転生したらラプラス・ダークネスだった件   作:飽和水溶液_pixiv

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第45話です。『!注意!』今回はかなりのキャラ崩壊、及び強めの独自解釈が含まれています。ですが明らかにおかしくね?という点に関しては物語の都合上の”仕様”ですので、上手く呑み込みながらお読みいただくようご理解のほどよろしくお願いいたします。

さて、今回は上記の通りかなりのキャラ崩壊を起こします。どっちもです、総帥も新人もです。ですがそのお陰?でようやく二人の言い争い兼シリアス展開もひと段落を迎えられそうです。また前回の前置きで次話ではラプラス視点に戻ると言いましたが、書いてる途中でこの展開はクロヱ視点の方が書きやすいなぁとなった結果7割ほどクロヱ視点です。次回からは多分ラプ様に戻ります。なんだか久しぶりな感じがしますね。果たして、前回の最後の言葉の意味とは……!?


【追記】
前回の44話で、いきなり過去のholoXメンバーが登場して驚いた方もいたかと思います。実は前話を書きだすまではその辺りに触れるつもりは無かったのですが、この世界の沙花叉クロヱという人物について深堀する良い機会だと思って載せました。……ですが、そんな思い付きでやった結果少し自分の思っていた感じと違ったというか……解釈の不一致を誘発してしまいそうになっていたので、ここではっきりさせておきたいと思います。

この世界の博衣こより、風間いろは、沙花叉クロヱの三人は子供の頃ラプラスに拾われました。またラプラスと鷹嶺ルイも、ルイ姉が幼い頃からの付き合いです。ちなみに彼女たちの寿命の長さについてはいろはとクロヱが普通の人間と変わらず、こよりは獣人という事で少し長いです。それに伴って見た目ではわかりづらいようですが、クロヱが拾われてきた段階ではこんこよのみ少しだけ年上でした。またルイは種族的問題で長寿であり、人間の約五倍ほどの長さです。そしてラプラスは実質的に無限です。外的要因が無ければ死ぬことはありません。
※これらはあくまでこのパラレル世界、及びこの作品内だけでの『架空設定』です。またこれらが直接本編に関係してくることは今のところないので、一応そうなんだーぐらいに思っておいてください。


↓作者:飽和水溶液のXアカウント。主に執筆状況や気に入ったホロ関連のリポストしてます。
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第45話 ”掃除屋”と〖悪魔〗の望み

 

 

 

『「はぁ、まったく……”君には失望したよ”。…………【0968】番」』

 

 

 

そう言った悪魔は、ただ静かに私のことを見つめていた。

しかし、当の本人はその彼女からの視線によって一瞬のうちに心臓の鼓動すら止まってしまいそうな感覚に陥る。こちらが殺意の口先を相手に向け、生殺与奪の権利を握っているはずなのに……何故か、全く逆の立場であるように感じられた。

 

 

『「……どうしたんだい?そんな怯えたような顔をして。……今私に銃口を向けているのは、君の方だろう?968番」』

 

 

怯えてる?私が……?

相手にそう言われ、私は初めて自分が震えていたことに気が付いた。さっきまで偉そうに『誰?』とか言って振舞っていたくせに……今では、まるで蛇に睨まれた蛙のようだ。

 

 

「な……なん、で……?」

 

 

何とか言葉を発しようとしたが、口が震えて思うように話すことが出来ない。久しく感じていなかったその感覚が、私の言語能力を著しく低下させていた。

 

 

『「”なんで?”とは、随分な言い方じゃないか。君が言ったのだろう?君が今している行動に対し、私なら何と答えるのか教えて欲しいと。だから私は恩知らずな部下の為に、わざわざその答えを用意してあげたんだ。…………あぁ、それとも君を昔の呼び方である『968番』と呼んだことについて言っているのかな?それなら、私が折角つけてあげた名前を呼ばれて君が失礼にも嫌そうな顔をしていたから控えてあげているんだ。無礼を働く配下に対しても優しく接する、それこそが君にとっても”理想的な総帥”だろ?」』

 

 

そう言った”あなた”は先程までとは打って変わり、ずっと『ラプラスらしい』言動と態度に変わっていた。ここまでのやり取りから、私はまだヤツを偽物だと疑ってはいるが……果たして、今のコイツと本物の総帥との間にどんな違いがあるというのだろうか。

 

 

『「……それで、気は済んだかい?私は再び囚われの身であった君を労力をはたいて助け出し、その上で任務をしくじったことに対しても”優しさから”叱責をしなかったわけだが……そんな総帥に対して、銃口を向けられたことで君は満足したのか?」』

 

 

クロヱはここまでの自分の行動を指摘され、今尚【ーーーー】に銃口を向き続けていることを酷く後悔し始めていた。しかし、それもこの異様なまでに張りつめた空気の中では身じろぎ一つとることが出来ない。すると、それを知ってか知らずか、目の前の悪魔はゆっくりと真っすぐにこちらへと歩み寄ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

『「…………本当に、残念だよ。……なぁ、”クロヱ”?」』

 

 

 

 

 

 

 

そう言われた私は……ただ、恐怖することしか出来なかった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

……一体、何が起きたのか。

時はほんの少しばかり遡る―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――お前、誰?」

 

 

突然、クロヱに銃を突き付けられながらそう言われたラプラスは……想像以上に驚愕していた。

 

 

(え、ちょ……いきなりなに!?)

 

 

何が起こっているのか状況が呑み込めず、ラプラスは心の内で叫び声を上げた。

 

先程、吾輩と新人は確かに言い合いの喧嘩の様なものをしてしまった。その理由については、クロヱが恩知らずにも立場をおして彼女の面倒を見てくれたあくあ先輩に対し失礼な発言をしたからだ。それを吾輩が見過ごせないと怒った結果、この世界で出会ったばかりだったクロヱとは若干気まずい空気になってしまっていた。

しかし、それ以前については多少おかしな様子は見受けられたものの普通に話せてたし、少なくともいきなりこんなことをされる謂れはない。こんな状況下での”裏切り”とかも今のコイツには何のメリットも無いだろうし……と、というかっ!冷静になってないで何か言わないと!!

 

 

 

「ぉ……おい、これは一体……何のつもりだ、クロヱ……」

 

 

 

未だ部下の行動の意味を理解できないラプラスであったが、一先ず撃たれては敵わないとその真意を問うことにした。だが先程地下牢であくあ先輩を庇ったときとは違い、今のクロヱからは吾輩に対する明確な殺意を感じる。目つきも鋭く、吾輩のどんな些細な動きすら見逃さないという強い圧を放っている。

そして、それにビビってしまったせいか思っていたよりも低い声が出てしまっていた。

 

 

「……何のつもりも何も、見ての通りだよ。らしくないあんたを疑ってる。”本物の総帥なら”、沙花叉の言ってるこの意味わかるよね?」

 

 

ッ!……まさか、コイツもしかして……!

クロヱのその言葉を聞いて、ラプラスはようやく彼女の行動の意味を理解した。またそれと同時に、自分のこれまでの彼女とのやり取りや発言を振り返り『”しまった”』と思う。相棒にも再三注意するよう言われていたというのに、自分の感情を優先し軽はずみな行動を取ってしまった結果最悪な状況をもたらしてしまったのだ。それは、今の沙花叉クロヱの態度が明白に物語っていた。

 

 

 

 

(……間違いない。クロヱのヤツ……吾輩が”本物のラプラスじゃない”って気付いてる……!!)

 

 

 

 

それ以外に、クロヱが吾輩に銃を向ける理由がない。

この世界のラプラス・ダークネスがどのような存在なのか、自身の創り上げた秘密結社holoXの中で彼女がどのように扱われているのか、それを吾輩は嫌というほど身をもって知っている。また部下たちに関しても、元の世界とは違って目眩がするほどの忠誠心を総帥に向けている。それがもし、クロヱにも当て嵌まるというのならば……いや、例え当て嵌まらずとも今のこの状況を幹部辺りが見たら新人のヤツを物凄い剣幕で怒る事だろう。それこそ、出会ったばかりの頃の黒様が吾輩に暴言を吐いた時みたいに……。

 

しかし、それを踏まえた上でも今のクロヱが冗談でこんなことをしているようには見えない。表情からしてもその行動は真剣そのものであり、本気で目の前の人物が『ラプラス・ダークネス本人であるか』ということを疑っているんだ。これまでの吾輩の何を見てそう思ったのかはわからないが、少なくともそれを行動に移すまでには確信に近づいているという事。

 

 

「さぁ、部下にこうされて……”ラプラスなら”、なんて答えんの?教えてよ」

 

 

クロヱにそう問われ、ラプラスは口を噤んだ。それは、そう言った彼女の表情から次に出る吾輩の言葉次第では確実に”その引き金を引くつもり”という事を感じ取ったからだった。

 

(は、発言には気を付けろ、吾輩……今ここで変なことを言ったら、間違いなく新人に殺されるっ!!)

 

この緊迫した状況に対し噴き出た冷や汗が、静かに自身の背を伝っていた。

 

 

 

当初、まだこの世界のことを何も知らなかった吾輩は自分の陥ってしまったこの状況を信頼できる『仲間達』には話してしまおうと思っていた。この場合の仲間とはあちらの世界でも一緒にholoXとして活動していた幹部や博士、新人や侍たちのことだ。あいつらの人柄を知っている吾輩からすれば、こちらの事情を話し助けを乞えば協力してくれるだろうと踏んでいたのだ。しかし、それは吾輩がこの世界に来た最初の日に今や相棒である”烏”によって止められた。その理由は、この世界の〖ラプラス・ダークネス〗に心酔しきっている部下たちが『ラプラスの偽物』という今の吾輩の存在を知ったらどのような行動に出るかわからないからという事だった。実際のところ、既に出会った幹部や博士の態度からも烏の言っていたことには説得力があると思っている。それに吾輩自身もフレンズ王国の件を通してこの世界の部下たちのことを知り、博士に本当のことを話そうとしたときに”果たして受け入れられるのだろうか”と相談することをためらってしまったぐらいだ。結局今回の騒動のせいでその話はうやむやなってしまっているが、その時の吾輩は途中で邪魔が入り……正直、少しほっとしていた。

 

 

しかし、今のこの状況はその時とは比べ物にならない程まずい。何故なら、信頼のおける部下に対し”自分から”本物のラプラスではないと打ち明けることと、”向こうから”偽物のラプラスであると指摘されるのではこちらの事情を説明する上でも雲泥の差が生じることになる。ただでさえさっきのクロヱの先輩に対する態度にholoXの総帥として怒ったばかりなのに、実はその吾輩がラプラス本人ではないと知ったらただでは済まされないだろう。それこそ、今彼女の持っているソレで撃たれておしまいだ。

 

(まずい、まずいッ……この状況で、なんて言ったらコイツは納得してくれるんだっ!?)

 

……というか、そもそもクロヱは何処で吾輩の正体に気づいたのだろうか。確かに烏からも新人は勘がいいから気を付けろとは言われていたが、こっちの世界に来てからの数日間で眷属たちはおろか幹部にだってそんなことを疑われたことは無い。若干の変化が気になったらしい博士には指摘されたものの、それも雰囲気変わった?程度のものだ。それに烏はこの世界のラプラスと今の吾輩も大差ないみたいなことも言ってたし、出来るだけ悪の組織の総帥として振舞っていたつもりだったんだが……。

 

 

 

結局のところ、ラプラスはクロヱが何故自分の正体に勘づいたのかはわからなかった。そして、どうしたらこの場を切り抜けられるだろうかと必死に思考を巡らせるものの、上手い打開策が思いつかずただ時間だけが過ぎていく。

 

(このまま黙ってても、いずれシビレを切らしたクロヱに…………仕方ない、もう”これしか”……)

 

そう思ったラプラスは、自分の正体を”素直に”クロヱに話そうとしていた。自分に明確な殺意を持っている今の彼女が果たしてどこまでこちらの説明を聞いてくれるかはわからないが、シラを切り続けるよりは幾らか現実的だろうと判断する。

そして、ラプラスは意を決して口を開こうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

―――刹那、ラプラスがそうするより先にどこからともなく”声”が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……はぁ、まったく……”君には失望したよ”。…………【0968】番』

 

 

 

 

 

 

 

一瞬、その口調や声のトーンからそれを発したのが誰なのかはわからなかった。

だが今のは、間違いじゃなければ”吾輩の顔の下の方”から聞こえてきたような……。

 

 

 

 

 

「……おい、あるじ様!何をボサっとしてんだ。いいから、俺の言った事をそのまま復唱しろッ!出来るだけ声のトーンを落としてな」

 

 

 

 

 

再び自分の下から聞こえてきた声は、間違いなく『烏』のものだった。しかし突然そんなことを言われたラプラスは、何が起きたのか分からず混乱しながら固まってしまう。

 

 

「……」

(今の……烏の声、だったのか?いやそんなことよりも、復唱ってなんで……)

 

 

自分だけに聞こえた、烏からの『自分の言った事を復唱しろ』というメッセージ。ただし、今のラプラスにはその言葉の内容を理解することが出来ず、また相棒のその意図もわからない。なんだよ、”968番”って……。

 

 

―――しかし、ラプラスには既に考えるだけの時間は存在しなかった。烏が声を発したことで”一瞬外してしまった”視線を目の前のクロヱの元に戻すと、彼女はもう今まさに銃の引き金を引こうとしていたのだ。

 

(……あぁもうッ!やけくそだ!!これで死んだら、お前を恨むからな烏ッ!!!)

 

そう思ったラプラスは、先程小動物の言った言葉を思い出しながらその通りに復唱した。

 

 

 

「……ハァ~、まったく……キ、君には失望したよ…………968番」

 

 

 

全くもって動揺していないという風に振舞いながら、ラプラスは全霊を尽くして烏の要望に応えようとしていた。相棒の指示通りに声のトーンを少し落とし、失敗すれば即撃たれるだろうという恐怖に耐えながらも真っすぐに新人を見つめる。

……そして、その甲斐あってかクロヱの指の動きは完全に止まっていた。

 

(撃たない……のか……?なんで……)

 

彼女の思考を停止させた本人ですら、何が起こっているのかわからなかった。しかし今新人がその引き金を引いていないことから、先程吾輩が言った言葉はクロヱにとって何かしら重要な意味を持つのだろう。それはきっと、恐らく偽物であろうと疑っている吾輩への攻撃を躊躇するほどに。

 

 

『どうしたんだい?そんな怯えたような顔をして。今私に銃口を向けているのは、君の方だろう?968番』

「……どうしたんだい?そんな怯えたような顔をして。……今私に銃口を向けているのは、君の方だろう?968番」

 

 

ラプラスがそんな思考を働かせていると、再び烏が嘴を開いて言葉を発した。何がどうなっているのかはわからないが、一先ず相棒を信じて同じように話すことにする。やば、緊張で手汗が……吾輩、ちゃんと喋れてるよな……。

 

 

「な……なん、で……?」

 

 

すると、吾輩(烏)の掛けた言葉に対しクロヱは明らかに震えた声をしながらそう言った。先程までの殺気が嘘のように消えており、その瞳からは焦燥や驚愕といったような色が伺える。

 

 

『「”なんで?”とは、随分な言い方じゃないか。君が言ったのだろう?君が今している行動に対し、私なら何と答えるのか教えて欲しいと。だから私は恩知らずな部下の為に、わざわざその答えを用意してあげたんだ。…………あぁ、それとも君を昔の呼び方である『968番』と呼んだことについて言っているのかな?それなら、私が折角つけてあげた名前を呼ばれて君が失礼にも嫌そうな顔をしていたから控えてあげているんだ。無礼を働く配下に対しても優しく接する、それこそが君にとっても”理想的な総帥”だろ?」』

 

 

烏の言った事を、ただそのまま復唱する。その行為にほんの少しだけ慣れたというのと、クロヱが何故か酷く怯えているように見えたところからラプラスの思考は徐々に冷静になりつつあった。すると、自分が今相棒によって言わされている言葉の内容についても気を配る余裕が出てくる。……というか、今吾輩とんでもないこと言わされてないか?

 

他に方法が無かったことと、烏の話した通りに喋り始めてしまった手前途中で発言を止めることは出来ない。しかし、その内容はあまりにも無視できるものではなかった。もし仮にこれが”この世界のラプラスが言いそうなこと”に該当するならば、今までの吾輩の言動とはあまりにも遠くかけ離れている。

それに、烏の言っている『968番』って言うのがクロヱの昔の呼び名で、吾輩が”クロヱの名前を付けた”って本当なのか……?

 

 

『「……それで、気は済んだかい?私は再び囚われの身であった君を労力をはたいて助け出し、その上で任務をしくじったことに対しても”優しさから”叱責をしなかったわけだが……そんな総帥に対して、銃口を向けられて君は満足したのか?」』

 

 

そう言われたクロヱは、身動きすら取れずに立ち竦んでいるようだった。しかし、彼女をそんな状態に追いやっているのは紛れもなく、相棒から始まり吾輩の口を通して告げられる言葉が要因なのだ。それに言ってるはずのこっちだって、聞いてて気持ちのいいものとは言えない。烏の話とクロヱの反応から、この二人……いや、この世界のラプラスと彼女の過去には吾輩の知らない『何か』があったのだろう。それはきっと、新人がこのholoXに身を置きラプラス・ダークネスに想いを寄せる理由となった何かが。

 

だが、そんなことは今の吾輩には知る由もないこと。それに今回の任務を失敗してしまった件についてだって、クロヱとの会話の中で触れなかったことにはそんな大それた理由は無い。敢えてその話題を出さなかった、なんてことは全くなく単純に”それ以上に重要なことがあった”に過ぎないのだ。クロヱ達が捕まってしまった理由や、宝鐘海賊団のその行動のワケ、今では新人の力を借りるしあ先輩の説得をすることが今の吾輩にとって大事なこと。だから、クロヱや暗殺部門の失敗についてなんて正直これっぽっちも気になどしていなかった。……しかし、それがむしろクロヱを苦しめる結果となっていたのかもしれない。

 

 

(……おいあるじ様、何をボーっとしてんだ。”次の台詞”だぞ!……次は、シャチの奴にゆっくりと近づきながらこう言うんだ)

 

 

考え事をしていたラプラスに、胸元からこっそりと顔を出していた烏が再度指示を出す。その口調と、トーンの差から相棒の要望を上手く読み取り、そして気が進まないながらも引き続き彼の言うことに従った。何はともあれ、今この場において偽物である【吾輩】に発言権がないことには間違いないのだから。

 

 

 

『「……本当に、残念だよ。……なぁ、クロヱ?」』

 

 

 

そう言い放った【ラプラス】は、言葉では表し難い何とも言えぬ”気持ち悪さ”を孕み始めていた。

 

 

********************

 

 

……本当に、私の勘違いだったのだろうか。

あれだけ確信を得ていて、例え間違いなら自分の身を犠牲にしても構わないと思いながら起こした行動だったというのに、まさか私の早とちりだったとでもいうのか……。

 

 

「……それで、クロヱ。まだ何も言わないつもりなのかい?私は今回も君の質問にはきちんと答えたよ。なのに、君はいつまで私の質問に答えないつもりだ?……本当に、生意気だな君は。昔と何も変わらない」

 

 

まただ。また、昔の沙花叉とラプラスの出会いを知らなきゃ言えないようなセリフを言った。よく、アイツのことを下調べしてる……あるいは、”実は本物だったから”言えることなのか……。

 

 

「なぁ、クロヱ……当てようか?君が何故、そんな真似をしたのか。どうして本物のラプラスがどうとか、この私が疑わしいなどと口走ったのか。…………”気に入らなかったんだろ”?私が君の知っている〖私〗と違う言動や行動ばかりを取り、挙句の果てには君が恨みを抱いているあの湊あくあに対して私が親しげに話していたことを。……本当は、君は”私一人に”助けに来てもらいたかったんだ。目を覚ました時、始めに視界に入った私の姿を見て君は内心喜びを隠せなかった。『あの時』私がクロヱを助けたみたいに、もしかしたら総帥がわざわざ自分の為に助けに来てくれたんじゃないかって……君は期待した」

 

 

「ッ!……」

 

 

その通り過ぎて、ぐぅの音も出なかった。

そうだ。沙花叉は意識の無い中で、ラプラスの声が聞こえた瞬間から……大きな期待と嬉しさを持った。その後総帥の姿を目視してからは任務を失敗してしまったことに対する罪悪感を抱いたけど、それまでは確かにラプラスに会えて物凄く嬉しかったんだ。

 

……それなのに、私に構うどころかずっと変に距離を保とうとするコイツが嫌だった。しかも沙花叉のことは怒るくせに、あのメイド擬きには気を使って、優しくして、たくさん話しかけて話を聞いて私との会話すら遮りながら湊あくあを優先するラプラスを見て……嫉妬した。

 

 

「しかし、君は私が今回の任務とその失態に対して思ったよりも気にしていない様子を見て困惑し……そして、自分の中では非常に重く捉えていたこの件に全く触れてくれない私に憤りを感じた。だから君は指示無しに湊あくあを撃ち抜こうとしたり、変わらず反抗的な態度を続けたのだろう?……罪の意識を払拭し、今回の失態を挽回するために」

 

 

何もかもが、目の前のコイツの言う通りだった。まるで、心の内を全て覗かれているような気分だ。さっきまでの胡散臭さが嘘みたいに、今のコイツは余りにも〖ラプラス・ダークネス〗本人としての条件を満たし過ぎている……。

 

 

 

 

 

「…………そこまで、わかってんなら……どうして何も言ってくれなかったの……」

 

 

 

 

 

しかし、ならばどうして初めからそうしなかったのか。そこまで沙花叉のことをわかっていて、全てを掌握している『本物の総帥』だというなら……どうして、それをはじめから証明してくれなかったというのだ。そのせいで沙花叉は、すっごくすっごく不安になって……あなたを、疑ってしまったというのに……。

 

 

「どうしてそこまで、沙花叉の気持ちを理解してて……なんで何も言ってくれなかったのさっ!!…………沙花叉だって、本当はあんたのことを疑いたくなんてなかった……。私を見つけてくれた、あの場所から沙花叉を救い出してくれたラプラスにこんなものを向けるなんて……」

 

 

今まで溜め込んでいた気持ちが思わず抑えきれなくなってしまったクロヱは、遂には涙を溢しながら彼女に訴えかけた。自分のことをそこまで理解しているのに、どうして何も告げてくれなかったのかと吠える。それすらも、総帥に対するとんだ八つ当たりであると自分で理解しながら……。

ーーーしかし、そんなクロヱを一刀両断するかの如く彼女は口を開いた。

 

 

 

 

 

「そんなこと、決まっている…………『”お前を”、信じてたからだ』」

 

 

 

 

 

そう言ったあなたは、ここで出会ってから初めて私に微笑みかけてくれた。

 

 

「沙花叉を……信じて、た……?」

 

 

「……そうだとも。君の言う通り、私はこの宝鐘海賊団を上手く”利用”しようと思っている。……だが、それは今まで通りの武力や策略のみに頼ったやり方では意味が無いんだ。理由は単純明快。私は彼女たちを手に入れた後の、更にその先の景色を見据えている。その為に、これらの行動は必要不可欠なんだよ。……賢いクロエなら、この意味がわかるね?」

 

 

あなたの言葉を、クロヱは一語一句聞き逃さぬようにと耳を傾ける。仮面の下で目頭が熱くなるのを感じながら、頬を伝う涙にも構うこと無く目の前の彼女を見据えた。

 

 

「ただ、それをクロヱに何も話さなかったことは悪かったと思っている。だが許してほしい。君も知っての通りこの船には姿の見えない輩もいるようだし、何より近くに湊あくあが居ただろう。彼女のことも必要なのは間違いないが、それでも今この話を聞かれるのは少々不味くてね。…………だからこそ、君を信じていたんだ。今みたいに私とクロヱの二人っきりになるときまで、静かに行動を起こさず待っていてくれると。……流石に湊あくあに銃を向けた時は、どうしたものかと肝を冷やしたけどね」

 

 

「そ……ん、な……そんなの……」

 

 

彼女の話を聞き、クロヱは自分のしてしまった行動がいかに軽率で、そしていかに愚かだったかを思い知る。コイツは、初めからずっと……”ラプラスだった”。holoXの偉大な総帥であり、私を助けてくれた大の恩人である『ラプラス・ダークネス』のまま……。

その事実を理解したクロヱは、遂には手に持っていた銃を床に落としその場に力なく座り込んでしまった。

 

 

「……すまない、君に”失望した”なんて言ってしまって。それに私が君に『助けてもらった立場で』と言ったのも嫌だったんだろう?……”がっかりした”という言葉に嘘は無い。だがそれはクロヱが私を信じ切ってくれなかったという意味と同時に、私がそれだけの信用を君に抱かせてあげられなかったことに対する自分の無力さも含まれている」

 

 

あなたはそう言うと、くるりと身を翻し私に対し背を向けてしまった。そのせいで表情が見えなくなってしまい、ラプラスが何を考えているのか今まで以上に読み取ることが出来なくなる。……ただし、それも今だけは彼女から放たれる言葉がその全てを物語っていた。

 

 

「違……うッ……ラプラスは…何も悪くない……沙花叉が、あなたを信じられなかっただけで……」

 

 

「……それでも、大切な部下を傷つける結果を作ってしまったのは事実だ。私も、まだまだ組織の総帥としては未熟だね。これはとんだ失敗であり……私の、失態だ。クロヱを責める権利は今の私には無い」

 

 

ちがう……違うッ!!

私が悪いんだ。総帥を、ラプラスを信じきれなかった沙花叉がッ……。だってラプラスは沙花叉のことをちゃんと信じてくれてたのに、期待してくれていたのに……それに応えることが出来なかったのは、沙花叉の弱さのせいだ。沙花叉が勝手に思い上がって、付けあがって、ラプラスの真意よりも私の”理想”を優先してしまった結果。ちょっと冷静になって考えればすぐわかるはずだった、あの総帥が私達の想像を超えた行動をするなんて”いつものこと”だって……。

 

自分の愚かさを自覚し、自責の念に打ちひしがれたクロヱは俯きながら泣き崩れてしまった。その際に自分のアイデンティティともいえる白黒のマスクが外れて落ちてしまったが、それでも変わらず瞳から涙を零し続ける。

 

しかし、それは直ぐに【彼女】によって拾い上げられた。

 

 

 

「…………だが、私はまだ君を捨てるつもりは無いよ。クロヱ」

 

 

 

頭上の直ぐ近くで発せられたその声は、”あの時”私が生まれて初めて感じた温かさを彷彿とさせていた。とても聞き心地が良くて、それでいて深い優しさを感じるあの声。

 

 

「確かに私にも落ち度はあったし、クロヱにも至らぬ点があった。……しかし、それはそれとして私は自分の行いを後悔していない。私は過去でも今でもなく、未来を観ているからね。……だからクロヱも、今回の任務に対する失態や先程私に銃口を向けたことを反省はしても後悔はしない方がいい。私は悔やんで立ち止まる者よりも、間違えようと絶えず進み続ける者の方を評価するよ」

 

 

そう言ったあなたは、私のすぐ傍で片膝をつく。

そして、未だ俯く沙花叉のあご先をそっと持ち上げてからゆっくりと口を開いた。

 

 

 

 

 

「ーーーーークロヱ、まだ私と来なさい。君の力は私と、”君自身の望み”の為に使うんだ。…………私は、君の存在を心から望んでいる」

 

 

 

 

 

真っすぐと沙花叉を見つめ、紡がれたその言葉は今の私にとっての全てだった。

私の【ご主人様】が、沙花叉を必要としてくれている……これ以上に、一体何を望むというのだ。それさえあれば、私にはもう何も要らない。不満は無い。たったそれだけが……私、秘密結社holoXの『掃除屋』沙花叉クロヱとしての願い。

 

 

 

 

 

「……ひゃぃ………ご主人さまぁ…………♡」

 

 

 

 

 

酷く惚けた表情を浮かべたその掃除屋は、確かにそう”応えた”。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……しかし、それを彼女に強いた【悪魔】はただひたすらに自分の感情を押し殺し続けるのであった―――。

 

まだ未定なのですが、実は今書いている第二章が終わりましたら第三章に入る前にいくつか番外編を書こうかなと考えています。またその中で秘密結社holoXの総本部で働いているモブキャラ視点の外伝の様なものを書きたいのですが、皆様ご興味がおありでしょうか?(例:書くかはわかりませんが、四天王たちの側近の日常・本部内にある飲み屋店主の話・こよラボ従業員の悩み等)※読まなくても本編には関わりなくするつもりです。

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