転生したらラプラス・ダークネスだった件   作:飽和水溶液_pixiv

51 / 92
記念すべき、第50話です。もうこんなところまで来てしまいましたか。まだ思い描いてるシナリオの殆どを書けていませんが、これあとどれくらいかかるのでしょうか……少なくとも100話とか平気で越えそうで怖いです。まあ、気長に書いていくことにします。

さて、前回はやっとの思いで助け出した暗殺部門を連れ行動を開始しようというところで終わりました。ようやくですね。ただ、その……包み隠さずいうのですが、クロヱの誤解を解いた辺りからここまでの話は正直書いていて全く楽しくなかったです……。というのも物語の展開的には必要な場面ではあるのですが、盛り上がるようなシーンでもないので書いてる側としては早く終われ~って思っていました。(笑)
ですが、そんな退屈なところも今回までです。ここからはずっと熱い展開が続く……予定です!ご期待ください。


【追記】
今回の深堀シリーズはお休みです。二話同時投稿なので許してください。次回は恐らくやります。


↓作者:飽和水溶液のXアカウント。主に執筆状況や気に入ったホロ関連のリポストしてます。
飽和水溶液(@Suiyoueki_suba) https://twitter.com/Suiyoueki_suba



第50話 エンカウント

 

 

 

「ヒャッハーー!!血祭り血祭りィ!!!」

 

 

「おら、どけどけどけぇッ!holoXのお通りじゃァー!!!」

 

 

「邪魔者……コロす……ぶっ…潰す……ッ!!」

 

 

 

 

 

「「「「バァ˝ァ……ア˝ア˝ァ˝……!!」」」」―――――バァンッ、ゴンッ、ザクッ、グチャッッ……。

 

 

 

 

 

宇宙を漂う海賊船の中、海賊以上に野蛮すぎる輩たちが物騒な言葉を連呼しながら立ち塞がる『死体たち』を殴り倒していた。その様子と勢いは十数人で行っているとは思えないほど圧倒的かつ威圧的で、正直妨害してきているはずのふぁんでっとに同情してしまうほどだった。

 

 

「あ、あいつら、いっつもあんな感じなのか……?傍から見たら絶対こっちが悪者だろ。いや、悪の組織ではあるんだけど……」

 

 

そんな凶悪な彼らの中心で、囲われるようにして走るラプラスは思わずそんな言葉が零れた。

吾輩たちは現在、捕らわれていた新人とその部下である暗殺部門の連中を助け出し残りのラプツナズを捜索しているところであった。宇宙船との通信によるとどうやら彼らの一人がこのA棟の中央辺り、つまりは一階か二階のどちらかに居るらしい。だが一階に関してはるしあさんの研究室や旧食堂辺りをうろついていた時にラプツナズを見かけることは無かったし、恐らく二階にいるのではとそちらを目指していた。

 

しかし、その道中は決して生易しいものでは無く明らかにこちらを敵と認識しているふぁんでっと達が立ち塞がる。大方、自分たちの大脱走を部下を通じて既に知っているるしあ先輩が、彼らをこちらに仕向けているのだろう。だが、武力行使に出たこいつらを止めるにはもはや手遅れだったようだ。

 

 

「あんまり、潤羽るしあ達に反抗的な姿勢を見せたくなかったんだけどなぁー……まあ、向こうが向かってくる限りそれも仕方ないことではあるんだが……」

 

 

呆れたようにそう言ったラプラスは、はぁと溜めた息を吐きだす。それは今目の前で行われている部下たちの奇行によるものではあったが、同時に彼らよりもさらに前を行きこの集団を先導している彼女に向けたものが大半であった。

 

 

 

 

 

 

「あんた達ィ、沙花叉に続けぇぇぇ!!!!」

 

 

 

 

 

 

「「「「 !!!うおぉぉぉぉぉぉおお!!! 」」」」

 

 

 

 

この暴徒たちを先導していたのは、何故か不必要な武力行使を避けろと言ったはずの秘密結社holoXの四天王の一人沙花叉クロヱであった。彼女は彼らの一番前に立ち、先程有言した通り銃すら取り出さず拳一つで人型の肉塊を殴り飛ばしている。その姿は余りにも野性的というか、自分の筋力にものを言わせた戦闘スタイルでありとても技術が必要とされる暗殺者としての姿では無い。てか、アイツどんだけ怪力なんだよ。ゾンビ達は普通の人間と比べてかなり力が強いはずなのに……。

 

脳筋過ぎる新人の行動に、ラプラスは内心そんなことを思う。すると、自分のその呆然とした様子を見て同じく彼らを客観的に見ていたらしい暗殺部門の隊員の一人が口を開いた。

 

 

「も、申し訳ありません、ラプラス様……。流石に、いつもはもう少し慎ましやかに任務をこなしているのですが……どうにも今日はラプラス様とクロヱ様がすぐ傍に居る手前張り切ってしまっているようで……」

 

 

そう言った”彼女”は、先程の吾輩同様ため息をついていた。こいつは他の奴らとは違い、一歩引いたところから戦況を見ているようだ。それは彼女が利口でこういう立ち回りが必要だと理解しているからか、あるいは単純にこのノリに付き合いきれないのかはわからないが、少なくともこの光景を見て似たような感情を抱く同士がいてよかったと思う。ただ、その話で行くと本来良い所を見せるべき相手である上官のクロヱが真っ先に突撃しているのは如何なものなんだ……?

 

 

「そ、そうか……でも、あいつらを率いてるのクロヱなんだよなぁ……」

 

 

「……そう、ですね…………今日のクロヱ様は、普段と比べかなり機嫌がいいみたいです。いつもならあの調子の隊員たちを鎮めてくださるのですが、あんなにいきいきとしている代表は久しぶりです。一体、どんな良いコトが……いや、”当たり”があったのやら……」

 

 

彼女のその話を聞き、ラプラスはまたしても新人と彼らの関係性が如何に近しいものかを思い知る。先程の地下牢でのやり取りも、今まで見てきたholoX内でのそれとは明らかに違いなんというか……家族?の様な親密さを感じた。柱であるクロヱをしっかり立てつつ、思った事はきちんと口にする。それは本来であれば上官に対する侮辱と取れるような物でもクロヱは怒ることなく、自分の過ちをある程度理解した上で子供らしい”反抗”という形で彼らと渡り合う。と思えば今度は大半が一緒になってバカ騒ぎして、総帥からの命を若干脱しながらも任務に勤しむ。そして、それを傍から見て呆れつつも楽しそうでなによりだと思う保護者的立場の者もいるのだ。

確か、この世界のholoXの暗殺部門は他の部門と比べても比較的人数が少ないと聞いている。それは主に任務の性質と、性格的肉体的技術的な向き不向きがあるからだという。戦闘能力があることは前提だが、前記の条件をあまり満たせていない者は大体が戦闘斥候部門に振り分けられてしまうからだ。そうなると、必然的にこの部門の人員が少なくなってしまう。だが、逆に言えば命を預け合わなければいけない戦場で同じ部門に所属する同志が少ないほど、危機的状況を切り抜けるだけより身近で親密な関係になりやすいのかもしれない。またそこに、この場合ではいい意味で規則や上下関係に緩いクロヱが代表であることが重なってこういうことになるのだろう。それは幹部なんかにしてみれば弛んでるとでも言われてしまうのかもしれないが、いつも眷属たちとの絶対的な壁を感じる吾輩からすれば羨ましいことこの上なかった。……一応、ここに来るまでの船の中でラプツナズとは少しだけ仲良くなれたと思ってるんだけどな。

 

 

 

 

 

そんなこんなで捕らわれの仲間を探すこと10分ほど、襲ってくるゾンビ達を倒しつつA棟二階の扉を端から片っ端に開け放って行った。途中からは安全よりも効率重視で同階内で少しばらけながらも探し続け、そしてしばらくしたところで隊員の一人から声が上がった。

 

 

「ラプラス様、見つけましたっ!ここに縛られている者がいます!」

 

 

「なにっ!?どこだッ!!」

 

 

「こちらです!負傷しているようですが、意識はあります!」

 

 

その一言に、その場に居た全員が一斉に注目した。そして、ラプラスを呼んだ者の傍に全員が駆け寄り近くの扉の開いた部屋の中を確認する。そこも他と同じく手入れのされていない客室のようで、その中央にある寝台の傍に縄で縛られ横たわるラプツナズの姿があった。

 

 

「おいっ!大丈夫か!?」

 

 

彼ら同様室内に駆け込んだラプラスは直ぐにその者の近くまで行き、その安否を確認する。すると、どういう偶然かその者は数時間前に吾輩を庇い囮として時間を稼いでくれた総帥の護衛係である女隊員であった。

 

 

「まさか、最初に見つけるのがお前とはな……とにかく、もう大丈夫だ。今すぐこれを外してやるからな」

 

 

ラプラスはそう言いながら近くに居た新人に軽く目配せをし、その手足の縄を解くように訴える。また、同時に自分は口元に巻かれていた布を外してやった。彼女は先程発見した隊員が言っていた通り軽い負傷をしていたようだが、様子を見るに命に関わるようなものはない。ていうか、この怪我って囮になってくれた時に負ったものだよな……。

 

 

 

「――――……っぱハァ…………ラプラス様……ご無事で、なによりです……。……暗殺部門の方々を、助け出されたのですね……」

 

 

 

「ああ、お前が命懸けで吾輩を守ってくれたおかげでな。お前には感謝してるよ、ありがとう」

 

 

「そんな、滅相もありません……これが私の役目ですので……」

 

 

件の戦闘と、数時間に及ぶ監禁により少なからず体力を消耗してしまっている彼女にラプラスは労いの声をかける。だが、そんな状態でも拘束から解放されてからは自分の力で上体を起こし、そしてベッドに背を預ける形で座り込むことが出来ていた。きちんと会話の受け答えも出来るみたいだし、少し休憩すれば動けるようになるだろうか。

 

 

「ラプラス様っ!隣の部屋で彼女の装備と思わしき物を発見致しました。武器にヘッドギア、無線機もあります」

 

 

「お、でかしたぞ!その無線機は使えそうか?」

 

 

「……はい、問題なさそうです!」

 

 

護衛隊員の介抱をしていると、彼女の装備が入っているらしい荷物袋を手に持った暗殺部門の一人が部屋に入ってきた。その袋からは剣の柄が覗いており、またその反対の手には見覚えのある黒い機械が握られている。

 

 

「よし、それなら手筈通り二手に分かれるぞ。残りのラプツナズ捜索班はこいつが動けるようになるまで少し待ってから行動してくれ。指揮は……お前、任せるぞ」

 

 

「了解しました、ラプラス様」

 

 

今後の行動を整理し、近くに居た適当な隊員に指揮権を渡す。もう一つの通信機器を確保できたことにより、ここからは分かれて動くことが出来るのだ。ここに居る半分は残りの三人のラプツナズの捜索、もう半分は吾輩たちと一緒に船長潤羽るしあの下を目指す。護衛のこいつを助けるまでに約20分、タイムリミットは迫っていた。

 

 

「……ラプラス様、これは一体……?」

 

 

ラプラスと隊員たちの会話を見て、困惑した様子の彼女がそう聞いてきた。確かに、つい先程まで捕らわれ監禁されていたこいつにはこの現状の意味が理解できないだろう。いざ助けられたと思ったら総帥とクロヱ、更には武装した暗殺部門の奴らに囲まれていたのだ。当然困惑するし、いくら冷静そうに見えるこいつでも動揺せざるを得ない。しかし、それを一から説明してやれるほど吾輩たちに時間の余裕は無かった。

 

 

「あぁ…捕まってたお前は何が何だかよくわからないよな。けど、悪いが状況をゆっくり説明してる時間は無いんだ。吾輩達はこれから行かなきゃいけないところがあるから、詳しいことは残りの奴らに聞いてくれ」

 

 

「わかりました。……ラプラス様、ご武運を」

 

 

ラプラスの話を聞き彼女はたった一言で了承する。それどころか、まだ何をするかも話していない吾輩を気遣うような言葉を掛けてくれた。状況が何もわからず不安だろうに、物分かりのいいことだ。

 

 

こうして、ラプラスは沙花叉クロヱと暗殺部門の半数六名を連れB棟三階にある船長室を目指したのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

最初の印象は……正直、それどころじゃなかったからよく覚えていない。ただわかった事は、【彼女】が噂で聞いたような人ではないという事だった。

 

 

 

この広大な宇宙を、我が物にしようと企む秘密結社holoXの総帥【ラプラス・ダークネス】。そんな彼女を皆が恐れ、恨み、そして逆らうべきではないと言っていた。あの宝鐘海賊団の提督ですら、むやみやたらに彼女らと関わることは避けようと言っていたほどだ。それはその組織が行ってきた数々の所業が証明していて、彼女たちを束ねるラプラスとやらは相当の悪党なのだろうと勝手に思っていた。

しかし、実際に会った彼女はそのイメージとはあまりにもかけ離れた人物だった。冷酷で冷徹な悪魔のような人だと思っていたのに、蓋を開けてみれば相手の顔色を伺いまくるただの少女のように見えた。勿論容姿だけを見ればもはや子供なのだが、結果的に私を助けてくれたりオトモダチのクロヱちゃんに対して接する姿勢があまりにも大人びている。少なくとも、私にはこの子が噂で聞いたような悪人にはとても思えなかった。

ラプラスちゃんはきっと、何かただならぬ理由により悪事を働かなければならなかったんだと……また、勝手にそう思っていた。

 

 

 

 

……しかし、それも全ては私のとんだ間違いだったのかもしれない。

 

 

 

 

『……あくあさん。それ、本気で言ってますか?……あいつらが、るしあ達の故郷を襲うよう仕向けた黒幕なのに?』

 

 

私がるしあちゃんにそう言われた時、真っ先に思った事は『まさか、あの優しいだけの少女がそんなことをするはずがない』という事だった。こんなところまで危険を顧みず、遥々オトモダチを助けに来る仲間想いなところ。敵であるはずの私にもとても丁寧かつ親切で、ただ部下の面倒を見ていたからという理由だけで私達の星を取り戻す手伝いをすると言い出すお人好しさ。更に不思議なのは、その言葉全てが本心で言っているように私には見えたのだ。

だから、この期に及んであのラプラスちゃんとホロベーダ―に関係あるだなんて私にはとても思えなかった。

 

 

『例え信じられなくてもそれが事実です。holoXこそが、るしあ達が絶対に滅ぼさなきゃならない最大の敵。……目を覚ましてください、あくあさん』

 

 

けど、るしあちゃんがそのことを疑う様子は全くなかった。holoXこそが、私達の星を襲った元凶なのだと信じ切っているようだ。

どうしてそんなことを思ったのか、この時の私にはわからなかった。ただ、私はラプラスちゃん以上に仲間のことも信じている。だからどんなに信じられないことだったとしても、それを頭ごなしに否定するようなことはできない。したくない。……だって、そんなことをしたら可哀想だから。仲間に信じてもらえなくて、嘘つき呼ばわりされるなんて私だったらきっとずっと寝込んでしまうくらいに引きずることだろう。

 

 

 

 

仲間であるるしあちゃんの言うことを、否定したくない。

敵にも関わらずラプラスちゃんが私にしてくれたことを、言ってくれた言葉を疑いたくはない。

 

私は、選ばなければいけない。私情だけではなく、この場に居ることを許される立場に立って。宝鐘海賊団の一番船副船長【湊あくあ】としての選択を。

 

 

 

 

二つの棟を結ぶ、広く長い廊下の端。蹲る私は少し頭を上げて、”キャップの上から深く被ったフード”の隙間から顔を覗かせた。そして、膝を抱える腕に巻き込むように肩に立てかけた長い鉄の棒に、頭を預ける。いつもの相棒はここでは使えないので、それは船長が用意してくれた複製品だった。

 

 

「……ごめんね、ラプラスちゃん。……あてぃし、どうしていいのかわからないや……」

 

 

そう呟いた少女は、取り出した仮面でそっと顔を覆う。そして、何もない虚を見つめながらただ静かにその時を待っていた。

 

********************

 

 

A棟の二階と三階を繋ぐ階段付近。数名の暗殺部門と頼れる掃除屋沙花叉クロヱと共にラプラスは船長室を目指し走っていた。

 

 

「なんか、さッ!……渡り廊下に近づくにつれて、どんどんゾンビが増えていってない?」

 

 

ラプラスを中心にして後ろに二人、前にクロヱを含めた五人が立つ陣形で目的地を目指す。だが、新人の言った通り三階からB棟へと向かえる連絡通路に近づくにつれふぁんでっとの襲来が激しくなっていた。それこそ、目の前の廊下や上の階へ続く階段を埋め尽くす勢いだ。

 

 

「確かに……凄い数ですね、押されてしまいそうです」

 

「物量戦ではこちらがあまりにも不利ですね。それに、この様子だともう一つの班の心配も……」

 

 

前線で戦ってくれているクロヱと、その部下たちの会話が聞こえてくる。確かに、たった8人……しかもその中の一人は戦力外である吾輩達が、もはや数十人では収まらなそうな数のゾンビ達を相手し続けることは不可能だろう。ただ全体の状況で考えれば捕らわれたラプツナズを捜索している奴らよりも、強戦力であるクロヱがいるこちらの班にふぁんでっとが集中している方が幾らかマシだろうと思われた。

 

 

「ああ、そうだな。……でも、敵の兵力にも限りがある。恐らくだが、多くても百体辺りが上限なはずだ」

 

 

るしあ先輩の研究室で発見したノートには、ふぁんでっとの生成には約百体程成功していたと書かれていた。それが霊体も含めた数なのかとか、いつ書かれたものか等不確定要素はあるものの、少なくとも短い時間に大量生産できるようなものでは無いはずだ。であれば、ここまでの戦闘なども含めその数はかなり減ってきている。勿論、吾輩達が通った後にはバラバラになっても動き回っている肉塊が蠢いているわけだが……。

 

 

「そうなんだ。……ふんっ!……でも、それならもう殆どがここに居るでしょ。この先も暫くゾンビびっしりっぽいけど」

 

 

相変わらず、武器も使わず死体をぶっ飛ばすクロヱが廊下の先を眺めながらそう言った。彼女の衣服は一番前で戦い続けているからかゾンビ達の返り血を浴びまくり、元々黒色で目立ちづらいはずの上着が所々赤黒く染まっている。それでも白黒のマスクを着けている為か酷く無表情のように見えて、得も言えぬ恐怖を感じた。

 

しかし新人の言うことは正しく、彼女たちの立つ隙間から奥を覗いてもかなりのふぁんでっと達が立ち塞がっているのが見える。これら全ての相手をしていたら、いくら時間があっても足りないだろう。

 

 

「そういえば……少し戻ったところにもう一つ、上に上がれる階段があったっけか……」

 

 

先程助け出した護衛の女を捜索していた際に視界には入っており、その存在は知っていた。この先の階段を使うよりは少し遠回りになるかもしれないが、ここに彼らが集中しているならば或いは一人や二人くらいはそちらから渡り廊下に出られるだろうか。

 

 

「どうする?ラプラス。沙花叉たちは総帥の指示に従うよ」

 

 

斜め下を向き、思考を巡らせていたラプラスにクロヱがそう言ってきた。そして気が付くと、その場の全員が自分に注目していたことに気が付く。どうやら、先程の独り言を聞かれていたらしい。

 

 

「ラプラス様、奴らを抑えるだけならば我々少人数でも問題ありません」

 

「むしろ時間が迫っているのなら、尚更こんなところは下っ端に任せ先をお急ぎください」

 

 

クロヱの言葉に続き、吾輩の後ろに立っていた二人がそう言って自分よりも前に出てきた。それは総帥の進む道を閉ざしたのではなく、一度後ろに下がるべきだろうという彼らなりの気遣い。しかも、その二人を含めた暗殺部門は吾輩の前に出るだけに留まらずクロヱの前方まで歩んで行き、その廊下を逆に塞ぐように並んだ。

つまりは、吾輩と新人だけがもう一つの道を使い目的地を目指せばいいのだと彼らは訴えていた。

 

 

「お前ら……」

 

 

部下達のその行動を見て、ラプラスは唖然としてしまう。誰がどう見たって、戦力が釣り合っていない。それなのに、更に新人がこの場から抜ければこいつらはタダでは済まないだろう。だが、それを理解した上でもこの場を自分たちが引き受けるというのか。

 

 

「ラプラス……暗殺部門の皆は、ちゃんと強いよ。時間稼ぎぐらいなら出来るから大丈夫」

 

 

そう言ったクロヱは、もはや前を見ていなかった。それは、この戦場を完全に彼らに任せられるという信頼の表れだ。そんな部下たちを見て、信じてやれない総帥の方が不甲斐ないというものだろうな。

 

 

「わかった。……クロヱは吾輩と来い。他はここに残ってこいつらの足止めをしろ。……誰も、やられるなよ」

 

 

 

「「「 !!YES MY DARK!! 」」」

 

 

 

彼らの返事を聞き、吾輩とクロヱはすぐさまもう一つの階段の方に走り出した。本来なら、無線機も持たない彼らと離れるのは愚策かもしれない。だが、皆はそれも承知の上でこの場に残ることを決心したのだろう。それを、吾輩は無下にしてはならない。また彼らの頑張りを無駄にしない為にも、もはやるしあ先輩の説得は失敗できないものとなっていた。

 

 

 

 

 

来た道を途中まで引き返し、もう一つの階段を目指す。案の定この船に乗っているゾンビの大多数が連絡通路に一番近い方の階段に集中していたようで、その道中では数体の死体としか遭遇しなかった。

 

今更、そんな何人かのふぁんでっとにクロヱが苦戦するはずもなく、顔面に拳を一発めり込ませるだけで直ぐにその横を駆けていく。そうして手薄になっている階段を上り、最短距離でB棟に続く渡り廊下へと近づいていた。

 

 

「やっぱり、敵のほとんどがあそこに居たみたいだね。ラプラスの言う通り思ったよりも数が少ないのかも」

 

 

「ああ、こっちにもちらほらいるが脅威になるほどじゃない。あいつらがあそこで戦ってくれてる限りは、こっちが標的になる事は無いかもな。……ただ、何でいきなりこんなにゾンビが集まって……」

 

 

護衛の彼女を助けた辺りから、明らかに自分たちを目掛けてゾンビ達が集中していることをラプラスは感じていた。それはただ徘徊していたら偶々集ってしまったという数ではなく、明らかに誰かの手が入っている。勿論それは彼らの長であるるしあ先輩の仕業だと理解しているが、それにしたって数が多い。どうせならもっと分散させるか、あるいは船長室にもっと近い所に集めた方が守りを固められるのに……。

 

 

「……というか、あくあさんが先に船長室に行ってるって言ってたし、あわよくば先に話を付けてくれてるんじゃないかってことを期待してたんだが……そんなことは無かったみたいだな」

 

 

ラプラスはそう言いつつ、あのあくあ先輩にそれは難しいだろうなという事も理解していた。ただでさえ自己主張の少ないあくあ先輩が、あれだけ怒りholoXを恨んでいたるしあ先輩を一人で説得することは出来ないだろう。ただ、出来ればこちらの話に聞く耳を持つくらいにはして欲しかったが……。

 

 

「……ねぇ、ラプラス……あんたの考えに口を挟むのは悪いと思ってるんだけどさ……あのメイド擬き、あんまり信用しない方がいいと思うよ」

 

 

「へ?」

 

 

またしても自分の独り言を聞いていたらしいクロヱが、言葉通り申し訳なさそうな顔で吾輩にそう言った。そういえば、クロヱはやけにあくあさんのことを敵対視してたな。最初は、単純に敵でありながら施しを受けたことが嫌だったんだって思ったけど……もしかして、それ以外にも何か理由があるのだろうか。

 

 

「何でそう思うんだ?クロヱ」

 

 

「別に、何か確証があるわけじゃないんだけど……本能というか、沙花叉の”感”かな。……アレには何かあると思うんだよね。それこそ私達の障害になるくらいの『何か』が」

 

 

「まさか」

 

 

そんなことはあるはずが無い、そう言いきれるだけの根拠が吾輩にはあるつもりだった。だってこの世界のあくあ先輩は元の世界のあの人と同じようにすっごく優しくて、敵である吾輩達に慈悲を持つほど思いやりのある良い人だ。加えて、変わらず自分の意思を出すことがちょっぴり苦手そうで、体力も決してある方とは言えない彼女が脅威になるはずもない。それに宝鐘海賊団の船長……マリン先輩のことも慕っているみたいだったし、戦力とかそういうのじゃなくきっと何か特別な理由があってこの船に乗っているのだろう。そんなあくあ先輩を疑うなんて、どうかしている。

 

 

「お前なぁ。警戒するなとは言わないが、それあくあさんの前では態度に出すなよ?ていうか、もし事態に収拾がついたら銃を向けたことをしっかりあの人に謝って……」

 

 

ラプラスとクロヱはそんなことを話しながら、念願の渡り廊下へと差し掛かろうとしていた。この道を真っ直ぐB塔の方へ向かえば、船長室はすぐそこだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――刹那、常人では聞き取れないほど小さいカチャッという金属音が廊下に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その微かな異変に唯一気付いた彼女は、すかさず隣を走る少女の身を引かせる。

 

 

 

「―――ッ!…………ラプラスッ!!」

 

 

 

そう叫んだ声が相手に届くのとほぼ同時、『バンッッ!!』という発砲音と共に狙われた人物の立っていた位置を弾丸が通過していた。

 

 

「……えっ…………今、何が……?」

 

 

飛び込んできたクロヱに廊下の端へと突き飛ばされ数秒後、何が起きたのか理解できないラプラスはただ驚愕することしか出来なかった。しかし、既に冷静に前を向く新人を見て徐々に『誰かの襲撃を受けたのだ』という事実を理解する。

 

 

「大丈夫?ラプラス。怪我してない?」

 

 

決してこちらに目を向けてはくれないが、自分を庇うように屈む彼女が身を案じてくれていることはわかる。幸い態勢を崩した時に吾輩が頭をぶつけないようにクロヱが後頭部を支えてくれたお陰で、特段目立った怪我は負ってはいなかった。

 

 

「あ、ああ、悪いな……助かった」

 

 

「ううん、気にしないで。…………それよりも、無事なら指示が欲しい。……”アレ”、どうしたらいい?」

 

 

総帥と会話をしていても、掃除屋は廊下の先に居る敵から視線を逸らさない。またその様子を見たラプラスは、彼女と同じように先程弾が飛んできた方向を見つめた。

 

 

「……そんな……なん、で……」

 

 

廊下の壁に身を預け、地べたに座り込むラプラスは目を見開いた。信じられないその事実に、またしても驚愕と大きな困惑を抱く。

 

 

 

 

 

 

 

―――――二人が見つめるその先。そこにはセーラー服の上から白いパーカーを羽織り、ツバの着いた帽子を被りながら”ある動物”をモチーフとした仮面を嵌めた少女が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。