転生したらラプラス・ダークネスだった件   作:飽和水溶液_pixiv

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第65話です。最近また更新を再開しましたが、想定よりも多くの方に読んで頂けているようで大変嬉しいです。お陰様で創作意欲が爆発しております。時間の許す限り、今後も張り切って書いていきたいと思います。


前回は、久しぶりに宝鐘マリン及びmiCometの二人が登場しましたね。どうやら彼女たちの話によると、holoXの宇宙船に発信機を仕掛けたのは潤羽るしあの入れ知恵だったようです。しかもそれには彼女の魔力が宿っているらしく、不思議な蝶がその道を示してくれる代物だとか。相変わらずるしあのやることは初見殺しが多いですね。目に映らない部下に、透明化していても魂が見える権能。更には破棄以外に対処のしようがない魔のカラクリ箱というわけです。そんな集団に目を付けられてしまったholoXは今後どうなってしまうのか……。(筆者的に、みこちを書いてる時が一番楽しくて書きやすいです)


【追記】
今回の深堀シリーズはお休みです。

↓作者:飽和水溶液のXアカウント。主に執筆状況や気に入ったホロ関連のリポストしてます。
飽和水溶液(@Suiyoueki_suba) https://twitter.com/Suiyoueki_suba


第65話 女幹部と女船長

 

広大な宇宙を、ただひたすらに突き進む。

鱗粉を纏う蝶の羽ばたきに誘われて、二隻の船はとある地点を目指していた。

 

 

 

 

 

……そして、彼女らは目の当たりにする。

明らかに人工的で、高次元な球体。まるで小さな小さな惑星と見紛う様態に、その上から薄い空気の膜を履かせた巨大な宇宙船を。

 

 

 

 

「これが、秘密結社holoXの”総本部”……なるほど、これは凄いですね…」

 

 

 

 

海賊船内に属する操舵室、そこで【宝鐘マリン】は外界の様子が映し出されたモニターに目を向けながらそう言っていた。

 

真っ暗な宇宙空間にポツンと浮かぶ小惑星。勿論実際の惑星とは比べるまでも無いだろうが、それでも今自分たちの乗る船とは比べ物にならない程大きい金属の塊。いや、その詳しい素材についてすら見当が付かず、傍から見れば通常の惑星同様に植物由来の緑色や水源由来の青色の表面などが見て取れる。また所々細い道のような線や区分けされた四角い建物群があるため、この目の前に漂う物体は正しく”小型の人工惑星”と呼べる代物なのだろうと推測できた。

 

 

「……船長たちは、こんなのを相手にしようとしてたんですか……今更怖気づいてきました」

 

 

改めて、悪魔の住まう魔城の強大さにマリンは圧倒される。もはや我々が彼女らの存在に干渉することすらおこがましく、そして自分たちが如何に矮小で弱い存在であるかを思い知らされていた。本当に、私なんかに彼女らを欺く事なんて……。

 

 

 

『―――なにマリン、ビビってんの?wあれくらい大したこと無いでしょ、いつものそこらの惑星と変わんないって』

 

 

 

だが、そんな彼女の心中に反し眼前の存在に全く動じていない者がいた。それはスピーカーを通じ、近くで平行航行をしている三番船からの通信音声。その持ち主である星街すいせいは、この巨大な宇宙船を見た上ですらその毅然とした態度を崩すことは無かった。

 

 

「べ、別にビビってませんよ。……ただちょっと、びっくりしただけなんだワ」

 

 

『ふーん、あっそ。てっきりマリンもるしあみたいに臆病者なのかと思ったよ』

 

 

こんな時にも変わらず、すいちゃんは本当に口が悪い。だが、今回ばかりはそのいつも通りの彼女の態度に助けられている部分もあるのかもしれない。いざという時に頼りになるとも言い切れないが、少なくともこちら側の戦力である以上すいちゃんの存在は私の心に安心感をもたらしてくれる。……ただ、本当にお願いだから問題事だけは起こさないでほしい。

 

 

『大丈夫だよマリン!みこたちが付いてるし、絶対勝てるにぇっ!』

 

 

「だから戦いに来たわけじゃないんですって……でも、ありがとうございます」

 

 

すいちゃんに続き自信たっぷりにそう言うみこちに対し、私はより一層の不安を募らせた。この人、本当にここに来た目的を理解してるんですかね?まあ、純粋に元気づけてくれてるところは素直に嬉しいですけど……。

 

 

そう思ったマリンは強張った身体の筋肉を解す為、一度息を大きく吸って吐き出していた。そして、そんな彼女の様子を見て一人の部下が駆け寄ってくる。

 

「……船長、そろそろ通信可能圏内に入りますぜ。放送自体もいつでもいけます」

 

報告に来たその男は、私の直属の部下である【宝鐘の一味】の一人であった。彼の言う『放送』とは、ズバリ私達宝鐘海賊団には秘密結社holoXに対し”対話する意思がある”という旨を伝えるためのものであった。我々が滅ぼされる危険を伴ってまでholoXの本部に赴いた理由、それは先日捕らえた捕虜沙花叉クロヱ等を人質に交渉を図るためであった。その具体的な内容は、主に彼女らが保有する兵器や物資の譲渡、また資源豊富な惑星についての情報の提示、そして今後一切我々の活動の邪魔をしないという不干渉条約を結ばせることである。勿論その全ての条件を相手に呑ませられるわけでは無いだろうし、そもそも対話が可能であるのかすら不確定であろう。しかし、そうであっても上からの命令が下っている以上私達はやらねばならない。まず第一段階である”holoXの本部への接近”は現状ある程度成功出来ている。そして次に行うのが幾つかの回線・周波を用いた一定範囲内に対する全体放送。その信号を向こう側がキャッチし、その上で何かしらの返答と共に会話を可能な状態とすることが作戦の第二段階であった。

 

 

「あ、ありがとうございます”キミたち”。今のところ組織の方に動きは無いですか?」

 

 

「ヘイ、こちらには確実に気が付いているとは思いますが今はまだ様子見を決め込んでるみたいで。正直我々の存在を知られた時点で撃ち落とされてもおかしくないと思ってたんですがね」

 

 

「それについては船長も同意見でした。確実に敵視しているであろう弱小組織の船が突然接近してくれば、普通問答無用で攻撃を仕掛けてくるはずですが……」

 

 

だが、現時点ではholoXにそのような動きは見られなかった。それは私が想定していた以上にこちらの持つ『捕虜』のカードが強く作用している影響か、はたまた何かの罠か。その真実は明らかでは無いものの、既に組織の射程圏内に入った上で攻撃を受けていない辺り少なくとも次の瞬間にいきなり攻撃を受けるなんてことは無いだろう。……当然、それも想像の域を出ない話ではあるが。

 

 

「さて……では、始めますか。全船、船長の指示があるまでは勝手に動かないように。また主砲の先を標的から逸らし敵対心がないことを示しつつ、いつでも撤退できるよう舵から手を放さないでください」

 

 

「「「了解っ!」」」

 

 

宝鐘海賊団一番船船長、宝鐘マリン提督はその場にいた一味全員及び通信が繋がったままの三番船内にそう指示を出す。攻撃の矛先を眼前の人口惑星に向けないよう注意し、こちらに戦う意思は無くあくまで対話をしに来たという姿勢を見せる。だがその上で、いざという時即座にこの場から離れられるよう備えていた。

 

 

「二人も、ちゃんと船長の言いつけ守ってくださいね?……ただし、この先は何が起きるかわかりません。一応holoXとの会話をそちらにも聞こえるようにしておきますが、いざって時は自分達の判断で動いてください」

 

 

『は~い、任せてマリリンっ!』

 

 

『何でもいいから、早く始めてよー』

 

 

スピーカー越しに二人にも確認を取りつつ、マリンは通信用のマイクの前まで移動する。

 

(交渉は掴みが肝心。一応状況的にはこちらが主導権を握っているのだから、ある程度は優位な態度で……)

 

どう話を切り出し、会話の流れを奪うべきかと彼女は脳内を巡らせる。齢17……”と数十年”。その永い生涯で培った交渉術は今この時の為にあったのだと信じて。

 

 

「!……船長!複数の信号を確認、あちらさんもウチとコンタクトを取りたがってるみたいですぜ!」

 

 

「そりゃ、これだけ接近して音沙汰なしならシビレを切らしてきますよね。……わかりました、こちらも電波を返してください」

 

 

射程圏内に入ったよそ者を、そう長いこと放置してくれはしないだろう。だが向こうから連絡を寄越してくれるということは、少なくともholoXにも我々と対話する意思はあるということだ。これはもしかしたら、上手く交渉のテーブルに着けるかもしれない。

 

そう思ったマリンは、放送可能状態となったマイクに向かって堂々と言葉を発したのだった。

 

 

 

 

 

『―――――Ahoy!holoXの皆さん、聞こえておりますでしょーかぁー?こちら宝鐘海賊団船長の宝鐘マリンですぅー!』

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

任務から帰還した宇宙船にて発信機が発見されてから、更に翌日。

我々holoXは今、前代未聞の危機的状況に陥っていた。

 

 

 

 

「ルイ様ッ!報告します!!現在急速に母艦に接近する宇宙船を二隻確認、その特徴から恐らく件の『宝鐘海賊団』の船であるかと!!」

 

 

「なんですってッ!?」

 

 

 

 

秘密結社holoX総本部中枢指令室。突如上がった一人の構成員の報告により、場は一瞬にして緊張感に包まれた。先日から組織を騒がせている宇宙の賊、宝鐘海賊団。それが何故、今この”最悪なタイミング”でこの場に現れたのだろうかと。

 

(宝鐘海賊団の襲撃…!?なんでこの場所がわかって……いやそれよりも、今彼女たちと交戦になるのはマズいっ!!)

 

総司令官ラプラス・ダークネスの代理、中央に置かれた王座兼司令官席に座る【鷹嶺ルイ】の心情は穏やかでは無かった。

”何故宝鐘海賊団に本部の居場所がバレたのか”、第一に浮かぶ疑問がそれだ。昨日宇宙船内で発見された発信機については、既に科学班の第一人者博衣こよりによってその効力は失われているはず。更に、念には念をと通信妨害障壁に囲われた室内にそれは保管されているはずだ。……にも関わらず、彼女たちがここに居るというのは一体どういうワケなのか。

 

また、もう一つ浮かぶ疑問が”宝鐘海賊団はどこまでを知っているのか”ということ。現在、holoXの総本部では総帥ラプラス・ダークネスが不在である。それは普段外出任務に行きたがらない彼女の性格的に珍しい状況であり、かつ他組織からの攻撃を受ける時期としては最悪なタイミングであると言えた。加えて、ラプを乗せた暗殺部門救出隊の宇宙船とは数時間前から連絡が付いていない。潜入・救出任務という性質上それ自体はあり得ることではあるのだが、それが結果緊急事態に対して彼女からの指示を得られないという現状を作り出していた。

 

そして、それらを踏まえた上で宝鐘海賊団はどこまで事態を把握しているのだろうか。総帥と、組織内最大戦力である【風真いろは】の不在、更に先に捕らわれた暗殺部門の救出にラプ自身が向かっていること……どれだけの算段を付け、このような行為に及んでいるというのか。

 

(……知らなかったわ……あの子が居ないだけで、こんなに不安になるなんて……)

 

上記に加え、沙花叉クロヱを含めた『人質』達を取られている集団に総本部の位置を知られるという前代未聞の”失態”。こんな状況を自分一人で解決しなければいけないとなれば、流石の彼女であっても不安と恐怖を禁じえなかった。

 

「ルイ様!変わらず、宝鐘海賊団と思わしき船が接近を続けていますが……如何いたしましょうか…?」

 

冷や汗を浮かべつつ、思考を巡らせるだけで何も言わぬ彼女に構成員は問う。真っ直ぐこちらを目指し進んでいるらしい辺り、このままでは両軍の接触は避けられない。だが総帥一行の現状が分からないうえ、ラプの考えすら読めない以上軽率に彼女たちに攻撃を仕掛けてもよいのだろうか。そんな考えを一通りなぞった後に、大幹部鷹嶺ルイは言葉を発する。

 

 

「……連絡官、宝鐘海賊団に対し応答要請のシグナルを送りなさい。他各員は臨戦態勢により待機、私が合図したらいつでも墜せるように準備を」

 

 

「「「了解しましたっ!!」」」

 

 

こういう時こそ誰よりも冷静に、戦況を正確に見て指示を出すのが私の役目。不安要素は多々あるものの、兎に角彼女たちがここに現れた目的を知ることを第一とする。そんなことは絶対にないと理解しているが、億が一にも暗殺部門救出に向かったラプ達すらも捕まり捕虜とされている可能性だってあるかもしれない。またフレンズ王国の一件同様に、あの子にはあの子なりの宝鐘海賊団の”使い道”を用意しているかもしれないのだ。故に、いきなり交戦するのではなく相手の出方を伺うのが最善だろう。

 

 

「ねぇあなた、こよりにこのことを報告して来てくれる?……それと、こっちに向かってくれてるはずのいろは達にも連絡を取ってみて。いざって時、あの子が居れば大抵のことは何とかなるだろうから」

 

 

「了解しました、ルイ様」

 

 

考えをまとめたルイは構成員達にテキパキと指示を出していく。またすぐ傍で仕えていた秘書にも声をかけ、他二人の四天王への報告を命じた。調査任務に出ている風真いろは率いる戦闘斥候部門も現在こちらに向かって帰還途中のはずであり、最後に取った連絡的にそろそろ到着したっておかしくはない。彼女の実力はあの一部の力を解放したラプに匹敵するほどで、仮に宝鐘海賊団と戦いになったとしてもいろはが居れば何ら問題は無いだろうと思われる。

 

 

「!……ルイ様、対象の宇宙船より放送通信を確認しました。どうやらあちらは我々との対話を希望しているようです」

 

 

「対話…?……相手も様子見のつもり?それとも何かの陽動?」

 

 

広範囲放送による我々との対話の意思表示。確かに、宝鐘海賊団が冷静な判断のできる集団であればたった二隻の船でこの本部を攻め落としに来たとは考えにくい。だが、その思考が働くのであれば今の自分たちの行動が一歩間違えれば即撃墜されてもおかしくない危険を伴っていることも理解しているはず……それらを解った上での接近、対話の要請であればそれにはやはり何かしらの意図や理由があるのだろう。……あるいは、我々を陥れる『算段』でもあるのか。

 

しかし、それを考慮しても結局のところ相手の目的を探らねば対処の仕様が無い。

 

 

「……連絡官、あの船から発せられている放送の音声を再生してください。それと、こちらも通信をする準備をして。まずは彼女たちがここへ何しに来たのかを明らかにするわ」

 

 

「了解です!」

 

 

大幹部鷹嶺ルイの指示により、連絡官は数秒前より繰り返し行われていた宝鐘海賊団船長を名乗る女性の音声を再生する。

しかし、それから聞こえた声音は随分と呑気でおおよそ敵に向けて発せられるものとしては相応しくないものであった。

 

 

 

 

 

『―――――ぁのー、聞こえてますー?Ahoyー?……ちょ、ちょっとキミたち、これ本当に放送出来てるんですか??』

 

 

 

 

 

あまりに相手からの応答がなく、また微塵も反応を起こさない我々に対し放送の主は思わずその不安を声に出してしまっているようだった。その部分だけを聞くと、あれだけ警戒していた自分が馬鹿らしくなってくる。こいつら何しに来たんだ。

 

 

「あー……ル、ルイ様、一応通信の準備が整っておりますが……」

 

 

「……はぁ……向こうの声が聞こえる状態にしたまま、私の声を放送なさい」

 

 

緊張感のない相手側のせいで、つられてこちらまで気が緩みそうになってしまっていた。もしかして、宝鐘海賊団とは私が思っている以上に頭が残念な集団なのだろうか。ここに来たのだって本当は大した備えも無く、ただのそこらの賊らしく我々の物資を奪いに来ただけとか……いや、流石にそれは彼女たちを舐めすぎね。

 

予想以上に気の抜けた相手の態度により、ルイは敵への僅かな『侮り』が生まれようとしていた。しかし、それを何かの間違いだと自分を律するよう努める。そして、彼女は用意されたマイクに向かって言葉を発した。

 

 

 

『―――聞こえていますよ、そちらは宝鐘海賊団ですね。我々holoXに何か御用ですか?』

 

 

 

放送機器を通し、ルイは宝鐘海賊団へと語りかける。

……しかしそれは、先程の思考を無意識に引きずっていたせいか少々口を滑らせてしまっていた。

 

 

『あ…き、聞こえてたんですかっ!なら最初から言ってくださいよハズカシィ…………でも、やっぱり”ソコ”がholoXのアジトってことで間違いないみたいですね』

 

 

相手のその言葉を聞き、私は『しまった』と思った。

 

 

『しかも、私達を直ぐに宝鐘海賊団であると認識するとは……随分と”認知”してくれてるみたいですね、光栄です』

 

 

続けざまにそう言う彼女に、ルイは言葉を返せないでいた。

 

私はなんて馬鹿なんだ。どうやったのかは知らないが、この広大な宇宙で我々のアジトの居場所を特定できるような奴が愚か者なわけが無いだろう。頭が残念なのは私だ。もっと警戒を強めなければ、さっきのは明らかな失言だった。相手がどこまで知っているかわからないと分かっていたはずなのに、私は愚かにも自ら情報を喋ってしまったのだ。このままでは……コイツに、会話のペースを奪われる。

 

 

『……当然でしょう、我々に喧嘩を売ってきたのですから。ちゃんと敵対組織として認識してますよ』

 

 

『なるほど、”敵対組織”ですか……にしてはholoXの射程圏内に入っているであろう私達はまだ生きてるみたいですね。どうして即座に攻撃を仕掛けてこないんでしょう。もしかして、何か気になる事でもあるんですか?…………例えば、我々に捕まった”お仲間のこと”とか』

 

 

白々しくそう言う相手に、ルイは眉間に皺を寄せた。嫌らしい言い方をするものだ。自分達がわざと逃がした半数の者達から事情が割れている以上、こちらが捕らわれた構成員のことを気にするのは当たり前のことだ。それを敢えて口に出し強調することで、こっちがそれを理由に直ぐに攻撃を仕掛けられないことを確認しつつ私の心を揺さぶってきている。……そして何より、それに相手の狙い通りに動揺してしまっている自分が居ることが何よりも恨めしかった。

 

 

『…白々しいですね。あなた達が逃がしたウチの構成員から情報を得ていることは分かっているでしょうに。……もう一度聞きます。あなた方がここに来た目的は何ですか?答えによってはこちらも直ぐに攻撃を仕掛けますが』

 

 

『あらあらあら、アナタは随分とせっかちみたいですネ。まずはお話しましょうよ?”船長”はまだあなたの名前も聞いてないんですが』

 

 

『船長』と名乗る彼女はそう言って、変わらずこちらを探る姿勢を崩さないでいた。自分を船長と呼んでいるあたり、コイツが宝鐘海賊団の提督”宝鐘マリン”で間違いないだろう。となれば、大将自ら敵地に乗り込んできたという訳だ。その大胆不敵さはラプにも通ずるものがあるが、果てしてそこにあの子の様な膨大な策略等が伴っているのかどうか……。

 

 

 

『……ほら、まずはお互い自己紹介しましょうよ。私は宝鐘海賊団船長の宝鐘マリンです。……あなたは?』

 

 

 

まるでこちらの不安と焦燥を見透かしたように、彼女はハッキリとした口調で言い放つ。それに対し、ルイは薄っすらと冷や汗を浮かべていた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

********************

 

[宝鐘海賊団三番船 操舵室]

 

二つの組織、その代表である二人の女性の対話が始まった頃。それを船長の指示で聞かされていた”彼女ら”は、それには目もくれずにとある『遊び』を画策しようとしていた。

 

 

(……ねぇねぇみこち、私いいこと思いついたんだけど)ヒソヒソ

 

 

その部屋の中央後部に設置された司令官兼船長席。そこに偉そうにふんぞり返っている彼女は、隣に立つ悪友にこっそりと声をかける。

 

 

(ん?どうしたのすいちゃん)

 

 

(あのさ、あの偉そうに喋ってるholoXっての……もし”倒せたら”滅茶苦茶気持ちよさそうじゃない?)

 

 

そう言った青い髪の少女は、心底楽しそうに悪い顔を浮かべていた。しかしその様子を見て、桃色の髪の少女は何かを察したように小さなため息をつく。

 

 

(すいちゃんさぁ……何企んでるのか知らないけど、勝手なことしたらマリンに怒られるよ?)

 

 

(別に大したことじゃないよ。ただそれが出来たら、こんなまどろっこしいことする必要なくなるじゃんって話。マリンの欲しがってた物資も手に入って、星の皆も助かって、ついでに私も楽しい……ほら、良いことばっかりでしょ?すいちゃんってばあったまイイー!)

 

 

(それ、九割最後の理由だけだろ。みこにはわかってんでぇ)

 

 

小声ではしゃぐ”魔人”に対し、少女は呆れた様子であった。

……しかし、そんな相手を説得させる一言を彼女は言い放つ。

 

 

(まぁまぁ、この際私の動機なんてどうでもいいじゃん。上手くいけば皆が幸せになるのは事実なんだし。……それにみこちもさ、よく考えてみなよ。あれだけでかい組織なら絶対沢山溜め込んでると思うよ?…………お金とか、”金銀財宝”をさ?)

 

 

(…ッ!)

 

 

その言葉が鶴の一声であった。

途端、桃色の少女は態度を変え彼女に乗っかることを決意したのであった。

 

 

(目の前に金目の物があるってぇーのに、それを奪わない海賊がどこにいるにぇっ!!)

 

 

(その意気でしょ!さっすがみこち♪)

 

 

こうして、二人の少女の意見はあまりにも悪い方向で合致してしまう。そして、自分らの上司から言い渡された指示も忘れ彼女たちは船の舵を握ったのであった。

 

********************

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

『…………私は……秘密結社holoXの大幹部、鷹嶺ルイと申します』

 

 

 

マイクを介し話す相手の名を聞き、彼女はほんの少しの”安堵”を感じていた。それは、今交渉を進める上で図ろうとしている相手が”あの悪魔”でないと理解したからであった。

 

(て…手汗やっべー!!……船長こういうの緊張しいでダメなんですって……!!)

 

大幹部による評価に反し、本人は内心でこれ以上ないほどの心臓の鼓動を感じていた。

 

 

『鷹嶺ルイ、さんですね。私はてっきり、その知的な話し方からあなたが例の”ラプラス・ダークネスさん”かと思いましたよ』

 

 

そう、彼女は思っていた。

突然現れた我々に即座に攻撃を仕掛けない辺り、恐らく私達が敢えて逃がした”彼ら”から色々と報告を受けていたのだろう。そして、そこには未だ捕らえられているもう半数の仲間が居るということも知られているはずだ。また得体の知れない私達宝鐘海賊団の情報や規模を知るためというのが、組織の魔の手が届くこの領域で船長たちが今も尚生存できている理由だろう。

 

 

『……そんなわけないでしょう。何故無礼な訪問をするあなた方の為に、わざわざ総帥にお時間を取らせる必要があるんですか?』

 

 

だが、それらを考慮した上でこの通信に出てくる相手があの噂に聞く『太古の悪魔』【ラプラス・ダークネス】である可能性があった。この秘密結社holoXという組織を一代で築き上げ、そして束ねる宇宙一の策略家。悪魔と呼ばれるにふさわしき御力と、それを抜きにしても脅威となる膨大な知識を持つと言われる彼女らの総大将。そんな者が通信の相手として出てきたとあれば、とても船長などに交渉大臣が務まるとは思えなかった。

 

しかし、彼女……鷹嶺ルイさんの口ぶりから、本当にこの会話の相手はラプラス・ダークネス本人では無いだろうことが窺えた。それは私に少しばかりの安心感を与え、同時に自分たちに対する彼女らの警戒度を理解させられた。人質を取る宝鐘海賊団相手に、かつ本拠地まで乗り込んで来た船長たちに対し総帥自らではなく部下を仕向けるその姿勢。まさかコレだけ大きな組織で”総帥が長時間本部を空けるなんてことは無い”だろうし、であれば船長たちごときその処理は部下に任せておけば大丈夫という考えなのだろう。……或いは、完全に任せられるだけこの鷹嶺ルイさんというのに信頼をおいているのか。

 

まあどちらにしたって、彼女たちholoXがこの状況においても船長たちを取るに足らない相手であると思っていることに変わりはない。

 

 

『そうですか、残念です。噂に聞く大悪魔さんに一目お会いしたかったのですが……まあ、それはまた次の機会にでも』

 

 

そんな次など微塵も望んでいなかったが、それを悟られぬよう彼女は目一杯の強がりを見せる。向こうが我々を下に見続けていることは明白であるが、それでもこちらが彼女らの『仲間』というカードを持っていることに変わりはないのだ。その唯一holoXに対し優位に立てる要素を大切にしつつ、その切り方には慎重にならなければならない。

 

 

『……さぁ、名は名乗りました。そろそろ聞かせてもらえますか?あなた方の目的について』

 

 

『鷹嶺ルイさんは本当にせっかちさんですね。はいはいわかりました、きちんとお話しますよ。……私達が何故ここに来たのか』

 

 

シビレを切らしてしまいそうな鷹嶺ルイに内心焦りを抱きつつ、マリンは表向き毅然とした態度を崩さなかった。そして、一呼吸置きつつようやく本題に乗り出そうと息巻く。大丈夫、大丈夫、自分ならうまくやれると唱えながら。

 

 

 

 

 

 

 

―――その時、視界の端に一隻の船がひょこっと顔を出していた。

 

 

 

 

 

 

 

それは前方に据え置かれた、外の様子を映し出す巨大なスクリーンに突如として現れた。自分達の船と、眼前に聳え栄える秘密結社holoXの巨大な母艦。その両者の間に、大変見覚えのある”海賊船”が真っ直ぐ前進していくのが見えた。あれ……あの船、何考えているんですか?あのまま行けば、holoXのアジトに突っ込んじゃいますケド……。

 

 

『ッ!……止まりなさいっ!!宝鐘海賊団、何のつもりっ?!!』

 

 

またそれに合わせ、いきなり通信相手からの叫び声が鳴り響いた。一体何事かと思ったが、それは恐らく早く話の続きをしろという催促だったのだろう。船長も早く仕事を終わらせて帰りたいですし、とっとと交渉を進めてしまいましょう。

 

 

 

 

 

『―――――もう鷹嶺ルイさん、そんなに焦らなくてもちゃんと私達の目的について話しますから。いいですか?私達からの要求はただ一つ、我々の捕らえた人質と引き換えにあなた方の兵器をわたたたただだだだぁぁぁぁぁあああっっっ!?!?!?』

 

 

 

 

 

平然と、数秒前からその瞳に映る”現実”から逃げ、その認識を拒否し続けていた。しかし、ふと冷静になり彼女は事態の大きさに気が付く。たった今、holoXの巨大な本部目掛け真っ直ぐ突っ込んで行ったのが”自分の管轄である船の一隻”であると。

 

 

『ちょっっっ……すいちゃん!?みこちっ!?何やってるんですかぁぁぁ!?!?!?』

 

 

未だholoXと通信が繋がっていることすら忘れ、彼女は只々魂の叫びを吐き出した。

 

 

 

しかし、その声も虚しく『宝鐘海賊団三番船』が秘密結社holoXの本部に向けまるで隕石の様に侵攻したのであった。

 

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