転生したらラプラス・ダークネスだった件   作:飽和水溶液_pixiv

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第52話です。毎度の如く更新が遅くなったのですが、原因は話を切るタイミングを見つけられず長くなってしまったからです。しかも予定ではもっと先まで書くつもりだったので終わり方がちょっと変ですがご了承ください。次話は大体できてるので早めに上げるようにします。

前回はラプクロの二人があくたんと戦い始めたところまで話が進みましたね。これは構想段階から考えていた展開なのでここから数話かけてこの辺りの戦いは書いていこうと思います。まだ戦闘描写を表現するのに慣れていないので拙い文章だとは思いますが、物語を盛り上げていくために頑張ります。伝われ!!!


【追記】
さて、今回の深堀シリーズは今本編でもスポットが当たっているこのパラレル世界における【湊あくあ】についてです。基本的な性格や見た目等は私達がよく知る彼女と変わりありませんが、違う点として彼女の持つ身体能力や宝鐘海賊団に所属する事になった経緯などがあります。

現宝鐘海賊団一番船副船長、湊あくあ。彼女はその昔衛星コメットのとある国の裏路地にて、宝鐘マリンによって”捕獲”された人物である。彼女が捕らえられることになった理由は多々あるが、一言で言うならば『罪を犯してしまったから』というのが妥当だった。それ故に罪の被害者たちから彼女を批判する声が上がり、彼らの怒りを鎮めるためにも当時宝鐘海賊団の提督として信用のあった宝鐘マリンが彼女の対処に買って出たのだ。結果湊あくあは捕えられ、最初は刑に処するべきだという声があった。しかし、彼女を捕らえる過程であくあにも事情があったことを知ったマリンは本人に罪を償う気持ちがあることを提言。また、彼女の持つ戦闘能力やその技術を安易に捨ててしまうことは勿体ないとその国の王もマリン船長の意見に賛同。その後幾つかの条件の下、湊あくあは宝鐘海賊団の一員として国に奉仕するようになったのだった。


↓作者:飽和水溶液のXアカウント。主に執筆状況や気に入ったホロ関連のリポストしてます。
飽和水溶液(@Suiyoueki_suba) https://twitter.com/Suiyoueki_suba



第52話 君にエールを

 

 

 

 

 

―――――バンッッ!!!……パラパラパラ……。

 

 

 

 

 

今までで一番大きく、至近距離で聞こえた銃声が耳の奥をキンキンと刺激してくる。そして、それを伴いこちらへと迫った弾丸は彼女の頭のすぐ上を通過した。

 

 

 

「ッ……!?!?!?!?!?」

 

 

 

声にならない悲鳴を上げつつ、ゆっくりと上を見上げる。するとぎりぎりのところで避けることの出来た銃弾が、ヒットした壁の周りを少し抉り地面へと落ちていた。

 

(あっっ…………っぶなッ!?今、たまたま”転んでなかったら”当たってたんじゃないか……?!)

 

そう、実は今回あくあの攻撃を回避できたのはラプラスが驚異的な反射神経を持っていたからという訳ではなく、ただ単に弾と接触する直前で彼女が転んでしまったからであった。というのも、この時のラプラスは壁にもたれ掛ったあくあに銃口を向けられた際彼女がこちらを凝視していることにびっくりし足元が疎かになってしまったのである。ステルス機能を使い、透明になっているはずの自分を的確に狙われたのは何故なのかと。

だが、その結果尻餅をついたおかげで運よく弾の回避に成功していた。

 

(ちゃ、ちゃんとヘッドギア機能してる……よな?じゃあなんで、あくあさんは吾輩の位置が分かったんだ?!)

 

その場にへたり込みながら、未だ心拍数を上げている心臓を落ち着かせながらにラプラスは考える。すると、ふとラプツナズの護衛に言われたある言葉を思い出た。それはまだ自分たちがこの船に来たばかりの頃、あくあ先輩を最初に目撃し身を潜めていた時に彼女から言われた『注意事項』であった。

 

 

『いえ……それよりも、息を潜めてください。訓練された者なら気配だけで発見される可能性があります』

 

 

また、ここに来る前に博士からも似たようなことを言われていた。確か彼女曰く、『これは思ってるほど優秀なモノじゃないの。本当に居なくなるわけじゃないから外部から触れるし、匂いや気配も残ってる』とのことだった。ということは、もしかしてあくあ先輩はその所謂『訓練された者』に該当されるのかもしれない。或いは、クロヱの様に匂いや気配だけでその存在を察知できる強者か……。

しかし、どちらにしたってその精度はるしあ先輩に勝る程では無いだろう。それに姿が見えない以上その辺りに居るという事はわかっても銃を当てるとなれば話が変わってくるはずだ。……たぶん、きっと……というか、そうじゃないといよいよもって詰みなんだが。

 

あくあが実際に視えているわけでは無く、彼女のセンスによるただの予測射撃であるという希望的観測を抱きつつラプラスはゆっくりと立ち上がる。くれぐれも音などをたて、存在感を出さないよう細心の注意を払いながら。

 

(つーかさっきの弾避けといい、持ってる武器といい今のあくあさん完全に『狂犬ムーブ』してる時のやつだろ。この世界であの人の手綱握る役の人誰だよ、ちゃんと握っとけって!)

 

湊あくあが『狂犬』と称される所以。それはラプラスが元いた世界で行われたとあるゲームの大会、それに彼女は自分を含めた三人の『Startend』というチーム名で参加していた。その際、彼女は強すぎるあまり他の出場者などに狂犬と呼ばれ他のチームメイトが持つリードをギチギチに引っ張っていたという逸話があるのだ。またその後の大会でラプラス自身も同じゲームに挑戦し、多くの苦戦強いられたことから密かにあくあの実力やその凄さを実感している。

そして、だからこそ今のあくあ先輩の戦闘はその時の印象を彷彿とさせられていた。

 

(……けど、吾輩の予想が正しければ今の攻撃だって本当は……)

 

だが、この時のラプラスは同時に彼女の本当の目的、その行動の意味についてとある考察があった。もしそれが正しいのであれば、先程の攻撃も本来は”自分に当たる予定の無かったもの”だと思われる。彼女と数回会話を交わした時に感じたその違和感、それが事実であるかはこの場を切り抜けようとしてみればわかる事。

 

(足は……大丈夫、怪我してないな)

 

そう思ったラプラスは転んだ際に足を捻ったりなどしていないことを確認し、再度走り出す態勢を取る。そしてあくあがライフルの横にあるレバーを引いているのを横目で確認し、次が発射される前に地を蹴りだしたのだった。

両者の距離、約15m。

 

~~~~~~

 

 

「ちょ、待t……!!」

 

 

自分の制止の声も虚しく、湊あくあにより再び愛すべき総帥が危険に晒される。

だが、今のクロヱは多少は驚きつつも特別冷静さを失うようなことは無かった。それはラプラスのことを信じるとさっき改めて誓ったばかりであり、仮に当たっていたとしても血痕等の痕跡がその場に残るはずだからだ。しかしライフルの着弾地点にはそのような跡は無く、代わりに廊下の壁が少し剥がれただけに留まっていた。その様子から、先程の攻撃がラプラスには当たっていなかったことが伺える。こんこよの作ったヘルメットは優秀だが、流石にその身から垂れた血までは消したりできない。それに、恐らくあの銃に撃たれたところで”死にはしない”だろう。

 

(最初の一発目からおかしいとは思ってたけど……三回も発砲音を聞いたし、何よりさっき壁に当たった時の弾痕で確信した)

 

初手の攻撃から感じていた、湊あくあの持つライフルの違和感。あまり見たことの無い型だったので直ぐにはわからなかったが、ずっと実弾を伴う銃にしては音が”軽い”と思っていた。それに、一応ここは宇宙船の中なわけでサイズ的にも至近距離なら対物ライフル並みの威力が出るであろう銃をこんなところで何発も撃つのは自殺行為だ。そんなことをこの優秀な暗殺者が理解していないはずが無い。

だが、その銃がゴム弾等を用いた『非殺傷銃』という事なら話は別だ。それならば船に穴をあける程の貫通力は無いだろうし、発砲音が異様に軽いことにも先程の壁に当たった弾が”埋もれず地面に落ちた”ことにも納得だ。もっとも、それにしたって頭にでも当たれば脳震盪を起こして気絶するほどの威力はあるだろうし、至近距離なら普通に死ねる。

 

(……でも、実弾じゃないならその速度はホンモノと比較にならない。こんな開けてて何もない場所でタイマンとか無理だと思ってたけど、案外何とかなるかも……まあ、それも全てはラプラスを逃がしてからだけど)

 

銃における実弾と、それ以外では主にその『貫通力』と『速度』に大きな差がある。前者はそもそもの素材による違い等が理由だが、後者は他にも形状や撃ち出された後の空気抵抗の受け具合なども影響し発射後の減速がかなり早い。今の沙花叉なら、見てからでも距離があればギリギリ躱せるくらいだろうか。

 

 

クロヱは僅かに生まれた一瞬の内に、この数分の間で得た情報を整理する。

先程あくあが撃った銃弾がラプラスに当たった痕跡はなく、恐らく次の瞬間にでも総帥の可愛らしい足音が聞こえてくるだろう。ならば、沙花叉のやるべきは引き続き彼女の援護とアイツの無力化だ。致命傷を与えるなという命令に従うならば、ここにアレを引き留め続けるにはそれしかない。

 

 

 

…………タッ……タッ、タッ……。

 

 

 

キタ。

さっきの”あまりにも分かりやすすぎた足音”よりも少し控えめ小さな音。まあ、こんな静かな場所では少し音を抑えたくらいでは何の意味も無いが。それをわかってるはずのラプラスがあからさまに音をたてて自分の居場所をアピールしてる理由はわからないけど、それにもきっと私では及ばない理由があるはずだ。例えば、スナイパー相手に流石に不利であると言わざるを得ない沙花叉の為に未だ自分を標的にさせ私を庇っているとか。

 

(あぁ、もう。沙花叉はどこまで情けないの。この期に及んで総帥のフォローをしなきゃいけない私のフォローを本人にさせるなんてッ!!)

 

自分の不甲斐なさにおかしくなってしまいそうだったが、クロヱはそれをギリギリのところで踏みとどまる。そして、再度走り出した総帥をカバーする為自分もその場から駆けだした。

……長物相手の戦い方など、いつでも相場が決まっている。

 

~~~~~~

 

座り込んでしまったところから立ち上がり、再びラプラスが前進を始めた頃には既にあくあは次の攻撃の備えが出来ていた。壁にもたれ掛ったところから少し体を起こし、またしても音や気配を頼りに相手の位置を探る。

だが、今や両者の距離がかなり近くなってしまったが為にその矛先を思うように振り回すことはもはや叶わなかった。

 

 

「……」スッ

 

 

絶えず足を動かしながら、ラプラスはあくあの動きに注目する。そして、こちらに向けられた銃口に気が付くと今度は直ぐに反対の右側の壁へと力いっぱい飛び込んだ。

 

 

―――――ガンッ!!!……。

 

 

同時に、四度に渡って放たれた銃弾は変わらず空を切る。だが、前回よりも更に勢いよく飛んだラプラスは再び壁と激突していた。

 

(いっっ……たいなぁ、もう!!……でも、見て躱すとか勘で避けるとか吾輩には絶対無理だからこれしかないんだよ!)

 

二回目の攻撃を避けた際、ラプラスは今と同様ステルス機能を使った直後壁に向かって跳んでいた。それはあくあ先輩からの攻撃を軽やかに避けることなど出来るはずもなく、自分なりにタイミングを見計らって大きく動けば避けられるだろうという安直な考えであった。しかし透明中に限り、また攻撃を避けるだけという条件に限れば運動能力がただの少女レベルであるラプラスでも何とか抗うことが出来る。その代償に、力加減が出来ず思いっきり壁に体を打ち付けることだけに目を瞑れば。

 

(でも……まあ痛いけど、それでここを抜けられるなら無問題だ。それにあと少しだし、一気に行くぞ)

 

そう思ったラプラスはまだ少し痛む肩を抱えながら走り出す。もはや息遣いとか、足音なんかを気に掛けている余裕はないと一直線に先輩の向こう側を目指した。

……すると、それを察知したらしいあくあ先輩がもたれ掛っていた右側の廊下の壁から”少し離れた”のがわかった。

 

 

 

 

「お前さぁ!!いつまでもそっちばっか狙ってないで、ちょっとは沙花叉を強者認定したら!?」

 

 

 

 

直後、自分より後ろに居たはずのクロヱがとんでもない速さであくあ先輩目掛けすっ飛んで行った。その両手にはギラリと光るナイフが握られており、そこからも彼女が今から何をしようとしているのか大方の想像がつく。

 

 

「長物相手には至近距離で殴り合えって、総帥にも”同僚”にも言われてんだよッ!!」

 

 

案の定、スナイパーライフルを構え小回りの利かない先輩相手にクロヱは白兵戦を仕掛けていた。手の届く距離まで近づき逆手に持った右手の刃を標的に振り下ろす。しかしそれをあくあ先輩がただ見ているだけなはずもなく、その手元のライフルを横にし銃身を使って新人の攻撃を受け止める。が、それもクロヱにとっては想定内だったようですかさず左手のもう一本のナイフを横に振り払った。

 

 

「ほら、折角のライフルが明後日の方向いてるよ?!それでどうやって総帥を撃つのさッ!!」

 

 

わざとらしく声を荒げる彼女を見れば、誰だって”相手の注意を自分に引き付けようとしている”とわかる。それは一見危ないような気もするが、本人は最低限のやられない工夫は忘れておらず現にあれだけ接近されればいくらあくあ先輩でもクロヱに向かって発砲するのは難しいだろう。それに、その新人の頑張りの恩恵を受けるのは自分なのだ。

 

だが、それは相手から見ても理解できること。刃を受け止めた矢先、続けて二撃目が迫ることを理解していたあくあ先輩はサッと後ろに跳んで距離を取ろうとしていた。勿論、それを良しとしない新人の猛攻をいなしながら。

 

 

「はっ、今引いたでしょ。沙花叉にビビってる証拠じゃん」

 

 

「……」

 

 

仮面越し、二人の強者が対峙する。

またそれを尻目に、いよいよラプラスが湊あくあの横を通過しようとしていた。

 

(あと……少し……)

 

その道のり僅か数歩。

そして遂に、相対する二人を通り越しあくあの立っていた廊下の向こうへと足を踏み出した。

 

(よし、ここさえ抜ければるしあさんのところは直ぐだ……)

 

強敵であるあくあをクロヱを置き去りにすることで何とかやり過ごし、少しの安堵と共に引き続きラプラスは歩みを進める。彼女の発言が正しいならばこの先にもうゾンビはおらず問題なく『操舵室』に辿り着けるはずだ。

 

 

 

 

 

―――――しかし、そう易々と狂犬の追跡を逃れることは出来ない。

 

 

 

 

 

通り過ぎたからには振り返らず、ラプラスは真っ直ぐに渡り廊下の出口を見つめていた。しかし、そこでふと自分の背後で”何か”が地を蹴るような音が聞こえた気がした。またそれに合わせ、クロヱの『は?』という驚きの声も上がる。それが妙に耳に残り、何が起きたのかと少女は少しだけ首を後ろに回した。

 

 

 

「……ゑェ?」

 

 

 

すると、そこには後方より跳躍しまた”廊下の壁”を蹴ってこちらへと迫るあくあ先輩の姿があった。

 

 

「……」

 

 

勿論、彼女の狙いはたった今自分が頭上を飛び越えんとするラプラスでありその矛先は標的に向いている。しかも跳躍中の空中で構えているからか、あくあはスコープを覗いていない。しかし、何故か今の彼女から放たれるであろう弾丸をラプラスは躱せる気がしなかった。

 

(あっ……)

 

その一瞬が、とても長いものに感じられた。まるで世界の時が止まってしまったように、彼女の指先がトリガーに掛かりゆっくりと引かれていく様が見て取れる。自分の息遣いがやけに五月蠅くて、それでも次の瞬間にその脈動がまだ動いている確証が無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――だが、恐怖に屈し強く目を瞑ったラプラスが再び目を開いても尚、その最悪の結果は訪れていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……。」

 

 

予期した痛みも、藻掻くような苦しみも体験しなかった悪魔は何が起きたのかと自分より少し先に着地した狂犬の方を見た。すると先程確かに銃を構え引き金に指を掛けるところまで行ったはずの彼女は、何故か弾を吐き出すことも無くただ静かに地面に着地しているだけであった。

 

(なん……で……今のは、撃ってたら絶対……)

 

姿が見えないはずなのに、見えないとは思えないほどに正確で、的確にあくあの銃口は自分の脳天捉えていた。これまでとは違い、撃てば確実に致命傷を余儀なくされる一撃……になるはずだった。しかしどういう訳かそのような結果にはならず、彼女はただこちらを狙うだけ狙ってその引き金を引かなかったのだ。

 

 

不可解過ぎるそのあくあの行動に、ラプラスはひたすらに困惑する。

すると、結果的には何も起きず静まり返っただけの船内で彼女が一言ポツリと呟いた。

 

 

 

「……弾切れ。」

 

 

 

最初は、そのたった一つの言葉を噛み砕くことすら苦しんだ。だが、徐々に鮮明になる思考回路により今のあくあの行動がただのPONでは無かったことをラプラスは理解する。こんな緊迫した状況でそんなことがあり得るはずもなく、冷静になればそれもまた彼女なりの『奮闘』だったのかもしれないと思い立った。

しかし、その考えを分かち合える相手は今この場に彼女と自分だけしか居ない。

 

 

「……は?……なに、今の。意味わかんないんだけど」

 

 

あくあの真意に気付きつつあったラプラスを他所に、まんまと距離を離された上その状況を呑み込めていないらしいクロヱがそう吐き捨てた。確かに、未だあくあ先輩を敵だと認識しているコイツには理解できないかもしれない。ただこっちとしては、今の先輩の行動も吾輩の”あの予想”を裏付けることに他ならなかった。

 

 

そう思ったラプラスは、パーカーのポケットから新しいマガジンを取り出し悠長に銃のリロードを始めたあくあにゆっくりと近づく。ただし、彼女に不要な接触などはせずそのまま連絡通路の先を行く。この場は信頼できる部下に任せ、またここまでして自分を”信じてくれた”先輩を信じて歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………がんばってね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラプラスが湊あくあの横を通り過ぎるとき、消えてしまいそうな程小さなそんな囁きが聞こえた気がした。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

「あくあさん……一体、どうしたのです……?」

 

 

 

 

たった今、三階の渡り廊下で起きた光景を部下の視界を共有し盗み見ていたネクロマンサーは仲間のとったその理解不能な振る舞いに頭を悩ませていた。

 

 

湊あくあにラプラス・ダークネス率いるholoXの対処を任せた後、潤羽るしあは離れられない操舵室にてこの海賊船の中の様子を窺っていた。それは自由に動かすことのできる監視カメラの要領で、降霊術を使って生み出した霊体のふぁんでっと達の視界を自分とリンクさせることで彼らの見る景色を視ることが出来る。そして彼女はその権能を行使し、ラプラス・ダークネスが地下牢から捕虜たちを救出する一部始終を目撃していた。

 

…ただし、この眼の性質上彼女たちが何を話していたのかまではわからない。だが、何やらバカ騒ぎしながら私の可愛いファンたちを殴り飛ばしているようだった。それに、何故かラプラスの行動にはあまり迷いが無いように思えた。この船の構造は初見のはずなのに、捕まっている捕虜や取り上げた装備品等の回収を何故か的確に行えていた。仮に、まだホロベーダ―とholoXの関係を知らなかったあくあさんから何かを聞いていたとしても、それにしたって手際がいいような気がする。

 

そして、その上でのあくあさんの先程の行動だ。その場にはラプラスと先日捕らえた沙花叉クロヱ、そして戦闘服を身に着けたあくあさんが居た。最初は何故こちらから出向くのではなくわざわざ三階の連絡通路で待ち伏せしているのだろうかと思ったが、どうやらその読みは正しかったらしい。ただ、あの人にしては珍しく奇襲からの一撃目を躱されていた。勿論その存在にいち早く気が付いたらしい沙花叉クロヱが優秀だからというのもあるかもしれないが、それにしたっていつものあくあさんと比べればかなり安直な攻撃だったと言わざるを得ない。ただの油断か、それとも敵に絆されたのか。それはハッキリとしないものの、宝鐘海賊団の一番船副船長ともあろう人が敵を取り逃したのは確かだった。

 

 

「……あの悪魔が、何だというの……」

 

 

奴の存在をこの船で確認してから、おかしなことばかり起こる。holoXが船内に侵入してきたのを皮切りに、久しく顔を合わせていなかった旧友の訪問、あくあさんの謎の行動に本来いるはずの無いホロベーダーの出現。その全てが、ラプラス・ダークネスという一人の少女へと収束している。まったくもって気にくわなかった。

 

 

「秘密結社holoX……悪の組織と呼ばれ、かつて大悪魔と恐れられた彼女が束ねる集団……」

 

 

私達がこの宇宙へと足を延ばしてから要所で耳にした彼女らの噂。ただ、私個人としては正直言ってそれらの話は審議が不確か過ぎて信じるに値しないものだと思っていた。自分で見てもいないことを信じられる程おめでたい性格でもなく、また肝心の本人たちに出くわすことも無かったが為にまるで物語の中の住人のように感じていた。ただしそれはあくまでholoXという組織についてのみで、実は【ラプラス・ダークネス】という人物については”昔から”その存在を知っていたのだ。

 

 

 

 

私が魔界学校を卒業し、実家を出て流浪の旅に勤しんでいた数百年。その間に『魔界』ではとある一大事件が起こっていた。それは当時魔界を統べる『魔王』と呼ばれていた者の”失踪”。そして、突如として現れた【ラプラス・ダークネス】と名乗る悪魔の暴挙。勿論、その場に直接いたわけでは無い私は案の定旧友からその話を聞いても事の真実など分からないだろうと思っていた。しかし彼女曰く、『居なくなってしまった魔王様はそのラプラス・ダークネスに殺されたのではないか』とのことだった。まあ正直、私は魔王崇拝派閥に属しているわけでもなくここ数千年形だけの魔界の王として君臨していた者が居なくなったところでたいして興味も無かった。ただ、その時魔界でも屈指の実力者たちが集い守っていた鉄壁の要塞である魔王城に一人で乗り込み、そして社の主を殺害したらしいラプラスという悪魔にはほんの少しだけ興味が湧いた。一体何を考え、どのような目的でそのような所業に至ったのか疑問を持ったからだ。

 

しかし、その場に居たらしい旧友からはそれ以降一度もその話をされたことは無かった。というのも、その事件を大変重く捉えた魔界当局が彼女の存在自体をタブーとしたからだ。故に、他の魔界学校時代の好と極稀に顔を合わせる機会があってもその話を聞くことは無かった。結果、私は魔乃ちゃんからholoXとホロベーダーの関係について聞くまでこの事件自体を忘れていた。

 

 

 

 

だが、奴らと事を構えることになった今当時の学友たちが言っていたことを少しだけ思い出した。『ラプラス・ダークネスはとても冷たい目をしていて、まるで自分以外の全ての生物を見下しているようだった』と。『その身から溢れんばかりの魔力と、その存在感が何よりも恐ろしかった』らしい。その時もまた”彼女たち”の話を丸ごと信じていたわけでは無かったものの、実際に魔王が居なくなったことだけは事実であるため幾分か信憑性はあった。故に、この時の私はまた少しだけラプラス・ダークネスという人物に興味が湧いていた。

……だが、そんな生温い考えも魔乃ちゃんから告げられた真実により制御できない程の怒りに変わることになる。

 

 

『ある組織って……もしかして、るしあちゃん達の星に【ホロベーダ―】を送り込んだっていうあの秘密結社holoXのことか?』

 

 

その事実は、今の私にとってあまりにも大きすぎることだった。

長い旅の末辿り着いた、第二の故郷と呼べる惑星『ふぁんたじあ』。そこで私は仲間に恵まれ、今後も続くであろう生涯をここで終わらせてもいいとまで考えていた。心の底から信用し、本気で笑い合える友達。恋人とまではいかずとも、それに負けないくらい深い関係で結ばれている相棒。またいつでも私を諭し、年齢に限らずその当人の持つ懐の広さと愛情から私を支えてくれている同僚。これは最近のことだけどその同僚と何やら親しすぎる間柄になっているらしい”あの子”だって、今や大切な仲間だ。みんなが私のことを大切にしてくれて、私だって本気で本当に大切に思っている。仮に自分の生まれ故郷を失うような事になってしまったとしても、みんながいてくれるなら私は私を見失わずに済むのだろう。それだけ、ただ無作為に長い時間を過ごしてきただけの私にはみんなが輝いて見えた。

 

そして、だからこそ彼女たちを苦しめ悲しませるホロベーダーという存在が許せなかった。どれだけ長い年月を費やそうとも、例えみんながこの世を去り自分一人だけになったとしても、奴らだけは絶対に根絶やしにしてやると私は固く誓った。……だが、奴らの進行に理由がありその黒幕がいるとなれば話はそれだけに留まらない事になる。害蟲を駆除するだけでは終わらない。奴らを仕向け、るしあ達の大切な家を奪った悪魔には相応の報いを受けさせなければならない。

 

それこそが、普段胡散臭すぎて全く信用していない”旧友”の話を私が珍しく信じてしまった理由だった。

 

 

冷静に考えれば、その話だって真偽が不確かなことは事実だった。ただ魔乃ちゃんが言っていただけだし、普段のるしあなら何を言っているんだと一蹴していたことだろう。しかし、例えそれが嘘だろうと真実だろうと秘密結社holoXが私達にとって障害であることには変わりはない。それに、この場にホロベーダーが現れるというこの奇怪な現象についてはどう説明するというのか。彼女の経歴と、奴らの性質を鑑みればその関係を疑わない方がよっぽど不自然だろう。

 

 

「……けど、今は何よりホロベーダーをやり過ごすことが最優先。あのキッズのことは後でどうとでもなる」

 

 

今起きている様々な事態の中で、最も危惧すべきはこの船がホロベーダーの襲撃を受けることだ。それだけは絶対に避けなければならないし、現状それを何とかやり過ごす手段を私しか持っていない。holoXの動向も気にはなるが今この船を墜とされてしまうことの方が深刻だ。あくあさんの失態であのキッズだけがこちらに向かっているようだけど、何故か噂の様な魔力を感じないあの少女一人ならるしあだけでも十分対処は可能だろう。

 

 

「ただ、せめて通信妨害くらいは直しておかないと……」

 

 

holoXの存在が露わになった辺りから作動させていた通信妨害電波、それがいつの間にか停止し再起動も不可能な状態となっていた。それをこの操舵室でどうにも出来ない以上、大本である動力室の方に行き修理等をしなければならない。ただ、もしかしたら何かの拍子で一部の電源等が落ちてしまったという可能性もある。その為、最悪それくらいなら何とかできるだろうと現場に死体さんたちを向かわせていた。

 

 

「流石に、いくら鈍足なあの子達でもそろそろ着く頃合いかな」

 

 

誰に聞かせるでもなくそう呟いたるしあは、彷徨う魂に自らの魔力を伝わせ視界の共有を試みる。ほんのり熱の帯びた瞼を閉じ、その視野を明瞭にすると死体さん達に同行させた幽霊さんの見る世界が広がった。

 

 

 

 

 

「……えっ……なに、これ……」

 

 

 

 

 

――――しかし、そこで彼女は悲惨な光景を目の当たりにすることになる。

 

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