転生したらラプラス・ダークネスだった件   作:飽和水溶液_pixiv

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第68話です。最近は微妙に更新ペースが遅いですね。残暑がまだまだ続いていますので、それを言い訳に今後も頑張って机に向かおうと思います。


さて、前回は少しではありますが遂に風真いろは殿の戦いを拝むことが出来ました。しかも相手は、あの天下の星街すいせいさんです。いろは殿にとって、最推しであるすいちゃんと戦うことは本来であればありえない話なのですが……ここ転ラプ世界ではご存知の通り、無関係かつ初対面である二人は完全な敵同士となっていました。といっても正しく敵認定しているのはすいちゃん側だけで、いろは殿は『総帥からの命令が無い』ことを理由に本気で戦っていなかったようです。驚くべきかな、この世界では星街すいせいより風真いろはの方が幾分か強いのです。これに関してはすいちゃんがどうのこうのというより、いろは殿が強すぎることに問題がありますね。
また、前話は声のみではありますが初めて兎田ぺこーらが登場しました。相変わらず船長には厳しめな対応でしたが、どうやら彼女たちの本拠地がまたしてもホロベーダ―に襲われてしまっているようです。宝鐘海賊団二番船の件と同様に、今回も誰かの手が入ったことなのか……今話で回想回を終える予定です。そろそろラプ様視点を書きたい……。


【追記】
今回の深堀シリーズはお休みです。なんか最近あんまり書いてない気がしますが、今やってる内容が大体三章に関係あることなのであまり語ることが無いんですよね。今後お話が進み次第またここを使うようにいたします。


↓作者:飽和水溶液のXアカウント。主に執筆状況や気に入ったホロ関連のリポストしてます。
飽和水溶液(@Suiyoueki_suba) https://twitter.com/Suiyoueki_suba



第68話 コトの顛末

 

********************

 

 

 

「し、信じられないにぇ……あのすいちゃんが圧されてるなんて……」

 

 

 

未だ燻る破壊跡の中、彼ら彼女らはたった二人の少女たちの戦いに注目していた。それは我らが宝鐘海賊団が誇る最大戦力の一人星街すいせいと、対するは突如として現れたフリフリな絹の服に身を包む金髪の少女との衝突。しかし、彼女は見るからに非力でとてもあの馬鹿力かつ運動神経抜群なすいちゃんとまともに戦えるとは思えなかった。

 

……だが、この時みこは初めて”パートナー”が最も得意とする『近接戦闘』で苦戦している光景を目の当たりにしていた。

 

 

 

「へー。思ったよりやるじゃん、すいちゃんびっくりだなぁ!……ハァ…」

 

 

 

「それほどでもないでござるよ。風真なんてまだまだ」

 

 

 

それは恐らく、彼女なりの強がりだったのだと思う。

本当に信じられなかった。まさか、あの高いプライドと圧倒的負けず嫌いを拗らせたすいちゃんが敵を前に息を切らすなんて。彼女はその気になれば、ホロベーダーを一度に数体は相手取れるぐらいには強い。だが、そんな化け物みたいなすいちゃんとその子はいとも簡単に渡り合っているのだ。しかも、傍から見ても明らかなほど優勢な状態で。

 

 

「これは……流石にマズいでぇ。すいちゃんで勝てないならみこじゃ絶対に相手にならないし……」

 

 

この戦場で最も強い者同士の衝突。それに皆の意識が集中し、現状ではholoXの人達と35Pたちの戦いは事実上の停戦状態となっていた。しかしすいちゃんが本格的にあの侍ちゃんに負け始めると、この均衡だってあっという間に崩れてしまうことだろう。とすれば、何としてもすいちゃんにはあの子に勝ってもらわなければならない。或いは、この状況を打破できるような妙案を思いつかなくては。

 

 

「うーん……いくらみこがエリートとは言え、これは難しい問題だにぇ……」

 

 

大袈裟に首を傾げ、あからさまに”考えてますよ”という姿勢をさくらみこは見せていた。するとそんな彼女の下に、周囲に気取られぬよう静かな足取りで一人の35Pが近づいてくる。

 

 

(みこち副船長。変なポーズしてるところ悪いですけど、マリン提督から鬼連絡来てますよ)

 

 

(誰が変なポーズやっ!!……って、マリリンから?なんで?)

 

 

自分の部下の癖に、副船長に対して失礼なことを言う彼にみこは思わず声を荒げた。しかし、その後に35Pの言った報告にまたしても首を傾げる。こんな大変な時に連絡とは、マリンってば一体何の用だろう?

 

 

(いや、自分達の状況としたことを考えれば当然じゃないですか?我々今、提督の命令無視してholoXに攻め込んでるんですよ?絶対クソ怒ってますって)

 

 

(げ、そーいえばそうだったにぇ……え、でも待ってよ。みこ悪くなくない?すいちゃんが勝手にやったことだし、みこは何もしてないで)

 

 

(副船長として、すいせい船長を止められなかった時点で連帯責任だと思いますよ。たぶん二人とも、後でマリン提督に滅茶苦茶説教されます。……”あ~あ、だから言ったのに”)

 

 

(あ゛ぁ?)

 

 

若干煽り気味にそう言う部下に、彼女は無性に苛立ちを覚えた。そうは言うが、実際すいちゃんの横暴をみこ一人に止められたとは思えない。それに、連帯責任というならこの場に居る三番船の乗組員全員に責任があるのでは?とすれば35Pたちも一緒に怒られるべきで、決してみこ一人が悪いという訳ではない。……だから、みこちゃんを煽るなっっ!!!

 

 

少女は内心で、部下に対する怒りをこれでもかと露わにしていた。しかしそれも、自分の下に小型の無線機が持ち運ばれた辺りで自然と消滅させられる。それは先の話にあった宝鐘マリン提督と通信が繋がっているものであり、保留状態を取り消すことで会話が可能であった。

 

 

「あ、あ~……も、もしもしマリリン?みこだけど……」

 

 

先程までの怒りが嘘のように、恐る恐る通話の相手に向けて声をかける。すると、彼女は小さくため息をついた後に少々冷たげな口調で話し始めた。

 

 

『……その様子なら、悪いことしたっていう自覚はあるんですよね?』

 

 

「う゛……ご、ごめんなさい……すいちゃんに説得されちゃって、みこも面白そうだと思っちゃって……」

 

 

想像以上に静かで、一つ一つハッキリと言葉を繋げる彼女にみこはギョッとする。それは普段の自分たちのイタズラや勝手な行動に対し只々怒鳴るように怒る時とは違い、今回のはまるで”何かを諦められてしまった”ような感じであった。そのいつもとは違う船長の雰囲気に、流石の少女も『今回はやり過ぎてしまったか』と反省の色を見せる。

 

 

『はぁ……まあ、その件については後で話しましょう。絶対に許しませんが、今はそれよりも大事なことが……』

 

 

しかし、そんなみこに対しマリンはそう続けた。よく聞くと、彼女の声音は怒ってもいたがどちらかと言えば”焦っている”ようにも思える。そのどちらとも言えぬマリリンの様子に、みこは疑問を抱いた。

 

 

「え、なに?どうかしたの?」

 

 

『……みこち、今すぐすいちゃんを連れて戻って来てください。実はさっき、ぺこらから連絡があって…………衛星コメット内で、再びホロベーダーが現れたみたいです』

 

 

その言葉に、みことその周りで聞いていた者達全員が目を見開いた。

本人たちの考えや性格、第一に据える事項がバラバラな宝鐘海賊団の面々。それ故に勝手な行動に出る三番船の問題児二人や、二番船の己が目的の為ならば平気で他者を陥れる魔女たちに提督宝鐘マリンは日々頭を悩まされていた。しかし、そんな彼女らが唯一持っている共通の認識……いや、この組織の存在する意義ともいえる”目的”。それは『惑星ファンタジアの奪還、及びホロベーダーの殲滅』である。個々が別々の方針を掲げる中、理由はどうあれそれだけは何としても果たしたい彼女たち皆の悲願であった。

だが、マリン提督から告げられたその事実はそんな彼女たちの願いを妨げる可能性があった。否、今残るただ一つの生存圏である衛星コメットにホロベーダーの魔の手が伸びるということは、即ち自分たちの完全なる『敗北』を意味するのだった。彼女たちはよく理解している、"侵略者ホロベーダーが触れてしまった星がどうなるのか"ということを。たった一つの個体から生命を糧に無限に増殖する奴等が侵攻すれば、敗北の先に待っているのは自分達の絶滅だけであった。

 

 

「そ……そんな……」

 

 

自分達の置かれる事態を理解し、みこは言葉を失う。彼女もまた衛星コメットで生まれ育ち、皆と共に惑星奪還の為尽力する一人であった。だからこそ、自分の故郷にもまたホロベーダーが現れたのだと知り居ても立ってもいられなくなる。

 

 

「こ、こうしちゃいられないよマリンっ!!早くウチに帰らないとっ!!」

 

 

『はい、勿論です。だから言ってるんですよ、すぐにすいちゃんを連れて帰ってきてくださいって。みこちから言ってくれれば彼女も聞き入れてくれると思いますから』

 

 

「わがった!すいちゃんに言ってくるから待っててぇ!」

 

 

マリン提督からの指示を聞き、みこは早々に振り返ってパートナーの下へと駆けて行く。こうして、彼女は無謀にも戦場のど真ん中に現れたのだった。

 

********************

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「すいちゃんっ!!……ストーーーーッップっ!!!」

 

 

 

突如現れた一人の少女に、彼女たちの動きは止まっていた。

 

 

「はぁっ?!危ないでしょみこち、ちゃんと後ろに居てよっ!!」

 

 

「?……よくわからないでござるが、そこに居たら危ないでござるよお嬢さん」

 

 

こちら側に背を向けつつ、星街すいせいに向かって両手を広げる桜色の少女。魔人の呼び方から、彼女は宝鐘海賊団三番船の【さくらみこ】であると思うが……何故いろはちゃんの方ではなく、星街すいせいの方に静止を促しているのだろうか。

 

 

「私、戦ってたの見えない?!とっととどいてよみこち!!」

 

 

「ダメだよすいちゃん!みこたち、こんなことしてる場合じゃないんだってっ!」

 

 

彼女はそう言うと、星街すいせいの下に駆け寄り何かを”耳打ち”し始めた。その隙にこちらもいろはちゃんの下に近寄りつつ、彼女らの様子に注目する。すると、まるでそのまま仲間ごと攻撃してしまいそうなほどの気迫であった魔人が、何故かみるみると目を見張り始めた。

 

 

「……それ本当?みこち」

 

 

「うん…だから、マリリンが早く帰ってこいって」

 

 

「帰ってこいって……このすいちゃんにこの場から尻尾巻いて逃げろって言ってんの?」

 

 

「だ、だってしょうがないじゃん!みこたちがいないと、星の皆が……」

 

 

小声でコソコソと、敵を前に二人の少女たちは何かを話していた。しかしそれを戦えるいろはちゃんが動かないが為に、僕もまたただ見ていることしか出来なかった。

 

 

「ど、どうしたんだろ、あの二人……いきなり話し込み始めちゃったけど……」

 

 

「さぁ…?……でもこよちゃん、今のうちにこっそり負傷者を運んだ方がいいかもしれないでござるよ」

 

 

いろはちゃんはそう言いつつ、背後に居る戦いの余波で倒れた構成員達の方を振り返った。確かに彼女の言う通り、いろはちゃんが辿り着くまでに僕たちは何人もの負傷者を抱えてしまった。それは宝鐘海賊団との戦いの最中は勿論、彼女たちが突撃してきた際に被害にあったholoXer達の回収も未だ行えていない。このまま宝鐘海賊団との戦いが長引くのであれば、僕らは今以上の負債を抱えることになるだろう。ならば、今この間に一人でも多くの負傷者を前線から引かせるべきだ。

 

博衣こよりはそう思い立ち、近くに居た構成員の一人に声をかけた。宝鐘海賊団主力の二人の動きが止まったこの機会に、少しでもこちらの被害を減らすようにと彼らに働きかける。

しかし、それを知ってか知らずか僕たちに動きがあったことを理解した魔人が再び動き出した。

 

 

「ッ!ダメだよすいちゃん!こんな所で戦ってないで、早く帰らないと!」

 

 

金色に輝く両手斧を構えなおし、彼女は少女の制止を振り切り前に出る。だが、それに負けじとさくらみこは必死に星街すいせいを留めようと努めていた。

 

 

「っ……みこち、戦ってる場合じゃないのは分かってるけどさぁ……こいつらが、私達をみすみす逃がしてくれるわけないでしょ」

 

 

「う゛……そ、そうかもしれないけど……!!」

 

 

変わらず、戦う意思を持ち続ける魔人に少女はしがみついていた。

彼女たちの話を断片的に聞くに、どうやら二人は”この場からの帰還”について揉めていたらしい。何故いきなりそんな話になっているのかは知らないが、さくらみこの慌てようを見るにただならぬ理由が出来たのだろう。…………ふざけるな。こんな所までわざわざやってきて、ラプちゃんの留守に僕らの家を壊し、更に多くの負傷者を出しといて……その上、落とし前もつけずに帰ろうとしているというのか。そんなこと……許せるわけがない。

 

 

「……よくわからないけど、勝手なこと言わないでよ。あなたの言う通り、ラプちゃんの城を汚した宝鐘海賊団を僕たちが見逃すわけないでしょ」

 

 

未だ揉めている二人を前に、こよりはハッキリそう言い放つ。気が付けば、遠巻きで話を聞いていたらしいholoXer達が宝鐘海賊団を取り囲み包囲網を作っていた。どうやらいろはちゃんが星街すいせいを抑えている間に、応援の部隊が駆けつけてくれたらしい。これなら人数的戦力差もこちらが有利になって、もはや彼女らに逃げ道は無い。

 

 

「ほら、見なよみこち。雑魚があんなにわらわらと……こんな状況でみんな連れて逃げれると思う?」

 

 

「え…い、いつの間に……!!……これ、すいちゃん一人で何とかできたり……しない、よにぇ」

 

 

瓦礫の散乱する広場の中央に、ポツンと浮かぶ宇宙船型の海賊船。その脇腹付近に固まる宝鐘海賊団たちを、我らholoXの構成員達は円周を描き隊列を組む。所詮彼女らは星街すいせいが一強の集団、それを抑えられさえすればどうということ無ないのだ。

 

 

「皆……宝鐘海賊団を捕えて。僕たちの家をこんなにした責任を取らせるよ。…………全ては、総帥の為に」

 

 

 

「「「「!!! YES MY DARK !!!」」」」

 

 

 

アジト内警備隊の指揮官担当、研究部門代表博衣こよりは彼らに宝鐘海賊団の”捕縛”を命じる。それは、この組織創立以来前代未聞の事態を招いた彼女らにその報いを受けさせるため。故に、特に幹部格の二人は何としても生け捕りにしたいというのが指揮官である彼女の意思であった。

 

 

「宝鐘海賊団を許すなッ!!」

 

「ラプラス様のアジトを滅茶苦茶にして……!!」

 

「我らholoXの恐ろしさを、存分に見せつけてやるっ!!」

 

 

集うholoXer達から、その様な言葉が飛び交う。この場に居る全員が、宝鐘海賊団に対する明確な攻撃意識……いや、怒りを抱いていた。

 

 

「ごめんね、ラプちゃん……総帥の居ない間に、こんなことになっちゃって…………でも、こよもちゃんと責任取るから」

 

 

唯一戦うことを許されない、されどそれを理解した上でここに立つことを彼女は自ら望んだ。その全ては、この世で最も尊敬するその人への献身の為。普段から不甲斐ないことばかりの自分が、”先日犯してしまった失態”を挽回する為に博衣こよりは努めていた。

そうして、秘密結社holoXの衆は務めを果たそうと動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――全員、待つでござる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……しかし、その一歩を踏み出す直前で一人の少女が静止を促した。大勢の構成員達を前に、水平に上げた手の平をこちらに向け彼らの侵攻を妨げる。

 

 

「皆、ここは……風真の顔に免じて、宝鐘海賊団を見逃して欲しいでござるよ」

 

 

突然、そんなことを言い出すいろはちゃんに僕は困惑してしまった。この期に及んで彼女らを見逃すなんて、一体何を考えて……。

 

 

「いろはちゃん……どうして、そんなこと……」

 

 

「……こよちゃん、ごめんね。こよちゃんの悔しい気持ちは、痛いほどわかるでござるよ…………でも風真は、今宝鐘海賊団と本格的に事を構えるのは反対。だって……風間たちはまだ、ラプ殿から命令を貰ってないでござるよ」

 

 

怒りと、個人的な焦りを抱えていた僕は、その彼女の言葉で少しばかり冷静になっていた。そうだ、僕はまた……自己判断で、ラプちゃんに言われてもいないことを自分勝手にしようとして……。

 

 

「ラプ殿が宝鐘海賊団をどうするつもりかわからない以上、風真たちは本部を守ることは出来てもこちらから危害を加えることは出来ないでござるよ。……だから、もし向こうが逃げるつもりならお互い手出しし合わずこの場を収める方が良いでござる」

 

 

彼女はそう言うと、上げていた腕を下げ二人の少女たちに向き直った。

 

 

「という訳だから……そっちが大人しく帰るつもりなら、風真たちは止めないでござるよ?星街すいせい殿」

 

 

「え、あ……って、言ってるけど…すいちゃん、どうする……?」

 

 

「……」

 

 

思いもよらない申し出に、さくらみこは戸惑いつつも星街すいせいにその判断を委ねるようであった。対して本人は、未だギラついた視線を向けつつも少し悩んでいるらしい。

だが、数秒の後魔人はスッと低くしていた態勢を元に戻した。

 

 

「……後悔するよ、風真いろは。……今ここで、私を殺さなかったコト」

 

 

「後悔しないでござるよ。……総帥の望まぬことをして取り返しがつかなくなってしまうぐらいなら、その期待を裏切ってでも何もしない方が幾分かマシでござるから」

 

 

最後に吐き捨てる言葉にすら、いろはちゃんは真摯に答えていた。いつも明るく、元気でのほほんとした可愛らしい女の子。……でも、そんないろはちゃんは僕達四天王の中でも特に総帥を崇拝している。ラプちゃんの命令に一番忠実に従い、そして意外にもその芯はしっかりとしていて何時いかなる時でもブレたりはしない。それ故に、彼女の意思や意見はハッキリしていることが多いのだ。

 

 

「……とことんウザいわ、お前。…………はぁ~、なんかどーでもよくなっちゃった。みこち、帰る準備しよ」

 

 

「へっ?あ、うん、わがった!35P達、お願いっ!」

 

 

戦意喪失、というよりやる気のなくなったらしい魔人が脱力しながらそう言った。またそれに従い、さくらみこが帰還準備をするようにと部下たちに指示をだす。本心では、まだ迷っていたけど……肝心の戦えるいろはちゃんがああ言う以上、僕もそれに同意するしかなかった。

 

 

「――次会った時は、覚えてな。すいちゃんって意外と根に持つタイプだからさ」

 

 

崩れてきた瓦礫を少し動かして、彼女らは船の中へと消えていく。その際、魔人は最後にそう言っていろはちゃんを見据えていた。

 

 

そうして、holoXに攻撃を仕掛けてきた宝鐘海賊団のその船は、ゆっくりと上昇し宇宙の彼方へと舵を切ったのだった

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

眼前のモニターに映し出される光景に、私は唖然としていた。

 

「る、ルイ様……何故か、宝鐘海賊団の船が退いていきます……」

 

先程まで続いていた宝鐘マリンの放送が途絶えてからしばしば、突然彼女らの船に動きがあった。しかしそれはこちらへの攻撃行動などでは無く、何故かアジトを襲撃していたもう一隻の船と共にこちらに背を向けだしたのだ。どうしてこんなタイミングでウチに突撃してきた船は戦場から引き上げ、そして踵を返しているのか。

 

 

「一体、何が起こって……」

 

 

状況が呑み込めず、ただ呆然と立ち尽くすだけの総司令官代理。ここまで自分たちを追い込んでおいて、最後の決定打を打たずに退散なんて……。

 

 

『―――あー、鷹嶺ルイさん聞こえてますか?』

 

 

再び、宝鐘海賊団からの放送音声が流れた。

 

 

『いやー、色々言った後にホント申し訳ないんですけど……船長たち、帰りますネ☆この件については、また後日ということで……』

 

 

あからさまにはぐらかす様な口調で、信じられないことを彼女は口走っていた。帰る…?……帰るって、どうしていきなり……。

 

 

「ちょ……ちょっと、待ちなさいっ。突然何を言い出して……」

 

 

『あー!あー!聞こえない聞こえないっ!キミたち、直ぐに放送切って―――』

 

 

騒ぎ立てる宝鐘マリンの声を最後に、ブツッと音声が途切れた。何が起きているのかよくわからないが、モニターを見るに彼女らはその発言通り止まらず退却を続けているようだった。もしかして、連絡があったというラプ達の方が何かをしてくれたのだろうか……だがともかく、宝鐘海賊団がこの場から去るのであればこれ以上我々が被害を被ることも無くなるだろう…。

 

 

「……何も……できなかった……」

 

 

まだ確定した事実では無いものの、一先ずの脅威が去ったことに参謀は項垂れる。しかし、今の彼女の心を支配するのは何とかなったという安堵などでは無く、”何も出来なかった自分”に対する失望だけであった。事態が事態であるとしても、holoXの指揮官代理を任せられた立場としてそんな言い訳は通用しない。総帥の留守に敵性組織に本部の現在地を知られ、その上で襲撃を許し多大なる被害を出した。その際、鷹嶺ルイは状況把握に手一杯で事態の改善に何一つ貢献できなかったのだ。そんな自分の不甲斐なさに、彼女はただひたすらの無力感を自身に打ち付ける。

 

 

「ラプ、ごめんなさい……結局私は、あなたが居てくれないと何も……」

 

 

自分の肩を抱き寄せ、彼女はその立場と責任の大きさに反して小さく縮こまる。

総帥と出会い、ここまで共に歩んできた一匹の鷹。だがその道は、初めて悪魔と出会った時からずっと導かれたその足取りを辿るだけであった。それが今更になって、彼女の思考を蝕み判断を鈍らせる。フレンズ王国の一件とは違い、第一に優先すべきことが不確かな時その決断を下せるほどの意思をこの世界の鷹嶺ルイは持ち合わせていなかった。

 

 

「……ルイ様、お気を確かにしてください。お気持ちは察しますが、一先ず脅威が去ったのならラプツナズに……ラプラス様に連絡を取りましょう。あの御方ならきっと、何か指示をくださいますから」

 

 

「……そう、ね……」

 

 

内側に身を寄せるルイを見兼ねて、秘書である彼女は励ましの言葉を掛ける。そして思わず膝をついてしまいそうな上司に対し、今すべきことを促していた。窮地を脱したとはいえ、未だ事態は完全に終息したとは言えない。此度の件で受けた組織への被害状況の確認や、事件の後処理などまだやらなければならないことが山ほどある。またそれに関連し、このことを総帥に報告しこれからの指示を仰がなければならないのだ。

 

 

「……ただ、その前に……せめて、壊されてしまったアジトの修繕を指示しないと……こよりやいろは達の方もどうなったのか気になるし……」

 

 

精神的に打ちひしがれる彼女は、それでも折れることは許されない。自身が招いてしまったこの件への責任を取り、最低限の仕事をこなしてからでなければ……とても、総帥に顔向けできないのだから。

 

 

 

 

――――これこそが、大幹部鷹嶺ルイ及び研究部門代表博衣こよりが大いに取り乱していた理由であった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

……宝鐘海賊団三番船、操舵室内。

 

 

 

『――だから、船長何度も言いましたよねッ?!勝手なことしないでくださいってっ!!』

 

 

 

船内で、マリリンの怒鳴り声が響いていた。

 

 

「あ、あぅ……ご、ごめんなさいマリンっ!!」

 

 

「はぁ……うるさいなぁ」

 

 

彼女が怒りを向ける対象、その内の一人であるみこは少し怯えつつも平謝りしていた。しかし、それに対し事を起こした張本人であるすいちゃんは全くもって反省の色が無い。

 

 

『すいちゃん、うるさいとは何ですかっ!!大体、二人がいきなりholoXに攻撃を仕掛けたりしなければもっとスムーズに交渉できて、もしかしたら何かしらの援助を得られたかもしれないんですよっ?!』

 

 

謝るどころか、怒られていることに悪態すら付く青い少女に彼女は更に怒りを燃やしていた。本来ならば、船長宝鐘マリンはholoXとの比較的平和な和解を望んでいた。人質を取り、要求を突き付けるという交渉内容ではあったものの、被害が出ていたのはお互い様であり幾らか正当性はあったと思っている。だが、それを盾にこちらが攻撃を仕掛けてしまったとなればもうそこに平和的解決は望めなくなってしまう。それどころか、あの場で戦争と言う名の一方的蹂躙が起きたっておかしくなかったのだ。

……だからこそ、例え彼女たちが何故か無事に組織の本拠地から戻ってきたとしたとしても、その事態を招いたことに対する怒りが収まることは無かった。

 

 

「ハッ……マリン、それ本気で言ってんの?もしそうなら、流石に考えが甘すぎるんじゃない?……あいつらは、仲間を人質に取ったくらいで止まる奴等じゃないよ」

 

 

だが、そんな考えを直接組織と関わった少女は否定する。実際に彼らと刃を交わし、あの組織の”信念”と言う名の闇に触れた彼女からすればそれはとんだ淡い希望的観測だったのだ。

 

 

「あいつらは……holoXは、総帥ラプラスなんとかっていうのを人質に取るくらいじゃないと止まらない。……特に、”アイツ”は」

 

 

『アイツ……?』

 

 

珍しく消極的なことを言うすいちゃんに、マリンは疑問符が浮かんでいるようだった。そもそもの話、あのプライドの高いすいちゃんが幾らパートナーであるみこから言われたとしても素直にあの場から逃げ帰っていること自体が異常だった。しかし命じた船長ですら難しいと思っていただろうそれを、何故かすいちゃんは実行しこうして帰還してきている。その事に、マリリンは少なからず違和感を覚えたはずだ。

 

 

『すいちゃん……もしかして、何かあったんですか?もしholoXに関して分かったこととかがあるなら船長に報告して……』

 

 

「あーぁ!そんなことより、すいちゃんなんか疲れちゃったー。という訳でちょっと寝てくるから、またコメットに着いた辺りで連絡してよねー」

 

 

『あっ!ちょっと、すいちゃん待っ―――』

 

 

あからさまに話をはぐらかして、すいちゃんは船長の制止を振り切り通信を切る。そうして静かになった操舵室内では、僅かなエンジン音だけが聞こえていた。

 

 

「んっ……どうしたの?すいちゃん」

 

 

操縦席に座る35Pたちから少し離れた背後に立ち、彼らの意識の外側に居たみこの背中に突然温かな感触が襲った。しかしそれがすぐに彼女の仕業であると気が付き、私はその行動の理由を問う。

 

 

「……別に。ただちょっと、フラついただけ」

 

 

分かりやすすぎる言い訳を並べて、彼女はみこだけに聞こえるくらいの声でそう言った。こんなことは本当に珍しい。まさかあのすいちゃんが、みこに”抱き着いてくる”なんて。

 

 

「ふーん、そっか。……あ、もしかしてまたどこか怪我したの?」

 

 

「……んーん、してない」

 

 

みこの右肩に少し顔を乗せて、両手でお腹辺りを抱き寄せる私のパートナー。しかし私には、珍しい行動をとる今の彼女の気持ちがなんとなくわかっていた。もう長いこと一緒に居る私から言わせてみれば、今回のholoXとの……いや、あの風真いろはとの戦いはすいちゃんにとって大きな意味があったのだ。

それも、主に悪い方向に。

 

 

「してないの?……なら、もう離れなよ。暑苦しぃし……皆に見られちゃうよ?」

 

 

「……」

 

 

特に問題が無いなら離れるよう促す私に対し、彼女は無言を貫く。そして代わりに、更にギュッと自分を抱きしめる力が強まった。彼女は、生来の性質により高い運動能力と抜群の戦闘能力を有していた。故に高慢でプライドが高く、自分の力に絶対の自信を持っている。……だが、その傲慢さに関してだけは生まれつき彼女が持っていたものでは無かった。

 

こんな彼女にも、たった一つのある『信念』がある。それだけが星街すいせいを生かしている活力の源であり、彼女が宝鐘海賊団という性に合わない集団に席を置いている理由であった。しかし、その唯一の希望ともいえるそれを”脅かす存在”と出会ってしまった彼女の心境は……。

 

 

「……らしくないにぇ、すいちゃんが”怖がる”なんて」

 

 

「…別に……怖がってねーし。すいちゃんの方が強かったし」

 

 

『何に対して』なのかも言ってないみこに、彼女はそう答えた。文脈的にさっきの怒っていたマリンに対してなのかもしれないのに、”自分の方が強かった”と強がるすいちゃんの口ぶりに自然と誰を意識しての発言だったのかが窺える。彼女は意外と分かりやすいのだ。

 

 

 

 

「―――うん、そうだにぇ。……すいちゃんは強いよ」

 

 

 

 

パートナーが見せる稀有な一面を、私はそっと受け入れる。その後は大した会話も無かったが、何も言わず傍に居る彼女に私も安心感を感じていた。背中から感じる温もりもとても心地よくて、願わくばいつまでもこうしていたいとさえ思う。

 

 

そして、そんな私の密かな望みは青い星屑が本当の微睡みを帯びるまで続いていた。

 

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