転生したらラプラス・ダークネスだった件 作:飽和水溶液_pixiv
さて、本編の更新は一カ月以上前のことですが皆さん内容を覚えていますでしょうか?(私は覚えていません。)
前回は確か、るしあがラプラスに対し自傷を強要したところまで進んだと思います。彼女からの提案によれば、『魂を切ることが出来る短剣』を使い自分の右手を切り落とすことが出来ればラプラスのことを信じてくれるという話でした。またそれを、ラプラスはるしあの思惑に反しあっけなく実行しようとしていましたね。本来、直接的に傷付くことの無い痛覚があるかもわからない魂への自傷……それは、もはや想像すらできない痛みとなるでしょう。果たして、ラプラスはどうやってこの窮地を切り抜けるのでしょうか。
また、クロヱ達の方には報告に来てくれた暗殺部門の部下たちが駆けつけていました。彼らからの話によると、どうやらホロベーダーにも動きがあったようです。そちらの動きも見逃せませんね。
【追記】
今回の深堀シリーズは、前回から登場している『魂を切ることが出来る短剣』についてです。本編の方でその概要は語られましたが、今一度簡単に振り返っておきます。
それは、とある降霊術師によってつくられた代物であった。創作者の趣味による装飾の施されたそれは、淡い薄紫色に光る刃を携えている。刃の部分が持ち手より短く、硬い物や大きな物を切るには適していない小型のナイフ。しかしそれには、本来の刃物とは全く違った特徴があった。それは、その短剣で切ることが出来るのは『魂だけ』であるという点だ。この短剣は普通のナイフの様に何かを物理的に切ることは出来ず、常人には目に見えないどころか干渉すらできない魂だけに影響を与えることが出来る。またその性質上、これは生物意外に突き刺しても効果はない。
元々、この短剣は悪霊や瘴気等に侵されてしまった魂を切断、切開治療を行う目的で作られたものであった。しかし、痛覚が無いはずの魂でも切断の際には肉体以上の痛みが生じてしまう。その理由までは定かでは無いが、一説には魂と肉体は現世にある限り強く結びついている物であり、それが無理矢理引き剥がされ互いの形が異なることによるその差異から痛みが生じているらしい。それは、仮に肉体が傷ついた場合にもやはり同様であった。
そして、忘れてはいけないのが”一度傷ついた魂は二度と元には戻らない”ということである。どんなに優秀な医師の手に掛かろうと、干渉も出来ず知識も無いような者にはそれに触れることすら叶わない。傷ついた、あるいは侵された魂を癒すことが出来るのはこの宇宙にも数少ない『非常に優秀なネクロマンサー』だけなのだ。
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宝鐘海賊団二番船、三階連絡通路B棟側。
「それまでその場に滞在していたはずの”ソレ”が……現在、この船に向かって急接近しているようですッ!!」
「……ッ!」ガタッ
報告の為に駆け付けた暗殺部門の一人が放った言葉に、一番大きく反応したのは拘束されていた湊あくあであった。
「ホロ…ベーダー……」
ただし、それは決して良い意味ではない。むしろその逆で、驚きというより悲痛や焦燥といった表情を浮かべているようだった。その反応に、私は疑問符を浮かべる。
「……”ほろべーだー”……?」
彼女が口にした言葉を、私は復唱する。
沙花叉の記憶が正しければ、それは旧食堂でラプラスとあくあがしていた会話の中でも出てきた名前だったはずだ。あの時はラプラスのことばかり考えていてあんまりよく覚えていないけど、確かあくあ達はそいつらと戦う為に海賊行為をしているという話だった。また、そのホロベーダーとやらを倒すための協力をするとかって話をラプラスがしていたような……?
「ねぇあくあ、ホロベーダーって一体何なの?さっきラプラスとも話してたよね?」
数十分前の帰還船との連絡の際に報告を受けた、この宇宙船の進行方向上に滞在しているらしい黒い影。仮に、それが彼女たちの言うホロベーダーなのだとすれば……それは一体どういうものなのだろうか。その答えを自分の中に持たないクロヱは、自分の足元に座り込んでいる当事者に問う。
「……ホロベーダー、は……私達の…”仇”……」
「……」
そう言った彼女は、果たして何を考えていたのだろう。その悲しそうな表情の裏には、どんな過去や”傷”があるのだろうか。それを、未だあくあのことをよく理解していないクロヱでは精々想像することしか出来はしない。……が、少なくともその様子から察するに只事ではないことだけは確かであった。
「クロヱ様。その者はもしや……?」
「まさか……宝鐘海賊団一番船船副船長、”湊あくあ”ですか?」
クロヱがホロベーダーについてあくあに尋ねていると、駆け付けた部下たちが口々にそう言った。そういえば、当初の指示していた予定と現在の状況も少し変わってるんだったっけか。
「そうだよ。ラプラスの命令で殺すなって言われてるから、取り敢えず拘束してんの」
「そ、そうですか……それで、肝心のラプラス様は何処に?」
「ん。」
彼らからの問いに、クロヱはただ連絡通路とは反対側の廊下をあご先で指し示す。それは言葉足らずではあったものの、彼女の部下たちであればおおよそ『総帥は一人で目的地に向かった』ということを理解できていた。
「そんな……ラプラス様お一人でなんて……」
「……しょうがないでしょ、そういう指示だったんだから」
最優先保護対象であるラプラスを一人にしてしまった理由、それは彼女自身がそうするように指示したからであった。またその際に、『考えがあるから信じて欲しい』とも言われてしまったのだ。そんなことを総帥から言われたのなら、例えどんなに危険だとわかっていようともこっちだってあいつの望み通りに動くしかない。この先に居るらしい、船長潤羽るしあの下にラプラス一人で向かうことを許容するしかなかったのだ。
「でも、それなら直ぐに援護に向かいましょう!クロヱ様がいれば、潤羽るしあだって敵じゃありません!」
「こら、勝手な行動しない。今の沙花叉たちの配置はラプラスが采配したんだから問題あるはずないでしょ。本当なら、あんた達が勝手にここに来てるのだっていけないんだから。……まあ、それはもういいけど。報告の為なら仕方ないしね。…………それよりも、あんた達今”無線機”持ってる?」
不安は残るが、それでもこの状況を自ら作りだしたラプラスを信じることしか私達にはできない。
だがそれはそれとして、沙花叉にも部下たちの状況や戦況を知る義務はある。ここに来た部下達は二名で、残りの四人が現在最後のラプツナズを回収しに行っているという話だ。ということは、最初に回収したラプツナズの女の無線機と他二名、計三つの無線機を彼らのいずれかが持っているはず。
「はい、必要と思いラプツナズの隊員から預かってきました。現在ラプラス様の持っている無線機とは連絡が取れずクロヱ様たちの状況が分からなかったので、一先ずラプツナズ捜索班に一つ、我々の手元に二つあります」
「上出来。じゃあ一つは沙花叉に渡して、あんた達はもう一つを持ったままA棟二階にいる仲間のところに向かってくれる?こっちに居た残りのメンバーがそこでゾンビと戦ってるからさ」
こうすることで、少なくともこの船内に散っている全てのholoX構成員の下に無線機が行き渡ることだろう。沙花叉達側にあった無線機はラプラスが持っていってしまったのだが、逆にそうしなければあいつが私達に指示を出せなくなってしまう。また先程足止めの為に置いてきた部下たちも連絡手段を持っていないので、ここに来た彼らに無線機を届けさせればその後のやり取りもしやすくなるだろう。
「了解しました。……クロヱ様は、こちらに残られるのですか?」
「うん。ラプラスがすぐそこに居るし、何より今の沙花叉の任務はコイツをここに引き留めることだから。……それに、さっきのホロベーダーの件についてもまだ詳しく聞いてないしね」
クロヱはそう言うと、再度足元のあくあに視線を移す。
そして、現在この船に迫っているというその奇怪な【ホロベーダー】という存在について尋ねた。
「あくあ、教えてよ。そのホロベーダーってやつのこと。……あと、ついでにあんた等が何の為に戦ってるのかもさ」
コイツが何を考え、何のために戦っているのか……そのことに、私は少しだけ興味が湧いていた。あれだけ強かったあくあが苦しそうな表情の中絞り出したその『仇』という言葉。それに一体どんな意味があるのか……私は、聞いてみたくなったのだ。
「……クロヱちゃんに、なら……いいよ」
そして、そんな沙花叉からの問いかけに彼女は静かに頷いた。
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……何故、お前はるしあのことを信じられるの?
何故、そんなにすんなり、私の提示した条件を当たり前のように受け入れようとする?
何故、そこまで必死になって私からの信用を得ようとするのか?
何故、何故、何故……。
なんで、この悪魔はこんなことをしているのか。
敵であるはずの私の前で、私から指摘されたにもかかわらずさも当然の様に武器を捨てられるその神経が分からない。意味もわからないだろうに、私からの理不尽で、言ってしまえば『わがまま』のようなその儀式染みたそれを、こいつは当たり前のように実行しようとしている。そこまでして、るしあからの信用を得た先に何があるというのだろうか。
仮に……本当に、この悪魔がそれをやってのけたとしても……だからといって、私がその後アイツを信じるかなんてわからないのに。確かに私は言葉では信じると言ったが、それを確実に実行するという確証も無いはずだ。むしろ、総帥である彼女の利き手を封じることが出来ればより戦況は私達に傾く。それこそ、この悪魔を地に伏せることだって可能になるかもしれない。
……なのに、奴はそれすらも信じているようだった。一体何故、そんなことが出来るのか。私達はまだ会ったばかりどころか忌み嫌い合う敵同士であるはずなのに。私を信じるどころか、仲間の恨みや海賊行為に対する復讐をしてきたっておかしくはない。
もはや、この悪魔は”最初からるしあ達のことを敵だと思っていなかった”のではないか……などと思ってしまうほどだ。それだけ私達が取りに足らない存在であるのか、それともこの状況すら彼女の策略の内だとでもいうのか……しかしそれにしては、随分と回りくどく痛みを伴う計画であるように思える。それに不確定要素も多く、仮にそれを遂行できたとして得られるものが少ない。この悪魔たちにとって【ホロベーダー】がどんな存在であるのかは知らないが、少なくとも何か被害を被っているような素振りは無いし、滅ぼすというその目的も不明瞭だ。
この悪魔が、奴らに一体何をされたというのか。
……いくら考えたところで、答えは出ない。
ただここにあるのは、たった今から私の要望通りにその右手を切り落とそうとするラプラス・ダークネスの姿だけだ―――。
********************
「あぁ、わかった。よく見とけ。……吾輩がどれだけ、お前を信じてるかな」
そう言ったラプラスは、至極当然の様にその左手に持った短剣を高く構える。そして、そのまま自分の右手目掛けナイフを振り下ろしていた。
この時のるしあは、どうせこの悪魔にはそんなことは出来ないだろうと思っていた。いくら言葉を並べたところで、いくら声を荒げたところで、結局のところ行動が伴わなければそれらには何の意味も無い。故に、ただ私を『言葉』で説得しようとするコイツをるしあが信じることも無い。
だが、それでもラプラスは譲らなかった。私がいくら拒もうとも、るしあ達の都合に土足で踏み入るコイツは全くもって引く気は無いようだった。……だから、引くためのきっかけを作ってやったつもりだった。こうでも言えば、『そんなこと出来るわけないだろう』と一蹴し案の定るしあ達は敵同士に戻る、そうなるはずだった。仮に、ラプラスがそれを何らかの方法で中途半端に実行した場合でも、変わらず私は『この悪魔は口だけであった』と突き放すつもりだったのだ。
……なのに、何故……こんなことに……。
天に掲げた畏怖を纏うそのナイフを、悪魔は力の限り振り下ろす。まるでそれらを繋ぐ筋を断ち切るように、自らの手首の先の切断を試みる。
―――――――ザクッ。
思ったよりも、それには抵抗なく刃が通っているようだった。
『魂』とは実際の肉体よりも脆いようで、少女の利き手では無い方の力でも問題なく事切らすことが可能であった。
……そして直後、燃えるような激しい痛みが彼女の身体を襲う。
「う゛ッ……イ˝ッ――――~~……ッダ゛ァッッ!!!!」
言葉にならない声を上げ、少女はその場に蹲る。
たった今自分で傷つけた自らの右腕を抱え、落としてしまったナイフにも構わずそれを労わろうと尽くす。だが、それをいくらしたところで、この藻掻き苦しむような痛みから解放されるわけでは無かった。
「痛ッ˝…あ゛ア゛ァァァッ……ッつぅ…………ぐッ……!!!」
顔も上げず、逃れられぬ苦痛にのたうち回る少女。その痛々しい姿を、魂の魔女はただ『驚き』の目で見ていた。
(本当に……切った……!?)
まさか、こんなふざけた条件を実際にやってのけるとは思ってもみなかった。魂そのものが見える私にその分野においての嘘やブラフは通じない。そして今、るしあの目には確かに彼女のその手が”切り離れて”見えている。ようするに、この痛みに悶える悪魔は演技などではなく、正真正銘私からの要求をやってみせたのだ。
「イッ、ヅ……ヵハァ……!!……ハァ……ハァ……」
まるで手首の先を焼いているような痛み。それは気を抜けば意識を失ってしまいそうなほど激しいもので、正気が朦朧とする。身体中から脂汗が吹き出し、自身の痛覚の勤勉さがこれ以上ないほど恨めしそうであった。
……しかし、それでも少女は立ち上がる。
「ハァ、ハァ、ハァ…………どうだ、るしあァ…!!……お前の言う通り、やってやったぞッ!」
苦悶の表情を浮かべつつ、片膝をつくラプラス。
だがその痛みを気合で押し殺し、無理やり作ったしたり顔で彼女はそう言った。
「これでいいんだろッ!……ッ˝……これで、お前は吾輩を信じるんだよなぁ?!!」
痛みのせいで力が入らないのか、悪魔はそのままの姿勢でるしあを詰める。手首をもたげた右腕を左腕で支えながら、それを見せつけるようにして私を覗いた。
「……どうして……」
そんな彼女に対し、るしあから絞り出たのはそんな言葉であった。
何故……どうしてこの悪魔は、そんなことが出来るのか。るしあが提示した、”出来ないこと前提”な理不尽な条件。それをこなしたところで『信頼』という不確かで形の無いモノを得られる保証も無く、かつ自分に不利益だけが生じるような行為。それを、そんなことを何故、この悪魔は出来てしまうのか。……しかも、やること自体に迷っている様子は無かった。幾つかの言葉を並べてはいたものの、それは決して言い逃れるような文句では無かった。ただただ話と行為の建前と、それを実際に行動に移せる彼女の信頼値を示しただけであった。
「はぁ?……ハァ、何が”どうして”なんだよッ……」
「……どうして、あなたは……そんなことが出来るの……」
酷く、只困惑するネクロマンサーは悪魔に問う。
その行動の源を、行為の真意を。
「……どうして、ラプラスは……るしあの言った事を、そんなに素直に受け入れられるの…?……こんな話、あなたに何のメリットも無い……そもそもラプラスや、holoXがホロベーダーを滅ぼすという目的があったとしてその為にるしあ達の協力を仰ぐ意味が無い…あなたがるしあを信じる必要性も、るしあにあなたを信じさせる理由も無いはずなのです。……なのに、それを痛みを伴ってまで証明するなんて…………それにッ!るしあがそこまでしたラプラスを裏切る可能性だってあった!るしあは未だに、あなた達を敵として認識しているのに……どうしてラプラスは、そんなことが出来るのです……?」
心に浮かんだ疑問を、るしあはただただ相手に投げ掛ける。
それらの答えは全て相手の中にしかないもので、自分だけでは知りようがないものだったから。
そして、そんな少女にラプラスは応える。
「……だから、さっき言ッただろ。お前は”勘違い”してるって」
骨身を震わせるような痛みにも耐え続け、やっとの思いで立ち上がったラプラスは言葉を続けた。
「……吾輩は、最初からお前ら宝鐘海賊団を敵として見てない。お前達がholoXのことをそう思っているんだろうとは理解していたが、少なくとも吾輩個人の話に限れば端からお前らと対立する気なんてなかったんだよ。……その上で、吾輩はお前達と協力関係になる事を望んでる。ホロベーダーを倒すために協力するんじゃなく、ホロベーダーを倒したいお前らに協力したいんだ!」
自由の効かなくなった右手首の先を遂には放り出し、悪魔は一歩るしあの下へと近づく。
「そこでの吾輩にとっての問題は、お前達が信用に値するかどうかじゃない。……お前に、”どう吾輩を信じてもらうか”っていうのが問題だったんだ。お前らを信じられるかどうかなんて最初から答えは出てる。……吾輩は、潤羽るしあを”ここで出会う前から”ずっと信じてるぞ」
聞き間違いではないかと思うような言葉を、彼女は放ち続ける。
道理がおかしい、理解できない。自分を相対する前から信用してたなんて、明らかに異常な話だ。この悪魔は、”会ったことも無い”相手の全てを信じられるというのか。仮にその者が無理難題を押し付けてこようともそれを受け入れられる程に……そんな話が、あるわけが無い。
「わからない……そんなの、おかしいのですッ!るしあと会う前からるしあのことを信用してるなんて、そんなデタラメな話が……」
「いいや、おかしくない。……吾輩は、お前を知ってる。お前がどんな星の下に生まれて、どんな人生を送って来たのかは知らない。話に聞いたホロベーダーのことだって、実際にまだ現物を見てないしお前らがどんな目に合わされたのか具体的には何も知らない。……でも、吾輩は知ってる。潤羽るしあが心底仲間想いで、少し嫉妬深いただの普通の女の子だってな!」
そう言った悪魔ついに、すぐ傍まで近づいてきた。るしあ自身がそちらに手を伸ばせばもう届きそうな距離で、彼女はまだ自由の効く左手を前に突き出した。それは先程のとは対を成す、疑いや不信感を払拭させた”信頼に値する”言葉。
「舐めるなよ、潤羽るしあ!!お前がどんなに突き放そうとも、吾輩はこれからもずっと潤羽るしあを信じてる!!―――だからお前も、吾輩を信じろッ!!!」
その差し出された手は、もはやるしあにとっての『救い』そのものであった。
経緯はどうあれ、理由はどうあれ、この悪魔は私の出した条件をクリアしてみせた。彼女が如何にるしあを信じ、また先程の話が信用に値する言葉であった事を証明した。……ならば、本当に……私は、この手を取ってもいいのだろうか。
「――。」
悪魔から示されるその手を、るしあは見つめる。
彼女の見た目通りに小さく、それこそが巨大組織秘密結社holoXを束ねる手。彼女たちの力は偉大かつ絶大で、星々を我が物とすることを可能にしている。また彼女自身もあの『魔王』を撃ち滅ぼすほどの力を持ち、かつそれらを完全に掌握する計算高い頭脳を持つ。
……だからこそ、もし、この手を取れば……るしあ達は、本当に救われるかもしれない。長年身を投じ続けた戦いに終止符を打ち、私と私の仲間たちの夢を叶えてくれるかもしれない。故郷を取り戻し、あの美しく雄大であった『私たちの家』にまた”みんな”で―――。
そう心で願ったネクロマンサーは静かに、ゆっくりと、恐る恐る自分も手を伸ばした。悪魔からの誘いを、相手を悪魔だと理解した上で、まだ拭いきれない疑いもありつつ……それでも、差し出されたその小さな手を受け入れる。
……最後にもう一度だけ、淡い『希望』というやつを信じてもいいと思ったから。
―――――しかしその刹那、突然操舵室内にけたたましい警告音が鳴り響いた。
『―――緊急事態発生、緊急事態発生。……急速に接近する飛行物体の存在を確認』
その放送により、彼女は伸ばそうとしていた手を直ぐに引っ込めてしまった。
それは、現在この海賊船に近づいてきているらしいそれが『”ナニ”』であるかを理解していたからであった。
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―――宝鐘海賊団二番船、動力室。
「へー、凄い凄い!本当に、あの”偽物”のラプラス・ダークネスがるしあちゃんの心を動かしちゃったぞ!」
幾つもの血塗られた肉片の積まれた先、そこで彼女は不思議な力を通し”彼女ら”の会話を聞いていた。
「いやーそれにしても、まさかあの堅物なるしあちゃんを落とすとはなぁ~。まあ結局横やりが入っちゃったし、あと一歩足りないな~って感じではあったケド」
自分に課せられた任務を殆ど終え、あとは成り行きを見守るだけの見習いサキュバス。そんな彼女は、本心からこの悪魔に感心していた。よもや、本来”この世界の住人ではない”あの悪魔にるしあちゃんを説得できるとは思っていなかった。最終的には完全にその手を取る前に、”彼”の存在が露見してしまったわけだが……まあ、それはそれで構わないだろう。
「さてさて、今度はどうやって乗り切るのかなぁ。あの偽物さんは。……いや、もうその呼び方は相応しくないかな」
そう言った彼女は、”とあるレバー”の前まで移動していた。それはこの船において最も重要なスイッチの一つであり、かつこれをベストなタイミングで下ろすことが【魔乃アロエ】の最後の仕事であった。
「……ここからが勝負だぞ。総帥らしいところを見せてくれよ。――――”もう一人の”、ラプラス・ダークネス」
そうして、アロエは目の前にある海賊船の『主電源装置』に手を掛けたのだった。