転生したらラプラス・ダークネスだった件 作:飽和水溶液_pixiv
さて、前回は兎田ぺこらからの通信によって発覚した事態により、来て早々宝鐘海賊団が現場から撤退しなければならないという状況になっていました。またそれを宝鐘マリンより伝えられたさくらみこは、負けず嫌いの相方をなんとか説得しようと奮闘していましたね。しかし強情かつ、自分なりの信念を持っているらしい星街すいせいは簡単には引き下がろうとはしませんでした。状況的にはholoXが優勢、かつ時間を稼いだことで援軍も駆けつけこのまま行けば彼女たちを捕縛できるだろうと博衣こよりは息巻いていました。
ですが、何故かここで組織側の主戦力であった風真いろはが『宝鐘海賊団を見逃すべき』だと主張し構成員達を止める行動をとりました。またその理由を問うと、彼女曰く『総帥からの命令が出ていないから』とのこと。結果、互いに深追いはせずその場を後にすることで戦場は沈静化したのでした。
ただ、それで気になるのは鷹嶺ルイやその他構成員達の心境です。自責の念に囚われる彼女はこれ以上ない程に取り乱し、下手をすれば自害さえ厭わぬ精神状態。果たして、そんな彼女らを見て総帥が何と言葉を掛けるのか……第二章最終回まであと三話です。
【追記】
今回は深堀シリーズをちょっとだけ書きます。今回のテーマは前回の最後にちょみっとだけ出てきたmiComet達の関係についてです。あ、先に申しておきますが筆者は大のmiComet好きです。二人の絡みを書きたいが為だけにストーリーを歪めようと思っているくらいなので、その辺は悪しからず。
宝鐘海賊団三番船船長星街すいせい、そして副船長さくらみこは正しく相棒と呼ぶに相応しい関係であった。時に船長宝鐘マリンの命令を聞かず暴走するすいせいを唯一対等に話せるみこが止め、また戦力面で少々乏しいさくら色の彼女を彗星の魔人が守るという形で彼女たちはバランスを取っていた。
しかし、それには互いのハッキリとした”リスペクト”が存在する故に成り立っている節があった。さくらみこは星街すいせいに対し、生まれついての運動能力や彼女の勝気な性格からくる傲慢さを本人の『美点』として評価していた。またずば抜けたその戦闘センスや大抵のことに物怖じしない所も、本人の意思に反して尊敬に値すると思っている。……一方、普段表には出さない青い魔人もまた彼女の”ある部分”に強く惹かれていた。その片鱗が見えたのが帰還する海賊船内での二人のやり取りであり、またそれだけが似合わぬ彼女が三番船船長という立場に席を置いている理由であった。
↓作者:飽和水溶液のXアカウント。主に執筆状況や気に入ったホロ関連のリポストしてます。
飽和水溶液(@Suiyoueki_suba) https://twitter.com/Suiyoueki_suba
『――――というのが……コトの顛末なの……』
不時着した惑星の荒野の中、部下達に囲まれながら悪魔は彼女からの長い長い報告を聞いていた。丁度いい大きさの石の上に布を敷き、更にその上にクッションを置いた即席イスに座っていたのだが、長時間人の話を聞き続けるというのはかなり足腰に来るものがある。しかし普通に地べたに座っていた者や、自身の立場上立ち続けるしかない者達に比べればかなりマシな席だったことに変わりはなかった。
―――――それで、一体何がどうなっているんだ。
大幹部である鷹嶺ルイから告げられた事実に、ラプラスは衝撃を受けていた。我々暗殺部門救出隊が現地に向かっている間に、まさか本部でそんなことが起きていようとは……。
「……なるほどね、それでルイ姉やこんこよがおかしくなってたんだ」
同じく隣で話を聞いていたクロヱも、流石に驚きを隠せないようであった。
吾輩達が本部を留守にしている間に起こった、前代未聞の襲撃事件。宝鐘海賊団の別動隊が我々holoXの本拠地に乗り込み、多大なる被害を齎したらしい。そこで存在が確認されたのは一番船船長宝鐘マリンと、三番船船長星街すいせい及び副船長さくらみこ、またその他の乗組員が多数であった。彼女達は先日捕らえられた沙花叉クロヱら暗殺部門の者達を人質に、こちらへ情報や物資等を要求。またその過程で、防衛包囲網を潜り抜けた恐らく三番船と思われる海賊船の直接突進攻撃を受け、その結果アジトの一部が崩壊。その後は任務に出かけていたいろはが現場に向かい状況は改善されたものの、根本的な解決には至らず打つ手を失っていた。
……しかし、何故か突然宝鐘海賊団の者達の態度が一変した。なんとわざわざ秘密結社holoXの本拠地にまで殴り込んで来た彼女たちが、どういう訳かその目的を果たす前に現場から引き上げて行ってしまったらしい。その原因については現状全く分かっておらず、ただ直接関わりを持った博士と侍曰く星街すいせいとさくらみこが酷く慌てていたということだけが判明している……。
『そういうこと……とりあえず、今は被害にあった場所の修復作業や負傷者の手当てなんかをしているわ……でも、完全に元に戻らない”モノ”もあって……』
そう言う鷹嶺ルイの言葉には、力が宿ってなかった。完全に戻らぬ、それはきっとアジトや建物の事だけじゃない。そこで働いてた……いや、働いてくれていた構成員達もその多くが被害を受けたのだ。中には当然帰らぬ人となった者もいるだろうし、そうでなくとも重傷を負ってしまった者も居るはずだ。それだけ、今回holoXが宝鐘海賊団から受けた傷は深いものであった。
「まさか……我々が居ない間に、本部でそのようなことが起こっていようとは……」
「……不甲斐ない限りです。あの場に居なかった宝鐘海賊団の残党が直接アジトに乗り込んでるなんて、思ってもいませんでした」
「ルイ様の話が本当なら、地表に出ていた拠点の部分……ラプラス様のお部屋も被害にあったということに……」
共に話を聞いていたラプツナズが、口々にそう呟いていた。宝鐘海賊団の別動隊……そう言えば、最初にるしあ先輩やあくあ先輩に会った時二人がそんなことを話していたような気がする。確か捕えた人質を交渉材料として使い、我々holoXを陥れるためにマリン先輩たちが本部に向かっているとか……言われてみれば、あの時点でもっと疑問に思うべきだった。防衛策の為常に宇宙空間を漂っているholoXの拠点に、どうやってマリン先輩たちが辿り着こうとしていたのかと。
「……それでルイ姉、その宇宙船で見つかったヘンテコな箱って今どうしてるの?たぶんだけど、それが原因でウチの場所がバレたんだよね?」
『……恐らく、そうだと思う。それ以外に考えられないもの……ただ、一体どういう仕組みでどうやって観測したのかが分からないの。こよりも科学的には説明できないって言うし……それに、どう処分していいのかもわからない。だから、今は取り敢えずそのまま保管庫に置いてあるわ……』
作戦地域で宝鐘海賊団と接触していた、暗殺部門の宇宙船。それは彼女らに敗れたことにより、一部の機能を失いつつも本部に帰還してきた。吾輩はその船の修理を博士に頼んでいたのだが、その過程で宝鐘海賊団が仕掛けたと思われる不可思議な箱を発見したのだ。それは発見者のこより曰く、科学的に説明できない薄紫色の光を放つ発信機だという。またその報告を受けた幹部がそれを”魔法が関連しているモノ”として危険視したのだが、本来の機能は失われているものとして『保管』するという形で処理した。
……しかし翌日、宝鐘海賊団がholoXの本部に現れたことで事態は急変。その結果を鑑みて、完全に効力を失っていたはずのその小さな箱を頼りに彼女らが母艦の場所を特定したというのが幹部の結論であった。
そして、恐らくその予想は当たっていると思われる。当時のルイたちは知る由もないことだが、今の吾輩からすれば”薄紫色に光る物体”と言われて真っ先に思い浮かぶのは潤羽るしあ先輩の存在だ。彼女が持っていた魂を切れるという短剣、その刀身もまた魔力と言う名の光を帯びておりその発信機とやらも似たようなものだったのだろう。だがその用途は違っていて、詳しいことは分からずともるしあ先輩の魔力とそれに反応する何かしらをマリン船長たちは持っていたのかもしれない。
『ヒック……僕が、見た時は…ッ…ちゃんと、無効化できてたの……』
吾輩達が話していると、幹部の後ろから再び博士の声が聞こえてきた。それは大いに泣いた後であるからか少しばかり枯れており、そして未だに湿り気を帯びた声色をしていた。
『ごめん、なさいッ…ラプちゃん……僕がもっとちゃんと調べてれば、こんな事にはならなかったのに…………こよが、もっと強ければ…皆を守れて、もしかしたら宝鐘海賊団を捕まえることだってできたかもしれないのに……』
『こよちゃんっ、まだ安静にしてないとダメでござるよ。お目々真っ赤で腫れちゃってるし……それに、その件に関しては完全に風真のわがままだったでござる』
こよりに続き、彼女を看病していたらしいいろはもまたその場に戻ってきたようだった。二人の言う宝鐘海賊団の捕縛、及び侍の”わがまま”というのが今回吾輩が最も危惧していたものであった。我々の本部に直接攻撃を仕掛けてきた、宝鐘海賊団三番船の星街すいせい及びさくらみこ。この二人はアジトに多大なる被害をもたらしながら飛来し、そして警備に当たっていた構成員達を大勢なぎ倒した。しかも、その際に現場の指揮を執っていた博衣こよりにも危害を加えようとしたらしくまさに現場は危機的状況であった。だが、そこに駆け付けたいろはの活躍により形勢は逆転。その場にいた船長星街すいせいと戦闘斥候部門代表である彼女は交戦し、結果はなんとholoX側の優位性を確保したのだった。
だが、吾輩がこの話を聞いて最も気掛かりだったのはウチの被害状況もそうであるが、それよりも相手方……宝鐘海賊団への被害であった。吾輩は既に、彼女らが今どういった状況に陥っているのかを知ってしまっている。またその本人たちすら、別の世界で大変お世話になった大切な先輩方なのだ。だがこの世界のholoXの皆は勿論、向こうだってそんなことは知る由もない。よって吾輩が一番心配だったのは、強いいろはとすいせい先輩が本気でぶつかり合い両陣営に大きな被害が出てしまうことだった。もし、本当にもし仮に、先輩方の誰かに死者の一人でも出してしまえば……もはや彼女たちとの和解など望めなくなる。吾輩がクロヱ達やあくあさんに協力して貰い、ようやく掴み取ったるしあ先輩からの信頼だって全てが水の泡となのだ。それだけは……どうしても、避けたかった。
しかし結果として、そんな最悪な事態だけは避けられたと思われる。侍の言うわがままというのが、『総帥からの命令が無かった』というのを理由に宝鐘海賊団を取り逃がしたことだったのだ。それは現場にいたこよりからすれば納得し難いことであったと思うが、当の吾輩は本当にいい判断をしてくれたと思っている。もしそこでいろはが皆を止めてくれなかったら……そう考えたら、侍の判断はわがままなどでは無く正しく英断だったと言えた。
『それを言うなら……現場にいたあなた達にちゃんと指示できなかった私に責任があるわ。ラプの言う通りに、アジトの警備の為に人員を割いていたのなら……万が一の際の対処を、もっと細かく伝えておくべきだった……』
自分達の行動に不甲斐なさを呈する少女たちに、彼女らを束ねていた大幹部は語る。二人の件を含め、此度の事態の全ての責任は総司令官の留守を任されていた自分にあると鷹嶺ルイは自責の念に震えていた。
『ラプ……本当に、ごめんなさい……私は、あなたの期待にも信頼にも答えられなかった……。……私は自分が許せない。出来ることなら、今すぐ自身の身を引き裂いてしまいたいくらい…………でも、それをあなたが望んでいるのかすら今の私にはわからないの……』
「……ルイ姉……」
博士の涙に連られてか、他のholoXer達も聞いている中珍しく弱音を吐き出す一匹の鷹。またそんな彼女を見て、隣に座る新人がその気持ちに寄り添うように名を呼んでいた。鷹嶺ルイにとって、この世界の〖ラプラス・ダークネス〗に対する想いはあまりにも大きい。それは強く賢い彼女を歪ませるほどに、深く重い愛故のものであった。
『……ねぇ、ラプラス……私、どうしたらいい?……』
従って、だからこそ彼女は想い悩む。この失態に対し、どうケジメを付ければ良いのか。此度の悲惨な現状を招いてしまった報いを、赦しを受けるにはどうすればいいのかと。
『ラプちゃん……ルイ姉だけのせいじゃないよ…ッ……こよだって、何も出来なくて……』
『そ、そんなこと言ったら、風真だってっ!』
自分達と本部を繋ぐ通信機から、現場にいた彼女ら四天王のそんな言葉が鳴り続けていた。決して許しを乞うていたわけでは無いものの、只々謝り自分たちの行動を悔やむことしか今の彼女たちには出来ないのだ。
「……って、言ってるけど……どうするの?ラプラス」
そんな三人の言葉を受け、掃除屋は総帥の方に顔を向けた。彼女自身もまた、今回の一件で総帥に多大なる醜態を晒している。よって一応の許しを得られてはいるものの、仲間達のこの件をとても他人事として聞いていられない様子であった。
―――しかし、肝心の当の本人は相応の居心地の悪さを感じていた。
(き……きっっっまずッ!!!)
誰にも聞こえぬよう心の中に留めた本音を、悪魔は叫んでいた。
(やっべー……マジ、これどうしよう……。……まさか、吾輩が今回の事について”先輩方を傷つけたり捕まえたりしてなくてよかった”なんて思ってるとは言い出せない雰囲気だぞ……)
ダラダラと漏れ出す本心に、ラプラスは頭を抱える。
此度の一件について、吾輩は部下達に怒ることなど何一つなかった。むしろ、特にいろはを中心に彼女たちの行動を褒めちぎってやりたいぐらいであったのだ。本来は敵同士であり、状況さえ違ければ恐らく大戦にすら発展してしまっていたであろう今回の宝鐘海賊団とholoXとの衝突。その現場に本心では和解を求めていた吾輩が居なかったが為に、彼女たちは攻め来る宝鐘海賊団を相手に戦いを始めてしまってもおかしくは無かったのだ。
だが、侍のファインプレーによりそれは奇跡的に回避することが出来た。まさかそんな状況下において、いろはが『総帥から命令されていないから』というのを理由に皆を止めてくれるとは思いもしなかった。マリン船長たちがアジトに来てしまったことも予想外であったが、それ以上に彼女の言動と行動がいい方向に予想外過ぎたのだ。また人質とされていた暗殺部門を安易に切り捨てず宝鐘海賊団と交渉をし時間を稼いだ幹部、そして実際に攻撃を受けてしまった現場で指揮を執り出来る限りの被害拡大の阻止に努めてくれた博士にもまた吾輩は称賛を送りたかった。
つまるところ、吾輩はルイからの報告を受けまず最初に褒めるべきであったのだ。彼女たちが余計な後悔や自責の念に囚われる前に、一言『”よくやった”』と言ってやるべきだったのである。なぜなら部下たちがやってしまったと思っている失態は、総帥ラプラス・ダークネスにとってはこれ以上ないほどの成果であり『功績』だったのだから。
……しかし、そうなると疑問に思うのはどうして宝鐘海賊団は急にその場から撤退したのかということ。話を聞くに、マリン船長たちは随分と幹部たちを追い込むことが出来ていたらしい。それに無謀とは言え、すいせい先輩とみこ先輩は驚くべきかなウチのアジトに侵入することまで出来ていたのだ。そんな一見優位な状況まで持っていくことが出来たのに、なぜそれを捨ててまで退却を選択したのだろうか。もしやるしあ先輩が、どこかのタイミングで船長たちに連絡していたとか?或いは、本部のある衛星コメットで何か問題でも起きたのか……ともかく、何かただならぬ理由があったに違いない。宝鐘マリン先輩は普段おちゃらけたところはあれど、意外に賢くそして思慮深い所がある。普段から他のホロメンに気を使い、配慮をかかさない本人には絶対に言わぬ”イイ女”なのだ。そんな先輩が考えも無しにholoXに攻め込んでくることも、理由もなしに撤退することもあり得ないだろう。
……ただ、それで問題になるのは”どうしてマリン船長たちが逃げ帰ったのか”がわからず、またそれを確認する方法を吾輩達が持ち合わせていないということで……。
「――――っねぇ!ラプラスってばっ!」
肩を掴まれ、少し揺さぶられながら声をかけられることでようやくラプラスは思考の海から意識を取り戻した。
「うおっ。なんだ、びっくりした……」
「やっと戻ってきた?もーラプラスってば、呼んでも全然反応ないしこっちがびっくりしたよ。…………ねぇもしかして、まだ封印の副作y……いや、体調良くなってないの?」
思わず考え事に耽っていた吾輩に、心配したようにクロヱがそう言ってきた。しまったな。いきなり色んなことが起きたって報告されて、それについて考察してたらついボーっとしてしまっていたようだ。確か幹部たちが、自分たちを物凄い責めちゃってたんだよな……。
「あぁ…いや、大丈夫だクロヱ。ちょっと考え事してただけだ。…………えーっと、幹部?」
『……はい……』
意識を現実に向け直したラプラスは、その間ずっと総帥の言葉を待ち続けていたであろう彼女に声をかける。すると、まるでこの世の終わりのような暗い声音でルイは返事を返した。その声に少しギョッとしつつも、ともかく必要以上に気に病むことは無いと悪魔は言葉を続けた。
「あー……まぁ、なんていうか……そんなに、気にすること無いぞ。幹部も、博士も侍も…………お前らはよくやってくれたよ。吾輩の留守の間に、宝鐘海賊団に攻め入れられるっていう緊急事態をちゃんと乗り切ってくれて……」
当の本人たちと、自分の抱く感情の差からラプラスは彼女らに何と言えばいいかわからず曖昧な話し方になってしまった。しかし、部下たちが思うほど吾輩は今回の事を問題視していないのだ。そりゃ勿論、この件で犠牲になってしまった部下たちには申し訳なさと悼む気持ちが絶えない。悪魔〖ラプラス・ダークネス〗の野望に巻き込まれ、更にその果てすら拝めず亡くなってしまった眷属たちにはこれ以上ないほどの畏敬の念を抱いている。
……そして、だからこそ吾輩はこの結果を無駄にしたくない。全てが望んだ結果ではなくとも、少なくとも宝鐘海賊団との間に和解の道が残っていることは間違いないのだから。
『…………”よくやった”……?』
「ああそうだ、お前らはよくやったよ。だからそんなに自分を責めるな。……確かに、今回の事で我々holoXは決して少なくない被害を受けた。そしてその責任の所在を問うなら現場で指揮を執っていた、またその者達に指示を出していた幹部たちにあるかもしれない」
『……そうよ。だから……私達が悪くて……』
「だ・が・な、そんな状況をお前らに全部任せちゃったのは吾輩だ。それなのに幹部はこっちに居た人質の身を案じて、何が組織の為になるかと考え動いてくれた。博士だってそんなルイの指示に従って、それ以上の被害拡大の防止に努めて現場のholoXer達の指揮を執ってくれた。そんでもって、吾輩が一番褒めたいのは侍だ。いろは、お前本当によくやってくれたぞ。まさかそんな状況下で、吾輩からの指示が無かったからってだけで宝鐘海賊団に手を出さないでくれたなんて」
苦悩に詰められる部下一人一人に、悪魔は言葉を掛ける。それは少しでも彼女たちが背負うものが軽くなればと、総帥【ラプラス・ダークネス】なりの優しさであった。
『……いや…私は、何もしてない……それに、”それ”はあなたがいろはに……』
「いーや、今回に関してはその『何もしない』ことが正解だったんだ。実はな、お前らにはまだ言ってなかったんだが……我々holoXは今後、”とある目的”の為宝鐘海賊団と協力関係を結ぼうと思ってる。しかもその件について、二番船船長潤羽るしあとは既に交渉済みだ。まあ、まだその完全な返答については保留中って感じなんだけどな…………そっちも色々と大変だったんだろうが、こっちでも色々あったんだよ」
『……え?』
総帥からの言葉に、彼女は何かを言い掛けていた。しかしラプラスは余計なことを言われる前にとそれを遮って、先程伝えていなかったこちらで起きたもう一つの大きな事項についてルイたちに話し出す。
『ま、待って……宝鐘海賊団と、協力……?』
「ああそうだ、秘密結社holoXは宝鐘海賊団と手を組む。だから人質を取られていた状況とは言え、幹部が宝鐘海賊団を攻撃しなかったことは正しかったワケだ。それにいろはの深追いせず逃がすべきという判断のお陰で、奴等と必要以上の遺恨を残さずに済んだ。……つまり、お前らのしたことは過程や経緯はどうあれ結果だけ見れば上出来だったってことだ」
holoXの本部で起きた此度の騒動。しかしそれと同時に、こちらでも宝鐘海賊団の二番船との抗争があった。またそれを阻害されるように、宇宙を漂っていた侵略者から逃れるための奮闘。その間に、未だ返答は貰えていない潤羽るしあとの交渉があったのだ。その続きに関してはまた本人が起きてから話そうとは思っているが、その時に本部の方で起こったことを話さない訳にはいかない。詰まるところ、あちらで我々holoXが彼女らに対し手荒なことをしなかったという事実が必要だったのだ。
『……ラプちゃん……それ、どういうことなの…?……僕たちは宝鐘海賊団から攻撃を受けた。被害を出されて、仲間を害されて、総帥の顔に泥を塗られた……それなのに、そんな人達と手を組むなんて……』
「……ま、そう言う反応になるよね」
実際に被害にあった彼女らにとって、とても信じがたいことを言い出す悪魔に一匹のコヨーテが疑問符を呈する。自身の不甲斐なさはあれど、それでも全てはそれを行ってきた相手が悪い。故に、そんな奴等と協力関係になるなど到底受け入れられないと博衣こよりは嘆く。またそんな彼女に共鳴するように、一部同じ気持ちを抱いている掃除屋はそう呟いていた。
『――――まさか……そういうこと、なの?…………”最初からそうするつもりだった”から、あの子は私達に戦う指示を……』
しかしその最中、一人誰にも聞こえぬ心の声を漏らす鷹がいた。
『ルイ姉?なにか言ったでござるか?』
『…………いえ、何も。……こより。あなたの言うそれは、全て宝鐘海賊団に”された”ことじゃないわ。……それは、私達が”させてしまった”こと。攻撃を受けたのも、被害を出したのも、構成員達を失ったのも、全ては私達がそうなることを許してしまった結果』
何かしらの『気付き』を得たらしい鷹嶺ルイは、こよりに諭すようにそう言った。その声は先程までの酷く落ち込んだ暗さや後ろめたさの無くなった、いつもの堂々とした彼女らしい言葉であった。
『だから、そんな自分たちの失態を理由に総帥の望みを妨げてはいけない。責めるのなら相手ではなく、こんな形でしかあの子の想定に添えなかった自分自身を責めるべき。……私達は、あの子の想像を上回れなかったというだたそれだけのことだから」
そう言った彼女は、少しばかり寂し気な声色をしていた。総帥ラプラス・ダークネの計画、策略、想定。その一部に恐らく自分達の『失態』は含まれていたのだろう。最低限の命令と、必要なだけの情報を与え、その上で自身の計算外にならないように、この悪魔は自分達を操り導いたのだ。――この先、必ず自身の望む未来に続くであろう結末に。
『ルイ姉……なるほど、確かにそうでござるな。風真たちはただ、ラプ殿の命令に従って……それを全身全霊でやるだけでござる!』
『グスッ……そう、だよね……僕の気持ちなんて関係ない。ラプちゃんの望みが僕の望みで、総帥が必要としてくれるなら……こよたちはそれに応えるだけ』
大幹部に続いて、彼女たちもまた自分なりの答えを出しているようであった。この度の結果について、その全ては総帥の想定の中にあった。敵組織との衝突や、関係構築の過程はどうあれ、この結末を創り出すことが悪魔の望みであったのだと。……ただそこに、自分達は至れなかった。もっとも最善とされる結果を得られず、泥に塗れた最低で最悪な道を辿ることしか出来なった。そしてその責任は、敵ではなく総帥の思惑に答えられなかった自分達にあるだろうと鷹は思ったのだ。
「……えっ…あー……うん?つまり……どういうことだ?」
……当然の如く、彼女たちの言葉の意味をイマイチ理解できぬラプラスは首を傾げる。だがそんな当の本人を差し置いて、彼女らはそれでもこの悪魔の望みの為に在りたいと望んでいた。
『――総帥』
少しばかりの衣擦れと、僅かにマントを煽ったような音が聞こえた気がした。またその声音から、彼女が取っているであろう姿勢に大方の予想が付く。
『―――ラプラス・ダークネス様。此度の失態、誠に申し訳ありませんでした。我々の力が及ばず、このような形でしかあなた様の考えに沿うことが出来なかったこと口惜しくてなりません』
まるでひれ伏しているような低い腰で、凡そ彼女が自分に向けるものとしては相応しくない態度でそう言った。しかし、それはあくまで【悪魔】本人の自己中心的な欲望であり、この場この世界においてはむしろ正しい振る舞いであると言えた。
『本来であれば、この不甲斐ない結果に対し我が身をもってその罪を償い所でございます。……しかし、こんなものでもあなた様の望んだ結末だと言うのならば。更には、未だ我々に価値を見出してくださっているのであれば…………変わらず、私はラプラス・ダークネス様に全てを捧げます』
最上の忠誠、ひたすらな献身。
彼女、鷹嶺ルイは悪魔への全身全霊の献上を宣言する。
『――勿論。僕もだよ、ラプラス様…………まだ、こよの全部を使ってください』
『……なら、風真もでござるな。……ラプラス殿。これからも風真は、総帥の身を守り”授かった使命”の為力を尽くす所存でござる』
ルイに続いて、博衣こより風真いろはもまた総帥ラプラス・ダークネスへその身と言葉を捧げていた。スピーカー越しに伝わる彼女たちの想いから、二人も幹部同様恐らく片膝をつき頭を垂れているのだと思われる。
『――――総帥、次のご命令を。これからも私達をあなたの駒として、存分に使い捨ててくださいませ』
”使い捨てる”、その言葉に悪魔は酷い嫌悪感を覚えていた。最初に浮かんだのは、大切な部下である彼女たちを自分がそんな風に扱うはずが無いということ。……だが、直ぐに思ってしまった。お前は、”今回の件で亡くなってしまったholoXer達の前でも同じことが言えるのか”と。今回、吾輩の望む結末として『宝鐘海賊団との和解の道』を持つ為に彼ら彼女らは犠牲になった。勿論それは吾輩自身が想定したものでは無かったが、それでも結果としてその者達の存在の上にこの『現状』は立っている。そして、それを自らの野望の為”ラプラス・ダークネスに使い捨てられた駒”と表さず何と呼べるというのか。
……変わらないのだ、本質は。
【ラプラス】も〖ラプラス〗も、元は同じ正真正銘の『悪魔』なのだから。
「……あー……それなら、取り敢えず…………吾輩たちを迎えに来てくれないか…?」
誰にも言えぬ、言葉にすらできない吐き気を催して。ラプラスは部下たちの求める精一杯の”命令”を口にしたのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
――――――舐めるなよ、潤羽るしあ!!
頭の中で、あの叫び声が木霊する。
―――――お前がどんなに突き放そうとも、吾輩はこれからもずっと潤羽るしあを信じてる!!
大嫌いになった。これ以上ないほどの嫌悪感を抱いた、アイツの声。
―――――だからお前も、吾輩を信じろッ!!!
……それでも、私を救ってくれるなら誰でもよかった。例えそれが最低最悪な悪魔であろうとも、私の心の中にある絶望を熱く溶かしてくれるならば。私達をまた、あの場所に還してくれると言葉と行動をもって証明してくれた”あなた”ならば―――。
……。
…………。
…………ラス……。
「あっ……る、しあちゃん……起きた?」
ゆっくりと瞼を開いた先で、心配そうにこちらを覗き込む湊あくあさんの顔が写り込んだ。
「……あくあ、さん…?…………ッ!ここはッ!」
目が覚めるや否や、彼女は突然飛び起きながらそう言った。それは背中に伝わっていた心当たりのない柔らかな感触と、見知らぬ謎の部屋の中に自身が存在していることを認識したからであった。
「ヒッ……あ、えっと……ここは…ね、あてぃし達が不時着してきたどこかの星で……あっ、この船がどこかって話なら、あの…holoXさん達の宇宙船の中なんだけど……」
「……holoXの、宇宙船……不時着……」
彼女の言葉を聞き、【潤羽るしあ】は再び見渡すように辺りに視線を向けた。そこは自分達の乗っていた海賊船に比べれば一回りも二回りも小さい、されど簡易的なベットを幾つか備え付けるだけの余裕はある小型の宇宙船内であった。
「あ、あのー……スゥー……るしあちゃん、何があったか覚えてる…?……あてぃし達、海賊船がホロベーダーに襲われてね……そしたら、”ラプラスちゃん”達が助けてくれて……」
「ッ!」
湊あくあの呼んだその者の名に、彼女は大きく反応を示した。自身が気を失ってしまう直前まで一緒に居て、今こうして自分が生きている事実がある以上それには必ず”アイツ”が関わっているはずなのだ。……私達を救うと断言し、手を差し伸べたあの悪魔が。
「――――ラプラス……。」
意識を取り戻したネクロマンサーは、ただ一人の少女の姿を想い浮かべる。そして、その瞳の奥には僅かな光と焦燥が宿っていた。