転生したらラプラス・ダークネスだった件   作:飽和水溶液_pixiv

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第58話です。本当は57話と一緒に投稿したかったのですが、細部を書き直していたら遅くなってしまいました。


前回は遂に、ラプラスがるしあへの潔白の証明&信頼を勝ち取ることに成功……しそうな所まで行くことが出来ました。その際自分の右手を犠牲にしてしまったものの、彼女の心を動かすには十分だったようです。結果的に見ればアロエの言う通り邪魔が入ってしまいましたが、あのまま行っていれば間違いなくるしあはラプラスの手を取っていたことでしょう。
しかし、それらを全てなかったことにしえるホロベーダーという存在。それが遂に動き出し、もう目前というところまで迫っているようです。果たして、ラプラスはこの事態をどう切り抜けるのでしょうか!


【追記】
今回の深堀は、その内どこかで触れておこうと思っていたこのパラレル世界における沙花叉クロヱの習性……というより、ある”癖”についてです。これは二章のどこで書こうか迷っていたのですが、この先も度々クロヱのラプラスに対する想いが見られるシーンがあるのでここで書いておきます。

この世界のクロヱにとって、ラプラス・ダークネスは組織の総帥でありまた大の恩人でもあります。その為彼女を『ご主人様』と密かに慕い、普段不真面目なクロヱもラプラスの命令だけには何だかんだ従っています。
ただ、そんな彼女も拾われたばかりの幼い頃には子供らしい思考や行動をすることがありました。また実質的に、ラプラスのことを上記以外にも一部”本当の親”の様に思っていた節があります。それはクロヱ、こより、いろはの三人の親代わりを鷹嶺ルイと共にしていた結果です。故に彼女たちは親二人の考え方や価値観、生活習慣等に多くの影響を受けています。特にクロヱは、子供の頃ラプラスの仕草や話し方を直ぐマネしていました。それは今でも若干残っており、ラプラスの使った言葉や言い回しをよく使いたがります。とても可愛いですね。
またそれは思考中も同様で、全く違う場面で一緒に居ないはずの二人が同じようなことを考えたり表現したりしています。この辺りは本編を見返してみたら気付く部分があるかもしれません。(つまり、わざとラプラスとクロヱの話し言葉や心情描写を似通うように書いていました。なので決して作者の文章力が乏しいわけでは無いです……無いです!!)


↓作者:飽和水溶液のXアカウント。主に執筆状況や気に入ったホロ関連のリポストしてます。
飽和水溶液(@Suiyoueki_suba) https://twitter.com/Suiyoueki_suba


第58話 襲撃、衝突、けど大丈夫

 

―――痛い。

 

 

 

痛い、痛い、痛い痛い、痛い……。

 

 

 

がなる痛覚の働きに、ラプラスは苛立ちすら覚えていた。まるで自分の身体では無いみたいに、制御しきれない痛みが患部以外にもじんわりと広まっていく。冷や汗が止まらず、既に”感覚の無くなってしまった”右手の先が『幻肢痛』のように痺れだしていた。今までは確かにそこにあったはずなのに、失うことの痛みも相まったそれは耐えがたい”苦しみ”となっていたのだ。

 

 

「舐めるなよ、潤羽るしあ!!お前がどんなに突き放そうとも、吾輩はこれからもずっと潤羽るしあを信じてる!!……だからお前も、吾輩を信じろッ!!」

 

 

痛い、痛い、痛すぎる……。

正直、痛みのせいで自分が何を言っていたのかあまり覚えていなかった。おかしなことを口走っていたような気もするし、言いたかったことを全く伝えられなかったような気もする。とにかく痛い、すごく痛い。出来るだけ早くその苦しみから解放されたくて、今すぐにでもこよりに泣きつきたい気分だった。

 

それでも、そんな最中にるしあ先輩が吾輩の手を取ってくれようとしているのが見えた。まだ悩んでいるようではあったものの、あれだけ敵視していた吾輩たちを少しは受け入れてもいいと思ってくれたらしい。それを理解したとき、吾輩はこの痛みにも意味があったのだと思えた。

 

 

……だがその時、それを遮るかの如く不快すぎるアラート音が操舵室内に鳴り響いたのだ。

 

 

 

『―――緊急事態発生、緊急事態発生。……急速に接近する飛行物体の存在を確認』

 

 

 

否、その放送の音の大きさから察するに船内全体に聞こえていたのかもしれない。この一隻の海賊船に迫る”脅威”を、いち早く報せるために。

 

 

「なんだよ、いきなり…………ッ!!まさかッ!?」

 

 

未だ感じる痛みのせいで正常に動かない脳みそでも、ラプラスはすぐに一つの結論を導き出していた。既に帰還船に乗っているラプツナズからもたらされていた事前情報により、推測されていたその存在。今、この船に接近してくる飛行物体など”ヤツら”以外にありえない。

 

 

「……ホロベーダー……ッ!!」

 

 

ラプラスの言いかけたそれを、目の前のるしあが代弁していた。その表情や声色から察するに、どうやら吾輩の抱いていた最悪の予想は当たっていたようだ。本当に間の悪い、ようやくるしあ先輩を説得できそうだったというところに元凶のご登場とは。

 

 

「……やっぱり、ホロベーダーだったのか。嫌な予感っていうのは当たるんだな」

 

 

「ッ……知ってたの?ラプラス。」

 

 

「ちょ、待て、勘違いするなよ。吾輩の乗って来た宇宙船にいる部下たちがレーダーで進路上に”黒い影”があるってのを先に見つけてて、それを勝手にホロベーダーと結び付けてたってだけだ。なんでこんなところに都合よくホロベーダーが居るのかなんて知らないし、勿論吾輩たちは無関係だ」

 

 

ついうっかり口をついてしまった言葉に対し、るしあは一瞬疑いの目を向けた。

だが、それをラプラスが即座に否定する。仮にそれがholoXの仕業だとして、我々に一体どんなメリットがあるというのだ。先程、吾輩は身の潔白を痛みを伴ってまで証明した。それをわざわざ無下にするようなことはしないはずだし、何よりこの状況は同船している吾輩たちにとっても大問題なのだ。

 

 

「……そう」

 

 

そして、それを少なからず理解していた先輩は直ぐに吾輩から視線を外していた。流石の彼女でも、今となっては一応の確認程度の質問だったのだろう。……そうであると信じたい。

 

 

「……でも、何でいきなりホロベーダーがこっちに向かってきてるんだ。確か話じゃ、少し先で惑星付近の岩石群を泳いでるみたいなこと言ってたが……」

 

 

「さぁ……ホロベーダーの行動原理はまだほとんどわかってないのです。ただ繁殖の為の破壊衝動を持ち、住み着いた星を滅ぼすということしか……」

 

 

「繁殖と破壊衝動、か……え、それってマズくないか?今そいつは、こっちに向かってきてるんだろ!?」

 

 

そう叫んだラプラスに対し、るしあは少しばかりの焦燥感を浮かべていた。

この船に迫る脅威の正体がホロベーダーであるならば、考えうる限りの最悪が思いつく。仮に奴らがこの海賊船を標的としていた場合、更にはこの船がその猛攻に耐えられず大破するなんてことにでもなれば……ここにいる部下達や先輩方は漏れなく全員宇宙空間に放り出されることになるだろう。そうなったらもう、まず誰も助からない。

 

(ふざけるな……折角ここまで来たのに、今更ここで全滅なんて……!!)

 

ようやくるしあ先輩を説得できそうだったというところに、間が悪いなんてもんじゃない。ここまでの吾輩の頑張りも、先輩方の奮闘も全てを無かったことにするような一手。……まるで、”誰かが見計らった”ようなタイミングだ。

 

 

「……確かに、こっちに向かってきてるのは間違いないみたいなのです。何故だか知らないけど……でも、こっちにだってちゃんと備えがある」

 

 

「!……るしあ、なんか手があるのか?!」

 

 

こんな状況においても決して慌て過ぎないるしあに対し、ラプラスは問う。言われてみれば、確かにこの船は一応宝鐘海賊団の保有する『海賊船』なのだ。であれば、少なくとも何か敵を撃退するような兵器や機構が備わっているはず。

 

 

「……まぁ、あるにはあるのです。本当はあなたの前で見せたくは無いんだけど、緊急事態だから仕方ない……”幽霊さん”?」

 

 

こちらにチラッと視線を向け、致し方ないといった様子で彼女は自分の部下を呼ぶ。彼らの姿は一般人であるラプラスには見えないものの、彼女を見ていればそこに確実に”誰か”が居ることが分かった。

 

 

「---!」

 

 

「幽霊さん、ホロベーダーの位置は?」

 

 

「○○……」

 

 

「ッ!もうそんなに近くに……幽霊さん、すぐに”迷彩機能”を作動させて!」

 

 

そこに居るはずの部下と喋る彼女は、少し焦ったように指示を出していた。その内容から察するに、迫る『脅威』は直ぐそこまで来ているようだ。もっとも、片方の言っている言葉が分からないのでそれも正確な情報では無いのだが。

 

 

「くそ、見えないうえに話してる言葉も聞こえないのか……おいるしあ、迷彩機能ってなんだ!この船は大丈夫なのか?!」

 

 

「……絶対に安全、とは言えないのです。ただ、この船には保護色迷彩を施す機能が備わってる。それを使えば、恐らくホロベーダーにも発見されないはず……」

 

 

保護色迷彩……つまり、吾輩達の乗ってきた船や今着けているヘッドギアなんかに搭載されているステルス機能みたいなものがこの船にもあるということだろう。確かに、そういうことならるしあ先輩の『魂が透けて見える』みたいなイレギュラーでもない限り上手くやり過ごせるかもしれない。

 

 

 

『―――――報告。急速接近中の飛行物体を砲台射程圏内に捕捉』

 

 

 

今度の放送は前方のモニターから流れてきたようだった。またその内容によると、奴はもうすぐそこまで迫ってきているようだ。

 

 

「ほ、本当に、その迷彩なんとかは機能するんだろうなぁ…?」

 

 

「文句があるなら別の手段を考えてほしいのです。ホロベーダーは本来視覚や聴覚、後は嗅覚なんかを頼りに得物を捕捉する。けどその内の後者二つは宇宙空間では意味をなさず、唯一の頼りである視覚さえ欺ければ完全にやり過ごせる、はず。…………ていうか、あんまり馴れ馴れしく話しかけないでほしいのです。るしあはまだ、お前を信用したわけじゃ―――――」

 

 

飛行物体の接近という放送を受け、ラプラスは不安を募らせる。彼女は未だホロベーダーがどんな存在であるかをほとんど知らず、またこの船の利便性や機能についても全く理解していない。故に、更に迫りつつある脅威やその対応策について僅かな不満を漏らしてしまった。結果、それが気に入らなかったらしいるしあに言葉を詰められる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……だがその時、突然”バチンッ”という音と共に視界が暗闇に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 「ッ!?」 」

 

 

いきなり訪れた暗黒に、ラプラスとるしあは声も上げずその場で硬直する。

そして直後、直ぐに明かりが灯ったことにより先程の現象は『電気が消えていた』のだとわかった。

 

 

「……なんで、いきなり電気が…………まさかッ!」

 

 

しかし、明かりが戻ったことにホッとしている人物などその場にはいなかった。先程訪れた暗闇はその場にあった全ての明かりを奪っており、そして再度灯った今となってもその光度は数秒前のそれに満たない。

 

つまりは、あちこちのモニターやら照明やらが消え、必要最低限のエンジン機構と異常事態を報せる赤い光だけが操舵室内に灯っていた。

 

 

「なんだっ!?何が起きた!!?」

 

 

明らかな異常事態に、ラプラスは動揺を隠せない。

しかし、一早く現状を理解したらしいるしあが静かに言葉を漏らす。

 

 

「……恐らく、船の『主電源』が落ちて予備電源航行に切り替わったのです。状況から考えて、”誰か”が意図的にやったとしか……」

 

 

「なっ!?こんな時に、そんなバカみたいなことするやつが居るのか!?……いやそれよりも、この状態で迷彩機能は使えるのかッ?!」

 

 

「……主電源が落ちている以上、船の殆どの機能は使えない……復旧作業をするにしても、直ぐに戻るとは限らないのです……」

 

 

「あ……」

 

 

その言葉で、ラプラスは瞬時に理解してしまった。自分達の置かれている状況、その危険度。……そして、恐らく次に起こるであろうことも。

 

 

 

 

 

 

 

――――そして、ラプラスの身体は激しい揺れと共に宙へ浮いていた。

 

 

 

 

 

 

 

外が宇宙空間であるせいか、特別大きな音はしなかった。ただ、もはやどこから聞こえてくるのかもわからないビービーという警告音だけが耳をつんざき、地がまるでひっくり返るような勢いで傾きだした。本来想定されていない角度に重力の働く室内は軋み声をあげ、その場に立っていられない程船が揺れる。

 

 

「――――いッたっ!…………もう!何なんだよいきなり!!」

 

 

船が前から押されたせいか、ラプラスは一瞬で後方に体を引っ張られる。しかし直後、今度は勢いよく前方に傾きそのままの姿勢で落下する。重力とその勢いに負け、ゴロゴロと転がりながら正面にあった操作盤に思いきり身体を打ち付けた。……その時、咄嗟に受け身を取ろうとして突き出した右手には力が入らずにいた。

 

 

「……ホロベーダー……」

 

 

また、痛む身体のまま横を見れば同じく前方に転げ落ちたらしいるしあ先輩がそう呟いていた。今何が起きているのか、そんなことはとうに理解している。自分が想定していた最悪の事態、例のホロベーダーがこの船に接近しそして”体当たり”をしてきたのだろう。

 

 

「おいおいおいっ!滅茶苦茶揺れ過ぎだろぉ!!……まさかこの船、簡単に沈んだりしないよな……?」

 

 

先程まで自分たちを支えてくれていた地盤がグラグラと揺れ動き、完全に制御を失っているのを感じる。体感的に、先程の大きな揺れはホロベーダーがぶつかった時の衝撃で、今はその反動で船が振られているといったところだろうか。数秒前までは立ち上れないほど揺れていたが、それも徐々に収まりつつある。……もっとも、この後に二度、三度と先程の衝撃が続くのだろうが……。

 

(まずいまずい、これは完全にまずいっ!!……どうする。最悪、枷を外すべきか……?)

 

そう思ったラプラスは、脱力しきった自分の右手に左手を添えた。

というか、何故今になっていきなりホロベーダーが襲い掛かってきたのだろうか。るしあ先輩の話じゃここにヤツが居ること自体イレギュラーのようだし、少し先でただ泳いでいただけのコイツが突然こちらに興味を示したことにも疑問が湧く。それに、さっき先輩の言っていたた『誰かが意図的に主電源を落とした』という話が本当なのだとしたら……。

 

……いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。想定していた最悪の事態はもう起きてしまっている。ならば、吾輩はholoXの総帥として為すべきことを成さなくてはならない。……枷を外すっていう最終手段は、この世界の為にも極力切りたくないからな。

 

 

「るしあ!ここは一時休戦だっ!!……一緒に協力して、この事態を切り抜けるぞ」

 

 

揺れの収まった地面を踏みしめ、立ち上がったラプラスは横で座り込むるしあに対しそう言い放った。

吾輩がこの任務を通して、最低限こなさなければならない絶対の事項。自分の希望や願いを棒に振るってでも実行しなければならず、場合によっては自らの身を危険に晒してでも守らなければならない自分なりの課題。それは今回作戦に参加した、あるいは捕まっていた部下たちを”全員生きて本部に返す”ことである。この場の指揮官として、holoXの総帥としてこれだけは何としても完遂しなくてはならない。……でなければ、吾輩は信じて送り出してくれた幹部や博士に顔向けできないのだから。

 

 

「……何とかする手立てが、あるの?……ホロベーダーは破壊衝動に満ちていて、こんな海賊船簡単に壊せるのです」

 

 

「無い。吾輩一人じゃ、この状況を切り抜けることが出来ない。……だから言ってるんだ、”一緒に協力しよう”って。ホロベーダーがどんなに強大でも関係ない。吾輩は総帥だから、この船に乗ってる部下全員の命を背負ってるんだ」

 

 

怒りは、確かにある。だがそれと同時に、現状と過去の経験からるしあ先輩は既に”やるせない気持ち”を抱いているようだった。奴らに挑み、死んでいった者を数えきれないほど知っている。そんな悪魔のような存在に、船を壊されるだけでも死んでしまうようなこんな状況では戦いにすらならないと思っているらしい。

 

……だが、そんなことが全てを諦める理由にはならない。今できることを全部、最後の最後までやりきるしかないんだ。

 

 

「立て、手を貸してくれるしあ。お前もまだやらないといけないことがあるはずだ。吾輩は自分も、自分の部下達も、あくあさんやお前だって、何も諦めるつもりは無い。……ここを生き延びて、故郷を取り戻すんだろ」

 

 

「……ッ」

 

 

ラプラスの言葉に、るしあはピクっと反応していた。もはや絶望しかない、挽回の余地などこれっぽっちも無い最悪な状況。全てを諦めるには十分で、過去何十年にも渡って彼女たちは負け続けてきた。

 

……しかし、それでも『悪魔』は何も諦めてなどいなかった。この全宇宙を股に掛ける彼女が、まだやれると信じているらしい。

そして、それを理解したるしあの眼には僅かな光が灯っていた。

 

 

「……わかったのです、ラプラス。……一先ず、協力する」

 

 

「!……あぁ、ありがとう」

 

 

るしあはそう言って、自力でゆっくりと立ち上がる。自分の差し出した手を取ってはくれなかったが、それでもラプラスは彼女がこちらの提案を受け入れたことに何とも言えない嬉しさが浮かんだ。

 

 

「……でも、なにも考えは無いんでしょ。どうするつもり?」

 

 

「あぁ、具体的な作戦は何もない。……が、それでも何とかなる可能性のある方法なら思いついてる。お前が協力してくれるなら尚更な」

 

 

こんな状況下でも、最後まで出来ることをやるしかない。幸い今の吾輩は一人じゃないし、先輩方も協力してくれるというならこれ以上に心強いことは無い。ちゃんとここを皆で生き残って、全員で本部に帰るんだ!

 

 

そう思ったラプラスは、焦燥感に駆られながらも遂に対等な対話が可能になったるしあに自分の考えを話し始めた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

ノイズ交じりの緊急放送の後、突然視界がブラックアウトを起こした。

そしてその直後、省電力モードか何かに切り替わったらしい船内が大きく傾いていた。

 

 

 

 

「――――ッぶな……咄嗟にワイヤー引っ掛けてなかったら、沙花叉もあんたも向こう側に真っ逆さまだったわ」

 

 

 

 

船体がふわりと浮き上がり、嫌な感覚が訪れる。そして、次の瞬間には船の前方側、クロヱ達から見てA棟に位置する方向に船が大きく振れた。結果、先程まで銃撃戦をしていた長い連絡通路が急角度に迫っていた。

 

 

「く、クロヱちゃんっ…!!!……ぜ、絶対その手、離さないでねっ……!!」

 

 

「ちょ、動かないでよっ!ホントに手離すよ!!!」

 

 

しかし、それをいち早く察知したクロヱは機転を利かせ、持っていたワイヤーを適当なところに引っ掛け落下を防いでいた。その際、総帥から『傷つけるな』と言われていたあくあのことをも渋々掴むことに成功していた。本当なら、両手を縛られた彼女は受け身を取ることも出来ず向こう側の壁に叩きつけられていたことだろう。

 

(良かった……幸い、まだ揺れてるけど傾き自体は戻ってきてるみたい……)

 

ほぼ直角に揺れた船体は、徐々に本来の形を取り戻しつつあった。右手で引っ掛けたワイヤー掴んだまま、左手であくあを抱えているこの状況が長く続くことは無いようだ。

 

 

 

 

 

 

 

「……それで、一体何がどうなってんの」

 

 

ようやく揺れも収まり、また次同じことが起きてもいいようにと場所を少し移動。狭く、できるだけ物が少ない部屋に入ることにより再び先程のようなことが起きても対処できるようにしていた。

そして、落ち着いたクロヱはあくあに問う。

 

 

「……って言っても、さっきの飼育員さん達の報告的にも見当はつくけど。……これも、さっきあんたの言ってた”ホロベーダー”の仕業ってことでしょ」

 

 

「スゥー……たぶん…そう、だと思う……」

 

 

未だ拘束中の彼女、湊あくあはそう答えた。

報告に来た部下たちと別れ、事が起きるまでの間に私はこいつから色々なことを聞いていた。ホロベーダーについては勿論、あくあ達宝鐘海賊団が何故海賊行為を行っているのかについてや、コイツ自身の過去についても少しだけ……その上で、今起きている事態を結びつけた結果ようやく沙花叉にも事の重大さと危険度を理解できていた。

 

 

「……なるほど、だからラプラスが焦った顔してたのか」

 

 

そして、事情を知ったからこそわかる総帥の偉大さもあった。ラプラスは、ずっと前から全てを理解していた。あくあ達のことも、ホロベーダーのことも、全てを知った上で行動していたのだ。自分一人で潤羽るしあの下に行くという暴挙に出たのも、沙花叉にここであくあを足止めするように言ったのも、全部は『そんなことをしている場合では無い』から。また、この危機的状況を打破するために彼女らの存在を計算に入れていたに違いない。

 

(さっすが、沙花叉たちの総帥だよね~♪本当は滅茶苦茶危ない状況なんだろうけど、アイツがいるなら多分どーにかなるでしょ)

 

あくあの話を総合すれば、ホロベーダーというのはこの海賊船を壊すくらいはわけないとのことだ。体が大きく破壊衝動を持ち、仮に宇宙空間であっても生存可能な生物かもわからない存在。そんな奴にこんなおんぼろ船を狙われてるなんて、普通に考えれば全滅コース間違いなしなのだが……今、この隊を率いているのが”あの総帥”である以上問題はないんじゃないかと思われる。

 

 

「……クロヱちゃん…なんか、すっごく落ち着いてない…?……あてぃし達、結構マズい状況だと思うんだけど」

 

 

自分達に迫る危機を理解した上で、危機感のないクロヱに対しあくあがそう言った。まあ確かに、妙に落ち着いていることは認める。さっきの揺れの時も即座に対応できていたし、俯き気味のコイツよりかは生き生きとしている自覚はある。沙花叉はそうでもないが、恐らくホロベーダーの脅威を知るあくあ達にとってこの状況は正しく絶望そのものなのだろう。それこそ、ここで全員が死んでもおかしくないと思っているはずだ。

……ラプラス・ダークネスがどんな存在であるかをまだ知らない、可哀想で無知なこいつらは。

 

 

「はぁ?何言ってんの。この船に誰が乗ってると思ってるのさ。……ちょうどいいし、あんたも見てなよ。うちの総帥がどれだけ凄い人なのかってさ」

 

 

不可能を可能にし、全ての事象を操る悪魔。アイツの言うこと、考え、存在はいつでも正しく間違いなど無い。そんな彼女に掛かれば例えその力のほとんどを封印されていようとも、こんな絶望的な状況を打破するくらい造作も無いのだ。むしろ、この現状を最大限利用するくらいのことをやってのけるのだろう。

 

 

「……クロヱちゃん、ラプラスちゃんのこと…すっごく、信じてるんだね」

 

 

「当然でしょ。沙花叉は、アイツに死ねって言われれば喜んで死ねるくらいにはラプラスのことを信じてるよ。…………ほら、噂をすればね♪」

 

 

ラプラスのことを理解しておらず不安を募らせるあくあを尻目に、クロヱはさっき部下から受け取った無線機を取り出していた。そして、それには今”全機対象”の『応答要請』を報せるランプが点灯していた。

 

 

 

 

 

 

 

『―――――この通信を聞いてる、全holoX構成員に告ぐ。……総帥ラプラス・ダークネスより”撤退命令”だ』

 

 

 

 

 

 

 

無線機のスイッチを入れ、通信音声を受け取る。

すると、その先には待ち望んでいた我らの主からの天声が聞こえてきていた。

 

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