転生したらラプラス・ダークネスだった件   作:飽和水溶液_pixiv

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第64話です。少し先まで書いていたら投稿が遅くなってしまいました。ですが約二カ月ぶりに投稿した前回が思ったよりも読まれていて感動したので、今回は頑張って書きました。あと二話ほど一通り書き終えていますので、次回の投稿は早めかと思います。


前回は、ようやくひと段落したラプ様一行の動向を見ることが出来ました。不時着した未知の惑星での生存圏を確保する暗殺部門に、本部への連絡取りや護衛の見張りをしていたラプツナズ。どうやら彼らによれば、るしあもあくたんも無事なようですね。そして数時間にも及ぶ格闘の末、遂に繋がった本部との通信では意外な事実が明らかになりました。既に任務から帰還していたござるの登場に始まり、耳を塞ぎたくなるほど大泣きしている博士、そして声だけでもわかる程落ち込むルイ姉達に一体何があったのでしょうか。回想によれば、どうやらこより氏が任務から帰還してきた宇宙船内で何やら不思議に光る『箱』を見つけたようですが……ここからはテンポよく話を進めるつもりですので、ぜひお楽しみください。


【追記】
今回の深堀シリーズはお休みです。
ですが新しい試みとして、本編の裏側の一幕を載せておきます。今回はラプ様とクロヱが話していた最中、一方その頃小型宇宙船では何があったのかというものです。主にあくたんと、ラプツナズ所属のラプ様を護衛していた女隊員との会話です。彼女が『怯えている』と表現していた裏では、実はこんな感じのことが起こっていました。

―――――

「失礼します。湊あくあさん、お体の調子は如何ですか?」

「えっ……あっ……」

「一応クロヱ様がではありますが、我々はラプラス様からあなたを護衛するよう仰せつかっています。そして、その命令は未だ解除されていない為継続すべきだと私は思っています」

「あ…う……えっ……スゥー」

「よって、引き続き我々が面倒を見させていただきます。無論、主上が”必要”と言われた潤羽るしあも同様です。我々は今未知の惑星に不時着し遭難状態ではありますが、何か困ったことがあれば直ぐに申し付けてください。出来る限りのことはさせていただきます」

「う、ん…あっ……アハ、ハ……」

(ん?おかしいですね、全く話が通じません……疲労か何かで言語能力が低下しているのでしょうか?)

―――――

勿論、この時のあくたんは元気そのものでした。


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第64話 海賊たちの謀

 

 

「……という訳で、見つかったのがコレなんだけど……ルイ姉はどう思う?」

 

 

朝食を済ませ、早速午前中の仕事に取り掛かろうとしていた私のところに持ち込まれた報告は……またしても、嫌な想像を膨らませるものであった。

 

 

私、【鷹嶺ルイ】は昨日に判明した暗殺部門の一件に対応する為本部内を駆けまわっていた。しかし、それも現場に向かった総帥一行を送り出す頃にはある程度落ち着き、後は吉報を待つだけとなっていた。そして、変わらず訪れた今日については惑星調査任務に赴いている【風真いろは】率いる戦闘斥候部隊を迎えに行きつつ、いつも通りの業務をこなそうとしてしていた。

 

そんな折、突然私の仕事部屋に研究部門所属の構成員が訪ねてきた。しかも酷く慌てた様子で、私に来てほしいという。どうやらこよりからの指示のようで、呼びに来たその者の焦ったところを見るに事件性のある何かが起こったのだと思ったのだが……その予想は、大いに当たっていると言えた。先日からholoXを騒がせる存在、【宝鐘海賊団】。そんな彼女たちと接触し、帰還してきた宇宙船の中からあろうことか『発信機』が発見されたというのだ。しかも、何やら非科学的な光を放っているようでその正体についても未だ分かっていない。

 

ただ一つ、確かなことはほんの少し前まで敵性組織に我らの拠点の位置を観測されていたということだった。

 

 

「発信機自体の構造はたいして複雑でもないし、もう無効化してあるんだけど……この箱が薄く紫色に光ってる理由が分からなくてさ。少なくとも科学的には説明できない現象だし、そういう装飾って言う割には何だか禍々しくって……」

 

 

彼女はそう言いながら、正面の机の上に置かれた小さな機械質の箱を指差した。今私の目の前にあるこれがその宇宙船の中で見つかった発信機らしく、一見すれば複雑なボタンの付いていない無線機のようであった。しかしその外装を纏うようにぼんやりとした灯りが漂い、それが何か不思議な力を秘めているような異質さを感じさせる。しかもその光について、組織の頭脳である彼女が言うにはどうやら科学的側面からでは説明できない現象らしい。つまりは、彼女の管轄外である超自然的現象……”魔法”か何かが関係している代物ということなのだろう。

 

 

「なるほど……確かに、気になるわね。これを船に仕込んだ理由は私達の拠点の場所を特定する為だろうけど、もしかしたらそれ以外にも何か理由があるのかも……」

 

 

「そうだよね……ねぇルイ姉、これどうしたらいいかな?」

 

 

こよりにそう言われたルイは、顎に手を当て思考を巡らせた。

科学では説明のつかない、超自然的な現象。それを人は魔法・魔力と呼んだり、或いは霊力、超能力と呼んだりする。この広い宇宙にはそう言った現象やそのような力を扱える者達がおり、現にこの組織にも極少数ではあるもののそれらの使用者が在籍している。しかし魔力については未だ分からないことの方が多く、また原理を理解しても素質の無い者には扱えぬ代物であるため本部内でその分野を大きく発展させることは出来ていない。更には、holoXにおけるそう言った分野の第一人者が総帥自身であるためこの発信機から放たれる光の正体等について早急に対応するのは難しいだろう。

 

だが、この箱の発信機としての機能はこよりの手により既に失われているとのことだ。であれば、少なくとも即効性の危険は回避されているだろうし一先ず安全ではあるだろう。ならこの箱は厳重に保管し、任務から帰って来た総帥に調べて貰えれば何かが分かるかもしれない。

 

 

「……とりあえず無効化できてるなら、特に危険性も無いと思うわ。こより、これは証拠品として保管しておいてくれる?後でラプに見て貰うから」

 

 

「うん、わかった!……助手くん、お願い出来る?」

 

 

「了解しました、こより様」

 

 

こよりは私の指示を受け、その元発信機の箱を自分の部下に渡していた。こういった機械的な物の扱いは研究部門の人達が一番長けているだろうし、彼女らに任せておけば問題ないだろう。

 

 

「……でも、これでラプが何故あんなことを言ったのかが分かったわね」

 

 

その言葉は、総帥がこの本部を出る前にこよりに直々に命じた指示の内容についてを示していた。本来彼女の仕事ではない壊れた宇宙船の修理、それをわざわざこよりに頼んだのを見るあたりあの子はこういった可能性に既に気がついていたのだろう。確かに、よく考えてみれば”敢えて逃がした”構成員達の船に何の細工も加えないというのは些か希望的観測が過ぎると思う。あの子がどこまでその真相に近づいていたのかはわからないが、少なくとも警戒を必要とするくらいには確信があったのだ。流石は、ラプラスの悪魔というべきだろう。

 

 

「うん、そうだね。ラプちゃんが珍しい指示を出すからおかしいと思って、船内を探してみたらアレを見つけたの。……気付けて良かった。ラプちゃんがさりげなく教えてくれてなかったら、普通に修理班に任せてそれで終わりだったかも」

 

 

「なら、これは総帥から私達への教訓ね。ラプはこの可能性に気づいておきながら、それをはっきりと口にしなかった……それは、今後は私達に自力で気付かせる為だったのかもしれないわ。これからは任務から帰ってきた宇宙船内のチェックも整備工程に加えましょう」

 

 

危く、私達は間違いを犯してしまうところであった。あの発信機の存在にずっと気が付かず、放置した結果この場所を宝鐘海賊団に知られ攻め込まれる可能性だってゼロだったわけでは無い。勿論ただの賊に後れを取るような備えをしてはいないが、そもそもそれを事前に防げず総帥が不在であるこの期に敵に攻められるということ自体が問題なのだ。この本部を空ける間のことを、あの子は私に託してくれている。それは私への絶対の信頼と、大きな期待を持ってのことに違いない。この組織に所属する他の誰にも任せられない、あの子の右腕である私にだけ許されたその立場と責任。だからこそ、総帥がいないこの時にほんの些細な不祥事すら起こすわけにはいかないのだ。

 

 

「……これは、ラプの言っていたもう一つの命令の方もしっかり守っておかないといけないわ」

 

 

総帥が本部を離れる際、残る私達に下した命令がもう一つあった。それは、『アジト内の警備の強化』である。本来、万が一の事態に備え警備を強化すべきは今我らを支えている総本部、つまりは母艦自体を対象とすべきである。だがラプラスはそのような指示はせず、わざわざ”アジト内”と場所を指定していた。最初は言い間違いか何かかと思ったが、こよりの件を見る限りあの命令にもそれ相応の意味があるのだろう。

 

――もしかしたら、あのラプラス・ダークネスが敢えて口に出して言うほどに警戒すべき何かが起こるのかもしれない。

 

 

「あー、アジト内の警備を強化しておけってやつ?」

 

 

「そうよ。今はただ見張りを増やしてるだけなんだけど……ちゃんと人員を割いて、警戒態勢を布くことにするわ」

 

 

「ふーん…………ねぇルイルイ、それこよにも手伝わせてくれない?」

 

 

突然、彼女がそんなことを言い出した。組織内でも”モノ創り”を担当する博衣こよりは、その天才的な頭脳を持って他とは比べ物にならない程こと開発・研究の分野で大きな活躍をしてくれている。だが、それはholoXの『後衛職』を担っているということであり、そんな彼女が警備とはいえ戦闘が起こる可能性のある前衛に赴くのは不向きであると言わざるを得ない。

 

……しかし、そう思った私に向けられる彼女の瞳は真剣そのものであった。自分の立場、実力を理解した上で出来ることを精一杯やりたい……と、そう訴えかけている。まあ先日のフレンズ王国の一件のこともあって、彼女なりに組織の役に立ちたいと思っているのだろう。なら、深く戦いに介入しないという条件であればこよりにも何か役割を与えてもいいのかもしれない。それこそ他の四天王が不在である今、現場で私の代わりに構成員達に指示を出すことはある意味彼女にしか出来ない仕事だ。

 

 

「……わかったわこより。なら、あなたにはアジト内の警備にあたる構成員達の指揮を任せる。必要な数の隊員を戦闘斥候部門と暗殺部門から割くから、彼らと連携してこのアジトをラプが戻るまで守ってみせて。……ただし、何かあった際は必ず私に連絡しあなたは交戦自体には参加しないこと。いいわね?」

 

 

「うん、了解っ!頑張る!」

 

 

仕事を任されたのが嬉しいのか、彼女は大きな声でそう答えていた。

 

 

 

 

 

―――しかし、この時の私は”自分の無知”についてもっと疑問を持つべきであった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

――とある惑星の廃墟。

そこで彼女は、自分たちが予め撒いておいた”種”の行く末を見守っていた。

 

 

 

「......holoXはようやく、発信機の存在に気付いたみたいですネ」

 

 

 

半壊した家屋の隙間から真ん丸に光る衛星が顔を覗かせ、その明かりに包まれながら黄昏る女性が一人。古い木製の廃テーブルの上に地図や資料やらを乱雑に広げ、更にそれらを押しつぶすように置かれた”高度な機械盤”を眺めていた。

 

 

「発見までに思ったよりも時間を稼げて意外でした。今までにこういった手法の攻撃を受けたことが無いんですかね?或いは、他に何か問題が起きていたとか?」

 

 

宇宙を航海する海の賊、その長である【宝鐘マリン】が誰に聞かせるでもなくそう呟いていた。

 

ここは、ある知的生命体が群れを成し暮らしていた集合住宅跡地。その一角に巨大な海賊船を着陸させ、彼女らは食糧等の宇宙航海に必要な物資を物色していた。どういうわけでこの”巨大な街”が滅んだのかは知らないが、少なくともそこに残された資源や僅かな文明の欠片は窮地に陥る我々の故郷にとっては有益なものであった。

 

 

また、それらの運び込み等を完全に部下達に任せ、こと船長宝鐘マリンは自分達が直面しているもう一つの問題に対してその動向を窺っていた。先日直接的な争いにまで発展した、【秘密結社holoX】との抗争。それに一部かつ、一時的な勝利とも言えぬ『一応の主導権』を手に入れた彼女たちは、敢えて解放したholoXの宇宙船にある仕掛けを施していた。それはこの集団の参謀的立ち位置を務める二番船船長【潤羽るしあ】の助言によるもので、恐らく負傷者を連れ本部に帰るであろう彼らの船に『発信機』を取り付けたのだ。

 

……しかも、”魔術を扱える【彼女】の加護を宿した『ソレ』”を添えて。

 

 

「でも、まだもう一つの仕掛けの方には気が付いて無いみたいです。……まあ、予めそのカラクリを知ってるでもなければ疑いすらしないだろうですケド」

 

 

彼女はそう言うと、大切な相棒から預かっていた”一匹の蝶”をその指先に留まらせた。その蝶は飼い主曰く、『特定の魔力を帯びた物体に反応し羽ばたいていく性質』を持っているらしい。それを少々可哀想と思いつつヒモで何かと結び付け、その上で自由に飛ばせてやればその魔力源がどの方向に存在するかを報せてくれるというわけだ。

 

つまり、彼女達宝鐘海賊団は大元の発信機を無効化された今この瞬間にすら、悪の組織秘密結社holoXのアジトの位置を知ることが出来ていたのだった。

 

 

「あの悪名高いholoX相手に二段構えの仕掛けとか、あなたはホント恐ろしいことを言い出しますね…………”るしあ”」

 

 

再度蝶を籠の中に収め、慈しむような瞳で彼女は遠く離れた地で捕虜を護送しているであろう『相棒』の名を口にしていた。あの子は今、唯一holoXに対し優位に立ち回ることが出来るであろう『駒』の護衛を務めてくれている。【カノジョ】の存在こそが私達とあの組織を繋ぐ架け橋であり、またそれのお陰で今まで誰も成しえなかった”策略の悪魔が支配する集団を出し抜ける”可能性があるのだった。

……まあもっとも、それもこれも全ては私の交渉の腕に掛かっているわけなのだが。

 

 

船長、宝鐘マリンは自分に課せられた役目を再度認識しつつその重要性を理解していた。そんな折、彼女の下に一人の女の子がパタパタと駆け寄ってくる。

 

 

 

「……お~い、マリリ~ン!荷物の運び込み終わったぉ~!」

 

 

 

みずみずしくて甘い果実のような色の髪を震わせながら、どこか抜けた様子の少女【さくらみこ】がそう言った。彼女は我らが宝鐘海賊団の三番船にて副船長を務めており、本人の言い分通り私が執務を行っている間代わりに物資運び入れを手伝ってくれていた。と言ってもそのほとんどが力仕事である関係上、実際に荷物を運んだのは彼女の部下である【35P】達なのだろうが。

 

 

「あぁ、ありがとうございます。今回は結構収穫があったので大変でしたよね?お陰で助かりました」

 

 

「ふふーん、あれぐらいヨユーだよ!何たってみこは、スーパーエリート巫女なんだからっ!」

 

 

そう言って聞くからに頭の悪そうな単語を並べつつ、彼女は身体の豊満な部分を主張させていた。実際のところ彼女がどの程度搬入作業に貢献していたのかは知らないが、偉そうに部下たちに指示を出すもそれを全く聞いてもらえずにあしらわれている姿が容易に目に浮かぶ。35P達のみこさんに対する愛情は疑う余地も無いことだが、愛がある上のムチを容赦なくたたき込む人たちでもある。それこそ彼女が泣きべそをかきながら、彼らに野次を飛ばされつつ一人で仕事をしていた……なんてことは、流石に【一味】達もいたわけだし無いだろうと信じたい。

 

 

 

「よく言うよ。ほんっとに小さな荷物しか運べなくて、35P達に煽られまくった挙句泣いてたくせに」

 

 

 

あまりにも想定内過ぎる無慈悲な真実が、続いて近寄ってきた”彼女”によって明かされていた。

 

 

「おぉぉい星街ぃ!?バラすなよぉ!!」

 

 

「だって事実じゃん。最初こそ意気込んで木箱運んでたけど、直ぐに『おもぉいにぇ……』って言って役立たずになってたし」

 

 

明らかに相手を小馬鹿にしたような声真似を挟みつつ、そう言ってみこさんを糾弾するのは同じく宝鐘海賊団三番船で船長を務める【星街すいせい】であった。我々から見て”異星人の末裔”にあたる彼女は生まれつき高い運動能力を有しており、うちの中でも限りなく上位に属する『戦闘員』である。しかしその性格には少々難があり、面倒な仕事をサボることなど日常茶飯事。加えて提督である私の命令も全く聞かない始末であり、気まぐれでしか頼りにならない大変な問題児であった。

 

 

「そ、そんなこと無いケドぉ?!ちゃんと働けてたもん!!……っていうか、すいちゃんには言われたくないんですけどっ!みこたちが一生懸命運んでる間、すいちゃんずっとその辺で寝てたじゃんっ!!」

 

 

「私無駄な重労働とかしたくないし。すいちゃんは”勝てそうな相手”と戦う専門で、それ以外のやりたくないことはやらないの!」

 

 

「わがままかっ!少しは悪びれろよぉ!!」

 

 

相も変わらず、赤色と青色の少女二人が他愛もないことで言い争っていた。そんな光景はもう見慣れてしまったもので、今更わざわざ労力をはたいて止めようとも思ない。しかし、この後に大切な『仕事』を控える私達はそろそろ動き出さなければならなかった。

 

 

「はいはい二人とも、誰が頑張ったにしても出発の準備が出来てるなら何でもいいです。もうこの星にも用は無いですし、直ぐにでもここを立ちますよ」

 

 

パンパンと手を叩き、いがみ合う二人の注意をこちらへと向ける。我々の今後の任務としては、こちらが捕らえている【沙花叉クロヱ】及び捕虜数十名のカードを拵え秘密結社holoXに交渉という名の脅迫を図ること。最初は沙花叉クロヱ等を今回のholoXとのいざこざを不問にする為に使おうと思っていたのだが、生憎こちらの状況が少し変わってしまったのだ。私達が現在住み着いている衛星【コメット】にて、”侵略者の幼体が発見される”というとても無視できない大事件が発生した。これを受け、我らが”女王様”はただならぬ焦燥感をお抱きになったらしい。結果穏便に済まそうと思っていた今回の件の進路を変更し、捕えた捕虜を人質にholoXに『無条件の協力』を取り付けることになったのだ。

 

そして、その交渉大臣として抜擢されたのがこの私宝鐘マリンというわけである。女王様曰く『なんかヤベー奴らって聞いてるけど、マリンなら多分いけるっしょ!大丈夫、死んだら骨くらいは拾いに行ってあげるぺこ!』だと。全くもって無責任なものだ。

 

 

「お、遂にあの組織に攻め込むの?私楽しみにしてたんだよねー、少しは面白そうな奴いるかな?この前捕まえた”アレ”は期待外れだったし」

 

 

「う、うーん、それはどうだろ……おめー強いしサイコパスだし、すいちゃんが満足できる相手がいるかどうか……」

 

 

「いやいやすいちゃんみこち、そもそも私達holoXと真っ正面から戦うつもりありませんからね?あくまで”交渉”ですよ、わかってます?これからの船長たちの働きが、惑星ふぁんたじあやコメット星の運命を左右すると言っても過言じゃないんですから」

 

 

我々宝鐘海賊団を含め、現在衛星コメットに住む全ての人々の願い。それは、約100年前に襲来した侵略者【ホロベーダー】から惑星【ふぁんたじあ】を取り戻すことである。奴らに故郷を蹂躙され、行き場を失った私達”ふぁんたじあ人”は古来より交流のあったコメット星人と共存していく他なかった。しかし、何とか生き残ったありとあらゆる種族の共同体が死力を尽くし、出来る限りの手段を用いて戦ったうえでも未だ侵略者から星一つを奪還することは叶っていない。それどころか長期化する争いに物資や資源がついて行かず、結果私達のような他の惑星を襲う集団が組織されてしまっているわけなのだ。

 

加えて、昨日判明したホロベーダーの幼体が確認されたという事件。もしその情報に間違いがないのであれば、”一定の場所に長期的に住み着く”という我々の仮説的なホロベーダーの生態が覆されることになる。或いは、いよいよをもって奴らがふぁんたじあという既に枯れた星に飽きてくれたのか……だが、そのどちらが真実であったとしても『今回初めてコメット星にホロベーダーが現れた』という事実に変わりはない。それがコメット星を次の侵略対象としたのか、はたまた私達の認識が間違っていたのかすら定かではないが、今後似たようなことが多発すればいよいよをもって私達は全ての住処を失う事になる。

つまり、長きに渡って繰り返されたこの戦いは私達の『敗北』という形で幕を閉じることになるのだ。

 

 

……だからこそ、もはや手段を選んでいられないという女王の意見には賛同せざるを得なかった。どんな藁にも泥船にも縋る思いで、使えるものは何でも使うべきである。それが、例え全宇宙を恐れさせる『悪の組織』だったとしても、私達は危険な橋を矢継ぎ早に渡らなければならないのだった。

 

 

 

 

「―――星街すいせいさん、さくらみこさん、聞いてください。そして一番船、三番船の乗組員全員に通達を。……これから、我々宝鐘海賊団は秘密結社holoXの総本部を目指し舵を切りますっ!!」

 

 

 

 

組織との交渉、そんな大役が自分に務まるのかと私は不安だった。

でも、その全ては私の大切な人達を助けることに繋がる。もし今回の件で我々宝鐘海賊団が何か大きなものを得られたのであれば、それはきっとあの子たちの『願い』の実現に少しは近づけるはずなのだ。……その事実があるなら、私宝鐘マリンは幾らだって自分の命を懸けられる。

 

そう心の中で決意を固め、彼女は覚悟を完了させる。あの秘密結社holoXを陥れるため、今までに培った自分の全てをぶつけようと。そんな想いを、目の前に立つ部下二人に言い放った。

 

 

「ん~?どうしたのマリリン、急に”さん”付けで呼んだりして。それに、そんな大声出さなくても聞こえてるにぇ」

 

 

「察しなよみこち、今マリンはカッコつけてんだから。こーゆー時は適当にハーイって返事しとけばいいの」

 

 

そんな熱い気持ちを胸に、部下二人も同じ心持ちなのだと彼女は理解する。その空気の読めない返事すら、きっといつも通りコトを運ぼうという彼女らなりの考えあってのことなのだろう。……だからその、生暖かい目を向けるのをやめてください。

 

 

「……二人とも、本当に事の重大さ分かってるんですかぁ?……」

 

 

こうして、彼女ら宝鐘海賊団は廃墟の星を後にし導きの蝶に連られて『策略の悪魔』の城を目指すのであった。

 

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