわけ?」

 

 

「えっ?!あー……えっと、それはだな……」

 

 

ラプラスがこの船に赴いた理由について話していると、クロヱが非常に答えずらい質問を投げかけてきた。吾輩が宝鐘海賊団に興味を持った理由、それはひとえに先輩方と関係があると思ったからだ。ホロライブに所属している彼女たちの存在を知っているならば、その海賊たちの名前にもまた反応してしまうのは当然のこと。しかし、それを素直に新人に説明するわけにはいかない。吾輩がこの世界のラプラス・ダークネス本人ではないという事を隠している以上、沙花叉に彼女たちのことを”前から知っている”と証明する術がないのだ。よって、ここはそれらしい言い訳をしなければならない。

 

 

「に、任務から帰還してきた部下達の話を聞いて、ちょっと気になったんだっ!……そう言えばクロヱ、お前は自分以外の連中がどうなったか知ってるのか?」

 

 

「んーん知らない、沙花叉は捕まってからずっと一人で牢に入れられてたからさ。あの後どうなったかとか詳しく知らないんだよね」

 

 

「そうか……実は吾輩がここに来る前、お前と一緒に任務に出てた連中のきっかり半数が壊れた宇宙船で本部に帰ってきたんだよ。それで話を聞いてみれば、捕まったはずの自分たちを宝鐘マリンがわざと逃がしてくれたって言うんだ。おかしな話だろ?無断で侵入したのはこっちなのに、故意的にそいつらを見逃す理由がない。……それで、宝鐘海賊団の『本当の目的』について興味が湧いたってわけだ。上手くいけば、holoXの為になるかもしれないと思ってな」

 

 

我ながら、よく舌が回った方だと思った。宝鐘海賊団に”最初から”興味があったことを隠しつつ、なぜわざわざ自分が現場に来たのかという事もこれで説明がつく。彼女たちの目的について調べたいとなれば、侵略行為のようにただ滅ぼせばいいという訳にはいかない。加えて、組織の為総帥が望んでいるとならば誰も止めることなどできないのだ。

 

 

「は?!皆生きてんの?……沙花叉はてっきり、私以外は皆殺されたのかと思ってた……」

 

 

いや、物騒過ぎだろ!……と思いつつ、そう考えても仕方なかったとラプラスは理解していた。新人からしてみれば、見ず知らずの完全なる敵である宝鐘海賊団。そんな彼女たちに部下が捕まったとなれば、ただでは済まされないと思うのが普通だ。

 

 

「……そっか、みんな生きてるんだ……」

 

 

珍しく、クロヱがとても優しい口調でそう呟いたのが聞こえた。きっと、彼女もまた部下たちの身を案じていたのだろう。自分も捕まってしまい、外部の状況が全くわからない中でもクロヱなりに心配していたんだな。

 

 

「……というわけで、吾輩自らこの船に乗り込んだんだ。……ただ、まあ……乗り込んだはいいものの、思ったより厄介な船でな。ゾンビに追い掛け回されるわ、見えない幽霊にずっと監視されてるわ、そして気が付けば潤羽るしあに見つかるわで散々な目に合ったんだ。お前らもそうだったんだろ?」

 

 

「うん……こんこよの作ってくれたヘルメットしてたんだけどね。魂が見えるとか反則だわー」

 

 

「ああ、潜入してる側からすれば面倒なことこの上ない。……”ネクロマンシー”って便利なもんだな」

 

 

降霊術師、ネクロマンサー。それが潤羽るしあの持つもう一つの顔だ。彼女はその力を最大限活用し、疑似的死者蘇生や魂の可視化に成功している。実際のところその能力や知識をどのように活用しているのかまではわからないが、ネクロマンシーを扱えるるしあ先輩にしか出来ない芸当だ。

 

 

「……あの力、”ねくろまんしぃ”って言うんだ。……詳しいね」

 

 

「いや、正確には知らないぞ。ただ、潤羽るしあの使う力によく似た『降霊術』って言うのがあってな。それをネクロマンシー、扱える人間をネクロマンサーって呼ぶんだ。だから”あの人”もそうなんじゃないかって思ってな」

 

 

「……”あの人”……ふぅーん……」

 

 

ラプラスによる説明を、クロヱは一見静かに聞いていた。

しかし、その際本当に向けられていた意識の先をラプラスは知る由もない。

 

 

 

 

「……まあ、あんたがここに居る理由はわかった。それに、さっき言ってた『仲間を助けるのに協力』って意味も何となく……たださ、何で”コイツ”がここに居るの?ってことだけはどうしても意味が分からないんだけど。このメイド擬き敵でしょ?何でここに居るわけ?」

 

 

自分のここまでの経緯を説明し、ラプラスはひと段落だと木製のコップに入った水を一口飲み込んだ。すると、その話の中で説明されなかったこの場に居る場違いな人間についてクロヱは言及する。何故敵対関係であるはずの彼女が、我が物顔で総帥と一緒に居るのだろうかと。

 

 

「……うぇ?……あ、あてぃし?……」

 

 

先程から一言も喋らず、ただ静かに向かいの席で話を聞いていたあくあ先輩をクロヱは指差した。すると会話の内容がわからず退屈だったのか、若干舟を漕ぎ始めていた彼女がびっくりした様子で反応する。確かに、新人の疑問はもっともだ。さっきの話で、ではなぜ宝鐘海賊団の一番船副船長である湊あくあと吾輩が一緒に居るのだろうかと気になったはず。

しかし、この出会いは本当に偶然だったのだ。

 

 

「あくあさんとは地下牢に行く直前に会ったんだ。そこで、まあ色々とあって……簡単に言えば、お前を助けたいって意見が一致してな。この飯を食ってるのもその一環なんだぞ?」

 

 

「う、うん、そう……ラプラスちゃんとはさっき会って、それで助けてもらって……あてぃしが、クロヱちゃんを助けてあげて欲しいってお願いしたの……」

 

 

吾輩のざっくりとした説明に、あくあ先輩が更にフワッとした内容を追加してくれていた。まあ要は、それぞれ別の理由があれど目的が一致し一時的に協力関係になったというところだろう。るしあ先輩と渡り合うための戦力が欲しいという吾輩と、深すぎる慈悲により捕虜であるはずのクロヱを心配してくれたあくあ先輩の優しさの結果だ。

 

 

「……いや、その色々の部分が知りたいんだけど……はぁ~、まあいいや。それで?ラプラス、コイツは

”利用”できんの?」

 

 

「おい!利用って言い方は辞めろ。……さっきも言ったが、あくあさんは敵であるお前を介抱してくれた恩人だろ。それに、ここで吾輩も一緒にご飯を食べさせてもらったんだ。あんまり失礼な言葉が目立つと、流石の吾輩でも怒るぞ」

 

 

曖昧すぎる説明を聞いたクロヱが、片肘を付きながらため息を吐いた。そして、あろうことかお世話になったあくあ先輩に対し失礼な言葉を言い出したので流石のラプラスも注意をする。新人は普段から悠々自適で不躾な言動や行動をしてしまう節がある。まあ吾輩自身にも似たような部分が無いわけではないので多少のことならそれも彼女の魅力の一つとして見逃すが、恩を受けた先輩に対して無礼な働きをするというならば見過ごすわけにはいかなかった。

 

 

「はぁ?なんであんたが怒ってんの?チビ総帥がわざわざこの船に来たのも、興味を持った理由も全部こいつら宝鐘海賊団が”使える”って思ったからでしょ!!……”いつものラプラスなら”そう言って……」

 

 

 

 

「沙花叉ッ!!」ーーードンッ。

 

 

 

 

行き過ぎた発言をしたクロヱに、ラプラスは思わず大声を上げてしまった。座っていた長椅子から立ち上がり、食事の並んだ机を叩く。こっちの世界に来てからできるだけ温厚で通していた吾輩でも、今の発言は見逃せない。ここまでも非常にお世話になって、これからも協力関係になろうとしている先輩方に対し『使える』だなんて失礼にも程があるだろ!!

 

 

「”新人”、お前いい加減にしろよッ!助けてもらった立場で何言ってるんだ!!」

 

 

「い、いきなり何なの?!沙花叉別に助けてなんて頼んでないし!コイツが勝手に恩着せがましく介抱してきただけでしょっ!!」

 

 

「お前なぁ……!!」

 

 

ラプラスは席を立ち上がったことを皮切りに、強めの口調でクロヱのことを叱咤した。しかし、それに対抗するように彼女もまた声を荒げる。売り言葉に買い言葉状態になり、ちょっとした言い合いのようになってしまった。

すると、彼女たちの言い合いを見兼ねたらしいあくあ先輩が二人を仲裁しようと口を挟む。

 

 

「ら、ラプラスちゃん、あてぃしは別に気にしてないから……それに、喧嘩はよくない…よ……」

 

 

「あくあさん……」

 

 

今にも喧嘩が始りそうな吾輩たちを、あくあ先輩が寸でのところで思いとどまらせてくれた。新人の発言には流石に怒りが湧いたが、本人が気にしていないと言うならとラプラスは引き下がる。

 

 

「……あくあさんが、そう言うなら……今回だけは聞かなかったことにしてやる。次は無いぞ」

 

 

「う、うん……クロヱちゃんも、それでいい……?」

 

 

「……ふんっ。」

 

 

あくあ先輩の計らいで、今回だけは部下の失言を見逃すとラプラスは容赦することにした。すると、未だ不満がありそうなクロヱではあったが、この場ではもうこれ以上言及するつもりは無いと彼女も黙り込む。確かに吾輩も思わず怒鳴ってしまったが、今こんなところで言い争っている場合では無いのも事実。きっとクロヱ自身も未だ疲労等で精神的に不安定なだけかもしれないし、吾輩は総帥としてもう少し冷静にならないといけないか。

 

 

「……見苦しいところをお見せしてすみません、あくあさん」

 

 

「う、ううん……スゥ‐……大丈夫だよ…………そ、それよりもラプラスちゃん、二人はこれからどうするの……?」

 

 

最悪に最悪の重なった空気感を脱する為か、あくあ先輩が新しい話を持ち出してくれた。それを受け、再び席に着いたラプラスは頭を切り替える。クロヱはさっきのことでそっぽを向き無言で食事を貪っているし、正直今のコイツと今後のことをじっくり話し合うのは気まず過ぎる。まあやることは決まってる訳だし、別にわざわざクロエを介して話さずとも構わないか。

 

 

「今のところ、まだ捕まってる他の部下を探して助けようかと考えてます。あくあさん達には悪いですが、元々この船に来た目的はそれでしたから」

 

 

吾輩達がこの船に来た表面上の目的、それは作戦に失敗し捕らえられてしまった暗殺部門の連中を救出することだ。またそれに加え、一緒に連れてきたラプツナズの隊員を助け出すことも含まれている。そして現在、まず手始めにとクロヱを救出したわけだが、ここからは順次他の部下たちを探し出していこうと考えている。仲間の救出ももちろん大事な事なのだが、吾輩にはそれ以外にも個人的な目的があるのだ。身に覚えのない容疑を掛けられ、完全に恨まれてしまっているるしあ先輩の誤解を解くためにもとにかく今は戦力が必要。この世界のクロヱがどの程度動けるのかはわからないが、少なくとも武装しているコイツが居れば状況はかなり改善されたと言っていい。

 

 

「そっか……そう、だよね。ラプラスちゃんは元々、その為にここに来たんだもんね……うぅ…ラプラスちゃん達に協力したって船長にバレたら、怒られちゃうかな……」

 

 

そう言ったあくあ先輩は、頭を抱えてしまっていた。

あくあ先輩がクロヱの救出に協力してくれたのは、ひとえに彼女の深すぎる優しさからくるものだった。酷く傷付いていたクロヱの姿を見兼ねて、立場や命令を無視し今もこの場に一緒に居てくれている。それは傍から見れば無用な慈悲を敵に掛け、彼女の仲間であるマリン先輩たちからすればあくあ先輩は裏切り者となってしまうかもしれない。

 

……しかし、ラプラスはそうなる事を望んでなどいない。これだけの優しさを持っている彼女の行動が、咎められることなどあってほしくないからだ。吾輩と、吾輩の大切な部下に与えてくれた施しを仇で返したくなどない。せめて、吾輩たちを助けたことで彼女たちにより良い結果がもたらされなければ割に合わないではないか。

ならば、吾輩が取るべき行動は決まっている。あくあ先輩の行動が正当化されるように、holoXが宝鐘海賊団に対し恩恵をもたらせればいいのだ。その為の”状況や戦力”といったカードを、こちらは持っているのだから。

 

 

「……ところであくあさん、少し話は戻るのですが……まだ、うちの部下の面倒を見てもらったことに対する”お礼”をしてませんでしたよね?」

 

 

そう話を切り出したラプラスは、口角を少し吊り上げながらニヤッと笑った。まるで、これから小さなイタズラでもしでかそうとしている子供のように。

しかし、その意識を向けられた当の本人は言葉の意図がわからず首をかしげる。

 

 

「えっ?……お、お礼?……」

 

 

「はい!吾輩を含め、あなたに優しくして貰ったことに対するお礼です。何か欲しい物や困ってることはありませんか?どんなに大きな物でも大変な事でも、holoXの総帥である吾輩にできることなら何だってしますよ!」

 

 

困惑している彼女を他所に、ラプラスはそう高らかに口上を述べた。あくあ先輩が我々holoXにしてくれた行いに対する、吾輩なりの感謝の気持ち。それを、holoX自身の総力をもって行おうというのだ。元々うちの部下に施しを与えてくれたわけで、それを組織の力を使って返上するのだから何も間違ってなどいない。

また、そういう理由を適当に並べておけばそれとなく宝鐘海賊団と協力関係にもなりやすいという寸法だ。我ながら、いい考えだと思う。

 

 

「えぇ!?そ、そんなこと、急に言われても……うーん……それなら甘いお菓子とか、ゲームとか……あ、最近キッチン周りの水カビが気になるって船長が言ってたし、それを何とかしてもらうとか……」

 

 

 

 

「・・・まあ、それもいいかもしれませんけど……もっと大きな事はどうですか?…………例えば、”故郷を取り返すのを手伝ってほしい”とか?」

 

 

 

 

「……え?」

 

 

自分の想定していたものよりも圧倒的に小さな願いを口にしたあくあ先輩に対し、ラプラスは自身の考えていた『本命』について言及する。彼女たちが個人的にではなく、全体的総意によって永年心から望んでいること。それは、遥か昔に侵略者たちによって奪われた故郷の惑星を取り戻すことだ。またその為の協力関係になる事を、吾輩は本気で望んでもいる。

 

 

「実は、この船に来てから宝鐘海賊団について色々調べて事情を知ったんです。……【ホロベーダー】。自分たちの故郷を奪った奴らと戦う為に、あくあさんたちは海賊行為をしていたんですよね?」

 

 

あくあさんを含めた先輩方が、悪事を働くタイプの『海賊』になり果てた理由。それは自分たちの活動領域を広め、奴らと対峙する為に必要なものを得るためだ。それは被害者からすればたまったものでは無いのだろうが、第三者である吾輩個人からすれば彼女たちを絶対悪だと断定することは出来ないと思った。

 

 

「こんな立場の吾輩が言えることじゃないかもしれませんが……あくあさんたちのしていることが完全に悪いことだなんて吾輩には思えません。恨むべきはそのホロベーダーです。個人的にも、奴らについては興味ありますし……それでですね、もしあくあさんたちが迷惑じゃないって言うなら……奴らを倒す協力を、吾輩にさせてもらえませんか?」

 

 

彼女たちの行いも、この世界の吾輩がしてきた行為も決して許されるものでは無い。しかし、少なくとも宝鐘海賊団に関してだけは同情の余地があってもいいと思う。仕方ないで流せずとも、せめて今後先輩たちが同じ罪を重ねずともよい状況が作り出されるべきだ。

 

そう思ったラプラスは、湊あくあをまっすぐに見据え彼女の言葉を待った。すると、困惑と驚きの最中少しだけ表情を曇らせた少女が小さな声でポツリと呟いた。

 

 

「……”戦う”だなんて……そんな大それた理由じゃないよ……」

 

 

しかしその言葉自体には、大きな意味が隠れているように感じられた。とても優しくて、優しすぎる彼女の本来の姿が見え隠れする。

 

 

「あくあさん……?」

 

 

 

「……ラプラスちゃんが思ってるほど、”私”はいい人じゃない。ここに居るのだって、他に行く宛が無かったからってだけで……私は、本当はどうしようもない”罪人”なの」

 

 

 

そう言ったあくあ先輩の表情は、下を向いてしまっていて見ることは出来なかった。ただ、その小さく丸まった彼女の姿からは酷い罪の意識が感じられる。先程先輩の言った『罪人』というのが何を表しているのか……それすらも、今のラプラスには想像だにできなかった。

 

 

「……」

 

 

あくあ先輩が話した後、誰も言葉が続けられずしばらくの静寂が流れた。辺りからは、未だ何もない壁の方を向いているクロヱの咀嚼音だけが聞こえてくる。

 

そして、少ししてから気を取り直したらしい先輩が顔を上げた。

 

 

「……私にとって、今してる全てのことは只の自分のしてきた行いに対する贖罪なの。…………だ、だからその…ごめんね、ラプラスちゃんの気持ちはすっごくありがたいんだけど……そういう話は、”あてぃし”じゃなくって船長とかるしあちゃんにして欲しいかなって……た、助けてくれるって言うのは本当に嬉しいんだよ!でも、あてぃし一人には決められないっていうか……」

 

 

最初こそはっきりとした物言いだったものの、徐々にその語気は失われていってしまった。しかし、その中に含まれていた『贖罪』という言葉は今のラプラスにとって非常に重くのしかかる。彼女も、過去に犯してしまったその”行い”に対して罪滅ぼしの最中であるというのか。

 

 

この世界のあくあ先輩が、一体何を抱えて生きているのかはわからない。それに、きっと本人からすればそれはあまり人に知られたくないことなのだろう。自分がそうなのだから、その気持ちだけはよくわかるつもりだ。誰だって、人に知られたくない秘密くらいある。それを、”優しすぎる”と定義した先輩が持っていたって何ら不思議はない。むしろ、それこそが今の湊あくあという人物像を形成していると言っていい。結局のところ、元のあの世界にしたって先輩方のすべてを知っていたわけでは無いのだから。

 

 

 

しかし、それでも尚吾輩の考えは変わらない。むしろその望みが強まったくらいだ。罪の意識に苛まれ、苦しんでいる先輩の為に吾輩は出来ることをしたい。今回もまた、あの世界で吾輩を受け入れてくれた先輩たちに対して恩返しをする絶好の機会なのだ。

 

 

「……なるほど、話は分かりました。確かにあくあさん一人では決められないですよね。……そういうことなら、あくあさんの言う通り宝鐘マリンや潤羽るしあと直接話をしようと思います。ただ、その為にはどっちにしろあくあさんの協力が必要不可欠なんですが……お願いできませんか?」

 

 

そう言ったラプラスは、無意識のうちに席から立ち上がりそっと右手を前に突き出した。その手は、テーブルを挟み正面に座っている湊あくあに向けられている。

 

 

「え?!あ…えっと……スゥ‐……お、お願いします……??」

 

 

またその差し出された手に対して、あくあ先輩が不思議そうに見てからそっと両手で掴んだ。微妙に吾輩の意図していたものとは違ったが、少なくともこちらの好意自体は受け入れてくれるつもりらしい。ここであくあ先輩に出会えたことは、何だかんだこちらにとって好都合だった。先に彼女だけに話を通せるし、この後に行う予定のるしあ先輩への説得でも助力してくれることだろう。

 

 

そう思ったラプラスは、少しずつ状況が改善されていっているのを実感していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……。」

 

 

ーーーしかし、その光景を隣で見ていた掃除屋の目線には、いつまでも気が付くことは無かった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……それじゃあ、吾輩たちは他の部下たちを助けてから潤羽るしあのところに向かいますね!」

 

 

気まず過ぎる空気から始まった質素な食事会も、ようやく佳境を迎えていた。あくあ先輩との話し合いも進み、今はこの後のお互いの動きを再確認している最中だ。

 

 

「う、うん、わかった。他の人達もずっと捕まってたし、心配だよね……じゃ、じゃああてぃしは先にるしあちゃんのところに行っとくね……たぶん、船長室か操舵室に居ると思うから……」

 

 

一刻も早くるしあ先輩の元に行き説得をしたい反面、未だ捕まっている仲間が心配なのもまた事実。それにクロヱも何だかんだ部下のことを心配していたみたいだし、先に会わせてあげたいよな。まあ単純に、るしあ先輩率いるふぁんでっとに力負けしない為という理由もあるけど。

 

 

「わかりました……あ、鍵もありがとうございますね。まさか、あくあさんが部下全員の面倒を一人見てたとは……」

 

 

ラプラスはそう言いながら、先程先輩から受け取った各牢屋のカギを握りしめた。先輩の話によると、他の暗殺部門の連中はクロヱと同じくA棟の地下牢に捕らえられているらしい。ただし、その地下牢というのがどうやら二か所あるらしいのだ。従ってA棟地下への入り口は二つあり、一つは吾輩たちが通ってきた動力室に続く階段。そしてもう一つは、最初あくあ先輩と出会ったときに彼女が走ってきた側の廊下の先にあるらしい。実は、吾輩と会う直前まで先輩は彼らの面倒を見ていたというのだ。

 

 

「あ、あてぃし以外に見れる人がいなくて……で、でもあてぃしが知ってる限り追加で連れてこられてる人はいなかったよ……?」

 

 

この船が動き出してから、新たに捕まって地下牢に来た者は居ない。それはつまり、ここに吾輩と一緒に潜入してきたラプツナズの隊員は別の場所に監禁されているという事だ。しかしその場所についてまでは、あくあ先輩でも知らないらしい。恐らくるしあ先輩がゾンビ達を使って、どこかに拘束しているとは思うんだが……。

 

 

「……まあ、それについてはこっちで探してみます。最悪、潤羽るしあと話がつけば開放してもらえると思いますしね」

 

 

るしあ先輩と対等な立場で話をする為の戦力、それは最低限暗殺部門の連中がいれば事足りるだろう。それよりも問題なのは、交渉のテーブルにつけたとして果たして吾輩が先輩の誤解を上手く解けるかという事なんだが……まあその辺は、あくあ先輩もいるし何とかなるだろう。

 

 

「そう、だね……スゥ‐……そ、それじゃああてぃしは先に行ってるから。また後でね……」

 

 

「はい、本当に色々ありがとうございました。このご恩は必ず返しますからね!」

 

 

一時的な別れを告げた先輩に対し、ラプラスは再度感謝の言葉を述べた。そして、それをバツの悪そうに頬を赤らめながらに受け止めた彼女は、そそくさと旧食堂を後にしたのだった。

 

 

 

あくあ先輩が部屋を出るのを見送り、その場にはラプラスとクロヱの二人だけが残されていた。さっき少し言い争ってしまってからというもの、新人は一言も話さず未だに保存食を食んでいる。だがいつまでもこの空気感では今後の行動に影響が出ると思い、ラプラスは思考を切り替えながらクロヱの方を振り返った。

 

 

「おいクロヱ、腹が空いてたのはわかるが早めに食べ終わってくれ。そろそろ吾輩たちも動くぞ」

 

 

「……うーん、わかってるー……もう食べ終わるからさ」

 

 

ラプラスはそう言いながら、ゆっくりと彼女の方に歩み寄る。すると、新人が最後に食べていた別味のスープ缶を飲み干してから徐に立ち上がった。

 

 

「ふぅー、お腹いっぱい。保存食なんて食べれたもんじゃないって思ってたけど、案外いけたわー」

 

 

思ったよりも明るい口調で、クロヱはさっきまで食べていた物の文句を垂れていた。折角食べさせてもらった食事への言葉はともかく、声を荒げた程の言い合いの後でその反応は少しおかしな気もする。さっきまで、あんなに怒ってるっぽかったのに……。

 

 

「文句言うな、食べさせてもらっただけありがたいと思え」

 

 

「……そうだね。」

 

 

ラプラスの軽い注意に対し、彼女は静かに肯定していた。やっぱり、いやに物分かりがいい気がする。”いつものクロヱなら”、口喧嘩の後はもっと食って掛かって……。

 

 

 

「あーところで、これから色々やる事あるんだろうけどさ……その前に、一つ聞いてもいい?」

 

 

 

心の中に生まれた彼女の態度に対する違和感を、ぴしゃりと止めるかの如くクロヱは口を開く。そして、ポケットに両手を入れながら同じくこちらに歩いてきた彼女の質問にラプラスは応える。

 

 

「……なんだ?」

 

 

そう言ったラプラスの顔を、クロヱは優しい目をしながら見据えていた。

 

そして、何かを確信したようにフッと笑ってから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーお前、誰?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……笑ってから、右手に握りしめたハンドガンの銃口を【ラプラス】へと向けていた。

 

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