転生したらラプラス・ダークネスだった件 作:飽和水溶液_pixiv
前回は、恐れていた最悪の事態であるホロベーダーの襲撃が遂に起こってしまいました。しかも、何者かの仕業により海賊船の『主電源』が落とされた結果、ほとんどの機構が麻痺したり省電力航行に切り替わったりと絶体絶命のピンチを迎えています。
ですが、そんな危機的状況であってもラプラス・ダークネスは何も諦めてなどいません。再び窮地を脱する為の協力をるしあから取り付け、『撤退』の指示を部下達に下します。その真意とは、方法とは、一体どういうものなのでしょうか。ここからはノンストップです!
【追記】
今回の深堀シリーズはお休みです。
ですが、一応本当?の追記を一つ。先日とある事情からこの『転ラプ』の第一話に加筆修正を加えました。今後の内容に関わるようなところや物語の根幹等は変えていませんが、少し読みやすくまた世界観に入りやすくしたつもりです。まだ確認していない方は、よろしければ今一度シリーズの一話をお読みくださいませ。
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「―――この通信を聞いてる、全holoX構成員に告ぐ。……総帥ラプラス・ダークネスより”撤退命令”だ」
無線機を『全機同時通信』の状態にし、それを口元に添えながらラプラスは言葉を繋ぐ。
「……繰り返す。この通信を聞いている全holoX構成員、応答せよ。総帥ラプラス・ダークネスより撤退命令を下す。可能な者は返事をしてくれ」
再度、ラプラスはハッキリとした口調でそう言い放つ。現在この船の中で使用可能な無線機は帰還船の分も含め全部で6つある。それを自分や一緒に連れてきたラプツナズがそれぞれ持っており、この通信を少なくともラプツナズを捜索している者達が聞いているはずだ。
……しかし、最初に返事があったのはラプラスの想定していなかった人物であった。
『―――あーあー、こちら沙花叉。ラプラス聞こえてるよ~』
自分の知る限りこの無線機を持っていないはずの彼女の声が、何故か手元の黒い箱から聞こえてくる。だがそれに疑問を持ちつつも、その声音が明るく常時のそれと遜色がないことから向こうの問題も取り敢えずは解決したのだろうことが伺えた。
そして、それに続き複数の恐らく構成員達だろうと思われる返事も返ってくる。
『ラプラス様!こちら帰還船にて待機中のラプツナズ。通信の方、問題なく聞こえております』
『捕まっていたラプツナズ捜索班、こちらも聞こえています!』
『こちらA棟二階廊下にて交戦中の構成員と合流。聞こえます、ラプラス様!』
それらの通信を聞き、ラプラスはおおよそ皆が無事そうだということに安堵する。先程の海賊船とホロベーダーとの衝突の際に起きた大きな揺れによる被害も気になっていたが、幸い大事に至っている様子は無いようだった。
しかし、それと同時におかしな点もあった。それは、自分が想定していたよりも明らかに返事の声が多かったことにある。確かクロヱあたりは無線機を持ってなかったはずなんだけどな……。
「……あれ?なんか返事の数多くないか?何でクロヱが通信機持ってんの?」
『まあ、色々あってね。取り敢えず全部隊には通信が行き渡るようにしてあるよ!こっちの方がいざって時にラプラスが命令しやすいと思ってさ♪』
え、まじか。有能過ぎだろこいつら。
自分の抱いた疑問に答えてくれたクロヱによって、ラプラスは彼女らの優秀さを再確認する。この際細かいことは気にしない。こんな状況にも関わらず、全構成員達の安否が即座にわかるのはこれ以上ない朗報だ。
「クロヱ、良い判断だ。助かったぞ」
『……♡』
良い働きをしてくれた部下に対し、ラプラスは労いの言葉を忘れない。
そして、彼女らとの通信が可能であることを確認できた総帥はすぐに話を始めた。
「……それじゃあ、皆吾輩の声が聞けてる前提で話を進めるぞ。さっきの揺れなんかも含めて今の状況を理解してない奴もいるだろうが、生憎説明している時間も無いんで手短に要点だけ伝える。…………まず、この海賊船は現在ホロベーダーと呼ばれる外敵生命体に襲われている。さっきの揺れもそいつが原因だ」
少し早口に、捲し立てるようにラプラスは言葉を並べる。現状、詳しい説明をしている時間などあるはずもなく、必要な情報と指示だけを選別しながら伝えるよう努めていた。
「よって、このままさっきの揺れが続けばこの船は確実に沈むことになる。そうなればここに居る連中は敵味方問わず全員まとめてゲームオーバーだ。……だから、吾輩達はこの海賊船を”放棄する”ことにした。既に”協力を取り付けた”潤羽るしあの了承も得ている。宝鐘海賊団二番船に乗っている彼女たちはもう敵じゃない」
そう言ったラプラスは、隣で自分の目には映らぬ何かと話していた彼女にチラッと視線を向けた。相手側の反応はわからないものの、その少女の会話内容を聞くにそちらでも部下たちに指示を出しているようだった。
「――そういうわけだから、直ぐに死体さん達にholoXとの交戦中止を伝えてきて。それと、念のため生存者がいないかの確認と”緊急脱出用ポッド”の点検をして欲しいのです」
「!……!!」
「うん、大丈夫。よろしくね」
船長の指示により動き出す魂の兵隊たち。るしあ先輩の協力を得たことによる大きな恩恵の一つ、それは彼らとの交戦に余力や時間を割かなくても良い点にある。また、吾輩達が急ピッチで練った『ある作戦』の成功にはholoXと宝鐘海賊団両者の共闘が必要不可欠であった。
「……この船を、囮に使う……?」
数分前。
ラプラスから提案されたそれは、現状打破に繋がる僅かな『可能性』であった。
「そうだっ!……理由は知らないが、ホロベーダーはこの船を狙って攻撃して来てる。このままさっきのが続けば、船はあっという間に壊されるだろ!」
先程訪れた大きな衝撃。それは一度には留まらず、大小の差はあれど幾回にも渡ってその揺れが続いていた。恐らくは、ホロベーダーが宇宙空間を旋回しながら何度も船体に体当たりをしているのだろう。今話をしているこの瞬間だって、何かに掴まっていなければまともに立ってすらいられない。
「ッ゛……だから、第一優先の”人命”を守る為にこの船を囮に使うんだ!そして、この船に乗ってる生存者全員をまずはここから逃がすッ!」
軋む音と共に振られる船体にしがみつき、崩れそうになる身体を必死に支えながらラプラスは口を開く。またそれを、彼女は同様の状態にして真剣に話を聞いてくれていた。
「……人命が最優先、はわかるのです。るしあだってあくあさんを”借りている”身として、あの人を守る義務がある!……でも、こんな状況でどうやって人を逃がすの?!」
「吾輩達が乗ってきた帰還用の宇宙船が近くを飛んでる!乗員上限は20人くらいだが、頑張ればなんとか全員乗せられるだろ!……ただ、作戦が長引いてる影響で燃料が足りないから逃げた後でどっかその辺の星に不時着しないといけないけどなッ!」
大きく傾く船体が、何かとぶつかったようだった。
前後左右に振られる力になんとか耐えながら、二人の少女は叫び合う。
「……それなら、ホロベーダーが現れた場所の近くに惑星があるのです!恐らくは人が行っても問題のない大気のある星が!」
るしあにそう言われ、ラプラスは思い出す。そういえば一時間ほど前のラプツナズとの通信で、彼らもそのようなことを言っていたような気がする。『ホロベーダーが”とある惑星”付近を浮遊してる』とかなんとか……よし、そういうことならその作戦で行くしかない!
「上出来だ!るしあ、その線で行こうっ!」
「……わかったのです」
そのように方針が固まった頃、一時的ではあるものの船の揺れが収まっていた。
「それじゃあ……取り敢えず吾輩はすぐに部下達に連絡するぞ。簡単な状況説明とあとは今後の行動について指示を出す為にな。そっちでうちの船に乗るのはお前とあくあさんと……他には?」
懐から取り出した無線機を握りつつ、ラプラスは彼女に尋ねた。我々の乗ってきた宇宙船は速さに特化した型であるため、それほど多くの人を乗せられる程大きくは無い。うちのメンバーが吾輩とクロヱを含めた暗殺部門13人、ラプツナズ7人の計21名であり、それ以上を乗せるとなると安全面や単純な重量問題等で限りが出てきてしまう。だから予め、るしあ先輩側の人員を確認しておかなければならないのだ。
「……いや、それだけなのです。この船には元々”生きている人”はるしあとあの人しか乗っていないから」
少し考えてから、彼女は何かを諦めたようにそう言った。
「え?……ふぁんでっとの連中はいいのか?あいつら、お前の部下なんだろ?」
「あの子たちは……”彼らは”、確かにるしあにとって大切な存在なのです。その身に宿る魂だって、その器たる肉体だって、本当は傷つけたり朽ちさせたりしたくない。…………でも、彼らはあくまで”死者”。もう二度と元の姿で今世を生きることは出来ない、魂だけの儚い存在……だから、今を生きている人より優先する道理は無いのです。大丈夫、彼らならきっとわかってくれるだろうし、仮にこの船が沈み器を維持できなくなったとしても主人であるるしあの下に魂だけは帰ってくる」
『だから、心配いらない……』と、彼女は最後に話していた。
「―――というわけで、お前らはこれから帰還船に居るラプツナズと連携して船に戻れ。負傷者なんかがいる場合は置いて行かず、全員を船に乗せるんだ!」
この船の陥っている現状と、その為の行動についてラプラスは指示を出す。まずはホロベーダーの標的となっているらしいこの海賊船から皆を逃がすのが最優先だ。その後奴がどんな行動を取るかはわからないが、少なくともここに部下全員をいさせるよりは幾らかマシだろう。
「それと……クロヱ。お前、あくあさんを怪我させてないだろうな?」
『……うん、勿論。気にくわないけど、あんたの命令だから……ちゃんと傷一つ無い状態で拘束してるよ』
湊あくあと一緒に居るはずのクロヱに対し、ラプラスは彼女の安否を問う。すると、新人は少々不服そうにもそう答えてくれた。どうやら、しっかりと吾輩の指示を聞いてくれたらしい。
「よし。ならクロヱ、そのまま引き続き今度は”あくあさんを守れ”」
宝鐘海賊団一番船副船長、湊あくあの制圧を命令された沙花叉クロヱ。だが、次に自分の主人から下された指示はその者の『護衛』であった。
そして、当然の様にその内容に疑問を抱いた彼女は声を漏らす。
『……は?……ちょっと、え?こいつを守って……どうすんの?』
「当然、吾輩達の船に乗せて一緒に逃がすんだ。あくあさん達だけこの海賊船に置き去りなんてできないだろーが。ちゃんとお前が、うちの帰還船まであくあさんを送り届けろ」
『……』
総帥からの命令について、クロヱはまたしても疑問に思うことがあった。圧倒的強者である湊あくあを、何故”自分が守り”そして私達の船に乗せる意味があるのかと……。
だが、どんなに理解できずともそれが”ラプラスからの命令”ということであれば、彼女には従う以外の選択肢など無かった。
『……了解、ラプラス。あんたがそうして欲しいなら……沙花叉は言う通りにする』
「あぁ、頼むぞ。…………それと、暗殺部門及びラプツナズの撤退の指揮はクロヱに任せる。全員を船に乗せた後は燃料も無いだろうし、報告にあった近くの惑星に不時着してくれ」
『えっ?待ってよ、現場の指揮って……ラプラスはっ?』
「吾輩は……潤羽るしあとここに残る」
『 『 『 なっ!? 』 』 』
ラプラスの『残る』という発言に、クロヱを含めた部下たち全員が反応していた。しかも、それは驚きと同時にそんなことは看過できないと言いたげな様子であった。
『ちょ、ちょっと、ラプラス!?あんた何考えてんのっ?!ここに残ってたら、あんたも危ないんでしょ!!』
『そうですよラプラス様、そんなこと見過ごせません!』
『むしろ、ラプラス様が最優先に帰還船に乗らなければいけないのに……!!』
『どうしても残るというのであれば、我々も残ります!』
皆が一斉に話し始めたが為に、無線機からはノイズ音が生じる。しかしそんな中でも、部下達からの吾輩を心配するような声は届いていた。まあ確かに、彼女たちの言いたいこともわかる。組織のボスであり、総帥である吾輩が危険と分かっているこの場所に一人留まることを彼女たちが許容できるわけがない。そんなことを言い出せば、下手したら無理やりにでも吾輩を帰りの船に乗せようとすることだろう。
……だが、それでも吾輩にはここでやらなければならないことがあるのだ。
「……まあ、お前達の言い分もわかる。けどな、吾輩は総帥として今回この作戦に参加したお前らを全員生きて本部帰す使命があるんだ。……それに、お前達を逃がすためには最低でも一人はこの船に残らないといけない。この船が完全に制御を失えばホロベーダーが吾輩達の船に狙いを変える可能性もあるし、何より潤羽るしあが”あくあさんを乗せたその船を逃がすため”にここに残るって言ってるんだ。それを、holoXの総帥である吾輩がただ見てるわけにはいかない」
それは、吾輩から提案した作戦についてるしあ先輩が出した考えの一つであった。
『……えっ?ここに残るっ!?』
『そう。るしあ一人だけ、ここに残るのです。……万が一、ホロベーダーがそのあなた達の船に標的を変えないとも限らない。それに、ギリギリまでこの船を制御して何とか時間稼ぎをするのです。最悪、体当たりでもすれば少しは注意を引けるかも』
そう言ったるしあ先輩は、既にその覚悟を決めているようであった。
しかし、吾輩はそんなことを許容するわけにはいかなかった。あくあ先輩は当然として、るしあ先輩の事だって吾輩は助けたいし救いたいと思っている。なのに、ここに彼女一人を置いていくなんて……。
『そ、それはわかるが……それじゃあ、その後お前はどうするつもりなんだよ。まさか、死ぬつもりとか言わないよな…?』
『当然なのです。るしあは端から死ぬ気なんてない。……こんなところで、死んでなんていられない。…………B棟三階から続く船の後方部に、緊急脱出用の小型ポッドがあるのです。細かな方向操作とかはできないけど、近くの惑星ぐらいまでなら問題なく飛べる』
『脱出用ポッド……そんなものがあるのか……』
意外にも、先輩にはちゃんとした考えがあるようであった。確かにるしあ先輩の言う通り、ここに誰かは残って殿を務める必要はあるかもしれない。船の操作もそうであるが、同時に人が一人も居なくなったこの船をホロベーダーが狙い続けてくれるという保証も無い。
……しかし、だからといって先輩をここに一人置いていくのはやはり気が引ける。そもそも、この作戦の恩恵を受けるのは殆ど我々なのだ。仮にこの脱出が上手くいったとして、るしあ先輩達側で助かるのはあくあ先輩を含めた二人だけ。この奮闘が実を結んだとしても、より多くが助かるのは吾輩達holoXの構成員なのである
ならば、やはり彼女一人にこの場を任せるわけにはいかない。
『わかった、るしあ。……なら、吾輩もここに残る』
『はぁ!?なんであんたが……』
『お前がここに一人で残るのを許容できないからだ。二人の方が出来ることもあるかもしれないし、何より吾輩がそうしたくない。……だからここに残る。狭いかもしれないがその脱出用ポッドやらに吾輩も乗せてくれ』
『…………変なやつ……』
一緒に残ると言い出したラプラスに対し、るしあは不思議なものを見るような表情をしていた。
るしあがここに残るなら、ラプラスもまた同じようにして殿を務める。それこそが、holoXの総帥としての彼女の判断であった。
「……吾輩はここに残って、お前達が帰還船に乗って逃げ切るまでの時間を稼ぐ。これは決定事項だ。……だが、まあ安心しろ。吾輩はお前らが全員脱出した後、潤羽るしあと共に緊急時用のポッドで脱出する。だから、お前達が吾輩の安全を気にしてくれるなら速やかに行動しこの船から撤退してくれ」
『 『 『……。』 』 』
そして、最高指揮官であるラプラス・ダークネスのその決断を否定できる者などこの場にはいなかった。どんなに危険であろうとも、仮に組織として最悪の結末を迎えることになろうとも、彼女がそう下せば彼らにとってそれが全てであるから。故に、彼女らの取るべき行動は指示に対する疑問や異議を唱えるのではなく、一刻でも早く主の”望むこと”をするのみであった。
『 『 『 『――――YES MY DARKッ!!!』 』 』 』
無線機より響く彼らのその声を聞き、ラプラスは安堵から笑みがこぼれた。
「全員、直ちに撤退の為行動に移せっ!単独行動は極力避け、皆で帰還船を目指すんだ!脱出口はB棟地下の倉庫。吾輩達が入ってきた場所にもう一度宇宙船から管を通し、この船から脱出しろ!!」
『『『了解ッ!』』』
総帥から下された、『撤退命令』。
それを即座に遂行する為、沙花叉クロヱ率いる彼らは動き出した。
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[宝鐘海賊団二番船 B棟三階連絡通路付近の小部屋]
総帥からの連絡と指示を受けとったクロヱは、引き続き無線機を通信可能状態にしたまま立ち上った。そして、懐からしまっておいたサバイバルナイフを取り出し横に座っていた湊あくあの方に視線を向ける。
「えっ……ちょ、ちょっと、クロヱちゃん…そ、それどうするのっ……!」
「……はぁ~……ったく、なんで沙花叉がこんなやつのお守りしないといけないの……」
そう言ったクロヱは、少し怯えた様子だった彼女に近づきそっと背後に回る。……そして、自ら縛ったワイヤーの繫ぎ目にナイフを差し込み拘束を解いてみせた。
「……?……なんで、手のやつ……とって、くれるの……?」
「は?あんた、さっきの通信聞いてなかったの?……お前を死なせないのが、今の沙花叉の任務なの。私はお前のこと嫌いだけど、ラプラスが助けろって言うなら助けるだけ。……もう、ラプラスの前で失敗なんて出来ないんだから」
旧食堂での一件含め、今回の任務では色々なことがあった。しかし、結果や過程はどうあれその中に私の自己利益を優先した自分勝手な行動による『任務の失敗』が含まれていることに変わりはない。今はまだあいつはあまり触れてこないけど、総帥に銃を向け不信感を抱いてしまったことだって立派な”失態”なのだ。それらを全て挽回し、もう一度ラプラスからの信用や信頼を得るために……私は、今まで以上にご主人様の役に立たなければならない。
「……ありがとう、クロヱちゃん」
「勘違いしないでよ。別にあんたの為じゃないし。……言っとくけど、この先沙花叉は一々お前を助けたりしないから。助かりたいんだったら勝手について来てよね」
「うん、わかった…!……あ、で、でもクロヱちゃん……地下の倉庫の場所、わかるの……?」
「………………案内しろ。」
勢いよく一歩を踏み出したクロヱが、小部屋の扉のノブに手を掛けたところで立ち止まりながらそう言った。
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[ 宝鐘海賊団二番船 B棟三階廊下 ]
衝撃に備えるために入り込んだ適当な部屋を飛び出し、二人の少女は廊下を駆ける。
「飼育員さんたち!聞こえる?そっちの状況を手短に教えて」
また、クロヱは走りながらラプラス以外のholoXの構成員達と連絡を取ろうとしていた。今、彼らへの指揮権は一時的に彼女の下にあり、クロヱはこれを駆使しながら部下全員を無事帰還船に乗せることが任務となっている。その為に、まずはここに居ないメンバーの状況を知る必要があるのだ。
『はい、クロヱ様!こちらラプツナズ回収班、彼らと連携し既にB棟地下の倉庫手前辺りまで来ています。解放したラプツナズのメンバーが少々負傷しているものの、欠員はありません!』
「おっけー、現地に着いたら一先ず待機しといて。……もう一つの方は?」
『は、はい!こちらA棟二階でゾンビ達の足止めを担当していた班ですが……げ、現在道が分かる者がおらず到着に苦戦しています。また、命に別状はないものの歩けない者がいる為移動にも時間がかかっており……』
「なら、負傷者を無理矢理走らせてでも急いで!」
部下達に連絡を取ったクロヱは、順に船内に散っていた構成員の状況を理解する。一方は、ラプラスと一緒にこの船に来たラプツナズを連れている為元々の距離が近いこともあり直ぐにでも目的地に到着できるようだ。しかし、問題なのはもう一つの班。総帥と沙花叉が連絡通路に辿り着く為置いてきた方の彼らは、この船の構造を理解している者がおらず集合に苦戦しているらしい。
しかし、そんな部下達にクロヱは厳しい言葉を掛ける。
『し、しかしっ!全力で走るのが叶わない状態であるから負傷者なのであって……それに、A棟から向かう我々が時間がかかるのは当然では……』
「はぁ!?あんた達、そんな泣き言言える余裕あると思ってんの?!私達が撤退を完了させるのに時間をかければかける程、ラプラスが稼がないといけない時間が増えるって理解してる!!?」
『そ、それはそうですが……』
単純な場所の問題と、その場の隊員の状態の都合上どうしても時間がかかってしまうと訴える彼ら。だが、それをクロヱは一蹴してしまう。今、この瞬間にもホロベーダーはこの船を狙い近くを航行している。そして、ラプラスはそいつから私たちを守るため自ら危険な役回りをこなそうとしているのだ。であれば、アイツの命を最優先したいと思うのであれば沙花叉たちが一秒でも早く帰還船への撤退を完了させなければならない。それこそが、ラプラスをも生かすことに繋がるからだ。
「とにかく、それを忘れずにひたすら走って。手当たり次第に階段を降りつつ、長い廊下を辿れば着くはずだから!…………それと、帰還船のラプツナズは分かってると思うけどこっちの脱出を支援して。全員が船に乗れるように管の開通は勿論、下手に動いてホロベーダーの注目を浴びないようにね!」
『承知致しました、クロヱ様。こちらは既に脱出口の開通作業に入っております。燃料についても、ラプラス様の指示通り近くの惑星への不時着分程ならば残っております』
直属の部下たちに指示を出した後、続いてクロヱは帰還船に乗っているラプツナズと連絡を取る。正直、私は彼らのことをよく知らない。だが非常に優秀であるらしいし、彼らの編成自体はあの組織の参謀であるルイ姉がしているのだ。ならば細かな段取りは任せても問題ないだろうし、大まかにはラプラスの言っていたことを実行してもらえればいい。……それにしても、一時間前にラプラスが船の燃料の残りを気にしてたのってこの為だったのか。流石は総帥って感じ。
「おっけー。じゃあ皆、ラプラスに言われたこと、今沙花叉が言ったこと、出来るだけ速やかに実行して。私達が遅れたせいでラプラスを失うなんて笑えないからね?」
『 『 『了解っ!!』 』 』
クロヱの言葉に彼らがそう言ったのを最後に、一度通信を切る。一応、私は暗殺部門の代表として部下である飼育員さん達のことを高く買っている。今までだって沙花叉の理不尽な命令も何とかこなしてくれていたし、今回だって何とかついてきてくれるだろう。それくらいの信頼は、彼らにも置いているのだ。
そして、連絡を終えたクロヱがふと顔を上げると”隣に誰もいない”ことに気が付く。その事実に一瞬焦りを覚え、直ぐに後ろを振り返った。……すると、そこには何故か既に息の上がっている護衛対象の姿があった。
「……ちょっと、あんたさぁ。急いでるんだからもっと速く走ってよ」
「はぁ、ハァ、はぁ……ちょ、ちょっと、待って……はぁ…クロヱちゃんっ……はぁ、ハァ……も、もう、限…界……」
「はぁ?なんでそんなに息切らしてるワケ?!まだちょっとしか走ってないでしょッ!!」
B棟地下にある倉庫を目指し走るクロヱとあくあ。だが、何故か手練れであるはずの彼女がいとも簡単に息切れを起こしていた。その姿を見て、クロヱは困惑と苛立ちの色を見せる。
「さっきまでの威勢はどこ行ったの?!私を追い詰めた湊あくあはそんなに柔じゃないでしょ!!」
「はぁ、はぁッ……そ、そんなこと言ったって……あてぃし、本当はインドア派だしッ……!」
徐々に離れつつある二人の距離に、クロヱは走りながらため息を溢した。
(ハァ…。なんなのあいつ……こんなやつに少しでも苦戦してたかと思うと、恥ずかしくなってくるんだけど……)
本当なら、このままやつを置いて私一人で地下倉庫を目指してしまいたい。そちらの方が明らかに速いし、ついでに目障りなコイツをここに置き去りにする事だ出来る。……だが、それを私の主様は望んでいないらしい。
「……あーもうっ!世話が焼けるなぁ!!」
突然そう叫んだクロヱは踵を返し、そして後ろを走るあくあを軽々と持ち上げた。
「えっ…えっ!?ちょ、なに、クロヱちゃんっ?!」
「うっさい、黙って運ばれてて。あんたに合わせてたらいつまで経っても逃げられないでしょ!」
あくあを小脇に抱え、およそ女の子を運ぶには適さない方法でクロヱは再度駆けだす。彼女は案内役であり、また総帥の命令によりこの場に置いていくわけにもいかない。時間も無いし、気にくわないけど今はこれが最善手であろう。
「そ、そうだけど……スゥー……あてぃし、猫じゃないんだけど……」
小脇の彼女が何か文句を垂れたようだったが、それは聞かなかったことにした。
こうして、クロヱは若干運ばれ方に不満がありそうなあくあと共にB棟の下層を目指すのであった。