転生したらラプラス・ダークネスだった件 作:飽和水溶液_pixiv
さて、前回は遂に宝鐘海賊団の本隊がholoXの総本部への接近を果たしましたね。まさかの、ラプ様が奮闘していた裏で既にルイ姉たちはマリン船長らと会っていたようです(直接顔を合わせてはいませんが)。しかしその空気感は重苦しく、とても穏便に済むような雰囲気ではありません。勿論故郷での問題があり今回のことも大きくしたくないマリン船長と、総帥が不在ゆえに問題を起こせないルイ姉という両者ではありますが、そんな彼女らの願いが届くことは……どうやら無いようです。その原因は言わずもがな、船長の命令を無視しholoXに勝手に攻撃を仕掛けようとする”あのコンビ”のせいみたいですね。尚、前回が転ラプ世界初のholoXメンバーとその推しホロメンとの邂逅でした。(マリ×ルイ)
【追記】
今回の深堀シリーズもお休みです。本編が長いので許してください。
↓作者:飽和水溶液のXアカウント。主に執筆状況や気に入ったホロ関連のリポストしてます。
飽和水溶液(@Suiyoueki_suba) https://twitter.com/Suiyoueki_suba
たった二隻で作られた隊列を抜け、その船は一直線に飛来する。それはまるで彗星の如く現れた宇宙の原石の様に、いと荘厳で堂々とした立ち振る舞いであった。
「す、”すいせい船長”っ!本当によろしかったんですか!?この船ごとholoXの本部に突っ込むなんて……あとでマリン船長に怒られるんじゃ」
「はぁ?あんた35Pのくせにすいちゃんに意見する気?いいから黙って言う通りにしな!……大丈夫、責任は全部みこちが取ってくれるから」
「おぉおいっ!!?」
舵を握り船を操る乗組員。またその者の肩に腕を回し、大層偉そうに命令を下す船長【星街すいせい】。更に謂れのない罪と責任を擦り付けられそうになっていた副船長【さくらみこ】がその船には乗っていた。彼女らはこの集団の長である一番船船長【宝鐘マリン】からの言いつけを破り、眼前に構える秘密結社holoXのアジトへと『突撃攻撃』を仕掛けようとしていた。
「にしても……星街、おめーはまた危ないことを言い出すにぇ。付き合わされるみこたちの気持ちにもなれよ」
「はーん?みこちも乗り気だったでしょーが。てか、そんなことよりちゃんと捕まってた方がいいよ?…………無防備に突っ込んでくる相手に、”向こうも黙ってない”だろうから」
星街すいせいがそう言った直後、船が大きく傾いた。
それは前方の巨大な母艦から放出された”光の矢”を避けるためであり、その作用により唯一衝撃に備えていなかったさくらみこは船内をゴロゴロと転がる。
「うぉっ!?……ぁいだぁっ!!!」
「ひゃっほー!やるじゃん35P、その調子で頑張って避けな?あんなの一撃でも食らったら船が落ちるよ」
間一髪、holoXからの攻撃を避けた操舵手に対し彼女は称賛の声を上げる。現在その船は提督からの命令を無視し、またholoXの制止すら振り切って直進している。そうすれば当然、降りかかる火の粉を振り払おうと敵が抵抗と称し攻撃してくるだろう。だがそれすらも想定通りだと、彼女ら宝鐘海賊団三番船はその猛攻をいなしつつ速度を緩めない。
「ほら、次くるよ。キビキビ舵切ってね?……あ、見て見てみこち!なんか薄い層みたいなのがあるよ!」
右に、左に、大きく振られる船の中。前方のスクリーンに映し出された巨大な母艦には、それをまるっと覆う膜のようなものが張りめぐらされていた。それは科学者博衣こよりにより作りだされたものであり、気体と電磁波により形成される『人工層』であった。その役割は母艦内での安定した空気の循環と保護、紫外線等の外部からの有害な光の遮断、そして宇宙空間と生存圏を断絶するものである。だがそれには物理的な抵抗力は無く、外敵から身を守るバリア状態にしない限りこのような侵入者を弾く機能は備わっていない。つまりは、そこを通過したした船は精々エンジン機器に多少の狂いを与える程度であり障害とはなり得なかった。
「いてて……なにすいちゃん、呼んだ?」
「あーあ、遅いよみこち。もう通り過ぎちゃったって……てか、そろそろ地面じゃない?」
「せ、船長っ!このままじゃぶつかりますっ!!どうしますか!?」
自分達に降りかかる光の雨を全て避け、なんと彼女たちはあのholoXの懐にまで侵入を果たしていた。そして、眼下に広がる広大な敷地とそこに立ち並ぶビル群を前に、一人の少女とその部下である彼らはとある気持ちが浮かぶ。なんと高度で美しく、圧倒的な場所なのだろうと驚愕し……このままでは、ものすごい速さで地面に激突すると。
「す、すいちゃんすいちゃんっ!!みこたち死ぬってっ!!なんとかしてっ!?」
「も―、うるさいなぁみこち。ちょっと35P、そこ代わって」
鉄の大地と船が接触する寸前、彼らから操縦席を奪い取ったすいせいはそれを力一杯引き付けた。すると、その操作に従い急降下していた海賊船は角度を変え地面と平行になって飛行を続ける。その間、本部にあった幾つかの建造物を削りながら進んだが速度が緩むことは無かった。
――そして、暴君星街すいせいの導きにより船は今まで誰も成し得なかった偉業に辿り着く。
「おっ、あそこに建ってるの……この辺じゃ一番大きいやつだし、アレにきーめた♪偉いやつは大体デカくて高い所に居るってね」
未だ被害を広げる中、彼女は前方で一際大きく構えた建造物が目に留まった。それは周りと比べ明らかに重厚な造りのようであり、また自分の中にある固定概念が頻りに”ソコにすべきだ”と訴えかけていた。
「それじゃー皆、準備はいい?ちゃんと衝撃に備えないと次はヤバいかもね。―――――突撃するよ」
小さな舌をペロッと出し、彼女は待ち遠しいとでも言いたげに口角を舐め上げる。これだけ加速のついた金属の塊と、見るからに頑丈そうな鉄の城同士の衝突は想像を絶するほどの衝撃となるだろう。だが先の尖った船体の形状等と、あとは気合か何かでどうにかなるだろうと彼女は高を括る。またそれに伴って、さくらみこ及びその場にいた乗組員たちは涙を流し震え上がっていた。
―――――直後、激しい破壊音と共に海賊船が建造物の根元へと突き刺さった。
人工惑星全体を震わせるほどの振動と、バリバリと装甲の剥がれる音が駆け巡る。辺り一帯の物質を浮かび上がらせ、その存在を否定しながら船は進む。火災、崩落、衝撃波、あらゆる人為的災害をもたらしながら、宇宙より飛来した”侵入者”は土足でその地に踏み入っていた。
建造物の一番外側にあった壁を第一関門とし、それを瞬く間に突き破った辺りで船はようやく速度を落とし始める。空気による抵抗と、高度を保てなくなり接触した地面との摩擦により更にその牙を捥がれていく。そして遂には、突入した『秘密結社holoXの”アジト”』の敷地内中央辺りで海賊船は足を止めた。
……舞い上がる土煙がその全貌を隠し、更に落下してきた瓦礫によってソレは埋まっていた。勤勉に努めた直線運動を終え、しばしの静寂が訪れる。
だがそれも、僅か数秒後にさも当然の様に破られるのであった。
「―――ふぅー……あっぶなーい、流石に死んじゃうかと思った♪」
この悲惨な事態を招いた張本人、『宝鐘海賊団三番船船長』星街すいせいは這い出た石屑の山の上でそう言った。幸い敵地への突入の際に目立った負傷などは無く、どうやら無事目的地に辿り着けたらしい。
「秘密結社のアジトを破壊、そして潜入成功。やっぱりいつも通りらくしょーだったね」
瓦礫が積って出来た頂に立ち、辺りを見渡す星街すいせいは満足気であった。悪名轟くあのholoXに一矢報いただけでなく、その本拠地に乗り込んだ者など果たして今までに居ただろうか。否、恐らくは自分達が初めてであろうとそのたいして興味も無い誇りに鼻が高くなっていた。
そんな折、突然彼女の足元が僅かに揺れる。
「…………ほぉぉしまちぃぃぃい!!!!おめーみこたちを殺す気かっ!!!?」
積まれた障害を掻き分け、ひょっこりと一人の少女が顔を出す。その可愛らしい頬には少しばかりの擦り傷が出来ており、またその衣服を見ると所々が薄汚れていた。
「あ、よかった。生きてたねみこち」
「危く死ぬとこだわっ!!全く、すいちゃんに付き合ってたら命がいくつあっても足らないにぇ……。……で、ここがholoXのアジト?」
無茶な操縦と突撃をし、自分の命を危険に晒したことに対しさくらみこは憤慨する。だが、それにももはや慣れてしまったという様子で早々に切り替えていた。大きな危険と衝撃により訪れたその場所は、少し開けた広場のようになっており崩壊した天井の先には綺麗は星空が渡っていた。また、彼女らの突入による影響で至る所から煙が上がっているのもわかる。よく見ると所々で人が瓦礫に潰されているようで、この件に関する組織への被害は甚大なはずだ。
「うぁ~……これはヤバイでぇ。すいちゃん、みこたち今凄いことしてるよ」
「そう?いつものことじゃん」
「そうだけどぉ……相手はあのholoXだよ?たぶん”末代不問”だにぇ!」
「…………それを言うなら”前代未聞”でしょ」
自分達が招いた惨事に対し、二人は随分と冷静であった。それは彼女らがこの世界で培ってきた人生観に基づいており、”この世は奪うか奪われるか”というのが少女たちの認識であった。よって、この状況において彼女らが抱く感情は『してやったり』という満足感だけなのである。
――しかし、それも長くは続かないということに青い少女はいち早く気が付いていた。
「それよりも……ねぇみこち、すぐにノビてる35Pたち起こしてきた方がいいよ」
「……へ?」
激的で、誰も予測だにしていなかった登場を果たした宝鐘海賊団三番船の一行。当然、敵もこの奇襲ともいえる事態に対応が遅れているはずであり、引き続きこちらが先手を取れるはずであった。
……だが、そんなはずの状況で船長星街すいせいは使い慣れた自身の身長程も柄のある金斧を取り出す。それは明らかな『戦闘態勢』を示しており、自分達の不時着と”ほぼ同時期から辺りを囲っていた気配”に意識を向けていた。
「……それで隠れてるつもり?ちょーバレバレなんですけどー?」
斧を肩に掛け、まるで挑発するようにすいせいは彼らに問う。この予期せぬ事態にも関わらず、こんなにも早く自分たちを取り囲む存在に対し。
「――――別に、疑ってたわけじゃ無いけど……まさか本当に、”アジトに”敵が攻め込んでくるなんてね。…………つくづく、”あの人”の頭の中がどうなってるのか気になっちゃうよ」
そう言って姿を現したのは、白衣に身を包んだ一人の獣人の女であった。とても自然界には適さないさくらみこより更に明るい桃色の髪に、獣特有の耳と尻尾が生えている。またその形状から、凡そイヌ科の生物なのだろう事が伺えた。
しかし、そんな彼女の口ぶりには少々疑問が浮かぶ。
「何、その言い方。まるで私たちがここに来るのが分かってたみたいじゃん。強がりなら全然ダサいよ?」
「うん、勿論わかってたよ。ここを”誰の城”だと思ってるの?……見ての通り、僕たちの偉大な『総帥』は最初から全てを理解してたみたい」
その獣人はそう言うと、片手をスッと上げ周りに潜んでいた部下たちに合図を出す。そして、その指示に合わせ潜入してきた私達を海賊船ごと囲むように数百人程の武装した集団が姿を現した。それは予めある程度事態の予測が出来ていたという動きであり、そのピりついた殺気交じりの敵意がすいせいの身を襲った。
「へー、こうなることも全部わかってたんだ。そんなに凄いの?……噂の”ラプラス・ダークネス”ってさ」
「……気安くウチの総帥の名前を呼ばないで。あなた達みたいな低俗な人に、ラプちゃんは似合わない」
すいせいの挑発に対し、彼女は静かな怒りを抱いているようであった。
しかし、それはこちらも同じこと。眼前の獣人の生意気な態度に、星街すいせいもまた確かな苛立ちを覚えていた。本当にその総帥とやらがこの事態を予測できていたのかは知らないが、もしそうであるならそれを『私の勝利』という結果で塗り替えればいいだけのことだ。
「さぁ皆、ラプちゃんの期待に応えるよ。総帥の為に戦う準備はいい?」
「「「「 !YES MY DRAK! 」」」」
獣人の呼びかけに続いて、自分達を取り囲む者達がこぞって声を上げた。その気迫は本物であり、こちらを確実に殺しに来ている勢いだ。……だが、そんな有象無象の雑兵に負ける星街すいせいでは無かった。
「ハッ、雑魚が何人束になっても変わんないでしょ。むしろ、ちゃんとすいちゃんを楽しませてよね♪」
そう言った魔人は両手斧を振りかざし、集う敵衆へと飛び込んで行ったのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
彼女は、自らの瞳に映る光景を受け入れられずにいた。
とても信じがたい、どうか嘘であってほしいという悪夢のような出来事。まさか、あれだけ言いつけていた”彼女たち”がまたしてもやりやがってくれたのだ。
「ちょっっっ……すいちゃん!?みこちっ!?何やってるんですかぁ!?!?!?」
船長【宝鐘マリン】の命令を無視し、宝鐘海賊団の三番船はその身ごと秘密結社holoXの本部へと突撃していった。しかも度重なる組織からの攻撃を寸でのところで躱し、あっという間に敵の懐へと入って行く。あぁ、船がもうあんなに小さくなっちゃって……。
「……あー…………せ、船長……我々は、どうすれば……」
「――――。」
絶句。
只々眼下で繰り広げられる激しい突入劇を、マリンは口をあんぐりと開け見ているだけであった。近くに居た【一味】が声をかけようとも、思考が完全に停止している彼女には届かない。それだけ、彼女らの行為は最悪で全てをぶち壊すものであった。
『……なるほど、これがあなた方の狙いですか……やってくれましたね。宝鐘海賊団提督……宝鐘マリン』
心底怒りに満ちたような声が船内のスピーカーから鳴り響き、そこでマリンはようやく我に返る。しかしその受け入れがたい現状と、もう間もなくウチの海賊船と堅牢なholoXの何かの建造物が衝突するであろう現実に再び目を背けたくなっていた。
「あ……い、いや……船長は別に、そういうつもりじゃ……」
何の言い訳も思いつかず、弁明の余地も無い彼女はそれでも必死に言葉を探していた。もはやholoXとの今回の件に平和的解決が存在するはずもなく、宝鐘マリンは完全に八方塞がりとなっていた。
(あぁぁもうっ!!すいちゃん、みこち、やってくれましたねぇ!!お陰で予定は滅茶苦茶ですよっ!!!)
既に声も届かぬ遠い所に行ってしまった部下二人に対し、マリンは恨み言を並べる。……だが、もうやってしまったものは致し方ない。我々宝鐘海賊団はこれから、とてつもなく厳しい茨の道を進まなくてはならなくなってしまったのだ。
「……キミたち、本部にいる”女王様”と二番船のるしあ達に連絡してください。……船長たちはこれから、”holoXと戦う”ことになります」
いくら嘆いたところで、何も始まらない。現実を避けていたって、その先に未来はない。自分達が心から願う『夢』を叶えるためには、こんな所で止まってなどいられない。こうなったら、あのバカ二人に最後まで付き合ってやるしかないのだ。
そう心を決めた彼女は、まるで修羅を往くが如く表情を浮かべていた。どちらにせよ、端からこちらはholoXに対したった一枚のカードしか持ち合わせていないのだ。
『……あー、聞こえていますか?鷹嶺ルイさん。……あなたの思う通り、我々宝鐘海賊団の狙いはholoXに対し略奪行為を行うことでした』
再び放送用のマイクを掴み取り、マリンは通信相手である組織の大幹部へと言葉を続ける。既に和解という道は絶たれており、となれば我々にはもうこれしかない。
『ッ……そうですか、ならもうあなた方と話すことはありませんね。今すぐその船を墜としますので覚悟してください』
『いやいやいや、鷹嶺ルイ大幹部さん?それ本気で言ってるんです?…………お忘れですか、こちらに”人質”が居ることを』
強大であるholoXに唯一対抗できる要素、それは先日私達が捕らえた『人質』たちである。特に彼らの代表格と思われる【沙花叉クロヱ】は彼女らにとっても大切な駒であるはず。それをこちらが保有している以上、holoXはむやみやたらに我々に攻撃が出来ない……はずなのだ。
『鷹嶺ルイさん、我々の要望はこうです。…………捕虜、沙花叉クロヱ。及びその配下の者達を返してほしくば、あなた方が持つ情報・技術・資源の全てをこちらに渡してください』
額からあふれる汗を垂らしながら、彼女は悪の集団に対し要求を突き付ける。絶望的現状を、無理矢理当初の予定へとくっつける。結局、自分達は何処まで行こうと……他から奪う『賊』なのだ。
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突如、宝鐘海賊団の船二隻の内の一つが急速に接近しているという報告が上がった。
「ルイ様っ!宝鐘海賊団の船が一隻、こちらに近づいてきます!……ものすごい速度ですッ!」
あちらからの応答要求、広範囲による放送を用いて彼女らはこちらと対話をする意思があることを伝えて来ていた。私はそれを危険だと分かりつつも、不用意に攻撃するわけにもいかずその申し出を受けるしかなかった。しかし、それに気を取られてしまった結果宝鐘海賊団の急襲への対処が遅れてしまったのだ。
「くっ……砲撃手たち、何をしているのッ!!絶対にあの船を本部に近づけないで!!!」
「す、すみませんルイ様っ!先程からやっているのですが、あれほど機敏に動く船を撃ち抜くには既に距離が近すぎて……」
こちらの油断を誘い、既に射程圏内のより内部に侵入していた海賊船。それは砲台のサイズに対しあまりにも小さく、また小回りの利くそれに着弾させるのは至難の業であったらしい。結果、母艦を守る表膜を通過したその船は完全に本部の内側へと侵入していた。
「ルイ様!!海賊船、急降下から進路を変更……こ、こちらに突っ込んできますッ!!!!」
「ッ!……全員、衝撃に備えてっ!!!」
構成員の誰かが放った言葉に、私はただ備えろと指示を出すことしか出来なかった。そして、次の瞬間には自分たちが居るアジトに音速にも及ぶ速さの鉄の塊がぶつかっていた。幸いholoXの中枢指令室は母艦の表面から見て地下に位置しているため直接的な被害は無かったものの、その強烈な音や振動は僅かばかりの恐怖を覚える程には響いていた。
『……なるほど、これがあなた方の狙いですか……やってくれましたね。宝鐘海賊団提督……宝鐘マリン』
未だに通信が繋がっているかも定かではない中、私はただ怒りと憎しみに任せ言葉を吐き捨てた。それに相手からの返答があったかなどもう覚えていないが、そんなことより先程の衝撃による被害を知らなければならなかった。
「……状況報告、アジト及び母艦への被害はどのくらいですか?」
「ほ、報告しますっ。……現在、母艦の姿勢制御に大きな問題はありません。少し軸がぶれましたが直ぐに修正できます。……しかし、この建物自体は損傷がひどく……地上部分の30%ほどが破壊されたようです!」
疑問に答えてくれた構成員のその言葉に、私は只々言葉を失った。我々のアジトの地表から突出している部分、その三割をもっていかれた。そこには当然、組織に必要な設備や部屋が設けられており……その場所に、”あの子の寝室”もあったのだ。また破壊された場所では何人ものholoXerが勤務していたはずであり、となれば急襲を受け避難が遅れた彼らの運命など……。
(なん……て……私は、なんてことを……)
総帥の不在、その期を狙われた前代未聞の大失態。たった少しの判断ミスから多くの部下の命と、組織の威厳……そして、あの子からの信頼を失った。これはもはや、許されるとか許されないとかの次元ではない。私の身体一つでは報いようがない、holoXの基盤を覆すような大事件だ。
耐え難い罪の意識。たった今起きてしまった出来事に対し、彼女は自分を保てない程の自責の念に捕らわれていた。……しかし、そこに畳みかけるように悪い状況は加速していく。
『……あー、聞こえていますか?鷹嶺ルイさん。……あなたの思う通り、我々宝鐘海賊団の狙いはholoXに対し略奪行為を行うことでした』
未だ海賊船の突撃による被害の収拾もつかない中、再度司令室の中に耳障りな通信音声が鳴り響く。
『ッ……そうですか、ならもうあなた方と話すことはありませんね。今すぐその船を墜としますので覚悟してください』
『いやいやいや、鷹嶺ルイ大幹部さん?それ本気で言ってるんです?…………お忘れですか、こちらに”人質”が居ることを』
やはりきた。我々が宝鐘海賊団を不用意に攻撃できない最大の理由。今尚連絡のつかない総帥率いる暗殺部門救出隊、その安否や作戦の成否が分からない以上その手札をちらつかせられるだけでこちらは手を出せないのだ。
『鷹嶺ルイさん、我々の要望はこうです。…………捕虜、沙花叉クロヱ。及びその配下の者達を返してほしくば、あなた方が持つ情報・技術・資源の全てをこちらに渡してください』
ハッキリとした優位性と要求を突き付けられ、私達は遂に打つ手を失う。今この瞬間にも奴等の攻撃を受けた場所では侵入してきた宝鐘海賊団に被害を広げられているはずなのに、その対処すら追いついていない。多分な懸念点、不確定要素に不安要素。総帥が居ないだけでこうも動きずらくなってしまうのか。
『さぁ……大切なお仲間を返してほしいなら、私達に従ってください』
絶えず、敵はこちらを突き刺す。
それに対し、鷹嶺ルイは強大な力を任されていながらも……その振るう先を定められずにいた。
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突如として現れた宝鐘海賊団の艦隊。
その内の一つが母艦に迫っていると聞いた時ですら、僕の中にはこんな結果は存在していなかった。
しかし、轟音鳴り響くアジト内でその破壊振動を肌で感じた時、僕はようやく”あの人”の思惑を思い知ったのだ。それは現在位置を特定することすら困難なholoXの総本部に対し、更にはその中でも最も守りが厚くかつ重要な機関である組織の【アジト】への攻撃。その結果招かれた光景を見て、”こよ”が最初に感じたのは驚愕交じりの『感動』であった。
「……それで隠れてるつもり?ちょーバレバレなんですけどー?」
「別に、疑ってたわけじゃ無いけど……まさか本当に、”アジトに”敵が攻め込んでくるなんてね。…………つくづく、”あの人”の頭の中がどうなってるのか気になっちゃうよ」
僕たちの家に突っ込んで来たその船から出てきた一人の少女、そいつに指摘されこよ達は姿を見せた。しかしその時、僕は偉大な総帥への尊敬の念が堪えないでいた。
(まったく……ホント、あの人には敵わないなぁ……)
自分の持つ知識の全てを賭しても足元にも及ばない、ありとあらゆる可能性を網羅している彼女の”頭脳”は心の底から尊敬に値する。一体誰に、ただ宝鐘海賊団という賊の存在が判明していただけの『あの時点』で、こうなることまで想定できたというのだ。しかも無限にある可能性の中から的確にその正解を導き出し、僕たちへの指示を出した。宝鐘海賊団の僕たちの船に対する細工に始まり、それから起因する本部への侵攻。更に、奴等の術中にハマりholoXが攻撃を受けてしまうことまで……総帥の頭の中では、あの時既にこの光景を描けていたに違いない。勿論、その全てが必ずしも起きると断言できたわけでは無いだろう。それでも起きる可能性を考慮できている時点で異次元な洞察力であり、到底僕たちには真似できない総帥ラプラス・ダークネスならではの芸当なのだ。
そして現に、その無限分の一の可能性は真実となっている。
(一体何処からそんな発想が生まれるのだろうか。彼女たちの資料を見て?holoXの戦力図と体制的に?それとも宇宙の流れがそう告げていたから?……どれもこれも、ハッキリとしない事実だけが綴られた机上のもの。さらにそこから生まれるのは、雲をつかむような空論だけだ)
しかし、それをラプちゃんは見事掴み取ってみせた。
そして、その上でこの件の対処を僕達に任せても問題ないと判断してくれたのだ。それはとても光栄なことであり、またアジト内の警備の指揮を任せてくれたルイ姉の期待に応えるためにも、決して失敗できない任務であった。
……それが、まさかこんな事になろうとは……。
「あはっ☆holoXの力ってこの程度なの~?すいちゃんがっかりだなぁ~♪」
絶えず敵の制圧の為動く構成員達に対し、奴は随分と余裕そうであった。僕の発明した数々の武器、兵器を携え隊列を組むholoXer達。それをたった一振りの斧で薙ぎ払い、彼らを蹂躙していく。そんな化け物じみた力を持つ少女、【星街すいせい】一人に我々は壊滅させられようとしていたのだった。
「くっ、なんて力……まるで”あの方”のような……」
「こらッ、戦いに集中しろっ!ここを突破されれば、こより様にも戦いの余波が……!!」
僕の指示により戦う彼らは、戦いに関与できないこよを守るようにして陣形を展開していた。加えて、敵の倍以上にもなる圧倒的な数の暴力と本拠地ならではの地の利を生かしている。だが、それらを加味した上でもこの戦線はこちらが劣勢であった。それには当然星街すいせいという一騎当千を誇る魔人の力が大きかったが、それ以外にも彼女の背後を守るように屯う他の戦力も無視できるものでは無かった。
「おいおいおめーら、バーニンされてーのかぁ?!みこちゃんに近づくなって言ってんだぉ!!……ほら、行けっ!35P!」
「えー、嫌ですよ。みこち副船長が一人で行ってください。我々ここで見てるので」
「なんでだよっ!!」
などとバカみたいなやり取りをしている連中なのに、魔人の相手をしながらのついでの戦力でどうこうできる程弱い敵ではなかった。敵味方構わず辺りに火をばらまくイカれた女に、何故かそれに全く巻き込まれること無く完璧な連携を取る雑兵たち。勿論奴ら単体なら訳ないのだろうが、それに長く付き合っていられる程星街すいせいを放ってはおけない。結果、どちらともつかないうちに僕たちは窮地に陥っていた。
「はぁーあ。宇宙を股に掛ける悪の組織って言うから、少しは期待してたんだけどなぁー。……まあ、指揮官がアレじゃ仕方ないか」
とんだ期待外れだと嘆くソイツは、そう言ってこちらにちらりと視線を向けていた。ルイ姉からの指示とは言え、今この場で唯一戦う力を持たずただ皆の後ろに隠れ守られているだけの僕に。
「う˝っ……も、申し訳ありませんこより様…。我々の力では、ヤツを止めるまでには至らないようで……不甲斐ない限りです……」
「……大丈夫、わかってるよ。皆が弱いんじゃない…………あの星街すいせいっていうのが、強すぎるだけだから」
holoXの誇る戦闘員集団である戦闘斥候部門と暗殺部門の連合軍。そんな彼らが現状使える戦力を駆使しても、この魔人を止めるには至らない。それはこの場がアジト内ということも原因の一つであり、広範囲を焼き払うような重火器を使用できないからであった。ただでさえ奴等の突撃の際に受けた被害が残っているのに、これ以上ラプちゃんの留守を荒らすわけにはいかない。だが、そうなると小規模の火力かつ両部門の代表を欠いた彼らでは届かぬのだ。……こんな時、せめてあの二人のどちらかでも居てくれたなら……。
「ふぅー……ねぇねぇ、そこのお前さぁ?すいちゃんそろそろ飽きてきたんだよね、雑魚の相手ばっかりするの。……私を楽しませてくれる相手が居ないなら、もう全員殺しちゃっていい?」
利き手に持った斧を構え、彼女はそう言いながらこちらに迫る。それは”全員”という表現を用いているものの、その殺意を向けている相手が僕自身であることは明らかであった。この場で必死に守られ、かつ彼らに指示を出すこよという集団の『頭』を潰すのが最も効率がいいのだから。
「くっ……させるかっ!各員、こより様を守れっ!!」
「「「「了解っ!!」」」
「……みんな……」
僕との距離を詰めようとする奴との間に、構成員の皆が割って入りその進路を塞いでくれた。しかし、それに構わず星街すいせいは足を進める。
「ハッ。……そんなんで、すいちゃんを止められると思ってるの♪」
そう言った魔人は突如おおきく跳躍し、その障壁を軽く飛び越えた。
「しまっ……!!」
たった一歩、その歩みで奴は僕の目の前までやって来た。しかも、その速さに誰も反応が出来ず、急いでこよの下に寄ろうにも既に間に合わない。
「潰すなら先ずは司令塔からだよねぇ~。お前なんかウザいし、すいちゃんにやられちゃってよ☆」
「ッ……やってみなよっ!!こよは絶対、”みんな”の足手纏いにならないんだからっ!!!」
迫りくるすいせいに合わせ、こよりは小さなガラス瓶を取り出し何とか抵抗しようとしていた。しかしこれだけ接近された魔人に対し、今更彼女の小手先だけの工夫では到底攻撃を防ぐことは叶わない。そして、無慈悲にも振り下ろされる戦斧の刃先が科学者の頭部を叩き割ろうとしていた。その瞬きにはもはや常人の介入する余地など無く、恐らく次の瞬間には最悪の結末が訪れるであろう…………はずであった。
「――――――そこまででござるよ、侵入者殿」
彼女の息の根が止まろうとしていたその時、突如刃の侵攻を妨げるものがあった。それは幾度も打ち抜かれた鋼より形成されており、またそれを操るはこの場において”最も強大な力を持つ者”であった。
「あ?……誰だよお前。つーかすいちゃんの邪魔すんな」
相手を殺すつもりで振り下ろされた、殺意の籠る本気の一撃。それをただの薄い鉄の棒一つで受け止める奴が現れた事実に、魔人は相当な苛立ちを覚える。だが、そんな彼女が更なる怒りを覚えるような明るさでその者は答えた。
「おっと、これは失礼したでござるな。…………某は、我が総帥ラプラス・ダークネスの『用心棒』。秘密結社holoXの戦闘斥候部門代表、風真いろはでござるっ!」
まるで跳ねるリズムの様に元気で、底抜けに明るいその少女。
今ここに、【風真いろは】は姿を現したのであった。