転生したらラプラス・ダークネスだった件   作:飽和水溶液_pixiv

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第67話です。今回は皆様もご存知であろう”あの件”のことがあり、筆者の気分が酷く落ち込んでしまった為に投稿が遅れてしまいました。ですが、詳しくは下記の追記でも触れますがこれからは変わらず転ラプを書いていこうと思いますので引き続きよろしくお願い致します。


さて、前回は大胆にも宝鐘海賊団三番船及びmiCometの二人がholoXの本部に直接攻撃を仕掛けましたね。しかもアジトに海賊船ごと突撃するというとんでもない方法で侵入し、建物や構成員達含めholoXに多大なる被害をもたらしました。しかもそれだけに飽き足らず、待機していた博衣こより氏率いるholoXer達をボコボコにしていたみたいです。意外にも、holoXは個人の持つ戦闘能力はさほど高くは無いようですね。また総帥の不在が影響し心を揺さぶられ続けるルイ姉が、半分やけくそになっているマリン船長にかなり追い詰められていました。やはりこれだけ大きな組織の参謀的ボジションである彼女であっても、この世界では精神的にラプラス・ダークネスに大きく依存してしまっているようです。
ですが、そんな絶望的状況を覆すほどの圧倒的戦力を持つかざま殿が遂に参戦。ようやく本編でまともに彼女を活躍させることが出来そうですね。(ちなみに、前回のタイトルである『すいせいの魔人』は言わずもがな星街すいせいと彗星の魔人をかけているのですが、今回も風真いろはと”侍人(君主の側で仕える人)”に”イロハ(基礎・初歩)を学ぶ”等で使われるイロハをかけて『侍人のいろは』となっています。粋でしょう?そうでしょう。)


【追記】
今回の追記は、上記でも記した例の件……『湊あくあさんの卒業』についてです。
夜空メルさんの時同様この件について私の意見をここでとやかく述べる気はありませんが、この転ラプにおいては既に卒業したホロメン等も登場する世界観の関係上今まで通りの執筆を続けていこうと思っています。何よりあくたんは既に本編に登場しており、今後もホロベーダーとの件で活躍させるつもりです。よって、これからもストーリーについては変更なしで行こうと思っていますのでその辺りご了承ください。
最後に、他のホロライブメンバーについてもそうですが今後彼女たちが本編内でどんな目に合おうとも実際の本人たちに対し筆者には誹謗中傷等の意思が無いことをご理解のほどよろしくお願いします。


↓作者:飽和水溶液のXアカウント。主に執筆状況や気に入ったホロ関連のリポストしてます。
飽和水溶液(@Suiyoueki_suba) https://twitter.com/Suiyoueki_suba


第67話 侍人のいろは

 

 

「――潰すなら先ずは司令塔からだよねぇ~。お前なんかウザいし、すいちゃんにやられちゃってよ☆」

 

 

そう言って自分に迫る殺意に、僕は身が震えていた。

 

 

「ッ……やってみなよっ!!こよは絶対、”みんな”の足手纏いにならないんだからっ!!!」

 

 

それが、今の僕の精一杯の強がりだった。

勝てるわけがない、そんなことは自分が一番よくわかっていた。”みんな”みたいに強くもない、戦えない、一人では何もできないこよではこの魔人と同じ土俵に立つことなど出来はしない。きっと、向こうもそれにはとっくに気が付いているのだろう。奴等と構成員の皆との戦いが激化する中で、僕一人だけがいつまでも彼らの背に隠れていた。敵に抗う力を持たず、それ故に前に出ることを許されない。いや、仮にその力と許しがあったとしても心すら弱い僕では只々震えているだけなのがオチだった。

 

……だからこの時、こよは本当に死すら覚悟してたんだ。ただのちっぽけな獣である僕が、彼らを簡単に投げ飛ばせるような奴の攻撃をやり過ごすなど不可能。小手先の工夫だけではどうにもならない、これだけ相手と近づいてしまった状況から生き残る道なんて馬鹿な僕じゃどうやっても思いつかない。

あぁ……また”僕のせい”で、総帥に……みんなに、迷惑かけちゃうんだなぁ……。

 

 

―――でも、そんなこよが思い描いた最低な結末を塗り替えてくれる子は突然現れた。

 

 

 

「……そこまででござるよ、侵入者殿。」

 

 

 

僕がその言葉を”彼女”の発したものだと認識したときには、既にその子はこよを守ってくれていた。僕の脳天目掛けて振り下ろされた金色に輝く戦斧を、彼女はそのたった一本の鋼で受け止めてくれたのだ。

 

 

「あ?……誰だよお前。つーかすいちゃんの邪魔すんな」

 

 

攻撃を防がれたのが気にくわなかったのか、苛立ちと殺意の混じった声をぶつける魔人。だが、彼女はそんな敵意には微塵も動じていなかった。むしろこんな戦いの渦中にあっても、その子は変わらず堂々とした立ち居振る舞いをしていた。

 

 

「おっと、これは失礼したでござるな。……某は、我が総帥ラプラス・ダークネスの『用心棒』。秘密結社holoXの戦闘斥候部門代表、風真いろはでござるっ!」

 

 

そう言ったのは、僕がこの世で最も尊敬し大切に想う四人のうちの一人……こよの同僚【風真いろは】であった。

 

 

「い、いろは…ちゃん……?……なんで、ここに……?」

 

 

突然現れた彼女の姿に、僕は呆然としていた。だって、いろはちゃんは確か今惑星調査の任務で外出していたはずだ。それを僕たちは本部ごと迎えに行っていたはずだけど、それでも帰還まではまだもう少しかかりそうって言ってて……。

 

 

「こよちゃん、大丈夫でござるか?遅くなっちゃってごめんね」

 

 

こちらには振り返らず、されど僕を心配してくれるようにいろはちゃんがそう言った。彼女のその優しさや、周りへの気遣いを忘れないところは昔からずっと変わらない。

 

 

「あ…うん、大丈夫。大きな怪我とかはしてないから……それよりも、いろはちゃんなんでここに居るの…?」

 

 

「……実は、もう本部の近くまでは帰ってたんでござるよ。ただ、途中でほうしょうかいぞくだん?とかって人達の放送を聞いて……そしたらお船の一つがアジトに向かって行くのが宇宙船の中から見えたから、居ても立っても居られなくなって”泳いで”来ちゃったでござる」

 

 

「……え?」

 

 

しれっととんでもないことを言い出すいろはちゃんに対し、こよは言葉を失ってしまった。彼女が聞いた放送というのは、恐らくルイ姉が対応してくれたという宝鐘海賊団からの応答要請のことだろう。周波や信号が異なるため広範囲に対する全体放送を奴等がしていたのなら、それを帰還途中のいろはちゃん達が乗っていた宇宙船が傍受出来たっておかしくはない。そして、その上で船の中から宝鐘海賊団の海賊船がアジトに侵攻したのが見えたのだろう。敵からの奇襲か何かを受ける本部の様子を見て、彼女たちは焦燥感に駆られたに違いない。

……ただ、『泳いで』来たというのは……どういうことなんだ。え、待って、それってつまり……”まだ宇宙空間に漂ってた宇宙船から”、単身でここまで駆けつけたってことっ!?

 

 

「……まったく……無茶するなぁ、いろはちゃん……」

 

 

「でも、そのお陰でこよちゃんを守れたでござる。間に合ってよかった」

 

 

少し呆れ気味だった僕に対し、いろはちゃんはそう言いながらこちらを向いてニコッと笑っていた。その笑顔の眩しさは怒る気概すら削がれる程可愛らしいものではあるが、心配なのであまり無理はしないでほしい。人間であるいろはちゃんが生身のまま宇宙空間で存在することは出来ない。なので恐らく僕の作った例のヘッドギアを付けていたのだろうが、あれは単なる宇宙服の代わりであって衝撃や圧力に対する抵抗力はさほど高くない。しかも使用時間に制限もあるわけで、単身で命綱も無しに飛び出すなど一歩間違えれば自殺行為になりかねないのだ。それに母艦を覆う『人工層』を越えた辺りから重力場装置も作動しているので、高さ数十キロメートルから地上に落下するのと変わらない衝撃があるはず……しかし、それを彼女はやってのけたというのか。ただ宇宙船を停泊場まで降ろし、そこからここまで移動する時間を省きたいがためだけに。しかも、それを何ら誇る様子は無い。流石はholoX内個人最強戦力と呼ばれるだけのことはある。

 

 

風真いろはの超人過ぎるここまでの行程を聞き、こよりは驚きと関心を隠せなかった。しかし、そんな二人の会話にシビレを切らしたように彼女は声と態度を荒げる。

 

 

「おい。すいちゃんを無視して話すとかいい度胸じゃん。いきなり現れて偉そうにしてるところ悪いんだけど、全然状況とか変わってないからね?…………それに、私お前みたいなのがいっちばん嫌いなんだよ」

 

 

「ん?風真、何か嫌われるようなことしちゃったでござるか?」

 

 

苛立ちをこれでもかと露わにする魔人に、侍は向き直る。だが、その謂れのない嫌悪に彼女は首を傾げていた。

 

 

「イライラすんだよね。お前らみたいなそーゆー用心棒だの、掃除屋だの……人に仕えてる、”使われてる”ヤツ見てるとさ」

 

 

その言葉は、世にも珍しい彼女の”本質”を物語っていた。

 

 

「……お前、holoXの戦闘なんちゃらの代表……なんでしょ?なら強いってことだよね。すいちゃんが殺してあげるからかかってきなよ……ラプラス・ダークネスの犬」

 

 

「別に風真は犬じゃないでござるが……降りかかる火の粉は、払わせてもらうでござる」

 

 

そう言って少女二人、侍風真いろはと魔人星街すいせいは向かい合う。

そして、次の瞬間には両者の刃がぶつかり合っていた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

宝鐘海賊団からの奇襲攻撃を受け、更に捕らわれた人質をネタに我々は要求を突き付けられていた。

 

 

『さぁ……大切なお仲間を返してほしいなら、私達に従ってください』

 

 

それは、とても看過できない内容。されどそれを拒否する材料を持ち合わせない私は、どうにか現状を打破しようと及ばない脳みそをフル回転させていた。

……しかし、そんな私の下にとある朗報が舞い込んでくる。

 

「ルイ様、報告します!たった今帰還途中であった戦闘斥候部門の宇宙船より、風真いろは様が現場に向かったとの連絡がっ!」

 

それは、この危機的状況を打開できる可能性を持つ一筋の光であった。

 

 

「いろは……良かった、帰ってきたのね。何とか間に合ってくれるといいけど……」

 

 

構成員からの報告を聞き、ルイはほんの少しばかりの安堵を抱く。宝鐘海賊団の侵攻による直接的被害を受けた場所の現状は、未だ詳しいことはわかっていない。一応現場の指揮はアジトの護衛任務にあたっていたこよりに一任しているが、相手が敵の本拠地に突入してくる部隊に戦力を集中させていない訳がない。よってあの子のことも、構成員の皆のことも信用しているが実際どれだけの被害を受けているのかわからないのだ。

だが、そこにいろはが向かってくれたとなれば少なくとも戦力面での不安は無くなるだろう。あとは、大事に至る前に間に合うかどうか……。

 

(ただ……依然、状況は変わっていない。私達は『人質』という大きな枷を嵌められ、抵抗する権利を奪われている。それはこよりやいろはにも同様に作用しているはずで、本来問題なく勝てるはずの相手にだって後れを取るかもしれない)

 

状況は変わらず、私達は劣勢を強いられている。巨大な組織、宇宙を股に掛ける秘密結社holoXと言えど結局のところ総帥一人の力があまりにも大きいのだ。私達はそれを微力ながらに支えることしか出来ず、あの子抜きであの子と同じことを成すなんて……出来やしない。

 

 

戦闘斥候部門、及び風真いろはの帰還を聞いても尚彼女の心には焦燥と恐怖が渦巻いていた。それは今まで、holoXの命運を左右するような場面には必ず総帥が居たことにも原因がある。此度のようなラプラス・ダークネスの不在という期に、敵からの襲撃を受けるというイレギュラ―を鷹嶺ルイ一人で対処しきることは困難であった。

 

 

 

 

―――しかし、そんな苦悩の最中にも状況は動き続ける。

 

「……ルイ様。組織の今後を左右する大事な業務の最中、大変恐縮なのですが……」

 

それは、博衣こより及び帰還途中であったはずの戦闘斥候部門に報告に行っていた鷹嶺ルイ大幹部の秘書から告げられた。

 

 

「……なに?」

 

 

「あの、通信室からの報告で…………『暗殺部門救出に向かっていたラプツナズから連絡があった』と……」

 

 

それは、私にとって『大きな希望』にも、『更なる絶望』にもなる可能性を秘めていた。

 

********************

 

 

ー宝鐘海賊団 (心の)航宙日誌ー

〇〇〇〇/△△/▢▢。私たちは現在、あの宇宙の支配者と恐れられた秘密結社holoXに喧嘩を売っている。それは事前に獲得した奇跡的な優位性と、私の部下である彼女らの奇跡的なアホ行動によりそうすることを余儀なくされた結果だった。本来であれば、先の騒動で我々が捕らえた人質を盾に組織への物資等譲歩の交渉を迫るつもりであった。しかし、三番船の船長及び副船長が私の命令を無視し突撃攻撃を仕掛けてしまい、そのせいで我々は望まぬ大戦の引き金を引いてしまったのだ。

私達には、彼女らとまともに戦えるような力などない。正面からぶつかり合えば、我々はあっという間に宇宙の塵にさせられることだろう。そして、そんな負け戦に費やせるほどの時間も、人員も持ち合わせていない。故に、私宝鐘マリンは今回の事態に早々に決着を付け、即座にこの場からトンズラしなくてはならなかった―――。

 

 

「……nちょう…………マリン船長っ!聞いてます?!」

 

 

「えっ?……あ、何ですか?キミたち」

 

 

突然肩を掴まれ、体を揺さぶられたことで私の意識は強制的に引き戻された。何ですかもう。今折角、望まぬholoXへの宣戦布告が原因でちょっとした現実逃避をしていたところだったのに。

 

 

「ったく。船長、こんな時にまで”変な妄想”してたんですか?今一触即発の大事な局面なんですよ?」

 

 

「ちょっと、船長を何だと思ってるんですか。流石の私でも、こんな時にまで発情してないですヨ」

 

 

むしろ、こんな状況でどうやって興奮しろというのか。私達は今宇宙最強の組織と対峙し、一歩間違えれば滅ぼされる危険性を孕んでいる。流石に、いくら船長がえっっな妄想が得意だとしても、こんなに時までそんなことに脳のリソースを割く余裕などない。…………ちょっとしか。

 

 

「本当ですか?しっかりしてくださいよ。……って、そんなことより女王様がお呼びですってば!」

 

 

「えっ……”ぺこら”が?」

 

 

一味の言葉に、マリンは少々驚いていた。

確かに、私は此度のholoXとの件の現状を本部に居る女王に伝えるよう彼らに指示を出した。しかしそれは念のためというか、形式上の業務に過ぎないのだ。その理由は単純で、肝心の彼女が私達の仕事に対してさほど興味が無いからである。よって例え船長たちが誰に喧嘩を売ろうとも、まあ適当になんとかしといて的な感じで済まされることが殆どなのだ。だから、今回もそうやって全部を丸投げされると思っていたのだが……。

 

 

「まあ、よくわかりませんが……とりあえず通信には出マスか」

 

 

マリンはそう言うと、一度holoXとの放送通信の音声を切り本部との連絡用にマイクを切り替える。するといきなり、放送機器からけたたましい叫び声が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

『マァァァァリーーーーーンッ!!!!!お前、何やってるぺこかっ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

思わず耳を塞ぎたくなるその彼女の声に、私は顔をしかめた。この感じ……いつもの”理不尽”が始まる嫌な予感がする。

 

 

「な、何って……ちゃんと連絡したじゃん。船長たちはholoXの所に行って交渉を……」

 

 

『はぁあ?!バカタレかっ!そんなことどーでもいいから、今すぐ帰ってこいぺこだよ!!』

 

 

故郷の為と信じ、私達が命懸けで行っている任務に対し『どうでもいいから』と一蹴する彼女に返す言葉が見つからなかった。しかもそれだって、コイツがやれと言うからやっていることだ。衛星コメットでホロベーダーの幼体が現れたから、もはやなりふり構っていられないと言い出した張本人の癖に。そんな船長たちに突然、今すぐ帰ってこいとは流石に横暴が過ぎないだろうか。

 

 

「ぺ、ぺこら……船長たち、一応命懸けでやってるんですケド……」

 

 

いくら一国の王とは言え、自分勝手が過ぎる彼女にマリンは内心苦言を呈する。もはやいつものことではあるが、少しは出稼ぎに行っている船長たちを労ってくれてもいいのに……。

 

――しかし、そんな彼女の考えを変える言葉を女王……【兎田ぺこら】は語る。

 

 

 

 

『命懸けはこっちも一緒だっつーの!!アンタと連絡を取った後、またホロベーダーが衛星内に現れたぺこだよっ!!』

 

 

 

 

それは、例えどんな状況であろうとも無視できない事態であった。

 

 

「えっ……それ、本当ですかっ?!被害状況は!?」

 

 

『嘘も本当も、バリバリ現在進行形で被害出まくってるぺこっ!アンタ達無しじゃ倒しきれねーからッ!』

 

 

先程まで相手を横暴だなんだと内心非難していたマリンは、その事実を知ったことにより考えを改めさせられた。先日の侵略者の幼体発見騒動から日も浅い内に、またしても奴等が現れた。それは眼前の事の大きさを差し引いても見て見ぬふりなど出来ぬ、何よりも優先すべき大事件だ。

 

 

『だから、そんなよくわかんない組織の事なんて後回しにしてさっさと帰ってこいって言ってるぺこだよ!何でか知らんけど、ちょっと前からるーちゃん達とも連絡が付かなくなっちゃったし……とにかく、マリンたちだけでもすぐに来てほしいぺこっ!』

 

 

重ねてぺこらから告げられる真実に、私は気が気ではなくなっていた。holoXとの件に関連して、宝鐘海賊団の二番船船長るしあ及びあくたんには衛星コメットまでの人質の護送を指示していた。またその件を本部に連絡すると共に、定期的に通信を行うように言っていたのだ。しかしそれが絶たれているとはすなわち、彼女たちの身に何かが起きたことを意味する。勿論船長はるしあのことも、可愛らしいあくたんのことも信用しているが、今回のホロベーダーの異例な行動の件や秘密結社holoXと関わってしまっていることを考えると絶対に大丈夫とは言い切れない。

 

 

「ッ……ホント、すいちゃんとみこちめ……こうなると分かってたら、船をぶつけてでも二人を止めるべきでした……」

 

 

既に起こし始めてしまった眼前の問題と、現在進行形で起こっている本部での問題。そのとても抱えきれない二つの問題を天秤にかけ、彼女は考える。どちらを優先し、行動に移すべきか。今自分たちの一挙手一投足が、全ての同志たちの今後に直結する……そんな大きな覚悟の元、船長宝鐘マリンは結論を下す。

 

 

 

 

「キミたち…………今すぐ、あのバカ二人を連れ戻してください……!!」

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

何か、冷たく硬い物が、幾度も風を切る音が聞こえる。

それらは時々、ガキンッとぶつかり合いお互いの存在を否定し合っていた。

 

 

 

「へー。思ったよりやるじゃん、すいちゃんびっくりだなぁ!……ハァ…」

 

 

 

「それほどでもないでござるよ。風真なんてまだまだ」

 

 

 

この戦場で最も大きな力の二つ、その衝突が僕の眼前で繰り広げられていた。

 

宝鐘海賊団三番船船長、星街すいせい。彼女の持つ力は強大で、想像以上に強靭なものだった。組織の一般兵とは比べにならない程の戦闘能力、細身な身体とは思えない両手斧を自在に振り回せるほどの腕力、そして恐れ知らずのイカレた性格とそれを付随させる抜群の戦闘能力。そういう種族なのかは知らないが、彼女の持つそれは構成員達の平均値を大きく上回っている。故に、僕の眼にはその『魔人』が圧倒的強者として映っていた。

 

―――だが、それでも……悪魔からの恩寵を受けた彼女の前では、”ただの賊”と言って差し支えない程度のものであった。

 

 

「チッ……なにその余裕。ハァ……ムカつくんだけどッ!」

 

 

「えっ、また怒らせちゃったでござるか?うーん、風真何にも悪いことしてないと思うんだけど……」

 

 

殺気に満ちた戦斧を振りかざし、敵の首元目掛け害意を振り下ろす魔人。それに対し、侍はそれを何てことは無いといった風に受け流しながらそう言っていた。

 

数分前から行われていた、星街すいせいと風真いろはの戦い。その行方は戦闘素人であるこよりには見当もつかないものであったが、どうやら僕は彼女のことを良い意味で見くびっていたらしい。いや、冷静に考えれば疑う方がどうかしていた。あの最強なラプちゃんの一時的な力に匹敵するほどのいろはちゃんが、どこぞの魔人ごとき相手に後れを取るはずが無かったのだ。僕は最初、その絶望的な状況とたった一隻の小さな船で乗り込んでくる豪胆さから星街すいせいという人物を超強力な要注意人物だと認識していた。実際、戦えない僕と雑多な構成員達だけでは彼女たちに及ばなかったことだろう。だが、その危機的状況はいろはちゃん一人の存在によりいとも簡単に覆された。僕から見ればどちらも圧倒的『強者』であることに変わりは無かったのだが、二人の差は戦いが始まった瞬間から既に顕著に表れていた。

 

 

「ッ!!……そーいうとこもムカつくんだよお前ッ!すいちゃんのこと舐めすぎでしょッ!!」

 

 

恐らく全く悪気無く相手を煽るいろはちゃんに対し、それに激昂した星街すいせいは目にもとまらぬ速さで彼女に迫る。水平に倒した金斧を滑らせ、丁度刃先が届く範囲で一気に振り上げていた。

 

 

「舐めてないでござるよ。ちゃんとつよつよな相手として、心して対峙してるでござる」

 

 

だが、その姿を彼女は捉えられていたらしい。獰猛な獣の様に唸るそれをいろはちゃんはほんの鼻先で躱し、更に追撃に備え愛刀の刀身を相手に向ける。案の定初撃に留まらず振り返してきたそれを再び躱し、その後も三度四度と接近する斧刃を華麗に往なしていた。強さの優劣はもはや明白なものの、どうやら本人の言う通りいろはちゃんはこの魔人を前に決して油断をしていないようだった。

……しかし、だとしたら彼女のその行動には少々違和感を覚える。

 

 

「心してェ?嘘つけ。……それじゃあ何で、お前はすいちゃんに”攻撃しない”ワケッ?!」

 

 

「……」

 

 

僕と同じ疑問が浮かんでいたらしい魔人が、またしても怒り声を上げた。

彼女が言った通り、いろはちゃんは星街すいせいを前に一瞬の隙も見せていない。しかし、それとは別にいろはちゃんは相手を無用に傷付けないよう手を抜いているように思えた。それは僕でもわかる程あからさまに、この短い間にたったの一度も彼女の方から攻撃を仕掛けることはなかった。

 

 

「明らかに手抜いてるでしょ、このすいちゃん相手にさ。……どういうつもり」

 

 

互いの得物が届く距離でぶつかり合っていた両者が一度距離を取り、代わりに怒りを語気に纏わせた言葉を彼女はぶつける。それは強者の矜持によるものなのか、殺す気で戦っている相手から余裕を見せられていることに魔人は酷く腹を立てているようだった。

 

 

「別に、手を抜いているという訳じゃ……単に風真には、こよちゃんを守る使命はあってもあなたを倒す理由がないだけでござる」

 

 

「ハァ……は?ウザ、意味わかんないんだけど。なに、あんたにとってはすいちゃんは倒す価値も無いって言いたいわけ?」

 

 

「……いろはちゃん……」

 

 

変わらず相手の動きを注視し続けるいろはちゃんは、しかしながら刀を持つ腕を脱力させていた。その姿から、彼女には明白に戦う意思がないことが窺える。けど、それは一体何故……。

 

 

 

 

「そうじゃないでござるよ。ただ、今の風真にはまだ”ラプ殿からの戦闘指示が出ていない”ってことでござる」

 

 

 

 

いろはちゃんのその言葉聞き、僕やその場にいたholoXer達は彼女の言わんとしてしていることを即座に理解できていた。

 

 

「確かに風真は、こよちゃんを傷つけようとするあなたとの間に割って入っていった。でも本当なら、風真はラプ殿かルイ姉からの指示がない限り勝手に戦いたくないんでござるよ。……だって、戦うしか能の無い風真じゃラプ殿の考えを完璧に理解して動くことなんて出来ないから」

 

 

それが、ここ秘密結社holoXでの常識であり『基本』。

そして、それこそが組織最強と謳われる風真いろはが唯一刀を振るう理由であった。

 

 

「―――クソじゃん。そんなに大事かよ、飼い主からの命令が」

 

 

「大事でござるよ。総帥からの言葉は、風真にとっては”天命”と同義。いついかなる時でも、ラプ殿からの命令だけが風真の闘う理由でござる」

 

 

風真いろはの真意を聞き、星街すいせいは今までにないほど歪に顔をしかめていた。それは”自分が敵わないかもしれない敵”とほんの僅かに評価した相手が、自分が心の底から嫌悪し最も忌み嫌う人種のそれだったが為に。そんな誰かに仕える『生』を送りたがるくだらない思考を持つ者が、己の超えられない壁として立ちはだかっていることにこれ以上ないほどの怒りと侮蔑を覚えていた。

 

 

 

 

「……お前、名前なんて言ったっけ?」

 

 

一瞬、鬼のような形相を浮かべた星街すいせいが俯き気味にいろはちゃんに問いていた。しかし、その時の彼女の様子は顔を見ずとも身の毛のよだつ剣幕であった。

 

 

「……総帥の用心棒兼、holoXの戦闘斥候部門代表風真いろはでござる」

 

 

「そ。私は宝鐘海賊団の……いや、めんどくさ。私は星街すいせい……それだけ覚えてればいいや」

 

 

一度の脱力。

天を仰ぎつつ、魔人はここで初めて自ら名を名乗る。

 

 

 

「―――絶対にお前を殺す。覚悟しな、風真いろは」

 

 

 

「それは遠慮するでござる。それに……ラプ殿の家を荒らすと言うなら、止めない訳にはいかないでござるよ。星街すいせい殿」

 

 

 

再び戦斧の柄を握り込み、その先を魔人は標的へと向ける。対し、侍は何処まで行っても受け身に、只々主の家を守る構えであった。

そして、青い彗星は地を蹴り彼女に迫る。今度は先程までの力の限りの大振りではなく、確実に獲物を刈り取る姿勢で。そうして、両者の牙は今まさに噛みつき合おうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「―――――すいちゃん…………ストォぉーーーッップっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

……しかし、彗星が地に落ちる直前にて……彼女の眼前で、パッとさくらの花が咲いていた。

 

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