転生したらラプラス・ダークネスだった件   作:飽和水溶液_pixiv

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第61話です。今回は意味深なシーンが満載ですが、それぞれどんな意味があるのだろうと構想を広げつつお楽しみください。筆者の文章力が足らず分かりにくい部分もあるかと思いますが、この辺は物語の根幹にも関わってきそうです。


前回はラプラスとるしあ協力の下、ホロベーダーとの壮絶な攻防が繰り広げていましたね。特にラプ様の見事なエイムが披露されたシーンは圧巻でした。結局その当たり所と威力不足のせいで標的を怯ませる程度の結果しか得られませんでしたが、少なくともクロヱ達を逃がすまでの時間を稼ぐことは出来ました。流石は我らの総帥です。
そして、最後の彼女の言葉。迫る脅威を払い除けるため、再びその楔を解く決意をしたそうです。またしても、あの残虐性に富んだ悪魔が降臨してしまうのでしょうか……。


【追記】
今回の深堀シリーズは、今話しの渦中にいる【ホロベーダー】についてです。現在本編で明かされいる情報を今一度おさらいしておきましょう。

彼らは、その昔〖魔王〗と呼ばれたある者によって創られた。

『繁殖』と『破壊』という二つの欲求を持ち、一度住み着いた場所に末永く滞在する特性もつ。

また、大きく分けて二つの種類が確認されており、その内喰われた魂を素体とし生み出されたものを【ファントム】と呼ぶ。

ファントムの最大の特徴は影のように真っ黒な体皮であり、現在ラプラス達の前に現れているのもこちらの方である。

また、生物として不完全な彼らにとって生きた魂を喰らいファントムを生み出すことが実質的な”繁殖”である。

―――では、何故この喰う側も、喰われる側も存在しない宇宙空間にホロベーダーが居るのか……。

それこそが、今回潤羽るしあが動揺を隠せない最大の理由であった。


↓作者:飽和水溶液のXアカウント。主に執筆状況や気に入ったホロ関連のリポストしてます。
飽和水溶液(@Suiyoueki_suba) https://twitter.com/Suiyoueki_suba



第61話 亡霊

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ある時、ふと目に映る何かがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大きく、丸くて、美しい。

圧倒的熱源に照らされて、光り輝くそれは私の心を今までの何よりも揺さぶった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一体、あれは何なのだろう。

いつからそこにあるのか、どうしてそこにあるのか。全く不思議で、理解の及び難く魅力的なそれ。私の中にあるどんなモノとも比にならず、只々歪な球体であるだけのそれは雄大に眼下に聳えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――この時、私は初めて『欲望』というものを理解していた。

 

今まで抱くことの無かった自意識を、自覚し、意識し、考え、企み、思いながら、想い描いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……”アレ”が、欲しい。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の、私という存在の原始的欲求。

これこそが、【私】の始まりであった。

 

 

 

 

 

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静寂に包まれた、広大な銀河。

恒星、惑星、衛星、星屑……自ら光を放ち、または照らされ、あるいは寄り添う、星々の海原。

 

 

 

生にも、死にも、そんな小さな概念に囚われていることさえ煩わしく、只々有機以外の物質が織り成す無機の空間。故に、有機の起源とも言える『有機体』が存在できる余地など無く、従って『生命』というものはこの場に存在することすら叶わない。

 

 

 

 

 

 

 

……だが、それが全てではない。

有機の及ばぬ、無機と闇だけが支配する世界。当然、何の力も備えも無くその領域に立ち入れば、生物はその存在を否定され極寒或いは灼熱と真空の枷に身を焼かれる。その壁を越えられぬ限り、それに挑むことさえおこがましく図々しいことである。

 

 

 

 

 

 

 

―――では、仮に……その壁を越えられたのなら?

 

 

 

 

 

 

 

生命の越えられぬ絶対の壁、それを超越できる存在があったとすれば。ありとあらゆる縛りをものともしない、まさに生物としての格が違う存在があるのだとすれば……その者は、この世を支配する存在に最も近いと言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――そういえば、忘れてたが…………吾輩、宇宙人だったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生き物の生きられぬ宇宙空間。そこにただ一人、ラプラス・ダークネスという悪魔だけは存在していた。

 

 

 

ホロベーダ―による襲撃を受け、海賊船が完全に崩壊する直前……ラプラスは、もう二度と破るまいと誓っていたその『契約』にまたしても背いてしまった。自らの意思と相棒である鴉の同意の下、不能となった右手についていた枷を外しその身に宿る力を解放したのだ。

 

しかし結果として、その力を行使した故に船からの脱出が叶っていた。しかも、咄嗟に”自分の被っていたヘッドギアを彼女に被せる”ことによって鴉を含めたここで存在できぬ二人を助け出すことにも成功していた。

 

 

「……るしあさん……生きてる、よな。よかった」

 

 

力の入らぬ右手も上手く使い、恐らく衝撃等で気を失ってしまったであろう彼女を姫の様に抱き上げる。ただ凛と華のように眠る彼女からは、確かな温もりと寝息を感じていた。博士の話によれば、このヘッドギアは被れさえすれば多少サイズが違かろうと問題なく使用できるという話だ。しかも要は使用者の周囲に膜を張るような代物らしく、鴉のような小動物であればその範囲内に入れておいても問題が無いらしい。流石は、コヨーテの発明品といえるだろう。

 

 

そう思った悪魔は、眼下に栄える圧倒的な『惑星』に意識が向いていた。目に映る色は一つの茶と、それを囲む広大な青と、至る所に点在する僅かな緑。おおよそ荒野が支配する巨大な一つの大陸と、それを囲む湖に必要最低限の植物が繁茂する星なのだろう。るしあやラプツナズの話では、この星には大気があり人も問題なく生存できるということだった。あわよくば、この星もまた我が手中に収めたいところだ。

 

 

「ん…?……あれは……」

 

 

視界を覆う星の存在の中に、ポツリと浮かぶ屑のような何か。それは、先程まで我々が命を預けていた『海賊船』であった。ホロベーダーという悪魔の使いによる執着を受け、今尚張り付く影に崩壊を続けながら墜ち行く。このまま放っておけば、その内惑星のどこかにでも墜落するのだろう。まあ、今となってはそれもどうでもいい話か。

 

 

「……そんなことよりも……早く、るしあさんを安全なところに運ばないと。このヘッドギアの使用時間には限りがある。あいつ等が指示通りに動いてくれてるならもうあの星に向かってくれてるだろうし、吾輩も急いで向かって……『”私”の手を煩わせてくれた、この女を殺さなければ』」

 

 

静かな闇の中、誰にも届かぬ声を漏らした彼女は直後頭に鈍い痛みを感じていた。

 

『ラプラスの悪魔』を封じる五つの枷。それを破ることは即ち、【奴】をこの宇宙に解き放つことを意味する。かつて大悪魔と恐れられ、全宇宙を我が物にしようとする厄災。それこそが【ラプラス・ダークネス】の正体であり、その魔を封じるための楔がこの枷たちなのだ。

しかし、それを彼女は止む無く解き放ちその力の一部を行使している。結果、それは同時に『昔の私』を開放することを意味し今ラプラスの中には”二人の自分が居る”状態といえる。だが、現状はそんな優しいものでは無く本人からすれば『もう一人の自分に侵食されている』ような感覚であった。

 

 

「あぁ、くそっ……やっぱり、どんなに気を張ってても”混じっちゃう”な。…………とにかく、一刻も早く皆のところに戻ろう」

 

 

気怠げな身体と、霧がかった意識の中ラプラスはそれだけを目的意識に映し出す。私が私に呑まれる前に、早くこの戦いに決着を付け皆の所に帰らなければ。……その後のことは、また後で考えればいい。

 

 

 

 

 

一人の少女を、そっとその身に抱く一人の悪魔。

彼女は、まるで溺れそうな感覚を覚えながらも眼下の惑星を目指し降下を始める。何よりも速く、まるで彗星のような軌道で、私の集めた有象無象の下を目指し進んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

『……それにしても、ホロベーダーとは……また懐かしい名前だ。お前もそう思うだろ?―――――”鴉”。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

堕ちる悪魔が、墜ちる船とすれ違う際……魔性を纏うそんな言葉が、銀河の果てへと零れていた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

総帥へ『撤退完了』の報告をした後、我々は昇降管を即座に切り離し宝鐘海賊団の船から完全に離反した。近くにあった大気のある惑星へと逃れるため、狭い船内に乗員上限いっぱいに人を詰め込み目的地を目指した。……しかし、本人からの希望と直々な命令を尊重した結果、そこに総帥【ラプラス・ダークネス】の姿は無かった。

 

 

「クロヱ様。間もなく当機は、この惑星の大気圏に突入します」

 

 

「……そう」

 

 

上の空で席に座る私に、”彼女”が連れてきた特殊部隊の隊長がそう言った。

 

 

「レーダーによる事前調査によりますと、今のところこの星に知的生命体などの存在は確認できません。ですが大型の哺乳類に類似した生物が生息しているようで、大気中の酸素濃度を見る限り我々がマスク無しに活動しても問題ないようです」

 

 

「ん……」

 

 

相も変わらず空返事をする私に、彼は報告を続ける。私達がこれから不時着しようとしているこの惑星は空気があり、生き物がおり、その上で自分たちが生存していても問題は無いとのことだった。それは大した備えも無い、ましてや敵地から逃げてきたばかりの疲労が溜まっている我々には幸運なことだと言えた。

 

 

……しかし、正直言って今の私の心はそれどころではなかった。

その原因は当然、あの海賊船に置いてきてしまった私のご主人様……いや、沙花叉たちの総帥であるラプラスのことが気が気でなかったからだ。私も撤退時の宇宙船のモニターからホロベーダーに襲われている船の様子を見ていたのだが……ハッキリ言って、あんな状態の海賊船からラプラス達が無事に脱出できるとは思えなかった。確かにあいつは『ラプラスの悪魔』とも言われる宇宙人で、タフさと強さには定評がある。だが今のラプラスはその力のほとんどを封印され、単純な力で見ればそこらの少女と変わり無いのだ。どんなに広い知識を持ち、全てを見通す程の聡明な頭脳があろうとも……物理的にどうにもならない事態が起きた時、彼女が無力なことは避けようがない事実。だからこその私やいろはちゃんの存在なわけだし、沙花叉がどんなに総帥のことを信じていようともあいつにだって”不可能”なことはある。

 

(心配…心配心配、しんぱい……。沙花叉は、あんたなら絶対に大丈夫だって信じてるけど……でも、それは全く心配しないってことじゃないんだよ…………ラプラス……)

 

長期的な任務による疲れからか、クロヱは柄にもなく絶対の信頼をおいているはずの総帥への不安を募らせる。願わくば、『例の枷』を外してでも帰ってきてほしい。そんな切なる望みが、彼女の心を支配していた。

 

 

 

 

 

 

 

惑星の重力場に捕らわれてからしばらくして、宇宙船は相応の衝撃を伴いながら少し開けた平地への着陸を果たす。途中燃料が尽きかけていたものの、優秀なパイロットの操縦により彼女らは不時着時にも負傷者を出すことは無かった。

 

再度外気に触れても問題がないことを確認しつつ、クロヱ率いる一行は恐る恐る船の外へと踏み出す。すると、一気に乾いた風がぶわっと吹き上げ咄嗟に目をつむった。だが、それはこの星に確かな空気が存在することを意味し、また開いた瞳で辺りを見渡してみればそこには一面の荒野が広がっていた。

 

 

「……なんも無い、退屈な星……」

 

 

せめて”海”でもあればよかったのにと、この時の私は場違いな感想を抱いていた。

 

 

「……クロヱ様、よろしいでしょうか?」

 

 

「なに?」

 

 

「一応、周囲の状況や安全は船内からではありますが一通り確認しております。ですが、未だこの星について我々は無知であるためより広範囲の調査を行いたく存じます。またこれからラプラス様がこちらにいらっしゃるでしょうし、不時着時の支援等も出来ればと……主上が不在であるため、代わりに我々に指示を頂けませんか?」

 

 

小さな丘の様になっているところに上り、辺りの景色を眺めるオルカ。そこにラプツナズの隊員たちが近寄ってきて、主上の代わりに指示が欲しいと言ってきた。確かに、あいつの心配ばかりを考え自分たちの行動を疎かにすることなどあってはならない。私達holoXには、ルイ姉考案の『緊急時に止む無く惑星へ不時着したときの対処マニュアル』というものがある。内容はこれっぽっちも覚えてないけど、優秀な私の部下達やラプツナズなら多少のことはは覚えていることだろう。またラプラスが居ない以上、この場の彼らの指揮権は沙花叉にある。私は何処までもラプラスが無事帰ってくるということを信じ、その為に備えなければならない。

 

 

「わかった。……じゃあ、自力で歩けない人以外で暗殺部門とラプツナズは沙花叉のところに集合して。ラプラスが脱出ポッドとかいうのに乗って落ちてくる前に、私達にできることをやるよ」

 

 

「「「了解っ!」」」

 

 

その呼び声に合わせ、彼らは続々と私の周りに集まってくる。負傷者もいるため多少人数は少ないものの、十数人もいればある程度の範囲は探索できるだろう。取り敢えず、当面必要なのは安全と水源の確保と……あとは、長期間の滞在も考えて食糧の確保とかかな?

 

 

などと、クロヱは頭の中にあるはずもない生存マニュアルを開きつつ部下への指示を吟味する。

……そんな折、息を切らしながらやっとの思いで宇宙船から這い出てくるヤツが居た。

 

 

「……あ、あの……クロヱ、ちゃん……」

 

 

搭乗口には階段があるにも関わらず、コテンと転げ落ちてきたのは宿敵【湊あくあ】であった。彼女もまた総帥の指示により私たちの船に同伴させ、この星まで来ていたのだった。

 

 

「……あぁ、あんた生きてたんだ。言っとくけど、お前の面倒を見るのはあの船から宇宙船で脱出するときまでだから。その先まで面倒見るように言われてないし、この後のことなんて知らないよ」

 

 

「え、あ……そ、そうじゃなくって……あの……」

 

 

悪態を付くクロヱに対し、彼女は何かも訴えようとしていた。しかし、声が小さいうえに彼女を見ていると無性に苛立ちを覚える掃除屋は威圧するように声を荒げる。

 

 

「は?聞こえないって、もっとハキハキ喋ってよッ!」

 

 

「ヒッ……だ、だから…その…………”アレ”……」

 

 

怯えた様子の彼女は結局言葉を上手く発せずに、ただ震える指を点に向けているだけであった。

 

……しかし、それにつられて上を見上げた部下たちから次々に驚きの声が上がった。それを不思議に思ったクロヱは、彼らと同じようにして空に視線を移す。すると、皆と同様に彼女の口からも驚愕と安堵が溢れだした。

 

 

「あっ……」

 

 

遥か上空から、何かが降ってくるのが見えた。

否、それは自由落下運動に逆らい、あくまで”自分の意思”による降下を実行していた。この空間における自分とそれ以外の力を完全に掌握し、望むがままの現象を創り出す。その両手に誰かを抱え、舞い降りる【彼女】の姿はまさに天使……いや、私達の『悪魔』であった。

 

 

 

 

 

「――――ラプラス。」

 

 

 

 

 

天より現れしその人の名を、彼女は口にする。その黄色い瞳からは引き込まれてしまいそうな程の闇を感じ、周りを囲む黒く染まってしまった部分がそれを一層助長させる。少し伸びた背と、それに合わせ小さくなった二本の角。変わらない長い髪を棚引かせ、彼女の周囲には紫色の稲妻が走っていた。

 

 

 

―――あぁ……そうだ、この姿だ。

あの時、私を救ってくれた。私に全てを与えてくれた、私を司る”私の悪魔”……ようやく、また会えた。

 

 

 

 

己の中に封印されていた力を解放し、気を失った潤羽るしあを連れたラプラスはゆっくりと降下を続ける。またそれを見ていたクロヱ率いる彼らは直ぐに総帥を出迎えるために、その着地地点となる場所へと集まっていた。

 

そして、地面から少し離れた空中にて悪魔は静止する。

 

 

 

 

「―――クロヱ。」

 

 

 

 

一言、この場において最も信頼の置ける者の名を彼女は口にする。

 

……そう、あなたはいつもそうやって……私の『名前』を呼んでくれる。あなたがくれた、私の大切な名前を。

 

 

「うん、ラプラス。――ここにいるよ」

 

 

名を呼ばれたクロヱは直ぐにそれに応え、悪魔の前へと足を踏み出す。感動なのか、嬉しさなのか、尊さなのか……そんな何を意味するかも分からない涙が瞳に溜まりつつ、それを払いながら彼女を見据えた。

 

 

「……クロヱ。ここに居るので、全員か?……私の記憶より数が少ない気がするが」

 

 

自分達を見下し、言葉を放つラプラス。その口調は氷のように冷たく、普段の彼女のような優しさや温かさは感じられなかった。……だが、それにはちゃんとした事情があることを沙花叉は知っている。私を含めたholoXの四天王たちしか知らない、総帥ラプラスダークネスの秘密。その闇が、彼女の身体を今も尚蝕んでいることを理解していた。

 

 

「ううん。負傷者が何人かいて、その子たちは皆あっちの宇宙船で休ませてるよ。……大丈夫、あんたの命令通り誰も置いてきたりしてないから」

 

 

「…………そうか」

 

 

クロヱの返答に対し、悪魔は自分が聞いたにも関わらずたいした興味が無さそうであった。しかし、そんな彼女を見てもクロヱの中のラプラスへの評価は全くもって揺らぐ様子が無い。むしろ、久しぶりに見た総帥の”真の姿”に惚れ惚れしているほどであった。

 

 

「……な、なぁ……あれが、ラプラス様……か…?」

 

「で、でも、あの服装や角はどうみてもラプラス様でしょ……クロヱ様もそう呼んでたし……」

 

「信じられない……あの可愛らしくて、お優しいラプラス様があのような姿になるなんて……」

 

 

また、そんな二人の会話を遠目で聞いていた部下達の中からも幾つかの声が上がっていた。しかし、その内容のほとんどが『畏怖』を示すものであり恐怖すら感じている者もいた。

 

……もっとも、それも全ては『敬意』という土台の下に立っているのだが。

 

 

 

 

「「「「 か、カッコイイ……!!! 」」」」

 

 

 

 

初めて目にする主の姿に、眷属部下構成員の彼ら彼女らは声を合わせてそう言った。

 

 

「……ねぇ、ラプラス。その抱えてるのって、もしかして……?」

 

 

遠くで部下たちが何かを言っていたのを尻目に、クロヱはラプラスの手元で抱えられている少女が目についた。それは大変見覚えのある人物、憎き宝鐘海賊団二番船船長のクソ魔女【潤羽るしあ】であった。

 

 

「……あぁ、そうだ。色々あってな、こいつはまだ必要だから持ってきた」

 

 

ラプラスはそう言うと、ゆっくりとクロヱの下へと近づいた。そして彼女に両手を出すように指示を出し、その上にそっとるしあの身柄を置いてみせる。その際、クロヱは嫌々ながらも総帥から手渡されるならと受け取らざるを得ないでいた。

 

 

「え、えっ?ちょっと、ラプラス……沙花叉に渡されても困るんだけど……」

 

 

「いや、お前が適任だ。この中で最も私からの信頼を買い、そして私を崇拝するお前がな。……クロヱ。私が今から少し席を外す間、それを持ってろ。これは命令だ」

 

 

「そ、それはいいけどさ……席を外すって……?」

 

 

総帥から『命令』と言われれば、クロヱがそれを拒むことなど無い。だが、その真意についてまでは理解が及ばず彼女は疑問符を浮かべる。

 

 

「……勿論、最後の幕閉めが残ってるからな」

 

 

そう言った悪魔は振り返り、遠く離れた空を見上げた。

 

……すると、そこには飛来する『何か』があった。そして、それがつい数刻前まで自分たちの乗っていた”海賊船”であると気付いたのは、そこに張り付く『黒い影』の存在を認識した時であった。

 

 

 

 

 

「―――来たな、生ける負の遺産め。今更お前らに用は無いんだよ」

 

 

 

 

 

不敵に笑う悪魔は、誰よりも楽しげな表情をしていた。

 

落下を続ける海賊船が、大きな衝撃と音を伴い地面と衝突する。大気圏への突入とその際に生じる空気との摩擦により火災を起こす鉄の残骸と、それに執着でもするように絡み付くホロベーダーをその場の全員が眺めていた。

 

(あれが……ホロベーダー……。宇宙船の中からじゃ背景に隠れて規模感とかよくわからなかったけど、これは……見るからにヤバいやつだね……)

 

その特徴を何と表現すべきか、クロヱは頭を悩ませていた。特質すべき一番の点は、何と言ってもその影のように真っ黒な表皮にある。また形状は一見植物のようなものの、動物のように活発に動き回るところからそういう生物なのだと思える。だが、その上で生物としてはあまりにも不完全なように感じられた。恐らく顔であろう部分はあるものの、そこに目や鼻などは無く口の形をした窪みだけが付いている。そして骨や関節といった概念がないようで、胴体から繋がる幾つかに分かれた触手には手足の区別が無いようだった。

言うなれば、『軟体動物』という表現が最も近いのだろう。

 

 

「……ホロベーダー……」

 

 

そう言ったのは、音もなく隣に立っていた湊あくあだった。

 

 

「あんた達、あんなのと戦ってんだ。……確かに、あれがウヨウヨ居る星を取り返すなんて無理な話だわ」

 

 

「……」

 

 

あくあ達にどれほどの兵力があるのかは知らないが、そもそもあれを人の力でどうこうしようというのが間違っている気がする。ただ大きいというだけでも脅威なのに、それが凶暴かつ大勢で住み着いている惑星を取り戻そうとするなど正気の沙汰とは思えない。湊あくあがどんなに優秀な暗殺者であろと持ち運べる程度の火器でどうにかなる相手じゃないし、私だって精々1度に数体を討ち取るので精一杯だろう。

……まあ、それでもウチには単独でも問題なく無双できそうなのが約二人ほどいるんですケド。

 

 

「おい。この場に居る私の眷属ども、喜べ。……今から、お前らは”奇跡”を目の当たりにする。滅多に見られない素晴らしきラプラス様の力を、存分に刮目せよ」

 

 

私達の悪魔はそう言うと、一切の恐れも躊躇もなく荒れ狂う影の下へと向かった。菫色の魔力が尾を引き、まるで流れ星の様に迫る彼女の姿にその場にいた者達全員がただ見惚れていた。

 

********************

 

 

自分の記憶にある限り、自力で空を飛んだことなど無かった。

勿論、誰かと戦ったことも魔法だの魔力だのを使ったことも無い。いや、少なくともその経験を自分は”覚えていなかった”。

 

 

 

だが、それでも今だけはその全てを掌握していると言えた。まるで使い慣れた手足の様に、元々その身に宿っていた力として自由に行使することが叶っていた。故に、眼下でうねる悪魔の使いを見据えたところで負の感情を抱くことは全く無かった。

 

 

「……相変わらず無礼な奴だ。私を見た途端、血相変えて喰おうとしてくるとはな」

 

 

海賊船の様態をした宇宙船を犯し尽くし、無残に散らばった欠片の上に佇む影。それがこちらの存在に気付いた瞬間、体躯を大きく膨らましながら大口を開け迫って来た。まるでこの私を丸呑みにでもしようとしているようで、その知能の低さと単純さに心底呆れさせられる。

 

 

 

 

 

 

『―――――ッ!!!』

 

 

 

 

 

 

「ははっ。そんなに物欲しそうにしてもお前じゃ私を喰いきれないぞ。ましてやお前は【ファントム】。”本体に寄生された”だけの魂ごときが私に牙を向けるな」

 

 

目の前の獲物目掛け飛びついてくる木偶の攻撃を、悪魔はいなしつつ飛び回る。例えるならじゃれる動物と遊んでやるように、彼女は破壊の衝動に駆られる彼を弄んでいた。

 

 

 

『ッ!!……ッ!!……ッ!!!』

 

 

 

「ほら、どうした?もっと頑張れよ。昔のお前はこんなもんじゃなかっただろうに。……まあ、所詮そこらの脆弱な魂を素体にしてる個体か。本家本元のホロベーダーとは比べ物にならないな」

 

 

相手に通じていないと理解しつつ、悪魔は挑発じみた言葉を並べる。しかし彼は唸り声すら上げずに、只々目の前でチラつく何かに喰らい付こうと必死であった。

 

 

 

 

 

 

 

そんな攻防とも言えないような追いかけっこを始め数分。突然、悪魔はその動きをピタッと止めた。

 

 

「……飽きた」

 

 

そう言った彼女は先程まで浮かべていた笑みを崩し、スッと我に返っていた。そして再び高く飛び上り、地を見下しながら左手を相手に突き出す。

 

 

 

『……!……!…………ッ!!』

 

 

 

「……まあ、ちょっとした暇潰しにはなったな。懐かしい感覚も味わえたし、お前の命も無駄じゃ無かった訳だ。……それじゃあ、もう逝っていいぞ」

 

 

私の身を喰らう為、下界から手を伸ばし私に至らんとする傲慢な魂。その存在は既に他の奴に喰われた後だというのに、健気にもその生まれた意味を全うしようとする害意。心底鬱陶しいだけの、愚かにも私の前に立ちはだかってしまった魔王の子ら。

 

……故に、その無駄な勤勉さには敬意すら示さず、その生涯の全てに嘲りをくれてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――お前らの役目はもう終わったんだ。……失せろ、亡霊」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔力を宿す悪魔の御手を指針に、膨大な超自然的力が放出される。それは彼女自身の『色』を模した体裁を成しており、淡い炎の様に燃えるそれは即座に破裂し彼の身体を呑み込んだ。

 

 

――そして直後、地鳴りを起こすほどの衝撃が大地を走る。

 

 

そこにあった大気を含む全てが爆ぜ、土煙を巻き起こしながら星を削る。

 

ホロベーダーどころか、そこら一帯を消し去る程の魔法が悪魔の手から零れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、舞い上がった砂や埃が再び落下し荒野の景観に落ち着きを取り戻す。

 

しかしそこに彼の姿は跡形も無く、唯一近くにあった船の残骸が僅かばかり残っているだけであった。

 

 

「―――。」

 

 

何もなくなってしまった大地を見つめ、悪魔は思う。既に存在しないはずの彼らがこの場に現れ、そして私に滅ぼされた事実について。そんな偶然がそうあるはずもなく、これは明らかに『誰かの意思』が介入していた。

 

 

「……まだ、〖魔王〗の意思を受け継ぐ奴が居たのか。……或いは、もう一人の私への当てつけか。どっちにしたって、近くに関係者が居るってわけだ。鬱陶しい」

 

 

彼女の放つその言葉に、どんな意味があるのか。

それを理解できる者はこの世界にごく僅かであった。

 

 

 

 

 

「…………おい、気を付けろ。敵は、お前のすぐ傍に居る。私が私の目的を達するまで、勝手に死ぬんじゃないぞ。――――”もう一人の”、ラプラスダークネス」

 

 

 

 

 

その身に宿した半身に、悪魔は警告を示す。我が望みを叶えるため、それまでは滅ぶことが無いようにと。

 

 

 

 

 

 

 

―――それを、【彼女】は夢うつつながらに聞いていた。

 

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